VOCALOID×包丁さんのうわさ ~路頭の花と歌姫達~ 作:kasyopa
女性用の服なんかわかんないよぉー!!
ミクが来た日の翌日。
「♪~」
携帯の着信音でたたき起こされる。
いつもサイレントマナーにして寝るので何事かと思い、見てみるとメールではなく着信。
そしてかけてきていたのは案の定夏奈子だった、
「はい……もしもし……?」
『あ、やっと出た。元気してる?』
「なんだ……今起きたところで……後でかけ直してくれ……」
『だめ! 優希また寝るつもりでしょ』
「そんなことは……ない」
『うわぁ~、思考回路回ってない。でも楽しいからこのまま繋いどこっと』
「………」
俺はおもむろに『切』のボタンに手をかける。
『あー! あー! 今切ろうとしてるでしょ! やめて! 要件言うから! 待って!』
「……後でかけ直せ……まだ頭が覚醒してないんだ……」
『いや、すぐ終わるから! だからもうちょっとだけ! 頼みますお慈悲を下さいー!』
「……冗談だ」
『あの、解り辛くてタチの悪い冗談はヤメテイタダキタイノデスガ?』
「後半片言だぞ」
『あ、戻ってきた。で、要件なんだけど』
『デートしよ?』
俺は手をかけていた『切』のボタンを押し、時間を確認する。
携帯のデジタル時計は8:30。そこまで遅くないが、学校のある日だと完全に寝坊だ。
言わなくても解ると思うが、こんな時期だから冬休みに突入している。
「さて……そろそろ起きるか……」
背をのばし、あくびを一つして一階に降りようとしたときに、夏奈子からの着信が来た。
面倒なので、着信拒否をして今度こそ一階に降りる。
「マスター、夏奈子さんから電話だよー!」
「………」
着信拒否されたことが解った彼女は固定電話にすぐさま切り替えたようだ。
頭が痛い。
・
・
『うわああああああああん!!! 何も着信拒否することないでしょー!!』
保留を解除すると、いきなり夏奈子の泣き声が聞こえてきた。
こいつは嘘泣きは下手だから、何故か毎度本気で泣く。感情を表に出してなんぼの奴だ。
「お前は何がしたいんだ」
『だってだって、優希だって解り辛い冗談したし! そのお返しというかある意味本気で言ってみたのにさー! それを着信拒否で返す男の人がいる?!』
「いる」
『え』
「俺だ」
『……あぁ』
「で、本当のことを言え」
『えっとね、デートというか、厳密には違うんだけど、みんなでデパート行かない?』
「初めからそういっていれば、お前も泣かないですんだものを」
『んー、そうなんだけどさ。それだと味がないっていうかね』
「とりあえず、いつ行くんだ?」
『そうだねー。お昼過ぎに迎えに行くから準備しててくれる?』
「……あ」
『え?』
「いや、たしかそっちのルカの車は4人乗りだろ?」
『うん、そうだけど一人ぐらい大丈夫『駄目ですよ。私の車なんですから』えー、けちー』
「まぁ、そうなんだが、こっちの住人が増えてな」
『え! ほんと!? だれだれ?! もしかしてミクちゃん!?』
「ご名答」
『うわー、うわー。楽しみだなぁー……あのミクちゃんに会えるなんて…』
「それより、どうするんだ。二人は車に乗れないってことだぞ?」
『それなら私と優希が自転車に乗ればいいじゃない』
「そう来るか…まぁ、その手しかないがな」
『じゃ、準備しててね』
向こうから電話を切られる。
相変わらず、嵐のようにやってきて嵐のように去っていくやつだ。
「ねぇマスター、なんだったの?」
「ああ、午後にデパートに行こうっていう誘いだ」
「え! 行くの!? やったぁ! レン起こしてくるね!」
「あ、ミクも起こして来いよ!」
「お姉ちゃんはマスターが起こしてくるのー!」
ミクが来てまだ一日として経っていないのに、リンの態度はだいぶ変わった。と思う。
より明るく、生き生きとしているような。そんな気がした。
とりあえず起こしに行こう。
昨日の流れで、母さんの部屋がそのまま一時的にミクの部屋になった。
母さんが帰ってきたらどうしようかを考えているが、それは二人が帰ってきた時に何とかしてくれるか、それまでに俺が何とかするか。
数回ノック。返事がない。
「ミク、起きてるか?」
『あ……おはようございます、マスターさん』
「入って大丈夫か?」
『大丈夫です。服はパジャマのままですが……』
ドアノブを回すが、ガチャリというだけで開かない。
体を前に進めていた為、額を打ち付けてしまった。
