VOCALOID×包丁さんのうわさ ~路頭の花と歌姫達~ 作:kasyopa
何でだろうなぁ……モチベーション管理って難しいなぁ。
というわけで23話(実質24話)です!
包丁さんの世界のお話はこれにて終了。新しい包丁さんも出ます。これも最後です。
次回からは夏奈子の祖父の家の話に戻ります。
これ以降、書き溜めがありませんので、更新ペースが崩れるかもしれませんことをお伝えします。
Side 鈴蘭
私は薄雪、柊とで縁側に座っていたのもあって少しうとうとしている。
因みに私の包丁は既にパン切り包丁の形に戻してある。もう出刃包丁ではない。
「おやつですよー」
桔梗さんの声が後ろから聞こえてきた。
そうか、もうそんな時間なのかと首を横に振り無理やり眠気を覚まして立ち上がろうとすると、薄雪を膝枕していたことを思い出して慌てて座りなおす。
それでも、早く行かないと大きい物は杏や笹に取られてしまう。
しかし薄雪と柊を置いてこの場を離れるのも可哀想だ。
「……そういえば杏や笹は既に呼ばれていましたね」
今この世界にいる包丁さんとしての幼子は私を含めて3人。
次によばれるのは誰だろうか。
そんなことを考えていると、眠っていた薄雪が目を覚ました。
「薄雪、おはようございます」
「うん……おはよう……」
すると自分の包丁を持って外に出ていく彼女。
「呼ばれたのですか?」
「……うん」
それだけ残して薄雪は消えた。
さて……これで後2人、ですか。
とりあえず柊を起こしておやつを貰おう。
よく日向ぼっこをしている彼女でも、さすがにここまで寝ていると夜に響くだろう。
「柊、起きてください」
「……? 薄雪は?」
「彼女ならもう行ってしまいました」
「そう」
「それより、おやつの時間ですよ。今日はなんでしょうかね」
「寂しい?」
不意の彼女の発言に戸惑う。
普段ならそういうことを言わないと思って居た頃も幸いしたのだ。
寂しい……寂しいですか。
「そうですね、寂しいですよ。そういう柊は寂しくありませんか?」
「寂しい……けど、まだ皆いる」
「柊は強いんですね」
ここでおやつの事を思い出して二人で食卓に移動する。
「桔梗さん今日のおやつは――――」
ドゴォン!
「!」「っ!」
その轟音に驚いて柊が私の方に飛びつき、それによって掛かった体重でうまくバランスが取れなくなり仰向けに倒れる。
足が不自由だとこういう事もあり得るのだ。
「柊、大丈夫ですか」
「うん、大丈夫」
運よく柊のいる反対側に倒れることが出来、倒れた衝撃で彼女が投げ出されることもなく、私の胸の中にすっぽりを収まっていた。
心地いいのか、少しばかりすりすりと顔を擦りつける柊。
それが可愛らしくて、頭を撫でる。
「……で、何か言い分はありますか?」
「……ない!」
「そうですか」
どうやら桔梗さんと千鳥さんが揉めているようだ。
何が原因で揉めているのか……いや、もう既に結果は出ていた。
既に桔梗さんの鉄拳が千鳥さんに振り下ろされようとしていたから。
「いけません!」
するとどこからか声がして、大きな影が二人を阻む。
桔梗さんはそれを寸のところで止めて、溜息一つ。
「『篝火』さん、貴女は優しすぎます。時にはお灸を据えなければいけません」
「いくら千鳥さんの悪行が過ぎたと言え、あまり体罰はよろしくないですよ」
「ですが……!」
「今回の件は、私が鈴蘭さんの分を補えば済む話です。そして何も教えなければいい。嘘も方便と言うではありませんか」
間に入った大きな影は、『篝火』さんだった。
そもそもが年長組だけあって身長は桔梗さんや千鳥さんよりも高い上に、その身に纏っているマントが体をより大きく見せる。
彼女はほとんど母屋におらず、自分達から会いにいかなければ会えない。
でも母屋で何かがあった時は必ずと言っていいほど現れる。不思議な人だ。
それに、私の分とは一体……?
