バカとテストと召喚獣 ~たった5人のSクラス~   作:黒炉

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第11問

少女が少年の『普段は見えない部分』を知ったのは、本当に偶然だった。

その少女は、大通りのファンシーショップをよく利用していた。可愛い物が好きと言う、女の子らしい一面である。

 

少女が店内を見て回っていると、少しして小学生くらいの女の子が入ってきた。俗に言うゴスロリファッションを見て、一瞬目が点になったことは今でも記憶に残っていた。

話を聞いていると、どうやらその子は姉へのプレゼントを買いたいらしい。だが、目当てのぬいぐるみは小学生が買うには桁が1つ(場合によっては2つ)違う高級品。高校生である少女ですらそう簡単には手が出ない値段だった。

 

自分のお小遣いを全て犠牲にすれば、買えなくもない値段。しかし、見ず知らずの少女の為に、自分の金を手放して助けてあげられるほど、少女には度胸も勇気もなかった。助けてあげたいと思うだけで、何も行動できないまま、商品を選ぶ振りをしながら、泣きそうになっている女の子を見ていることしかできなかった。

 

さらにしばらくして、今度は少女と同じ学校の制服を着た少年が入ってきた。その少年は、バカだバカだと常に校内で噂されている人物で、少女は実際に見たことはなかったが、その少年のことを内心蔑んでいた。

この頃の少女には、まだ人を自分の目で見て判断するという価値観はなく、噂のバカ少年のことを、噂通りの人物でしかないと勝手に決め付けていた。とにかく、そんな人間(しかも男)が女の子向けのファンシーショップに来ること自体信じられないのだが、その少年は泣いている女の子を見つけると、店員に事情を聴きだした。

 

少女には話しかけることすらできなかったのに、少年は何の苦もなく話しかけた、そこに起因するのは、人懐っこい性格なのか、あるいは人みしりの激しい性格なのかの違いなのだが、少女は少年も、話を聞けば自分ではどうにもならないと悟り、自分の用事を済ませ出ていくだろうと思っていた。

だが、少女の予想は外れた。少年は事情を聴き終わると、店員にこう言ったのだ。

 

 

『ぬいぐるみを半分に裂いて右半身だけ売ってください』

 

 

思わず耳を疑った。店員も、女の子ですらも少年を憐れむような目で見ている。女の子の『バカなお兄ちゃん』発言に酷く頷けるから不思議だ。

 

どうやら少年と女の子の二人の所持金を合わせて必要金額の半分くらいだったらしい。そこで半額では売ってもらえないから、人形を半分にして買うとか言う訳の分からない結論に至ったようだ。というか、店側からすればそんなことをするくらいなら半額で買い取ってもらった方がまだましである。そもそも人形の左半身だけを元値の半額で売っても、買い手どころか光景がシュールすぎて客が寄り付かなくなるだろう。

 

さらに少年は何か思いついたようで、何か小声でぶつぶつ言うと、店員にぬいぐるみを取り置きしてもらうように頼み、女の子に明日、近くの公園に来るように約束をし、出て行ってしまった、聞こえてきた『没収品』『盗……奪い返し』『鉄人襲撃』のキーワードは明らかに何か問題を起こしそうである。

女の子も、再度店員に取り置きを頼むと、あとは何もせずに店を出て行った。

 

少年と女の子を影で見ていた少女は手にした一つの髪飾りの会計を済ませるためにレジカウンターに向かう。女の子の様子ではあの少年は女の子の知り合いではないのだろう。自分と条件は全く同じなのに、自分にはできなかったことがあの少年にはできた。

そして、目の前で困っている人を助けることができなかった少女は、せめて二人の手助けになるようにと、

 

 

「あの……」

 

 

自らの勇気を振り絞る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、少年は買い取りギリギリの金額を持ってファンシーショップにやってきた。少年が有り金すべてを出すと、1万円は要らないと、返金があったのだ。

当然、少年は理由を尋ねた。店員によると、二人が店を出て行ったあと、もともと店内にいた別の少女が精算時に1万円札を渡してきて、あのぬいぐるみの代金にあててほしいというのだ。店員は本当にいいのかと尋ねたが、女の子に声をかけてあげられなかったお詫びだそうだった。そして、その少女は少年と同じ学校の、同じ学年だということを少年、吉井明久は初めて知ったのだった。

 

 

 

               ☆

 

 

 

 

「……か……穂乃香」

「……え?あ、何、優希ちゃん」

「何じゃないわよ。次、島田さんよ。あなたが相手するんでしょう?」

「う、うん」

 

半年前の出来事を思い出していた穂乃香は、優希に声をかけられ、やっと意識が試召戦争に戻る。思えば、自分の隣で未だにかつての仲間と戦うことに抵抗を感じている優しくてバカな少年のことを好きになったのは、あの優しさと強さを見たからだろう。

そして、後になって少年がしたことを知った時、少年の間違いを正し、支えてあげられるようになりたいと、その想いはさらに強くなった。

 

明久がSクラスに入るきっかけになったのは、実は穂乃香である。教師陣は当初、鉄人と福原教諭、学年主任の高橋女史を除く全ての教師が、明久に振り分け試験を受けさせず、問答無用でFクラスにするべきだと言っていた。その中で、明久をSクラスに入れ、更生させて見せると言いだしたのは穂乃香である。

勿論、ほぼ全員の教師が反対した。図に乗るだけではないかとまで言われた。だが、穂乃香は決して諦めず、その熱意は、同じSクラスだった他の3人を動かした。風評に流されるままの評価しかない、しかし、内側に優しさと強さを秘めた少年にチャンスを与えてあげてほしいと懇願したのは、本来ならば全く関わり合いのないSクラスの面々なのだ。

 

明久もFクラスも、当然そんなことを知るわけもない。だが、それを知っている穂乃香たちはここで負けるわけにはいかなかった。明久に、どうしてもいい人になってほしいから。その優しさが評価され、褒められる日が来てほしいから。

それだけを願い、もし自分の想いが伝わらなくても、せめて明久だけは報われてほしいと願う穂乃香。

彼女は立ちあがり、一つの決心をすると、戦場に向かって一歩を踏み出す。

 

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