三つの軌跡   作:大猫子猫

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自分のモットーは「もしかしたらあったかもしれないエピソード」
ではよろしくお願いします。


序章

 十字の形をした小さな大陸。

 島と呼ぶには大きく、大陸と呼ぶには些かこじんまりとした、そんな土地。

 外界を大海によって閉鎖されている空間。だがその地は異形の存在によって、常に恐怖と混沌とした環境にさらされている。

 

 すなわち〝妖魔〟

 この地に古くから存在すると言われている人間の捕食者。人を超える身体能力や、肉体を変化させて攻撃するなど高い戦闘力を持つが、最大の脅威は極めて巧妙に人間に擬態出来る点だろう。それにより、人々は目に見えない恐怖に怯え続けている事になる。だが、ただ搾取されるだけではなく。それに抗う力を人は持っている。

 

 すなわち〝組織〟

 妖魔に対抗するために作られたという謎の集団。基本的に妖魔が出現した町や村では、法外な額の依頼料を組織に差し出し、妖魔討伐を頼む必要がある。非常に怪しげで不気味な存在ではあるが、この大陸でもっとも巨大な権力を持ち、また人々にとっても必要不可欠で者達であることは確かである。彼らに依頼することによって討伐者たちが動く。

 

 すなわち〝戦士〟

 組織が妖魔に対抗するために造り出した半人半妖の戦士。基本的に女のみで構成されている。人に妖魔の血肉を埋め込むことによって妖魔が発する妖気を感じ取り、使用することができ、戦闘能力も妖魔を圧倒するほど上昇する。大剣が使用武器であることから『クレイモア』と一般人からは通称されている。人側に属しているが半分妖魔であること、法外な金を払わないと動かないことが合わさって、人々からは常に嫌悪と畏怖の目で見られている。その警戒心は正しく。いずれは人々の大敵へと変化する定めにある。

 

 すなわち〝覚醒者〟

 戦士が人の心を失い、意識が完全に妖魔側に移った者。戦士の力の源である妖力を人の限界を超えて開放する、または人の精神が限界を迎えると覚醒してしまう。その姿はまさしく異形の化け物で、普通の妖魔を遥かに超えた力を持つ。人間の姿に戻ることも可能で、あくまで覚醒者とは、半人半妖の心が妖魔側となり、妖力解放すれば妖魔化することが出来る存在のことを指す。

 

 

 人々は妖魔に怯え、妖魔討伐の為に組織に金を出し、組織は戦士を送り、やがて戦士は覚醒者となる。

 奇妙なほどシンプルで簡単な循環。全体的に見れば、まるで妖魔という小さな脅威が覚醒者という大きな化け物へ変換されていっているかのような分かりやすい構図。

 多くの者は疑問に思ってはいるが確かな確証は得られず、疑問は疑問のまま闇へ消えていく。

 そして確証がなければ、組織や戦士は、この大陸の人間にとって無くてはならない存在なのだ。……例えそれがどんなに危険な存在になろうとしても。

 

 

 

 そして今ここにも、一つの村が地図から消え去ろうとしていた。

 崩れた母屋、なぎ倒されてる木々、崩壊しているレンガ。

 ほんの少し前までは人が生活していたのにもかかわらず、周りは瓦礫の山で廃墟と化しており、人の影どころか生気の欠片もまったく感じられなくなっている。――まるで何者かが暴れまわったかのように。

 

 ……いや、まったく、というのは間違いだ。

 正確には二つの影が、この死んだ村の中で動き回っている。

 

 一つは鎧を身にまとった女性。

 長い銀髪をなびかせ、常人では扱いきれないであろう大きな大剣を軽やかに扱っている。

 

 もう一つは巨大な怪物。

 まるで大きな貝殻の上に無理やりカマキリをはやしたかのような見た目をしており、その姿はまさに異形の化け物。

 下半身からは茨のような触手が無数に飛び出て、上半身には鋭利な鎌のような腕が六本付いている。

 

 もちろん、二人は暖かく談笑しに来たのではない。

 一人は目的があって相手の首を取りに。一人は向かってきた邪魔者の排除に。とどのつまり殺し合いをしている。

 しかし、傍から見ると戦力の差は歴然。

 誰がどう見てもアンフェアな戦い。肉体の大きさだけではなく、攻撃手段、攻撃範囲、耐久度、何もかもが違いすぎる。少なくとも一対一で対峙するような戦いではない。

 今も無数の触手が銀髪の女性に向かって放たれている。

 だが、なぜか女性は余裕のある笑みを浮かべ、逆に怪物の方は苦々しそうな表情を浮かべていた。

 

(――――クソっ! いったいどうなっている!?)

