【完結】チートでエムブレム   作:ナナシ

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マルス「パワーを上げて物理で殴ればいい」
ガーネフ「おま」

後編


6章 B

2.賢人会議

 

 

 ディール要塞から東にある森林地帯。そこにいくつものコテージが並んでいる。

 そのコテージの一つに『彼ら』が集っていた。少年と言える年齢の若者が一人、まだ青年とも言える銀髪の男が一人。白髪が混じった黒髪の老人が一人。金髪の妙齢な女性が一人。

 計4人。彼らは自らを『賢人会議(ワイズメン・グループ)』と名乗っている。

 

 ちなみにこのグループ名、とあるラノベからパクったやつです。邪気眼的な要素全開だが気にしない!

 

「───報告を」

 

 メガネが似合うダンディな某指令のポーズをとっているマルスこと私は正面に座る三人に報告を促す。

 最初に立ち上がったのは銀髪の男──エルンストだった。

 

「殿下。我ら『風を渡る者』は順調に活動を行っております。帝国の支配力が薄い地域という条件は限定されておりますが効果のほどは劇的と称すべきものがあり、タリス、ガルダ、サムスーフ、オレルアンなど、賊や帝国の支配下から脱した国の民衆からの支持率は目を見張るものがあります。情報操作および印象操作はまず成功と言っていいでしょう」

「民衆、ことに他国民と交流する機会の少ない平民にとって吟遊詩人の語る物語は大きな情報源だからね。よろしい、君達はそのまま活動を続けてくれ」

「はっ──!」

 

 『風を渡る者』とは子飼いの吟遊詩人達を指す言葉だ。もちろん某ゲームからのパクリだ。

 吟遊詩人達の活動は上手くいっているようだな……いいぞいいぞぉ。

 

 彼らのこの活動は戦後を見据えてのものだ。

 戦争に勝ちました→民衆は大きな力を持った解放軍を怖れ始めました→民衆達は解放軍を『第二のメディウス』扱いしはじめました。→結果、打倒マルスを掲げ叛乱を起こしました。

 こんな風になっては困る。嫌ですよ人から恐怖の対象扱いされるだなんて。

 そこで私は思いつきました。そうだ、現代世界にあるマスコミの真似をしよう!と。

 民衆に与える情報は真実、しかしその真実は全て解放軍の活動を好意的に解釈したもので占められていたのです──みたいな。

 最初は商人達を使って広めようとしたんだけど、「吟遊詩人達に物語という形で語らせて広めた方が民衆の心に強く印象付けられないか?」と考え直して。

 それで生活に困っている吟遊詩人を雇い、彼等の一部を私達に従軍させ、出した戦果や活動を物語として作らせて、完成した物語を各地で待機している他の詩人達に伝え語らせる。

 

───これから語る物語 それは一人の王子の物語

───祖国を奪われ、家族と離れた悲劇の王子の物語

───二年という長く短い雌伏の時を経て、彼の者は立ち上がる

───その胸に抱くは祖国の奪還 その瞳に宿すは平和の奪還

───少年の名はマルス 彼こそは大陸の夜明けを告げる光の王子なり

 

 とまあ、こんなくっそ恥ずかしい前口上とともに彼らは町の広場なり酒場なりで語り始める訳です。

 上では私のことしか書かれてないけど、ちゃんと他の解放軍メンバーを称える物語もありますよ。ジェイガンとか、アベル、カインのこととか。他にも色々ね。

 現在のアカネイア大陸では恐怖の対象である竜人族(マムクートは蔑称であるため言ってはいけない)のバヌトゥが『解放軍の守護竜』として人気があるのは、ひとえに彼ら吟遊詩人達の活動のおかげです。

 うんうん、いいぞいいぞぉ。「お前ら怖いから数揃えて叛乱起こすわ」という、民衆の造反フラグは可能な限り潰さないとね!

