VOCALOID×包丁さんのうわさ ~路頭の花と歌姫達~   作:kasyopa

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今回はミクと葵の話です。が。
ミクメインです。日常パートに影響を及ぼすのは、この話も例外ではありません。
ミクメインのパートは全て、彼女の日常に影響を及ぼします。



第20話 似て非なる『物』

Side 初音ミク

 

 

朝ご飯を食べ終えてのゆったりとした時間。

リンちゃんもレン君もまだまだ子供なのかなと思いつつも、私も田舎の空気を堪能するために、外に駆り出した。

 

田舎らしい砂利でできた道を進む。初めての感触だ。

私達が住んでいる場所でも、たまに他の人の家で砂利が敷かれた所を見る事はあったけど、赤の他人の家に入ることが出来ない上に、別に踏みたいとも思わず、そんなにも興味を向けなかった。

でも、今は違う。

 

アスファルトで整備された道など一つもなく、あぜ道のように土が丸出しの道もあれば、今歩いている道のようにその上から大粒の砂利が敷かれた道もある。

夏奈子さんが言うように、ここは度がつくほどの田舎だった。

 

私も、多分リンちゃんもレン君も、こんな自然に囲まれた場所は初めてだろう。

それに、ここは人の出入りが少ない。だから、何も怖い物は無い。

いうなら、夜が怖いぐらいか。周りが見えず、動物に物理的に襲われる可能性がある。

私は彼女達と違って「作り物」だから、壊れてしまえば再構成なんていう神業は使えない。

そもそも、優希さんは怪我をしても心配する様な人だ。家族は心の底から大切にする人だ。

 

そんなことを考えながら歩いていると、小川が見えてきた。サラサラと水のせせらぎが心地いい。

水道水とはまったく違う、自然に濾過された綺麗な水は見たことがない。

その証拠に結構の深さなはずなのに、底が顔を出していた。

やっぱり、田舎は不思議な感じ。

 

バシャッ……

 

水から何か揚がる音。なんだろう、誰かが水遊びでもしてるのかな?

音のした方を見ても何もなかったので、おそらくこのあたりじゃないんだろう。

私達の耳は元々音楽の為にあるから、聴力にも自信がある。

だからそれなりに遠くの音も拾う。

私は音のした方へと歩みを進めるのだった。

 

 

********

 

 

暫く歩みを進めていると、黒い髪でツインテールの女の子が竹竿で釣りをしているのが見えた。

今は水面に立っている浮きをじっと見ている。

話しかけることなく、私は遠くから見守ることにした。

 

風と鳥のささやき。水のせせらぎ。木々の葉や草が風になびき擦れる音。

ゆったりとした時の流れ。癒しの時。

 

音を立てて浮きが勢いよく沈む。

彼女はそれを見計らったように竿を勢いよくあげた。

その糸の先には、日の光に照らされて銀に輝く鮎が。

手際よく針を外して、近くに置いてあった大き目のバケツに入れる。

あれほどの大きさのものを、どうやって持ってきたかは私にも解らない。

そして手を合わせて、目を瞑る。

 

「ごめんね」

 

彼女は謝っていた。

本当に優しい子だな。そう思いながら、私も手を合わせる。

 

「ごめんなさい。そして、ありがとうございます」

「!」

 

そう。彼女とは葵ちゃんのこと。

意図的に葵ちゃんと会いに行ったわけではないのだが、私からすると一番お話ししたい包丁さんだった。

そんな気持ちが私をこういう結果に導いたのだろう。

 

「調子はどう?」

「好調です。やっぱりお魚は自分で釣るって食べるのが一番です」

「そっか。私はやったことないからよく解んないけどね」

「そういえば、ミクさんは……機械、なんですよね?」

「そうだよ。高性能なロボット。ってロボットって解る?」

「大丈夫です。人の代わりに何らかの作業を行う装置か、人や動物みたいな外見と内面を持った機械ですよね?」

「よく知ってるね。その通り。その中でも、人に似せて作られた物を、人造人間からもじったアンドロイドっていう言葉が使われるの」

 

「でも、どうしてそんなこと聞いたの?」

「あ、えっと……失礼ですけど、なんだか機械に思えなくて」

「だよね。葵ちゃん以外にも少なからずそう思ってる子はいると思うよ。でも私は機械であってそれ以上でもそれ以下でもない。VOCALOIDだけど歌えない」

「え?」

 

あ、そこまでは確か説明してなかったっけ?