 

 事のきっかけはごくありふれた、簡単なことだった。

 この村では二、三週間前から内臓を食われた死体が出現しており、それも犠牲者のペースは数日おきで、さらに日増しに早まっていた。

 そのため、事態を重く見た村人たちは互いに金を出し合い、組織に依頼し、戦士派遣を要望した。

 そこまでならあまり珍しくもない話だったが、不幸なことに村にいたのはただの妖魔ではなく、人の心を失った半人半妖――――つまりは覚醒者である。

 

 もちろん依頼されたという事実は、覚醒者の耳にもたやすく届く。

 そしてその村の最大の不運は、その覚醒者が、戦士からの追撃から逃げたり、隠れたりする慎重な臆病者ではなく。非常に逆上しやすく、発覚後は積極的に、より多くの血肉を求め、本格的に人々を襲うようになったという点だろう。

 別に急ぐ理由も、逃げ出す理由も彼女には存在しなかったので、好きなように〝お食事〟を堪能していた。

 誰が来ても返り討ちにするという傲慢さもあったが、なによりせっかくの餌場を壊す羽目になったので腹が立っていた、というのが一番の理由だ。戦士が来るまでゆっくりしていた。

 

 そして討伐隊が到着したとき、少しばかり彼女は訝しんだ。

 通常、覚醒者討伐のためのチームは四人。つまりは四人チームでなければ覚醒者の相手は難しい、という意味でもある。

 しかし、この場に登場した戦士はわずかに一人。

 周りを探っても小さな妖気一つも感じず、遅れてくるような気配もない。正真正銘たった一人で討伐に来ていた。

 

 覚醒者は嗤った。

 

 馬鹿かと。わざわざ死にに来たと。組織もついに狂ったかと。

 しかし徐々に、自分の実力が下に見られているように感じて憤慨してきた。

 〝見下されるのは気に入らない〟殺す理由はそれだけで十分。

 やってきた戦士には少し同情はしたが、情けは一切与えない。

 すぐさま覚醒体になり、強大な力で押しつぶすことを実行した。――――だが。

 

 

(なんでさっきからこいつは一撃も食らわないんだよ!?)

 

 

 自分の予想では二分以内に終わるはずの軽い作業だったが、かれこれ十分以上攻防が続いている。

 常に高速で動き回っているわけでも、物陰に隠れているわけでもない。

 まるで、どこか舞い踊っているかのように、体全体を動かし続け、全ての攻撃を躱し、防ぎきっていた。

 圧倒的物量で攻め立てているのにも関わらず、かすり傷一つ付けられないでいる現状。

 これではらちが明かないと考え、一旦攻撃の腕を止める。戦士の方も警戒してか、追撃をしてこなかった。

 

「……チッ、雑魚が、チマチマ動きやがって。本当に腹立つなクソガキ」

「……かわいい後輩に向かってクソガキはないんじゃないの? クソガキは。大体あんな量に襲われたら誰だって避けるのに必死になるわよ」

「別に避ける必要なんてねーんだよ。てめぇがさっさと切り刻まれさえすれば済む話だ」

「そうは言ってもねぇ。本体の動きが鈍いから発射地点は簡単に読めるし、攻撃方法もずっと単調な感じで変わり映えしないから分かりやすいのよね。……言っちゃ悪いけど戦いが下手ね、先輩?」

「殺す」

 

 声を発するや否や、覚醒者は攻撃を再開。大量の刃が戦士へ迫る。

 戦士はそれを後ろへ跳び避けることが出来たが、間髪いれずに第二陣の攻撃。今度は地面を通って着地点の下から襲いかかる。

 しかし地面のわずかな揺れによっていち早く察知し、大きく上へ跳び上がりながら触手を切断し、これを回避。

 

「まったく、数が多くて使い捨てが容易な肉体だなんて羨ましいわね。こっちなんて腕が二本しかないからこうして防ぐだけで精一杯だっていうのに」

「今度はそれすら出来るかな?」

 

