VOCALOID×包丁さんのうわさ ~路頭の花と歌姫達~ 作:kasyopa
何が起こったのか俺にもさっぱりわからねぇ!?
今回は後編へ向けての布石、そして前回出てきた美春と優秋はお休みとなります。
これには理由があってだね。
Side 水生夏奈子
バスを降りて、しばらく山道を進む。
もうあの頃の小さい私じゃないから、そんなに歩かないでもすぐにつくだろう。
そんなことを思っていた。
・
・
一時間経過。
まだおじいちゃんの家は見えてこない。
本当に山を登っているような細く整備されていない道だ。
「ねー、夏奈子さん。まだー?」
「リン、もうちょっと我慢しろ。疲れたなら背負ってやるから」
「はーい」
変わらない山道に退屈したのかリンちゃんの声が聞こえてくる。
「ここじゃ電波が届かないから、地図を検索できませんね…」
「ですね…それに紙の地図も持ってきてないし」
そもそもここって地図に載ってたっけ? という疑問を頭に考えながらまだまだ進む。
本来の目的である包丁さん達はと言うと。
「追いかけっこ飽きたから鬼ごっこやろー!」
「本気の鬼ごっこはなしだぞ!」
「解ってるよ! でもカミサマでやろ!」
「杏、少しは落ち着くです!」
「やっぱり杏達は落ち着きが無いのね。仕方ないね」
生い茂る木々の上を飛び回ったり、山の斜面を駆け上がったりと、カミサマ化しているのをいいことに、自由気ままに走り回っていた。
二次被害はないだろうと思って私は歩みを進めていたけれど、それは起こった。
「「「あ」」」
三人の声が聞こえて何かと思えば、倒れていた丸太がこっちに向かって結構な勢いで滑り落ちてきた。
おそらく誰かが足場に使って、飛び上がった衝撃で動き始めたのだろう。
釣鐘を突く撞木のごとく。長さ4mぐらい、太さは直径30~40cmといったくらいか。
ジャンプすれば飛び越えられそうな気もするけど、長さからしてそれは無理だし、何より当たればそのまま下の斜面に持っていかれる。つまりは……
まだ遠くて私とルカしか気づいていないけど、その丸太は確実に私達6人の内の一人を狙っていた。
「優希! 危ない!」
直感で出てきた名前を叫ぶ。彼は今最後尾のはず。
その声に反応して優希があたりを見渡し、その存在に気付く。
すぐにその場を移動してよけようとするけど、予想外のことが起きた。
丸太が木に当たって進路が変わる。
既にその時には皆気づいていたけれど、急な出来事に流石の優希も動けない。
しかもそれが運悪くさっきの場所から移動した彼の場所と重なっている。
もうよけられない。
駄目だと思って思わず目をつぶる。この後起きるであろう出来事を見たくないから。
小さな轟音が聞こえて、リンちゃんの泣き声が聞こえる。
私は最悪の出来事を想定する。怖くて目が開けられない。
足に力が入らなくなって、その場に座り込む。
私のせいだ。
私のせいで優希は……
「おい、勝手に人を殺すな」
あぁ、優希の声が聞こえる。きっと幻聴だろう。それまでに今の事実が信じられないのだろう。
そう、無事だったらこう言ってくれるはずだ。
「とりあえず目を開けて現実を見ろ。話はそれからだ」
あれ? 何かおかしいよね? そこに優希がいるみたいに思えてきた。
目を開けると、優希が立っていた。リンちゃんが泣きついていたりと、無事なことを実感する。
「えっと、怪我とかしてない?」
「ああ。強いて言うなら寿命が5年ぐらい縮まったぐらいか」
「あ……そうなんだ……」
無駄に脱力感。でも生きててよかった。
立ち上がろうとして、違和感。立てない。
「何してるんだ」
「あはは……腰ぬけちゃった」
「………」
「て、テヘペロー☆」
「はいはい、とりあえず背負ってやるから」
目の前でしゃがんで両手を出す優希。
「大丈夫? ここ山道だよ?」
「この旅行の考案者兼目的地の主が何を言う」
「だよね。うん。ありがと」
お言葉に甘えて背負ってもらう。
嬉しいけど、あの間に何が起こったのか気になった。
「ねぇ優希、何があったの?」
「ルカが助けてくれた、と言いたいが、ルカともう一人の誰か。と言った方が正しいな」
優希の話によれば、自分ももうよけられないと思って諦めたらしい。
で、いきなりルカが飛び出し空中横蹴りをして丸太を吹き飛ばしたそうで。
「ルカ……ありがとう。でもそんなことできたんだ?」
「あんまり嬉しくないですけどね。でも流石に今回はこの身体能力と力に感謝しないと」
「足は大丈夫?」
「怪我をすればまたその部分を再構築すれば大丈夫です」
「そ、そうなんだ……」
なんだかルカが色んな意味で人間じゃないなぁ、と思った瞬間であった。
「あれ? もう一人の誰か?」
「あの丸太を見てみろ」
