VOCALOID×包丁さんのうわさ ~路頭の花と歌姫達~   作:kasyopa

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「包丁さんの話が来ると言ったな…」
「そ、そうだ大佐っ!」
「あれは嘘だ」
「うわあああああああああああああ!!!!!」

ボカロ成分を大量に摂取したので、久々に平凡物。執筆したのは22話まで執筆後ですので、実質一番日が浅い作品。
時間は、優希達が温泉の件から帰って来て、春になった頃です。
ただ、夏奈子とルカは出てきません。今は亡き祖父の件で忙しいですから。

ミクがメインとなる話です。できれば、奏のミクも参入させたいがそれもかなわぬ夢よ。


第20話 外伝 ある春の出来事

Side 初音ミク

 

 

春。

桜の舞う季節。

それは私達の住まう町でも例外ではなく、町を彩らせるために点々と立っている桜が命を芽吹かせていた。

 

「優希さん。桜は好きですか?」

「どうしたいきなり。何かあったのか?」

「いえ、桜が綺麗だなって」

 

私が窓の外を見つめると、風で運ばれてきた桜の花びらが庭に降っていた。

因みにここは優希さんの部屋だから、リンちゃんとレン君は一階に居る。

もちろんマキさんもゆかりさんも一階だ。

 

「桜、か」

 

何か思い当たる節があるのか、少しだけ考えて彼は口を開いた。

 

「桜は好きだが、儚い存在ではあるな」

「儚い、ですか」

「そう。他の花のようにその花を留まらせることは少ない。そういう意味で儚き物の比喩としてはよく使われる」

「なるほど。ありがとうございます」

「いや、例を言われるほどのことは言ってないさ」

 

再び外に視線を戻す。また風が桜の花びらを運んできた。

 

「皆に聞いて回ったらどうだ? 何かいい答えがもらえるかもしれないぞ」

「……そうですね。皆さんの意見も、聞いてみたいです」

 

私のお話は、こんな些細な会話から始まったのだ。

 

 

********

 

 

「リンちゃん、桜は好き?」

「うん! なんていうんだろ、春が来たー♪ って感じがして好き!」

 

一階に降りるとリンちゃんと出会ったので早速聞いてみる。

たしかに、桜は俳句でも春の季語だったりと、春の風物詩として有名だ。

どこかに向かうのか、リンちゃんはその答えだけを置いて二階へ行ってしまった。

 

「リン! あ、お姉ちゃん。リン見なかった?」

「え? うん。さっき二階の方に……」

「よしそれなら!」

「あ、待って!」

 

リビングから飛び出してきたレン君。どうやらリンちゃんを追いかけてるみたいだ。

元気で微笑ましいんだけれど、私には聞かなきゃいけない事があったから呼び止める。

 

「ん? どうしたの?」

「レン君は、桜好き?」

「桜……好きだけど、やっぱり女の子、って感じがするかな。桜って女の子の名前で多いしさ」

 

そう言い残してレン君は二階へ駆け上がっていった。

女の子の名前……確かに、アニメとか漫画のキャラクターでは、名前が桜と付くのが多い。漢字でも、ひらがなでもしかり。

レン君は意外と女の子寄りなのかな、と思いながらリビングに入る。

 

「あ、ミクちゃん降りてきた」

「マキさん」

 

マキさんはテレビでバンドのライブ放送を見ていた。

もちろん歌っているのも演奏しているのも、人のバンドだ。

 

「マキさん、桜は好きですか?」

「桜? 桜は好きだよ? お花見出来るし!」

「お花見、ですか」

 

なんだか夏奈子さんみたいな答えが返ってきたなぁ、と思いつつ考える。

確かに、日本でもお花見シーズンとして桜の咲き具合で混み具合も変わってくる。

 

「私としての桜は、日本の象徴ですね」

「あ、ゆかりさん」

 

後ろから不意に声をかけられ振り返ると、ゆかりさんが手を拭きながらリビングに出てきた。

 

日本の象徴……日本の花として輸出された桜は外国でも非常に人気と聞く。

 

「何かいい答えは得られましたか?」

「いえ、もう少し聞きまわってみます。……と言っても、誰か居るでしょうか」

「それならWonder Cafeがおすすめだよ」

「Wonder Cafe?」

 

不思議なカフェ……?

