【完結】チートでエムブレム   作:ナナシ

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マルス 「パワーを上げて物理で殴ればいい」
ガーネフ「おま」

前編


6章 A

1.ジューコフの野望

 

 

 エストが持ってきた親書、それはマケドニアの王女ミネルバからのものだった。

 その親書には「人質として監禁されている妹マリアを助けるために手を貸して欲しい」という内容が書かれていた。

 マケドニアの王ミシェイルはドルーアと同盟を結ぶ際に人質として妹マリアを差し出した。その彼女がディール要塞に幽閉されているのだという。

 マルス王子はミネルバの求めに応じ、マリアを救うためディール要塞への攻撃を決意する。

 解放軍の盟友ハーディンが共に行くと申し出たがマルスはこれを拒否。これはあくまで私事、私闘であるとし、マルス軍のみで要塞へと向かった。

 

 ワーレンから出発して三日後。マルス軍はディール要塞へと到着する───

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 グルニアの将軍ジューコフは、ディール要塞の守りを本国より任された男である。

 彼は自らの境遇を良しとしていなかった。この土地には娯楽が皆無であり、常に時間を持て余していた。出来ることと言えば平民の女を金で買い、その身体を楽しむぐらいなものだ。

 この地で与えられた任務もまた、彼のストレスが溜まる原因となっていた。マケドニアの王女マリアの幽閉、監視。「たかが小娘一人のために何故わしが」、何度そう思ったことか。

 

 だがこのくだらない生活ももう間も無く終わるだろう。何故ならばもうすぐこの地に反乱軍がやってくるからだ。

 

 

 

 二日前の夜、いつもの通りに女を抱いているとドルーア帝国から一人の男がやってきた。

 その男の名はガーネフ。カダインの支配者にして『闇の魔王』と呼ばれる大司祭。

 ガーネフは挨拶も早々に、懐から資料と思わしき紙の束を取り出しジューコフに渡す。

 

『先日面白いものを見つけてのぅ……』

「これは……ミネルバの白騎士団の一人が反乱軍と接触!?」

 

 その資料にはエストと反乱軍──解放軍──が接触したことについて詳細に渡り記されていた。彼らドルーア帝国は秘密裏に動いたはずのミネルバ達の動きを敏感に察知し、悟られないように彼女達を監視していたのだ。

 ジューコフは資料の束を地面に叩きつける。

 

「ミネルバめ、裏切ったか!」

『あの小娘はいつか必ず我らを裏切る。それは予想していたことじゃろうて。それはともかく資料は最後まで読んだか? これを作った者の予想では反乱軍はここへ来るというらしいぞ?』

「な、なんだと!?」

 

 散らばった資料を慌てて拾い集め、再び読み始める。そこには確かに「近日中にディール要塞へ来る可能性が高い」と記されていた。

 ぎちり、と歯を鳴らす。国の一軍に相当する数を揃えたレフカンディ。あそこを容易く突破した反乱軍を、ここにある戦力で止められるかどうか。

 答えなど判りきっている。ノーだ。敗北は免れない。ならば撤退しかない。貴重な戦力を無駄に消耗する愚を彼は犯したくなかった。

 

 ジューコフは「いかに損害を少なくこの地から撤退するべきか」を考えていると、ガーネフは低く笑いながら一つの提案を挙げた。

 

『ジューコフ殿。人質だ。人質を使うといい』

「人質……?」

『そう、マリア王女をな。あの者らはかの王女を救うためにこの地へ来る。ならばその王女を人質として使い、動きを封じてしまえばよい。

なに、あやつらは「正義の味方」を自称する者達よ。絶対に王女を、人質を見捨てたりはせぬよ、くふふふふ……!』

 

 ガーネフの甘言に「なるほど」と頷きかけるが、頭を振り否定する。彼の脳裏にとある騎士の顔が浮かんだからだった。

 

「……ならん。それは騎士道に反する。あの小娘を利用し反乱軍を討つという策だけは使わぬ!」

『ふむ……』

 

 カダインの魔王は「この男も騎士道などというつまらぬ考えを持った人間か」と溜息をつく。

 ジューコフも、叶うならばガーネフの策を採用したいと思っている。しかし彼にはそれが出来ない理由があった。

 カミュだ。ガーネフの策はグルニア本国にいるカミュの不興を間違いなく買ってしまう。

 仮に先の策が上手くはまり反乱軍を討伐したとしよう。そうすれば彼の元へ帰還命令が来て本国へ呼び戻されるはずだ。

 ただしそれは栄達のための帰還ではない。騎士にあるまじき卑劣な策を用いた賊として裁くための帰還である。

 

 黒騎士カミュ。その男は騎士道の体現者であり、正々堂々たる戦こそを良しとする。過去にあった『メニディ川の戦い』を経て、より一層その思いは強くなった。

 現在病床に臥せっている王に代わりカミュがグルニアを統治している(本人の意思に関わらず)

