三つの軌跡   作:大猫子猫

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笑顔

 ――――足で剣を振るったらどうなるのだろう?

 

 初めはそんな疑問からだった。

 腕力よりも脚力のほうが力はある。なら足で持って斬ったら、攻撃が強くなるのかもしれない。

 そんなことを思いつき、そして、すぐに馬鹿馬鹿しくなり、その考えを頭の中から消し去った。

 

 

 

 私は舞踏を生業とする一家の、末の娘として生まれ育った。

 家はそこそこ裕福な家庭だったと思う。温かい食事や大きな部屋、……なにより、優しくしてくれる家族がいた。

 父は家業の経営。母は踊り子の講師。

 優雅に舞い踊る姉や兄たちを見て、私もいつかはああなりたいと憧れを抱いていた。

 まだ幼かった私は客の前に出されることはなかったが、それでも、この仕事を心から誇りに感じていた。

 

 

 ある日、町に内臓が食われた死体が出現しだした。

 

 

 飛躍的早く、クレイモアを派遣してもらおうという考えに至ることができたのは、それなりに規模の大きな町で、資金に余裕があったことが幸いだったのかもしれない。

 そして到着する予定の明朝。

 尿意を催し、早めに目が覚めた私は、近くにいた兄を起こし、トイレへと同行してもらっていた。

 何か妙な物音を感じたのは、兄が先か私が先だったか、今ではもう分からない。

 

 ただ、音がする位置へと意識を向けると、父が母と姉を食べているという光景を見たのは同時のことだった。

 

 血にまみれた父の顔が、こちらを振り返る瞬間を、一生涯忘れることはないだろう。

 兄はすぐさま『逃げろ』と私に言った。

 恐怖と混乱と悲しさで全く動けなくなっていたが、その兄の叫びで反射的に駆けだしていた。

 兄は共に逃げようとはせず、父の方へ向かって行った。……おそらくは私を逃がすために。

 家の外へ出ると、一人だけ逃げたことに対するひどい罪悪感を感じたことを覚えている。

 そのせいかは分からない。ただ、外に放置してあったマキ割り用の鉈を手に取り、室内に戻っていた。

 計画もない。対策もない。

 その時の私は、兄を助けたい。その一心のみだった。

 

 ……だが現実は無常。

 きっとまだ無事だ。そんな淡い希望を砕くかのように、兄は腹を引き裂かれて息絶えていた。……その腹を夢中になって貪っている父。

 その時私は全ての感情を忘れた。ただ無感情に父に近付き、その頭を鉈で――――。

 

 その後のことはよく覚えていない。

 ただ、数時間後にやってきた戦士に保護され、東の地へ連れてこられたということは理解した。

 意識がハッキリしだしたのは手術台の上、そして自分を見下ろす顔の半分が焼けただれた科学者。

 

『これからお前は人間をやめることになるのだが……なにか言い残すことはあるかね?』

 

 科学者はそう私に問いかける。

 いきなり一種の死刑宣告。だがそれに対しては特に感情を抱くことはなく、一つの提案を口に出していた。

 

『――埋め込むんだったら、わたしが殺したようまを使って』

 

 家族を殺した憎悪の対象。幸せな人生を狂わした仇。

 だが、そいつの腹の中には兄がいる、母がいる、姉がいる、……父がいる。

 食べられてしまった愛すべき家族たちが、その体内に宿っている。

 ならば私は家族と共に行こう。たった一人生き残った私が、憎むべき相手を取り込み、その奥底に眠る家族たちと同化して、これからの全ての人生を生きていこう。

 

 私の発言に科学者は少し驚いたようだったが、すぐに満足げな顔になって、私を見た。

 

『よろしい、お前(人間)の最後の願いを聞き届けよう。……お前はいい素体になりそうだ』

 

 こうして私の人生は一転。踊り子から魔に対する殺戮者へと変化していくことになった。

 

 しかし、半人半妖になって早々に、一つの問題が浮上してきた。

 ――私は戦闘が非常に下手くそだった。

 

 剣術、体の動き、姿勢制御。それらが多くの訓練生よりも私は劣っていたのだ。

 別に相手の動きが捉えられないわけではない。妖力の制御も問題なく行える。ただ戦闘技術だけは鈍く、成長も芳しくない。

 いくら訓練を積んでも、自他共に感じる動きの違和感は、終ぞ治ることはなかった。

 技術が低い割には、なぜか妖力はそこそこ大きかったので、半分力押しのような感じで戦士になり、それなりのナンバーを与えられたが、当時の私には明らかに分不相応。

 総合的な実力は低く、いつ死んでもおかしくない状況にあった。

 