名前からして驚きのカフェともいえるのだけれど。

 

「確かにあそこなら……ミクさんは行ったことはありませんね。その顔から察するに」

「はい。どういったところなんでしょうか」

「どういったところって言うのはまず行ってみてから」

「場所は商店街です。一件だけログハウス風のお店がありますから、そこですよ」

「……っ!」

 

商店街。私が犯され、捨てられた場所。

商店街の道の真ん中で見せ物にされたわけではないけれど、それでも私のトラウマの場所だ。

 

「大丈夫だよミクちゃん。あれから強くなったんだよね」

 

マキさんがそっと耳打ちしてくる。

それに驚き、慌てて返す。

 

「ど、どうしてマキさんが知ってるんですか?!」

「美希さんからある程度聞いてるからね。優斗さんはあんまりその手の事知らないから、ゆかりちゃんは知らないけど」

 

なるほど。優希さんから優希さんのお母さんへと伝達されていって、今に至ると。

 

「ミクちゃんは何も悪いことしてないんだからさ。胸張って歩いていればやましいこと考えてる人なんて近づいてこないって!」

 

私はマキさんの言葉に後押しされるように家を出た。

そうだ。私は胸を張って生きていけるという自信を先の旅行で学んだんだ。

 

それを糧に、私は商店街に駆り出した。

 

 

*********

 

 

目的のお店はすぐに見つかった。

商店街をキョロキョロと見渡しながら歩いていると、一件だけ異彩を放つログハウス風の建物があったからだ。

名前は『Wonder Cafe』。うん、ここで合ってる。

 

カランカラン、と音を立てて扉が開く。

ログハウス独特の木の匂いに、ケーキのような甘い匂いと、コーヒーの苦い匂い。

ほんのりとした紅茶の香りも交じって、喫茶店の雰囲気が出ていた。

 

「いらっしゃいませー。あら?」

「あ、こんちにわ……」

 

私はぎこちなくカウンターに立っている店員さんに返事を返すと、適当なカウンター席に座る。

他のお客さんはいないのだが、そのせいで店員さんの視線が集中する。

 

「もしかして、優希さんの所のミクさんですか?」

「え! どうしてそれを!?」

 

さっきも同じようなやり取りをマキさんとした気がする。

でも今度は大声をあげてしまった。

慌てて口を塞ぎ、周りを見る。お客さんは相変わらずいない。助かった。

 

「ふふふ。もしかしてと思って鎌をかけてみましたが、当たりだったみたいですね」

「あの、それは鎌をかけるというより、ストレート過ぎませんか?」

「そうですけどね。優希さんがミクさんを自分のVOCALOIDにしたなら、こんなおしとやかな子になると思ったんです」

「おしとやか、ですか」

「そうですよ。VOCALOIDには少し不思議なものがありまして。それが何とは言いません。主に似た……いえ、主の望んだ姿を取る傾向にあるんですよ」

「主の……マスターの望んだ姿」

「だから優希さんはリンちゃんやレン君には元気で居てほしいという思いがあって、二人はあの元気な姿をしている。それも無意識下で」

「では、私は? 私は一体」

「ミクさんは16歳ですよね?」

「はい。公式ではそうなっています」

「だからですよ。ほぼ同じ歳だからこそ、そういう近しい女性にはそういった人であってほしいと優希さんは思っているんです」

「でも、優希さんには夏奈子さんがいるじゃないですか」

「それなら尚更ですね。明るく元気で活発な同世代の子はいる。だからもう一つの『可能性』を無意識に求めているのではないのでしょうか」

「無意識下で……私がおしとやかで。そうあってほしいと。でもどうしてそんなことが言えるんですか?」

「優希さんはよくここを利用しますからね。その様子では、リンちゃんやレン君も……あぁすみません。ご注文は何がよろしいですか?」

 

それに私も気づいたように、カウンターに立ててあるメニューを見つめる。

価格設定はスイーツやアイスクリーム、紅茶が安い。ジュースやコーヒーは比較的値が張っているようだ。

普通、喫茶店なのだから飲み物を安くしたらいいのにと思いながらも、シフォンケーキと紅茶をお願いする。

 

