VOCALOID×包丁さんのうわさ ~路頭の花と歌姫達~   作:kasyopa

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ちょっと遅れて申し訳ない。
予約投稿し忘れたー!
というわけで、レンと笹のお話と、包丁さん達の思いのお話。
そして、活動報告にも上がっていた『鈴蘭』が登場!
注意:百合(リリィ)の一人称は【わたくし】です。


第19話 平たき和み

Side 鏡音レン

 

 

リンが杏ちゃんと遊びに出ていった後、僕達は居間でゆっくりしていた。

お腹がいっぱいというわけじゃないけど、温かい畳が気持ちいい。

その独特の柔らかさはフローリングにも、絨毯にもないものだった。

 

「ちょっと散歩に行ってくるねー」

 

やっぱり僕もリンに似てなのか、じっとしているのは嫌いなんだろう。

初めて来た場所でじっとしているのが、外で堂々と遊べる空間でじっとしているのがちょっと物足りないというか。

 

マスターと夏奈子さんにそれを伝えて家を出ると、笹がどこかに行こうとしていた。

さっきまで部屋の中にいたはずなのに、どうしたんだろう。

 

「どうしたの笹」

「! レン、丁度良かった」

 

いいものを見つけたような顔をする笹に引っ張られながらも、裏庭の蔵の前にまで連れらる。

そこにはまだ真新しいリアカーが出してあった。

 

「さ、これを引いて行くぞ!」

「行くってどこに?」

「麦畑に決まってるだろう!」

 

麦畑……そんなのあったっけ。ここに来てから一回も見ていない。

もしかしら僕達の行ったことの無い場所に生えてるんだろうか。

それとも、夏奈子さんのおじいちゃんが育てた物だろうか。

畑と言っているのだからそもそも野生ではないだろうと思いながら、新しい光景を目指して僕は言われるままにリアカーを引くのだった。

 

 

 

家から少し歩いたところで、川が見えてきた。

先に先に進む笹を呼び止めながら、その川沿いに歩く。

途中葵ちゃんが魚釣りをしているのが見えた。

 

「葵ー! 釣れるかー?」

 

笹の大声に驚きながらも、首を横に振る葵ちゃん。まだ成果はないようだ。

ちなみに僕が笹だけを呼び捨てにする理由は、笹が男の子っぽいからで。

自分に似た何かを感じたからだ。

 

そのまま川沿いに歩いていると、山のふもとに黄金色の絨毯が見えてきた。

あれが麦畑だろう。詳しい大きさは解らないけど、全部収穫するには機械が一番楽に追われそうだ。

 

「おー! 遠くから見えていたが、ここまで広いとは……」

「裏山から見えてたんだ」

「うん。中々立派だったからな! よし、これは刈り取り甲斐がある」

 

縦長の長方形型の畑。その外側の真ん中に立った笹は姿が途端に見えなくなった。

多分、夏奈子さんの言っていたカミサマっていうのだろう。

そんなことを思っていると、一瞬で麦が宙を舞った。それも一つの畑全部だ。

そして見えない風、いや、ソニックブームのような何かが麦を畑の中央に集めていく。

 

「こんなものか」

 

そんなセリフと共に再び姿を見せる笹。僕はその光景にぽかんとする。

 

「ほら、何をやってるんだ。早く積み込むぞ!」

「わ、解ってるって!」

 

なんだか包丁さんって、よく解らないカミサマだなぁ。

 

「これだけの量、何に使うんだろ」

「それは麺に使うのだ! 後はパンとか他の料理に……でも私は麺がいい!」

 

その話を聞くからにはよっぽど麺が好きなようだ。

二人でちょっとずつ。

抱え込める位の量をリアカーに積んでいると、笹のつぶやき声が聞こえてきた。

 

「はぁ、いつもなら百合と鈴蘭が手伝ってくれて、楽なんだが」

「? 百合? 鈴蘭?」

 

聞きなれない名前だ。でも両方とも花の名前。

笹と葵ちゃんはともかく、椿さんや牡丹さん、杏ちゃんは花の名前だから、なんとなく包丁さんの名前のような気がした。

 

