三つの軌跡   作:大猫子猫

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ウェストランド観光に行ってて遅れました


前哨戦

 ――標的、数は三。

 大きさはどれも中型。形状は装甲を全身にまとっているヤドカリのような形。杭のような突起物が四本背中から生えている二足歩行。そして巨大なムカデ。

 さっきの攻撃はどうやらムカデが行っていたようで、全身から、大きな針が先端についている糸のようなものを飛び出している。

 

「まずは予定通り二手に分かれて一体一体に集中するぞ」

「了解。じゃあ私たちは杭が生えてる奴を」

「ならこちらはヤドカリだ。ムカデの援護に注意しろよ――――行くぞ」

 

 その掛け声とともに、二つに分かれる六つの銀色。

 手前にいる、未だに先の攻撃物を収納しきれていないムカデを無視し、各標的へと突撃する。

 先に敵に到達したのはレイティアのチーム。

 迂回などせず、ムカデのような覚醒者を跳び、避け、踏み越えて、まっすぐ向かって行く。

 

「あってめぇら! 俺を足蹴に!?」

「ははははははっ!! 無視されるなんてざまぁないわね。それにしても、真っ先に私の方に向かってくるだなんて、しっかりと強さを理解してる頭のいい子たちね。……それなら、きちんと真っ先に殺してあげるわ!」

 

 すると、甲殻に覆われてない頭胸部から太い触手が複数伸びてきた。

 だが、的を絞ろうともしない、広範囲に覆うようでもない、中途半端で雑な攻め。

 熟練の三人が今更そのような攻撃で怯むこともなく、その合間を縫うようにして、難なく回避。

 それでもその攻撃で、シンディー、シャーリーは進みを鈍らせることとなる。そしてレイティアは――――まるで何もなかったかのように、一切の速度を落とさずにいた。

 

「!?」

 

 覚醒者は驚き、そして慌てたように次の対応をとる。

 今度は目標をレイティア一人に絞り、撃ち出した全ての触手を薙ぎ払うかのように振るった。

 だが、それでも速度を落とすことはできない。

 跳んで避けて隙間をくぐり、避けきれないものは剣で斬り落として対処する。

 無駄のない動きで覚醒者の眼下へと迫る。

 

「チィッ!」

 

 目の前にいる邪魔な存在を振り払うかのように、大きな鋏のような二本の腕を力の限り振り下ろす。

 その攻撃に対してレイティアは、避けるわけでも、剣で防ぐわけでもなく、外皮のギリギリの部分に剣を当て、まるで相手の肉体を削るかのように剣を滑らせ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、その攻撃の軌道を僅かに反らしながら前へ進んでいった。

 

「――――悪いが、私は〝防御〟という言葉を全くと言っていいほど知らないんだ」

「なっ!?」

 

 敵の攻撃に刃を重ねて受け流し、勢いを一切殺すことなく標的に向かって剣を振るう。

 俗にいえば〝クロスカウター〟と呼ばれるその高等技術を難なく使用し、迷いも躊躇いも見当たらない。

 いかなる妨害にも動じず、自らの思いのまま好きなように進む。

 速度を一切緩めず、最高速のまま前へひたすら向かうその姿は、まさに〝激流〟。

 全ての動きが攻めの一部。防御も回避も行わない超攻撃特化の戦士。それこそが今のNo4の力。

 そしてそのまま、反らした鋏と、甲殻の一部を一気にそぎ落とす。

 

「ぐがぁっ!!」

「なんだ、思ったより殻のほうも柔らかいな」

 

 これならもっと深く切り落としてもよかったかなと、思いながらそのまま着地。

 だが、いかに妖気が小さくとも、最初の印象からして硬度が高そうに思えても仕方がない。

 開戦直後なので、様子見のような攻撃を繰り出すのは無理からぬこと――――もっとも、相手にとっては〝様子見〟なんて軽いダメージではないが。

 

「きっ、さまぁぁ!!」

 

 怒りに身を任せ、もう片方の鋏を、力任せにレイティアへ向ける。

 

「おっと、あたしらを忘れちゃあ」

「困りますよ?」

 

