VOCALOID×包丁さんのうわさ ~路頭の花と歌姫達~ 作:kasyopa
人に作られし、人を救わんカミガミよ。
今回はまともな話です。
Side 鈴蘭
風呂場から出たはいいものの、一つの問題に突き当たった。
「そういえば、私の着る服がありませんね……」
理由は濡れたから洗濯ついでに、瓶子さんが持って行ってしまったからで。
リボンは髪留めの代わりにも使っているから、必ず持ち歩いているのだけれど。
とりあえず言われるままに行動するといけない場合もある、と思いながら打開策を考える。
ちなみに稲はあの後先に上がってしまっており、伝言として使う事さえ今では後の祭り。
ならばどうしようか。大声で呼べば多分昼寝をしているであろう、薄雪と柊を起こしかねない。
この姿のまま居間に行ってもはしたない。バスタオルの様な物は無く、普通の体を拭くためのサイズ程度のタオルしか無い。
本格的に悩んでいるとき、一人の気配を感じた。
「あら? ティアじゃない。こっちに来てたのね」
「あ、リリィ」
「どうしたの? 見たところ衣服がないみたいだけれど?」
丁度通りかかったリリィが私に気づいてくれた。
異変にもすぐに気づいてくれた事に感謝しながらも、私は事情を説明する。
彼女はなるほどと相づちをうつと、待っててと言い残してその場を立ち去った。
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しばらくして、リリィがやってきた。
「ごめんなさい、こんな服しか無くて」
彼女が持ってきたのは、彼女がいつも着ている赤紫色のワンピース。
話によれば、泥などで汚れたときのための替えの服だそうだ。
実際、いろいろな服を持っているのは服作りが趣味の牡丹さんだけ。
私も自宅まで行けばとりあえず替えの服がある。
そこまでこの服は貸してもらおう、そう思って着てみると。
「………」
予想以上に肩幅が広く、片方ずれればそのままストンと落ちてしまいそう。
胸元の襟の部分が張っておらず、少し下がったそこからは谷間が見えてしまいそうな程。
袖も長く、親指以外の指を出すのがやっとだ。
「やっぱりティアには大きかったかしら?」
「いえ、何とかなりそうですが……」
「無理しなくても……あ、竜胆さん」
「はい、なんですか?」
また、丁度通りかかった竜胆を今度は百合が引き止める。
私が事情を説明する前にあらかたの説明と、私の姿を見てある程度察してくれたのか、首を縦に振ると彼女もまた持ち前の足でどこかに言ってしまった。
「やっぱり竜胆さんは足が早いですわね。少しは見習わないといけないかしら」
「リリィはそのままが一番ですよ。私のように、コロコロと何もかもがかわってしまう訳ではないですから」
「逆にティアは変わりすぎよ。それにあんまり元気が無いように見えるから、もう少しだけ元気になってくれれば私達にとってもありがたいの」
「元気に、ですか」
「そう。あなたもまだ幼いんだから、杏さんや笹さんの用に外で無邪気に遊んでいた方が、幾分かそれらしくてよ」
「………」
今日千鳥さんにも同じ事を言われた事を思い出す。
私はその事の真意が解らない。どうして私はもっと無邪気で元気でいるべきなのだろうか。
今の私が悪いと皆が言っている訳ではないが、今日になって二人に言われてしまった。
それも、そのうちの一人はリリィから。
「持ってきましたよ」
深い部分まで考えようとしたところで、竜胆さんが戻ってくる。
思考を閉じて、今は今の問題を解決しよう。そう思って竜胆さんの持ってきてくれた服を着る事に専念するのだった。
***********
服のサイズはほぼぴったり。少し余裕があるくらいか。
服についているリボンは、先に乾いていた私のリボンと付け替えておいた。
「そうだ鈴蘭さん、桔梗さんが呼んでいましたよ」
今すぐ自分の服を取りに行こうと思ったのだが、そんな中竜胆さんに呼び止められる。
「? 何かありましたか?」
「朝ごはんを食べていないそうですね。そのことと、お昼ごはんを作るのを手伝ってもらいたいんだそうです」
「解りました」
自分の服とは違うため、少し勝手が違うことに戸惑いながらも、包丁を動かす音が聞こえる台所へ向かう。
と、後ろから竜胆さんが付いてきた。
「竜胆さん? こっちは台所ですよ」
「私も頼まれましたので」
なるほど。それならば納得だ。
それにしても、竜胆さんと桔梗さんが作るのならまず肉料理はありえないだろう。
ちなみに『今の』私は野菜派だから何ら問題はない。むしろ願ったりだ。
という事は今日の晩御飯はお肉でしょうか……?