「む! 盗み聞きとは失礼な!」

「あぁごめんごめん、聞こえてきたからさ。嫌なら答えなくてもいいよ」

「いや、嫌じゃないが」

「なら答えて」

「むぐぐ、なんでそうも偉そうなんだ!」

「僕が年上だからかな」

 

弟が出来たみたいで楽しい。厳密には妹なんだけど。

でも別にそこまで意地悪しているつもりはない。面白いからじゃない。

ただ単にいじってる感じだ。

 

「むぅ……」

「ごめんごめん、教えてくださいお願いします」

 

頭を撫でて謝る。そこまで嫌じゃなかったのか、少し恥ずかしそうに頬を赤くしながらされるがままになる笹。

 

「仕方ない、してやろう。ただし一回だけだからな!」

「うん」

「百合は金色の髪をしてる私達でも不思議な包丁さんなんだ。鈴蘭はそうだ、私達に姿こそ似せないが中身がそっくりになる」

 

「二人とも小麦はよく使うから、向こうなら手伝ってくれるんだ」

 

「ちょうど今頃ぐらいなら収穫も終わってるだろう」

 

 

Outside

 

 

「「クシュン!」」

 

ここは場所が変わって包丁さん達の世界。

まだ呼ばれていない者達が静かに暮らしている。

そんな世界の一角で可愛らしい二つのくしゃみが響く。

 

「うぅ、誰か私達の噂でもしているのかしら……?」

「私もです。珍しいものですね、二人で一緒にくしゃみだなんて」

「そうですわね。さて、これでおしまい」

 

麦を運び終えて二人、百合と鈴蘭は縁側に座ろうかと移動する。

丁度そこでは残された年少組の二人、薄雪と柊が仲良く日向ぼっこをしていた。

 

「隣はよろしくて?」

「うん……問題ない……」

「大丈夫、空いてるから」

 

少しだけ間を開ける二人。その右隣に彼女らは座る。

さんさんと照りつける太陽。もうすぐ昼だから日の光が一層まぶしく感じる。

 

「薄雪さんと柊さんはいつもこちらに?」

「うん……」

「葵が居なくなって少し寂しいけど、もうすぐ私達も呼ばれるから」

 

桔梗がお願いしたんだという話は皆聞き及んでいた。

年少組から先に、と。

年中組や年長組は色々と割り切れてしまうから、後でも構わないと思ったのだろう。

 

でも牡丹と椿が呼ばれたのは彼女としても誤算だったであろう。

それが何故かは先日の夜椿が直々に教えてくれた。

 

「鈴蘭……」

「はい? どうかしましたか?」

「足……」

 

薄雪が心配して声をかける。

鈴蘭は包丁が特殊な形だと様々な障害が出てしまう。

今は小型のパン切り包丁の形をとっているため、そののこぎりのような刃が裏目に出て足が少し不自由なのだ。

だから薄雪はそれが心配で声をかけた。

 

「大丈夫ですよ。歩くだけなら問題ありませんから」

「そういいつつ、畑で何回も転びそうになっていたのはどこのどなたかしら」

「リリィ、それは秘密と」

「今でこそ、私に合わせるためにティアはその包丁で居るじゃない。そんなに自分に無理をせずに」

「無理はしてませんよ。ただ私がそうしたいからそうしているだけなのです」

 

そんな会話を聞いて何か思ったのか、薄雪が鈴蘭に寄り添い膝の上に頭を置いて太ももを手で撫でる。

ひんやりとした温度と髪の感触、触られた感触に彼女は頬を赤らめ驚く。

 

「ちょ、ちょっと薄雪!」

「ふふふ、無口な薄雪さんもティアには懐いてるわね」

「私も、一緒に寝たい」

 

とてとてと近づく柊は百合の膝の上に頭を置いた。

それを難なく受け入れて頭を撫でる。

 

二人の日向ぼっこはまだ終わりそうになかった。

 