「あの、どうされたんですか?」
「あ、鈴蘭ちゃん」
稲さんが私達に気付き、私に対して視線が集中する。
と言っても、ここにいるのは椿、牡丹さん、葵、杏、笹、薄雪以外なのだが。
「鈴蘭さん、すみません。千鳥さんが貴女の分を食べてしまったのですよ」
「ごめんよ、それが鈴蘭の分とは知らずに……」
「あの、そのおやつとは一体」
「いきなり団子です」
たった今口の中の物をのみ込んだ様子の竜胆さんが答えてくれた。
なるほど。配分は一人一個の様ですが、私の分は何が違ったのでしょうか。
「リリィは来るのが遅かったものね。一回り大きかったのよ」
「それを間違って千鳥ねぇが食べて、日々の行い等々目に余っていたからか桔梗がとうとう怒った、というわけだ」
「全く、千鳥ももう少し鈴蘭みたいに落ち着いてればねぇ」
「甘藻には言われたくない!」
確かに甘藻さんと千鳥さんは活発で元気な人達だ。
しかし、私から見ても甘藻さんの方が少し制御が効いているというか、理性があるというか、姉らしさを持っていると思う。
「何はともあれ、これにてこの件は終わりです」
ぽんと手を叩く篝火さんは自分のいきなり団子を、自分の持っている包丁で半分に切り別のお皿に添えた。
「でも、篝火さんの分はどうするんですか?」
「私は少々お腹を下していましてね。消化の悪い物は控えているんですよ」
「いきなり団子には確かにさつまいもが付き物ですが……いいのですか?」
「私がいいと言っているのですから問題ありません。ところで、薄雪さんの姿が見えないようですが」
「薄雪は……さっき呼ばれていった」
「……そうですか」
残念そうな顔をする彼女と、安心した様子の桔梗さん。
本当にここ最近は呼ばれ方が廃れてきているのか、その言われている者にしか呼ばれていない。
呼ばれたからと言って必ずその人が呼んだかは解らないのも事実なのだが。
でもこの流れで薄雪が呼ばれたのであれば、きっとその人だろうと桔梗さんは思って居るのだろう。
「では一つ余ってしまいますねー。これはどうしましょうか」
「篝火、お腹下してるなんて嘘だろ。貰ったらどうだ?」
「甘藻、私は本当にいいのですよ。私としてはお二方に差し上げるのが一番と思いますが、他に誰か食べたい方はいらっしゃいますか?」
その問いかけに皆何も言わない。
「では決定ですね」
また自分の包丁で器用に切り分けて、私達のお皿に置く。
しかし柊の事も思ったのか、半分ではなく私の方が小さかった。
その程度で私も駄々は捏ねない。
「それにしても薄雪ちゃんが呼ばれたか。向こうは順調そうで何よりだ」
「その分、こっちの人数が減っていってるけどな」
「それは前も言ったけど、仕方のないことだよ。それが私達にとっての最後の代償なのかもしれないね」
代償ですか……人が捻じ曲げた、とはいえ私達もヒトゴロシをしているのには、変わりないという事ですね。
「今考えても仕方ありません。今は今を生きる。それが最も重要なことなのです」
「そうですね。どのみち誰が最後になるかも解らないのですから、未来の事を思って居ても仕方ありません」
私は黙っていきなり団子を頬張る。
少しばかり、塩辛い味がしたような気がした。
Out Side
おやつの時間が終わり、皆も自分の用事の為に散り散りになっていく。
途中、鈴蘭が瓶子に捕まってどこかに連れていかれてしまったが、たぶん裏で陰干しされていた彼女の服の件だろう。
篝火もとりあえず自宅に戻ることにしよう、と思ったところで。
「篝火!」
声をかけられる。この声はいつもと同じ、甘藻の声。
思いのほかその声が力強く、怒っているようだ。
「はい、どうされました甘藻さん」
「どうしてもって、本当にあれでよかったのか?」
「そもそも、篝火ねぇも関係ないことだっただろう。どうしてそこまでするんだ」
月桃も会話に参加する。彼女の様子を見ると自分の媒体の手入れの仕上げをしているようだった。
「そこまで、と言われましても。私は私なりの考えで動いているだけにすぎませんよ」
「篝火なりの考えって言ってもなぁ」
「先ほども申し上げましたが、私があげる本人で、私がいいと言ったのですから問題ありません。貴女達には害もなかったはずですが」
「見てるこっちが苦しくなるんだ」
手入れを終えて、軽くそれを振る彼女。
その言葉に同意するように、甘藻も首を縦に振った。
「何故苦しいのですか? 気に病むことはないのですよ?」
「篝火は何も解っちゃいない。どうして毎度自分の身を削るんだ。お前に何の関係もないことでも」
「この前の椿ねぇと千鳥ねぇの件もそう。どうしてそこまで……」
「それが私の本心ですから」
「この身を削いで守れるならば、守ってあげたいのです。たとえ四肢を投げ出しても、命を投げ出しても、守れるのであれば」
「「………」」
そこまで言われて答えなくなる二人。
この者は止められない。そう理解したのだろうか。
Side 篝火
月桃さんが語った話。それを少し振り返ろう。
そう。私が皆の争いまでも止めようと決心した、あの事件。
確かその頃は、皆さんがまだこの場所で楽しく暮らしていた頃の事だと思う。
私が自分の家で掃除をしている時、母屋から轟音が聞こえてきたのだ。
何かいけない予感がした私はそのまま即座にその場へと向かった。
その時、自分でも何故カミサマにならなかったのだろうかと、後悔している。
***********
母屋に息も絶え絶えで着いた時には、大変なことが起きていた。
庭には大きな穴が開き、いくつもの木が倒れていた。
その場に居る唯一の年長である甘藻さんと年中の百合さんは年少組の皆をあやすので精いっぱいだった。
年少組と言っても、鈴蘭だけがいない。
そして、庭の方で影が3つ。
椿さんと、千鳥さんと、桔梗さんだ。
3人とも、カミサマ姿で戦っている。止まらないことは目に見えていた。
決着が付く以外では。
「隙あり!」
「・・・」
先ほどまで3人とも止まっているようであったが、千鳥さんが桔梗さんに襲い掛かる。
しかしそれを素直にやらせてもらえる方ではないのは私も知っている。
案の定千鳥さんは桔梗さんの腕で吹き飛ばされ、木に激突した。
「い、一体何があったんですか……これは……」
「あ、か、篝火!」「篝火!?」
「甘藻さん、百合さん、これは何があったのですか! 桔梗さんまでも……!」
「そ、それは椿が!」
「わかめが無くなったって千鳥さんに襲い掛かったからで……!」
私の問いかけは桔梗さんには届かなかったようで、彼女らはこちらを見向きもしない。
それどころか、椿さんが千鳥さんの方へ走り、千鳥さんが近くにいた桔梗さんに包丁を付き刺そうとしていた。
このままでは、相討ちは……いや、犠牲は……!
