三つの軌跡   作:大猫子猫

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長い割にはなんか進みません


憩いの場

「――――ここから五時間ほど歩けば山小屋があるはずだ。前回はそこで寝泊りしていた。……太陽も程々に傾いてきているし、そこで休むのはどうだろう?」

「ふむ……そうだな。五時間もあれば日も沈み切るし、何よりまだまだ距離がある。そこで寝るのが無難か」

 

 ローレンの提案にレイティアが頷く。

 基本的に我々は夜を避け、日中に覚醒者との戦闘を執り行う。

 別に半人半妖なら、一晩ぐらいなら眠らなくとも、十分に問題なく活動可能だが、危険度が高い分、万全を期して行おうという考えがほとんどだからである。

 

「――それで、どういった方針で行くのかな。レイティア?」

「……なぜ私に振る。このメンバーではお前が一番数字が小さいんだ。隊のリーダーはお前だよ」

「いやだって、こういうの考えるのは私よりもずっと向いてるでしょ。ちゃんと今までの実績を踏まえて判断してるのよ。……どうしてもって言うなら、ほら、隊長からの命令ってやつ」

「まったくお前は……」

 

 呆れた顔をするが、拒否はしないようだ。そういうところが非常に好感を持てる。

 

「皆もそれでいい?」

「あたしはそれで構わないぜ。前に一緒になったこともあるし、レイティアの指揮は信頼している」

「隊長が良かれと思っているのなら口は出しませんよ」

「私も問題はない」

 

 だがその中で一人だけ渋る者が出た。

 

「……ふん、指揮を丸投げとは、とんだ隊長がいたものだな」

「あ、なにか問題が?」

「お前のような者がリーダーという事実に不安を感じたんだと言っているんだ。はっ、そんなに自分に自信がないのか」

「適材適所って知ってる? 変にむきになって行うよりも、能力が高いものがいたら、そっちに任せようとするのは生存率を高める為に必要なことでしょう? 死んだらプライドもクソもないんだし」

「……チッ」

 

 それ以上はクラリッサも噛みついてこなかったので、全員肯定したと判断し、レイティアに促した。

 

「で、どういう感じに行くの?」

「……まずは半分に分け、三人一組のチームを二つ作る。構成は戦力を均等にするように3、19、30、が一組と、4、15、26を組みにする」

 

 つまり通常の覚醒者狩りよりも人数が一人減る以外は、あまり変わりがなく普段通りになる。

 まぁ、敵は複数いるわけだから、こちらも分割して対応するというのは当たり前か。

 

「……あれ? まず、ってことは続きがあるの?」

「続きというよりも、状況によって変更だな。敵の数や勢いが予想以上に高い場合は、今の組み分けを解除して、ばらける様に動く」

「具体的にはどんな?」

「私とアエラの二人で報告にあった強い個体を相手どる。他四人はチームとなり、それ以外の覚醒者の相手、少なくともこちらに加勢が入らないよう攪乱する役目を任せる。もちろん余裕ができたらこちらのサポートも頼むがな」

 

 その作戦だと、最悪我々二人は上位覚醒者と一対一で対決しなくてはならない事態に陥ってしまうが……。

 まぁ、成功率を高める為に一桁ナンバーの負担が大きくなるのは仕方がない。

 こう言っては何だが、私たち二人と他のメンバーとの力量差は非常に大きい。ならば、悪戯に戦力を分散させるよりも、私たちが盾になるなり、特攻するなりやるしかあるまい。

 

「そして四人の方も、常に全員で固まっているのではなく、二人組になることを意識してくれ」

「ん? それはどういうことだ? さっきとなんか違いあんのか?」

「完全に四人一組のチームではなく、二人組が合わさって四人になっている、という状態にしてほしい。構成は15と30、19と26だ――――チーム全体に意識の全てを向けるのではなく、基本的にパートナーを優先に見るよう心掛けろ」

「なぜ?」

「全滅のリスクを抑えるためだ。二組よりも三組のほうが、失敗時に撤退要員を送り出しやすくなるからな。……ずっと四人でひと塊になっているのと、二人組がくっついているのとでは、意識が大きく違ってくる。予想外の事態に陥ったとしても、気に掛ける人数が少ない方が柔軟に動きやすくなり、また、高度な連携よりも、素早い反応と判断力が優先になる場合がある」

