「………」
「………」
真っ暗な窓の外、本来なら薄れゆく筈の意識はフルパワー全開で眠りに落ちる気配もない。
ただ、二人が疑問に思うことはただ一つ。
「「(………どうしてこうなった!?)」」
☆
事の始まり……というか、きっかけは玲にあった。
穂乃香の風呂上がりを目撃するというラッキースケベに遭遇した明久は、穂乃香の渾身のパンチを食らった後、玲に説教……ではなく、恐ろしいほど清々しい笑みでじっと見つめられていた。
「あの、姉さん、素直に怒ってくれた方が怖くないんですけど……」
「アキ君、姉さんはいいことを思いつきました」
明久の台詞を華麗にスルーし、そのまるで貼り付けたような清々しい笑顔をそのまま穂乃香に向ける。
「え……?わ、私が何か?」
「穂乃香さん。残念ながら、私の部屋は二人が寝られるほど広くはないのです。他の部屋も御客人を招き入れられるほど片付けてもありません」
そんなことないやい。と、明久は心の中でツッコむが、口には出さない。口に出せば、悪魔超人より恐ろしいA☆KI☆RAが飛んでくることだろう。
「あ、あの、何が言いたいんですか……?」
「穂乃香さんさえよければ、アキ君の部屋に寝泊まりしませんか?」
不純異性交遊全面禁止の玲の口から発せられたその言葉は、明久と穂乃香の思考を一瞬真っ白にする。
「「………」」
そして、真っ白になった思考が徐々に復活した時、
「「ええええええええええええええ!?」」
明久と穂乃香の近所迷惑なシャウトが炸裂する。
☆
「姉さん……そういうことか」
「どうしたの?」
「ううん、何でもないよ」
冷静になって、ついさっきまでの出来事を考えてみる。玲は原則的に明久と玲と母親以外のすべての女性との接触を断とうとしている。
もしそれに例外があるとすれば、それは明久にとって、あるいはその女性にとって必要だと思われる場合のみ。穂乃香は――――今は普通に振る舞っているが――――おそらくその心は既に限界に近かったのだろう。少なくとも、玲にはそう見えた。だから、明久の傍にいられるように配慮した。
「(まったく、姉さんは……)」
玲は優しい。それは明久が一番よく分かってることだ。普段の奇行や暴力を相殺しても、まだ余るほどに優しい。だからこそ、明久は玲のことが好きなのだ。
「明久君……」
「な、何かな?」
ふと、自分の胸の中で自分の名前を呟く恋人をみる。名前を呼ばれた――――わけではなく、穂乃香は既に眠りへと意識を落とし、すうすうと寝息をたてていた。
「……今まで、いっぱい背負い込んでたのかな」
穂乃香の年齢にしては小さな身体を明久はその両手で抱き締める。穂乃香は明久の腕にすっぽりと収まってしまうほどに小柄だった。
こんな小さい身体で、長い間色々なプレッシャーに耐え続けてきたのかと思うと、明久は穏やかな寝息をたてている穂乃香をより一層強く抱きしめた。