 グルニアの貴族や軍人を裁く権利等を王から授かっている彼は、ガーネフの策をとった場合間違いなくジューコフを処罰する。仮に死刑にならなかったとしても、その後グルニア領内で冷遇されるのは間違いない。

 それだけは嫌だった。死刑も、冷遇され惨めな生活を送るのも。それならば敵前逃亡の罪で本国へ強制送還されたほうがまだマシだ。

 いや、罪には問われないだろう。カミュは誠実な男ではあるが現実的な男でもある。レフカンディの大軍団を突破するほどの戦力を持つ反乱軍をこの地にいる少ない兵で倒すことなど不可能、であるならば戦術的撤退も止む無し。そう裁決を下すはずだ。

 

 思考の波に潜っているジューコフに、ガーネフはもう一つの提案を述べる。

 

『ではジューコフ将軍。わしがおぬしを手伝うとしよう』

「なんと、ガーネフ殿が!?」

『うむ。手土産もあるぞ?』

 

 そう言って一枚の紙を渡す。そこに書かれていたのは───

 

「サンダーソード500本、キラーランス300本、キラーボウ200個──全部希少武器ではないか!? ガーネフ殿、これだけの武器を一体どこで……?」

『なぁに、それらは全て拾い物よ。使い古しではあるが遠慮なく使うといい。ふぉっふぉっふぉっ……』

「こ、これだけの武器があれば策など用いずとも……ふ、は、ははははは──!」

 

 歓喜に満ちた笑い。期せずして強力な武器が手に入った。これさえあれば反乱軍なぞ……!

 

 レフカンディ戦からなんとか生還してきた部隊の話を聞き、その情報を整理し推測した軍師、参謀達は『レフカンディの敗北は武器の性能差によるもの』と結論付けた。

 他にも『戦地となった場所が大部隊の軍事行動に不向きだった』等と敗因はあるが、大きな要因は武器の性能に差がありすぎたところだ。参謀達は揃って「戦争のあり方が変わってしまう」と口にしたのが印象深い。

 

 その武器の差がここに来て無くなった。戦場となる可能性の高い場所はどこも広いため大軍の行動に支障は無く、小細工も出来ない。そして地の利は迎え撃つこちらにある。兵士の質に差はあるかどうか不明なのが気になるところだが……それでも充分、勝機はある。

 ジューコフは確信する。わしは勝てる、いや勝つ!そしてこの辺境の地から本国へ戻り、輝かしい未来をこの手で掴むのだ──!

 

 

 

 

 

「将軍! ディール要塞の東に反乱軍が現れました!」

 

 二日前の夜のことを思い出し、これから訪れるであろう輝かしい未来を夢想していたグルニアの将軍は、偵察に出していた兵士の言葉で我に返る。

 ジューコフはその兵士を下がらせ、隣に立つガーネフに念を押すように言った。

 

「ガーネフ殿。もう一度申し上げますがマケドニアの王女達を人質にとるという策は御遠慮いただきたい」

 

 王女『達』。この言葉からも分かるように、マケドニアのもう一人の王女ミネルバも虜囚の身となっていた。帝国にエストの件がばれているとは知らず彼女はマリアが居るこの地へ訪れ、その結果問答無用で捕縛されたのだ。

 

『わかっておるよ。貴公の立場を悪くするような真似はせん。こちらは気にせず存分に戦いがいい』

「うむ、頼みましたぞ。──誰か! 誰かある!」

 

 部屋の外に控えさせていた部下を呼び、彼は告げた。

 

「全軍に通達! この地へ現れた反乱軍を討伐する──!」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 単独で行動するとジューコフに告げたガーネフは、今や誰もいない城の屋上に立ち、戦場となっている場所を見つめる。

 彼はメディウスの指示によりこの地へ来ていた。反乱軍を代表する三人のうちの一人、マルス王子抹殺のために。

 

 マルス王子は狡猾だった。逃亡生活を続けていた二年間、重税に苦しみ店を畳んだ商人を拾い上げ子飼いとし、まずは彼らから信頼を得た。

 どこから用意したのかは分からぬ大量の物資を破格の安さで商人達に売り払わせ、次に民達から信頼を得た。

 マルスは商人達を利用し少しずつ流通を支配していく。今では大陸中の主要国に彼の手が入った商会があると推測されていた。

 その結果出来上がったのが信用度の高い『情報網』だ。彼は自由に動かせる商人達を作ることにより、確かな情報網を構築することに成功したのだ。

 マルスは商人達に要請する。「ドルーア帝国、またはその同盟国が商会から購入した物資等の報告をしてほしい」

 ここでもマルスは狡猾に動く。彼は味方となった商人達に危険な仕事はさせなかった。彼等に求めたのは安全に手に入る「情報」だった。

 もっとも、その「安全に手に入る情報」とて受け手が変われば価値が変わる。マルス達は商会から得られる情報から、帝国軍らの動向などを推測し、限りなく真実に近い状態にまで彼らの現状を見抜くことを可能としていた。

