VOCALOID×包丁さんのうわさ ~路頭の花と歌姫達~   作:kasyopa

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『違う境遇、母は強し』
今回は、この二つが大きな題材です。


第05話 歌姫の告白

Side 遥 優希

 

 

温かい料理を囲んで、4人の食事が始まる。

メニューはとろふわオムライスに、ポテトサラダ、コーンポタージュ。

とろふわオムライスとは、半熟のオムレツを盛ったチキンライスの上に乗せて割き広げた、凝ったオムライスだ。

というか、こんな凝った料理は教えた覚えはないのだが……。

ハイスペックリンと言われても何もおかしくない。

 

「デミグラスソースとケチャップがあるけど、どっちがいい?」

「俺はデミグラスソースで頼む」

「僕はケチャップ」

「私は…ケチャップでいいかな」

「はーい。マスター先にお皿貸して」

 

キッチンから持ってきた小さな鍋からお玉で周りに流しいれる。

チキンライスの臭いがデミグラスソースの独特の臭いにかき消され、少し新鮮な気分になった。

 

「レン、何か書いてあげよっか?」

「あ、ううんいいよそこまでしなくても」

「えー。じゃあお姉ちゃんは?」

「私も、いいかな。ごめんね?」

「ぶー。つまんないー」

 

暫く考えていると、リンは何か思いついたように顔を上げて、レンとミクのお皿を預かる。

 

「~♪」

 

鼻歌混じり、たぶん曲は『メランコリック』だろう。

上機嫌に、オムライスの上に何か書いていく。

 

「はい! お待たせ」

 

レンのオムライスの上には『レン』の文字、ミクのオムライスの上には『ミク』の文字が堂々と入っていた。

やっぱり何かと盛り上げたい彼女なりの思いやりなのだろう。

えっへんと胸を張っていた。

 

「じゃあ、いただきまーす!」

「ん、いただきます」

「いただきます!」

「い、いただきます」

 

リンの声に続いて皆匙を動かし始める。

二人はおいしいおいしいと言って食べている、が。

唯一ミクの匙だけは動いていなかった。

 

「…どうしたミク。調子でも悪いか?」

「いえ、調子は…あまりよくありませんが…食べられないほどではないです。でも」

「でも?」

「私、今という実感がないんです。さっきはお姉ちゃんって言われて本当に嬉しかったんです。でも、なんだか」

「あっという間だったもんね。お姉ちゃんが来てまだ半日も経ってないし」

「マスターの説得のお蔭だね」

「俺はほとんど関係ないだろう。どう変わるか決めるのは自分自身。人の意見なんざそれを判断する材料に過ぎない」

「でも、リンちゃんとレン君のマスターさんは私を止めてくれました」

「ほら、お姉ちゃんも言ってるから間違いないよ」

「まぁとにかく食べよう。いただきます、って言ったのに食べなけりゃ食べ物に対して失礼だろう?」

「……ですね。改めて、いただきます」

 

ケチャップで書かれた字を塗り拡げることなく、一口。

その光景に俺達は自然と緊張して自分の動きが止まっていた。

 

「おいしいです。リンちゃん、これ、とってもおいしいです」

「よかったー! お代わりいっぱいあるからたくさん食べてね!」

「お代わり!」

「レンには言ってないの!」

「なんで僕の分はないの?!」

「あはは、冗談だって。はい、お皿貸して」

 

温かな食卓。こんな生活を過ごせるのは当たり前じゃない。

当たり前で居られる、そんな幸せはすぐそばにあって、一番解らない幸せなんだろう。

失われて初めて実感する、というがそれは間違いだ。気が付けば感じられる。

そんなことを思いながら、団欒(だんらん)の食事を楽しむのであった。

 

 

*******

 

 

食事を終え食器を水に浸けて、デザートが出てきた。

プレーンスコーンとココアだ。

 

「ジャムが欲しかったら遠慮なく言ってね」

 

そう言いつつリンはたっぷりのマーマレードと掛けていた。

 

「なぁリン、今日はこんなにも豪華したのは」

「うん! どんな形であれ、お姉ちゃんがやってきたんだもん。記念すべき日だよ!」

 