 そんな私が生き残ってこられたのは、一人の友のおかげだ。

 

 彼女は同じ時期に組織に連れてこられて、同じ時期に半人半妖になった彼女は、偶然にも昔遊んだ知り合いだった。

 以前住んでいた町での常連客の一人娘。実際に交流があったのは数回だったが、気が合い、短いながらも仲良く遊んでいたことを覚えている。

 思いがけない再会だったが、私たちはこの出会いを非常に喜んだ。

 

 愛する者が死に絶え、自分の意思もなく、こんな場所へと運び込まれ、不安と恐怖しかない中、親しい者との再会は、そんな押しつぶされそうな心を和らげてくれた。

 互いに慰め合い、励まし合って、私たちは〝人〟であることを実感できた。

 今の自分があるのは彼女のおかげ、自分にとってのかけがえのない友人。

 

 それに……彼女は非常に優秀だった。

 妖気が大きいだけの私とは違い、とても戦い方がうまく、同期の訓練生の中でも強い力を持っていた。

 力の差は時間が経つにつれ大きくなる。

 だけど、決して私を見捨てようとはせず、覚えの悪い自分をなんどもフォローし、訓練に付き合い、助けてくれた。

 それは戦士になった後も変わることはなく、何度命を救われたか分からない。

 

 

 

 二度目の覚醒者戦。私は彼女と共に戦場へ立っていた。

 相手は元No9の覚醒者。予想よりも激しい猛攻で我々は苦戦を強いられていた。

 それなりの手傷を負わせることができたが、それ以上に我々の傷の方が多く、やがて一桁ナンバーが倒れ、友も私をかばい、深手を負って倒れてしまう。

 

 戦場に残ったのは私一人。

 間髪入れずに襲った敵の一撃によって、私はバランスを崩して右のめりで倒れてしまう。

 最後の獲物である私を屠るために、そしてそばで倒れている彼女へとどめを刺すために、左側から攻撃が迫りくる。

 クレイモアは右手に構えてあり、防ぐのには間に合わず、回避しようとしてもこの体勢ではでは失敗する。それ以前に友を見捨てることはできない。

 

 そんな中、以前思いついた一つの疑問を思い出す。

 成功するとは思えない。そもそもまともに戦えない。そんなことを考えながらも、体は勝手に動き、右手にある剣を左足(・・)へと投げ飛ばしていた。そして――――。

 

 

 

 ――――――――

 ――――――――――――

 ――――――――――――――――

 

 

 

 勝った。

 造作もなく、いとも簡単に。

 

 我武者羅に戦っていただけだったのに、自分自身がその事実に唖然とした。

 

 だが、余裕ができて思い返すと、戦闘時は剣を飛ばしながら、子供のころ、母から教わった踊りをなぞるように動いていたことに気が付く。

 どうしてそのような動きをしたのかはよく分からない。いつの間にか自然とそうなっていた。

 しかし、組織から教わり、仲間たちが鍛え続けている戦闘の型よりも、自分に馴染みやすく、違和感なく動けていた。

 

 全体的にバランスよく動作するよりも、おそろしくアンバランスな機動性。

 それは戦士としてはあまりにも異質な動き。

 技術が皆よりも下手なのは当たり前だ。不安定であるがゆえに安定するのに、最初から安定した動きを強要されたら、逆に不安定になってしまう。

 

 周りを確認すると、仲間たちが息をしていることに気が付き、安堵する。

 そして友の顔を見て、これからへの期待や喜びが、私の中で広がっていった。

 

 ――私も戦える。

 ――今度は私が守ってあげることができる。

 

 今まではずっと友に守られ、助けられてきた私だが、ようやく戦う術を手に入れることができた。それもとても大きな力が。

 これまでの感謝や恩を、ようやく返すことができる。助けられてきたけど、これからは助けてあげられる。

 そんなことを考えると喜びで胸が一杯になった。

 

 それからの私はただひたすらに戦った。

 動きを自己流へと変え、剣の投げ渡しも一層精錬させて。

 どんどんと強くなって、早く今まで貰ったたくさんの恩を返していこう。そんなことを胸に抱きながら。

 一桁ナンバーになるのにそう時間はかからず、いつしか〝三つ腕〟という二つ名が出来上がっていた。

 戦って勝って、戦って勝って、戦って勝って、戦って勝つ。

 そんなことを続けていくと順当にナンバーは上がっていき。

 

 いつの間にかNo1の座に立っていた。

 

