【完結】チートでエムブレム   作:ナナシ

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7章 中編

 ニーナ達解放軍がノルダへ到着した日の夕方、一人の男が駐屯地へと訪れマルス達に面会を求めた。

 男の名はジョルジュ。“大陸一の弓兵”と称される一流のスナイパーだ。

 その彼が持ってきた情報が、解放軍の行動を決定付ける事になる。

 

 ジョルジュが解放軍へと合流し作戦会議が開かれている頃、三人の少女と一人の子供、そして司祭らしき老人の五人が同じくノルダへやってきた。

 その五人はペガサス三姉妹と神竜族の二人である。

 神竜族の二人はノルダにある宿屋で部屋を取り、三姉妹達と別れた。マルス達と合流しないということは、彼らには何か目的があるのだろう。

 

 それまでほぼ(?)正史の通りに進んでいた歴史は、この時から決定的にずれ始める。

 

 

◇◆◇

 

 

3.マルス、人質救出作戦を立案す。

 

 

 会議室。

 ジョルジュから敵軍の情報を聞き、さて我ら解放軍はどうするかと考えているところです。

 敵軍の将、その中にニーナ様の忠臣“ミディア”とその婚約者“アストリア”の二人が含まれていた。それを聞いたニーナ様は力なく項垂れている。

 彼女にとってミディアはアカネイアから脱出する際に囮になってくれた女性、いわば恩人だ。主従の立場を超えた感情を抱いている。

 その彼女を敵として討たねばならないのかと思うと───

 

 どのような状況にあっても常に笑みを絶やさなかった王女が初めて見せる苦悶に満ちた表情。それを見かねたのか父上達は「彼等をこちら側へ寝返らせることは出来ないのだろうか?」とジョルジュに訊ねるが、彼は静かに首を振った。

 

「彼等は、少なくともミディアとアストリアは絶対にこちら側へは来ないでしょう。いえ、来れないでしょう」

「来ないではなく来れないか。何か訳があるとみたが?」

「はい。……ボア司祭が人質として捕らえられているのです」

 

 コーネリアスの問いに答えた後、ジョルジュは語る。ニーナ様がアカネイアから脱出した後の話を───

 

 

 

 アカネイア暦604年、ニーナはミディア達一部の家臣とオレルアンの王弟ハーディンの手引きによりアカネイアから脱出することに成功する。脱出の際にミディア達が囮を務めた。ニーナ達がアカネイアから無事に脱出した後、ミディア達はドルーア帝国に捕らえられる。

 

 帝国は“アカネイアの司祭 ボア”に服従を求めた。ボア司祭はエルファイアーやリカバーの杖など高度な魔道アイテムを作ることが出来る司祭だ、帝国にとって利用価値は高い。

 最初は彼らの要求を頑なに拒んでいたボアだったが、帝国軍将軍“ボーゼン”のこの一言に屈してしまう。

 

「───ミディア将軍がどうなっても良いのか?」

 

 帝国軍に所属する一部の将兵がミディアを“そういう眼”で見ていたことはボアも気付いていた。ボーゼンは「こちらの要求を断るならば見せしめとして将兵達にミディアを貸し与える」と言っているのだ。

 ……彼らの要求を断れなかった。ボアには彼女を見捨てるという選択肢は選べなかった。故に───屈した。

 

 以後彼の身はアカネイアパレスを囲む砦の一つに監禁され、そこで魔道書等の製作に尽くすことになる。

 

 また、帝国はミディア達の身の安全を取引材料に“アカネイアの勇者 アストリア”へも服従を迫った。アストリアはボア司祭同様ミディアを守るため、それに屈する。

 

 そして最後に───ミディア将軍。帝国は彼女にも服従を求めた。

 「騎士は二君に仕えず」と拒否したが、ボーゼンは嘲笑しながら彼女に告げる。

 

「ボア司祭、勇者アストリアは我が帝国に忠誠を誓ったぞ?」

「司祭様とアストリアが? な、何故……!?」

「理由が知りたいか?よかろう、聞かせてやろうとも───」

 

 ボーゼンからボア達のことを聞かされた彼女は、悔しさのあまりに近くの壁を思い切り殴りつけた。

 控えていた兵が抑えようとするが、ボーゼンは「構わん」と止める。帝国軍将軍は真実を知って嘆くミディアを見て下卑た笑みを浮かべていた。

 

 ミディアは狂いそうになるぐらいの怒りに支配されていた。

 ボアが、アストリアが帝国軍に屈したから?否、そうではない。彼等が帝国軍に服従せねばならない理由が自分にあった、その事実が許せなかったのだ。アカネイアの忠臣たるあの二人が帝国軍へ屈した原因が自分であるというのがミディアには許せなかったのだ。

 そう、彼女は自分が許せなかった。自分が居なければ、自分が“女”でさえなければ、二人は“アカネイアを裏切った賊”にならなかったのだ!

