VOCALOID×包丁さんのうわさ ~路頭の花と歌姫達~ 作:kasyopa
解らないという人は解らないままで大丈夫です。解る人は誰が出るかわかると思います。
やっぱり包丁さんのうわさ要素が入ります。こんなに交互にやる必要事ない予定だけどね。うん。
絶対もっていかないといけないのは、優希と夏奈子のその後の接触です。
主に夏奈子の理由で接触しないといけない。
Side 水生夏奈子
すっかり話し込んで遅くなってしまい、もう夕方。
優希達と別れて私はとりあえず近くのルカに、デパートである物を買ってくるようにお願いして私は家に戻った。
「ただいまー」
「おかえりなさいです」
とてとてと葵ちゃんが出迎えてくれる。
今までの私だったら、ルカに何か頼むとき自分も一緒に出向くだろう。
一人は寂しいし、静かなのはそれをさらに寂しくさせる。
でも今は葵ちゃんがいるから寂しくない。
そんなことを思ってたら彼女がこけてミサイルのように包丁が飛んできた。
「うわあああ!」
間一髪しゃがんでかわすと、玄関を突き抜けて空の向こうに飛んでく。
「「………」」
2人で呆然とその方向を見ていても仕方ないので、私はとりあえずリビングに入った。
「一人で寂しくなかった?」
「少しの間なら我慢できるから問題ないのです。でも少しは……」
静かに近づいてぎゅっと上着を掴んでくる葵ちゃん。
やっぱりまだ10歳だもん、寂しいもんね。なら私の精神年齢も10歳以下?
そう思って彼女の方に視線を落とすと、その右手に刺身包丁が掴まれていた。
「あれ? 包丁が……」
「包丁さんだけあって、包丁も私達の本体なのです。だから包丁が遠くにあると手元に戻ってくるのです」
なるほど。それにさっきのミサイルのような勢いはないから大丈夫ってことかな。
「今日もまた包丁さんを呼ぶから、ルカが帰ってくるまで待っててね」
「また、呼ぶのです?」
「うん。桔梗さんからもお願いされたから、年少組の子からね。杏ちゃんを」
「……杏はやめておいた方がいいのです」
「え、どうして?」
「杏は、命令されるとそれを全部実行して帰ってくるのです。でも今回の夏奈子さんの命令は実行できないのが事実。そんな状況で杏を呼んだら、きっと大変なことになるです」
杏ちゃんは、命令を聞かないと折檻される場所にいたというのを見た。
包丁さんとなって命令を果たす存在になった今もそれが影響して、命令を遂行するようになった。
その分彼女は危険だと、葵ちゃんは私に教えてくれている。
言われてみれば、なのだ。それなら他の年少組の子か、いっそのこと年長の子や年中のしっかりした子を呼び出して抑止力と説得力を上げたほうが幾分も成功しやすい。
でもルカに頼んだのは杏ちゃんを呼び出せる包丁だけ。この状況は非常にまずい。
ただ単に今日はやめてまた明日に呼べばいい話なんだけど、善は急げというし……
もうルカもデパートにはいないだろう。今から携帯にかけても遅い。
「ただいまもどりました」
噂をすれば影。ルカは大きな袋を手から下げて帰ってきた。
どうしようどうしようどうしよう。
「どうしたんですかマスター、そんなに顔を青ざめて」
「ルカさん、他の包丁は買ってきてないです?」
私が声をかける前に葵ちゃんが先に言ってしまう。
それに激しく同意するように私は首を必死に縦に振る。
「なるほど、概ね予想は出来ていましたよ。ということで」
袋の中から数種類の包丁を取り出したルカ。
「ある程度別種の包丁も買ってきました。他の物は多少持っていますからそれで代用が効くかと」
「さっすがルカ! 話が分かるー!」
「マスターのVOCALOIDですからね。当然のことです」
それって私が駄目マスターって言ってるのと同じだよね? ね?