 しかし、その無事な片方も、シンディとシャーリーによって斬り落とされる。

 意識を完全にレイティアだけに向け、僅かな時間でも、これが一対多の戦いということを忘れるという、もっとも初歩的で致命的なミスを犯してしまっていた。

 

 

 

「んだよあの野郎。大口叩いてる割には速攻でボロボロじゃねーか――――っよ」

 

 杭持ちの覚醒者は右腕の指を伸ばし、自身に向かってくる三人へと攻撃をする。

 

「二人とも横へ回避! クラリッサは右、ローレンは左へ!」

 

 アエラは二人に左右へ散るように指示を出し、自身はそのままの位置で、かがむようにして攻撃を回避する。

 

「そのまま回り込むように敵へ接近。私が先手を取るから追撃をお願い」

「わかった!」

「しくじるなよ」

 

 三方向へばらける様に各々動く。

 二人を迂回させ、一桁であるアエラはそのまま前進。狙いの一つとして、一旦二人を離しておくことで、攻撃の意識を自分に集中させて、仲間の動きをやりやすくさせるためでもある。

 そしてその思惑は無事成功した。

 目の前の覚醒者は、遠くにいる二人を後回しにして、まず一直線に向かってくるアエラに標的を絞った。

 

「はん! 今のやり取りを見る限りだとお前が頭なんだろ? なら、さっさと潰した方が正解に決まってるよな」

 

 そう言うと覚醒者の方もアエラへと接近。爪を肥大化させ、上から下へと振り下ろす。

 地面を深く抉り、土砂が舞う。だがアエラは上空へと跳ぶことでこれを回避。

 しかしそれだけでは終わらない。背中の杭のような突起物を一斉に伸ばし、四本共、空中にいるアエラに向かって放たれた。

 

「言っとくが、この俺の杭は向こうの馬鹿みたいに見掛け倒しじゃねーぜ。その部分だけは並みの覚醒者以上の硬さを持ってんだ。さぁ、串刺しにでもなってろ!」

 

 迫りくる四本の杭。仲間は離れており援護は期待できない。動きも制限されてクレイモアで対応するほかない。

 受けるか避けるか。……選択肢が狭まれた中で、この状況に対するアエラの対処の方法はと言うと――――並み以上の硬度を誇る杭を斬り落とすこと(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)だった。

 

「……は?」

 

 力の限り斬り砕いたというよりは、まるでバターを切るかのような、自然で静かな斬り方。

 硬さなど何の障害にもならないとでもいうように、全ての杭を切り裂いた。

 

「ちょ、ちょっと待て! なん――――」

「お前ら! 俺を無視すんじゃねぇよ!!」

 

 いつの間にか、体勢を立て直していたムカデ型の覚醒者。

 長い体をうねらせ、アエラの背後に迫りくる。

 

「あ、やば……ごめん、悪いけどこの杭持ちは二人でどうにかして」

 

 そう言うと、自らが斬った杭の断面を器用に踏みつけ、それを足場にして後方へと跳躍した。

 そしてそのままムカデ型との交戦を開始。

 

「アエラ!」

「クソッ! 本当にとんだリーダーだ!」

 

 ちょうど杭持ちの左右へと到達したクラリッサとローレン。

 本来の予定であれば、先攻したアエラの状況を見て、そのサポートを行う役割のはずだったが、急遽メンバーの要であるアエラが離脱し、たった二人で覚醒者の相手をすることとなる。

 下位の覚醒者といえども、その妖気の大きさは彼女たちとは比べ物にならないほど強大だ。いくら覚醒者戦の経験があるといっても、19番と30番の二人だけで対抗するというその責はあまりにも重い。

 幸いにも、相手はアエラによる予想外の反撃でショックを受けており、防御をとるも、一瞬出遅れてしまう。そしてその隙を、二人は見逃さずに攻撃する。

 クラリッサは無防備な右脇を、ローレンは機動力を削ぐために左足を狙って一撃を放つ。

 

「なめんなよ! 雑魚が!」

 

