ラブライブ!~一〇人目の女神様~    作:kurei_jin

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 祝! μ’s紅白出場!


第一六話 招待状は突然に

 

「はぁ……」

 

 学院の廊下で花陽が溜め息を付く。

 《μ’s》にとっては完敗に終わったファーストライブから数日。そのライブの数少ない観客であった花陽の耳に残るのはその時雪兎が絵里に語った言葉だ。

 

「意思が希望を生んで、希望が夢を育てて、夢が世界を変える……か」

 

 それは何て素敵な言葉だろう。

 確かに先日のライブは結果だけ見れば残念だったけれど、アイドルのファンを長らくやっている花陽から見ても《μ’s》の歌やダンスのパフォーマンスは決して低いものではなかったし、そしてそれ以上に心に熱く響いてくるものがあった。そんな《μ’s》の三人なら雪兎の言葉通り、きっとその意思で世界を変えるだろう。講堂を満員の観客で満たすほどのスクールアイドルになるだろう。

 

「でも、やっぱり私なんかじゃ無理だよね……」

 

 それでもやっぱり自分は違う。

 穂乃果の様な明るさも、ことりの様な可愛いさも、海未の様な通る声も、いずれも持ち合わせていない自分が意思を持ったとして世界を変えられるとは到底思えない。

 アイドルが大好きで、叶うのなら自分だって綺麗な衣装を着て煌びやかなステージに上がり歌って踊りたいけれど――。

 

「こんな私じゃアイドルになんてなれないよね……」

 

 どうしても自分に自信が持てない花陽はそう呟いて眼を伏せる。そうして俯きながら廊下を歩いていた花陽は角から曲がってくる人影に気付くことができなかった。

 

「きゃっ!?」

「おっと」

 

 出会い頭の衝突。

 不意の出来事に花陽は姿勢を保つことができず転びそうになる。

 このままでは堅い廊下にお尻を強かに打ちつけてしまう痛みと恐怖にぎゅっと眼を瞑る花陽だったが、予想に反して彼女を迎えたのは暖かく柔らかな感触だった。

 

「大丈夫?」

 

 バサリとカードの束が廊下に散らばる音と共に花陽の耳に聞こえたのは優しげな声。その声に恐る恐る眼を開けた花陽は視線の先に居た人物に驚きの声を上げる。

 

「て、天城先輩っ!?」

 

 アイドルの事について考えていたらいつの間にか《μ’s》を導く銀の妖精が目の前にいて、そんな人物が自分を抱き留めていたのだ。花陽の驚きは当然といえよう。

 そんな彼女を抱きしめたまま雪兎は心配そうに花陽を見やる。

 

「ごめんね、ちょっとよそ見してて気付かなかった。どこか怪我とかしてない?」

「は、はい。痛いところとかはどこもないです。大丈夫……です」

 

 花陽の無事な様子に雪兎は安堵の息をつく。

 

「そう、ならよかった。じゃあ降ろすよ」

「は、はい」

 

 ある意味学院で一番のアイドル的存在にぶつかって抱き留められるというハプニングに出くわした花陽は顔を赤くしながら名残惜しげに雪兎から離れる。

 

「(天城先輩、すごいなぁ。腕とかすごく細いし、身長も私よりちょっと高いだけなのに見た目と違って力持ちだなんて。男の子だからなのかな? でも、とっても柔らかかったし良い匂いも……って、私いったい何を考えちゃってるの!?)」

 

 そんな事を花陽が思っていることを露とも知らない雪兎はぶつかった拍子に廊下に散らばったカードを見て独りごちた。

 

「あっちゃぁ。これは派手にやっちゃったな」

「ああっ! ごめんなさい、私のせいなのに。手伝います」

 

 カードを拾いにかかる雪兎に花陽も謝りながら屈んで拾うのを手伝う。

 カードは相当枚数、それもかなり広い範囲に渡って散らばっていたが二人で拾えばそれほど時間はかからずに拾い終えることができた。

 

「はい、天城先輩」

「ありがとう。よし、これで全部かな」

 

 花陽から差し出されたカードを受け取った雪兎は周りを見渡しカードが落ちていないことを確認するとベルトに備え付けたデッキケースにカードを収めた。

 

