VOCALOID×包丁さんのうわさ ~路頭の花と歌姫達~ 作:kasyopa
R指定されるかもしれない描写が今回も飛び出します。
ご注意ください。
Sude 遥 優希
リンとレンからコートを借りて、彼女の汚れた服を隠しながら一直線に家に駆け込む。
「ねぇレン。どう思う?」
「どう思うって、…正直何も考えたくないよ」
「だよね…ごめん」
あの路地裏で見つけたのは、電子の歌姫。
そう。もっとも有名な歌姫『初音ミク』だ。
だが、その姿はある種残酷でひどい物だった。
一言でまとめるなら…彼女は犯されていた。見つけた時には既にその相手はいなかったものの、彼女に掛かっていた白い粘着性のある液体や臭いからしてすぐにわかった。
解りたくないし、理解したくない。なぜこんな目に歌姫が会わなければならないのか。
「マスター。気持ちは解るよ、だって、そういう人だっているんだし…」
「……ああ」
俺はとりあえずリンに彼女の着ていたいつもの彼女の服を脱がさせて、手洗いを。
リンはそのまま彼女を風呂場に連れていき、レンは空き部屋の準備をしてくれている。
ある程度その液体を取ってから洗濯機に入れ、二人の様子をうかがう。
「リン、大丈夫かー?」
「ちょっとこれは……でも大丈夫ー!」
「そうか、解った。念入りに洗っておいてやってくれ!」
「はーい!」
「マスター! ベッドの次何したらいいー?」
「ある程度埃被ってるから掃除を頼む!」
「はーい!」
一応、リンのパジャマと替えの俺のパジャマを風呂場に置いて退散する。
リビングでソファに座ると、どっと疲労と眠気が襲ってきた。
寝るわけにはいかない、と体に言い聞かせるも、それを聞いてくれない。
そこまで今日は動いていないし、運動不足でもない。
と、ミクを見つけてからの一部始終を思い出す。
彼女を発見して精神面でかなり疲労し、彼女を大急ぎで運び肉体面で疲労した。
「俺自身、一番衝撃的だった。ってことか……」
それを最後に俺の意識は自然と闇の中に落ちていった。
・
・
「っ?!」
目を覚まし、腕時計を確認する。
7時。少し…いや、普通に寝過ぎたようだ。
気が付けば掛け布団をかけている。
誰かかけてくれたのだろう。
「あ、マスター。起きた?」
「ん…リン。すまんな、先にちょっとダウンしてた」
「いーのいーの。マスター何かと疲れてた顔してたし。何ならもっと寝る?」
「いやいい。今日の晩飯当番は俺だったな」
「大丈夫だよー。私が代わりに作ってるから、とりあえずマスターはレンとお姉ちゃんのところに行ってあげて。二階にいるから」
「お姉ちゃん…? ミクか?」
「うん。一度起動…気が付いたんだけど、PTSDみたいなの起こしちゃって…さ」
「今は」
「私とレンで何とか落ち着けて、今は寝てる。とにかくマスター、行ってあげて」
「ああ」
二階の空き部屋。そこから明かりが漏れている。
数回ノックしてレンの承諾を待つ。
「誰? リン?」
「ああいや、俺だ。今起きた」
「マスター。まって、今開けるね」
カチャリと鍵の開く音。もともとこの空き部屋は母さんの部屋だ。
関係ないが、母さんの部屋と父さんの部屋、それに加え書斎には鍵がついている。
PTSDのようなものを発症しているのなら、ある意味鍵付きの部屋は正解なのだろう。
「様子はどうだ」
「さっきリンから聞いてたみたいだけど、今落ち着いたところ。一応マスターのお母さんの物はマスターのお父さんの部屋に移動させたから、大丈夫なんだけど…」
「………」
辺りを見渡すと、所々引っかかれたような跡があった。
もっとわかりやすいのは、ミクの寝ているベッド。
母は洋式の物が好きなので、自分の部屋は洋式の造りをしている。
故にといえばおかしいが、この部屋にだけベッドがあるのだ。
そのシーツがビリビリに裂かれていた。
「大分暴れたみたいだな」
「うん…引っかかれたりもしたけど…でも大丈夫」
俺は彼女の顔を覗き込む。眠れる森の美女、という表現と言ったほうがいいだろうか。だが、その顔は見るからにやつれていて、少し青かった。
その彼女の表情と、この暴れた様子。それだけで彼女がいままでどんな目にあってきたのかわかる。
「レン、俺が寝てる間に苦労かけたな」
「ううん。マスター、一番必死で、一番疲れてたもん。仕方ないよ」
「仕方ない、か。その言葉でどこまで誤魔化せるか」
