ラブライブ!~一〇人目の女神様~    作:kurei_jin

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第六話 続・天城P

「アイドル部としては認めてもらえなかったけど新入生歓迎会の講堂の使用許可をとれるなんて、さすがユキちゃん!」

 

 部活動としての承認は得られなかったが絵里との舌戦を制し、上々とも言える戦果をもぎ取った雪兎に穂乃果は興奮気味だ。

 まさしく神様仏様雪兎様々である。拝んでおこう。

 

「いやぁ、それほどでも」

「でもゆきくん、いきなりだからびっくりしたよ。ライブの話なんて全然してなかったし」

「敵を欺くにはまず味方からってやつだよ、ことり君」

 

 ワトソンに言って聞かせるホームズの口調でそう語る雪兎だったが、その話に対して海未から鋭い指摘が入る。

 

「それだけではないでしょう雪兎。貴方、私たちの部活申請を出汁にしましたね」

「あら、やっぱり海未にはお見通しだったか」

「お見通しも何も生徒会長が指摘した時点でおかしいと思ったんです。ユキペディアの異名を持つ貴方が部活動発足の条件を知らないはずがありません。断られると知っていてあえて黙っていましたね」

「えっ!? そうなのユキちゃん!?」

「まぁね。こちらの無知を餌に規則、校則、生徒手帳――ここらへんの言葉を引き出せればと思っていたけど、いやぁお陰で上手くいったよ」

「そこから言質を取って本命である講堂の使用許可申請を通す……まったく顔に似合わず強かなのは相変わらずですね」

「ゆきくんの悪巧みって昔から失敗したことないもんね」

「こらこら、そこは神算鬼謀と言いなさい」

 

 まさしく孔明なみの名軍師っぷり。味方にすれば本当に頼りになる存在だ。

 とは言え、そうは言っても雪兎の先の言動には納得いかない点が一つある。

 

「しかし雪兎、私たちを出汁にした事は良いとして何の相談もなくライブをやるなんて勝手すぎます。ライブをやるにしてもあと一ヶ月しかないんですよ。見通しが甘すぎるのではないですか?」

 

 そう、ライブだ。

 絵里にできると啖呵を切ってしまった以上、後になってできませんでしたでは筋が通らない。まぁこれは逃げ道を塞いで背水の陣をしくことで参加を渋るであろう海未をステージに立たせる策でもあるのだが彼女も未だそこまでは気づいていないようだ。

 そんな海未に雪兎はチッチッチと指を振りながら語る。

 

「逆だよ海未、あと一ヶ月もあるんだ。それだけの時間があれば十分だと僕は判断したし、それにスクールアイドル結成をアピールするのに好都合な学内イベントが近々あるんだ。これを逃す手はないよ」

「それはそうですけど、やるべきことは山の様にありますよ」

「そうだね。じゃあ一つ一つ問題を明確化して片づけていこうか。まずはグループの名称決めからかな。いつまでも《音ノ木坂学院》スクールアイドルプロジェクト(仮)じゃ締まらないでしょ」

 

 まず取っかかりとして雪兎があげたグループ名の問題に早速穂乃果たちは頭を抱えた。

 

「うーん、急にそう言われてもなかなか思いつかないよぉ」

「何か私たちに特徴があればいいんだけど」

「皆性格がバラバラですし、どうしましょうか」

「じゃあ単純に私たち三人の名前を使って《ことほのうみ》とか?」

「ドスコイ、それじゃ力士みたいだよ穂乃果」

「だよねぇ……。あっ! じゃあ、ことりちゃんが空で、海未ちゃんが海、私が陸、それに三人の熱い思いを乗せて《熱風海陸》なんてのは!?」

「それじゃブシロードだよ。全然アイドルっぽくないよ」

「ダメかぁ。じゃあ、じゃあ……うぅぅ」

 

 ことごとく上がる雪兎からのダメ出しに穂乃果は力なく崩れ落ちた。仕舞いには考えすぎによる知恵熱で頭からフシュフシュと煙を吐き出し始めた穂乃果に、見かねた雪兎が助け船を出す。

 

「思いつかないならいっそ他生徒からの公募で決めるってのはどうかな」

「待ってください。それでは丸投げではないですか」

「確かに他力本願だけど、参加型企画にすることで学院の皆に興味を持ってもらえるかもしれないメリットがあるでしょ」

「おおっ! それはそうかも。さすがユキちゃん、あったま良い!」

「うん。ことりもそれで良いと思うな」

「二人が賛成なら私が反対しても意味ないではないですか……。わかりました、グループ名は公募で構いません」

「よし、じゃあグループ名の件は後で掲示板に張り出しておくよ」

 

 人任せではあるものの、こうして早くも一つ目の問題は片づいた。しかしこれで終わりではない。怒濤の天城P無双はこれからが本番だった。

 

「次は衣装だね。ことり、衣装のデザインできるよね?」

「う、うん。ゆきくんにライブの話を聞いてから一応こう言うのはどうかなってイメージはもう頭にあるけど」

「それは重畳。じゃあすぐデザイン画を描いて。型紙は僕が引くから、それからの縫製は二人でやろう」

「うん。がんばる!」

「素晴らしいデザイン頼んだよ」

 