 

 最終的に彼女はボーゼンの要求を呑んだ。

 ボーゼンはミディアを将軍職へ復帰させ、その後「旧アカネイア軍の指揮」を命じる。

 旧アカネイア軍は家族や恋人を帝国に人質として捕らえられているため、反乱は起こせない。

 ミディア達にとって長い苦悩の日々が始まった───

 

 

 

 ジョルジュの話しを聞いた後、ニーナ様はミディア達の事を想い涙し、父上は「なんと卑劣な…!」と憤る。ハーディンはその瞳の奥に怒りの炎を宿し、ジェイガンやミネルバ、オグマもそれぞれ似たような反応をしていた。

 

「人質さえなんとか出来ればミディア将軍達はこちら側へ来ると思います?」

「ええ、人質さえどうにか出来れば彼等はこちら側へ寝返るでしょう」

 

 私の言葉にジョルジュは頷く。「もっとも、それが一番難しいのですが」と彼は悔しそうに唇を噛んだ。

 人質、人質ねぇ。……なんとかならんこともないけど、どうしようかな?

 「うーん」と首を捻りながら考えていると、いつのまにか隣までやってきていた父上が私の肩にポンと手を置く。

 

「マルスよ、何か策があるのだな?」

「あると言えばあります。策というか手段なんですが。上手くいけば人質を救出し、かつミディア将軍率いる旧アカネイア軍を根こそぎこちら側へ引き入れることが出来るかもしれません」

 

 おぉ…!と場が沸き立つ。ニーナ様もどことなく嬉しそうな顔をしていた。

 

「ならばそなたの胸のうちにある手段を申すが良い。有効であるのならば、それを活かす策を皆で考えるとしよう」

 

 ……うん、父上の言うとおりかもしれない。一人であーだこーだ考えるよりも「こういうのがあるよ!」と手札を出して、それをどう活かすか皆で考えた方が建設的だろう。

 商人達からマケドニア、グラ、グルニアの三国の動きが怪しくなってきたと報告もあがっているし、ここをサクッと片付けてそっちの対応を考えないと!

 

 私は足元に置いてある宝箱を開け、中から二本の杖を取り出す。

 

「では説明させていただきます。捕らえられた人質を助ける方法、それはこの“レスキューの杖”を使うのです───」

 

 

◇◆◇

 

 

レスキューの杖

 離れた位置にいる人物を自身の下へ引き寄せる魔道の杖。

 使用するには下記のうちどちらかの条件を満たさなければならない。

 

 A.対象の人物を詳細にイメージ可能

 

 B.杖の先端にあるクリスタルに対象者が登録されている

   ※対象者の登録はクリスタルに血液一滴を染み込ませることで出来る

 

 

◇◆◇

 

 

 4.人質救出作戦

 

 

 日は沈み、夜。

 ノルダの町から西にある山のふもとに、マルス率いる第三軍──総勢200人──が居た。

 彼らの目の前には悠然と聳え立つ山脈。この山脈を超えた先にアカネイア・パレスがある。

 

「気をつけぇ!」

 

 第三軍の副官ジェイガンが号令をかける。その場にいる全員が姿勢を正した。

 それを見届けた後、ジェイガンの後ろで控えていた第三軍司令官のマルスが携帯用の壇上へ立ち、告げる。

 

「皆さん、戦です。我々が我々であるために避けることが出来ない戦いがこれから始まります」

 

 我々が我々であるために。マルスが告げるその言葉は『正義の味方』を意味する。

 

「我が軍へ合流したアカネイアの騎士ジョルジュ殿が持ってきた情報と、とあるツテ(子飼いの商人)を利用して入手した情報を照らし合わせた結果、アカネイアの将軍ミディア殿とその部下達が帝国軍に無理矢理従わされていることが判明しました。

 ニーナ様の忠臣たる彼らが帝国に従う理由。それは人質です。彼等は帝国に家族を、親しい友人を、恩師を人質にとられているのです」

 

 兵士達の間でどよめきが生じる。「なんと卑劣なっ」「おのれ帝国軍…!」と怒りの声をあげている者が多くいた。

 マルスは片手をサッと挙げる。数秒の間を置いて兵士達のどよめきは収まった。ジェイガンやドーガにきっちりと訓練されている証拠だ。

 挙げた手を下ろし、マルスは続きを語り始める。

 

「これより一時間後、我々は作戦行動を開始します。目的はアカネイア・パレス周辺にある砦に捕らわれている人質の救出です」

 

 今度は先ほどとは違った質のどよめきが生じる。兵士達の間に力強い笑みを浮かべていた。

 

「ここまで言えばもうお分かりでしょう。我々はこの山脈を乗り超え北上し、200人でパレスまで殴りこみに行きます」

 

 徒歩で超えることが困難なこの山脈を越え、さらに一万人規模の兵がいるパレスへたった200人で乗り込む。正気の沙汰とは思えない暴挙。

 常識で考えれば、この山を越えるだけで何名かの脱落者が生まれ、仮に無事超えることが出来ても疲弊は必須。その状態で数で劣るマルス軍が一万以上もの敵兵で守りを固められている城へと攻めるなど愚かの極みだ。

 

 そう……あくまでも常識で考えれば、だ。

 

 マルス達にとって幸運なことに──そして敵軍にとって不幸なことに──彼等は常識を覆すことが可能な“力”を有していた。

 

「ジェイガン、作戦の詳しい説明を頼む」

「はっ!」

 

 マルスが壇上から下り、変わるようにジェイガンが壇上へ。そしてそのまま左手に持っていた書類を読み上げる。

 

「マルス様が先ほど仰ったように、我が軍はこれより一時間後作戦行動へと入る!