献立を考えるという事をしないが、現在はこういった人達に似せて包丁の形をとっているのだから、自然とそんなことが頭をよぎる。
台所に着くと、後姿の桔梗さんがキャベツを切っていた。
「桔梗さん、連れてきました」
「ご苦労様です。竜胆さん、申し訳ありませんが変わって頂けますか?」
「はい」
入れ替わるように持ち場を離れる桔梗さんは、私の顔をしっかりと見つめていた。
その吸い込まれそうな紫色の瞳に魅了されたように、私の体は動かなくなる。
桔梗さんは特殊な能力を持ってはいない。強いて言うなら自分の媒体の特性上、とても力持ちであることぐらいだ。
何を言われるのだろうか。怒られるのだろうか。
「鈴蘭さん、今日はいつにも増して随分と遅かったですね。どうかされましたか?」
「いえ……何もありません。起きるのが遅かっただけです。寄り道はしてませんので、ただ単に」
「嘘はついてないようですね。ここ最近、貴女は起きるのが遅いような気がしますが、何か訳でもあるのですか?」
「……ありません」
「「嘘ですね」」
目を逸らした時点でそういわれてしまう。それだけではない。桔梗さんの後ろで野菜を切っていた竜胆さんにも言われてしまった。
「本来なら、嘘を吐くようなことはしない貴女が嘘をついても、すぐに解るものなのですよ。特に仕草で、です」
「それはともかく、何故竜胆さんが解ったのですか?」
「話を逸らすとは、感心しませんね」
「………」
「それは私の家が鈴蘭さんの家と近いからです。ここ最近、夜遅くまで灯りがついているのが見えますから」
二人からの猛攻。それにあえなく私はぽきりと折れてしまった。
「すみません。夜、寝付けないのです」
「寝付けない?」
「はい。こういうと少しおかしいのですが……一人が寂しいのです」
「「………」」
「昼はここに来れば皆さんと会うことが出来る。交わることが出来る。たとえそれが叶わなくても、様々な音や日の光で照らされ遠くまで見渡し探すことが出来る。
でも夜になると、辺りが暗くなり見渡すことが叶わなくなります。音も直静かになり、孤独になってしまうのです。
早く寝ることが出来れば、また日が昇り、明日がやってきます。でも、明日など不確定な物。いつ何時、何が起こってもおかしくはありません。未来ですから。
今でも思います。今のような幸せな日々が、もし夢で。『その日』が訪れれば、今まで存在したものが無くて。それが、私にとっては怖いのです」
そうなれば、もう私を見てくれる『ヒト』はもういない。
そうなれば、私はもう私で居られなくなる。自分を隠しているこの私でさえも。
そうなれば、私は完全に『カミサマ』になってしまうのだろう。
「鈴蘭さん」
「……はい」
「今日は私と一緒に寝ましょうか」
「……え?」
「それがいいですね」
まるで名案だと言わんばかりに竜胆さんも賛同する。
私は突然の提案に戸惑いながらも、思わず首を縦に振ってしまった。
「それでは決まりですね。今夜、遅くならない内に……いえ、私が帰る時に一緒に帰りましょう」
そういうと桔梗さんは私の頭に手を置いて、優しく髪を解くように撫でてくれた。
温かいその感触は今にも縋り付きたいものだったが、理性でそれを抑え込み竜胆さんの手伝いをするのだった。
*********
朝の分も食べないとな! とたくさんご飯を盛ってくれた千鳥さんと甘藻さんに戸惑いながら、なんとかお昼を終えて居間で膨らんだお腹を熟しながらゆったりする。
「食べてすぐに寝ると牛になりますよ」
竜胆さんがしつこく言ってくるが、私は正直もう動きたくないほど食べたので、どうしようもない。
「仕方ないさ。あれだけ食べたんだから動けないのも解ってあげなよ」
「といっても、起きていないと結果的に消化に悪いですし」
遠くの方から味方をしてくれる稲さんだったが、竜胆さんの言葉に私は体を起こし、縁側に座る。
消化が悪かったらいつまでたっても熟すことは出来ない。
そうとなれば、夕食を食べることが出来なくなり結果的にリズムバランスも栄養バランスも崩れてしまう。
折角桔梗さんが考えてくれているのにそれは申し訳ないという気持ちが、そうさせたのだ。
「(今日の晩御飯は……流石にリリィに相談してパンにしてもらいましょうか。お米は当分口にできそうにありません)」
「………」
そんな事を考えていると、白い影が私の近くに現れた。
今にも消えてしまいそうな儚い雰囲気を醸し出しているのは、薄雪。
「どうかしましたか? 薄雪」
「……眠い」
そういうと、何の断りもなしに私の膝の上に頭を置き、寝転がる薄雪。
顔は上を向いており、下を向いている私と視線が合う。
「薄雪も今日は少し多めに食べていましたからね、眠いんでしょう?」