ほっと胸をなでおろす葵ちゃん。
「でも今じゃ入手し辛いのはどうしよう」
「それだけではありませんよ」
「え?」
ルカが難色を示す。
「その他の包丁は入手困難です。通販という手もありますが」
「なら通販で」
「価格はピンキリです。それにお金がもうあまりありません」
「ど、どうして!」
「服の材料費で今月は厳しいというのに……包丁まで購入するとなると、食費まで手を出してしまいますよ。もう既に手を出していますが」
以前、と言ってもだいぶ前だが、それが今になって牙をむき始めた。
そう。雪ミクちゃんの服を作るのは特殊な素材が必要で、かなり高額だった。
そして、両親に相談して、大分先まで生活費を前借したのだ。
最初の頃はまだましだったけど今ではルカのVENにまで手を出して、食事もおかずを減らしてやりくりしている。
昨日は久々のごちそうだったのだ。その分食費もかかったけど。
「それにこのまま家族が増えれば、生活費が嵩むというレベルではなくなります」
「でも、それでもなんとかしなきゃ!」
「それを何とかする本人に何かあったらどうするんですか!」
大声を張り上げるルカ。私の身を案じているのはすぐわかった。
それと同時に、包丁さん達のことも心配しているんだと分かった。
「今彼女達を救えるのは現在では貴女とごく少数の方だけでしょう。ですから貴女が倒れたらそれだけで大きな欠損なんです」
「少しは自分の身を案じてください。それが結果として皆を救うことにつながるんですから」
そういってリビングを出て行ってしまうルカ。
置き去りにされた私と葵ちゃんは閉められた扉を見つめていた。
そのまま何もしないのも私が許さなかったので、一つ包丁を取り出し紙に命令を書く。
その紙の上に包丁を。
「包丁さん、切ってください」
目を閉じてじっと待つ。
この部屋にある気配が増えるまで。
「お前が私を呼んだのか?」
「笹!」
「うわぁ?!」
声をかけられて目を開けたら目の前には誰もおらず、横から良くない鈍い音が聞こえてきた。
その方に視線を向けると葵ちゃんが包丁さんもとい、カミサマ化した笹ちゃんに抱き付いて。
当の本人は魂が抜けたように、口をぽっかり開けて腕をぐったりさせていた。
「あ、あれ? 笹? 笹?」
ゆさゆさと体を揺するもグラグラと重い頭が揺れるだけで、一向に起きる気配がない。
私はとりあえず、客間に布団を用意するのであった。
**********
葵ちゃんとルカが寝付いてから、私は一人リビングで考え事に浸っていた。
今後の生活費。今の私の行動のあり方。
一応2、3人までなら大丈夫だとは思うけど。
彼女達にはそれなりに自立して生活できる力がある。
カミサマ達の世界でも、そうやって暮らしてきた彼女達。
だから平穏に暮らせる場所を、人とあまり関わらなくても暮らせる場所があれば。
現に年中組さん達が居れば何とか生活していけると思うし……
と、リビングの扉が開く。カミサマ化している笹ちゃんだ。
「お前が夏奈子だな?」
「あ、笹ちゃん。眼覚めた?」
「最初にあんなことがあっては私の面目が経たない。記憶を切らせてもらおう!」
包丁を手に私に切りかかってくる彼女。
がしかし、椅子の脚に足が引っかかって思いっきり顔面から扱ける笹ちゃん。
「………」
バチンッ! と肌がぶつかる音と、ゴンッ! と頭をぶつける音が同時に、それも結構大きな音で鳴り響く。
「うううう……!」
「だ、大丈夫!?」
顔を真っ赤にして悔しそうに唇を噛みながら、目に涙をためる彼女。
私は駆け寄って頭をなでながらも声をかける。
自分の羞恥をさらして本当に悔しいのだろう。
だから私の記憶を切ろうとしたのだ。自分の面目を守るために。
そんな子だけれど、実は彼女は葵ちゃんより一歳年下の9歳。
小学生にして3年生~4年生でまだまだ幼い。葵ちゃんもそうなんだけど。
「うわああああん!!」
フローリングだから擦りむいていることはないと思うけど、案の定痛みに耐えられなかったのか大声をあげて泣き出してしまった。