 

 スラスラと作戦を立ててくる。

 とんだ無茶ぶりかと少し思っていたけど、心配はないようだ。その頭の回転の良さは素直に尊敬する。

 

「さすが〝激流〟のレイティア。名前みたいに流れるような判断能力で本当に感心するよ。実際私がやってもそんなにパッとは思いつかないし」

「ふん。戦士になって僅か一年程度でNo3になった天才に褒められたところで嬉しくもないよ」

 

 他の面々も特に反対はないようだ。

 〝勝つ〟という要素よりも〝生き残る〟ということに長けたところに、好感を持ったのかもしれない。

 

「それにしても、攻撃型の典型みたいな貴方が、随分と慎重な判断をしたわね」

「……場合が場合だ。用心に越したことはない。そもそも今回は不明確な点が多すぎる。敵の規模、目的、手段、何もかもだ。ローレンの報告にあった個体数もあれが全てとは限らない。戦力を分散していた可能性も、新たに増やした可能性もある。……そもそも、あのカルナが破れているんだ。慎重になりすぎるくらいが丁度いいさ」

 

 NO5、鎖のカルナ

 先代のNo1であり、規制を解除し本格的に活動を始めた組織の第一戦力。

 弱体化した組織を立て直すことができたのは、彼女の功績と言う声が今でも大きい。

 ……だけどまぁ、二年ぐらい前に私が入った頃には、もうすでにNo5に降格させられていたし、一緒に戦闘を行ったこともないので、ちょっとイメージが薄い。

 

「ねぇ、全盛期のカルナってそんなにすごかったの? 実際に見たことがなくて噂ぐらいでしか知らないから、あんまり実感わかないんだけど」

「そりゃあすごかったさ。妖気、剣技、戦法、体力、すべてが一級品。何度立ち向かっても敵わない、という印象が強く残ってるよ」

 

 当時を懐かしむように、少し目を輝かせながら、レイティアは語りだした。

 

「へぇ……それってナンバーが下がった後も同じ印象?」

「片腕が無くなったからと言っても本質的なところは変わりないよ。そもそも奴の力の最たる要素は、特殊な妖力同調能力にある」

「妖力同調って、あの他人の妖気に自分の妖気を同調させて操作するってやつ?」

「あいつのは別に他人を支配するほどの強力なものではない。むしろ地味で質素で、だからこそ気付くことができないような小ささ。無意識を操っていると言ってもいい」

 

 妖力を同調するということは、それなり以上の技術や才能が必要なことが多い。

 自分の妖気を他人の妖気に合わせる。それによって対象の妖気をある程度操れ、体中に妖気が満ちている関係上、最終的には肉体そのものを動かし操作することも可能だ。

 だがそれはすなわち、他者の妖気の質や流れを正確に読み取り、自分の妖気をそれと全く同じ波長に合わせる必要がある。

 広範囲を探知する力ではなく、個々の深くまで探りこむ力。

 大なり少なり、使える者はいるが、実戦で使用するレベルとなると、本当に数は限られてくる。

 

「無意識を操るとは一体どういうことなんだ? 隊長が戦闘を行ったとき、なんというか、敵の動きがおかしかったというか、少し違和感を感じたんだが。……あれがそうなのか?」

 

 直接的な能力については聞かされていなかったようで、ローレンが疑問を投げかけてきた。

 

「ま、そんなところだな。……さっきも言ったが、あいつのは肉体を支配する、なんて大それたものじゃない。相手が右を選んだとき、その角度を少し左寄りに修正する。その程度のことだ。周りはもちろん。かけられた本人ですら全く気付かない。気にもしない些細な事。……それがどういう意味をもたらすかわかるか?」

 

 誰も気付かないということは、対策をとられる危険がないということ。制限も薄く、容易く術をかけられる。……それはつまり。

 

「カルナは戦闘をやりやすいように、対象を好きなように誘導していたんだ。だがその違和感はとても薄く、敵は自分の意思でその行動をとったと思い込ませるほど巧妙だ。戦闘が長引けば長引くほどドツボにはまっていく。まさしく二つ名の〝鎖〟のように、繋いだまま逃がさずどんどん絡めとっていく。時間が経つにつれ、ローレンのように敵も違和感を感じるようになるが、そこまで行ったら後はどうしようもない。抜け出したくとも抜け出せない状況に陥り、終わりまで誘導されたことに気付くこともない」