 この作戦の成功は一つの奇跡を戦場に生むであろう。

 よって本作戦を“アカネイアの奇跡”作戦と呼称する!」

 

 マルスの隣で控えていたアベル、カインの両名が壇上へと上がる。アベルの手には大きなサイズの地図があり、壇上へ上がった二人は兵士全員に見えるようそれを広げる。

 ジェイガンは指揮棒を取り出し、地図をパシッと軽く叩く。

 

「なお“アカネイアの奇跡”作戦は全部で四段階に分かれ行なわれる。我が軍が担当するのは第一段階だ。皆、心するように。

 ではこれより作戦の詳細を伝える───!」

 

 

 

 

<アカネイアの奇跡>作戦 概要

 

 

第一段階

  作戦の第一段階はマルスを指揮官としたマルス隊によって行なわれる

  マルス隊はパレス南の山脈を乗り越え、パレス周辺の砦を強襲、人質の救出を目標とする

  人質救出成功後、速やかに“レスキューの杖”へ血液登録を行うこと

  登録完了後、マルスは空に向かって三発の照明弾(※注)を放つこと

  移送部隊であるペガサスナイト(シーダ)、ドラゴンナイト(ミネルバ)の両名は“レスキューの杖”を持って速やかに前線を離脱、解放軍大将(ニーナ)がいる本隊へと合流すること

 

※照明弾

 シューターのエレファントが使う爆裂弾を改良したもの。マルス発案。

 照明弾三発=作戦の成功を意味する。

 

 

第二段階

  照明弾を確認した場合、この段階へと入る。

  ニーナ率いるコーネリアス軍・ハーディン軍混成軍(以下ニーナ隊)は敵帝国軍が構える北へ向かう準備に入る。

  移送部隊と合流後、ニーナ隊は北上を開始。

 

 

第三段階

  敵帝国軍と接敵後、ニーナは“レスキューの杖”を発動、人質を救出し、しかる後ミディア将軍の軍を説得し、こちら側へと寝返らせる。

  ミディア将軍達の説得成功後、ニーナ隊は撤退。作戦は最終段階へと入る。

 

 

第四段階

  ニーナ隊の全撤退を確認後、オペレーション・スレッジハンマー発動。

  これを持って作戦名:アカネイアの奇跡の完了とする。

 

 

 

 

───パレスより南西にある山脈の中腹

 

 

「……ルーメル隊長」

「なんだ」

「反乱軍が持ってるあの服?……なんなんでしょうね?」

「私にも分からんよ」

 

 遠く離れた位置から望遠鏡でマルス隊を監視していたマケドニアの竜騎士の問いに、同じく望遠鏡を覗いて監視している上司のルーメルは淡々と答える。

 数時間前に日は沈み、時刻は深夜。彼らルーメル隊は解放軍を監視していた。

 彼らの主であるミシェイルから「彼奴等を特に監視せよ」と強く命じられている。

 マルスとその部隊の情報収集。それを徹底的に行なうことが彼らに与えられた任務だった。

 

「なんであの服、全体に渡って沢山の草を───あっ!」

「動き出したか……!」

 

 ローブを纏った老人が赤い石をかざし、赤い竜──火竜へと変身する。竜騎士の一人が「あれが反乱軍の味方になったマムクートか」と息を呑んだ。

 だが、彼らの驚愕はこれだけでは終わらない。

 

「隊長、あのマムクートの前に運ばれた木箱の中身……!」

「ああ、アレが噂に聞くマジックアイテムなのだろうな……」

 

 火竜の前に次々と運ばれる木箱。その中身を望遠鏡で見ることに成功した彼等はソレが何であるかをすぐに察知した。

 ──身体能力を向上させるマジックアイテム。それがあの木箱の中身なのだろう。

 

「……何箱あるんだ? 1、2……7……12……嘘だろ、まだ出てくる!」

「中身全てがマジックアイテムだというのか……!?」

 

 馬車から次々と降ろされてくる木箱を見て、うめき声を洩らすルーメルとその部下達。

 降ろされた木箱は全部で135箱。その木箱の中身全てがマジックアイテムなのだから驚くのも無理はない。

 

 ──あの木箱一箱で、国が一つ買えるかもしれないな

 

 ルーメルは顔をやや青ざめさせながらそんな事を考えた。

 彼が益体も無い思考に耽っている間に、マルス隊に小さな動きが起きていた。

 

「隊長、何か変な光が……!」

「まさか……そうか、あれがマジックアイテムを使った時に生ずる魔道の輝きとやらか」

 

 パワーリンクや天使の衣等、マジックアイテムを使用すると蒼白い独特の光が発生する。

 それがルーメルが言った“魔道の輝き”である。

 その“魔道の輝き”が約90秒、途切れることなく続いた。

 

 “輝き”が治まった後、マルス隊にまたもた動きが見られた。

 “全身に隈なく草を貼り付けた衣服(ギリースーツ)”を身に着けた兵士の一人が火竜の前に立つ。

 その兵士を火竜が むんずと片手で掴み……

 

「一体何を──あっ!?」

 

 ──兵士を掴み、遠投の要領で ぶぉん!と空へ向かって思い切り投げ飛ばす!