 このことが後々『マルスの敵に回った国々』にとって挽回すらできない痛恨の一撃となって襲い掛かる。

 

 さらにマルスは吟遊詩人も雇っていた。マルスは彼らに命じ、自分達の戦場での活躍を物語として作らせ、酒場などで語らせた。

 

 この世界、この時代において一般市民が他国の情報を知る機会は限られている。

 一つ目は月に一回発行される情報新聞。これは町の掲示板に貼られる。

 二つ目は商人から。彼ら商人は他国の商人と酒場等で積極的に情報を交換する。それを盗み聞くことでやはり他国で起こったことなどを知ることが出来る。

 そして三つ目。これが吟遊詩人が語る物語だ。彼らは実際に起こった出来事を物語として作り、酒場などで詠う。それによって得られる収入を糧としているのが彼ら吟遊詩人だ。

 マルスはその吟遊詩人を多額の給金で雇い、解放軍にとって都合の良い物語を語らせている。それも帝国の影響が少ない場所を中心にして。

 それによって少しずつ、しかし確実に解放軍の噂が広まっていく。どこもかしこも好意的に受け止められているあたり、雇われた吟遊詩人も上手くやっているのだろう。

 

 マルスは恐れていた。圧倒的な力で帝国軍を蹴散らし平和を取り戻した解放軍。戦後はまだいい。しかしある程度時間が経つと民は自分達を恐れるようになるのではないか?マルスはそれが怖かった。

 力の無い者は力の有る者を恐れるのが世の理だ。それは避けられるものではない。ならばどうすればいい──

 

 そこで思いついたのが『情報操作』である。マルスは吟遊詩人達を使い解放軍に対し好印象を持たせる物語を語らせることにより情報操作を行い、『正義の味方』へ仕立て上げようと企てた。

 そしてそれはものの見事に成功する。剣を持って狂乱するマルス(バーサーカーver)は『悲劇を乗り越えた勇者』として、本来なら恐れられる、または蔑まれるはずの竜人族──マムクート──のバヌトゥは『解放軍の守護竜』として民衆に称えられた。

 商人達からその話を聞いたマルスは「金をかけた甲斐がありました」と笑ったという。彼はすでに戦後を見据えて行動していた。

 

 それらの事実は白騎士団のエストを追跡していた時に偶然知った。そして現状の帝国では絶対に対策がとれないということも理解する。

 商人を、吟遊詩人を皆殺しにするか? ……無理だ、出来ない。そんなことをしてしまえばマケドニア・グルニアの二国に反ドルーア同盟を組む大儀を与えてしまい、帝国に牙を向くだろう。

 彼奴等が同時に攻めようとも最終的に勝つのは帝国だが、無視することの出来ない損害を被ってしまう。最悪、帝国の維持が不可能なレベルの損害を。

 

「マルス王子……貴様は危険だ。必ずこの地で殺してくれる……」

 

 絶対の自信を持って言い切るガーネフ。その自信は彼が持つ魔道書マフーにあった。

 マフーの使い手にはあらゆる攻撃が届かない。敵意を持つ者がマフーの効果範囲に入ると、攻撃しようとした瞬間その動きを止めてしまう。それがマフーの効果だった。

 今のガーネフを倒せる者はマフーと対を成す魔法『スターライト』の使い手のみ。そしてその使い手はこの場にはいない。ゆえにガーネフが負ける要素などどこにもなかった。

 

 魔方陣が現れガーネフの身を包み込む。「ワープ」という呟きとともに光が消え、闇の司祭はその場から姿を消した。

 

 

 

 ジューコフはジューコフの、ガーネフはガーネフの思惑の下、それぞれ動き出す。

 

 

 

 一方その頃、この地へやってきた解放軍はというと───

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「王子。偵察から帰ってきたシーダ王女の報告によると南門に敵軍が集まっているようです。北にも入り口が一つありますが、そこは南から大きく西に周るか近くの崖を登るかで行けます。ですが北門から要塞内に入るというのは現実的とは言えません。ですので南門から入り人質のマリア王女を救出するということになりますが……」

「わざわざ南門から入る必要は無い。作れ。」

「すいません王子ちょっと何言ってるかわからないです。」

「すぐそこの壁をぶっ壊してそれを入り口にしようぜってことだよ、言わせんな恥ずかしい。」

「すいません王子ちょっと何言ってるかわからないです。あ、大事なことだから二回言いましたよ?」

 

 マルスの無茶振りにオグマの苦労は続く。


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