私ははっとして改めて説明することにした。

 

 

 

「こっちだと、そんなひどいこともあるのですか」

「まぁ、本能としては当たり前なんだけど、それを理性で抑え込めない人はそういう道に走っちゃう人もいるわけ。無論犯罪行為なんだけど」

 

葵ちゃんは説明している間、竿を置いて真剣に私の話を聞いてくれた。

その分少し嬉しくて話し過ぎたという体感があるが、気にしないことにする。

 

「さっき、ミクさんは釣りをしたことがなかったって言ってたですね」

「あ、うん。そうだけど……」

 

急に話題を転換してくる彼女。

そういうと、葵ちゃんはおもむろに針に小さなおにぎりのような物をつけて、竹竿を差し出した。

 

「何事も経験なのです。一緒に釣ろうです!」

 

私はそれに誘われるままにその場に三角座りをして、釣り糸を垂らす。

うまく川の真ん中に落ちたから、後は食いつくのを待つだけだろう。

 

でも、彼女がこれでは釣ることができない。

何せ竹竿は一本しかないのだから。

すると器用に私の腕の中に入り込んでくる葵ちゃん。

 

「これで一緒に釣れるのですよ」

 

私の持っている竿の上を持つ。心なしか嬉しそうな彼女を見ていると、私も笑顔がこぼれる。

何の断りもなしに入ってきたことは少し抵抗を覚えたけれど、やっぱりいい子だから許せてしまった。

 

またゆったりとした時間が流れる。

葵ちゃんは完全に私に身を預け、彼女もまたゆったりとした時間を堪能していた。

少しだけ冷えた体が心地いい。その点でも、やっぱり人間じゃないんだということを実感する。

 

ただ、三角座りはちょっと間違えたかもしれない。いや、他の座り方が思いつかなかっただけだけど。

それは、少し……いや、大分恥ずかしい格好だからだ。

服はいつも通りの格好だ。服は問題ない。いつも着慣れているから。

でも、このミニスカートだけはどうしようもない。布が少ないことを今はじめて実感する。

丁度正面には葵ちゃんが座っているからうまく視界を遮っている。

鉄壁スカートなんていう言葉があるけれど、それはアニメやゲームの世界でしかない。

3Dモデルを利用したゲームだって、カメラワークを抑えたりすれば簡単にそういうのは防ぐことが出来る。

 

話を戻して。葵ちゃんがいるから大丈夫なのだが、彼女がいるからこそ困った問題も発生しているわけで。

そう。『当たっているのだ』

どことは言わないけど、当たっている。体を完全に預けているから当たっているのだ。

 

「………」

 

一度気にし始めたせいか、あんまり釣りに集中できなかった。

冷たい感触。動くことはなかったけれど……まぁ、その、そこから移動してほしいと、言いづらいわけで。

ある程度仕方ないかと割り切った私は再び浮きに意識を向けた。

 

と、途端に浮きが沈み竹竿がしなる。手にかかる力も大きい。大物だ。

 

「葵ちゃん!」

「はいです!」

 

二人で力を合わせて引っ張る。この際当たってるとかそんなことどうでもよかった。

この釣り独特の引っ張られる感触、二人で一緒に引っ張る動作。

それが楽しかった。

 

でもすごく重い。少しでも力を抜けばそのまま持っていかれそうな感じだ。

私はアンドロイドだけれど、人間に似せて作られたから力は強くない。

また、リミッターみたいなものは存在しない。旧式故に、ロボット三原則に沿ったそれで作られたのだろう。

それで、必要以上のものは全て外されたのだろう。

 

「「うーん!」」

 

どうも本当に大物らしい。

 

