VOCALOID×包丁さんのうわさ ~路頭の花と歌姫達~ 作:kasyopa
今回はリンと杏のお話。
黄色の活発な少女達の、お遊びのお話です。
Side 鏡音リン
翌日。
美春ちゃんと優秋さんが帰った後、私達は夏奈子さんの親戚さんが実は包丁さんだという話を聞いた。
包丁さんっていうのはよく解らなかったけど、簡単に説明してくれたから私でも解った。
……別に頭悪くないもん。いつも解らないことあったら検索かけてそのこと覚えてるし。
その後皆で自己紹介して。
というわけで自由行動になったわけなんだけど、さっそく遊ぼうにも皆朝ご飯を食べた後だからゆっくりしている。
田舎だから尚更なのかな。時間あんまり気にしなくていいし。
私達は内蔵時計ですぐに時間が分かるから問題ないんだけど、これが無かったらどうだったろうか。
もしかしたらこんな田舎でも時間を気にせずにいられるかも。
でもいつもあったものが無くなるってなんだか不便。
何気なく使ってた検索機能使えないんだもん。
山菜採りとかやってみたいけど、知識がないから毒草とかも採っちゃうかもしれない。
色んなことを考えながら縁側で足をぶらぶらさせていると、誰かが上着を引っ張った。
「ねーねーりーちゃん、杏とあそぼ!」
「り、リーチャン?」
「うん! りんちゃんだと一緒になるから、りーちゃん!」
ああなるほど。私の事を言ってるんだ。一応私の名前は呼べるけど、それだと被っちゃうから別の言い方をしてる。
かなり幼い子だと思っていたけど、そうでもないみたい。
「いいよ! リンお姉ちゃんとあそぼっか! 何して遊ぶ?」
「鬼ごっこ!」
「鬼ごっこ?」
昔の子の遊びと言えば当然と言えば当然だけど、二人でやる鬼ごっこなんて楽しいのだろうか。
私が捕まえる相手は杏ちゃんしかおらず、捕まえたらそこで交代、私が逃げる番。
杏ちゃんもおんなじことが起きている。
「でもあおっちも、さーちゃんも、たんたんも、つっきーもやらないからつまんないよー」
「うーん、どうしたら面白くなるかな……」
ここでふと思う。鬼ごっこじゃなくてもいいんじゃないかと。
おいかけっこや鬼ごっこは本当に遊びの根幹。時間をかけていろんな遊びに派生していった。
ならその派生した遊びでいいんじゃないかと。
「なら缶けりしよ!」
「缶けり?」
聞いたことがないのか杏ちゃんは首を傾げる。
まだ彼女は幼いから、とりあえず私は動作で説明することにしよう。
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・
地面に丸を書いて、夏奈子さんの家にあったスチール缶を置く。
「まず鬼と逃げる人を決めて……今回は私が鬼でいいや」
「ねーねー、その缶どうするの?」
「でね、始まりの合図があって、逃げる人がこの缶を蹴るの。そしたら始まり」
「じゃあ杏蹴るー!」
えーい! と声を出しながら缶を蹴飛ばす杏ちゃん。
缶は高く上がって、近くの茂みに落ちた。
「で、始まったら逃げる人はどこかに隠れるの」
「解った!」
あっという間にいなくなる彼女。でも近くにいるみたいだ。
ルールをよく解ってないからだろう。木の裏から包丁が見え隠れしている。
「それで、鬼の人は缶を元の場所に戻して、隠れた子を探して……」
「………」
私は躊躇なく木の裏から覗く包丁に向かって歩く。
「みーつけた!」
「わわっ!?」
「こうやって見つかったら、逃げる人はすぐさま缶を蹴りに行って、鬼の人は蹴られないように缶を押さえに行く」
その言葉を聞いた途端杏ちゃんは猛烈ダッシュ。私も遅れずダッシュ。
着いたタイミングはほぼ同時。蹴ろうと彼女が足をあげた隙をついて私は缶を押さえる。
「あー! 今杏が蹴ろうとしたのに!」
「こうなったら逃げる子は捕まっちゃうの。逆に蹴ることが出来ると、捕まった子と見つかった子はまた隠れられるんだ」
「へぇ~、じゃあ杏、頑張って蹴るね!」
「あ、でも一つ注意」
確か包丁さんにはもう一個の姿があるって言ってたっけ。
カミサマ? とかいうのが。
「カミサマになるの禁止ね。そうなると見えなくなっちゃうから卑怯になっちゃう」
「はーい」
こうして、何気なく缶けりを始めたのだけれど……
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まず私が鬼。
言い出しっぺの法則というやつだ。
杏ちゃんが蹴った缶を元の位置に置いて、足を置く。
さっきより飛ばした感じだけど、まだまだな感じ。まだ子供だもんね。
私も子供だけど。
とりあえず今回は遠くに隠れてるみたいだから、ちょっと探しに出なきゃいけないかな。
山の斜面とかを歩きながら探す。ある程度探したら大急ぎで戻って缶の有無を確認。
よし、まだあるね。
本格的に探そうかな。私だってルカさんみたいにちょっと人間離れしたこと出来るし
。
風になる事は無理だけど、ターザンみたいに森を制することぐらいは出来る。
子供は風の子。意味は違うけど、そんな活発な子供のごとく!
