VOCALOID×包丁さんのうわさ ~路頭の花と歌姫達~   作:kasyopa

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不思議なお話。そして始まりのお話。


第01話 事の発端

 

Side 遥 優希

 

 

もう年末の朝。

 

「マスターマスター! 学校遅れるよ!」

「むぅ……今何時?」

「6時半! 早く起きて~!」

 

なるほど、ならもうちょっと寝てられるかな。

一人の少年が俺の体を揺らしながら必死に起こそうと努力しているが、俺は起きない。

もう少し寝たいのですよ。布団の中って温かいしね。

 

「レンそんなんじゃ駄目! マスターはこうやって起こさないと」

 

そんな事を言った少女は次の瞬間。

 

「ダイビングプレスーー!!」

「ぐはぁっ!?」

 

走る衝撃、痛感する重み。加速を付けた43kgの体が俺の腹部に直撃した。

 

「下手すれば死にます。本当にありがとうございました」

「そんな事言ってないで早く起きて」

 

二人に手を引かれて寝床から起き出し、俺は朝食にありつく。

着替えは朝食で服が汚れる可能性がある為後回し。

二人の少女と少年は隣同士に座り、俺はその間に向かい合う形で席に着いた。

 

少女の名前は鏡音リン。少年の名前は鏡音レン。クリプトン社製で実質4番目に発売された。

二人は双子やら姉弟やらネットでは囁かれているが、正確には【鏡に映ったような存在】なのだ。

すなわちもう一人の自分のような存在であり、それ故の仲が二次創作物では色々な形で描かれる。

 

「「「いただきます」」」

 

今日の料理当番はレン。ベーコンエッグにグリーンサラダ、紅茶にパン。

簡単な物しかないが、朝食らしくて俺は構わないと思っている。

この二人に料理を教えてはいても、まだ晩ご飯並みの物は作れるほどまでは教えていない。

二人の方は俺に早く楽をしてもらえるよう、率先して手伝いに励んで学ぼうとしている。

どんな親孝行だと言いそうになるが、それが二人の思いやりなのだから俺もそれに答えなくては。

 

「どうですかねマスター?」

「ん、上手く出来てるよ。俺よりも味にうるさいリンに聞いたらどうだ?」

「私も問題ないと思うよー? もうすぐしたらアレンジ加えていいかなぁ」

「マスター、アレンジは人前に出せる物が作れるようになってからって言ってたしね」

 

理由は言わずもがな、不味い物を更に不味くしかねないからである。

よく人がやりたがる事だが、その料理を食べる者の事も考えてもらいたい物だ。

昔は……嫌と言うほど経験した。その俺の想いを分かつ者など要らない。正直俺だけで十分だ。

いや、確かリンがヘマした料理をレンに食べさせて悶絶していたな。

その後何とか水を飲ませて、口直しのバナナを食べさせる事で返らせる事に成功した。

 

「あの時は死ぬかと思った」

「あはは、ごめんねレン」

 

二人はその話題で盛り上がっていたようで。

 

「ごちそうさま」

 

俺はさっさと制服に着替えて鞄を持ち、家を後にする。

 

「いってきます」

「「いってらっしゃ~い!」」

 

二人の見送りを笑顔で返して通学路に着いた。

俺の親は忙しい人で家に返ってくる事もほとんどない。

だから声も顔もあまり覚えていない。祖父と祖母に育てられたがもうその二人もこの世を去った。

一人少し寂しい思いをしていたが、ある日起きた事態で急変する。

 

日本中のVOCALOIDの実体化。突然すぎる振りだが、これは世界中も驚いた事。

当時はマスコミや2thやニコ動が騒いでいて、全VOCALOIDの生産及び販売が中止された。

回収にも立ちあがったが、マスターだけでなくオタや厨達の力で政府が人権を発動するまでに至った。

別名「現代版・嘉吉の土一揆」とか言われている。嘉吉は年号だが。

これもマスコミを賑わせた。

 

それから一年が経ったが未だに原因は解明されていない。正直動物の突然変異より難しいと思う。

 

「おはよう遥」

「おはよう夏奈子。名字で呼ぶな」

「まぁまぁ。それよりさ、二人はどう?」

「相変わらずの仲のいい姉弟だな。そっちは?」

「こっちも相変わらず。ま、そこがいいんだけど」

 

完全無欠というか、完璧超人というか。そんな感じかなー。

そう付け加える彼女。彼女が持っているVOCALOIDは巡音ルカ。

クリプトン社製、実質5番目に発売された。クリプトン社製だけで見ればだが。

今までは和製英語しかなかったのだが、彼女は普通の英語で歌ったり喋ったりできる。

 

「作曲はしてる?」

「いんや全くしてない」

「だよねー。でも家族みたい居てくれるのは凄くうれしいよね」

 

大いに頷ける事を言った夏奈子。確かに一人暮らしの俺達にとっては彼女らの存在はありがたい。

夏奈子も一人暮らしだ。

家が貧乏で高校入学と同時に独り立ちしたのだが、この場所を離れたくないという理由で近くのマンションに引っ越した。

学生でマンションかよと聞いてみたが、彼女は節約すれば大丈夫! と言っていた。

現に一年間普通に生活している。将来専業主婦にでもなれば結構有名になると思う。

 