 

 情報操作……というか印象操作はこれからも力を入れていきたい事業の一つだ。

 

 次に立ち上がったのは白髪が混じった黒髪の老人。名前をオストーという。

 彼は5年前から設立されているアカネイア大陸の商会連合『フォーチュンテラー』の現代表だ。

 私の影の腹心でもある彼は、手に持っていた資料をその場にいる全員に渡す。

 渡された資料に目を落とすと──

 

「……帝国にフォーチュンの存在を悟られた可能性有り、だって?!」

「はい。ワーレンにあるフォーチュン支部の武器屋に務めていた男が一週間前から行方不明となってたのですが、先日遺体として発見されました。拷問された形跡があります」

「…続きを」

「その遺体が発見される前、正確には遺体の男が行方不明になった直後からですな。帝国の者と思わしき複数の男が各地にある支部店を見張り始めました」

「何故今ごろになって……いや、帝国は決して無能ではない。そう考えたほうがいいか?」

「はい。むしろ今まで気付かれなかったことこそおかしいのです。帝国には優秀な者が多く存在します。一度不審に思えば即座に行動を起こし、情報を集め、やがて答えにたどり着くでしょう。

 殿下、帝国はすでにフォーチュンの存在に気付き、かつ裏で我らと殿下が繋がっていると断定している。これからはそう仮定して行動なさったほうがよろしいかと」

「わかった、そうする。貴重な意見と情報に感謝する。オストー、帝国の同盟、支配下にある国……マケドニア、グルニア、アカネイア、アリティア、グラにあるフォーチュン支部に『暫くの間静観に徹せよ』と伝えてくれ」

「御意!」

 

 何もかもこちらの都合の良い通りにはいかないか。なるほど、考えてみればあたりまえのことだ。

 吟遊詩人達の動きにも対応されてしまうかもしれないな。何か対策を考えておかないと……。

 

 報告を終えたオストーが座り、最後に立ったのはカダインから魔法「ワープ」でやってきた妙齢の女性───アリュナだ。

 彼女は魔道組織『ジ・クリエイターズ』の代表を務める女性司祭。この組織は学園都市カダインに秘密裏で設立された、魔道の杖を作ることを専門とした組織である。

 組織設立の資金はフォーチュンテラー経由で私が出した。杖を作ることに至上の悦びを見出す彼女達にとって、高レベルの杖を作るのに必要な費用をポンと出してくれる存在はとてもありがたいらしく、信仰するレベルで私のことを慕ってくれている。

 アリュナも私を慕っているらしく、人目がない場所で二人きりになるとフニャフニャペタリと腕に絡みつき、その大きなオパーイを押し付けてくる。

 く、くそぉ、パツ金ねーちゃんの誘惑になんて負けないぞ! 私はシーダでDTを捨てるって決めてるんだ!(←恋愛フラグ消滅に気付いてない)

 

 彼女はその大きなオッパイの谷間から(!?)報告書を取り出し、それを私に手渡す。……エルンスト、オストー! 羨ましそうにこっちを見るな! これは絶対にやらんぞ!

 折りたたまれた紙を開き、その内容に目を通す。……ふーん、なるほどねぇ。

 

「聖水が随分買い込まれてるみたいだけど?」

「はい。わたくし達が経営する店から大量に聖水が買い込まれました」

「そしてそれを買い込んだのが現在カダインの支配者であるガーネフの部下達と」

「付け加えますと、彼らは仲間同士でこのような会話をなさってました。『これを全部ワープでアカネイアまで持っていくのか』と。

 アカネイアに潜伏している同志に確認をとったところ、多数の魔道士がワープで何度もパレスへ出入りしていたとか」

「サンダーソード対策かな」

「間違いなく」

 

 やっぱりなぁ。そろそろ対策取られると思ってたんだよ。魔法防御を上げる聖水ってさ、高性能なくせに安価で量産しやすいんだよね。

 これで我が軍のサンダーソード無双も終わりかな。だけど……。

 

「問題ないな。我が軍の力はサンダーソードが全てという訳ではない」

「はい──」

 

 私の言葉にアリュナは笑みを浮かべる。エルンスト、オストーも同様だ。

 サンダーソード対策なにするものぞ。自重を止めた我が軍はその程度では止められない止まらない。

 この戦(いくさ)より我らマルス軍は真の無双を始めるのだ。

 

「それとこちらは口頭での報告となります。二ヶ月ほど前に王子がご注文なされた杖……完成のメドがたちました」

「ッ───!」

 

 そうか、とうとう完成するか───ワープの杖、レスキューの杖が!