半分本気で、辺りを探し回るのだった。
・
・
探し回って10秒足らずといったところか。
山を下りる杏ちゃんの姿を見つけた。普通の子供とは比にならないくらい早い。
やっぱり普通と違うから、それなりの身体能力があるのだろう。
でも私も負けていられない。
「杏ちゃん見っけー!」
「わわっ!」
木の上から飛び降り、山の斜面と同じ下る角度から着地。その前に投げ出される勢いで下る。追いつけなくはないけど、これ以上速度を出したら逆に木々をよけられない。
その点では、包丁さんである杏ちゃんの方が身体能力がいいみたいだ。
もうちょっと本気を出したらいい感じなるかもしれないけど、それだとカミサマになれない彼女からすれば卑怯な手だろう。
そもそも、本気になった私とカミサマで本気になった杏ちゃんとだと、どちらが強いのだろうか。
夏奈子さんからカミサマの姿にはかなりの身体面で強化が入るとかなんとか。
でも私もマスターもレンも見ることが出来なくなるから、ある意味大変なわけで。
不便だなーと思いながら走っていると、遠くに缶が見えた。
距離は杏ちゃんの方が近い。このままじゃ蹴られる。
逆転の策はと考えたところで、目の前にツタが垂れる枝があった。
これを使って!
私はそれに飛びつき、勢いを殺さないまま空中に投げ出された。
「おりゃああああああああ!!!!」
ドンッ!
杏ちゃんの前に着地する予定だったんだけど、ツタの垂れていた枝が折れて予想以上に飛び缶の置いてあるところが着地地点になった。
そしてそのままダイレクトに缶を踏んだものだから、スチール缶とも言えどその衝撃に耐えることは出来ず。
そこにあったのは地面に埋まりながらも一枚の鉄の板のようになったスチール缶があった。
「あーあ、負けちゃったー!」
「よく頑張りました。えらいえらい」
よしよしと慰めるように頭を撫でる。マスターがよくやってくれているから、私もまた年下の子にはやってあげるのだ。
いいものは伝えないとね。
「えへへ」
嬉しそうに笑う杏ちゃん。と、辺りが暗くなる。
何だろうと上を見ると、ツタの絡まった木が倒れてきているところだった。
どうしてだろうか。木は結構な太さだったし、簡単に倒れるわけがないのに。
根でもやられていたのだろうか。いや、違う。全体が弱っていたんだ。
ツタが絡まった木。それはツタが逆に木を枯らすために巻き付いて締め付けていたんだ。
そこで理解する。そこで大きな衝撃が加わって、倒れるのだ。
根が腐っていたり、中が虫で食べられていたりしたら、木は自分の重みで倒れてしまう。
枝が折れて衝撃が緩和されたかと思ったけど、その枝自身も結構太いなと今見て気付いた。
あれ? 絶体絶命?
VOCALOIDが車にはねられたとかいうニュースは見たことあるけど、その部分が崩壊して再構成されて無事ということだった。
でも今回は違う。つぶされるのだ。下敷きだ。その場で再構成なんて出来るわけがない。
そもそも、怪我したらマスターが起こるだろう。再構成なんてもってのほかだ。
それにしても絶体絶命だと人って結構思考が回るんだね。無駄なのにさ。
「りーちゃん!」
杏が前に躍り出て姿が見えなくなる。
轟音。
聞こえた瞬間私は無事だということを実感する。
目を開けると倒れてきた木は横に切り裂かれ、横に真っ二つになっていた。
「大丈夫? りーちゃん」
「うん大丈夫。でも缶けりできなくなっちゃったね」
心配そうに下から顔を覗かせる杏ちゃん。
心配させまいと私は笑顔で答え、別の話題に切り替える。
とりあえず丸太が邪魔になるだろうから、二人で山のふもとにでも持っていこうか。
いや、薪にできそうだから折角だし夏奈子さんの家に持っていこう。
・
・
「次の遊びはなんにしよっか?」
「うーん、りーちゃんが言う新しいのがいい!」
確かに私はいろんな遊びを知っている。道具があるから遊びが増えるわけであって。
でも二人で出来る遊びなんて数が知れている。一応、二人でしかできない遊びもあるんだけど、杏ちゃんなら屋内より屋外の方がいいだろうし。
と、向こうの方でレンと笹ちゃんがリアカーに何か乗せて引いているのが見えた。
ちなみにレンが前で笹ちゃんが後ろ。笹ちゃんは疲れたのか荷台に乗っている。
「レンー!」
「あ、リン」
近付くと分かったけど、リアカーに山積みになっているのは黄金色の小麦だった。
でもなんで小麦?