「なっ」

「……マジ?」

「本当だ。だから誰よりも強く立ち回ることができて、No1の称号を手にすることができたのだから」

 

 つまりは、一流の剣士と相手しているのに、その剣士のやりやすい好きなコースに、いつの間にか攻撃や防御を行っていたということか。

 それは確かに恐ろしい。元々強い人相手にハンデを背負いながら戦うようなものなんだから。

 

「……レイティアは今のカルナと戦っても勝てないと思ってたの?」

「さぁ、それはどうだろうな。……左腕をなくした後、あいつは他人との交流をあまりとろうとしなかったからな。多分腕を失ったことを恥だと考え、人に会いたくなかったんじゃないか? 攻撃型だから腕を再生したところで使い物にならないしな。……だから私が持ってるカルナへの印象は、全盛期のものが全てなんだよ」

 

 元々上位ナンバーはプライドが高い者が多い。

 特にNo1というのは、全戦士から憧れや畏怖の感情で常に見られている。それが片腕失ってナンバーを降格された、なんていうのは非常に大きいショックだったであろう。人目を気にしだしすのも無理からぬことなのかもしれない。

 

「まぁ、カルナがすごかったっていうのは大体理解できたよ。共戦経験がある人からの情報は信頼できるし」

「そいつはなによりだな」

「ついにもう一つ質問いい?」

「なんだ」

 

「――――――――カルナとリヒティってどっちのほうが強かったと思う?」

 

 レイティアは顔をこちらへ向ける。

 表情はどこか呆れるような感じで言った。

 

「……お前、それ本気で言ってるのか?」

「ま、そうなんだけどね」

 

 カルナは任務中にダメージを負い、腕をなくした。

 リヒティは単身で多くの覚醒者討伐を行い、目立った傷を負うこともなく、全ての任務を遂行している。

 その点だけでも、どちらが優れてるかなんて一目瞭然だ。

 

「ちょっと待ってくれ。……リヒティ、というとあの〝三つ腕〟のリヒティか!? お前らNo1と知り合いなのか?」

「ん? あぁ、互いに上位一桁だからそれなりにね。そんなに驚くことなの?」

「だってお前、今のNo1なんて、チームを組まず、ほとんどを一人で達成しているって話じゃねーか。チームも組まないのにどうやってあたしみたいなのが知り合いになれるんだよ」

 

 シンディーはどこか興奮したような感じだ。

 まぁ、確かに討伐隊もないのに、通常のナンバーがいつ知り合うんだというのは分からんでもない。

 実際のところ、この忙しい中、遭遇するのはとてもレアなのだろう

 

「実際に隊長と共に戦っていた身としては信じられんな。あのままで十分強かったカルナの全盛期よりも上の存在とは」

「でも、確か今のNo1って両手、両足全て使って戦ってるのでしたんですよね? 両手はともかく両足を使っているというのが、少し想像できないんですが」

「まぁ、アレは真似ようとして真似られるものじゃないしね。まず足でクレイモアを持つって発想が頭おかしいし。……やってみたこともあるけど、いくらやっても、交換三、四回目ぐらいまでが限界だったよ」

 

 特に足に渡す段階が。

 普通に投げ渡すだけだったら造作もないけど、あの速度を出しながら続けるのは何回やっても無理だった。

 

「当たり前だろう。あれはリヒティの才能があってこそのものだ。真似しようとしてできるものじゃない」

「でも、バランスとか正確さを磨けばもっとうまくいくんじゃないの?」

 

 手足首の妖力開放による勢いで、クレイモアを四肢間で高速移動させる。

 理屈は分かっているんだけど、どうも成功しない。すぐに妖力のコントロールが乱れる。

 

「お前、部分的妖力完全開放の原理は理解してるか?」

「失礼ね。当たり前。……自分の妖気を肉体の一部分だけに限定して100%の妖力を完全開放する。全身ではなく一部分のみなので、理性を保ちながら覚醒を抑えることができる。そんなところでしょう」

 

 ちなみに制御を間違えると、ただの〝開放〟は〝覚醒〟へと移り変わり、そのまま覚醒体へと移行してしまう危険性もはらんでいる。

 完全開放する部位の得手不得手もあって、よほどの上位ナンバーでない限りは使われない技術だ。

 

