三つの軌跡   作:大猫子猫

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いつの間にかレイティアに主人公属性が付いてきちゃってる気がする


狂気の花束

 ソレの登場によってこの場の空気は一変した。

 

 長い髪をなびかせ、赤いドレスを身にまとい、少し雑だが鋭さのある腕輪を装着している。

 まだ人間形態にも関わらず、全身からにじみ出ている濃密な妖気。

 横にもう一体の覚醒者がいるからこそ、その存在の大きさにリアリティが増している。

 そしてその禍々しい気配を直前にまで悟らせることなく秘匿した、妖力コントロールの緻密さ。

 この場にいる戦士全員が確信した。こいつが奴らの頭目であると。

 

「……まったく、おちおち留守番も頼めないわね。ちょっと遠出しただけでこの有様。呆れて笑うしかないわよ」

「あ……い、いや、これは」

 

 表情だけは微笑を繕っている女性と、明らかに狼狽しているムカデ型の覚醒者。この時点で力関係は歴然となっている。

 

「ん、なに? 何かか言いたいことでもあるの? ……あぁ、この子? 今回見つけてきた新しい仲間よ。一応元20番台だから貴方たちよりは役に立つと思うわ。――――少なくともこんな馬鹿げた失態を犯すことはないと思うけど?」

 

 その瞬間、女性から負の雰囲気が一気に大きくなる。

 彼女から発せられるイラつきや怒りと言った感情が、周囲の者たちにひしひしと伝わるほど強くなっていった。

 

「こないだといい今回といい、本当驚くほど使えない。覚醒者が三体もいたのに二体死んで残る一体も虫の息。おまけに死体がないところを見ると、一人も倒してないじゃないのよ。数が減ったから戦力増やしに出かけていたのに、増えるどころかマイナスになるなんて馬鹿じゃないの?」

「ま、待ってくれ! 今は〝あいつ〟も出払ってて、ここにいたのは俺たちだけだったんだ! だから――――」

「だからなに、自分たちの失敗を彼のせいにする気? 言い訳するんだったらもっとマシな台詞考えなさい。大体、貴方たちは――――」

 

 目の前にいる戦士たちを無視して、会話を続けようとするが強制的に中断された。

 先ほど腹を貫かれたはずのレイティアが、女性の目の前へといつの間にか急接近。そのまま剣を掲げ、女性を斬りつけようと行動する。

 だが振り下ろした刃は標的へは届かない。

 寸でのところで、横にいた六本足の覚醒者が腕を伸ばし、その一撃を防いだ。

 

「チィッ!」

「あら、危ない危ない」

 

 六本足の覚醒者はそのまま腕を振るい、女性から離すようにレイティアを飛ばす。そしてそのまま自身も駆け、交戦を開始。

 レイティアの考えでは、人間形態で尚且つ警戒が緩んでいる瞬間の隙を突きたかったのだが、その目論見は敢え無く失敗。新しく出来たという配下の一体に足止めを食らう羽目になった。

 先ほどの連中より強いというのは本当のようで、今度は簡単に突破できない。

 

「っ! シンディーとローレンはムカデの足止め! クラリッサとシャーリーは私に付いて、そのままレイティアの援護に向かう! 急いで!」

「わ、分かった!」

 

 そうして二手に分かれる戦士たち。

 シンディーの組は、たった二人で覚醒者と対峙することになるが、アエラは言うほど心配していなかった。

 見た感じでは杭持ちよりも実力は低く、さらに先の戦闘で肉体がボロボロの瀕死状態。これなら少なくとも二人が死ぬことはないだろう。そう考えていた。

 だから問題はもう片方。20番台と、おそらくは一桁の覚醒者。

 レイティアの不意打ちが失敗した以上、これから先、警戒心が緩むなんてことは考えにくい。

 

「……ふむ、まぁ使えないといっても居ないよりはマシだし、なによりこれ以上戦力が減るのはさすがに見過ごせないのよねぇ」

 