 戦士最強の席。時代の象徴。

 強くなり続けた結果、誰も前にはおらず、これ以上ない位置に佇んでいた。

 前にも横にも誰もいない。唯一無二の到達点。

 ふと後ろを振り返ってみると――――。

 

 ……大勢仲間の屍が無数に横たわっていた。

 その中には、守っていくと決めたはずの友の顔も見える。

 

 ……そこで私はようやく気付いた。

 

 手段に固執していた結果、本当に大切なものを置き去りにしてきたのだと――――――――。

 

 

 

 二人の幼い姉妹に出会ったのは、それからしばらく経ったある日。

 いつも通り妖魔退治の任務のため、その村へ赴いたときに二人は居た。

 思えば初めから不思議な子供だった。

 村の大人たちは不気味がり、子供も雰囲気を読み取ってか、警戒する素振りを見せている中、その二人だけは何の警戒心もなく私に近寄ってきた。

 ただ純粋に興味があったらしく、こちらの見た目の話題から妖魔の倒し方まで、様々なことを質問攻めにされた。

 

 だが、私にとってはそれだけのこと。

 多少鬱陶しく思うだけで、その二人に対して特別な感情などはなにも湧いてはこなかった。

 どうせすぐにここから消え去る身だ。今更その程度で愛着が出てくる、なんていうのはあり得ないからだ。

 

 

 妖魔は村の中にはいなかった。

 村人に確認したところ、誰も消えてはいないらしく、どうやら村の外を拠点として、(ここ)を餌場に選んでいただけのようだ。

 正直探しに行くのも面倒で、自分の妖力を限りなく薄くしながら一晩だけ待つことに決めた。

 純正の妖魔は我々と違って妖気の探知能力が大きく劣る。なら運が良ければ警戒を解き、勝手に村に戻ってくるだろう。

 

 賭けは成功。朝早く付近に妖魔が出現したことを探知する。

 その場所へ向かうと、ちょうど人を襲っている最中だった。

 

 襲われていたのは昨日の姉妹。

 なぜ朝早くに出かけているのか、という疑問がある。だがそれ以上にこの時間帯に妖魔に襲われて逃げている子供を見ると、いつかの情景を思い出してしまう。

 私はその記憶を打ち払うかのごとく、すぐさま駆け出し、妖魔の首を切断する。

 地面へ落ちる生首、血飛沫を上げる肉体。それを年端も行かないような子供が、真近で見てしまった。

 ……そしてそれを作り出した存在が目の前にいる。

 

 非難か怯えか、さすがに子供に直接そういう感情を向けられるのは慣れておらず、顔を直視しないようにしていた。

 ――――不意に、とんっと、何かが自分にぶつかってきた。

 驚いて顔を下へ向けると、二人の子供が自分に強く抱き着いていた。

 

『――――ありがとう』

 

 困惑した私をよそに、二人は何度も呟いていた。

 少し冷静になり、聞いてみる。

 

『怖くないの?』

 

 疑問に対してこう答えた。

 

『なんで怖いなんて思うの?』

 

 質問の意図が分からないかのように、キョトンとした顔で何の気なしに答える。

 本人たちにとっては軽く言った一言。だが、我々にとってはあり得るはずもない、どんなものよりも優しい一言だった……。

 

 

 

『ほらこっち来て』

 

 討伐後、村長に確認した後村から出ようとしたが、例の姉妹が私を呼び止め、森の中へと案内した。

 連れていかれた先は、木々が並ぶ森の中にしては少し広い空間。見ると子供のおもちゃや、人の手が加えられた切り株などが目に移った。

 

『ここはわたしたちの秘密の隠れ家。他の誰も知らないよ。……いつもここ来て遊んでるんだー』

 

 彼女たちの両親はおらず、親戚の家に厄介になっているらしい。

 家にいる間は家事の手伝いを命ぜられ、それが嫌で外を探索したところ、ここを見つけたようだ。……朝、出歩いていたのも日課の水くみのためとのこと。

 

『家にいるだけではたらけー、だの、てつだえー、だの、ずっと言われるから嫌になっちゃうよ』

 

 そんな秘密の場所に私を招いてどういうつもりなのか。

 

『村に行くと皆が嫌がるんでしょ? ……ここだったら誰も来ないし、わたしたちいつもいるから大丈夫かなって』

『……ねぇ、また会えないかな?』

 

 物好きな子供がいたもんだ。皆から嫌われていることを理解しているのに、また会うことを望んでいるなんて。

 

『ねぇ、わたしたち、ルシエラとラファエラって言うんだ。……おねぇちゃんの名前は?』

 

 言っても意味がない、どうせ会う確率は低いのだから。

 

