全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

82 / 84
#75 日常と非日常の狭間に

レディリー・タングルロード

 

元オービットポータル社の若きゴスロリ社長としての地位を持っていた女性である

先述の通りその地位は過去のものであり、少し前いろいろあって今現在は鏡祢アラタの部屋に押し入り平穏(?)な余生(??)を過ごそうと思っている人物である

 

さて、現在時間は先ほど彼女が知らないところでアラタが拉致されたくらいの時である

流石にまだアラタらとの知人と回るのは少し気が引けた彼女はせっかくだからこの大覇星祭をのんびり自由に満喫してみようと思い一人別行動を言い出た

 

そんなわけで事前にパンフレットを見ていたので交通整理のことも知っていたレディリーは前々からやってみたかったことをいざ実践しようとその場に赴いた

赴いた場所は…出店エリアだ

 

すんすん、と軽く嗅いだだけで美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる

今回はこんな出店エリアで是非ともやってみたいことがある

それはシンプルな買い食いだ

 

社長やってた頃は自分の目的に集中していたおかげでこういったものを頼む機会も食べる機会もなかった…というか食べようともしなかったが正しいか

どうせ死にはしないんだし、とそういう思考が頭の片隅で居座っており実際そうなのであまり食というのに関心がなかった

 

だが今は違う(ギュ

 

社長という(くびき)から解き放たれ、色々あって精神的に余裕もできた今こそ、こういったもの欲望のままに食らう好機なのではないか

まず購入しようとしたのは出店定番の焼きそばである

普通にコンビニなどで購入すると大体二、三百円くらいではあるがこういうお祭り的な出店ではだいたい五百円くらいと少々割高である

まぁそこらへんは色々と事情があるのだろうが今の彼女は一般人、面倒なことは深く考えないようにする

屋台の近くに行ったあと注文、少し待つと出来たての焼きそばがパックに入れられ輪ゴムで止められ割り箸と一緒に袋に詰められ手渡される

代金として五百円を渡すとレディリーはいそいそとその場を離れる

 

別に焼きそば一つでも問題ないのだが、今回はもう一品出店といえば奴も欲しいとレディリーは欲張った

出店定番もう一つとは、それはタコ焼きだ

こっちも大体五百円くらいの値段であり、コンビニとかでたまに売られてるやつに比べるとやっぱり高い

だが基本的に出来たてにありつけるし、お祭りなのでモーマンタイ、というやつだ

適当に愛想を振りまきながら先ほどの焼きそばと同じようにタコ焼きを購入すると代金を手渡し袋に入れられたタコ焼きを受け取る

さてどこで食べるか、と周囲をくるくると見渡して、パンフレットを見ると近くに公園があるのを発見したので、そこで腰を落ち着けて食べることにした

道中の自販機でペットボトルの水を購入してから公園のベンチに座り込むと自分の隣に購入したやつを置く

まず食べるのは先ほど買ったタコ焼きだ

とりあえず割り箸を割ってパックを開ける───そして鼻腔をくすぐる青のりやマヨネーズ、そしてオタフクソースの匂いを感じつつ一個を掴んで口に放り込んだ

 

あふっ(熱っ)!?」

 

しかし出来たてだったために、そしてまだ時間も立っていないのもあって嚙んだ瞬間熱さが強襲を仕掛けてくる

内部に熱が籠っているため迂闊に噛むとこうなりかねない

油断してたレディリーはどうにかこうにかはふはふしながら口内から熱を逃がしつつゆっくりと噛んで食べ進める

 

───うん、美味しい

 

改めて味に集中するとわかるが、こういう食べ物を舌で感じると素材の味が生きているというかなんというか

マヨネーズとソースがいい感じに絡み合い、タコ焼きの中のふわりとした食感がたまらない

食べる前にタコ焼きの一つを割り、中の熱を逃がしつつ、もう一個、もう一個と食べていく

食べ終わって容器のパックをタコ焼きが入っていた袋に入れて片付けると一個懸念が浮かぶ

 

(…たぶん歯に青のりくっついてるかもしれないわね…)

 

オマケにこれからもう一つ食べようとしているのは焼きそばであり、またも青のりトッピング

最悪またコンビニで歯ブラシセットとかを購入して歯を磨く必要が出てくるかもしれない

 

───アイツ(アラタ)に会うのに、そんなみっともない姿を見せたくはない

 