 ビキビキビキ。……空気が鋭く鳴り響く。

 女性は、腕に付けている腕輪を撫でながら、今まで抑えていた強大な妖気を外界へと一気に流れ出す。

 まるで沼のようにドロドロとして、底が見えずに広がっていく。そんな印象。

 

 妖気が放出されると同時に、肉体の方も奇妙な変化を表す。

 足の付け根から大きな布のようなものが四つ出現。それらは頭上へと螺旋状に伸び、そのまま女性をすっぽりと包み込んだ。

 

 包み切ったその姿はまるで蕾。そしてその印象を裏付けるがごとく大きく成長し、ある程度の巨大さを手に入れると、まるで花弁のように開いていった。

 それと同時に、下から大きな根のようなものが生え。多数の蔓が伸びてくる。

 蕾が開花しきると、まるで本物の花のよう。たくさんの花弁が綺麗に重なっており、とても巨大で美しい印象を与える。

 その中から非常に茎の長い、食虫植物のような見た目の、人と同程度の大きさの花が四つ生えてくる。

 

 そして、その四つの食虫植物に囲まれた花の中心部。そこから先ほどの女性の上半身が現れた。

 服はすべて消えているが、腕輪だけは装着されたままで、それに触れながらニヤっと笑う。

 

「仕方ないから――――直々に潰してあげるわ」

「! ……まずいっ!」

 

 瞬間。

 覚醒体となった体から生えている蔓を、アエラ、レイティア、クラリッサ、シャーリーの四人へ向けて、勢いよく放たれた。

 先ほどの覚醒者たちが放った触手や杭とは、比べ物にならないほどの速度で戦士たちへ迫る。

 

 木々がなぎ倒され、地面を抉り、地形が変わる。

 一番恐ろしいのは、それほどの物量と攻撃力を浴びせたというのに、仲間の覚醒者へのダメージはゼロに等しいということ。

 混戦中にも関わらず、仲間に当てることなく、覚醒体よりも大きく小柄な複数の戦士のみを正確に狙っていた。

 

 幸い、今の一撃では誰一人行動不能にはならなかったが、少なからず手傷を負わせ、動きを止められる。

 その隙を六本足の覚醒者は見逃さず、最もダメージが深いシャーリーに向かって、鋭利な前足を突き刺す。

 ……だが刺さる直前、スパンッ! と小気味良い効果音と共に、足は切り落とされた。

 

「!!」

 

 見れば、口から血を流しながらも一切の戦意を失っていないアエラがそこにいた。

 アエラは、体勢を整えることなく、更なる追撃を加えようと前へ出る。

 しかし、直接的な動きは相手の方が素早い。次なる行動をいち早く察知した覚醒者は、回り込み、アエラの背後に付いた。

 

 アエラの攻撃は空振りに終わったが、後ろの回られたことに気付くと、振り下ろした剣をそのまま地面に刺し、今度は持ち上げる様に逆方向へ力を込め〝盾〟を発動。

 反発の力を使い、地面に寝転ぶほど体を低め、その体勢のまま真後ろへと跳びだす。

 そして相手の腹部の下へ侵入。

 予想外の動きで対応に遅れた覚醒者の腹部へ〝盾〟を放った。

 

「ぐっ、がはっ!」

 

 大きくのけ反る覚醒者の肉体。直接的なダメージはないものの、その衝撃は覚醒者を一時停止させるには十分な威力だった。

 その隙に足三本を一気にそぎ落とす。支えの多くを失った覚醒者は地面へと崩れた。

 そしてその合間を縫ってレイティアが前へ出る。目指すは前方。花型の覚醒者へ。

 

「……まあ」

 

 感心したように呟くが、攻撃の手に容赦は全くない。

 左右に振り上げた多数の蔓を、レイティアに向かって一斉に振り下ろした。

 強力な攻撃だが、タイミングをうまく合わせ跳び出し、全くの無傷とはいえなかったが、直撃を避けることには成功。

 