 投げ飛ばされた兵士は「飛んでる!飛んでるぜぇ~!」と何故か嬉しそうに叫びながら夜の空へと消えた。

 

「あっ、あっ、あっ、」

「なっ、なっ、なっ、」

 

 ルーメルも、彼の隣に居た部下の若い竜騎士も、マルス隊を監視していた全員が“ソレ”を見て固まった。

 火竜がカタパルトとなり、砲弾(味方兵士)を山脈の向こう側へ飛ばす。言葉にすればたったそれだけのこと。しかしそれが問題だった。

 マルス軍は山脈を越えるためだけにこのような非常識な方法を選んだ。兵士ぶん投げて山越えるとか誰も想像出来ないって!

 

 例えばこの話を誰かに───この場に居ない者に話したとする。そうしたらどうなるか?

 

 答えは簡単だ。「ルーメル、貴方疲れてるのよ」である。

 

 戯言と受け取られるか、侮辱と受け取られるか、精神に異常を来たし幻覚を見るようになったと思われるか。そのいずれかである。そう、こんなのは絶対に誰も信じない話だ。

 その“誰も信じない話”が現実として起こっている。それが問題なのだ。

 呆然とその光景を遠くから見ている竜騎士隊の中で、マルス軍に対する耐性を少しだけ持っていたルーメルがいち早く復活。兵士が投げ飛ばされている方向に何があるのかにやっと気が付く。

 

「……マルス軍が投げ飛ばされていく方向にあるのはパレス。まさか奴ら、歩兵を遠投で飛ばしてこの山脈を越える気か!?」

 

 そんな無茶苦茶なと誰かが呟いた。しかし、マルス軍の非常識さを理解している彼だけは核心を持ってそう断言出来た。

 ルーメルは未だに呆然と敵軍を見ている部下達を蹴飛ばし、強引に正気に戻す。

 

「移動する! 全員ドラゴンへと搭乗!」

「はっ!」

 

 飛竜へと騎乗した彼等は、敵軍に気付かれないように低空飛行で移動を始める。彼らの任務はこれからが本番だった───

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴ───ドカーンッ!

 

「たいちょー! あいつ等絶対おかしいって! 200メートル以上の高さから勢いよく地面に衝突してるのに、全員ピンピンしてる!」

 

 ゴゴゴゴゴ───ドカーンッ!(←マルス隊の兵が地面に衝突する音)

 

「『服が破けちゃった、(・ω<)テヘペロ☆』って笑ってやがる……!」

 

 ゴゴゴゴゴ───ドカーンッ!(←マルス隊の兵が以下略)

 

「こんなの絶対おかしいよ!」

 

 ゴゴゴゴゴ───ドカーンッ!(←マルス隊ry)

 

「やかましい! 彼奴等が非常識なイキモノであることぐらいとっくに理解しておるわ!」

 

 ゴゴゴゴゴ───ドカーンッ!(←ry)

 

 

 

 ……彼等の任務はこれからが本番だ!

 

 

◇◆◇

 

 

───アカネイア・パレス

 

 

 ガチャガチャと軽鎧の金属が擦れる音とブーツの音が、男以外存在しない廊下に響く。

 深夜のパレス。男──アカネイアの将軍 ラングは一人、何かから逃げ出すかのように走っていた。

 いや、逃げ出すかのように、ではない。実際に彼は逃げていた。

 

「はっ、はっ、」

 

 走る。走る。目に染みるほどの汗を浮かべ垂らしながら、ラングは緊急脱出用に作られた出口を目指しひたすら走る。

 階段を上り、下り、角を曲がり、出口までもう少し──

 

「……どこへ行くつもりだ?」

「ひ、ひぃぃぃぃッ!?」

 

 ──もう少し、というところで“襲撃者”の声がラングの耳を貫いた。

 

 ヒュッ! ガコォッ!

 鈍い音と共にコンクリートで出来た壁が両断され、生まれた空間から一人の男……いや、少年が現れる。

 少年の名はマルス。“襲撃者”での一人あり、反乱軍を率いる指揮官の一人である男だ。

 

「き、貴様! アカネイアの大貴族たるこのワシにこのような真似をして──がふッ!?」

「黙れ、このハゲが!」

 

 唾を撒き散らしながら吠えるラングを、マルスは片手で締め上げる。ラングは必死に抵抗するが、その腕を振りほどくことは出来ない。15、6の若造とは思えない、凄まじい腕力だ──

 

「ククク……貴様を殺せば私のレベルはカンストだ──ァ!」

 