「本当にごめんなさい。私をかばってもらったばっかりに」

「いいよいいよ。決闘者にとってカードは大事なモノだけど可愛い後輩には代えられないしね」

 

 頭を下げる花陽に手を振って何のこともないと告げた雪兎は、それはそうと言葉を続ける。

 

「昨日のライブ楽しんでくれた?」

「はい、とっても楽しかったです! 先輩たちの歌もダンスも始めたばかりとは思えないすごいパフォーマンスでしたし、天城先輩の冒頭の挨拶も素敵でした! 曲もオリジナルで、衣装もまるで本物のアイドルみたいにキラキラしていて、きっと《μ’s》はすごいスクールアイドルに……あっ……。ご、ごめんなさい」

 

 またやってしまった。

 アイドルの事になると我を忘れて興奮し、前のめりになってまくし立てるように熱く語ってしまう自身の悪い癖に花陽は赤面する。しかも相手は学院唯一の男子生徒で銀の妖精である雪兎だ。花陽の恥じらいもひとしおだった。

 しかし当の雪兎は気にした様子もなく嬉しそうに頷く。

 

「そういってもらえると企画者冥利に尽きるよ。またライブやることになったら一番に教えるから観に来てね」

「は、はい。ありがとうございます……」

「うん。それじゃあ僕はこれで失礼するよ。またね」

「えっ!? あ、はい……。ありがとうございました」

 

 先の休み時間に穂乃果から熱烈な勧誘を受けたばかりである花陽は雪兎からも《μ’s》への勧誘話が来るのではないかと身構えたが、意外にもそう言った話が出ることもなく雪兎は去っていった。

 そんな雪兎の言動に彼の背中を見送りながら花陽はそれ見たことかと自身をあざ笑う。

 

「(……天城先輩が勧誘して来なかったってことは、やっぱり私にアイドルとしての魅力がないからってことだよね。うん、そうだよ。私なんかより凛ちゃんや西木野さんを誘った方が《μ’s》にとって良いことだもん)」

 

 雪兎の真意を花陽はそう推測したが、逆だ。

 未だ心揺れる花陽が負い目を感じないようにあえて勧誘をしなかっただけなのだがネガティブ思考の花陽はどうにも悪い方向に考えが向いてしまう。

 それでも心のどかでスクールアイドルを諦めきれない自分がいる事も確かだ。その証拠に花陽の制服のポケットには《μ’s》メンバー募集のビラが入っている。

 花陽はそれを取りだそうとポケットの中に手を入れると、そこにビラ以外の何かが入っていることに気が付いた。

 

「あれ、何だろう? 何かポケットに入ってる」

 

 そうしてビラと共にポケットから取り出したのは一枚のカード。

 そこには銀の髪と紅の眼を持ち、兎の幽霊を侍らせた妖怪の女の子が描かれていた。

 

「わぁ、可愛い。名前は《幽鬼うさぎ》かぁ……ってコレ、もしかすると天城先輩の!?」

 

 雪兎と一緒に拾い集めたカードと同じ意匠。

 間違いない。廊下に散らばった際、一枚が花陽のポケットに紛れ込んだのだ。

 

「絵柄も名前の刻印もすごくキラキラしてるし、とっても貴重なモノだよねコレ」

 

 花陽は知らないことだが、その《幽鬼うさぎ》は通常種よりもさらに希少性の高いシークレットレアと言うレアリティのカードである。

 とは言え、名前の読みが同じで容姿もどこか雪兎に似ているカードならきっと愛着を持って大切にしてるカードに違いない。そう思った花陽は一刻も早く雪兎にカードを届けようと思ったが、そこで二の足を踏んでしまう。

 

「(ど、どうしよう。私一人で二年生の――それも妖精さんである天城先輩を訪ねるなんて、そんな大それた事できないよ……。ああ、でも天城先輩にコレを渡さないといけないし、どうすれば……。ううぅ……)」

 

 行くべきか、行かざるべきか。

 その二者択一になかなか決心が付かずオロオロと挙動不審な不審者をやっている花陽をいぶかしんだのだろう。一人の生徒が花陽に声をかけて来た。

 

