VOCALOID×包丁さんのうわさ ~路頭の花と歌姫達~ 作:kasyopa
最後らへん、R指定の掛かるかもしれない描写をしております。
ご注意&心してお読みください。
Side 鏡音レン
クリスマスの翌日。
久々のマスターとのお出掛け。
此処最近は寒いから、マスター自身も僕達も率先して外に出ようとはしなかった。
そんな毎日だったから、今日の突然のお出掛けは流石にリンと戸惑った。
多分よっぽどの事があったと思うけど、理由を聞いてものらりくらりとかわすような返事だけ。
それくらいの事ですねたりはしないけど、リンはずっと聞きっぱなしで回りから目立っていた。
「ねぇマスター何処行くの~?」
「付いてきたら解る」
商店街の近くをゆっくり歩くマスター。
心成しか少し浮かれているみたいに見えた。
マスターがここまで喜ぶ事もそれほどなかった。
それも自分の好きなPさんの新曲が上がった時とは違う気がする。
因みにマスターが好きなのは民族調や和曲。悲しかったり、儚かったりする感じの曲も好き。
人気のPさんのVOCALOID達はどんな生活を送っているかは僕達も解らない。
ただ、時たま上がるトークロイドの動画で彼女達の性格が出る時もある。
そこから憶測すれば、VOCALOIDに対するマスターの対応が解るんだけど。
一緒にその環境で生活すれば自然とそれが解け込んで来るから。
「着いたぞ」
「え? あ、はい!」
Side 遥 優希
レンは一人考え事をしてた所為か、俺が足を止めても止まる事は無かった。
彼はすぐに掛け寄ってリンの隣に移動する。
「もうレンってば、何考えてたの?」
「あー、思考に浸ってたって言うか」
「それは置いておいて、入るぞ」
店の外見をしっかり見せる事も無く、俺は靴裏に付いた雪を掃って店の中へ足を進める。
OPENと書かれた板が掛けてある扉を開けると、カランカランとベルの音と共に、木の香りに混じった甘い匂いが鼻を撫でた。
「「わぁ……」」
始めて見る店の雰囲気にその言葉しかでないリンとレン。
ここばかりは先に進まず、ゆっくりと眺めさせる事にする。
「いらっしゃいま……と思ったら昨日も来たお客さんじゃない」
Empressのモジュールを纏ったMEIKOが出迎えてくれた。
客に対しての態度は一体どうかと思うが、彼女だから仕方ない。
「こんにちはMEIKO。この店ではずっとその格好なのか?」
「ええ。と言ってもクリスマス期間だけだけど。それよりも、ほんとに連れてきたのね」
MEIKOは俺の隣に立っているリンとレンを見て、驚いたように見詰めた。
その視線に気づいたかのように二人は彼女の方を向き、そして凍りつく。
ある意味衝撃的な出会いだったのだろう。
「め、めーちゃん」
「ええ。その呼び方が一番典型的ね」
「どうして……?」
「どうしてって、この家に買われたからに決まってるじゃない」
まったくもってごもっともな答えである。
購入されてからどの家に行くかは、VOCALOID達の思考に反する部分もあるだろう。
それは実体化していなかった過去にでも言える事だ。
「まさかマスターが言わなかった理由って」
「サプライズ?」
「まぁそんな所だ。誕生日までずらした方が良かったか?」
「「そんなことない!」」
力強く首を横に振る二人。
俺にはよっぽどMEIKOに会えたのが嬉しかったように見えた。
「いらっしゃいませー」
遅れて出てきたKAITOを見ての反応も、驚きを隠せていなかった。
「優希さん、早速連れてきてたんだ」
「こんにちはKAITO。やっぱりその格好なんだな」
「クリスマス期間だけなんだけどね。一人でも多くの人に見てもらいたいから」
KAITOと挨拶を交わしていると、奥から町谷さんが出てきた。
リンとレンに気付くと一目散に近付いて、目の前でかがんで視線の高さを合わせた。
「いらっしゃいませ」
「「こ、こんにちは!」」
「よく来てくれたね。ささっ、こちらへどうぞ」
そのまま奥の部屋に誘導する彼女を見て二人は戸惑いを隠せていない。
そんな二人にMEIKOとKAITOが助け舟を出した。
「大丈夫よ。その人は私達のマスターだから」
「変な事はしないよ」
「少し着替えるだけだ」
「「着替えるって何に?!」」
俺の発言が地雷だったのか安心しかけた二人は動揺し始めた。
……そんな事を言っておきながらMEIKOとKAITOのモジュール互いに見てるじゃないか。
「リンちゃんはMad Hatterの衣装、レン君にはWhite Rabbitの衣装を、ね」
その言葉と共に三人は奥の部屋に消えていった。
「マスター、ノリノリだったね」