 そう言うと今度は頭上から触手の群れが戦士を襲う。

 空中にいるので回避は出来ない。そこで体をひねり、剣で触手の軌道を逸らす、もしくは切り落とすことで直撃を免れる。

 あらゆる角度からの攻撃を、正確に防ぎきるその姿は称賛に値するだろう。

 空中にいて、身動きが制限されているのにもかかわらず、複数の攻撃物に完璧に対処している。

 体全体を使うかのようなその動きは、全方位囲まれていても鈍ることがない。

 最後に右から迫りくる触手を、右手で構えた大剣で斬り、終わったかに見えた――――しかし。

 

「囮だよ間抜け」

 

 いつの間にか左下から迫りくる触手。

 その部分だけ妖気を限りなく薄くし、さらに先ほどの大きな妖気を纏った触手の群れによって、その存在を探知されにくくすることにも成功した。

 大剣は右手にあるので届かず、体をひねり切った直後なので、体勢を立て直すのには時間が足りない。

 

「なるほど……思ったよりも頭が回るようね」

「最後までムカつく野郎だ。だがまぁ、弱いなりに頑張った方だと思うぞ? じゃあな」

 

 そうして無慈悲に繰り出される攻撃。一人の戦士はなすすべもなくその体を無数の茨によって斬り刻まれていく――――――――。

 

 

 

「――――ま、あんまり意味ないんだけどね」

「あ?」

 

 気が付けば。

 そこには切り刻むはずが、なぜか逆に斬り落とされている触手。対して戦士の方は未だ無傷のまま。

 

 あり得ないことだ。

 対処不能な角度からの一撃。

 行動が制限されている中防ぎきれるものではないし、なにより傷一つ負わせることができなかったという事実に覚醒者は困惑した。

 そんな動揺など関係なしに、戦士は左手に大剣を携えながら、静かに地面へと着地する。

 

(……ん? 左手?) 

 

 ――――さっきまであいつ、〝右手〟に剣を持ってなったか?

 

「なんだ……おい、今何しやがった!」

「別に何も特別なことはしてないわよ? 右に持っていた大剣を左へ飛ばしてキャッチしただけ」

「はぁ?」

「ほら、こんな風に」

 

 そう言って、左手でクレイモアを軽く右横へ投げ、それを右手で受け取る。今度はそれを右手で投げ、左手で受け取る。その動作を繰り返した。

 

「……馬鹿にしてんのか? お前」

「失礼ね、至って真面目よ」

「仮にできたとしても、あの体勢で手から手への投げ渡しなんて間に合うわけねーだろーが」

「でも現に私は生きているわよ。それはどう説明するの? ……それとも、貴方が鈍すぎるから気が付かなかっただけかしら?」

 

 途端に覚醒者の雰囲気が変わり、巨大な怒気をまとって襲いかかる。

 

「調子のんなよこの雑魚がっ!!」

 

 今までよりも攻撃の勢いは強くなる。だが戦士のほうは先ほどよりも簡単にそれを回避していく。

 

「こんな安い挑発ですぐ逆上するだなんて良い大人がみっともないわね。私よりも年上なんだからもっと毅然としなさいよ」

「うるせぇ! さっきからデタラメぶっこきやがって! さっさと死にやがれ!」

 

 全身から噴き出る巨大な妖気。茨の本数もさらに増え、鎌の形状も大きくなっていく。

 

「しょうがないわね、じゃあ簡単に理解してもらうために――ちょっと思いっ切り行くわよ」

 

 その瞬間、戦士は初めて前へ出る。

 頭上から来る触手を動きでかく乱し、横から迫る触手を切り刻み、地中に忍ばせ飛び出だした攻撃を跳んで避ける。

 

 どのような攻撃を前にしても戦士は止まらない。

 ただ前へ、前へ、前へ、前へ。

 

 その銀色の脅威が近づいていることに、イラつきだけではなく、一つの違和感を覚醒者は感じていた。

 

(――――なんだ?)

 

 緩急をつけて左右から攻めるが防がれる。

 

(――――なんだこの違和感)

 

 周囲にある瓦礫を飛ばすが、僅かな動作で回避。

 

(――――何かがおかしいぞ)

 

 地面に触手を叩きつけて土砂を舞い散らせるが、なんの足止めにもならない。

 

(――――あれ?)

 

 ついに覚醒者の至近へと迫り、上半身へと大きく跳躍。

 

(――――ちょっと待て)

 

 すかさず覚醒者の六本の腕が振るわれる。

 

(――――こいつ)

 

 戦士もそれに対応するための構えをとり。

 

(――――――――両手に大剣(クレイモア)を持ってやがるっ!!!)