 だがそのままでは終わらない。

 回避も防御も間に合わないと悟った覚醒者は、右足に妖気を集中させ、そのまま地面を深く砕く。

 広範囲に地面が割れ、砕けた土塊が舞い散り、二人は強制的に体勢を崩されてしまう。

 クラリッサはそれでもなんとか一撃を入れることには成功したが、手ごたえは弱く、当初想定してたダメージよりも大幅に弱い。

 ローレンに至っては完全にバランスが崩れ、立て直すことに精一杯。そんな彼女に、覚醒者は目前に会った左足を振るい、ローレンに向かって思い蹴りを与える。

 

「ぐはっ!」

 

 その衝撃で後ろへと吹き飛ばされる。続けて覚醒者はクラリッサに向かって右腕を伸ばし、その体を引き裂こうと行動をとる。

 すかさず大剣を正面に構え、それを防ごうとするが、純粋な力比べは向こうの方が上なようで、すぐに押し負けてしまう。

 何とか直撃こそ凌ぐことはできたが、傷は些か浅いとはいいがたく、それなりのダメージを与えられてしまった。

 

「クッ、どいつもこいつも……自分の役目ぐらいはたせ! 役立たず共!」

 

 すでに防戦で手一杯。

 力の差を思い知らされた以上、大剣で直接防ぐのは効果が薄く、必然的に躱すことに集中するのを余儀なくされる。

 だが、実力差が大きい以上、一対一の構図は長く持つことはなく。

 頭上から振り下ろされた左手によって、地面に思いっ切り叩きつけられ、そのまま抑え込まれた。

 

「がっは!……ぐっ!」

「これで二匹目。じっくりととどめを刺してやるから楽しみにしてろよ。まずは……向こうで伸びてる奴からだ!」

 

 すでに収納しきった背中の杭を再射出。それらをまだ吹き飛ばされたダメージから抜け切れてないローレンに向かって放たれた。

 

「あ……く、そ」

 

 なんとか避けようとローレンは体を動かすが、思い通りに動いてくれず非常にスロー。

 それでも必死に動かそうとしながら、数秒後に訪れる〝死〟を確かなものと実感していた。

 

 しかし、その〝死〟が自分に降りかかることはない。

 

 その前に、ムカデ型の覚醒者と交戦していたはずのアエラが、ローレンの目の前に出現していた。

 そして大剣を杭に向かって振るい始める。四本の杭は斬られたわけでも、動きを止められたわけでもなく、全て明後日の方向へと弾かれた(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「なにっ!?」

 

 先ほどレイティアが行ったように軌道を反らしたわけでも、力ずくで向きをかえられたわけでもない。

 ただただ純粋に刃に触れただけで弾かれた。その不可解な現象に覚醒者は困惑を隠せなずにいる。

 

「――――ローレン、無事?」

「……無事とは言いがたいが、まだ、動けるさ」

「遅れてごめんね。……クラリッサを回収して一旦皆と合流しましょ」

「あぁ、それは助かる。……私たち二人はこの様だからな……ムカデの方は?」

「それなら大丈夫。死んではないけど結構ボロボロだから。……じゃあなるべく急ぐから、少し待っててね」

「ああ、頼む」

 

 するとアエラは、おもむろに剣を斜め前の地面に突き刺す。

 そして次の瞬間。突き刺した部分の土が一斉に吹き飛んだかと思うと、アエラは前方に向かって爆発的な速度で向かって行った。

 

「な!?」

 

 そしてその速度のまま、クラリッサを抑えていた腕を切断する。

 腕を引きはがしてクラリッサを救出。獲物を逃がすまいと覚醒者が動くが、その前に、足を切り裂いて機動力をを削ぐ。

 今まで二人がかりで太刀打ちできなかった怪物を、たった一人で打ち負かしている姿を見て、ローレンを悔しさや羨望が入り混じったような目で見つめていた。

 

 片腕のみを妖力開放させ、故意に振動を作り出す。目でも追いきれないほどの高速の振動は、そのまま剣にも影響され超高速で走り続け、それによって莫大な切れ味を生み、触れたもの全てを切り刻む。