 ラングの巨体をそのまま壁へ叩き付ける。かなり強い衝撃だったらしく、息もまともに吸えず苦痛に喘ぐ。

 マルスは悶え苦しむ巨漢を見下しながら ニタァ と主人公らしからぬ笑みを浮かべ、一切の躊躇を見せずに抜き身の剣を振り下ろした。

 

(なぜ……こんなことに……)

 

 迫り来る刃を前に、ラングは一週間前“前任者”からパレスの指揮権を譲ってもらった日のことを思い出していた。

 

 

 

 

 一週間前、彼の屋敷へ一人の男がやってきた。

 男の名はボーゼン。ドルーア帝国軍将軍で、メディウスよりアカネイア・パレスを任されている大司祭だ。

 ラングは突然自分の下へ訪れた彼を、失礼の無いように丁重に迎え入れた。

 

 客間で少しだけ世間話をした後、ある話をボーゼン側から切り出される。

 

 ──将軍。将軍はアカネイアの王になりたいかね?

 

 ボーゼンは言った。これからこの地へやってくるであろう反乱軍を討伐することが出来たらアカネイアの王の座を約束すると。ドルーア帝国の王メディウスもそれを認めると。

 メディウス本人の判が押された書類の束を受け取る。ラングは目を血走らせながらそれを読んだ。

 

「は、はひ、ヒヒヒヒヒ……!」

「では将軍───いえ、次期国王陛下殿。アカネイアをお任せいたしますぞ……?」

 

 椅子から立ち上がり、そのままその場を後にするボーゼン。唾を撒き散らしながら書類を読みふけるラングは去り際に見せたボーゼンの嘲笑に気付かなかった。

 

「来た! 来たぞ! わしの時代が! わしの時代がだ!」

 

 帝国が仕掛けた“罠”に気付かず、ラングは壮大な未来を夢想しながら笑い声をあげていた──

 

 

 

 ボーゼンが出したこの提案。先に述べた通り帝国による“罠”だ。

 ドルーア帝国は反乱軍の情報を得るために“使い捨てにしても問題無い軍”を欲していた。

 その軍──駒として白羽の矢が立ったのはラング将軍、そしてアカネイアの将軍 ミディアである。

 ミディアには『人質の解放』を、ラングには『アカネイア王の椅子』を餌にし、この両者を反乱軍へぶつけるつもりだった。

 目的は情報収集。彼等はミディア達を捨て駒に反乱軍の情報を集めようとしていたのだ。

 

 ミディアは将軍としての経験から、彼女の副将として同行しているアストリアは生来の勘の鋭さから『自分達は何かに利用されようとしている』と気付いたが、ラングは帝国の思惑についぞ気付くことはなかった。

 アカネイア五大貴族の一つに数えられる名家に生まれたラングは、悪い意味で貴族らしい貴族だった。守るべき民を守らず、圧政を敷き、少しでも逆らえば処刑する。それがラングという男だった。

 こう書くと彼は無能な貴族と思われるかもしれないが、決してそんなことは無い。ラングは権力闘争渦巻くアカネイアという国で侯爵の地位に長年座り続けた男。決して無能では無かった。

 その無能ではない男が何故帝国側の思惑に、策略に気付かなかったのか。それは彼が持つ“上昇志向”の高さのせいだった。

 ラングは若い頃から常々思っていた。伯爵程度の地位では満足出来ない。いずれは一国を、そしてこの大陸の支配者に───。

 

 そんな野心滾る男の前に“アカネイア王の椅子”という餌をちらつかせたらどうなるか?それは火を見るよりも明らかだ。食いつかないはずがない。

 

 こうして彼は帝国軍の望んだ通りに“餌”としての役割を演じることとなる。それが破滅への道とも気付かずに。

 

 

 

 

 

たらららたらららら~♪ マルスのレベルが 20になった!

 

 

 

「ふぅ。やっとカンストか」

 

 父上から預かったファルシオンにこびり付いた血をハンカチでふき取り、ポーイと投げる。いかにもそれっぽく。

 足元には死体が一つ。その死体はかつてラングと呼ばれていたハゲ親父である。

 

「……今って原作で言えば第一部だよな」

 

 まさか第二部の雑魚ボスがここで出てくるとは思わなかった。原作知識はもう当てにならないとはかつて言ったセリフだが……こういうのが“バタフライ効果”というんだろう。

 

 シャキン!と格好つけながら剣を鞘へと収める。

 普段の私ならば絶対にこういう中二的なことはしないのだが、ファルシオンを装備してから絶好調でテンションageage。だからついついやっちゃうんだ☆ ……なんでだろ?

 “聖戦の系譜”に出てくる伝説の武器みたく、装備することによってステータスがUPする効果でもあるのだろうか?