『ご、ごめんなさい! 鍵を閉めたままでした……!』
「……そうか、いや、気にするな」
カチャリと音を立てて鍵が開く。
多分だが、夜誰かが来るのを恐れて鍵をかけていたのだろう。
当の彼女はパジャマのままでベッドに座っていた。
部屋の中は落ち着いており、裂かれたシーツは外されて部屋の隅に綺麗に畳んであった。
「すみません……あのシーツ、お高い物だったんですよね?」
「え? ああ、言って母さんのだから。なんでも絹100%がどうとか言ってたな」
「だから、畳むときあんなに手触りがよかったんですね」
彼女の話によれば、今まで触れてきたそれよりもずっと良い手触りだったらしい。
俺は触ったこともないし、寝たこともなかったからどうとは言えないのだが。
いや、一回クリーニングから帰って来て日陰干し時に触ったことがあったかな。
「私」
「その件はもう母さんに説明してる。そうしたらこう言ってくれたんだよ」
「………」
「そういうものはお金を払えばなんとかなる。でも思い出のある物、『心のある物』はいくらお金を積んでも駄目だって」
「不思議な方ですね。マスターさんのお母様は」
「まぁ、金持ちだからちょっとやりすぎってこともあるがな」
この部屋の改築とか、寝具などの身の回りの物は質を特化して、環境を整えるとか。
逆に父さんはほとんど自分の為にお金を使わない。使うのは家族旅行の時か、俺の知らないところで少しずつ使っているようで。
……偉大な親だ。誇れる親でもあるが。
「さて、今日はさっそくだが午後から買い物に行くからな。早く朝食にして準備するぞ」
「え、あ、今、なんて……?」
「買い物に行くんだ。夏奈子、ああいや、俺のクラスメイトが誘ってきたんだ。それもミクの服とか身の回りの物、買わないとと思ってた矢先に、だ」
「あの、私はこのままでも結構ですので……」
「いや、だめだ。今のままじゃお前も今のままだしな。とにかく、そのクラスメイトはかなり厄介だから逆らえないぞ?」
「優希さんでも、手を焼いてるんですか?」
「ああ、正直言ってな。ほら、早く着替えたほうがいい」
「は、はい……」
*******
で。あっという間に時間になった。
外で待っていると真赤なスポーツカーが家の前で停車し、運転席からルカが顔を出した。
「じゃあルカ、3人は任せた」
「ええ、大体のことはマスターから聞いてるわ。あ、そのマスターだけど後ろから自転車で追いかけて来てるから、少し休ませてくれないかしら?」
「ん、解った」
「じゃあリン、レン。それにミク。乗って。長く止まってると警察に目をつけられちゃうから」
「「ルカさん、お願いしまーす!」」
「あの、お願い、します」
リンとレンは相変わらず『廃都アトリエスタにて』の恰好をしている。
ミクはパッケージ通りの服装に、俺のコートを着ている。
ミニスカートや脇の見える上着だと寒いだろうと、考慮したのだ。
リンとレンが後ろの席に、ミクは遠慮がちに助手席に座る。
「じゃあお先に」
「ああ。またあとで」
「マスター、デパートで会おうねー!」
「お先にー!」
発車し、見えなくなった頃に後ろから自転車に乗った夏奈子がやってきた。
「ご苦労さまだな」
「いやー、体が温かい。体動かすのはいいねほんと!」
「お前は体育系だからな。学年のそこら辺の男子より体力あるだろ」
「ほめても何も出ないよ?」
「……まぁいい。さて、追いかけるか」
家の奥から自転車を引っ張り出し、夏奈子と一列になってルカの車を追う…というか、デパートへ向かう。
「たまにこんなサイクリングもいいとね、優希!」
「お前が思うならそれでいいんじゃないか? 俺も満更悪くない」
「お、言うねー。ならどっちが先につくか勝負する?」
「いや、俺のペースで行かせてもらうよ。お前もお前のペースで行けばいいじゃないか」
「私は優希と一緒がいいの! まぁ、この言葉の意味、優希なら分かってると思うけどー?」
「知らんな。解ってても」
「ほら、解ってる! さっすが鈍感男とは違うね!」
「察しが付きすぎるのも問題だがな!」
近所に聞こえてもおかしくない声のボリュームで会話している俺と夏奈子。
いつものことで、近所でも何かと名物になっている、らしい。
「ところで優希ー! ミクちゃんどうしたのー?」
「それはデパートに着いたら教えてやる! とりあえず今はこげ!」
「はいはーい!」
「後、あんまり過去について詮索してやるなよ!」
「え? あ、うん!」