 

「アリュナ、よくやってくれた! 報酬は戦が一通り落ち着いてからになるが必ず渡す!」

「ありがとうございます───」

 

 いいぞ、いいぞぉ! あの二つの杖があれば戦術・戦略ともに広がる!

 ふはははは、超テンション上がってきた! 今なら誰が来ようと勝つ自信がある! もう なにも こわくない!

 

 

 

 その後、ディール要塞に駐屯している帝国軍が動き出したとの報告を受けたため会議を中断、解散した。

 エルンストとオストーはワープを使えるアリュナの部下とともに去り、アリュナは自分のワープでカダインへと戻っていった。

 

 さて、そろそろ気持ちを切り替えなくちゃな。マリア王女救出作戦、始めるぞ!

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

3.マルス軍 VS ジューコフ軍

 

 

 陽は真上に昇り、さんさんと草原を照らしている。その見渡しのいい平原をジューコフ率いる800人の軍集団が列を成して進軍していた。

 彼らの装備は従来の物ではない。ガーネフが持ってきた武器──メニディ川で拾った旧アリティア軍の装備──をそれぞれ装備している。

 ある者はサンダーソード。ある者はキラーランス。ある者はキラーボウ。

 渡された武器は全て手入れされて新品同様になっており、数回の戦争に耐える事が出来る。準備は万全と言えよう。

 

 進軍は快調に進む。馬の蹄の音が草原に鳴り渡る。もう間も無く報告にあった反乱軍の駐屯地だ───

 

「報告! 反乱軍がこちらに向かい進軍開始! 反乱軍がこちらに向かい進軍開始!」

「来たか───!」

 

 偵察に出していたドラゴンナイトからの報告。ジューコフはその報告を受け取り、攻撃命令を意味するラッパを兵士に吹かせる。

 

「これより我らは反乱軍との交戦にはいる! 全軍前進! 我らが正義を示すのだッ!」

『おおぉぉぉ───ッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 ディール要塞に配属されたグルニアの兵士トマーは不幸の人である。

 

 彼は幼い頃からグルニア騎士団、それも花形である『黒騎士団』へ入団することを夢見ていた。そのために彼は剣の腕を磨き、槍の使い方を学んだ。

 腕が伸び悩み挫けそうになった時、故郷の幼馴染イース(当時15歳♀)に「がんばだよ、トマー!」と何度も励まされたものだ。

 入団試験を受けるため首都へ向かう日に、皆から鋼の剣と500ゴールド(平民の年収は900ゴールド~1200ゴールド)を渡されたときは涙が止まらなかったものだ。

 

 彼の不幸はその入団試験のときから始まる。

 

 入団試験は受験者同士一対一で決闘を行い勝った者が合格するというものだった。

 トマーはこの試験に挑み───勝った。それも圧倒的力の差を見せ付けて。

 本来なら文句なしの合格だ。しかし、彼の相手が悪かった。

 トマーの試験相手はグルニアでも有数の貴族の息子だった。その息子は負けた腹いせにゴロツキを金で雇いトマーを襲わせたのだ。

 しかしゴロツキ程度にやられるトマーではない。10年間の自己鍛錬は彼を裏切らず、実戦経験が皆無にも関わらず襲ってきたゴロツキ10人全員を返り討ちにした。

 返り討ちにあったという報告を聞いた貴族の息子は憤怒し、しかしすぐに考え方を変える。彼はトマーを「愚かにも首都で殺人を犯した大罪人」へ仕立て上げたのだ。

 トマーは必死に弁明したが金と権力を持つ貴族には適わなかった。結果、彼は死罪こそ逃れたものの騎士団合格は取り消し、下級兵として最前線へ送られることになる。

 

