Sクラス校舎の三階は生徒の寮になっている。ワンフロアを5人で使っているだけあって、一室がバカでかい。明久も寮での生活はしてないが、ベッドやトイレなどの生活に最低限必要なものは揃っている部屋が一室用意されている。
5つある部屋のうちの一つ、穂乃香が(ときどき)使用している部屋の中で、穂乃香は枕に顔をうずめていた。
「(うぅ……あんなに大勢の前で言っちゃった……)」
何かに集中していると恥ずかしさも恐怖も全く感じない穂乃香だが、冷静になって明久と目があった瞬間自分の行動を思い出し、とたんに恥ずかしさがこみ上げて来てしまった。まともに明久の顔を見ることさえできなかったのだ。
きっと明久はいきなり告白してきて戦いが終わったら顔を見るなり逃げ出してしまった自分に呆れている。嫌われているかもしれない。何かに集中してればなんてことはないのに、どうしていつもいつも肝心な時にダメなんだろう。と、穂乃香は自己嫌悪する。
「(せっかく勝ったのに、何でこうなっちゃうのかな……。もう一回告白できたら……)」
穂乃香はもう一度改めて、二人っきりで明久に自分の想いを伝えられたらと願うが、今の穂乃香にもうそんな勇気はなく、そのことを穂乃香自身も理解しているため、さらに枕に顔を深くうずめる。
その時、
『霞……さん?』
ドアの向こうから明久の声が聞こえ、穂乃香は突然の来訪者に身体を震わせる。
「よ、吉井君……?」
『霞さん、中にいるなら、開けてほしいんだ』
明久は穂乃香にとって好意を寄せる異性である。Sクラスメンバー以外とは同性でも中々会話ができないような穂乃香が、異性の、それも好意を寄せている人間に部屋に入れてほしいなんて言われて耐えられる訳もなく、
「ほ、ほにゃぁ……」
ゆでダコ以上に顔を(もう赤過ぎて本当に熱があるんじゃないかと疑いたくなるくらいに)赤くして倒れこんでしまう。が、何とか気合で意識を取り戻すと、明久を出迎えるために玄関に向かう。
「吉井君……」
「え、えっと、その、さっきの……」
穂乃香の予想通り、やはり明久の用事はさっきの穂乃香の告白の一件で、穂乃香もそれは何となく理解していたため、さして驚かない。
「こんなところで話すのもなんだし、入って。吉井君」
「う、うん」
穂乃香は誰にも聞かれたくない話だったため、明久を(かなり恥ずかしかったが)部屋の中に招き入れる。ちなみにこの部屋、防音効果はカラオケボックス以上。
「あのね、吉井君」
「う、うん」
穂乃香は覚悟を決め、たとえどんな返事が来ようとも、自分の想いを偽ることなくまっすぐに明久にぶつける。
「私は……さっきも、言ったけど…………吉井君のことが、好きです!」
明久は目の前にいるのだから、大きな声を出さずともいいのだが、はっきりと、大きすぎる声で穂乃香は自分の想いを嘘偽りなく明久に伝えた。
そして、穂乃香の一世一代の告白に対する明久の答えは……
「……僕も、好きだよ。穂乃香のことが」
「え……?」
言い終えた後、目を閉じてうつむいていた穂乃香は明久の答えを聞いてゆっくりと顔を上げる。その顔には、驚愕の表情が浮かんでいた。
「嬉しかったんだ。僕の為に、あんなに一生懸命になってくれる人、今までいなかったし。穂乃香が僕の為に、先生たちに一生懸命抗議してくれたことも、全部嬉しかったよ」
「え……?なんで、そのこと……」
「鉄人が教えてくれたんだ。『霞に感謝するんだな』って言ってたよ」
「西村先生……」
穂乃香としては、明久にだけは決して知られたくなかったのだが、想いを伝え、明久からも嬉しい答えが返ってきた今となってはどうでもいいことになった。
穂乃香は明久の胸に身体を預け、明久は両手で穂乃香の体を強く優しく抱き締める。お互いの体温を感じ取り、至上の幸福をかみしめる。
二人でベッドに倒れこみ、お互いの顔を見つめあう。ずっと、見つめていると、お互いに顔を赤くして微笑みあう。
「なんだか……こうしてると、恋人みたいだね」
「何言ってるのさ。僕たち、もう恋人だよ。お互いがお互いのこと、好きなんだからさ」
「…そうだね。明久君」
またお互いの目を見つめあうと、穂乃香はも明久も目を閉じ、顔を近づけていく。相手の心臓の鼓動さえ聞こえるほどの距離、バカで不器用だが誰よりも優しい少年と、内気で奥手だが大切な人の為に誰よりも必死に慣れる少女の唇が、交わった。