「少しだけ待っていてくださいね。特別なお客様には、最高の物をお出ししたいので」

 

彼女は微笑むと店の奥に消えて行ってしまった。

どうやらこのお店は彼女が店主らしく、他に店員も見当たらない。それにそんなに広くない。

 

「私が、特別なお客様?」

 

そんなことを考えながらもう一度店内をぐるりと見渡していると、一つの物が目に入った。

小さな木箱がたくさん並んでいる。値札が付いているところを見ると、売り物の様だ。

思わず席を立って歩み寄る。

 

『ご自由にお聞きください』

 

蓋を開けると、音楽が流れだす。その小箱はオルゴールだった。

作り込んであるが手作り。中の本体は解らないけど、小箱は確実に手作りだという事が解る。

 

「いい音色……あれ?」

 

オルゴールの音色に聞き惚れていると、どこかで聞いたことがあるメロディーだという事が解った。

そのメロディーを追う。そして一つの答えにたどり着いた。

 

「これ、私の曲。私じゃないけど、私の曲だ」

 

そう。初音ミクが歌っている曲だ。それも有名どころ。

こんなオルゴール私は知らない。色々と社会も知らないからかもしれないけど。

でも、何故かあるはずがないと思った。

 

「ごめんね、お客を一人にするなんてマスターも……ってあら?」

「え? あ」

 

店の奥から出てきたのは店員さんではなく、私のよく知っている顔だった。

 

「MEIKO姉さん」

「ミクじゃない。なるほど、マスターが変に上機嫌だったのはそれだったのね」

「あの、いつも優希さんがお世話になっています」

「あらあのマスターの所の。ますます納得ね、ちょっと待ってて」

 

注文は紅茶でよかったかしら? と言われて私は首を縦に振った。

非常にテキパキ手際よく用意して、カップに湯気を立てながら紅茶が注がれる。

私はすぐに出るだろうと思ってカウンターに再び腰を掛けた。

 

「砂糖はどうする?」

「多めでお願いします」

「ミルクとレモンは?」

「あ、ミルクを中くらいで、レモンは大丈夫です」

「はいどうぞ。熱いから気を付けるのよ」

 

目の前に出された紅茶は湯気を立てていて、いかにも淹れ立てで熱いのは火を見るよりも明らかだった。

小さなスプーンですくって冷まし、少し飲む。最初に来たのは砂糖の甘さ。

そしてミルクでまろやかになった紅茶の味。

うん。おいしい。

 

「知ってる? ミルクティーってミルクを先に入れておくとおいしいのよ」

「え、そうなんですか?」

「ほら、外国だと紅茶が重要視されてる国だってあるじゃない? その国の最も権威があるところが判断を下すまでに至ったのよ」

「そうなんですか……大変ですね」

「まぁ、嘘っぽい本当の話は話のタネになっていいわ。それにこういう事もやってると、自然と自分でも詳しくなる物よ」

 

やれやれと仕草をして、私の隣に移動してくるMEIKO姉さん。

 

「思ったんだけど、そんな甘いの大丈夫なの?」

「はい。家だとどうしても遠慮してしまうんです」

「遠慮しなくても、あんたのマスターならそう制限かけないでしょ」

「でも、なんだか浮いてしまう気がして」

「結構心配性なのね。あんたはいい子だから、もっと自信を持ちなさいよ」

「なんだか、不思議ですね」

「? 何が?」

「いえ。私は今日初めてここに来て、今日初めてMEIKOさんや町谷さんと会ったのにまるで最初から知り合いだったみたいな……」

 

そう。MEIKO姉さんのフレンドリーな口調ですっかり彼女の波にのまれていたが、私と彼女らは初対面なのだ。

相手がいくら優希さんやリンちゃんやレン君を知っていたとしても、私の事はあんまり知っていないしから。

 

「あぁ、それはあんたのマスターが結構話してくれたのよ」

「優希さんが?」

「歌えない事とか、アンドロイドとか、ね」

「――――――」

 

優希さんが私の知らないところで私の話題を話してるとは。

 

