「お帰りなさい、アキ君、」
「た、ただいま……」
とりあえず、今日のところは穂乃香は吉井家に泊るということで(勝手に明久と穂乃香の二人だけで)決定し、吉井家まで戻ってきた穂乃香と明久。
すると、何故か玲が天使の笑顔でお出迎え。不純異性交遊禁止の玲がここまで何もしてこないというのは、明久にとっては不安の種以外の何物でもなく、穂乃香が風呂に入っている間に何かあるのかと警戒していたのだが、
「アキ君、穂乃香さんを泊めるからと言って、姉さんは何もしませんよ」
「……本当に?」
「はい。信用できませんか?」
「うん」
「………」
「ガフッ、ゴフッ、グハッ」
何かしてるぢゃん。というツッコミはさておき、本題はどうして玲がそんな気になったかである。ちなみにさっきのやりとりで追った怪我は全治。さすがギャグ補正。
「穂乃香さんのお父さんと少し話をしましたが……しばらくの穂乃香さんは家でお預かりすることになりました」
「え……?どうして……?」
「いろいろあるんです」
本当のところ、玲は殆ど全ての事情を知っている。穂乃香が引き取られた子だということも、穂乃香という人間像が、穂乃香の両親の望んだものと正反対であったことも、それが原因で穂乃香に精神的な負荷がかかっていたことも。
だが、まだ明久の知らない事実が一つある。それは、穂乃香の母親の立ち位置。父親が穂乃香のことを正直どうでもいいと思っているのは穂乃香が思っている通りなのだが、ここまで穂乃香の話題が全く出ていないのだ。
玲もバカではない。自分が引き取った子である穂乃香に興味を示さない父親には嫌悪感を抱いたが、それがイコール穂乃香の母親というわけではない。
穂乃香は母親も父親と同じだと思っているようだが、玲には実際のところどうなのかの判断のしようがない。なにせ父親とはほとんど口を利かなかったのだから。
いくら物事が判断できるとはいえ、まだ高校生の女の子。大人の男性に何かされれば抵抗できる可能性は限りなく低い。玲が穂乃香を預かったのには、そう言う理由も含まれていた。
「とにかく、アキ君も年頃の男の子ですし、穂乃香さんはアキ君の彼女ですし、ムラムラする気持ちも分かりますが」
「待って!?何でいきなり話がそっちに傾くの!?」
「アキ君、人の話は最後まで聞くものです」
と、だんだんといつものペースに戻っていく。これも明久に気負いさせないための一種のフォローの様なものだと分かっているから、明久も玲のことが好きなのだ。
「まあ……いいや。とりあえず、歯磨いてくるね」
「はい」
わかってはいるものの、やはり慣れるものではなく、時間も時間なので歯を磨く為に席を立つ明久。特に何も考えずにそれを見送ってしまった玲だったが、後で後悔する羽目になる。
洗面所まで行き、特に何も考えないでドアを開けた明久。ラノベの主人公はいつの時代もある程度の不幸とラッキースケベに取り囲まれているものであり、
「………」
「………」
それは明久も例外ではない。
何気なく開けた洗面所のドアの先には、風呂から上がったばかりなのか、バスタオルを撒いただけの穂乃香がいた。
明久の目線は穂乃香の妖艶な太股から(玲と比べて)貧相なその胸へと移っていく。
「き……」
「き?」
自分の状況を理解できるまで1秒、そのあとの結果を理解するまで3秒。この3秒が明久の運命を決めることになる。
ラノベの主人公がこの手のラッキースケベに遭遇して、たどる末路は大抵は決まっているものだ。
「きゃああああああああああああああ!!」
「フゴ!」
本日10発目の顔面パンチ。薄れゆく意識の中で明久は思った。これはこれで、儲けもんだなと。