「おぉ、二人とも戻ってきてたんだ」

 

後ろから威勢のいい声が聞こえて二人が振り返ると、甘藻が立っていた。

 

「「甘藻さん、帰りました」」

「はいお帰り」

 

彼女は軽い身のこなしで縁側に座ると、晴れた空の向こうを見ていた。

 

「そういえば甘藻さん、今日は釣りに行くはずだったのではありませんこと?」

「そうなんだけどさ、なんとなく興がそがれちゃってさ」

「それはまた……どうしてですか?」

「どうしてって……まぁいいか。現世の事を考えてたらさ、少しね」

 

最年長とはいかないが、実質最年長である甘藻には少し心配事があった。

現世に行っていいものか。こうして命令を待つまでずっとここにいるのと何ら変わりない。

ただ違うのは、現世では呼ばれることがないということだ。それで人を切るという目的で呼ばれることはない。

それどころか、自分達が今までやってきた病を切るという命令をまた果たすことが出来るらしい。

何れ、私もそんな空間に居られるのだろう。でも。

 

「静かになったよな。ここ」

 

庭を見ればいつもなら楽しそうに走り回っていた杏はいない。

暇そうに外を見つめながら、自分も我慢できなくなって飛び出す笹もいない。

居間ではいやいやながらも服を着せられていた葵も、それを着せようとする牡丹もいない。

こんなしんみりしていれば、後ろから声をかけてくれるはずの椿もいない。

今までそこにあって当たり前の物が、ない。

 

「私達は一応割り切れるけどさ、でもこうも静かだと」

「いずれ向こうに行けばまた賑やかになりますよ」

 

鈴蘭がさらりと口から言葉を漏らした。

 

「そうだな。どちらにせよ私達は流されるままに進んでいくんだ」

 

そういって後ろから現れたのは稲。

 

「考えていても仕方ないさ。それに向こうはこことほとんど変わらない上に私達に縁のある場所だそうじゃないか」

「へ?」

 

甘藻はそこまでは聞き及んでいなかった。それ故に抜けた声が漏れる。

 

「確か椿が来た時にさらりとそんなことを漏らしてましたね。稲さんにしか話していない様子でしたが」

「ちょ、ちょっと待てじゃあなんで鈴蘭が知ってんだ?!」

「鈴蘭ちゃんはその時近くにいたから聞こえていたんだろう。いつもずっと起きているからね」

「ティア、貴女はまだ小さいんだから早く寝ないといけませんわよ」

「わ、私は……ひゃぁ!」

 

その会話を聞いていたのか、また薄雪が心配して鈴蘭を撫でる。

 

「鈴蘭……一緒に……寝よ?」

「あの薄雪、私は別に……」

 

そういいつつも鈴蘭は大きなあくびを一つ。

 

「ほらティア。薄雪さんが誘ってるんだから。今から寝ても夜寝られないということはないのだから」

「そうだぞ鈴蘭。よく寝ないと体に悪いし」

 

年上の二人から言われてしまえばもう反論できない。

言われるまま、鈴蘭は薄雪の頭を撫でてお礼を言ってから、横になる。

 

「ありがとう薄雪」

 

そうして、一人の少女は眠りにつくのであった。

 

 

Side 鏡音レン

 

 

リアカーに小麦を乗せてきた道を戻る。

途中で葵ちゃんとお姉ちゃんが居たけど、何か緊張した雰囲気だったから、声はかけないようにした。

笹も同じように声を掛けなかった。多分葵ちゃんの表情を見て何か思ったんだろう。

 

「そういえば笹」

「? なんだ?」

「笹達が居た世界って、どんな感じなの?」

「私達の……どうしてそんなこと聞くんだ?」

「いや、カミサマ達の世界ってどんなのかな、って。麦畑でも言ってたからさ」

「………」

 

笹は何も答えない。考えているのか、何も言いたくないのか。

 

「言いたくなかったら言わなくてもいいけど」

「まぁ、こことほとんど同じ場所だって思ってくれたらいい。そもそもここは環境も、雰囲気も、何もかもが似ている。だから私達は人の姿でずっと居られるんだ」

 