「それにしてももうすぐクリスマスだね~」

「もうクリスマスか……リンとレンのプレゼント考えてやらないとな」

 

それも、誕生日プレゼントとはまた別に。

永遠の中学生だからずっと買ってやらないといけない。特にリンが渋りそうだ。

 

「全国のリンレンマスターは大変そうだ」

「その内の一人が優希なんだよね。幼馴染の私も大変だ」

 

何故大変なのか突っ込みを入れたかったが、そんな事を話しているうちに学校に着いた。

 

 

////////////////////////////////////////

 

 

気だるい授業も、教え方のいい先生によって完全にブレイカーされる。

そんなもんです。少なくとも俺はそう思っている。

 

で、昼休みなのだが。

 

「お弁当忘れた~!!」

 

机に突っ伏し嘘泣きを演出しながら、隣のクラスにまで聞こえそうな声量で叫ぶ夏奈子。

 

「うぅ、ひもじいよぉ、ひもじいよぉ……」

「俺の弁当やるから落ちつけ。というか落ち着かないと逆にやらん」

「えぇ?! くれるの!?」

「解ったから落ちつけ」

 

ガバッ、と音を立てながら俺の顔を見る彼女を落ち着けさせて、飛びつくのを阻止する。

テンションが上がると何するか解らんからな。その上、幼馴染スキルを使って周りの反応を全て受け流すし。

 

「それにあのルカの事だから、届けてくれてるかもしれないじゃないか」

「おお! その手があった!」

 

そう言うと夏奈子は職員室まで駆けていった。

 

この学校からマンションまではあまり遠くないし、彼女のルカは車を運転できる。

もし届いてなくても電話すれば、すぐにでも届けてくれるだろう。

 

結論。女が抱く食べ物の執念は凄い。

 

暫くして上機嫌で戻ってきた夏奈子。その手には風呂敷で包まれた弁当箱が。

 

「いや~、持つべきものは家族だね。これに尽きるよ」

「良かったな。流石はルカと言うべきか」

 

彼女が先生に聞いた話によれば、一時間目が始まる前に届けられていたらしい。

授業まで時間が無かった為ここまでは来なかったそうで。

 

こうして俺も彼女も、何一つ気にすることなく昼食を食すのであった。

 

 

Side 鏡音リン

 

 

そんな頃、私とレンは昼食を終えて冷蔵庫に何も無い事に気付き、買い出しに行くのだった。

ここはどっちかといえば田舎だからVENが流通していないとも思われがち、だけど。

お財布ケータイ感覚で使えるカードと、読み取り機が開発されVOCALOIDでも簡単にお店での買い物が楽しめるようになった。

開発元はやっぱりVAWC。私達でも出来るお仕事もあったりする。

売り子とか、道路補正とか、レジとか、清掃活動とか、ボランティアとか。

 

「レン、カード持った?」

「持ったよ。家の鍵も一緒に」

「書き置きはしておいたし、リストも持ったし、行こっか」

「うん、そうだね」

 

コートを着て、マフラーをして防寒対策はばっちり。

家を出て鍵を閉めて、近くのスーパーまで歩く。

 

田舎だからって不便な事はない。あると言ったらVOCALOIDが少ない事かな。

ミクお姉ちゃんとかめーちゃんとか、他の私達とか居たらいいのに。

 

そんな事を思いながら歩いていると。

 

「あら、もしかして遥さんのリンとレン?」

「「えっ、あ!」」

 

マフラーと明るい赤のコートを着たルカさんが車で通り掛かった。

ナンバーからしてもしかして。

 

「水生さんの所のルカさんですか?!」

「ええ。二人ともどこに行くの?」

「ちょっとそこまで買い物に」

「偶然ね、私もなのよ。デパートまでだけど、よかったら一緒に行かない?」

「「はい!」」

 

こうして三人で少し遠出する事になった。

 

 

///////////////////////////////

 

 

ここら辺では一番大きいデパートに着く。因みに二階建て。

ここにはルカさんに連れて行ってもらうだけで、マスターが連れて行ってくれた事はない。

 

「ルカさんありがとう」「ルカさんありがとうございます」

「こちらこそ。実は誘ってでも行こうかと思ってた所だったから」

 

ルカさんは良い人。そう言えば最初に知り合って唯一のVOCALOIDだ。

 

「もっといろんなVOCALOIDに会いたいなぁ」

「そればっかりはどうともいかないよ」

「そうよ。今は兎に角買い物しましょう」

 

私は少しがっかりしながら二人の後を追うのだった。

 

 

Side 鏡音レン

 

 

ルカさんに連れてきてくれたデパート。

ここにはとにかく色んな物がある。

一階の食料品はいろんな種類があり、普段見ない物まで置いてある。

二階の雑貨や服もかなり揃えが良い。大抵の日常品は此処で揃うほど。

 

あ、そうだ。詰め替え用のシャンプーとリンスも買っとこう。

リストに書き込んでいるとルカさんがそれを覗きこんできた。

 

「レンはそう言う所しっかりしてるわね」

「はい。忘れると大変だし、此処に来れる事もあんまりないんで、予備のも一応」

「レンはしっかりし過ぎなんだって」

 

リンが頬を膨らませて不機嫌さをアピール。その顔がおもしろくて二人で笑う。

カートに籠を乗せて僕が押し、リンがテキパキと必要な物を入れていった。

ルカさんは一人で全部やってるからゆっくりだけど、野菜などの鮮度をしっかりとして見ている。

リンはそこら辺気にしているんだろうか?