「ま、食べ終わってから考えましょ」

 

とりあえず今は食らうことを優先した彼女は焼きそばを開ける

割り箸で麺を掴んでちょっとずつ啜っていく彼女の顔は、何となく楽しそうだった

そこにはもう、死を求めるあの時の彼女はいなかった

 

◇◇◇

 

白井黒子

能力開発の名門校、常盤台中学に通う茶髪のツインテール女学生だ

常盤の中でも上位に入る実力を持つ彼女ではあるが、彼女は少し前に起きたとある事件で負傷してしまい、その怪我が完治しておらず今回の大覇星祭には不参加だった

一応絶対安静ではあるのだが、彼女は現在車椅子に乗って大通りにいた

 

「いやー、私たちが頑張ってるのにエアコン効いた部屋で白井さんが部屋で一人で休暇をしている姿を想像すると居ても立っても居られなくなっちゃって。白井さんにもお仕事手伝ってほしくなったんですよてへへ」

「…本音漏れてるよ初春」

 

そんな車椅子を押しているのは黒子の同僚の初春飾利、そして彼女の隣にいるのは友人の佐天涙子だ

カラカラと車いすを押されながらぐったりした様子で

 

「素敵な友情アリガトウ、ですわ。怪我が完治したら衣服を真っ先にテレポートさせてあげますのでお楽しみに」

 

とはいえ一人で休んでいるというのもめちゃくちゃ退屈ではあったので正直初春の申し出は有難かったりする

 

「それで、今年の大覇星祭は何かトラブルでも起きていませんの?」

「今のところそれほど大きいトラブルは起きてません。せいぜい焼きイカ屋台に化けた産業スパイが生徒の唾液からDNAマップを盗もうとしたくらいですかね。先輩が言うにはまだ優しい方だって言われてるみたいですけど」

「え、そんなこと起こってんの…?」

 

当然ながら表沙汰になっていないので佐天涙子はそのことを知らない

初春の言葉に黒子はふむ、と息を吐きながら

 

「確かに、AI否定論者による無人ヘリ撃墜未遂とか、精神文化主義者による競技場爆破未遂とかに比べれば優しい方だと思いますわね」

「こわ!? 学園都市裏に何抱えてるんですか!?」

 

佐天涙子のリアクションに隠れがちだがこの時初春もさぁっと血の気が引いていた

そういうのは基本的に表沙汰にならないからである

黒子としては大覇星祭に参加する以上そういうことも起きるものだと覚悟を決めているのだが

 

そんな時ふとデパートのエキシビション…大画面から競技場のアナウンスが聞こえてくる

生放送ではなく、少し前に行われた競技のハイライトのようなものだ

聞き取りやすい男性の声が言葉を紡いでいる

もちろん選手の顔は撮られていて名前も公表されるから知名度が上がりそう、とも思うが実際はそうでもない

別にオリンピックに名を残すような競技でもないし、基本的にはその場限りなのだ

 

<───今回一位を獲得した食蜂操祈選手は、ゴール後も余裕を崩さない優雅な立ち振る舞いをみせてくれました>

 

お? と聞いた名前が聞こえてきた

車いすを押してた初春も隣の佐天もそのエキシビジョンへと顔が向く

 

「食蜂さん一位だったんですかぁ。…あれ、でも申し訳ないですけどあんまり動けるって印象ないような…」

 

佐天の呟きに黒子もふむ、と手を顎に持っていく

ぶっちゃけ食蜂操祈は佐天が言うように運動能力は低い部類だと思っている

…派閥の子たちがサポートしたのだろうと黒子は勝手に結論付けるとエキシビジョンからまた声が聞こえてきた

 

<一緒に走ってもらった男子生徒を労わるところも好印象でしたね。途中親し気に話していたのも見るとお知り合いだったんでしょうか?>

 

ほむ? とまたもや気になる単語

その後でエキシビジョンに流れてきたのは食蜂操祈に連れられるアラタの姿だった

まぁ、と小さく口の中で呟くとそのアラタに二人も気づいたのか

 

「アラタさんが一緒だったんですか。…恐らく借り物指定なんでしょうけど、なんででしょう、おぶったりなんかしてアラタさんが走る姿が目に浮かびます…」

「言えてるー。だけどさ、何となく絵にもなってるのがすごいよねー」

 

そんな二人の声をBGMに白井黒子は空を見上げる

晴天の青空に白い曇がのんびりと動いていた

 