 だがそれだけではない。振動の向きや質を変えることでまったくの別な性質へと生まれ変わる。

 それは、切れ味を捨て、代わりに〝反発〟の要素を非常に高める。そしてその状態の剣は文字通り全てを弾く力へと変化する。

 向かってきた飛び道具を弾き、敵の渾身の一撃をも弾き、その〝弾く〟という性質を利用して、自身のスピードを衝撃で上昇させることも可能。

 近づいて守りを固めている敵を斬り、近づいてくるどのような攻撃も弾く。

 

「……これが組織最強の攻撃力と、最強の防御力を兼ね備えた存在――――No3〝双胎〟のアエラか」

 

 〝最強の矛と盾〟の実力。

 クラリッサを背負って帰ってくるアエラを見て、そうローレンは呟いた。

 

 アエラは無事に戦闘区域を離脱。

 覚醒者は結構な深手なようで、無理に追ってくることもない。

 

「――――ただいま。動ける?」

「……大丈夫だ。行こう」

「よし――――レイティア!!」

 

 アエラはレイティアを呼び、向こうが反応を示すのを確認するとなにやら合図をする。

 その合図に対して、レイティアは了承の意をとる。

 

「シンディー、シャーリー、これ以上の追撃はなしだ。一旦離脱してアエラ達と合流する」

「了解!」

「わかりました」

 

 そうしてヤドカリを相手にしていた三人も戦線を離脱。覚醒者三体から少し離れた場所で、合流を成功させた。

 見ると、覚醒者の方も三体とも近くに集まり始める。

 ヤドカリは左腕が無く、もう片方の腕は再生したが、非常に安定のない不格好な形。甲殻も目も当てられないほどに傷ついている。

 杭持ちは左手と左足が消失しており、背中の杭の一本を使ってなんとか足代わりにしている現状。

 ムカデは全長が元の四分の三になるまで斬られており、生々しい切り傷も全体に見られる。

 形状が全く違う三体だが、全員がボロボロだという一点のみ一致していた。

 

「……あんたらさぁ、ふざけるんじゃないわよ。二体がかりで三人相手して、一体も仕留められずにそんな痛めつけられて馬鹿じゃないの?」

「はん! よく言う。お前だって偉ぶって真っ先に出て言った挙句、なにもできずに返り討ちにあってんじゃねーか。少なくとも俺は二匹戦闘不能に近い状態にさせたんだぜ? お前らみたいな役立たずよりは働いてるだろ」

「おいちょっと待ててめぇ……。なに一人自慢げに語ってんだよ、結局誰も殺してねぇくせによ。大体俺が加勢したからそうなったわけであって、俺が来なかったらてめぇなんぞボコボコにされて終わりだろうよ」

「あんたもあんたで、なんで私のとこに来なかったのよ。まったく役に立ってなかったのはどこのどいつのこのクソ虫が!」

「そりゃあ近い方に行くに決まってるだろ。なんでわざわざ遠くまで行かなきゃいけねぇんだよ。少しは頭使えこの能無し!」

「それあんたが言う? たった一人にいいようにされてたくせに? はっ! 腕と足千切られて立っているのもやっとな奴もいるし、本当に男連中は使えないわね」

「……おい、それもしかして俺に言ってんのか? なんならお前らからすり潰したっていいんだぞ? あいつら(・・・・)がいないからって調子に乗りやがって!」

「上等だ! ガキどもの前にてめぇらから血祭りにあげてやるよ!」

 

 あーだこーだと、いくら経てど罵倒や言い争いが終わらない。

 仲間という意識はあるものの、そこに協力や友愛などといった感情はまったくの無のようだ。

 

「……さて、一応戦ってみたけど――――弱いわね」

「ああ、弱いな」

 

 アエラとレイティアは顔を見合わせ、まったく同じ感想を互いに述べた。

 

「一応あの杭持ちなんかは男で、大きな人型って言われればそうともとれるけど……ローレンどう?」

「……いや、奴は違う。見た目も妖気もまるでな。それに、前回の戦いで見た奴だ。アエラの言う通り、あいつは奴らの配下の一体にすぎないよ」

「だよねぇ。どう見ても故意に妖気を抑えているようには見えなかったし。……っと、クラリッサ起きた?」

「……おろせ、自分で立てる」

 