 送られた場所も最悪だった。そこには下級兵を蔑む貴族出身の騎士が多数存在し、職務中にも関わらず彼らは酒を飲み過ごしていた。

 真面目な性格をしているトマーはそれを注意する。その結果彼は騎士達の反感を買ってしまい、上官の見えない場所で彼をリンチするようになる。

 

「これが、こんなのがグルニアの貴族なのか。グルニアの騎士なのか」

 

 彼は貴族に、騎士というものに深い失望を覚えた。これがかつて夢見ていた騎士の現実なのか、と。

 

 それから数日後、彼が居た最前線に解放軍を名乗る軍が現れ、大きな戦争が始まる。レフカンディの戦いだ。

 トマー達レフカンディ軍は圧倒的戦力差で会戦に望んだにも関わらず敗北を喫した。……完敗だった。

 その戦場の光景は今でも夢に見る。……20メートルにもおよぶドラゴンが目で追いかけるのがやっとのスピードで戦場を駆け巡り味方をひき殺していく光景を。その背に乗る自分とさほど変わらない年齢の男が傲慢に笑う、悪夢そのものの光景を!

 解放軍という言葉を聞いただけで全身が竦む。トマーはあの戦争で強烈なトラウマを植え付けられた。

 

 その解放軍との戦いがもう間もなく始まろうとしている──

 

 ズン!という地響き。音がした方向へ視線を移す。

 視線の先には槍を構えた解放軍の歩兵達が隊列を組んで並んでいた。

 トマーは震える身体を無理やり抑え、前方にいる敵軍を強く睨みつける。

 

「やってやる……やってやる……!」

 

 その呟きには決意が篭められている。何が何でも生き抜くという強い決意。

 トマーは故郷にいる幼馴染のことを思い出していた。この戦(いくさ)が終わったら軍を辞めて村に帰ろう。そして畑を耕すんだ。アイツと、幼馴染のイースと一緒に……。

 

 しかし現実は非情だ。彼にとって新しい『悪夢』がこれよりこの地で開演される。

 

『全体、かまえーっ』

 

 指揮官と思わしき老人の声。ジャランと槍を構える音が聞こえた。

 

『全体、突撃ッ!』

 

 そして彼らは指揮官の号令にあわせて、

 

 

 

ズズン───ッ!

 

 

 

 鈍い音が響くと同時に地面が揺れ、次いで敵反乱軍は跳躍する。

 誰かが「えっ」と呟いた。つい先ほどまで目前に居た反乱軍が影を残して消えたからだ。

 再び誰かが呟く。「上…?」それを近くで聞いたトマーは天を仰ぎ見る。……そこには信じられない光景があった。

 

 敵反乱軍、およそ200。その敵軍全員が遥か上空まで飛んでいた。それこそペガサスナイトやドラゴンナイトが飛行する高度まで。

 

 ゆっくりと落ちてくる敵軍は持っていた槍を投擲するように上段に構え──下から見上げれば豆粒ぐらいの大きさにしか見えないのに、何故か分かった──勢いよく腕を振りぬく。

 

 

 

轟───ッ!

 

 

 

 雷鳴を思わせる凄まじい轟音が戦場に鳴り響く。そして───

 

「うわ、うわぁぁぁぁぁ!!」

「いてっ、いてぇぇぇ!!」

「くび、お、おれの、くびぁぁぁああああ!」

 

 槍に貫かれ即死した戦友の名を叫ぶ者、足や手を切り裂かれ絶叫する者。

 ジューコフ軍は一瞬で混乱に包まれた。彼らはいま何が起こったのか理解出来なかった。

 

 そしてその混乱をよそに後方へ着地する反乱軍。彼らは誰一人負傷していない。

 彼らの行動とその結果起こった現象、それを言葉にすれば実に単純だ。

 敵軍は100メートル近い高度まで跳躍した。その後持っていた槍を投擲した。その槍で200人近い味方が殺された。一方100メートル上空から落下した彼らは誰も負傷せず無事に着地した。

 ……不条理というレベルではない。ジューコフ軍にとって反乱軍という存在は理解の範疇外に在る〝ナニカ〟だった。

 

