『そもそもお前が穂乃香を引き取りたいなんて言うからこんなことになるんだろうが』
『私の責任だって言うの?あなただって乗り気だったのに?』
やめて……
『お前が言いださなければオレだってそんな気にはならなかったさ』
『私だって、子供がいれば』
やめてよ……
『……そうだ。お前がいるから悪い』
『そうよ。お前がいるからこうなるのよ』
やめて……!!
『『お前が悪い』』
やめてぇ!!私は……私は……!!
☆
穂乃香が目覚めたとき、窓の外は既に暗闇に包まれていた。明久のベッドで寝ていた穂乃香は、飛び起きてからしばらく自分の状況が理解できなかった。ただ理解できるのは、自分が倒れていたことと、安心したのか、隣でほっとしている明久がいることだけ。
「……明久君、私」
「何も言わなくていいよ。穂乃香のお父さんが、迎えに来てくれてるよ」
『お父さん』という単語が出た直後、穂乃香の顔が曇る。が、明久には穂乃香の表情が曇る理由が分からない。もっといえば、穂乃香がいきなり倒れた理由も分からないのだ。熱があるわけでもない。本来ならば聞いておくべきなのだが、何故か明久には聞くことができなかった。
「穂乃香、身体が大丈夫なら、お父さんと帰った方が」
「嫌。帰りたくない」
普段は自分の意思をあまり見せない穂乃香が、かたくなに帰宅を、というか、父と会うことを拒む。その理由が、明久にはどうしても理解できないのだが、明久もこの1ヶ月で賢くなったのだ。ここまでかたくなに拒むのには、それなりの理由があるのだろうと察する。
「分かったよ。もうちょっといてもいいかどうか、聞いてくるね」
「……ごめんね、わがまま言って」
穂乃香が申し訳なさそうにうなだれる。明久を守ると大見得を切った割に、結局は明久を頼る形になってしまった。それが穂乃香にとっては重荷なのだ。だが、明久はそうは感じていない。
「いいんだよ。やっと、頼ってくれたしね」
「え?」
「穂乃香ってさ、いつも自分で何とかしようとするし、なんか情けないなって思ってたんだ。だから、穂乃香がわがまま言ってくれて、少し嬉しかったんだ」
穂乃香は一瞬、明久の言葉にきょとんとする。明久は、普段から穂乃香が何でも自分でやろうとしてしまうのが少しさみしかったのだ。少しくらい頼ってくれればいいのにと思っていたのだが、穂乃香の自分に対する想いを知っているが故に、あえて何も言わなかったのだ。
「それじゃあ、ちょっと話してみるね」
「うん……お願い」
穂乃香に一言言うと、明久は部屋から出ていく。
穂乃香はそれを見送ると、もう一度ベッドに倒れ、ドアの向こう側の音が聞こえてこないように布団をかぶり、耳をふさぐ。
「私は……お父さん達とは関係ない人間になるんだから……」
誰に言うわけでもなく、悲痛そうに穂乃香が呟いた。