「って椿も言ってた気がするが……」

「いや、聞いてないけど……」

「そうか」

 

それだけ、この場所が包丁さん達にとって暮らしやすい場所なのだろうか。

それだけ、この場所が似ているんだろう。

 

 

Outside

 

 

レンの後ろから押しているはずの笹は、少し疲れたのかリアカーの荷台に座り込んでいた。

 

「もしかしたら、こんな所に夏奈子さんのおじいちゃんの家があるのは、ここに何かあるからかもしれないね」

「それは言えているな。そもそも地脈やその手の物が密接に関係してないとここに神社なんて」

 

そう言いかけた笹が慌てて口を押さえる。

そもそもここに神社があったことはリンやレン、ミクには秘密なのだ。

何故か……それは言ってもらえなかったが、夏奈子からそう言われたからそうしているまでで。

 

「? 神社?」

「いや! なんでもない! それより早く家に戻るぞ!」

 

誤魔化すようにリアカーから飛び降りて押し始める笹。

当然速度も上がるので、レンは驚いて前に押し出される。

 

「わわわっ! 笹! 何もそこまで」

「うるさい! まだ積み込めて無い分もあるんだ! 日が落ちるまでに早く済ませるんだ!」

 

自分の失言をひたすら誤魔化すために、必死になって後ろから押すのであった。




実は今回大分間が空いてます。
熱が冷めたのか、はたまた……どうなんでしょうかね。
とりあえず、知らない名前が出てきたので今回も紹介と参りましょう!

そして次回は、ミクさんと葵のお話です! お楽しみに。そして、日常パートにも影響してくる出来事が……

~原作キャラクター簡易説明&オリキャラ説明~

今回は百合、薄雪、柊、甘藻、稲の5人と、『オリジナル包丁さん』の鈴蘭。
鈴蘭は完全にオリジナルなので、原作、「たおき」様のホームページに出てきませんのであしからず。

名:百合(英名:リリィ)
説明:包丁さんでは珍しい外国のお方。年中組。包丁さんになった経緯が「間引き」という人。
   パンが好きで、笹と一緒に麦畑で小麦を育てているご様子。
   桔梗さんとはまた別のお上品なお嬢様タイプ。そしてツンデ(ry
独自設定:鈴蘭と非常に仲が良い。

名:薄雪
説明:真っ白な外見が特徴的。最年少組で6歳。小さい。可愛い。無口。
   好きな物は果物で、果物だけしか食べないような子らしい。
   ある意味すごく未熟なので、非常に遅い子。
独自設定:鈴蘭にとても懐いている。理由は何か思うところがあるかららしく、それが何かは解らない。

名:柊
説明:薄雪に似て表情が少なく、無口な子。年少組。
   好きな物はかき氷。頭がキーンってなるかならないかはご想像にお任せします。
   服装がどう見ても防寒着だが、裸足だったり大丈夫だったりとやっぱり包丁さん。

名:甘藻
説明:元気溢れる、実質最年長組。持ち前の性格で引っ張っていくタイプ。
   泳ぐのが得意だったり、海産物を取るのがうまかったり、海女さんの経験でもあるのだろうか。
   魚が大好きで、釣りにも出かける。考えるより行動派な包丁さん。

名:稲
説明:椿をさらに落ち着かせたような包丁さん。年中組。
   お米が好き…? お米食べろ! メタな発言すると最も情報が少ない包丁さん。
   媒体の関係上、月桃以上に呼び出されないカミサマ。椿とは何か縁がある様子。

名:鈴蘭
説明:『今作品オリジナルの包丁さん』。年少組の9歳。活動報告にて全設定公開中。
   媒体の関係上、呼び出される回数は比較的多い。ただ、一度として正しい返され方をしていない包丁さん。
   落ち着いた包丁さん(椿・桔梗・百合・稲・芒・竜胆)と仲が良く、年齢に縛られていない珍しい包丁さん。
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