『――――うん、分かった。じゃあ今度来た時に教えてね。ずっと待ってるから』

 

 ……最後まで純粋な笑顔を私に向けてくれていた。

 会う確率が低いというのは本心だ。忙しい中こんな場所に立ち寄る余裕はない。……それに、懐いてきたのは一時的なもので、時間が経てば忘れ去られていく。その可能性を否定しなかった。

 

 ――――それなのに。

 

 

『あ! 来てくれたんだおねぇちゃん!』

 

『もちろん! 忘れたことなんてないよ』

 

『えへへへ。……やっと名前教えてもらった!』

 

『その剣大きいけど重くないの?』

 

『いいなー、リヒティはそんなに色々できて』

 

『家から持ってきたんだけど……リヒティも食べる?』

 

『こないだの旅のお話の続き聞かせて』

 

『え、いいの!? 貰っちゃって!』

 

『わたしもリヒティみたいに妖魔を倒せるぐらい強くなりたいな』

 

『もう、遅いよ! 約束の時間遅刻!』

 

『ねぇリヒティ』

 

『今日は何して遊ぼうか?』

 

 

 気が付いたら、この二人に会いに来るのを何よりも楽しみにしている自分がいた。

 

 荒れた心を静めてくれる。優しさを思い出してくれる。

 友を失ってからは忘れてしまっていた、――――笑顔を、この二人は思い出させてくれた。

 いつもここに来ることを一番楽しみにしている。常にこの瞬間を思い描く。

 ルシエラとラファエラにとって、自分は秘密を共有した友人であり、命を救ってくれた恩人であると思っているのだろう。

 でも、実際は私の方が何倍も何倍も、救われている。

 

 命なんかよりもずっと尊い、――――私のなかの(人間)は、彼女たちによって何度も救われたんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――よっ、ほっ、はっ」

 

 現在、剣をジャグリングのように投げ渡す動作を繰り返している。

 もちろん超高速状態ではなく、二人に見えるようにゆっくりとだ。

 最後に剣を高く頭上に投げ、落下して目の前を通過する瞬間。

 

「――ほい」

 

 腕を交差させるように剣をキャッチ。そしてそのまますぐに三つ腕を使い、一本の剣を二つに分裂させたかのように見せた。

 パチパチパチパチ。

 

「すごいすごい! ねぇ、今のどうやるの?」

「ふふふ、内緒よ。もうちょっと目がよくなったら分かるかもね」

 

 この芸はなかなか好感触なようで安心した。この二人の審査は厳しいので、ダメ出しを食らわなくてよかった。

 そんな風に安心してると、ふと思い出した。

 

「あぁ、そういえば忘れるところだった――はい、これ二人にお土産よ」

 

 懐から一つの品物を取り出す。それは小さな像で、二人の女性が背中を預けている形をしていた。

 

「うわぁ、綺麗……リヒティ、これは?」

「〝テレサ・クレア像〟っていうのよ。こっちがテレサでこっちがクレアね。慈愛を司る双子の女神らしくてね。いつも仲がいい貴方たち二人にぴったりだと思って」

「へぇ……慈愛の女神さまかぁ……確かにこの二人、とっても優しくて仲が良さそう」

「優しい双子の女神さま……こんな風になれたらいいなぁ」

「えへへ。ラファエラとは女神さまに負けないくらい仲良いけどね」

「うん。そこだけは負けない」

 

 どうやら喜んでもらえたようでよかった。

 たまたま店で見つけて、そのまま買おうとした時の店主の意外そうに驚いた顔には、少しイラッときたけど……まぁ良しとしよう。

 

「――あ、そうだ。こっちも忘れてることがあったんだ」

 

 一通りテレサ・クレア像を堪能した後、大事そうに切り株へ置いて、ラファエラは呟いた。

 

「そういえばまだだったね。今度来た時に聞くって決めてたのに、すっかり忘れてたよ」

「ん? どうしたの?」

「あのね、お土産貰っちゃったあとで悪いんだけど、ちょっと頼みたいことがあるんだ」

 

 神妙そうな顔をして二人が見つめてくる。

 

「別にいいわよ。もちろん私ができる範囲でね」

 

 この小さな友人たちの頼みなら、よほどのことがない限りは叶えてやりたい。

 

「うん、実はね――――」

 

 

 

     ◇◇◇

 

 

 

「見えたぞ――――ザコルだ」

 

 時は正午前、目的地に到着。

 

「――――妖気は覚醒者らしきものが三体、確かに密集しているが……どれも似通った大きさだな」

「じゃあ強いやつは今は居ないってことか? 確かリーダー格は2体なんだろ?」

「そうとも限らないわ。妖気を隠すことに長けたタイプかもしれないしね」

 