この事だけ言っておけば大丈夫だろう。多分、だが。
後は夏奈子自身の洞察力で、何とかしてくれる……かもしれない。
結局は、相手がどう動くかなんて人がどうこう言って止められるものじゃないからな。
Side 初音ミク
「ルカさん、いつもいつもありがとうございます」
「いいのよ。それに言ってもいつも休みでつまらないからってマスターが企画したんだし」
「そういえば昨日ご馳走したからまた食材買わないとなー、メモしておこっと」
「あの、ルカさん」
「? どうしたのミク?」
「ルカさんはいつから、あの人のところに居るんですか?」
「それは私達がこうして『人』として生活できるようになってからか、それともソフトとしてでも存在していられた時の頃からかしら?」
「……前述の方でお願いします」
「そうね。一年前よ、この子たちと同じ。大抵みんな同じじゃないかしら?」
それより後に購入した人なんて、お金を弄ぶ富豪ぐらいじゃないかしら。
そう続ける彼女。
少し心に来る。私は、私用のVOCALOIDという名目で作られたセクシャロイドに過ぎなかったという、現実。
そして、壊された機能。
どんな身分の人でも、色んな人がいる。
そういえば、優希さんのお父様とお母様もお金持ちだったっけ…。
「そういえばミクお姉ちゃんが寝てた部屋、すっごく綺麗だったよね!」
「マスターによるとお母さんの部屋なんだって。リン、知ってた?」
「え? あ、そっか。あそこお母さんの部屋だ!」
「リンちゃん、マスターのお母さん知ってるの?」
「うん! すっごく綺麗な人だよ! もしかしたらマスターより優しいかな……?」
「マスターの優しさはマスターのお母さん譲りなんだよ。あ、でも不思議な人だね」
不思議な人? 確かにお部屋は洋風の造りだったし、ベッドもあったし、それに。
「私も会わせてもらったけれど、不思議な方よ。魅力的な人なんだけれど、それがあって普通じゃ近寄り難いと思うわ」
「そんなに、不思議な人なんですか? 優希さんのお母様は」
「ええ。簡単に言えば胡散臭い、かしらね」
「それに私達の考えてる事簡単に見抜いちゃうんだよ! だからお菓子食べちゃったりしてもすぐばれちゃうんだー」
「それなのにお母さんの考えてることは解らなんだ。当然なんだろうけど」
優希さんは、そんな人を見て大きくなったんだ。
不思議で、優しい人。相手の考えているようなことを見抜くも、それでいて自分の考えていることを相手に見せない。
そういえば、お父さんはどんな人なのかな。
「リンちゃん、レン君、優希さんのお父さんってどんな人?」
「うーん、地味な人?」
「え?」
「無口で読書してる人かな? 自分専用の書斎持ってるぐらいだし」
「もっと、こう不思議なところない?」
「んー、と言ってもマスターのお母さんがマスターのお父さんを好きになったのか解んないくらいなんだよね」
「その点だと一番不思議な人かもしれないね。言うなら……堅ゆで卵?」
「それを言うならハードボイルドよ」
「………」
ハードボイルド……優希さんみたいな人なのかな……
かっこいい人、なのかな。
「……でも、男の人だから」
「………」
「聞くだけ野暮だけれど……貴女、複雑な事情があってあの家に来たのね」
「え、あ……はい……」
「……ごめんなさいね。少し確認しておきたかったから」
「いえ、いいんです。昨日の優希さんのお蔭で、マシになりましたから」
多分、大丈夫。でも、優希さんの身内の人だけかもしれない。
デパートに行けば、知らない男の人がたくさんいるだろう。
「何かあったらすぐに言いなさい? 私達は貴女の味方なんだから」
「ルカさん……ありがとうございます」
「私達も守るからね! 絶対私達からはなれちゃだめだよ!」
「リンが一番迷子になりそうだけど」
「レン、何か言った?」
「何でもないよ」
と、大きな建物が見えてきた。車もたくさんそっちの方に向かっているし、あそこが目的地だろう。
そういえばマスターと幼馴染さん、大丈夫かな。
サブタイトルは適当です。ぱっと思いついたのを書きました。
夏奈子、やっぱりいいなぁ。うぬぼれですが。
いろんな設定付け足していくと、愛せるようになりました。
やっぱり、そのキャラクターに対して愛がないと書けないと俺としては思います。
好きとかじゃなくて、気に入っている、でも愛でもあります。
……さて、こちらに新しいお方がリアルでやってきます!!!
新キャラ追加準備だぁ!!!