 悪夢はどこまでも続く。混乱、錯乱するジューコフ軍に向かい後方に着陸し隊列を整えた敵軍。そして彼らの指揮官は再度突撃の号令を発した。

 

『全体、かまえーっ! 全体、突撃ッ!』

 

 腰の剣を抜き放ち突撃の構えを見せた反乱軍。指揮官の命令が響くと同時に揺れる大地。轟音とともに土がめくれ、敵軍はたったの数歩で50メートルはあった距離を駆け抜けジューコフ軍に切りかかる。この一撃でジューコフ軍は200人以下にまで減らされた。

 

(ああ……やっぱり俺、不幸だぁ……)

 

 すでに敗戦が確定している戦場の中、トマーはついに恐怖に負け意識を手放す。

 それがグルニア軍に所属していた彼の最後の戦いだった──

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「よっこらしょ、っと……」

 

 崖をなんとか登りきり、解放軍の戦士ドーガは一息つく。マルスが彼に与えた任務は北の入り口の確保であった。

 部下や兵士達を大事にするマルスが(信頼を置くとはいえ)ドーガ一人で戦地の中を行動させるはずはない。しかし自重を止めたマルスは『あるアイテム』を大量に購入。そしてそれをドーガに使用させたことで彼の単独行動を認めた。

 そのアイテムこそステータスUPアイテム。マルスは全ての部下達にそれぞれアイテムを与えた。

 

 天使の衣×200でスタミナを大幅に上昇。

 パワーリング×100で圧倒的パワーを。

 スピードリング×150で疾風の速さを。

 竜の盾×200で鉄壁の肉体を。

 

 これによりマルス軍は人外そのものの軍集団と化している。今の状態だと無名の歩兵ですら鉄の剣で地竜を切る事が出来るのだから恐ろしい。

 

「ん? あれは……敵の魔道士か?」

 

 ドーガの視線の先に敵軍の魔道士と思わしき者が一人。どうやらこちらには気付いていないようだ。

 ドーガは持ってきた4本の槍のうち手槍を持ち狙いを定める。距離は100メートル。本来なら絶対に届かない距離だがパワーリング×100で圧倒的パワーを得たドーガならば充分狙える距離だ。

 

「むんっ──!」

 

 気合を入れて槍を投擲! 手槍は風を切り裂きながらぐんぐんと迫る!

 音で気付いたのだろう、敵魔道士は魔道書を取り出し迎撃体勢に入った。全身が黒い霧で包まれる。

 しかし勢いのついた手槍は止まらない。手槍はバリアと思わしき黒い霧ごと敵魔道士を貫く!

 

「仕留めたか──ん? あれはまさか回復魔法か……? 槍で身体を貫かれているのに魔法を使う余裕なんてあるのか!?」

 

 目を剥いた。あの一撃に耐え、しかも回復魔法を自分自身にかける余裕があるとは誰が想像つくだろう。

 呼吸を一つつき冷静さを取り戻したドーガは、最後の手槍を取り出し先ほどと同じように投擲。狙いは頭部、ここを潰されればさすがに終わりだろう。

 果たして、手槍はドーガの狙い通りに目標の頭部を貫いた。敵魔道士は力無く倒れ、少しの時間を置いて闇の粒子となり消え去る。そしてその場に一振りの剣が残された。

 

「こいつは見たことが無い剣だな。……あとでマルス様に見せてみるか」

 

 剣を回収しそのまま崖から移動、要塞の北入り口にいた敵警備兵を蹴散らし制圧した。ドーガは無難に任務を終える。

 

 

 

 たらららたらららら~♪

 ドーガは ガーネフを たおした!

 ドーガは ファルシオンを てにいれた!

