バカとテストと召喚獣 ~たった5人のSクラス~   作:黒炉

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サーバーのメンテナンスかなんか知らないけど入れなかったです
何故?


第12問

明久を初めて知った時のことを思い出し、大切な思い出に惚けていた穂乃香も、気持ちを試召戦争に向け直す。対峙する美波は敵意と憎しみの籠った目で穂乃香を見つめている。

 

「……っ」

 

分かりきっていたことではあったが、敵意を向けられることに――――――いや、それ以前に、人とふれあうことに対して圧倒的に経験不足な穂乃香には堪えるものがあった。

先刻の宣戦布告の時は、明久への想いと美波への怒りでそんなものは気にならなくなっていたが、緊張の糸が切れ、さらに時間が経つにつれて頭も冷えてきたために、穂乃香はこの試召戦争の意義が分からなくなっていた。

仮にこの戦争に勝利したとして、確かにFクラスの打倒Aクラスへの夢は潰え、試召戦争を行うこと自体が不可能にはなる。だが、それで美波が止まるとは思えないのだ。下位クラスが敗北した場合、設備ランクが一つ落とされる。Fクラスの場合、ただでさえ酷い設備が更に酷くなるのだ。ではそうなった場合、美波はどうするのだろうか?確証があるわけではないが、きっと明久に襲いかかるだろう。クラスが違うだけで殺しにかかるのだ。それくらい起きても何も不自然ではない。

 

「(けど……なら、私がここで負ければいいの?どうしたら……)」

 

自分を取り囲む数多の視線。初めて向けられる敵意。明久を守りたいという強い願い。正の感情も、負の感情も、全てがプレッシャーとなって穂乃香に襲いかかる。誰かに嫌われるとは、誰かと敵対するとは、こんなにも苦しいものなのだと、穂乃香は初めて知ったのだ。

 

「ちょっと、何よ……?」

 

美波も穂乃香の異変に気がついたのか、表情に不安がちらつく。例外はあれど、美波の殺意が(主に関節技と言う形で)向くのは明久だけなのだ。

 

想像もしなかったプレッシャーに、穂乃香はもともと自分が何をしたかったのか完全に分からなくなった。なぜFクラスに試召戦争を仕掛けたのか、どうして自分が戦っているのか、重圧感と恐怖に圧迫され、彼女は何かを考える余裕がなくなってしまったのだ。

 

「(私……卑怯だ……竜さんも優希ちゃんも頑張ったのに、私だけ……)」

 

もともと内気だった性格が、Sクラスという閉鎖された空間のせいでさらに内気になってしまったのだ。考えることを拒否し、ただ目の前の壁の恐怖から逃げることしか考えれなくなっている穂乃香。そんな穂乃香に、

 

「穂乃香!!!!」

 

叱咤の声が放たれる。

ざわついていたFクラスも、その声で一気に静まり返る。

声を上げたのは、竜ではなかった。

優希でもない。明久でもない。声を上げたのは、Sクラス代表の静真だった。

 

「何をしているのですか。貴女は吉井君の為に戦うと決めたのでしょう」

「静真君……」

「悩んだのなら、自分が信じる道を選びなさい。もしそれが間違っていたのなら、私たちが全力で貴女を連れ戻します」

「で、でも……」

 

静真に言われても、まだ立ち上がることができない穂乃香。それが恐怖や重圧感から来るものなのか、あるいは別の何かなのか、どっちにしろ、穂乃香が再び立ち上がるのを邪魔している感情であることは確かだった。そして、静真はそんな穂乃香の心にいる邪魔者を振り払うかのように言い続ける。

 

「大丈夫です。貴女は独りではありません。私たちがついています」

「そうね、勝手に独りで戦ってるなんて思われちゃうなんて、さみしい話ね」

「水臭いって、こういうことだろ。お前にゃ俺たちがついてるんだ。自信持って行って来い!」

 

優希と竜も、穂乃香には自分たちがついていると、独りじゃないと励ます。

そして明久も、

 

「……霞さん、僕じゃ頼りないかもしれないけど、七尾君や竜や小井草さんだけじゃない。僕もいるから。霞さんが僕の力になりたいって思ってくれてるように、僕も霞さんの力になりたいんだ。今はこれくらいしかできないけど………っ、頑張れ、穂乃香!」

 

明久の言葉は、穂乃香の胸にしっかりと届いた。想い人が、自分の力になりたいと言ってくれた。それだけで、穂乃香には十分だった。

 

「……吉井、ボッキリ話しなきゃダメみたいね」

「そんなことさせません。吉井君には、手を出させません」

 

美波は試召戦争をも忘れて明久にお仕置きをしようとするが、当然穂乃香によって止められる。

 

「島田、今は試召戦争中だ!直接攻撃は戦死扱いだぞ!」

「……なんで、アンタはウチの邪魔をするのよ」

 

鉄人も鉄人で、暴力行為そのものを注意しないのだが、そこをツッコんでたらキリがないので割愛。穂乃香に邪魔された美波は今にも穂乃香に襲いかかるような勢いになっている。

 

「それは……私が、吉井明久君のことを好きだからです」

 

言った。

本来なら二人っきりとか屋上とかそういうシチュエーション的なものが大事な一世一代の告白を、穂乃香は試召戦争中のこの場で言った。

 

「な、な、何ですってぇ……!!」

「だから、島田さん。ここで約束してください。私が勝ったら、もう吉井君に暴力を振るわないって」

 

穂乃香が決めたのは、『明久に幸せになってもらう』こと。

明久が幸せと感じるなら、たとえ相手が自分でなくても……美波でもいい。明久が本当に幸せと感じるのなら。

それは穂乃香からすればとてもさみしくて、悲しくて、辛いことなのだ。だが、穂乃香は自分が辛くても明久が幸せならそれでいいと、自分を完全に捨てた考え方。

 

「そ、そんなの、あれは吉井が悪いのよ。アンタだって、吉井が好きならウチが近くにいたら困るんじゃないの」

「いいんです。吉井君が望めば、それが私の望みです。私自身はどうなってもいいですから」

 

見方を変えれば、穂乃香の言ってることはただ自分の考えを放棄しているだけかもしれない。だが、そこまでに、自分はどうなってもいいと思えてしまうほどに、穂乃香は明久のことを心から愛してしまっているのだ。

穂乃香の台詞を聞いて、美波は自分と穂乃香に大きな差があることをようやく自覚した。

方や想い人の為なら何でもできると言い切る少女。方や照れ隠しで想い人を殺そうとする少女。もう差が歴然とかそう言う次元じゃなかったりする。

 

「さあ、教科を選択してください」

「……!! ようは、ウチが勝てばいいんでしょ!数学で勝負よ!試獣召喚(サモン)!」

試獣召喚(サモン)!」

 

美波は勝つことのみが最後に残された道だと思い、穂乃香との勝負に総てをかける。

 

 

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