あやそうか考えたけど、声を抑えるために私は彼女を抱きしめた。
服が汚れるとか、そんなことどうでもよかった。
彼女の泣き声が小さくなっていくごとに私は、本来の目的を忘れあやすことに専念していた。
頭をなでて、ゆっくりゆっくり私の気持ちを込めて。
そんなに腕に力を入れてないから、苦しくはないだろう。ましてや今もカミサマ化しているのだから、何ら問題はないはず。
「ぷはっ……」
そんなみっともない声と共に私の顔を見上げるように、胸元から顔を出し新鮮な空気を吸う笹ちゃん。
カミサマ化が解けていないけれど、口の動きでその表情の変化が解る。
彼女は今ぼんやりしている。落ち着いているけど、思考が追い付いていないのか、なぜ私がこんな行動をとったのか、解らないからか。
「どうして私を抱きしめている?」
「どうしてだろ。わかんないや」
「なら放して貰いたい。苦しい」
「あぁ、ごめん」
月桃さんにも似た口調の彼女は、放されるとほっと溜息を吐いて私を見つめた。
麺切り包丁を下げているところを見ると、私の記憶を切る様子は無いようで。
「お前の話は桔梗からある程度聞いている。けど、何故私を呼び出したのだ」
「それは、ちょっと事情があってね」
「私が呼ばれた時、桔梗が一番意外そうな顔をしていたのを覚えている。その事情を教えてほしい」
私はその事情を説明する。
すると妙に納得したかのような口の形をして、カミサマ化を解いた。
「なるほど、なら仕方ない。が、その事情は皆に先に言ってほしかった」
「呼び出された私達が知っても、意味がないからな」
「意味なくないですよ。笹」
リビングの扉が開く。そこには葵ちゃんが目を擦りながら立っていた。
「あ、葵ちゃん。起こしちゃった?」
「誰でもあんな轟音と泣き声じゃ起きるです。で、話を戻すですが」
「私達はその気になれば夢でみんなと会えるのです」
笹ちゃんは驚いていたけれど、私は何ら驚かない。
だって3回も体験したから。もしかしたら今日も皆と会えるかもしれない。
「ただし、夏奈子さんはもう無理なのです。桔梗さんが縁を断ち切っちゃったですから」
そういわれてがっくり来る。もうみんなに会えないのかぁ……
「でもそれは不確定事項だろう? 証拠はあるのか!」
「現に今晩会ってきたです。杏とお話してきたですよ」
「………」
ぐぬぬ、と自分の言うことが全てくじかれて悔しいのか歯を噛みしめる笹ちゃん。
「まぁまぁ、でもこれで皆と一応は連絡が取れるんだね」
「です」
「なるほど。なら問題ないか」
「あ、夏奈子さん、ちょっとお話があるのです」
もう遅いから寝ようかと考えて席を立ったところで、葵ちゃんに止められる。
どうしたのか尋ねてみると、夢の中で杏ちゃんと話したことを話し始めた。
Outside
葵が眠りについて、彼女らの世界に干渉するのに時間はそれほどかからなった。
そもそも自分が包丁さんゆえに、この縁は切っても切り離せないのだろう。
日が落ち込んで暗くなったあぜ道を葵は歩く。見慣れた田んぼの風景。
帰ってきたことを実感していると、黄色い影が現れた。
「あれ? あおっちだ!」
「あ、杏。どうしたですか? こんな時間なら寝てるはずじゃ」
「きーちゃんから聞いたんだよー。杏の新しいお姉ちゃんになってくれる人が居るって! それで笹が先に呼ばれちゃって、おかしいなって夜更かしまでして頑張ってたの!」
確かに、夏奈子は杏を呼ぼうかと考えていたが、葵の発言により急遽笹を呼ぶことになったのだ。
その事情は葵と夏奈子、そのVOCALOIDであるルカしか知らない。
「ねー、杏いい子にしてるよね? だからお姉ちゃん呼んでくれるよね。どうして杏呼んでくれないの?」
「そ、それはですね」
焦る。どうにかしてこの場を切り抜けないとまずいのは葵自身、目に見えている。
とっさに思いついた言葉を適当に並べる。
「杏は外で遊びまわるのが好きですよね!?」
「うん! 杏遊びまわるの大好き!」
「実は杏のお姉ちゃんになってくれる人の家では、遊びまわれるほどの広さがないのですよ!」
「え?」