「葵ちゃん! カミサマで何とかならない?!」

「何とかなるですが、でも梗さんみたいに力持ちじゃないです!」

「そ、それでもいいから! 早くしないと川に落ちちゃうよ!」

 

確実に、確実に引きずり込まれている。このままじゃ本当に落ちてしまう。

座っているから、もっと危ない。立とうにも立てない状況でもある。

 

次の瞬間、思いっきり引っ張られて私も葵ちゃんも体が前のめりになる。

 

「「あ」」

 

世界が反転して突然息が出来なくなる。

全身が濡れている感覚。浮いているような、沈んでいるような、上を向いているのか、下を向いているのか。

明るいはずなのに暗い世界。暴れてももがいても何も変わらない。

 

アンドロイドで防水加工がされているとはいっても、大量の水が穴という穴から浸入すれば流石に危ない。

それなりのパーツで対策は出来るけど、そんなことを今しているわけがなく。

少し諦めかけたところで、結構な力で引っ張られた。

 

 

 

気が付けば私は岸に上がっていた。

さんさんと真上から照り付ける太陽がまぶしい。

その日光で温められた岩で背中が温かい。

私の自慢の長いツインテールも形が崩れてしまい、潰れている。

当然全身びしょ濡れで、濡れていない場所なんてない。

無論ブーツも下着も何もかも。

 

いきなり息苦しくなって咳き込むと水が吐き出される。ついでに耳の穴からや鼻からも水が出る。

随分と多くの水が入り込んでしまったようだ。

 

「大丈夫ですか、ミクさん」

「あ、葵ちゃん……大丈夫だった?」

「大丈夫です。元々泳げるですから」

 

声をかけられその方を向けば、平然とした葵ちゃんの姿があった。

その手にはしっかりとバケツを持っていたが、当然彼女も全身びしょ濡れだ。

 

「あの魚、一体なんだったんだろうね」

「解らないですけど、ずいぶん大きかったです。私の身長くらいは……」

 

「とりあえず、風邪を引くと大変ですから戻りましょうです」

 

私達は大人しく、夏奈子さんのお爺さんの家に戻ることにした。

 

 

*******

 

 

戻るといきなり夏奈子さんが出迎えてくれた。

びしょびしょになった私達を見て、彼女は朝風呂の為に沸かしておいたというお風呂に入ることを勧めてくれた。

体が冷えると大変だから、とか、川の水はきれいに見えてやっぱりそれなりに汚いから、とか、服は私達が洗濯するから、とか。

 

そして今は葵ちゃんと一緒にお風呂に入っている。

あの一件があってから、お風呂に入るときは必ずコアの設定温度を下げている。

これ以上、同じことを二度と起こさないためにも。多くの人に心配させて迷惑をかけないためにも。

 

ちなみに、葵ちゃんの取っていた魚は全部生簀に入れられて、今は元気に泳いでいる。

 

ここで、少し気になった部分がある。

何故か葵ちゃんは髪をほどいていない。

私はもちろん解いているのだけれど、普通にリボンで結んでいるのだから、お風呂の時ぐらいは解けばいいのに、と。

 

「どうして葵ちゃんは髪を解かないの?」

「あ……これは、ただ単に髪をほどくのが、嫌いなだけ、です」

「そっか」

 

あんまり突っ込まないでおこう。

お風呂でも解かないとなると、何か特別な理由があるか、本当に嫌いなのか、どちらかだ。

浴槽、それも五右衛門風呂と呼ばれる物に浸かる。

 

「逆に、ミクさんはどうしていつもツインテールなんです?」

「私? 私はそれが一番私らしい髪型だから、かな。こんなに長くて、手入れをするのも大変だけど、それでもお気に入りだから」

「そうなのですか……」

 

私らしい髪型…それは『初音ミク』としての私の髪型だ。

本当に私らしい『私』とはいったい何なのだろうか。髪型でなくても、在り方として。

今のままであり続けること? この幸せな時間を過ごすこと?

歌が歌えなくても、ずっと優希さんの傍にいること?