 そう言われ地面におろし、少しおぼつかないがクラリッサは立ち上がる。

 そして一瞬アエラの方を強く睨んだが、それ以上は何も言ってこなかった。

 

「……これはチャンスだな。クラリッサが起きてこちらの戦力は元に戻り、向こうは頭は不在で、下位の覚醒者ばかり、情報通り連携も何もない」

「うん、正直あのレベルだったら私とレイティアなら一体ずつでも問題ないし、残りの一体は後の四人に任せるってことも可能だしね」

「最悪、上位二体を我々がおさせ、他全ての下位覚醒者を四人に任せる、というケースを想定していた分、この組み合わせは本当に幸運だな。本命が来る前に戦力を大きく削ることができる」

「よし! そうと決まればさっさとやっちまおうぜ。……でもあんたら二人だけで本当に大丈夫か?」

「ああ、問題ない。お前たちはヤドカリを頼む。あいつが一番の深手だから問題は少ないだろう。それと、四人チームではなく二人一組だということだけは忘れるなよ……では行くぞ」

 

 その声と共に、六人の戦士は一斉に走った。

 アエラは杭持ち、レイティアはムカデ、残りの四人はヤドカリへと向かう。

 未だ互いに罵倒を繰り返している無防備な三体に、剣を突き立てた。

 

「――――ん? ぐがぁっ!?」

 

 初めに攻撃をくらわしたのはアエラ。超振動させたクレイモアで、残りの腕を肉体と分離させる。

 すかさず杭を伸ばすが、弾き飛ばされて終わり。

 

「こ、このっ!!」

 

 ムカデ型の覚醒者が、全身から針のような触手を射出。それを一番近くにいたレイティアにその大部分を向けるが、その全てを避け、斬り、反らし、ダメージを与えるどころか少しの足止めもできていない。

 逆にその細長い肉体に剣を当てられ、体を二つに切断される。

 

「ぐっ、ぎゃぁぁぁああ!!」

「チッ、まだ生きてるか。やはり頭を狙うのが確実だな」

 

 仲間二人がやられている中、ヤドカリ型の覚醒者も警戒を強める。

 彼女は自分に向かってきている四人の戦士に目を向けていた。

 先にシンディーとローレンが右から攻め入り、敵の左側面を攻撃する。

 覚醒者は不完全に再生した左腕の鋏を振るい、二人を振り払おうと躍起になっている。

 そしてその隙に、クラリッサとシャーリーが右側面へ侵入。未だ腕の再生もできていない無防備な右側へと、攻撃を開始した。

 触手を取り出して応戦するが、右腕を完全消失している中では排除しきるのは難しく、それと同時に、先の戦闘で甲殻の少なくない部分が欠損し、防御力が著しく低下してしまったことも相まって、その肉に、刃を多くめり込まれてしまう。

 

「くっそ! チマチマと鬱陶しいのよ!」

 

 覚醒者は後ろへ大きく後退。そしてそのまま自身が出せる全ての触手を、前方の四人に向かって放つ。

 

「! 全員回避だ!!」

 

 勢いよく飛び出た触手は地面をえぐり、その衝撃でできた土煙によって、視界を遮られる。

 いくらかの手ごたえを実感して、触手を収納しようとすると――――。

 右横から二人の戦士が土煙に紛れながら現れ、覚醒者の肉体に剣を突き立つようとしていた。

 ……だが。

 

「読んでいたわよ」

 

 地面から前触れもなく飛び出てきた四本の触手によって、攻撃は失敗し、逆にクラリッサとシャーリーが貫かれる。

 

「ぐっ!」

「全く芸のないわね。一番隙が大きい個所を、私がいつまでも放置しておくと思う?」

 

 見ると、覚醒者の足元に突き刺さっている触手が見える。攻撃を予期し、あらかじめ仕込ませておいていたようだ。

 

「……ふ、ふふふ」

「ん、どうしたのよ? ダメージでついにイカレちまった?」

「いえ……申し訳ないのですが、私たちも〝読んで〟いましたよ」

 