直接的にも、遠回しにも歓迎する気持ちを表現しているリン。

考えるより行動、当たって砕けろのタイプである彼女だからこそ、出来るのだろう。

俺やレンでは到底出来そうにない。俺もレンも共に慎重派だからだ。

 

「えっと、リンちゃん。こんなにも私のこと思わなくても…」

「いーのいーの! 私がやりたくてやってるんだから」

「もう、気持ちだけで十分…」

「気持ちだけで伝わるものは少ないぞ? だからリンはここまでしてるんだ」

「そうだよー。この後一緒にお風呂に入って、一緒のお布団に入って」

「……とは言ってみたが、そこまでする必要はあるのか、リン」

「リンだから仕方ないよ。お姉ちゃん、ごめんね? リンがこんなで」

「こんなって何よー!」

「(リンは夏奈子に似てきたなぁ、本格的に)」

 

焼き立てのスコーンを食べながら、言い合っているリンとレン、そして苦笑いをしているミクを見る。

 

「これが家の日常なんだ。ミクも自然と慣れると思うけどな」

「慣れる、かな。私、こんな幸せな人達と一緒に居ていいのかな」

「自信を持て、ミク。一緒に居ることに意味があるんだ。……といっても、今日来たばっかりだから難しいか」

「……はい。今も、少し不安です。こんな幸せな場所だからこそ、これが夢なんじゃないかって」

「なら、頬を抓ってやろうか?」

「!」

 

見るからに怯える彼女。体罰的な物にはやはり敏感だ。

 

「嘘嘘。さて、ごちそうさま。俺とレンは先にお風呂に行って来るよ」

「先に?」

「ん、さっきの風呂に入ったのはノーカウントじゃないのか?」

「うんそうだよ? お姉ちゃん、後で私と入ろう?」

「あ、うん…」

「あ、マスター待って!」

 

レンが一気にスコーンを頬張ってパジャマを持ってついてきた。

 

 

 

「ねぇマスター。どうしてお姉ちゃん、あんな所に居たんだろう」

 

俺が体を洗っていると、浴槽の縁に両腕をおいてその上に顎を乗せたレンが訪ねてきた。

 

「居た、というより捨てられた、と言ったほうが妥当だな。それも、最後の最後であそこまでされて」

「前のマスター、何をしてたんだろう。何を思って買ったんだろうね」

「………」

「あそこまで荒れてるんじゃ、ロクな扱いは」

「それ以上考えても仕方ない。彼女のみぞ知ることだ」

 

こうやって彼女に首を突っ込んだ以上、彼女の負い目となっている『それ』を取り除くためにも、聞かなければならない事実ではあるのだが。

 

「それにしても、一つ気になることがある」

「え?」

 

いやな話だが、いらなくなったのであればアンインストールして捨てればいい物なのだ。

そうすればこういった実体は再びソフトとなって、形成されなくなる。

なのに、何故。

 

「何故ミクが、実体を形成したまま捨てられていたのか。それが気になるんだ」

「……あぁ、それは言えてるね。アンインストールすれば、僕達は終わっちゃう存在だから」

「もしかしたら、お前達とはまた別の存在なのかもしれないな」

「本当の、VOCAL ANDROID?」

「ああ。言うならば機械の、な」

 

 

 

風呂から上がり、それからリンとミクもお風呂に行き、上がってきて全員リビングに集まる。

問題を棚上げにして明日を迎えるのもよかったかもしれないが、やはりそれに負い目を感じている彼女をそのままの状態で夜を迎えさせるわけにはいかない。

心の弱さが出てくるのは、深夜。午前一時や二時。

日が落ち周りが静かになって、自らが一人と感じやすくなる。

だからこそ、話をしっかり聞ける一番ゆったりした時間に出来る限りを解決しておきたかった。

 

「さて、3人を引き止めたのはほかでもない、ミクのことだ」

「「「………」」」

「やっぱり最初は自己紹介といこう。まずは俺からするから、後に続けよ?」

「「はーい」」

「……はい」

 

今から何が始まるのか、俺以外の3人も解っているのだろう。

でも先に行うのは、自己紹介。彼女自身も俺達のことを知らないのだから。

 