 両の拳をキュッと握りしめることりに雪兎は力強く頷くと次いで海未へと視線を向ける。

 

「歌詞は海未、君って中学時代に趣味で詩を書いてたよね?」

「なっ!? もうそれは忘れてください! 思い出したくないほど恥ずかしいのですからっ!」

「アイドルソングの歌詞はあれくらいの方がキャッチーでいいんだよ。と、言うわけで歌詞の方をよろしく」

「例えそうだとしても恥ずかしいことに変わりありません! お断りします!」

 

 黒歴史はもう二度と繰り返させない――その海未の強い意志に雪兎は残念そうに眼を伏せる。

 

「そう……。そっか……」

 

 潤む蒼の瞳、陰る笑顔。そんな雪兎を見ていると汚れを知らない妖精を冒してしまった罪悪感にとらわれる。

 

「そうだね……うん、海未がそこまで言うなら無理強いはしないよ。作詞はことりに雛形を考えてもらって僕が補完して完成させる。けれどやっぱり僕は海未の手によって書かれた歌詞を聞いてみたい。ダメかな?」

 

 そしてこの殺し文句である。

 儚い妖精から頼れる相手は君しかいないと乞われて断れる人間がいようか。いやいない。

 

「……もぉ、ずるいですよ雪兎」

 

 抗えない幼馴染の魅力を前に海未はそう応えるしかなかった。とは言うものの、雪兎からこのお願いをされて海未が断れた試しはなかったりする。連敗記録更新である。

 だがしかし、油断するなかれ。まだ雪兎にはトドメの一言が残っている。

 

「ありがとう、海未。君のような良い人が僕の友人で本当に良かった」

「っ!? だから、それがずるいと言っているんです! 本当にもぉ」

 

 花の咲くような満面の笑みからの感謝の言葉にハートを打ち抜かれた海未は胸を押さえ顔を赤面とさせながらも最後の意地でそっぽを向く。

 

「うわぁ、ゆきくんの妖精モード久しぶりに見たかも」

「相変わらずすごい威力だよね。ことりちゃんのお願いとどっちがすごいかな?」

 

 それは甲乙つけがたい勝負になること請負だ。

 ちなみに雪兎が妖精モードからのお願いを狙ってやっているかどうかについては彼自身と神のみぞ知るところである。

 

「ほらほら脱線しないの。海未もいつまでもそっぽ向いてないで話を進めるよ」

 

 閑話休題。

 妖精モードからキリリといつもの表情に戻した雪兎が手を叩いて話を続ける。

 

「他にやることと言えばスクールアイドルのポータルサイトへの登録やライブに向けての練習メニューの作成だけど、これは既に僕の方でやっておいた。練習メニューについては運動部である海未の意見も聞きたいから後でリストを渡すよ。目を通しておいて」

「わかりました。しかし練習と言えば場所はどうするのです?」

「そっちも抜かりないよ。さすがに部活動じゃないからグラウンドや体育館、空き教室は使わせてもらえなかったけど、屋上の使用許可を取り付けたしロードワークに丁度いい場所も見繕っておいた。あと本番で必要になる舞台の照明や音響は心得のあるクラスメイトの子に協力を打診したところ快く引き受けてくれたし、他にも数人手伝いを申し出てくれた子たちも居る」

 

 あれよあれよと言う間に山積していた問題が解決していく――と言うよりも、そのほとんどが雪兎が一晩でやってくれました状態だった。

 もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな。

 

「いつの間にそこまで……」

「故人曰く、兵は神速を尊ぶ。もしくは誰が言ったか、速さこそ有能なのが文化の基本法則だよ」

 

 情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ、そして何よりも速さを持ち合わすのが天城雪兎という存在なのだ。世界を縮めるなんて訳がない。

 そうして大概の問題を一人で片づけてしまった雪兎だったが彼も完璧ではない。どうしても解決できない問題もあった。

 

「さて、残る問題は曲と振り付けか」

「振り付けは曲にあわせて考えるから後でいいけど、問題は曲だよね。私、服飾は得意だけど音楽はちょっと」

「私もです。雪兎はどうですか? 各種楽器も一通り演奏できるようですし、作曲とかもできるのではないですか?」

「僕? そうだね、僕が得意なのは既にある一を五〇や一〇〇にすることであって、ゼロから一を創ることじゃないからね。編曲はできるけど作曲は無理かな」

「では、知り合いに誰か作曲を頼めそうな人は?」

「直接の伝はないけど伝を持ってそうな人なら心当たりはある。ちょっと聞いてみるよ」

 

 そう言うと雪兎は携帯電話を取り出すとアドレス帳から一人の人物の番号を選びダイヤルするが、しかし――。

 

「……つながらない。もしかするとまたぞろ電波のつながらない僻地にでも行ってるのかな」

 

 そう呟いた雪兎は一度電話を切ると再度アドレス帳を開き別の人物の番号を呼び出して発信する。

 

「あ、ご無沙汰してます雪兎です」

 

 どうやらこちらにはつながったようだ。

 雪兎の話す電話口から漏れ聞こえてくる声は覇気溢れる若い男性のものだった。

 