「そう、お前の言う通りの妖力を一部分(・・・)のみに限定して、それを開放している。――――ならリヒティは? あいつは手足四本を絶え間なく開放しているぞ」

「単に四か所同時にずっと完全開放してるだけじゃないの?」

「論外だ。短時間ならともかく絶えず四肢の妖力を100%にするなど、積極的に覚醒しようとしているものだ。……大体、その場合だと常に両手両足が暴れまわって、まともに動くことすらできなくなるぞ」

「じゃあ、ある程度まで常時解放させてて、使う時に残りの力を引き出すとか」

「……あのなぁ、常時解放なんてしてたら筋肉が膨れ上がるだろう。あいつはそんなに筋肉質か?」

「あ、それもそうか」

「でしたら、完全に筋力だけで動かしている、とかですか? これなら暴走の心配もなく簡単に制御できますが」

「妖気を発していたのを確認しているからそれもない。そもそも腕ならともかく手足首だぞ。そこまで力が出てくるのか?」

 

 うん、いくら怪力の戦士でもそれは無理だと思う。

 

「だったらどうやって?」

「簡単な話だ。あいつは手足間での剣の高速移動に優れていると同時に、体内を巡る妖力のコントロール(・・・・・・・・・・・・・・)誰よりも速いんだ(・・・・・・・・)。つまり、常に両手両足間での100%の妖力と全くの無開放の出し入れを一々一本ずつ行っている」

「なっ!?」

 

 さすがにそれには唖然とする。

 

「いやいやいや! ずっとその部位に集中してるんだったらまだしも、文字通り手の先から足の先まで、ずっと妖気完全開放の出し入れをし続けているっていうの!? 別々の位置にある四本を? あの間隔で? そんなの――――」

「あり得ないか? そうだろうな。普通だったらあり得ないよ。……それを顔色変えずにやり続けているからあいつは化け物なんだ」

 

 妖力の完全開放は、肉体の使用面積の大きさで難易度が変わるとはいえ、どの部位だろうが一瞬だけだとしても、それだけで精神力が持っていかれる。一部に集中した暴れまわる妖気をいかに抑えて制御するというのが一番重要な課題だ。

 だがそれを、刹那にも満たないような一瞬で全開放と全収縮を繰り返す、それも四方向にあるものを不規則に。

 異常な操作能力。

 真似できないのも当たり前だ。そんなこと私が本気でやったら、良くて数日動けなくなり、最悪即覚醒だ。

 

「……なぁ、情報聞いてるだけだから何とも言えねーが、それってマジであたしらと同じ半人半妖なのか?」

「まぁ、疑問に思うのも仕方ないがな。だが、それは言ってしまえばただの技術だ。あいつがNo1であり続ける決定的な一つではない」

「……じゃあなに? 肉体の姿勢制御や安定性? 踊るような奇妙な動き? 剣を投げ渡す正確さや反応速度? 挙げたらきりがないけど」

それら全て(・・・・・)だ。単体でも有能なそれらの技能が、一つにまとまった時新たな付加価値が出現する」

 

 付加価値?

 複数の技術が合わさって完成、もしくは昇華する、という話はよく聞くが、付加価値とはどういうことなんだろう。

 

「わかると思うが、〝三つ腕〟を行うのには非常に集中力が必要だ。自分の肉体の管理、動き、投げるタイミングやその場所、全てを思考して行動しなくてはいけない」

 

 ただ適当に投げて反射で回収するのではなく、一つ一つを計算して実行している。

 これだけでも驚異的だが、逆にそうでもしなくてはあんな精錬された動きにはならないのだろう。

 

「だが自分のことだけではなく、敵の挙動にも同様の注意力が必要になる」

「……そうだろうね。〝三つ腕〟をやりながら回避や攻撃となると、通常以上に集中しなちゃいけないし」

「それだけではない。敵の動きに合わせて剣を動かし続けるということはだ、自分が相手の動きを理解しなくてないけないということだ。――――いや、違うな。……見ているんだよ、あいつは、敵の動き全てを。無自覚のうちにな。相手の全てを観察し、それを無駄なく学習している(・・・・・・)

 

 ――え? 