優希の視線の先。私も背負われているから指を指されずにでもどこにあるのか解る。
ルカが蹴り飛ばしたであろうそれが、綺麗に縦に割れていて綺麗な木目が顔を覗かせていた。
「あいつを見てくれ、あれをどう思う」
「すごく……綺麗です……って! やってる場合じゃないよ!」
「乗ったのはお前だろうが。それはさておき、あれは見るからに不自然だ」
「ルカが蹴った時に綺麗に割れたとか?」
「竹みたいな繊維構造をしてるわけがないだろう。針葉樹でもな。あれはあからさまに『切られた』と見て間違いない」
その言葉を聞いて辺りを見渡す。『切られた』と言えば包丁さん。
上の斜面で3人に説教している牡丹さんが居て、きっと彼女が助けてくれたんだろうと予想する。
「あんまり驚かないんだな」
「え?」
「お前なら言葉を失うぐらい驚くと思ったが」
「なんというか、脱力? 優希が助かってて、よかったっていう気持ちだけで感無量っていうか」
今のは私でもうまく誤魔化せたというか、本心だったから正直包丁さんの事を考えてなかった。
心底安心したら、やっぱりというかなんというか、体を完全に優希に預ける。
今ある彼の存在を感じていたい。そう思って顔を横に向けて、一番楽な体制になる。
このまま寝てしまってもいいくらいに。
「重くない?」
「重くても重いと言わないのが男だと思うが?」
「それってどういう意味ー?」
「軽いが、正直軽すぎても健康体ではないからな。最近忙しくてロクに休んでいないだろう?」
「んー、そうでもないよ? 親戚の子が居てくれたし」
確かに体は疲れてるかもしれないけど、気疲れはない。
二人の面倒を見るのは私としても楽しかったし、何より二人の遊ぶ姿がやっぱりその年相応の、それも昔の子供の遊びだったから本当に微笑ましかった。
「ところで優希」
「どうした?」
「背中気にならない?」
「またネタでも振ってほしいのか?」
「うん」
「……はぁ」
諦めたように溜息を吐く優希。
やっぱりネタは、前置きになるネタが重要だよね。
それ単体で意味を成すものもあるんだけど、やっぱりこういうのは前座がないと。
「む…胸が当たってるんですけど」
「当ててんのよ」
うん。これで良し!
Side 遥 優希
夏奈子以外の女性陣に対して、あのネタを使うことはかなり抵抗があったが、夏奈子の言葉でみんな納得して俺に対しては何も思っていない様子。
そこから更に10分歩き続けていると、景色が開けて盆地に出た。
「「「わぁ……!」」」
初めて見る昔の日本のような情景にリンとレン、ミクが驚く。日が傾いて赤色に染まる空が一層美しく魅せる。
俺の場合は過去に、小学生くらいの時に一回しか来たことがないが、当時とあまり変わらない様子に少し懐かしさを覚えた。
かやぶき屋根の大きな家が正面に見える。その右隣は長屋のように見えるが、独特の匂いからしてたぶん牛舎だろう。
それに、この匂いがする時点でまだ中に牛はいる。
家の左隣には土倉が建っている。昔は夏奈子共々おじいさんが入れてくれることもなく、入ることも許されなかった。
「預かった土地は定期的に整えないとね。牛もまだ居たり、農作物も作ってたりするから、結構な頻度でお父さんとお母さんはここに来てたみたい」
「それでも並大抵のことじゃ維持は出来ないだろ」
「うん。だから親戚の人達と一緒にね。最近じゃ二人とも仕事が忙しくなって手付かず状態だったけど。GWに私も一緒に整えてってする予定だったんだ」
「だが、その親戚の子とやらがここに住むために、代表して親じゃなくお前がここに来たと」
「うん。ま、詳しいことは二人きりになってから話すよ」
皆の前で話さないということは、何か裏でもあるのだろう。
「とりあえず、家に行こ? 歩いてばっかりだとみんな疲れただろうし」
「皆流石に山道は初めてだったわね。私は何回か上ったことはあるけれど」
「もう足が棒になりそうだよー」
「だらしないなぁレン。あれくらいどうってことないのに」
「あはは、私ももうそろそろ限界かな……」
各自の言い分を聞いてから、俺はもうひと踏ん張りと気合を入れなおした。
Side 水生夏奈子
家に着いて持って来ていたお茶を皆に振舞うと、私は一人ある場所へ向かった。
家の裏手にある小さな山。そのてっぺんにある開けた丘。
「………」
そこには小さいながらも、綺麗な、見事なまでに直方体の庵治石製の墓石があった。
庵治石は、最高級の墓石材として有名な物らしい。
おじいちゃんがなくなる前に自分で現地に出向いて選び、ある人に作ってもらったらしい。
そして、自分の名前は自分で掘ったそうだ。
そういう事を、おじいちゃんの埋葬の時にお父さんから教えてもらった。