「っ!」
「篝火!」
カミサマ化して咄嗟に前に出る。後ろから止められたような気がしたが、もう止められない。
自分のマントを外し桔梗さんに包ませてそのままの勢いでタックル。
後は二人の伸ばした刃を自分の包丁で止めれば……!!
ザクッ……
「「「・・・え」」」
貫く音が耳に届く。
私が目にしたのは椿さんの包丁が私の胸に付き刺さり、腹から伸びた鉄の角。
そして、地面に投げ出される桔梗さんの姿だった。
全身から力が抜ける。カランと自分の持っている包丁が落ちる。
膝から崩れ落ちる。
「ゴブッ……」
空気よりも液体を多く含んでいる何かが逆流してきて、口から吐き出される。
紅い紅い、私達にとってはとても馴染み深い色だ。
血。血液。
そうか、これが死という物か。
不老不死と言っても、死にはするのか。蘇生するだけで。再構成されるだけで。
命とは、一体。
なぜこうなったのか。その思考に至る前に私は力尽き、目を閉じた。
・
・
どうやら私は本当に死んでしまったらしい。
目を覚ますと自宅にいたので、今度はカミサマ化して母屋に走った。
母屋に着けば、椿さんと千鳥さんが必死に謝ってきたので、私はいたって普通に
返した。
話によれば、椿さんの干していたわかめが無くなったのが原因で、千鳥さんを疑い争いが始まり、それを止めるために桔梗さんが参戦、ここまで事が大きくなってしまったらしい。
そこに私が割り込み、桔梗さんを狙っていた二人の包丁が私の体を突き差して私が死に、熱が冷めて止まったそうで。
そしてそのわかめは葵さんが天候を気にして、椿さんに言わずに移動させていたらしく、結局は椿さんの思い込みから始まったのであった。
そもそも私は関係ない争いごとに巻き込まれただけに過ぎない。
私は、ただ中に入っただけに過ぎないのだから。
でも、それでも私は皆さんを止められたのだから、不老不死なら、この命安いものだ。
「そういえば、桔梗さんは大丈夫ですか?」
「私ならお蔭さまですよ」
声をかけられた方を向くと、片腕を失った桔梗さんの姿が。
「申し訳ありません桔梗さん。私がもう少し早く来ていてば……」
「いえ、これで済んだのも篝火さんのお蔭です。しかし、貴女が体で庇うことはなかったのではないのですか?」
そもそも自分を盾にしようとは考えていない。
私の長い包丁があれば止められると思った。
だが、その前に桔梗さんをタックルでずらしたのは間違いだったかもしれない。
それで私が二人の間に踏み込み過ぎて、結果として私が犠牲になってしまったのか。
「これで私は自分で死ねないわけではありませんからね。あのままでは両腕を失いかねませんでしたし」
「……どのみち、死ななければいけないのですね」
「皆さんのお手を煩わせるわけではありませんから、罪悪感はないですよ。むしろ私達にとってこの死に方こそが本来のあり方ですし」
そういってその場から去っていく桔梗さん。
皆に死に際を見せたくないのだろう。
それでも私は、彼女達を争わせてしまった。
だから、次はこんなことが起きる前に皆の姉として、年長組として、争いに発展しないように最善を尽くそう。
その時、私の何かを犠牲にしなければいけないなら、それは喜んで犠牲にしよう。
それで、止まるのであれば。
さて、甘藻と月桃がほとんど出てなかったので、その補完の話のつもりだったのですが、
何故か新オリジナル包丁さんの「篝火」の話になってしまいました。
今回の話は、「食い物の恨みは死ぬほど怖い」に乗じて執筆されています(篝火の回想)
では、最後の簡易紹介参りましょうか。オリジナルですけどね。
名:篝火
説明:『今作オリジナルの包丁さん』。年長組17歳。活動報告にて絶賛設定公開中。
自己犠牲による皆の守護という意識が強いため、喧嘩などがあると真っ先に中に入り、自分に罪を着せたりして守っている。
魚を捌く用途で使用される包丁さんや、長い刃を持った包丁さんと仲がいい。(甘藻・葵・芒・月桃・柊)