 

 〝両手に〟携えた二本の大剣によって、六本のうちの三本を切り落とした。

 

 その勢いのまま、覚醒者の後方へと戦士は着地する。

 大剣は変わらず一本のまま。

 

「……貴様……一体」

「さてと、戦力調査の時間はもう終わり。……少し遊びすぎたし、そろそろ決めるか」

「ッ!」

 

 なにか本能のような場所で危険を察知したのか、下半身の貝殻が変化。

 貝殻から飛び出ていた茨のような触手の、およそ七割が上半身の肉体を包み込む。

 すると、姿形はそのままで、まるで堅牢な鎧のような外皮を身にまとい始めていた。

 続いて先ほどの鎌を再生させ、大きく伸ばし、戦士に向かって振り下ろす。

 

「おっと」

 

 だがそれを難なく躱す。

 逆に、攻撃の手数が先ほどと比べて大きく減ったことにより、戦士のほうが容易に、相手の懐へと潜り込むことができた。

 そして無防備な胴体に向かって、剣を強く突き立てる。しかし。

 

「……やっぱり硬いな」

 

 形状が変化した覚醒者の外皮は予想よりも硬く、一突きでは大したダメージを与えられないでいた。

 

「は、ははは、あっはははははははははははっ!! 残念だったなぁ。お前の貧弱な攻撃で、あたしに傷一つも付けることができなくてよ!」

「……ねぇ、防御型覚醒者の攻略法って知ってる?」

「あん?」

「それは絶えず相手の肉体を破壊し続けることよ」

「お前状況見て物を言え。どうやって破壊し続けるって?」

「確かに私の腕力じゃあ時間がかかりそうね。……なら〝脚力〟ならどうかしら?」

 

 そう言うや否や剣を右足に向けて投げ、そしてそれを器用にキャッチする。

 

「な!?」

 

 そして右足で蹴り上げるように、覚醒者に向かって剣を突き刺した。

 通常有り得るはずのない場所からの一撃。しかしまるで手に握っているかのように大剣はぶれることはなく、足から離れない。

 それも一度では止まらず、二激、三激と高速で連続蹴りを行い、覚醒者に剣を突き刺していく。

 明らかに先ほどの攻撃よりも強力。そして蹴りを入れた肉体の周辺が砕け、体が大きく仰け反った。

 

「ガ、ガガッ!」

 

 堪らず後ろへ後退したが、先ほどの考察通り、本体の動き自体はそれほど俊敏ではなく、逃げ切ることは出来ない。

 戦士は再びこちらへ向かって跳躍を開始。

 それに対して慌てて戦士の動きを止めるように攻撃する。――――だが止まらない。

 

 右手で行く手を阻む触手を斬った後、すぐに先ほどと同じように左手に投げ渡し、別方向から攻撃してくる触手を対処する。

 右側に邪魔が出てきたら右手に、左側だったら左手に、その繰り返しだ。

 

 理屈でいえば簡単だが恐ろしいのはその正確さと速度。

 右手に持っていたと思ったら、いつの間にか左手に持ち直しており、投げ渡す際のラグが非常に短い。

しかも一度も落とすどころか少しも握り損ねることなく渡している。

 再度胴体へ近づいたら、腕を地面につけ逆さになり、先ほどまで両手で行っていたことを〝両足〟で行い、覚醒者の肉体を破壊していく。

 

 そんな猛攻を食らい覚醒者は、今までよりも太めの触手を出し、それを後方へと大きく射出。まるでフックのように地面に固定させ、後ろへ自分を飛ばす。

 だが逃がすことなく、戦士は覚醒者へ向かってくる。今度は両手だけではなく、両足も使うようになって。

 臨機応変に対応する部位を変え、まるで踊るように動き、全方位を隙間なく剣を振りまわす。

 

 

 ここに来てようやく覚醒者は気が付いた。

 さっきの二本大剣を装備していたかのように見えてた理由。

 

 ――――こいつは大剣を複数所持していたのではなく、一つの大剣で複数を作っていた(・・・・・・・・・・・・・・)んだ。

 

 

 右手に持っていたものを左手に、左手に持っていたものを右足に、右足に持っていたものを左足に。

 装備の変更を自在に行い、四肢の全てが武装されている。

 

 おそらく原理は手首足首に限定した一瞬の妖力完全解放。

 その強大な力を持つ一瞬のうちに、大剣を投げ飛ばしている。

 妖力が完全に開放された部位から投げ渡される大剣だ。その速度は目でとらえることさえも困難になるだろう。

 それにより手足間で一本の大剣が超高速で動きまわり、残像が消えることなくいつまでも残り、それゆえ二本以上あると錯覚して見えていた。

 