「お忙しいところ申し訳ありません。今お時間いいですか? ――はい、ありがとうございます。実はですね彼――ええ、その彼です。で、彼のことなんですけど電話がつながらなくて――はい。ですので何処に行っているかの足取りを貴方ならつかめているかと思いまして――え、アマゾン? 探検? はぁ、また突拍子もないところへ行ってますね彼。――ええ。実に彼らしいと言えば彼らしいんですけど――はい? 何か彼に話があったのかですか? ええ。実はオリジナルの楽曲が急遽必要になりまして、彼にショウビズ方面の伝を紹介してもらおうと思ったんですけど見事に当てが外れてしまいました。――えっ!? 僕のためなら貴方の伝の紹介もやぶさかではない、ですか。――はい。いえ、その申し出は大変ありがたいのですけど実はオリジナルの楽曲を欲しがってるのは厳密には僕じゃなくて幼馴染たちでして――はい。ですので僕の才能に対する評価からのご提案ならコチラ側の筋が通らないかなと。それに僕たちには家のこともありますし互いに貸し借りはなるべく作らない方が良いでしょう。――ええ。はい、はい。いえ、せっかく紹介いただけるとのことでしたのに申し訳ありません――え、それはそれとして僕の腕が鈍ってないかですか? ええ、遊星さんには及びませんけど貴方を満足させるだけの腕なら未だ以て健在ですよ。――ええ、ええ。はい、お忙しいところありがとうございました。――そうですね、今度また一緒にトンカツを食べに行きましょう。では、失礼します」

 

 そう言って電話を切った雪兎は彼女らに対し残念そうに首を横に振る。電話の内容からして伝の紹介はしてもらえそうであったが何やら複雑な事情がある様子。どうやら敏腕プロデューサーである雪兎をして作曲は手に負えない問題のようだ。

 しかし困った。曲がなければ歌詞があっても歌えない。衣装を作り、ステージを整えたとして、ライブを行うことなど不可能だ。

 こうなっては致し方ない。オリジナリティに欠けるが既存の楽曲でやろうかと雪兎が口を開きかけた時だった。

 

「はいはいはい!」

 

 穂乃果がえらく自信あり気に手を挙げたのである。

 

「いや、穂乃果。確か君は楽器の演奏も覚束なかったはずだけど……できるの、作曲?」

「うぅん、全然!」

 

 雪兎の質問に対して間髪を入れずに返された否定の言葉に三人はズッコケた。

 

「穂乃果ちゃぁぁん!」

「では何故手を挙げたのですか!」

 

 ことりと海未から上がる非難の声に、穂乃果は必死に弁解する。

 

「あ、いや、作曲は無理だけど作曲が出来そうな人に心当たりがあるんだよ」

 

 その内容というのが、まさかの作曲の当てであった。

 こんなにも身近に潜んでいた作曲の当てに、聞き間違いでないか雪兎はもう一度穂乃果に確認する。

 

「本当かい穂乃果!?」

「うん。放課後の音楽室ですごく歌とピアノの上手い一年生に会ったんだ。歌っていた曲も聞いたことない曲だったし、きっと作曲もできるはずだよ。部活動申請に必要な人数も後一人だしスクールアイドルに誘ってみたらどうかなって」

「確かに。仮にその子が作曲できるとして、メンバーに加わってくれるならアイドル部設立のための人員と作曲の問題が一挙に解決する……! でかした穂乃果!」

「えへへぇ。ユキちゃんに褒められちゃった」

 

 そうと決まれば話は早い。

 

「よし。じゃあその子が実際に作曲できるのか、確かめるために一度会って勧誘も含めて話をしてみよう。ことりと海未は今日のところは先に帰ってデザインと作詞をよろしく。穂乃果は僕について来て」

「いいけど、何で?」

「君ね、顔を知らない僕がどうやってその歌とピアノの上手い子を探すと言うのさ。それに穂乃果って衣装作りとか作詞とかの役に立たないでしょ」

「うえぇ、そんなことないよぉ!」

「そう? じゃあ例えば国語の俳句。『おまんじゅう うぐいす団子 もう飽きた』高坂穂乃果作」

「うっ……」

「例えば家庭科のエプロン制作。自分の服に縫いつけてしまったせいで完成が遅れて一人だけ宿題になる。ちなみにそれすら間に合わないって泣きついてきて結局は作業のほとんどを僕とことりでやったよね」

「ううぅ……」

 

 いずれも小学校時代の話である。

 とてもではないが、これでは戦力として数えるには無理があるというものだ。

 

「だから穂乃果は僕と一緒に来る。オーケー?」

 

 雪兎の戦力外通告にうなだれる穂乃果であったが、ここまで言われて黙っていたら女が廃る。

 

「オーケー……。うぅ、いつかユキちゃんにぎゃふんって言わせてやるぅ」

 

 静かにリベンジへの炎を燃やす穂乃果であったが――。

 

「それは無理ですね」

「無理だと思うなぁ」

「ぎゃふんっ!」

 

 爆沈完了。思いの外、鎮火は早かった。

 

 

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