 

「うーん、謎だ──おっとっと!?」

 

 ズズン!と突然パレス全体が揺れた。

 一体何が起こったのか。それを確かめるべく、私は近くにあった窓から身を乗り出し外を見る。

 

 どうやらカシムとドーガ率いる小隊が“例の武器”を使っているらしい。

 対象は……なんだあれ。

 

「あれは……黒い柱?」

 

 

 

 

 

 

 マルス軍による人質救出作戦は順調に進められていた。

 パレスから南にある森林地帯へと着地したマルス軍は全身に草木を貼り付けた服───迷彩服に着替え、部隊を幾つかに分けて移動を開始。

 ルーメルにとってマルス達が着ていた迷彩服(我々の世界ではギリースーツと呼ばれる)を知ることが出来たのが今回一番の収穫であろう。

 あれはまずい。あの服を着た弓兵が森に潜まれたら、竜騎士や天馬騎士はまず気付けない。ルーメルはそう断言出来る。

 

 迷彩服の効果でパレス軍に全くといって良いほど気付かれず進軍することに成功したマルス軍は、そのままパレス、および周辺の砦へ強襲を仕掛けた。

 

 200名のチート魔改造部隊(魔防を除く全ステ600オーバー)が1万前後のパレス防衛軍を蹂躙する。帝国軍にとってそれは悪夢以外の何者でもなかった。

 蹂躙、と書くと語弊がある。正確には“制圧と鎮圧”である。驚くことにマルス軍は帝国軍を一人も殺害してはいなかった。(※ただしマルスは除く)

 

 蹂躙ではなく制圧。皆殺しではなく鎮圧。

 “死”の安売りが約束されている戦場という場所で、彼らマルス軍がやったことがどれほど常軌を逸しているか───

 

 彼らの“鎮圧”を遠くから監視していた竜騎士の一人が、上官のルーメルに訊ねた。

 

「た、隊長、もしかして奴らは我々に気付いているのでは……?」

「いや、それは無いな。誰かが監視しているということには気付いていると思うが、我々個人のことには気付いていないだろう。

恐らく奴らは“監視されていることを前提に動いている”のではないか。私はそう思う」

 

 部下の言葉を半分肯定し、半分否定するルーメル。

 マルス軍がやっていることは「我々が本気を出せばこうなる」という、監視している者達に対するパフォーマンスであり、メッセージなのではないか。

 ……とはいえ、ルーメルには正直理解し難いことだった。何しろ相手は帝国兵、マルスにとっては祖国を滅ぼした憎い仇。年老いた歴戦の将兵ならいざ知らず、彼はまだ精神的に未熟な(と思われる)15歳前後の若者だ。復讐心が先立って当然ではないのか。敵を殺すどころか無力化に留め捕虜とするなど、正直理解し難い。マルス王子は聖人だとでもいうのか?

 

 200人たらずで1万の敵兵を打倒したという事実はもっと信じられないが、その点に関しての思考は放棄した。マルス軍なら仕方がない。

 

 さて、上にはどうやって報告するかとルーメルが考えていると、

 

「……なんだ? マルス軍の連中が西に向かって───な!? あ、アレはなんだ!?」

 

 パレスの入り口で待機していたマルス軍の一部が、西へ向かって進軍を始めた。彼らが向かうその先には、夜の闇の中でもなお目立つ“天を貫く巨大な闇の柱”が聳え立っていたのである。

 

 

 

 

 最初に“それ”に気付いたのはマルス護衛隊の一人、カシムだった。

 パレスに向かって放たれる圧倒的な邪気、殺意。最初は自分達“解放軍”に向かって放たれたモノかと思ったが、即座にその考えを否定する。

 物事は常に最悪を想定するべきだ。そして今この場での最悪は仕える主が殺害されることである。

 この殺気はマルス様に向かって放たれている。カシムはそう想定し、動くことにする。

 

「ドーガ様! 西のあれをごらん下さい!」

「ああ、私もすでに気付いている。……なんて強大な邪気だ、遠くから見ているだけで背筋が凍る」

 

 パレスの中へ少数の部下と共に突入したマルスの代わりにその場で指揮をとっていたドーガは、西に突如現れた“巨大な闇の柱”を見て顔を青ざめさせていた。

 

「アレを敵と判断する。意見はあるか?」

「アレは殺害対象と見てよろしいでしょうか?」

「殺害対象とする。アレを捕虜にしようと思うな。責任はこの私が全て負う、全力で討ち取るぞ!」

「はっ!」

「……マルス様の許可はいただいていないが、例の兵器を使う。総員、射出用意!」

 

 ドーガの命令により、彼らはベルトに付けていた小物袋から鈍い光を放つ球状の物体を取り出し、投擲の構えをとった。

 彼らが取り出した球状の物体。それは、鋼の槍の先端を削って作られた“鋼の弾丸”と言うべきものだった───

 

 

 

 

 

「くふ、くふふふふっ、見つけたぞマルゥゥゥスッ!!」

 

 パレスの西に現れた“巨大な闇の柱”の正体。それは闇の魔道士ガーネフであった。

 強者ではあるがただの人間でしかなかった彼は、マルスへの復讐心だけで闇のオーブの力を全て飲み込み、魔王へと進化した。

 今や彼の力は暗黒竜として覚醒したメディウスをも凌ぐ。大魔王と呼ぶに相応しい、本物の超越者だ。

 

「ほう──あそこにいるのは小僧の腰巾着 ドーガか。……そういえば貴様には世話になったのぉ!」

 

 ディール要塞のことをガーネフは決して忘れてはいなかった。全ての元凶はマルスだが、自身に敗北という屈辱を味あわせたドーガのことも彼は憎悪していたのだ。

 あの時の“手槍”のことを思い出したのか、ガーネフを包む闇がより一層強く、大きくなる。

 

「殺してやる、殺してやるぞ!貴様も、マルスも!必ずここで殺して───」

 

 自身の絶対的優位を確信しているガーネフの嘲笑は、そこで止まった。

 

 

“鋼の弾丸”(レールガン)、射出用意! ───ってぇぇぇぇぇ!」

 

 

ドゴゴゴゴゴゴッ!!!!!