 驚くべきはその正確さや安定性。そして、妖力解放の緻密さ。

 手足首限定で一瞬だけだとしても、絶え間なく長時間連続で妖力解放を出し入れし続けるなど普通は不可能だ。すぐに限界が来る。

 だがこの戦士はそれを表情一つ変えずにいつまでもやってのけてる。それに複数あると錯覚するほどの強い残像が残るということは、刹那の時間のみに絶えず妖力の切り替えをやっているということ。……一体どれほどの才能がその身に宿っているのか。

 

 今ならはっきりと分かる。いつの間にか三本に見えている大剣。

 片足、もしくは片手を支軸にして残り三本の手足で剣を振るう。絶え間なく動き続ける大剣はまるで三本あるように見え――――三本の腕でそれを操っているように見える。

 右足、左足、左手、両手、……と。まるで何かの演劇のようにステップを踏み、覚醒者の肉体を切り落としながら前へ進む。

 

 そうして、気が付けば再生した腕も含め六つの腕はなくなっており――無防備にさらされた頭部だけが残っている。

 

「はいおしまい。残念だったわね? あなたの攻撃で私に傷一つ付けることができなくて」

「こ、のぉぉぉぉぉぉ、クソガキ――――――――」

 

 ストン、と、躊躇なく頭を切り落とす。

 

 頭部を失った肉体は、大きな音を立てて崩れ落ちた。

 戦士は覚醒者が完全に沈黙したのを確認すると、大きく息を吐いた。

 

「ふぅ、……疲れた。最近こんなのばっかりね」

 

 大きな戦いだったにもかかわらず、余韻をそれほど味わうこともなく、どこか気の抜けた空気を出している。

 そしてさっさとこの場を後にし、少し離れた場所にある大きめの岩に腰を掛けた。

 

「――オルセ、終わったわよ」

 

 声を上げて誰かを呼び出す。すると何処からともなく黒いフードをかぶった怪しげな男がやってきた。

 

「……相変わらず手際がいいな。この短時間で覚醒者一体を討伐とは」

「そりゃどうも。……何処でかは知らないけど全部見てたんでしょう? 情報だと中位レベルだって聞いてたんだけど、アレ明らかに一桁近くあったわよ?」

「ふむ、だが別段問題あるまい、こうしてお前は無傷で戻ってきたのだからな」

「それはそうだけど。……情報ミスは勘弁してくれないかしら。ただでさえ他の仲間よりも仕事量が多いっていうのに、これじゃあ多忙すぎて過労死するわよ」

「そう思うのならしっかり働いてさっさと終わらせろ。まだまだ仕事は山積みなのだからな」

 

 あからさまに嫌そうな顔をする彼女と、表情一つ変えない黒フードの男。

 やがて観念したのか、重い腰を上げて立ち上がる。

 

「次の任はブルム山周辺の覚醒者討伐。討伐隊は例のごとくお前一人だ」

「……ねぇ、いい加減私一人をこき使うはやめてくれないかしら。確か覚醒者の討伐は四人チームが基本だったと思うのだけれど?」

「言っただろう、仕事が山積みなんだ。お前一人で十分だと言うのに他の人材を割く訳にはいくまい」

「まったく。……ここまで来ると過度な信頼って鬱陶しいだけね」

 

文句を言いながらも、彼女は次の仕事場所へそのまま足を運ぶ。

 

 

 

 ――――そうして、今回の彼女の任務は終了した。

 

 

 本来であれば高難易度の覚醒者討伐に一人で向かい、完全に無傷で目標を討伐を完了する。

 戦士の中でも極めて珍しい両利きであり、その利点を最大限活用する戦い方を行う。

 戦いの最中の彼女はまるで踊っているかのようで、三つに複製させた剣を優雅に振りまわし、見る者を魅了する。

 いかなる状況でも傷一つ負わず、どんな強敵でも問題なく倒す。その在りようを称し、あの〝塵喰いのカサンドラ〟の再臨とも呼ばれている存在。

 現組織の戦士No1。

 

 名を―――――〝三つ腕〟のリヒティ。

 




本編に名前だけ出てきた歴代No1の中でも八強と呼ばれた者の一人、「三つ腕のリヒティ」の物語です。

因みにリヒティの戦い方はバレエを想像するのが一番近い。もしくはフィギュアスケート。
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