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 要塞の壁を破壊しそこから進入した私達突入部隊は、マリア王女を探しながら要塞内の敵と戦っていた。

 もっともそれはお世辞にも戦いと呼べる代物ではない。何故ならば……

 

「なんで、なんで切れないんだよこいつら!?」

「キラーランスが通用しないとか嘘だろう!?」

「こっちのキラーボウもだ!」

「この武器で傷一つ付かないなんてどうなってやがる!??」

 

 ナイトのキルソード、アーマーナイトのキラーランス、スナイパーのキラーボウ。その悉くが通用しない。

 攻撃が回避されているという意味での『通用しない』ではない。攻撃が命中しているにも関わらずダメージを与えられないという意味での『通用しない』だ。

 敵兵は私達を「化け物」と罵り逃走する。しかし敵の逃走を許す訳にはいかない、私はナバールに全て討ち取るよう命じた。ここで逃走を許せば生き残った彼らは『解放軍は化け物の集まりだ』と悪い噂を流してしまうだろう。それだけは必ず避ける。

 

 一階にいた敵兵をすべて片付けた後、二階へ続く階段と地下へ続く階段を発見する。

 

「ナバール、ジュリアン、カシムは二階へ! 私と残りは地下へ行く!」

 

 私はオグマ、バーツ、サジ、マジを連れて地下へ下りる。そこはやはりというべきか、地下牢を思わせる部屋が並んでいた。幸いなことに敵兵の気配は無い。周囲を警戒しながら一つずつ慎重に部屋の扉を開けていく。

 そして四つ目の部屋で、私は意外な人物と出会うことになる。

 

「……マルス王子、ですか?」

「その声、その髪の色──まさか貴方はミネルバ王女か!?」

 

 そこにいたのは先日エストを通じて救援を求める手紙を送ってきた赤毛の女性、【赤い竜騎士】という異名を持つマケドニアの王女ミネルバだった。なぜ彼女が戦場ではなくこんなところに。……正史(原作)の知識もそろそろあてにならなくなってきたな。

 

 鎖で手首を縛られ吊るされている彼女は鎧や服を脱がされ下着だけの姿となっており、全身は鞭で打たれたのかいくつものミミズ腫れが出来ていた。

 私はすぐに鎖を外し、自分のマントで彼女の肌を隠す。

 

「ありがとう王子。……この地を治めるグルニアの将軍に拷問を受けてしまいました。この傷はその時のものです」

「ミネルバ殿……。よくぞ、よくぞ耐えてくれました」

「王子はこちらの無茶な救援を受け入れてくれたのです。これぐらいの拷問、耐えてみせます。……ふふ、女としての尊厳を奪われなかったのがせめてもの救いでしょうか」

 

 彼女の身は汚されていないということか。それを聞いて一安心だ。

 

 ミネルバ王女の話によると、先日ワーレンで接触した私とエストのことが帝国にバレたらしい。な、なんということだ……。

 

 王女の体を支えながら立ち上がり、そのまま歩き出す。地下牢から出て廊下を歩いていると階段の上から聞き覚えのある声がした。

 ドタバタと勢いよく階段を下りて地下へきたのは一人の少女。ミネルバ殿と同じ美しい赤毛から察するに彼女こそ──

 少女は廊下に出たミネルバ殿のもとへ真っ直ぐと駆け寄り、そのまま抱きついた。

 

「姉さまぁ! ミネルバ姉さまぁ!」

「マリア……ああ、マリア……!」

 

 涙を流しながら姉の名前を何度も繰り返すマリア王女。ミネルバ殿の目にもうっすらと涙が溜まっているのが見える。

 感動の再会を邪魔するのも無粋。私はオグマにミネルバ王女達の護衛を任せ、ナバールだけを連れて一階へと上がった。

 

 一階へ上がり南にある入り口へ向かうと、そこに少数の部下を従えたジェイガンの姿があった。彼は私の姿を見つけるとこちらへ駆け寄り、そのまま戦況の報告を始める。

 

「王子、敵将の戦死、および敵軍の壊滅を確認しました。我が軍の勝利ですぞ!」

「ご苦労様。こちらの損害は? 戦死者はいる?」

「戦死者はゼロ。損害らしい損害はありませぬな。ただ気になる点が一つ……」

「気になる点?」

「はい。敵軍の装備です。彼奴等、我が軍に似た強力な希少武器を装備しておりました。具体的にはサンダーソード、キルソード、キラーランス、キラーボウなどですな」

「……我が軍に似たというか、まんまうちと同じ武装じゃないか。キルソードとかはそれなりの店で購入出来るからともかくとして、サンダーソードまで? ……どうなってるんだ」

「王子、これは私見ですが……今回帝国軍が装備していた武器の数々、メニディ川で回収したものではないかと」

 

 メニディ川? メニディ川………メニディ川ッ!?