 

「葉っぱの野菜はみずみずしくて切り口が綺麗な物が新鮮なの」

「へぇ~、そうなんですか」

「マスターから教えてもらった事だけれど、参考に選んだほうがいいと思うわ」

「は~い」

 

それからルカさんには、魚の鮮度の見分け方等を教えてもらいながら一緒に買い物をした。

そのこと全部ルカさんのマスター、夏奈子さんから教えてもらった事だそうで。

僕もリンも、夏奈子さんって結構物知りなんだ、と驚いていた。

 

 

Side 遥 優希

 

 

家に帰ると鍵が閉めてあったので、二人とも外出しているのだろうと思いながら鍵を開ける。

 

「ただいまー」

 

リビングの机に置かれていた置手紙。字からしてリンの字だ。

 

< 買い出しに行ってきます。 >

 

何時頃から出ていったのかは解らないが、今時計は4時ごろを差している。

もうそろそろ帰ってくるだろうと思っていると、見なれた車が家の前で停車した。

確かあれは夏奈子のルカの車だ。ナンバーからしてそうである。

車から二人が出てきて彼女にお辞儀をすると、すぐに行ってしまった。

 

ガチャリ。ガタガタ。

 

「あれ?!」

「鍵閉まっちゃった!?」

 

戸惑った声が外から漏れて俺の耳に届いた。

誰しもが起こす間違い。鍵を掛けたと思って鍵を開けると、実は開いていて閉めてしまう。

焦りながら二人が再び鍵を開けて入り、リビングの戸を開けると元気な声が家の中に響いた。

 

「「ただいまー!」」

「おかえり二人とも」

「「マスターもお帰り!」」

「ただいま」

 

二人の持っている袋の絵を見て、なるほどと頷く。あのデパートに行っていたのか。

 

「マスター、ルカさんにケーキ奢ってもらったんだ!」

「そうか、よかったな」

「自分で払いますって言ったんだけど、いいわって言われて……」

「まぁまぁ、そんな気に病むな。相手が言ってる事だしな」

 

あのルカだ。年下の面倒見がいいのも夏奈子に似たんだろう。

また今度お礼でも考えないといけないな。夏奈子ではなくルカに。

 

「結構買って来たんだな」

「予備のトイレットペーパーとかも買ってきたからね」

「食料品もいっぱい買って来たよ」

「VENの残高だけには気を付けろよ?」

「「は~い」」

 

この二人はかなり貯めてから使う性格だから、そこまで余裕が無くなったら使うのも止める。

そして再び貯め始める。二人一緒に同じ仕事をする事もあれば、別々の時も。

レン専用の仕事もあるが、それは本人が嫌がっているのでやらない。やらせもしない。

 

恐ろしいのは若干裏の仕事も入っている事だ。主にネタとして扱われている方面の物。

真の意味で、仕事を選べない○○である。時給は高いんだがな。

 

 

/////////////////////////////////

 

 

晩ご飯を終え、入浴も済ませ、寝床に就く。

二人はしっかりしてるから、最初から最後まで見てやらなくても出来る。

 

明日は早くもクリスマスイブだ。さて、夏奈子でも誘ってみるか。

お金はまだ余裕があるし、父さんと母さんからの仕送りももうすぐ来る頃だろう。

そんな事を考えながら俺の意識は夢の世界に落ちていった。

 

 

Outside

 

 

優希が眠りに就いた後、リンとレンの二人はある意味壮絶な戦いを繰り広げていた。

 

「持ち弾は2、防御も可! それじゃあ……」

「スタート!」

 

バスッ! ボスッ!

 

「まだまだぁ!」

「無駄無駄無駄ぁ!」

 

何がどうなればこんな台詞が飛び交うのか全くの謎だが、楽しければそれでいい。

14歳の二人はやはりまだまだ無垢な子供であり、暫く枕投げを繰り広げていた。

この後二人は疲れ果てて寝るのだが、その勝敗はその二人でさえも知らないのだった。

 




本当の日常を普通に書くのは難しい。何かイベント的な要素が欲しいです。
とか言いながらクリスマス回が来ます。ごめんなさい。
この作品、最初の方でミクさんを出す気はありません。いずれ必ず出しますよ。
理由もミクを出した後に公開しますので首を長くして待っててください。

書いた時期が時期なので、クリスマスな話が続きます。
ご了承ください。

こんな感じですか宜しくお願いします。
読んでくれる人在ってこその、【小説】ですからね。

話のリクエストとかあったらどしどし下さい。こんな話が読みたい! だけでも構いません。
感想に書いてください。俺の精神がブレイカーされる事を恐れながら見に行きます。
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