 すると、先ほど前方に放った触手群に違和感を感じる。まるで小さな切り傷をいくつも受けたような、そんな違和感を。

 そこで気付いた。大量の触手の中を、まるで隙間を縫うかのようにこちらに向かって走ってくるシンディーの姿を。

 無傷ではなく、所々に生傷が目立つが、足取りに支障はない。

 

「馬鹿な!? この物量の中を正面から突破するだなんて!」

「悪いが本命はこっちだ。レイティアの完全な真似とまでは行かないが、まぁ思ったよりもうまくいったな」

 

 覚醒者は急いで無事な左腕を振り上げ、シンディーを排除しようと試みようとする。

 だがその行動は寸でのところで止められる。

 いつの間にか左側から現れたローレンによって左腕の動きが防がれてしまっていた。

 もう手札は何も残っていない。

 

「ま、待って――――」

「……いいや、ダメだね」

 

 シンディーの視線はきっちり正面。覚醒者の頭部。

 全くの無防備となったソコに刺突を浴びせ、その戦いを終わらした。

 

「――――なっ……クソ! あいつ簡単にやられやがって!」

「……人のこと心配する余裕はないんじゃないの?」

 

 仲間がやられ、一瞬気を反らした杭持ちの覚醒者にむかい〝盾〟を発動。覚醒者の肉体は弾かれ、仰向けに倒れ落ちる。

 

「うお!?」

 

 最後に見た光景は、震えながら自分に振り下ろされる一本のクレイモア。

 起き上がることを思いつくよりも早く、アエラは覚醒者の肉体を、頭から股にかけて、綺麗に真っ二つに切断した。

 

「……ふぅ、これであとはムカデだけか。レイティアの方は……特に問題はないみたい」

 

 ムカデ型の覚醒者は、すでに元の大きさの二分の一もなく、顔面の牙も折られ、肉体は継ぎはぎだらけ。対してレイティアの方は無傷に近かった。

 ムカデが叩きつけるように長い体を動かす。しかしレイティアはそれを紙一重でギリギリ躱し、ムカデが地面に叩きつけると同時に、その部位を斬りつけた。

 振り下ろした勢いを逆に利用されたため、通常よりも深く肉をえぐる。

 そしてそのまま肉体を裂きながら、頭部へと向かって行く。

 

「これでもう逃がさない」

「待て! 待て待て待て待て待て!!」

 

 静止を促す言葉を無視し、止まることなく剣を奔らせる。

 そしてついに覚醒者の頭部を捉え、そのまま斬ろうと動き続ける。

 

 

 

 

 上空から、大きな棘のようなものが降ってきて、レイティアを貫き、その動きを止めた。

 

 

 

 

「!!」

 

 その場にいた全員が驚き、全ての行動を止めた。そして反射的に、棘が降ってきたと思われる方向へと振り向いた。

 

「あらあら、少し離れていただけだっていうのに、一体何の騒ぎかしら?」

 

 そこには、魚に鋭利な六本の足を取り付けたような見た目で、背中に大きな棘がいくつも付属している覚醒者と、長い髪に、きらびやかなドレスを着飾っている美しい女性が一人。

 ……だがその外見の評価など、そいつの体内から湧き出ている濃密でドロドロとした妖気の前では、何の印象も持たなくなる。

 なるべく抑えているようではあるが、目で見えるようなこの距離では、その質や量が理解できる。理解できるからこそ、この場にいる全ての戦士は、気安く動けないでいた。

 

 ――その中で、ローレンだけは体を動かしている。

 いや、その表現では言葉が足りない。正しくは、誰の目で見ても分かるほど、激しく震えていた(・・・・・・・・)

 

「……そう、ようやく本命の登場ってことね」

 

 アエラはそう短く呟き、この現状を正しく把握した。

 




まぁ、アエラの〝盾〟はともかく、〝矛〟のほうは謎の超物質で作られてる戦士のクレイモアを切り裂くのは無理だから、ぶっちゃけ対戦士戦では全く使えないんだけどね

アエラ「え?」
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