 ちょっと待って、それって……。

 

「気付いたか。〝三つ腕〟を行いながら戦うのは相当な注意力がいる。とさっき話したな。……あぁ、そうだ。手足で剣を常に投げ回す、だなんて特殊なことを行っているんだ。本人が意識していなくとも、戦闘相手の全てを観察しようと努めるだろう。動きの流れ、攻撃手段、目の動き、息遣い、本人が気づいていない癖にいたるまで全てを知り尽くす。時間が経つにつれ、その情報量は確実に増え続ける。つまりは――――」

 

 

 長期戦になればなるにつれ、リヒティは確実に相手に対して強くなっていく……。

 それは、戦いの中で常に進化することと何の違いがあろうか。

 

 

「そうだ。リヒティの本当に恐ろしいところはその〝対応力〟だ。……だからあいつは大抵の場合、初めは防御に徹する。まずは情報を得ようとすることに着手しようとするからだ。そして攻めに入られたらもう止められない。敵よりも確実に強くなっているからな」

 

 覚醒者相手に、単体で挑んでほとんどを圧勝する理由がようやくわかった。相手の性質を誰よりも理解できる存在になるのだから、負けるはずがない。

 

「攻略法と言えば、情報が一切公開されていない開幕時に決着をつけることが一番だが……。それを防ぐのが〝三つ腕〟だ。全方向に対応しきれる動き回る三本の大剣をどう突破する? それに手を焼いていれば、あっという間に時間切れだ。――――カルナが敵を弱体化して生き残ってきたとすれば、リヒティは敵よりも自分を強化し続けて勝ち続けてきたようなものなんだよ」

 

 それは確かにカルナの比ではない。

 弱点を作って対応するのではなく、正面から叩き潰している。どんな強敵でも、時間が経つにつれその差はどんどんと縮まっていく。それは対戦する相手からすればなんという悪夢か。

 副産物として現れた要素が、そのまま最大の武器となってしまっている。

 

「だがその分、カルナ以上にNo1であることへの重圧は大きいだろう。それも、さっき言った通り、任務で仲間と交流することすら少ない。孤高であると同時に孤独なんだよ。とてもな。私は奴に尊敬の念こそ持つが、ああいう存在になりたいという欲求はまったくないな」

 

 最強であるがゆえに、誰も並んでくれない孤独感。

 絶対の存在であるがゆえに、踏み入ることのできない聖域。

 私はそれを想像しようとして――やめた。

 どう考えても綺麗だけど鬱々として……ひどく寂しい。そういう場所なのだろう。

 

 私の心は強くない。それは自分でも自覚してることだ。

 誰もいない、誰も待っててくれない、ただ期待の目だけが自分に向けられてくるような世界。――そんなものに耐えられる自信が全くない。

 

 ふと思った。

 

 現在進行形でそんな世界を体験している彼女(リヒティ)には、安らぎの時間なんてあるのだろうか……。

 

 

 

     ◇◇◇

 

 

 

 深い森の中を彼女は歩いている。

 道があるわけでもない。目印すらどこにもない。……にもかかわらず、足取りはしっかりとしており、ただ闇雲にではなく、目的をもって進んでいた。

 

 今日ここに来たのは半分偶然、もう半分が必然だ。

 偶然この付近での仕事があり、それをうまく調節して、日が昇っているうちにノルマを全てこなし、誰にも文句を言われないよう時間を作り、この場所へと赴いたのである。

 

 雑木林を抜けると小さな広場に出た。

 広場というよりも、木々が他よりも大分薄くなっている空間、というほうが正しいのだろう。

 近隣に村はあるが、少し離れており、それ以前にこの森は迷いやすく、住民が立ち入るのは入り口付近のみで、あまり奥へは入ってこようとはしない。よほど森に慣れ切った者でなければ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 あたりを見渡すと、少女が一人、切り株に座って野花をいじくっていた。

 この場所は、物理的な距離では村からそんなに離れてはいないが、ここに来るまでの道のりが複雑に入り組んでおり、ほとんどの住民は存在すら知らない。

 だがその少女は、平然とこの場におり、自然体のまま佇んでいた。

 

 彼女は静かに少女へ向かって歩み寄る。決して音をたてないように、静かに。

 そしてうまく背後に回った次の瞬間――。

 

 

「――――だぁれだっ!!」

「ひゃあぁ!!??」

 