 もしかして二年前にあったアリティア軍vsグルニア・グラ混成軍のあれか! あそこで戦死した旧アリティア軍の装備を回収したってこと? それって火事場泥棒じゃん! あの地に居て生き残ったのって多分グルニアの連中だろ。あの騎士道騎士道うっさい奴らがそんな真似するか?!

 いや、やはりそれは考えられない。グルニアが回収したのではなく、後からやってきたドルーアが全部回収したって言われたら割りと納得出来るけど。

 ……いやでも、例えグルニアであろうとも強力な武器が手に入るなら恥を忍んで火事場泥棒だろうとなんだろうとやる……か?

 

 ううぅむ、グルニアの情報が欲しい。欲しいんだけど…グルニアにあるフォーチュンの支部は帝国に見張られてるみたいで動かすことは出来ないんだよなぁ。

 

 うんうんと悩んでいる私のところにがっしゃんがっしゃんと鎧を揺らしながらドーガがやってきた。

 

「王子、少しよろしいですか?」

「ジェイガン少し待ってて。──うん、大丈夫だよ。なにか問題でも起きた?」

「いえ、北の入り口を制圧する時にこの剣を手に入れましてね」

「剣?」

「はい。敵の魔道士らしき男……老人かな?が持ってた剣です。それ、私は見たことがない剣でして。剣に詳しい王子なら何か知ってるかなーと思って持ってきたのですよ」

 

 ドーガから受け取った剣を鞘から抜いてみる。おお、なんか凄いぞこれ。見た目完全に聖剣っぽい。こう、心が洗われる神々しさがあるね!

 ……もしかしてこの剣ファルシオンだったりして。なーんてなHAHAHA!(←気付いてません)

 

「うーん、ちょっと分からないかな。ドーガ、これ預かっていいかな? 時間が出来たら調べてみたい」

「了解です。それではその剣、王子がそのままお持ちください」

 

 では、と一礼し、再びがっしゃんがっしゃん鎧の音を響かせながら持ち場へ戻るドーガ君。

 ふぅ、と溜息をついたあと、ジェイガンにこれからの方針を話す。

 

「敵兵の武装についてはとりあえず保留。この件、父上やハーディン殿も交えて話し合おう」

「……それは<秘密の店>についてもお話するということでしょうか」

「いつまでも黙っている訳にもいかないからね。話すべき時期が来たんだと思う」

 

 私が<秘密の店>に出入り可能なことを知っているのはジェイガン達一部の家臣と『賢人会議(ワイズメン・グループ)』の彼らだけ。父上達にはまだ話していなかった。

 父上達に話さないことに不義理を感じていたが今まで話すタイミングが掴めなかった。……今回の一件は良い機会だ。合流したら思い切って話すとしよう。

 

 シェイガンは納得したのか敬礼してそのまま下がる。私はそれに答礼し、その後その場に集まっていた部下達に命じた。さぁ、戦後処理のお時間ですぞ!!

 

「先ほどの戦争で今この地の治安が低下している! まずはそれをどうにかしよう! 各部隊は周囲の巡回を! もし巡回中に敵兵を見つけたら投降を呼びかけるように! 呼びかけに応じ投降してきた敵兵は捕縛、決して殺さないようにすること! それでは行動開始!」

 

 合図とともに部隊がそれぞれ動き出す。……私も彼らの指揮官として動かなきゃ。

 まずは近くにある町に使者を出して食料や医療品が不足しているかどうかを調べてみるか───




あとがき

ドーガ「超遠距離からの手槍(基礎力+パワーリング×100)でマフーの突破余裕でした」
マルス「どういうことなの……」
ガーネフ「そりゃわしのセリフだ」
ジューコフ「後編の出番は1シーン、セリフは二つしか無ぇ」

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