(でも食蜂さん…スポーツドリンクの間接キスはギルティですわよ…)

 

もし自分が出れたのならやったかもしれないのに、と黒子はちょっぴり悔しさをにじませるのだった

 

◇◇◇

 

吹寄制理は大覇星祭運営委員の一人である

みんなが楽しく祭りである大覇星祭を作り上げるために今日まで頑張っているちょっと健康器具マニアの、女っ気がないとか言われている女子である

彼女が現在いるエリアはとある競技場でお手伝いしている

それは今現在行われている借り物競争のゴール地点が今吹寄がいる競技場なのだ

てきぱきと仕事をこなしていると、一番最初にゴールテープへ向かってきたのは意外な人だった

てちてち、というような擬音でも似合いそうに、しかし確実にゴールに向かっているのはとある男子生徒に手を引かれた常盤台中学の食蜂操祈だった

 

「ほら、あとちょっとだから頑張れ」

「い、言われなくてもぉ~」

 

彼女を引っ張っていたのは吹寄のクラスメイトの一人である鏡祢アラタだった

息も絶え絶えな様子の食蜂操祈はなんとかゴールテープの前くらいにまで走ってくるとアラタはそこで立ち止まり彼女にゴールテープを切らせて一位を取らせたのだった

そのタイミングに合わせて運営委員の人たちは彼女に向かってタオルを被せたり水分補給用のスポーツドリンクを渡したりなどしてケアしていく

そして最後に食蜂操祈から渡された紙の文字を吹寄は確認する

 

「…借り物の指定はあってるけど、お前ってば交友関係広いのね」

「借り物競争だったんだこれ」

 

そんなことを言うととりあえず仕事を優先すべく吹寄はその場を離れた

しかしクラスメイトの中での男子連中のうち()()()仲がいいアラタが常盤台の女生徒と知り合いだなんて思いもしなかった

どういう経緯で彼女と知り合っていたのだろうか

 

ちらりと遠目から見ているとスポーツドリンクを飲みながら親し気に話している二人の姿が目に入る

そして最後に彼女は持ってるスポーツドリンクをアラタに手渡すと表彰台に向かって歩き始めた

え? と一瞬変な声が心の中で漏れる

そして次の瞬間何のためらいもなく彼女が口を付けていたスポーツドリンクのストローに普通に口をつけて飲んだことに

 

「んなっ」

 

思わずそんな素っ頓狂な声が出た

周囲の他の委員や先生から変な顔されるが吹寄は短く謝罪しつつ先ほどの光景をフラッシュバックする

 

(───間接キス!? アイツ、それができるくらいの仲なの…!?)

 

僅かに顔を赤らめてそんなことを心の中で呟く吹寄の胸中は誰にも分からないのでした

 

◇◇◇

 

さてさて、競技場からの帰り道、鏡祢アラタはのんびりと歩いていた

道行く人の喧騒は雑多ながらも、雰囲気は悪くない

当麻には先ほど携帯で改めて連絡を取り合流する旨を伝え戻っている最中である

しかしまさかお姫様抱っこされるなんてことがあるとは思わなかった

したことは何回かあったのに

あれがお姫様の気分なのだろうか*1

 

と、そんな時不意に自分の携帯にピリリと電話がかかってきた

なんじゃらほい、と心の中で呟きながら携帯を開き画面を見てみるとそこには蒼崎橙子の文字列がある

アラタは通話のボタンを押して携帯を耳に当てる

 

「もしもし? どうしたの」

<アラタ、大覇星祭は楽しんでいるか?>

「まぁまぁ楽しんでるよ。開催期間は正直長いと思うけど。正直ね」

 

偽りのない本心である

早い話運動会を七日間連続でやるようなものなのだから

 

<それは何よりだ。…そして、悪い知らせが一つある>

「…悪い知らせ? …いい知らせとかはないの?」

<ないな、今回は。悪い知らせが一つだけだ>

「───どんな知らせ?」

 

頭の中で嫌な予感がする

無意識に表情が険しいものになっているアラタは一つ、橙子に問うた

 

<単刀直入に言うとだな、この街に魔術師が潜り込んだという話だ>

 

───いつだって、日常から非日常に切り替えるのは突然だ

かくして、鏡祢アラタの日常はあっけなく終わりを告げた

*1
たぶん違う




こんなレディリーもいいよね(
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。