「それで、今私達の新しいお家を探してくれているところなのですよ! それに、向こうに行っても私達がまだ少ないから、遊べる相手も少ないのですよ!」
嘘丸出しの言い訳を必死に口に出す葵。顔には汗びっしょりで年中組が見ても嘘だと分かるだろう。
「そうなんだ。ならもっと杏がいい子にしてたら呼んでくれるよね! ね!?」
「そ、そうです! もっと杏がいい子にしてたら夏奈……お姉ちゃんも呼んでくれるです!」
「なら杏早く寝ていい子にしてるね!」
風のように去っていく彼女。それを見てほっと息を吐く葵。これで暫くは凌げるだろう。
自分の言葉が、夏奈子のハードルを上げているということに気付くまで。
Side 水生夏奈子
「という訳なのです」
葵ちゃんの言葉に頭を抱える。
確かにここは田舎といっても、周りが水田に囲まれた様な田舎とはほど遠い。
でもそういう田舎を彼女達は望んでいる。
できれば自分の目の届く範囲においておきたいけど、彼女達は彼女達だけで暮らしていける力がある。
場所さえ与えれば、そこで耐えぬき生き抜く力を。
でもこんな『都会』においておけないのも事実。人の出入りが多いからだ。
包丁さんを知った人物が彼女達の存在に気付くのも時間の問題ともいえる。
たとえそんな田舎を見つけたとしても、住む場所が無い。
家族でそんな場所は……そこである事を思い出す。
そういえば祖父の家は田舎だったと。ドがつくほど田舎だった。
何回か手紙で呼ばれたりおじいちゃんに連れられていった事があったけど、行くだけで苦労したのを覚えている。
今でさえ道路が整備されていなくて、車でも自転車でさえ直接そこまで行くのは不可能。
長い山道を何時間も歩いて開けた盆地にぽつんとあるおじいちゃんの家。
そんな場所にあるというのに、多大な財産を残してくれた彼を私は不思議でたまらなかった。
お葬式の時、お父さんやお母さんに聞きたかった。
けど、その当時の私はきな臭さを感じていたから、それに負けて聞けなかった。
もしもこれが裏のお金だったら、と根も葉もない事を思っていたから。
そしてその財産は親戚達の相談で分割される事になったのだけれど、この土地と家の管理は私達の家族が任せられる事になった。
そのときのお父さんの顔をよく覚えている。汚れ仕事を請け負った様な、そんな顔だ。
……そうだ、そこなら包丁さん達を住まわせる事ができる。
人の出入りが少なく、ひっそり暮らせる場所。
包丁さん達の元々暮らしている場所と何ら変わらない場所にもにてるだろうから、問題は何ら無いはず。
「夏奈子さん。ごめんなさいです」
しばらく沈黙が続いていたけれど、その沈黙のおかげで私は一つの考えに至れた。
「ううん。気にしないで。候補が一つだけあるから」
そういって私は二人にまとまった考えを告げるのであった。
さて次は時間が飛んで季節外れのGW回。そして、優希と夏奈子の事が済んでの接触回ともなります。
優希の方はマキさんが戻ってきている状態から開始、そしてあの二人も帰ってきます。
日常が加速する!!
夏奈子の方は、包丁さんに現世の安住の地を与えるために孤軍奮闘した後。
包丁さん達に安らぎを。
ルシ「展開が早すぎるが大丈夫か?」
イー「大丈夫だ、問題ない」
作者「この二人は万年俺の中でブームです」
~原作キャラクター簡易説明~
ここでは、『包丁さんのうわさ』をより知ってもらい、このクロスをより面白く読んでもらおうという企画。ネタバレは控えます。
今回は包丁さんの代表格、椿さんと葵さんです。
名前:椿
説明:『包丁さんのうわさ』にて呼び出される包丁さんであり、その本名。裏主人公ともいえる存在。
包丁さん達の中では年中組に当たるが、リーダー的存在となっている。
三度の飯よりワカメが好きなぐらいワカメ好き。乾燥ワカメをそのまま食べて水を飲んだことも…?
名前:葵
説明:『包丁さんのうわさ0』にて呼び出される包丁さん。
包丁さんの中でたぶん2番目に有名な子。理由は原作で出てくるのはこの二人だけだから。
ワラビが好きで、にくにくとした食感の物が好きらしい。