「俺は遥 優希。高校二年生のしがない学生だ。リンとレンのマスターをやってる。父さんと母さんは居るが、外国に旅行中だからこの家には基本俺達の三人しかいない。まぁ、たまに幼馴染が突撃してくることもあるがな。このくらいか?」

「そうだね。私は鏡音リン! マスターとは一年くらいの付き合いかな。歌はあんまり歌わないけど、それでも気にしてないよ。マスターの事大好きだもん! 次はレンだよ」

「うん。僕は鏡音レン。リンとおんなじでマスターとは1年くらい。僕もリンと負けないくらいマスターも事は大好きだよ。得意なことは…身の回りのことの準備、かな?」

「私はお料理とお裁縫!」

「……さて、次はミクだな」

「はい。私は初音ミクです。詳しい経緯は、後でお話します。すみません。好きなことも、嫌いなことも、得意なことも、不得意なことも、全然解らないんです。それでも、よろしくお願いします」

 

「ミク、今から自分のある程度の事、教えてくれないか?」

「………」

 

その言葉でミクの体がこわばる。

リンとレンが心配そうに視線を送るも、それに気づかない彼女。

 

「お姉ちゃん、大丈夫だって。マスターは何か絶対考えあって言ってくれてるから」

「そうだよお姉ちゃん。マスターは僕達よりずっと賢いし、それに博学だから」

「うん、解った。リンちゃんとレン君のマスターさん。リンちゃんもレン君も。……長い話になるかもしれませんが、いいですか?」

「ああ」

「「うん」」

「では」

 

「まず簡潔にお話しますと、私は一年前のあの件でこの世に現れた存在ではないんです」

「「「えっ……」」」

「ある企業のグループの試験的な物で作られた物にすぎないんです」

「でも、それならなぜ」

「アイドルとしてではなく、私的の為のVOCALOIDとして3か月ほど前に生み出されましたから。それからはというものの、VOCALOIDとしてでなく、セクシャロイドとして扱われてきました」

「なっ! いや、でも……」

「酷い……!」

「そんな……!」

 

リンは今にも泣きそうな顔をして、手で口と鼻を覆った。同じ女の子として、辛いのが自分の事のように解るのだろう。

レンは驚愕の表情に変わる。その手の知識はあるからこそ、その言葉の意味が解る。

俺はあの状況を思い出し、納得してしまった。でも、受け入れがたいのは二人と同じ。

 

「犯されている内に、歌うことに必要な歌声を出すスピーカーを壊されました。最初に失ったと実感した物です。それさえあれば、私はまだ、VOCALOIDで居られると。

 そして、昨日。セクシャロイドとしても十分に働けなくなってしまった私は捨てられたんです。最後の最後まで犯された状態で。

 あのまま、私はあの場所で雨風に打ち付けられ、数ある機械の一つとして朽ち果てるという現実で絶望に浸っていました。

 それでも、彼方達にこうやって出会えました。希望は、捨てるに捨てられなかったんです。この世に生まれたからには、歌うことが出来なくても人を笑顔にさせたいと。

 奇跡ともいえますし、思えば必然だったのかもしれません。望めば叶うという言葉をよく耳にしていましたから。数々の楽曲が私に勇気を与えてくれました。

 私を受け入れてくれて。私の望んだ、世界を作ってくる人が、導いてくれる人が、今私の目の前にいる。だから、ありがとうございます。

 リンちゃん、レン君。そして、新しい私の『マスター』」

「「「………」」」

 

次の瞬間、俺達は無意識に彼女を抱きしめていた。

 

「あっ…」

「ミクは、お前は俺達が絶対に守る。何があってもだ。だから頼れ。遠慮なくぶつかってくれてもいい」

「私達はずっと味方だから。だから、私達を信じていいんだよ?」

「僕達が家族だから、お姉ちゃんは僕達の家族だから」

 

思い思いの言葉を継げながらも、涙を流す。

彼女のつらい過去と、俺達が出会えた奇跡。悲しさと嬉しさが混じり合っていた。

 

「……はい」

 

********

 