「まぁ、発売日当日に私やあんたを買ってくれた様な人だったし」
「そこからどっぷりはまっていったし」
「……ねぇ」
町谷さんの裏がちょっと解ったような気がした。
暫く俺達はリンレンの着替えが終わるのを待つのだった。
・
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それから所要時間10分。
奥の部屋からご機嫌のリンと顔を赤くしたレンが出てきた。
リンの被っている帽子の口が後もう少し大きかったらすっぽり顔まではまってしまうだろう。
レンのうさ耳のカチューシャ部分は完全に髪の色と一体化しており、本当に生えているのかと思うほど。
実際に着させてもらって解った事だが、本当によく作った物だなぁと感心の域に値する。
夏奈子もよく自分で自作した服をルカに着させているが、此処まで凝った物を作った事は無かったと思う。
「やっぱり二人ともかわいいですね~」
一番うっとりしてるのは着せたご本人である町谷さん。
口調がそれでも敬語なのはそれが普通なのだろう。
「ではお約束通り写真取らせてください」
「あ、はいどうぞ」
二人仲良く並んで記念撮影。
リンは誰が見ても解るほどの満面の笑み。レンはまだ顔を赤く染めた緊張状態。
その姿は彼女のアルバムに写真という形でずっと残されるであった。
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「おいしー♪」「おいしい!」
普段着に着替え終わって一服。
二人が今食べているのはKAITO特製のオレンジアイスとバナナアイス。
オレンジは普通シャーベットだろうし、バナナもチョコバナナとしてあるのかと思ったら材料単品で作られたアイスがあるとは。
流石はアイスべきバカイトというタグが付けられるだけあると思った。
「僕はそんなにアイスに対して必死になったりしないけどね」
「限定物とかには目が無いくせによく言うわ」
「それはそれだよ」
まぁ、このKAITOなら常時アイスアイス言ってる訳でもないだろうに。
「優希さんはどうします?」
「俺はバニラでお願いするよ」
「もっといろんなのがありますけど……」
「Simple is Best」
「わかりました」
冬にアイスなんて外道という輩が居るが、俺はあまりそう思わない。
食べたい時に食べたい物を食べるのも、時には大切なことと思うから。
KAITOが出してくれたアイスを一口。うん、この値段でこれは凄いな。
バニラビーンズも少々混じっており香りが増している。
濃厚かと思えば意外にも軽い味わいと口どけ。
アイスの口どけは、素を空気と混ぜる過程で何処まで空気を含めるかが勝負となってくる。
昔レシピにそう載っていた気がする。
うん、と頷いて彼の方を向く。作った者が食べてもらう者の反応を気にするのは当たり前だ。
それは一人前でも素人でも同じ。
「さて、こちらの用事は全て終わったので、あの衣装はお約束通り差し上げます」
「えぇっ?! いいんですか!」
いきなり声を張り上げたのはリン。レンは声さえ上げていないが驚いていた。
「はい。優希さんから聞いてませんでしたか?」
「えっと……」
「マスターサプライズって言って教えてくれなかったんです」
「そうだったんですか」
町谷さん俺の方をちらりとみて俺の様子をうかがう。
多分俺が言い忘れていたとかで焦っていないかとでも思っているんだろう。
「素敵なマスターですね」
「「はい!!」」
返事をした二人は満面の笑顔で答えた。
それから少し遅れてドアのベルが鳴った。
「おっ邪魔っしまーす!」
声を張り上げて入って来たのはやはりというか夏奈子だった。
その後ろにはルカもいる。靴に結構雪が付いてるのを見ると、歩いてきたようだ。
「いらっしゃいませ。夏奈子さん」
「町谷さん、お約束通り連れてきました!」
相変わらずテンションの高い奴だ。
あんな雰囲気ならルカも察しているだろうに。
「こんにちは、あなたが夏奈子さんの所のルカさんですね」
「はい。話はマスターから大体の事は」
「なら話が早いですね。こちらの部屋にどうぞ」
リンレンの時よりもスムーズに奥の部屋に消えていった二人。
やはり少しぐらいは言ってやった方がよかっただろうか。
でも年齢的な物もあるしなぁ。サプライズで喜ぶという感じで。
「ここら辺にミクはいないみたいだね」
「VAWCじゃ嫌というほど見るんだけど」
「ああー、それはいえるんだけど」
MEIKO、リン、レンの話によれば、VAWCでは圧倒的にミクの数が多いそうだ。
といっても有名Pのミク……VOCALOID達は見ないらしい。
彼女達は彼女達でアイドルとしての仕事があるだろうからな。