VOCAL ANDROIDとして世に送り出されようとした私が、歌えなくても。

彼と一緒にいることで私らしい私になれるのだろうか。

 

「どうしたら、私は私で居られるのかな」

 

呟いたそれが耳に届いたのか手を止める葵ちゃん。

 

「あんまり、深く考えすぎない方が楽です。あんまり私達が言えることじゃないですけど」

 

包丁さん達は人を殺して生きてきたからこそ、精神を保つためにそのことを出来る限り見つめないでいたのだろう。

現実に押しつぶされそうになったから。

そもそも人の命を救う存在が、人の命を殺める存在になってしまったなら、なおさらだ。

 

どのようにしてそんな世界を切り抜いて生き抜いてきたのか。

それに何かヒントがもらえるかもしれない。でも、これはいわゆる『地雷』だということは解り切っていた。

だから聞くことが出来なかった。

 

思い返す。あまり深く考えすぎない方が楽と。

今の幸せな時間を過ごすことが出来ればそれでいいのだと。

その場しのぎにしては最上の策だと思う。

だけど見つめなければいけなくなった時。その時はこの策は使えない。

 

「自分は自分であることに自信を持ちなさい。自分が存在している事に喜びを持ちなさい。今ある些細なことでもいいから幸せを見つけなさい」

「えっ……」

「私の、尊敬する人から教えてもらった言葉。そうだよね、葵ちゃん」

「………」

 

彼女は答えてくれなかった。

考えるために目を閉じると、お風呂に入っているからか、あの時の事を思い出す。

 

『…マスターには優希さんを見習って欲しいです。あの人は…そうですね、まとめて言えば、意地悪でスケベで意地悪で…意地悪で、えっと…い、意地悪な人です。あとスケベです』

 

『妬い…っ!?ち、違いますってば!だ、大体、何で私がマスターなんかに妬く必要があるんですか!?』

 

『うぅ…そ、それは確かに、たまには優しかったりしますけど…で、でも、圧倒的に意地悪なことが多いんです!そんな人を好きになったりしませんよ私!』

 

人は恋をすれば本当の自分が見えてくるという話を、どこかで聞いたことがある。

 

彼女のように、自分のマスターを心から好きになれたなら。

マスターとVOCALOIDという関係を超えて、繋がることが出来るほどの力なら。

どれだけ私は私らしく変われるだろうか。

 

それが楽しみでも、興味のあることでもなかった。

自分を見つけるための道具として恋愛という物を使いたくなかったから。

恋愛は、恋愛だからこそ素敵な物だと思っている。少しぐらい夢を見てもいい気がする。

 

「包丁さんは、人を好きになったりするのかな」

 

私が話しかけなかったからか、体を相変わらず洗っていた葵ちゃんの動きがぴたりと止まる。

すると、絞り出したかのように声が聞こえてきた。

 

「私達は……そういうこと……しちゃいけないんです。あくまで、カミサマですから」

「っ! ……ごめんね」

 

その反応に私はしまったと思い、ただ謝ることしかできなかった。




今回、もう忘れ去られたであろう、コラボ回の奏のミクのセリフを大量に引用しました。
でも、こちらのミクさんは奏のミクは目標であり憧れでもあります。
より乙女らしく生きる、彼女は。

葵が髪を解かない真の理由はまだ明らかではありません。
ただ好きではないという事が公式で本人が発言しているだけで、
その理由がなんなのかはわかりません。今年の年末・来年の初期に公開されるであろう『包丁さんへるぷみぃ』で明らかになるのかもです。
『包丁さんのうわさ』と現在(2013/06/12時点)の公式の情報を合わせても、
包丁さんに関する真実は3割か下手すりゃ2割という事ですし。

次回は、鈴蘭も公開した、というわけで包丁さんオンリー回。
日常編にはまったく影響を及ぼしませんが、包丁さん達に影響を及ぼすかは不明。(ただし、その世界にいる包丁さんのみ)
とりあえず、この作中で出てきていない包丁さん達は全員出るかな…?
紹介は自重しますが。数的な意味で。
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