 そもそもこの中で広範囲の妖力探知に優れた者は誰もいないから、どの情報も確定にはならない。

 メンバーの中で一番妖気読みに優れているのはレイティアだが……彼女は集中して深く探ることに長けていて、遠距離の探索には向いていない。精々他よりマシ、という程度だ。

 

「……最後に確認するがローレン。先ほど話した以上の情報はないんだな?」

「ああ、情けない限りだがあれが全てだ。複数の覚醒者戦だったので私程度では広範囲に気が回らず、辛うじて認識していた個体はムカデのような覚醒者を除いて全て隊長が始末したので情報に意味がない。リーダー格の二体に至っては覚醒した途端に離脱を命じられたから戦闘方法すらよくわかっていないんだ」

 

 申し訳なさげにローレンが話す。ま、ぶっちゃけると戦線にいたのに入手した情報がほとんどないのだから、私も愚痴の一つでも言いたくなるが……先ほどクラリッサが散々皮肉を言いまくっていたのでさすがに我慢する。

 

「まぁ、ここで頭を捻っても分からないものは分からないし、さっさと向かおう」

 

 誰も異論はなく、そのまま奥へと進んでいく。

 

「――つーか、今更かもしんないけどよ。たった六人で五体、もしくはそれ以上の覚醒者討伐って、相当無謀じゃねーか? 最悪、こっちの人数上回るかもしないんだしよ」

「……はっ。なんだ貴様。ここまできて怖気づいたのか」

「そうじゃねぇけど……なんーか捨て駒扱いみたいな感じで、いやになんだよなー」

 

 シンディーの愚痴も分からなくはない。

 いくら一桁上位が二人いるとはいえ、覚醒者四、五体、それもその中の二体は上位覚醒者。

 基本的に覚醒者一体につき四人で当たることになっているのにもかかわらず、最低でも四体相手でこちらの人数はたった六人。不安にもなるだろう。

 

「……実際のところ、組織にとって必要最低限の戦力なんだろうなこれは。上位一桁を二人も使うわけだから人員としては失うのは惜しい。だが、大量の戦士を送って、悪戯に戦死者などを増やすのは今の時期困る。……だからこそ最低限戦い抜けるメンバーを送り出したのだろう」

 

 つまりはどっちでもいいってことか。

 勝てばよし。負けても失うのは最低限の戦力のみで、しかも次の手も考えてあるのでなおよし。

 勝っても負けても、組織にとって利益が出やすい編成というわけか。

 

「でも私たちがやられたら、上位一桁の半分以上を失うのに大胆だね。……もしくはNo1と2さえ残ってたらどうとでもなると考えているのか」

「そう、それなんだけどよ。No1はともかくNo2っていったい誰なんだ(・・・・)? 姿どころか名前すら聞いたことないんだが。さすがに正体分からん奴のフォローを信じろ、なんてのは無理だぞ」

 

 ……あれ? 言われてみれば私もNo2が誰だか知らない。

 

「レイティア知ってる?」

「いや……知らないな? 一応前任の奴が死んでからしばらく空席だったんだが、いつの間にか誰かが入った、というのは聞いたが……名前すら聞かないから、士気低迷防止のカバーストーリーかなんかだと、一時期本気で思ってたぞ」

 

 組織に長くいるレイティアでさえ不明なNo2。なんの情報も出てこないので、ひどく不気味に感じる。

 

「……あ、私は聞いたことはあります。No2の噂」

「え? どんな?」

 

 あくまで噂ですけれど、とシャーリーが前置きをして話し出した。

 

「噂では組織から直々の密命を受けている存在らしいです」

「密命? 違反者の討伐とかそういうの?」

「さぁ、そこまでは……でも今代の〝組織の目〟という話も出てます。二つ名は確か、しゅ――――」

 

 

「……おい、お喋りはそれまでだ。――――来るぞ」

 

 

 

 ――――瞬間。

 周辺を切り刻みながら向かってくる、刃のついた触手。

 誰も傷を負うことなく、躱しきることに成功した。

 そのまま前方の木々を抜けると殺風景な空間へ。

 そしてそこには、三体の異形の化け物たちが待ち受けていた。

 

「あら、本当。ようやくたどり着いたってことね」

「そういうことだ。さてと――――怪物退治の始まりだ」

 

 大剣を構え、三体へ向かって一斉に駆けだした。

 




批判、苦情、クレーム、どんとこい


あ、あと次回少し遅れると思います
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