レンは疑問に思った私を察したのか、すぐに答えてくれた。
「あ、これ向こうの山のふもとに大きな麦畑があったんだよ。それで笹と一緒に……って、笹! サボらないで押してよ!」
「いいだろうこのくらい休んでも! 第一刈り取りはほとんど私がやったんだ!」
「う、うぅ……それはそうだけど」
「だから運ぶのはレンがする、百合が来るまでに全部だ!」
「ん? 百合? 包丁さんの名前?」
「そうだよー。ゆりりーは金色の髪ですっごく綺麗なんだよー?」
代わりに答えてくれる杏ちゃん。
包丁さんって日本の子しかいないと思ったけど、そうじゃないんだ。
外国の子もいるんだ。そう感心していると、もう一つの疑問が浮かんできた。
「そういえば、その小麦で何つくるの?」
「それは中華麺と言うのを作るんだ! 後はうどんにそうめんに……」
「笹、よだれ垂れてる」
「わ、解っている! でも想像すると……駄目だ駄目だ」
「さーちゃん汚ーい」
何を思い浮かべているのかわからないけど、ぼんやりとした表情でよだれが垂れかけていた笹ちゃん。
レンの指摘を受けるも、また思い浮かべてしまい、今度は自分で何とか帰って来て袖で自分の口周りを拭く。
それを見た杏ちゃんが思わず口にする。
「なっ! 杏だってするだろう!」
「杏は袖じゃないもん! 服でするもん!」
「そ、それとこれは同じだ!」
「「……っ」」
「そこ! 笑う処じゃない! というか笑うな!」
二人のやり取りを見てて、思わずレンと笑ってしまう。
声には出なかったけど、その変化をすぐさま笹ちゃんが感じ取って反論。
その様子が本当に面白くて、今度は我慢できずに二人で爆笑してしまうのだった。
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その後私達も手伝って何とか蔵に全部の小麦をしまっておいた。
他の小麦粉が残っていたのは驚きだったけど。
それを見て笹ちゃんがまた止まってしまったのは言うまでもなくて。
今はその疲れた体を癒すために、裏山の夏奈子さんのおじいちゃんのお墓の前にいる。
ここは綺麗だし、お墓があるのにとっても気持ちいい。
もちろんベンチとかがあるはずがないので、地べたに座るしかないのだけど原っぱだからそんなに汚れもしない。
「綺麗だね」
「うん」
足を伸ばしている膝の上に杏ちゃんを乗せて、山の向こうに沈んでいく太陽を見つめる。
田舎ってやっぱりいいな。都会だとこんな光景ゆっくり見れないだろうから。眼福眼福。
レンは太陽を直に見てしまったのか目を逸らしていた。
笹ちゃんは立って沈む太陽を見ている。何か思うことがあるのだろうか。
「私達がこうして幸せに暮らしてるのに、皆はまだ……」
「それはないと思うよ」
その言葉に即答する。
「どうしてそんなことが言えるんだ」
「夏奈子さんと美春さんと優秋さんが頑張ってるから。もしもあったとしても、それを望まない人の方が多いよ」
「………」
「大丈夫。世の中悪い人ばっかりだったら、世界は回らないってマスターが言ってたから」
そうして私は笑顔を浮かべる。
「……そうだな。今私達に出来るのは今を楽しむことだ!」
「その意気だよ!」
「なら皆であそぼ!」
こうしてまた日が過ぎていく。
ここ最近は執筆速度ガタ落ち。
発想が足りないのかな。テンションが足りないのかな。
次回はレンと笹。包丁さんよりのお話。
ちなみにその次のお話は優希と椿、夏奈子と??でお送りします。ルカと牡丹は夏奈子の時に一緒に出る感じかな。
というか、優希も夏奈子も全く出なかったな……珍しい。
やっぱり、包丁さん達は独特なキャラクターが多くていいね。最近は意外な包丁さんの株が上がってまいりまして……百合さんいいね。
浮気? とんでもない。これにはちょっとした理由があるんですよ。それが何故かは後のお話で。