 

 少女の目元を両手で抑え、大きな声を張り上げた。悪戯っ子の表情で、非常に楽しそうに。

 少女は訳が分からず混乱しており、頭を振り回しながらあたふたしている。

 

「……ぷっ、はははははっ! ――――ごめんごめん。私よ、私」

 

 ようやく両手を開放して少女を振り向かせる。

 顔は泣き出す一歩手前の表情でぐちゃぐちゃだったが、相手の顔を見ると一気に明るくなった。

 

「……あ! リヒティ!!」

「久しぶり。元気にしていた?」

 

 彼女、リヒティを知る仲間の戦士がこの場にいたらさぞかし驚くであろう。

 戦闘中の余裕そうな笑みなら知っているが、温かな純粋な微笑みなんて、誰も見たことがないのだから。

 

「そういえば、お姉ちゃんはの方は? 今日はいないの?」

「あれ? さっきまで傍にいたのに……」

 

 少女はキョロキョロとあたりを見回している。

 すると、ちょうど二人の死角から小さな影が近づいてきていた。

 小さな体を、さらに小さくして忍び寄り、直前に迫ったところでリヒティに飛びつく。

 

「――――ばああぁぁぁ!!! ……って、あれ?」

 

 しかし、いつの間にかリヒティは消えており。

 

「はい残念。まだまだ修行が足りないわね」

「ぐぴぇっ!」

 

 逆に背後に回られたリヒティに、軽く頭をはたかれ、地面へとダイブしていた。

 

「あ、おねぇちゃんだー!」

「……いててて……。もう、リヒティの意地悪! 少しぐらい隙見せたっていいじゃん。というかなんでバレたの?」

「人と接するときは甘さよりも厳しさ、ってね。あと、なんでバレたのかは単に私がすごいからよ。ふふふ」

「むぅー」

 

 少女の姉は悪戯が失敗して不満のようで、膨れながらリヒティを睨みつける。

 

「大体リヒティのほうが約束破ったのに厳しくするなんてずるいよ! 今度来るのはすぐだ、って言ってたのに、こんなに長かったじゃない!」

 

 痛いところをつくなぁ。

 そんなことを思いながらリヒティは苦笑いをする。見ると、妹の方もコクコクと頷きながら非難の眼差しを向けていた。

 

「……そうね。それについては私が悪いわね。ごめんね? 二人とも。……お詫びと言っては何だけど、今日はいつもより長くいられるわよ」

「え、本当!?」

「もちろん、日が昇っている間は、っていう条件付きだけど」

 

 それを聞いて二人ははしゃぎだす。それを微笑まし気にリヒティは見つめる。彼女もこの時間を誰よりも楽しみにしていた。

 

「じゃあ、じゃあ! こないだの剣の稽古の続きをやろうよ!」

「えー。おねぇちゃんこの前ずっとそれやってて、わたし見るだけだったんだよ。……今日は旅のお話を聞きたいよ」

「……んー、そうね。前は剣を使うことしかやれなかったから、今日はまずお話から始めましょうか」

「えー!」

「そう膨れないの。今日は長いんだから、ちゃんと後から付き合ってあげるわ」

「本当? 絶対だよ!」

 

 切り株へとリヒティも座る。

 妹のほうはもちろん。他のことを提案してきた姉も、興味津々に近寄ってくる。大なり小なり、どんなことでも楽しいと確信しているからだ。

 

 

 

「それじゃあ――――――――ルシエラ。ラファエラ。……今日は何から話しましょうか」

 

 

 

 ここは三人だけの温かな空間。

 僅かな時間だけの交流でも、そこにはしっかりとした幸福で包まれていた。

 何ものにも代えがたい、大切な一時。

 ここが彼女(リヒティ)の安らぎの世界。

 




レイティアはこの作品内でのありがたい解説役(確信)

それにしても完全開放技ってまさに戦士の奥義、みたいな感じでいいですよね!
風斬り……はただの筋力だし、漣の剣……は体をしならせてるだけだし、旋空剣……はただの肉体変形だし、塵喰い……はただの遠心力だし、柔の剣と剛の剣はただの技術っぽいし、他の技は妖気読みの延長線な感じだし。
んん? あれれ? どう考えても流麗・幻影・高速剣しか描写ある技思いつけないぞ?
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