「…ごめん。じゃあ僕、ちょっと休んでくるね」
「ああ、後は何があっても任せろ」
「……マスター」
部屋から出る前。扉を開けたレンが振り返る。
「どうした?」
「気を付けてね。お姉ちゃん、なんだか男の人に対して敏感だから」
「わかった」
扉の閉まる音。俺は万が一を考えて鍵を閉める。外からも鍵で開けられるのだが、その鍵の在処はこの家の元々の住人しか知らない。
父さんと母さんは海外に旅行に出かけている。毎年恒例の親婚旅行とかなんだとか。結婚記念日と俺の誕生日後に必ず行く謎の旅行である。
因みに、VOCALOIDが実体化した件については既に説明しており、二人とも了解を得ている。
「……ミクのことも説明しないとなぁ」
立ったまま、彼女を見下ろしてつぶやいた時、ミクの目が開いた。
起き上がることはせず、辺りを見回し俺と視線が合う。
「………」
声は掛けない。レンの言葉を俺は心に止めておいたからだ。
だから逆に声は掛けない。もし、声をかけて怯えさせてしまったりしまったら、と。
「……あの」
「………」
「さっきは……リンちゃんとレン君に…」
「………」
「……ごめんなさい……」
「気にするな」
「っ?!」
いきなり飛び上がって壁を背にして俺から出来るだけ距離を取る。
声をかけて、俺という存在をしっかりと認識したのだろう。
……ここまでとは。逆に襲ってきたらどうしようかと思ったが、逆に敵対したら相手も拒絶する。
こちらが受け入れて、初めて相手も認めるのだ。
「あああ、ああああの、わわわわたし、男の…人は、あ、ああああああああ!!!!」
「っ?!」
「いやぁ! いやぁ! 怖い! コワイコワイコワイ! いやああああ!!」
「ミク! おい! 気をしっかり持て!」
「いや! だめぇ! こないで! コナイデェ!!」
奇声を上げながら両腕を振り回し、虚無の存在を払おうとする。
発狂。俺が男だからということなのだろうか。
解らないが、彼女は俺を、いや。男を拒絶している。
分が悪すぎる。だが、ここで俺が退散しても彼女がこれから男を拒むのは変わらないだろう。
何とかしないと。何とかしなければ。彼女にとって。
声と俺を認識しただけで怯えるのだから、近付くなどもってのほかだろう。
現に俺は現在位置から一歩も動いていない。抱きしめるなんて論外。
今の状況を再確認する。俺がミクを見下ろしている。
そしてちょうど俺が照明の光を遮って、ミクは俺の影の中にいる。
もしかして、俺が大きく見えるのが怖いのだろうか。
実験がてら、肘を曲げ左手を上げてみる。
「ヒッ…!」
やつれていた顔を引きつらせ、目に溜まっていた涙があふれ出る。
その顔の前に腕と手を出し壁にして守る。
大きく見せた…いや違う。これは手を上げたのだ。
つまりこの行動に対するこの怯え方は、暴行を受けていたと考えるのが妥当だろう。
上げた手をゆっくりと下げる間、彼女はずっとその手を見て怯えていた。
しかし完全に降ろした後、自分の顔を守っていた腕を少し緩め、疑問があるような表情でその手を見ていた。
俺はため息をついて彼女の顔から視線を外し、その場に座る。
その奇行にミク自身も不思議に思ったのか、自然と腕を下において俺の顔を見ていた。
…試しにやってみるか。
「あのっ!」
「っ?!」
「本当にごめん! よくわからないけど、ごめん! とりあえず、ごめん!」
「・・・・・・」
「俺の顔が怖かったらごめん! バカでごめん! あと、生まれて来て、ごめ・・・いやおかしいなこれ」
「・・・・・あの、何を謝ってらっしゃるんですか?」
「いや、某野球ゲームを語る彼女攻略ゲームから引用したんだが…さすがに解らないか」
「・・・・・・・・」
「…パワ○ケ○0ですか?」
「え……」
「インターネット機能、ついてるんです。一応これは壊されずに済みました。…彼方には、モ○イルレディといったほうが解りやすいですか?」
「…いや、普通にそういうたとえをしなくても解る(壊されずに、か)」
「そうですか…ふふふ、なんだか、じわじわ来ちゃいました」
笑う歌姫。こんなにも早く溶解してくれた。
さっきまで、やつれた顔でいた歌姫が。最高ともいえないだろうが、笑っている。
その笑顔だけで、何か報われたような達成感というか、切り詰まった空気が一気に解れたというか。
それに対して安堵のため息をつき、天井を仰ぐ。
「よかった、何とか、なったかな」