「どうしたのよ?」

「ひぅっ!?」

「ちょ、ちょっと! そこまで驚くことないでしょ」

「に、西木野さん」

 

 花陽の振り返った先、そこにいたのは同じ一年生の真姫だった。

 

「まったく。で、こんなところで一体何をしているのよ?」

「実は――」

 

 いつもなら人見知りしてしまう花陽だったが、同じ一年生のクラスメイトで《μ’s》のライブを共に鑑賞した仲である真姫には抵抗が少ないのか、かくかくしかじかと先の経緯を説明する。

 

「何、そんな事で悩んでたの? そんなことなら早く二年生の教室に行って直接手渡せばいいだけじゃない」

「で、でも先輩の教室に、それも妖精さんである天城先輩を一人で訪ねるなんて……」

「なら誰かと一緒に行けばいいじゃない。いつも一緒にいる賑やか子はどうしたのよ?」

「凛ちゃんはちょっと用事で居なくて、でもきっと大切なカードだろうから早く返さなきゃって思うけど、やっぱり私一人だけでなんて――」

 

 そうして再び堂々巡りに入った花陽に真姫は声を荒らげた。

 

「あぁあ! もぉ、焦れったいわね!」

 

 そう言うや否や、花陽の手を取ると引っ張るようにして足を二年生の教室に向ける。

 これに驚いたのは他ならぬ花陽だ。

 

「ええぇ!? あの、西木野さん、ちょっと!?」

「一人が嫌なら私が付いていってあげるわよ! そのカード、天城さんの大切なモノなんでしょ? だったら早く届けないと。ほら、行くわよ!」

「ええぇ!? ちょ、ちょっと、西木野さん!? 私まだ心の準備が!」

「ぐずぐずしない!」

「だ、誰か助けてぇぇぇええ!」

 

 哀れ。花陽は二年生の教室にドナドナされていきましたとさ。

 

「――と、言うわけで天城さんの落としたカードを届けにきました。ほら」

「……急におじゃましてごめんなさい天城先輩。これ天城先輩の、ですよね……?」

 

 場面は変わり二年生の教室。

 上級生の教室故におどおどと怯える花陽に対し、真姫は特に臆することなく花陽を連れて教室内に足を踏み入れ雪兎の前に進み出たところだ。

 そんな真姫に促され精一杯の勇気と共に花陽が差し出した《幽鬼うさぎ》のカードに雪兎は表情を輝かせる。

 

「ああ、それ! 見あたらなかったからもしやと思ってたけど、やっぱりあそこで落としてたんだね。ありがとう花陽ちゃん、真姫ちゃん」

 

 安堵の息を付きながらカードを受け取る雪兎の姿に、花陽はすぐに届けて良かったと心の中で無理にでも連れてきてくれた真姫に感謝する。

 そして同時に自分の考えが正しかったことを確信する。

 

「やっぱりとても大事なモノだったんですね」

「うん。このカードは僕の分身で、何より掛け替えのない絆を紡いできた大事なカードだから」

「絆、ですか?」

「そう。絆」

 

 雪兎は眼を閉じて思い出す。

 それは幼馴染である穂乃果たちにも話していない不思議体験。

 この世界とは違う別次元への転移。体験したことのない未知の決闘。そしてそこで育んだ決闘者たちとの絆。

 ほんの数ヶ月前の出来事なのに遙か昔の事のように思える彼の次元での戦いは雪兎にとって忘れえぬ大切な記憶だった。

 そんな別次元での絆の架け橋になったのが他ならぬこの《幽鬼うさぎ》のカードなのだ。

 その希少性故にとても価値の高いカードで加えて名前や見た目が自分に似ているから特に気に入っていたカードだったが、この出来事から《幽鬼うさぎ》は雪兎にとってもはや値段に換えることのできない大切なカードになっていた。

 

「あ、そうだ。二人ともこれから時間ある?」

 

 そんな自身にとっての大切なカードを届けてくれた花陽と真姫に心ばかりの礼をせんと雪兎は二人の予定を問う。

 

「えっ、時間ですか?」

「特に予定はないですけど」

「よかったら家においでよ。カードのお礼に精一杯おもてなしするよ」

 

 それは雪兎からの突然の招待状だった。

 

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