「年が明ければミクの日感謝祭で騒がしくなるからね」
「観客席が緑色に染まるんじゃないか?」
「そうだねぇ、大合唱とか始まってもおかしくないね」
「そこは流石に自重すると思うよ。口ずさむぐらいじゃないかな?」
俺のリンレンも舞台やニコニコで作った曲がヒットすることを望んでいるのだろうか。
VOCALOIDが現実に現れた事により、彼女達と意思疎通が出来るようになった。
それは幸せなのか不幸せなのかは解らない。
ただ、歌うことに強いられて、歌うことに楽しみを見出せなくなったら、彼女達はどうなってしまうのだろう。
VOCALOID。歌う為に作られたアンドロイド。
その彼女達が歌うことをもしも拒んだら。本能で歌うことを否定したなら。
それも、意志なのだろう。
しばらくしてルカが出てきた。
言わずもがな、Invisible Catである。
ピンク色の耳と尻尾。作り物とは思えないほどの質感だということはは目で見てすぐわかった。
「うわ~ふかふか~」
夏奈子は見るだけでなく、実際にその耳や尻尾に触っている。
その耳と尻尾は当然作り物なので、触覚が働いているわけでもない。
ルカもやれやれといった表情で夏奈子を見ていた。
「じゃあ俺達はお暇させてもらうよ」
リンとレンが自分のアイスを食べたのを見計らって席を立つ。
「「衣装大切にしますね!」」
「ふふふ、ありがとうリンちゃん、レン君」
「また来ますね。二人が勝手に来ることもありますが、その時はよろしくお願いします」
「へぇ……」
町谷さんは不思議なものを見るように二人を見た。
その視線の意味が解らずに、当の本人は首をかしげている。
彼女がレジに立ってから俺もレジの前に移動する。
「あぁ、二人にはやりたいこととか、全部任せてるんです。珍しくもないと思いますが」
「そうなんですか。いえ、マスターと言っても様々な方がいらっしゃいますからね。たとえばマスターの権限が絶対って子もいらっしゃいますし」
「……まぁ、マスターだって一人じゃありませんから、それぞれですよ」
「彼方は二人を幸せにできる方ですよ。自信持ってください。彼方はそのままでいいんです」
お代を払っているときに、そっと耳打ちされた。
俺はそれに動ずることなく、また二人に何を話していたのか悟られないように振る舞った。
「今日は何かとありがとうございました」
「いえいえ。またいらしてくださいね」
「めーちゃんとKAITO兄さんのマスターありがとうございましたー!」
「ありがとー、めーちゃん。KAITO兄さん!」
「ええ、またね」「うん、それじゃあ」
扉が閉まる音に加えて、それについているベルが心地よい音を立てたのだった。
・
・
ギィ……
商店街を歩いていると、変な音が耳に入ってきた。
その変な音に気を取られて足を止める。
「ん? どうしたのマスター?」
「いや、変な音が聞こえてな」
レンが真っ先に俺の異変に気づき、振り返る。
リンもレンも二人で手をつないで、俺の前を歩いていたのだが何故レンは気付いたのだろうか。
歩みを止めたレンに引っ張られるように止まったリンも違和感を感じて振り返る。
「どうしたのレン? マスター?」
「いやマスターが急に」
「……路地裏か?」
横に視線を移すと、暗く細い道があった。
大の大人でも通れないわけではないが、パイプ等が張っていてすんなりとは通れないだろう。
そして、その奥に緑色の何かが蠢いていた。
それをしかととらえたとき、俺はそれの存在とそれの状況を理解したくなかった。
「リン、レン。すまんが見えるか?」
「え? 何? 路地裏に何か……っ?!」
「え、マスター? 何か見つけ……っ?!」
リンは口に手を当てて嘔吐寸前、レンは顔を蒼く染め上げ俺の背後に逃げ隠れた。
少なくともVOCALOIDである彼女らならその気になれば遠くも見れるので、二人に頼ったが逆にショッキングな物を見せてしまったことを後悔する。
「すまん、二人とも。ちょっと先に帰ってていいぞ」
「う、ううん大丈夫。でも、『あれ』が本当に『あれ』だったら…私達も手伝うから」
「僕達も、手伝わないと…流石に、無理だろうからさ」
俺は『それ』に近寄る。
二人は小声で大丈夫、大丈夫と言いながら、俺の後についてくる。
やはり、というかなんというか、『それ』は汚れた歌姫であった。
このお話で出てきた服装は口で説明するより、ostarさんの楽曲を見て頂いた方が解りやすい…のです。
服装の説明、髪型の説明等、私は苦手なのです。
セリフ作りは大の得意なんですけどね…あとは展開作り。
では、次の話に詳しいことは載せますので、そちらもどうぞお願い致します。