ラブライブ!~一〇人目の女神様~    作:kurei_jin

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第五話 天城P

 

「これは何?」

 

 《音ノ木坂学院》の生徒会室。

 ロシア人を祖母に持つ金髪碧眼のクォーターにして生徒会会長、絢瀬絵里が差し出された一枚の書類を前に胡乱気な視線を提出した一団に向ける。もちろんその一団とは穂乃果、ことり、海未、雪兎の幼馴染四人組である。

 絵里からの問いかけに意気揚々と書類を提出した穂乃果が自信満々に言い放つ。

 

「アイドル部設立の申請書です! 認めていただけますよね!」

 

 部活動として認められれば練習場所の確保や必要資材を部費で賄うことができるようになる。つまりスクールアイドルを始めるにあたり学院の公認を取り付けようというのだ。

 しかしその目論見は生徒会長の次の一言で脆くも崩れ去った。

 

「いいえ、認められません」

「「「えっ?」」」

 

 端的なまでの否定の言葉に雪兎を除く三人が唖然となる中、絵里はこれ見よがしに生徒手帳を取り出すと部活動発足の条件のくだりを読み上げる。

 

「《音ノ木坂学院》生徒手帳第七章第六条第五項、部活動の心得。“部活動ないし同好会の発足は最低五人以上の生徒の参加を以てこれを認めるものである”」

「つまり君らは今四人やろ。部活の申請をするにはあと一人足らんちゅうことやね」

 

 おっとりスピリチュアルオーラを放つ生徒会副会長、東條希が絵里の言葉を補填するように説明するが、それに反論したのは海未とことりだ。

 

「でも校内には部員が五人以下のところもたくさんあるって聞いています」

「そうです。それなのに私たちの申請が認められないなんて納得できません」

「部活が発足したときは皆五人以上いたはずよ。それ以降人数が減って――例え一人になったとしても部員が存在する限り人数は廃部の要件にならない。あなたたち生徒手帳読んでないの? 部活動を立ち上げるならこれくらいは知っておいて然るべきことよ」

 

 トゲはあるものの言っていることは何ら間違っていない絵里の言葉に三人娘はぐぅの音も出ない。その様子に絵里はこの話は終わりだと言わんばかりに彼女たちから視線をはずして生徒会の仕事に戻ろうとする。

 だが、お忘れではないだろうか。穂乃果たちの陣営にはもう一人の仲間がいることを。

 

「では生徒会長、絢瀬絵里殿。その生徒手帳に記載ある項目に則ってこちらを受理願いたい」

 

 今まで沈黙を保っていた雪兎が先の絵里の言葉に対する意趣返しの意味も込めて慇懃無礼な口調で語りながら懐から一枚の書類を取り出した。

 

「これは、講堂の使用許可申請書?」

 

 怪訝な顔で書類を受け取った絵里に雪兎は生徒手帳の一文を暗唱する。

 

「《音ノ木坂学院》生徒手帳第五章第七条第三項、学院内施設利用の心得。“学院に在籍する生徒は部活動の関係なく自由に講堂を使用できる”」

「おお! よう空で言えるもんやな。日程はどれどれ……新入生歓迎会の日の放課後やね」

「いったい何をするつもり?」

「もちろんライブですよ、彼女たちの初ライブ。何せ彼女たちは我らが《音ノ木坂学院》のスクールアイドルですから」

 

 イベント、グラビア、CM――アイドルの活動は数あれどその本領はステージでのライブ。歌って踊ってこそのアイドルだ。

 故にその舞台を用意しようとしたのだが――。

 

「「「えぇぇぇええっ!?」」」

 

 その雪兎の発言に驚きの声をあげたのはむしろ穂乃果たちの方であった。それもそのはず。雪兎の話したライブの件は穂乃果たちにとっても寝耳に水だったのだ。

 驚きのあまり固まったままの三人娘を置き去りして絵里と雪兎の話は進む。

 