夜。俺は母さんに電話をしている。

あれからというものの、ミクが母さんの部屋に戻って、その部屋を荒らしたことを再確認して必至で謝罪してきた。俺達はそれに対して気にするな、と言葉を伝えておいて、明日何とかすると言っておいた。

 

『もしもし、優希?』

「あ、母さん。今大丈夫だった?」

『ええ、大丈夫。今起きたところだから』

「どこにいるってのは、聞くだけ野暮?」

『そうねー、ハワイよ。行きは追い風だから随分と早かったけど』

「まぁ、確かにそうだけどさ。いや、そうじゃなくてちょっと報告と謝ることがあってさ」

『なーに? また新しい子でも増えたのかしら?』

「んぐ……鋭い」

『これでも彼方の母親を伊達にやってるわけではないのよ。あ、ちょっと待ってね』

「あ、うん」

 

遠くの方で父さんの声がする。母さんは俺が電話をしてきたんだということを伝えている。

 

『ごめんなさい。優斗さんが起きたからちょっとね』

「あー、じゃあまたかけ直すよ」

『大丈夫よ。さぁ、続けて』

 

割とノリノリな母さん。何かとお祭り好きなのが出ているのだろう。

俺の誕生日とかも盛大に祝ってくれたり、地元のイベントには必ずといっていいほど参加するのだが。

 

「簡潔に説明すると、ミクが家族になりました」

『ミクってあのミクちゃん? 緑色のツインテールでミニスカートの』

「うん、そのミク。まぁ、色々事情があって、拾った。って表現が合うんだけど」

『あら、そうなの。で、謝ることって?』

「そのミクが、PTSDみたいなの発症して、母さんの部屋を荒らしてしまったって事。……ごめん」

『PTSD……』

「………」

『で、そのミクちゃんは?』

「もう完全に落ち着いた。受け入れたし、受け入れられた…と思う」

『思う、だなんて彼方らしくないわね。ということは半分半分って事ね』

「おっしゃる通りで。あ、ある程度の母さんの物は父さんの部屋に移動させたから大丈夫だけど、シーツとかは流石に…」

『そういった『物』はお金を払えば何とかなるわ。でも、思い出のある物、そして『心のある物』はいくらお金を積んでも駄目』

「……うん」

『頑張って、ミクちゃんとの関係を本当の家族にしてみなさい? 彼方なら出来るわ。頑張ってね、優希』

「解った。長々とごめん」

『いいのよ。久々に話が出来て嬉しかったわ。優斗さんにも代わる?』

「いや、もう流石に通話料とかがまずいだろうから、また今度でいいよ」

『そう? なら、いいけど』

「母さんも、気を付けて帰って来て」

『ええ。……またね、優希』

 

受話器を置き、一呼吸。

やっぱり、俺を育てた人は全然違う。

 

「子は、親からすればいつまでも、子。か」

 

その言葉に笑みを浮かべて、俺は自分の部屋に戻った。

 




VOCALOID小説と言っても、俺が真のスポットライトを当てたいのはリン・レンでなかったり。
ここ最近思い始めたんですが、マスターを取り巻く環境にあった人物が隅に追いやられる、ってことが多いような気がします。
でも俺は夏奈子(この作品のオリヒロイン)は重要な位置に当てたいと思う。
実際に彼女、ある俺の小説では学校課題のノベルゲーヒロイン(非公開・非配布)という大役を演じており、裏設定がえげつない事になってたりします。
前の話でパワ○ケネタが出てきたのは、彼女の存在が実は影響しているってのもあります。
その設定がこれに反映されることは…ないかな。優希の両親がこんな立場だからな。

それと、何を言っても主人公の両親。親がいてこその今の子の姿。
後、優希の口調が柔らかくなっているのも、理由があります。
まどマギの影響ですかねぇ。母は強し、というだけあって、母は強く推していきたい。異性だし。
と言ってたら、父親がダメ人間みたいに思われるので、次回の話では電話がかかってくるイベント差し込めたらいいなぁ。
現に、CCさくらのお父さんはすごくいい人だもんな…。

P.S. 最後の言葉は、母から実際に言われた言葉です。子供から大人になるという話をしていたら、そう言われました。
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