「おじいちゃん、ただいま」
柄杓と水桶でしっかり洗ってあげる。汚れは一見してついてないみたいだけど、念入りに。
静かに手を合わせて、目を閉じる。
いつも見守ってくれてありがとうございます。お蔭様で今も元気に暮らせています。今は、安らかに眠ってください。
肉体が滅んでも、魂はどこかで見てくれていると思うから。
そして最後に。
「おじいちゃんの家を、使わせてください」
そう言って私は目を開け、振り返ると包丁さん達が立っていた。
ただ違和感。それは皆人間の姿をしていたから。
Outside
「なるほど、ここだったのね。道理でこの姿で居やすいわけね」
妙に納得したかのように首を縦に振る、牡丹。
「またここだー! いっぱい遊べるー!」
辺りを駆け回り飛んだり跳ねたりしてはしゃぐ、杏。
「懐かしいな! やはりここの空気はおいしい!」
深呼吸を繰り返し仰向けになって倒れる、笹。
「ここは懐かしい香りがするのです。だから、一番過ごしやすいのです」
開けた場所から見える景色を見つめ笑顔を見せる、葵。
「ど、どういうこと皆!」
夏奈子は皆知っている口調に戸惑い声を荒げる。
「「「「それは椿(ねぇ)(つっきー)に聞いてからのお楽しみ(ね)!」」」」
どうやら真実は、包丁さんのリーダー格である椿から聞いた方がよさそうだ。
まるで面白い物を見る目をする4人に対して、夏奈子はそう思うのだった。
Side 遥 優希
夏奈子に呼び出され、ある一室に入る。そこでは彼女が正座して、その前に何かを記した紙と一本の包丁が置いてあった。
まるで時代劇で見る、切腹する時のような物が頭をよぎったがそれはないとすぐに思考を閉じた。
その包丁と紙を中心にするように、俺は夏奈子の前に座る。
「で、なんなんだ。話って」
「親戚の子の事なんだけどさ」
「ああ、あの変わった子達か」
夕方夏奈子が一人どこかに行ったと思えば割とすぐに戻ってきたので、どこに行っていたのか聞こうとした時。
彼女の後ろに見たこともない女の子達がいたのだ。
『紹介が遅れちゃったけど、この子達が私の親戚の――』
名前までは詳しく覚えていない。あまりに突然の出来事だったからだ。
それこそ、ここに向かう時に遭った丸太の出来事並みに。
ちなみに今は今は黄色の少女、緑の少女、青の少女とリンが追いかけっこをして遊んでいる。
ルカとレンとミクはチャイナ服の女性(と言ってもまだ中学高校生ぐらいだが)とお茶を交えて話していた。
「実は親戚じゃないんだ。血も繋がってないの」
「それはそうだろうな」
「……で、今からやることちゃんと見ててね」
「目を閉じて。いいっていうまで目を開けちゃだめだよ?」
雰囲気が真剣な物に変わる。
俺は言われるままに目を閉じた。
それは何かの儀式の様で。
やってはいけないのに、何故か大丈夫な気がした。
「包丁さん、切ってください」
その言葉はどこかで見たことがある。
その言葉を聞いた瞬間、思わず顔をあげそうになった。
しかしそれに耐えて待つ。彼女がいいと言うまで。
「いいよ」
「っ!」
とっさに顔を上げるとそこにあったはずの包丁が無くなっていた。
「優希にはたぶん見えないと思うけど、どう?」
「何もいないな」
「そっか。ならこれならどう?」
暫く待つと、目の前。本当に目の前に白いワンピースを纏った少女が立っていた。
「これは流石に見えるよね?」
「ああ、よく見える。なるほどな」
「? なるほど?」
青の少女に何か違和感を覚えていたが、今現れた少女と夏奈子が呼び出す際に口にした言葉で納得がいく。
「まさか、ば「ダメ!」」
いきなり言葉を遮られる。
「なんだ、椿って言った方がいいのか?」
「うんそう。そうじゃないと帰っちゃうから」
夏奈子はある程度話し始めた。自分のしていることの意味と理由を。
そして最後にこう締めくくった。
「って、よく知ってるね。包丁さんの事」
「俺も某動画サイトと静止画投稿サイトで見たことだけはあるからな」
優希は知ってましたとさ。
ただ、かじった程度なんで夏奈子よりもはるかに知識は劣りますし、椿と葵ぐらいしか知りません。原作もやったことありません。
美春と優秋はというと、それは次回の冒頭ぐらいで語られることでしょう。次回は絶対出てきます。
そして今回椿が出てくる予定も満更ありませんでした。しゃべってないけど。柊と薄雪ェ……
日常に戻すにはどうすればいいんでしょうかねぇ…
とりあえず、後半もそれからもこちらはしばらくGW回で日単位で、お話が進むはずです。
現在の予定では、一人の包丁さんと一人のVOCALOIDが遊んだりする、そんなスポットライトを当てた話となります。
あれ? 真のクロスってそういう話じゃね?