 

 

「ぐ、ぬおおおおおおおッ!???」

 

 ドーガ隊から放たれた“何か”が、ガーネフを包む闇の結界を激しく打つ!

 かつてガーネフはディール要塞でドーガが投げ放った手槍に殺されかけた。だからこそ今回も同じようなことがあると想定し、強固な防御結界を張っていた。

 闇のオーブの力を全て喰らったことにより、結界は以前の数百倍の強さを誇る。ゆえにドーガ達の攻撃を防げるのも当然であった。

 

「ふ、ふは、はははははッ! ドーガよ、もはや“それ”はこのワシには通じん、通じんのだよぉ!」

 

 勝利を確信するガーネフ。しかし───

 

 

 

「ドーガ様、どうやら敵は生きているようです!」

「あれを防ぐのか。よし、追加でパワーリングを500個使おう(提案)」

 

 あ…(察し)

 

 

 

 

 もしもの話をしよう。

 

 

 もしもマルスが憑依者では無かったら。

 彼らの物語は正史(原作)通りに進み、ガーネフとは古代都市テーベで決着をつけていただろう。

 

 もしもマルスがチート仕様のメンバーカードを持っていなかったら。

 やはり彼らは正史(原作)通りに進み、古代都市テーベで決着をつけていただろう。

 

 もしもマルスが転生系SSにありがちな「チートを使って歴史に干渉だなんて…」というグダグダな性格をしているタイプだったら。

 マルスはガーネフと対峙することなく、ひっそりとタリス島で暮らしていただろう。

 

 だがこの世界のマルスは憑依者であり、チート仕様であり、自重も一切せず、ウジウジグダグダと悩まない。

 悩んでもせいぜい「虐殺ヒャッハーで化け物扱いされたくないお…」程度であった。

 

 ガーネフの強さは本物だ。普通のSSならばチートオリ主に対抗するために生み出されたチートボスとして扱われ、2話~5話ぐらいじっくり時間をかけてやっと倒されるぐらいの強さを持っている、文字通りの大魔王だ。

 だがこのSSは最低系であり蹂躙系でありオリ主TUEEE系アンドSUGEEE系SSであった。

 

 ガーネフにとっての最大の不幸。それはこの世界では主人公サイドの踏み台でしかなかったことだろう(断言)

 

 

 

 

 決着はついた。パワーリングでさらに魔改造されたドーガ達のレール・ガン隊によって闇の防御結界もろともガーネフは消し飛ばされた。

 彼が立っていた場所には闇のオーブだけが転がっている。遺体は無かった。ドーガ達は「レール・ガンは肉片すら残さず敵(ガーネフ)を消し飛ばした」と判断し、その場で待機。闇のオーブの監視に勤めた。

 

 

 

 

 各砦に監禁されていた人質達を解放し、<アカネイアの奇跡>作戦の第一段階を無事に終えたマルスはドーガ達と合流する。

 

「や、皆お疲れ様」

「マルス様!」

「“鋼の弾丸(レールガン)”、見たよ。……凄い威力だったね」

「はい。しかしマルス様の許可無く使用してしまいました。申し訳ございません」

「いや、いいよ。ドーガの判断に誤りはないと信じてるから。……さて、父上やハーディン殿は『この戦場は各国の間者(スパイ)が監視している』と言ってたけど」

「敵兵の生け捕りやレール・ガンは良いパフォーマンスになったでしょうか?」

「だといいねぇ」

 

 どうやらこの無茶振りともいうべき作戦を考えたのはコーネリアス達だったようだ。彼らは『他国の間者が我等を遠くから監視していることを想定して動くのだ』と厳命した。

 敵を殺さず、その上で解放軍が持つ圧倒的な力を見せ付ける。マケドニアの竜騎士が想像していた通り、それはパフォーマンスだったのだ。

 『正義の味方』を自称する解放軍にとって、これは自軍の脅威を敵国へ知らしめ、かつ無益な殺生を好まないことを伝える最良の作戦と言えるだろう。情報工作を始めとする多くの仕事が戦争終結後に待っている、という点を除けば最高だ(これをしなければ戦後解放軍の面々が第二のメディウス扱いされるのは確実である)

 

 最も、作戦の最終段階は第一段階のインパクトを綺麗に吹き飛ばす大規模なものとなるから、上手くいけば情報工作も容易に済むかもしれない。

 