「うん……ふぁ……」
小さなあくびをして、瞼を下す彼女。
寝る子は育つというが包丁さんであり『カミサマ』である私達には一切関係ないこと。
いい様に言えば、『老いることがない』のだ。成長とは、一種の老いである。
「(ゆっくりお休みなさい。薄雪)」
私は静かに彼女の頭を撫でて、心の中で語りかけた。
「隣いいですか?」
と、意外な人が現れる。
芒さんだ。
「はい。構いませんよ」
確かに芒さんとは仲がいいのだが、何故か会うことが少ない。
現に彼女は様々なことが出来る上に、どちらかというと活発な人だから、同じ場所に留まるというのは性に合わないのだろうと推測する。
「久しぶりですね。芒さんとお話しするのは」
「いつもご飯の時に一緒に会ってるじゃないですかー」
「いえ、会っていると言っても顔を合わせているというだけですから」
「そういえばそうですね、何故でしょうか?」
まぁ、だからこそこうやって会っている時は比較的長い時間話しているので、平均化すれば皆さんと変わらない程出会って、話しているのだろう。
「そういえば、今日立派なウナギが釣れたんですよ! 今日の晩御飯はスタミナを付けるためにも鰻丼で決定ですね!」
「芒さん。気持ちは解りますがそんなに大声を出すと、薄雪が起きてしまいます」
でも鰻丼とはいいことを聞いた。土用の丑にはまだまだ早いが、一番調理が得意でそれが大好物である彼女が言っているんだ。ほぼ夕食はそれで確定だろう。
「鰻……?」
「あ、起こしてしまいましたね。すみません薄雪、五月蠅くしてしまいました」
「いい……鈴蘭……あったかいから……」
「日差しは眩しくありませんか?」
「大丈夫……」
「薄雪ちゃん、ごめんなさい。ちょっとはしゃぎすぎちゃってたね」
「ううん……芒……悪くない」
にゃあ。
突然の妙な音に私はピクリと体を震わす。
それが原因で薄雪を驚かせてしまい、私は謝罪の言葉を述べる。
一方の芒さんはその音に反応して辺りを見渡した。
「あ、いたいた! ほらほら、こっちにおいでー」
母屋の裏庭の入口。そこには一匹の猫がこちらの様子を伺っていた。
薄雪もそれに興味を示したのか、目を擦りながらも起き上がる。
「あの子は、芒さんのところの」
「うんそうだよー」
猫も少し警戒していたようだけれど、芒さんの姿を見つけたからか、ゆっくり近づいてきて芒さんの膝の上に飛び乗った。
日差しが気持ちいいのか、丸まってそのまま目を閉じてしまった。
「えへへ、やっぱり可愛い」
ご機嫌な芒さんはそんなことお構いなしで、頭や背を撫でる。
それが彼女にとって気持ちいいのかよくは解らなかったが、少しばかり私も興味がそそられる。
「鈴蘭ちゃんも触ってみる? 気持ちいいよー」
「で、ではお言葉に甘えて」
ふんわりとした毛並の感触と動物の温もりが、私の掌に返ってくる。
するとどうしたことか、ゴロゴロと喉を鳴らし始めて、私は驚き手をひっこめた。
それと入れ替わるように、ゆっくりと伸びてきた薄雪の手が猫に触れ、ゆっくり撫で始める。
「あはは、鈴蘭ちゃんは動物に慣れてないんだね」
「はい、申し訳ありません」
「謝る事じゃないよ。それにこの子も、気持ちいいって言ってくれてるんだから!」
「えっ、芒さんは猫の言葉が解るんですか?」
「ううん? でも雑誌で読んだことがあるんだよー。猫が喉を鳴らしたら、気持ちいって言ってるんだって」
「そうなのですか」
そう考えると、先ほど手をひっこめてしまったのも猫に対して申し訳ない気がする。
でも今は薄雪が堪能しているからやめておこう。
互いに年少と言っても私が姉なのだから。
最近前編、中編、後編と、ジェットストリームアタックが続いてます。
でも妄想が広がりんぐ……あれ? こんなはずじゃなかった気が……
今回の話も、前編、中編、となってますからねこれ。
変態要素・真面目要素・??? この『???』に何が入るか。
多分、『その者達にしかない立ち位置』を描くかもしれません。
~原作キャラクター簡易説明~
今回は竜胆と芒。竜胆(りんどう)って読めますよね?
最近包丁さんの本名しか見てないから、真名を忘れかけるという大惨事。
名:竜胆
説明:いたって真面目(すぎ?)な委員長的包丁さん。年少組。
媒体の形状の影響からか、仄かに笹に似ている。野菜とか野草とかが好き。
お腹を冷やしやすい等寒さに弱く、足が非常に速いという隠し特性を持っている。
名:芒
説明:元気で面倒見がよい、桔梗とは別方向でのお姉さん。年中組。
鰻を釣りやすかったり、捌くのが一番うまかったりと、媒体の関係と生前の影響をかなり受けている人。
それでも『ヒト』寄り。意外となんでも出来る、オールマイティーな包丁さんでもある。