「彼女たちはライブについて何も知らなかったようだけど、そんな状態で出来るの?」

「ええ、できますとも。彼女たち三人は必ず期待以上のものを魅せてくれますよ。僕が保証します」

「あなたの保証がいったい何の担保になるというの。新入生歓迎会は遊びではないのよ」

「存じています。こちらだって遊びでスクールアイドルを始めた訳じゃない。真剣に学院の廃校を阻止するために動いています。生徒会長、あなたと同じように」

 

 対峙する金髪(プラチナブロンド)銀髪(アッシュブロンド)

 大好きな祖母譲りの湖面のような青い瞳よりさらに澄んだ空のような雪兎の蒼の瞳。その瞳に見つめられると、まるで自分の全てが見透かされているようで癪に障った。

 

「ッ! 私は思いつきで行動しているあなたたちとは違うわ! それに部活は生徒を集めるためにやるものじゃない。そんな理由なら先の部活動の件、例え五人集めてきても認める訳には――」

「まぁまぁ、エリち」

 

 声を荒らげる絵里に対し待ったをかけたのは彼女をサポートする立場にある希だった。

 

「彼は生徒手帳に記載あるルールに則って講堂の使用許可を求めに来たんやろ。部活の話やないのに、ここでさっきの話を持ち出すのは感心せぇへんで」

「それは……」

「ってことで、これはちゃんと受理しておくから安心しぃ。ええね、エリち」

 

 有無を言わせぬ希の笑みに絵里はとうとう折れた――折れるしかなかった。

 悔しげに唇をかみながら絵里は絞り出すように言葉を紡ぐ。

 

「……わかったわよ」

「生徒会の寛大な処置に感謝します」

 

 目的を果たした以上、生徒会室に長居する理由はない。

 一応の社交辞令を述べた雪兎は未だ固まったまま再起動しない三人娘たちの背を押して退室しようとするが、何かを思い出したか足を止めると絵里の方へと振り返った。

 

「あと生徒会長」

「……今度は何? もう話すこともないでしょう」

「いいえ、もう一つだけ伝えておきたいことがあります。学院の廃校について僕はもちろん穂乃果たちだって貴女と同じ気持ちだということ、これだけは覚えておいてください。では、失礼します」

 

 それだけ言うと絵里の返事を待たず穂乃果たちを引き連れ生徒会室を後にしたのであった。

 

「学院ただ一人の男子生徒、可愛い顔してなかなかやるやん。銀の妖精って呼ばれる由縁は見た目だけやないってことやね。行動を起こすや否や一気に場の空気を変えてみせた存在感と影響力――まさにスピリチュアルな存在や」

 

 雪兎たちが去った後の生徒会室で希が雪兎をそう評する中、絵里は恨めしげな視線を希に向ける。

 

「……なぜ、あの子たちの味方をしたの? 希も理解しているでしょう。スクールアイドルのなかった学院で、スクールアイドルをやってみたけどやっぱりダメでしたでは逆効果になりかねないことを」

 

 絵里としても何の理由もなくスクールアイドルに反対しているのではない。期待が大きければ大きいほど、それが失敗したときの落胆はより大きくなる。現に期待された共学化が失敗して廃校に向け舵が切られた以上、次に同じ轍を踏む様なことがあれば取り返しのつかない致命傷になる可能性だってあるのだ。

 そう語る絵里に希が返したのは静かな笑みだった。

 

「せやね、確かにエリちの言うとおりや。リスクを考えればとても分の良い賭とは言えへんな」

「それをわかっていながらどうして!?」

「何度やってもそうしろって言うんや」

「?」

 

 訝しがる絵里に見てもらった方が早いと希はデッキケースからカードデッキを取り出すとそれをカット&シャッフルして卓上に置く。

 そしてデッキの一番上からカード一枚を引くと、それを絵里にも見えるように表の柄を向けて見せた。

 

「カードがな……カードがウチにそう告げるんや」

 

 希の引いたカードは正位置の《アルカナフォースⅩⅨ―THE SUN》。それが意味するのは成功と祝福、約束された将来だった。

 





 今回のお遊び要素、お気付きだろうか?

 生徒手帳第七章第六条第五項 765 namco
 生徒手帳第五章第七条第三項 573 KONAMI

 ここを見る前に気付いた人はなかなかの勘の鋭さです。
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