「マスターから聞いたと思うけど、結構な回数一人で来てるのよね」

「優希さんが、ですか?」

「そうそう。それでマスターがちょっとした軽いカウンセリングしてるの。まぁ簡単に言うと相談相手ね」

「それで私の話題が出ていた、と」

「その様子だと、あのマスターこっちに来て相談してるってこと言ってなさそうね。ま、マスターとしての威厳もあるんだから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど」

 

私が紅茶に視線を落としていても、まだMEIKOさんの一人語りは続く。

 

「言っても、『マスター』は『人間』なのよ。私達に『VOCALOIDとしての悩み』があれば、『マスターとしての悩み』もあるのよ」

「だから、マスター同士である町谷さんに相談を」

「そういう事。私達はあんた達と違ってもう大人だから、細かいところの悩みは違うんだけれど」

「私もまだまだ子供ですか……?」

「子供よ子供! 年齢なんて所詮私達にとってキャラクターとしての位置をある程度格付けるための設定に過ぎないだから」

「……そうなんですか」

「要は中身よ。心、精神、魂。『Ghost in the Machine』」

 

ここぞとばかり、顔を近づけてくるMEIKO姉さん。

それに威圧され、思わず下がってしまう。

 

「でも、私達からしたら、一番人間らしいのはミクかもしれないわ」

「え……」

 

くすりと笑って、彼女は視線を前に戻し、いつの間にか置いてあった麦茶を飲んでいた。

でも麦茶の割には氷が大きく、グラスも少し見たことのないもの。

それを躊躇なく少しだけ飲んで、また向き直る。

 

「あんた十中八九VAWCで働いたことないでしょ?」

「はい。話だけなら聞いたことがあります。リンちゃんもレン君も、時々出てますから」

「そこでは誰が働いてるか知ってる?」

「誰って、VOCALOIDじゃないんじゃないですか?」

「そう。VOCALOID。それもおびただしい数のね。さて問題。このVOCALOIDの中で一番数の多いVOCALOIDは誰でしょう?」

「えっと……私、ですか?」

「正解! じゃあ逆に数の少ないのは誰か解る?」

「えっと、MEIKO姉さん?」

 

それを聞いて、やれやれと首を横に振る彼女。

私はその行動の意味を後で理解することになる。

 

「不正解。正解はKAITOよ」

「あ……でも、最近世に出回ったVOCALOIDはどうなんですか?」

 

こんな事例が起きていても、価格が高騰してても、やはりVOCALOIDの開発は止まらない。

そう。こういったものを作れば売れるという、世間の流れに変わりつつあるから。

悲しいけど、でも、そういうものだ。

 

「あー、そのことだけど。発売当初はいつもと変わらない値段で売り出されてるのよ。それからしばらく様子を見て、価格を引き上げてるらしいわ」

「確かに、新しい物と言っても売れないと意味がありませんもんね」

「そうそう、って話が脱線しちゃったわね。で、一番数の多いミクはミクで、一番数の少ないKAITOはKAITOで、みんな同じ性格だと思う?」

「いえ、そうは思いません」

 

町谷さんからさっき聞いたからだ。

VOCALOIDはマスターの望む望んだ姿を取る傾向にある、と。

 

「ならもう解ってるんじゃない」

「えっ……何が、ですか?」

「自分は自分であることに自信を持ちなさい。自分が存在している事に喜びを持ちなさい。今ある些細なことでもいいから幸せを見つけなさい」

 

MEIKO姉さんの言葉。

忘れて挫けそうになったら、またこの言葉を思い出そう。

答えが見えなくなったら、またこの言葉を思い出そう。

私は、その言葉を深く胸の奥に刻み込んだ。

 




という事で、ミクのお話でした。まだ続くかもよBダッシュ。
正直、この小説が目指す先が解らない。
どう向かえばいいのか、そういったことすらも見えない。
ただ、終焉は必ず訪れます。
どんな作品でも、ね。完成して、初めて作品だから。

悩みの無いただ単に平凡を暮らす者よりも、何かの不具合を抱えた者の方が、
ストーリーを構成しやすいのは事実。それはなぜか。
その不具合が『問題』であり、その『問題』を『解決』するために奮闘する『過程』を描けばいいのだから……
場合によっては、その『問題』が発覚するまでの『過程』を描けば、進行はゆったりとなります。
平凡は、些細な『話題』を『発展』させるしかできないのですよ……悲しいけどね。
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