 ちなみに、作戦を考えたのはコーネリアス達だ。マルス達が担当する第一段階を聞いた時に彼の頭に思い浮かんだ言葉は砲艦外交であった。

 

「さて、それじゃ私達は撤退を……ん? そこに転がっている黒い水晶球は何?」

「不明です。“黒い闇の柱”が消えた跡にそれがあったのですが……拾おうとすると魔力光が発生して手を弾いてしまい、拾えないのです」

「ふ~ん」

 

 マルスはしゃがみ、黒い水晶球に手を伸ばした──

 

 

 

 

 

 ──────バカメッ

 

 黒い水晶球、いや、闇のオーブの中に居る“それ”は自分に手を伸ばす男を見て哂う。

 “それ”の名はガーネフ。彼は死んではいなかった。

 

 ドーガ達の“鋼の弾丸”は易々と防御結界を貫き、ガーネフの肉体を爆散させた。

 だが彼は死ななかった。彼は死の直前、己の肉体を捨て、その魂を持っていた闇のオーブの中へと封じ込めたのだ。

 ガーネフが持つ生への執着、復讐の執念が、反則ともいうべき結果を生み出したのだ。

 

 ガーネフは機を待っていた。闇のオーブを手にした者の肉体を彼は乗っ取るつもりでいた。

 彼にはそれが出来ると確信していた。事実、それは可能だった。

 彼はマルスがこの場に来ることを知っていた。オーブを監視していたドーガ達がそう話していたからだ。ゆえに彼はマルスの肉体を乗っ取ると決めた。

 若く、強い肉体。勇者アンリの血を引いているため神剣ファルシオンも使えるだろう。そこに闇の力が加わればどれほどの強さになるだろうか。

 

 ガーネフはこれから訪れるであろう栄光溢れる未来を夢想し、オーブの中で哂う。さあ、マルス王子よ、早くオーブ(ガーネフ)を手に取るのだ──

 

 

 そして彼は知る。マルスという男はどこまでも規格外で、非常識な男であったと。

 

 

 ──────な、なんだこれは、力が……吸われて、いや、喰われていく!? ワシの力が、ワシの魂がッ!!

 

 

 “魂喰い”を行い、マルスの身体を乗っ取る。そのはずだった。しかし現実に喰われているのは……ガーネフの方だ。

 何故ガーネフの魂が喰われるのか。それはマルスが持つ『狂化』スキルのせいである。

 

 魂喰いは洗脳魔法と同様に『精神力の高い者には通用しない』という一つのルールが存在する。

 マルスは転生者(憑依者)だ。それゆえに他の人間よりも高い精神力を無条件で得ている。その上で彼は精神を高める『狂化』スキルを所持していた。

 マルスが転生者でなければ。あるいは『狂化』スキルを持っていなければ。ガーネフの魂喰いは成功していただろう。

 だがマルスは転生者であり『狂化』スキル所持者だった。その二つが重なったせいなのか、逆にガーネフの魂が喰われるという結果になってしまう。

 ……それはつまり、ガーネフの野望、ガーネフの復讐、ガーネフの人生、その全てがここで終わることを意味していた。

 

 

 ──────嫌だ、イヤダ、いやだ! こんなところで死ぬのはイヤだ! こんな最後はイヤだ! ワシは、ワシは世界を……!

 

 

 ──────ワシは………私は…………俺は……………………………………がとぉ、せんせい…………………………………………

 

 

 

 闇のオーブの中にいた“何か”は、こうして消滅した。

 

 

◇◆◇

 

 

 

 たらららたらららら~♪

 

 マルスは ガーネフを たおした!

 

 マルスは やみのオーブを てにいれた!

 

 

 

◇◆◇

 

 

 <アカネイアの奇跡>作戦の第一段階を終えたマルス達は、速やかに人質全員を“レスキューの杖”に登録する。

 全員を登録するのにそれなりに時間がかかってしまったが、第二段階の開始時間までには何とか間に合った。

 

 

「シーダ、ミネルバ王女!それでは頼みます!」

「はい!」「了解した!」

 

 シーダのペガサスが、ミネルバのドラゴンが飛び立つ。彼女達の任務はレスキューの杖の運搬だ。

 作戦は今のところ順調に進んでいる。恐らく最終段階までスムーズに進むだろう。

 

「さて──私達がやるべきことは終わってしまったが。ジェイガン、後はどうしようか?」

「人質だった皆さんに改めて事情を説明すべきかと。作戦の最終段階は彼らの協力無しに成功は無いでしょう」

「うん、そうだね。それじゃあジェイガン、疲れてるところを悪いけど、皆さんをここに集めてくれるかな」

「はっ!」

 

 敬礼し、ジェイガンは駆け足で移動する。多くの将兵が疲労で溜息をつく中、彼だけはまだまだ元気いっぱいだ。

 そんな第二の父といっていい老人を見送った後、マルスは夜の空を見上げた。

 

(……夜明けまで、あと二時間)

 

 その時に全ての決着がつく。それも彼ら『正義の味方』が最も望む最良の形で。

 

 

 <アカネイアの奇跡>作戦は、間もなく第三段階へと入ろうとしていた。


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