SクラスのFクラスへの宣戦布告が決まり、その使者は穂乃香が務めることになった。
最初は竜が(暑苦しいほどに)立候補していたのだが、穂乃香がその瞳に決意と闘志を浮かべて竜を静止した。
普段から内気で登下校時以外はめったにSクラスの校舎から出ることもない穂乃香の普段は見えないところに竜も気負いしてしまった。
そしてFクラス教室前、穂乃香は建てつけの悪いドアを開け、
「Fクラス代表に話があります」
静かだが、それでいて気迫のこもった声で言った。
「お、俺がFクラス代表の坂本雄二だが……お前は、昨日明久と一緒にいた……?」
「あなたが代表ですか?私はSクラスの霞穂乃香です。私たちSクラスは、貴方達Fクラスに宣戦布告します!」
『『『『『……………ハァ!?』』』』』
ただでさえ縁のないSクラスが、よりによって学年最低クラスのFクラスに宣戦布告してきたのだ。全員が驚愕の声をあげてしまうのも無理はない。
「時間は今日の5時限目。場所はSクラス教室階。形式は5対5の一騎打ちです」
「お、おう……5対5?」
てきぱきと試召戦争の内容を決めていく穂乃香についていけない雄二は、とりあえず返事をしてから話の内容に疑問を感じるが、
「そんなの卑怯じゃない!5対5で、ウチらが勝てるわけないじゃない!」
雄二が反論する前に美波が穂乃香に喰ってかかる。
元から美波は明久と一緒にいた穂乃香が気に入らず、あり得ないほどに口調を強めている。
「卑怯?私たちSクラスは人数が5人しかいません。人数的不平を無くすための措置です。あなたはサッカーの試合で相手が強いから9人で試合をしろというんですか?自分たちの学力がないのが悪いんです。それを私たちのせいにするのはやめてください」
「何ですって!!」
美波は穂乃香にボロクソに言われて穂乃香の胸倉をつかもうとするが、雄二によって止められる。
「何するのよ坂本!!」
「落ち着け島田。コイツの言うことももっともだ。開戦は5時限目だったな」
「はい。それと、勘違いしないでほしいのは、これは私たちSクラスによる制裁であるということです」
『制裁?』
『電波系少女カワユス』
『むしろ苛めてほしいです!』
『僕をさばいて!』
Fクラスの
「あなた方は吉井君を囮に使っただけでなく、Dクラスの代表である平賀君とEクラスの三上さんの関係をばらし、二人の仲を壊す行為をしたそうですね。私たちの仲間に手を出し、他人の邪魔をする行為。そのほか、褒められるべきではない行為が多数あることも知っています。学園側は体裁を気にして処分は免除の方向にしているようですが、私たちはFクラスの試召戦争の権利をはく奪する方向に決定しました」
穂乃香はFクラスの行為が決して褒められたものではないことを告げ、反省させるための試召戦争だという。
『冗談じゃない!』
『何で俺たちが!?悪いのは須川だ!』
『俺!?』
『試召戦争は全員の平等な権利だろう!』
「他人に迷惑をかけるあなたたちが、権利を主張して、それで周りが保護されると思ってるんですか?少しは現実を見たらどうですか?」
「……!!アンタねぇ、偉そうにしないでよ!!」
「待て、島田!」
穂乃香の数多の台詞についに耐えきれなくなったのか、美波は雄二の制止を振り切る。
そしてそのまま……
パァン!!
穂乃香の頬を叩いてしまった。
「……個人的な問題ですが、私はあなたのことを許しません。吉井君にしたこと、謝って貰いますから」
「何よ!あれは吉井が!!」
「吉井君のSクラスでの学習態度は素晴らしいものです。学力も少しずつ取り戻しています。元から頭の回転は悪くなかったようですね」
「……明久が?信じられん」
「信じなくても結構です。では、私はこれで」
穂乃香は話を切り上げるとさっさとFクラスを出ていこうとする。その途中で、奥の方で自分をまっすぐ睨めつけてくるピンクブロンドの髪の少女がいることに気がついたが、
「(姫路瑞希さん……?きっと、振り分け試験中に何かあったんだ)」
考えられる中で最もあり得そうな選択肢を思い浮かべると、自己完結させ、教室を出ていく。その少し歩いたところに、明久がいた。
「吉井君……?」
「か、霞さん、大丈夫?その頬」
「え……?う、うん。大丈夫、だよ」
強がりはするものの、美波に叩かれる瞬間、怖かったのは事実。荒事の経験がミリ単位で無い穂乃香にとっては、この上ない恐怖だったのだ。
明久の為と、勇気を振り絞っていたから、その時は何ともなかったが、今になって緊張の糸がほどけてしまい、恐怖による涙が遅れて流れてくる。
「か、霞さん!?大丈夫!?」
「う、うん、怖かった、から……」
泣きながら、明久に抱きついてしまう穂乃香。
相手に喧嘩を売りに行くという、想定外なほどの大きな恐怖に、羞恥心を感じる暇もないほどに彼女はおびえてしまっていたのだ。
そんな穂乃香を見て、明久も抱きつかれたまま……いや、自らの胸の中で泣いている少女を、明久はその腕で抱き締めた。
自分は、いつの間にかこの少女に惹かれている。自分の為に本気で怒ってくれる、この優しい少女に。
そう自覚していた。