「あ…」
「あの、ごめんなさい! 私!」
「大丈夫」
「……え?」
「大丈夫、そう言ってみたらいい」
「大、丈夫?」
「『大丈夫です。私は大丈夫です』って」
「……大丈夫です。私は……」
「私は?」
「私は、大、丈夫、です」
震える声。自分で自分に対して大丈夫と言えるのか。
これは今のミクにとって結構難しいことだと思う。
だが、それが言えるのであれば、彼女は大丈夫。
自らで自らを一旦認めないと。心を落ち着けてやらないと。
「もっとしっかり言ってみて」
「私は、大丈夫です!」
「よし。それで落ち着いただろう」
「え? あ、ほんとだ……大丈夫…」
「自分で自分に言い聞かせる。これを実感して初めて、その言葉が言える。心に何かしらの問題があれば、その言葉すらいえなくなってしまうからな」
「深いですね、あの……」
「ん?」
「私は、何故こんな所ににいるんでしょうか…それに彼方は」
「とりあえず、落ち着いたから一緒に下に降りよう。リンとレンが待ってるぞ」
「リンちゃんとレン君が?」
「ああ。……それに、温かいすべてがな」
「……!」
その言葉に反応した彼女の顔の表情が輝く。
……やはり、ロクな生活させてもらっていないのか……このミクは。
・
・
「あ! お姉ちゃん!」
リビングに入った途端、俺の横を通り過ぎてリンがミクに飛びつく。
因みにリンはパジャマ、ミクは俺の替えのパジャマだ。
「お姉ちゃん、もう大丈夫になったんだね!」
「え……」
「お姉ちゃん、大丈夫。マスターはすっごく優しい人だから! ね! マスター!」
ほっぺたをパジャマ姿のミクの体にこすりつけながら、たっぷりの愛情表現をするリンは太陽のような子であった。
俺は同意を求めてきた彼女に、苦笑いで答え彼女の頭をなでる。
「マスター! あ、お姉ちゃんも!」
「あ……」
レンが顔面から俺の方に一目散に飛んできて、腹部に直撃。すぐ顔を上げてミクを確認すると、次はミクの背中から抱き着く。
彼はほっぺたをこすりつけたりしてはいないが、ミクの温かさを感じているのだろう。
「あ……ああ……」
ポロポロと涙を零すミク。
それは悲しみではないのが一目で解った。なぜなら、彼女の今の表情を見れば解るから。
笑っている。笑いながら、目を細めながら涙を零していた。
体を横に向けて、リンとレンを正面から抱きしめ返す。
「私…私がお姉ちゃん……リンちゃんとレン君の、お姉ちゃん!」
「「うん!」」
「よかったな、ミク」
「!」
俺は自然と手が出ていた。だが上げた手はそのままミクの頭の上に置かれる。
そのまま、優しく認めるように撫でる。
「怖かったか? でも俺はお前に変なことはしない。二人と同じようにな」
「……ありがとうございます。新しい、マスターさん」
涙を零しながら、俺の方を笑顔で返してくれた電子の歌姫。
まだ、彼女の傷は深いだろう。まだ、完全には癒せていないだろう。
でも、これでひとまずは。
こうして、新しいVOCALOIDが俺達の『家族』として受け入れられた。
ちょっと長くなるかもしれませんので、お時間のある方のみ閲覧ください。
最初は明るい話だったのになぁ…(去年の奴を今更追加執筆して、この形にもっていって投稿に至る)
というわけで、当時登場を先送りにされていたミクの登場。
その理由は、Yoshoki様が執筆しております、『ミクノポップ!!』にて、私の登場キャラクターとコラボさせていただいた、という点が非常に強いのです。
(その話の内容等については、『ミクノポップ!!』の26話『湯煙の歌姫達(前編)』、27話『湯煙の歌姫達(後編)を参照)
その旅行は時間としては、この時間から行くと来年の2月末ほどなので、彼女の心の傷を早急にいやすためにも、早急に彼女を登場させていただくという体制を取りました。
登場キャラクター総数はこれで9人。ここから本番。誰を魅せて、誰を隅に追いやるか。
隅に追いやった者にも、光を当てるという非常に難しい展開が始まります。
しかも、まだオリキャラマスターは後一人、ついでにそのVOCALOIDも一名追加します。(予定じゃない。ほんとに追加します)
出来ればみんな出したいんだよ。うん。特にがくぽといろは、ラピスは。
でもラピス思えば身長小っちゃかったよな。15cmだっけ? 30cmだっけ?
では次の後書きは、VOCALOID以外の登場人物について。