 だが、もちろんそれで終わりではない。間髪入れずに他の蔓を使い、まるで鞭のように縦横無尽に振るわれる。

 不規則で多大な破壊。しかし、レイティアはそれらを紙一重のタイミングで避け、致命傷になりそうなものを斬り、受けきれないものを削り反らして、前へ進む。

 決して無傷ではない。いやむしろ時間が経つにつれ傷だらけのボロボロになっているが、〝意思〟だけは、微塵もぶれていない。

 

「なんなの、この子?」

 

 傍から見れば狂気すら感じるその行動。自身への負担を一切顧みず、ただひたすら攻撃し続けるその姿には、覚醒者も少なからず動揺した。

 その捨て身ともいえる特攻は、全ての攻撃を掻い潜り、ついに自身の間合いに本体を捉えた。

 レイティアはそのまま、急所と思われる人の姿の部分へ向かって跳躍を開始する。

 ――しかしその前に、覚醒者の下半身から生えていた根によって、足を絡めとられてしまう。

 

「ぐっ……!」

「残念。気迫と心意気には驚かされたけど……正面からたった一人で立ち向かって本気でどうにかできると思ってたの? だとしたら、とんだお笑い者よ」

「……あぁ、私もそう思うよ」

 

 その言葉を発すると同時に、アエラがレイティアの目の前に飛び出てきた。

 

「!!」

 

 絡みとっていた根は、〝矛〟によって全て切り落とされる。

 

「――向こうは大丈夫か?」

「うん。攻撃手段を結構削いだから問題は少ないはず」

 

 向こうでは六本足の覚醒者と、クラリッサとシャーリーが戦闘を行っている。だが、覚醒者の方は四本の足を失っており、直立して交戦中。戦闘方法も蹴りや噛みつきといった単純なものしか行えていない。背中の棘も二足歩行にならざる負えない今では、使いどころに制限が出来ている。

 

 覚醒者は三体、戦士は六人。

 

 二人ペアで一体を相手どり、強い個体は上位二人に任せるという当初の予定通りの、ある意味で言えば理想的な構図に仕上がっていた。

 合流して、すぐに二人は二手に分かれる。

 レイティアはそのまま継続して前進。アエラは覚醒者の側面へと移動し、〝盾〟の反動を使い、的を絞り込めないようジグザグに進んでいく。

 

「なるほど。さっきの無茶な戦い方は、援軍到着まで私の注意を反らすためのカモフラージュってことだったのね――でも、一人が二人になったところで何かが変わるとでも?」

 

 すると覚醒者は、手持ちの蔓を全方位に広げて、時計回りに振り回し始めた。

 多数の多様な軌道の蔓が、逃げ場を全て消し去るように二人戦士へと繰り出される。

 そのうちの二本が、レイティアの腹部と左肩を深く抉った。

 

「が、ぐ、うううう!!」

 

 顔は痛みで苦悶の表情になる。だが〝目〟だけは変わらない強さで敵を見る。

 自分を貫いた蔓の上に跳び、それを足場にして一気に駆けだした。

 向かってくる蔓は切り裂き、避ける。

 討ち損じたものも多く、そのたびに体は傷付くが、そんなことはお構いなしに、体を動かし続ける。

 肉体を削られ血まみれになりながらも、気迫と速度と剣には一切のブレがなく、ただひたすら〝攻め〟の一手。

 そしてついに、花の上へと乗りこむことに至り、そこに生えている人の姿の本体を視界に捉えた。

 

「……貴方、頭おかしいって言われない?」

 

 先ほどの攻めも、注意を向ける為に無茶苦茶やったわけではなく、普段の行動の延長線だという事実に気付き、さすがの覚醒者も冷や汗を一滴流す。

 そんな相手の動揺などお構いなしに、レイティアは跳び出した。

 

 今彼女の頭の中には一つのことしか残っていない。

 〝誰よりも速く駆けだす自分〟と、〝首と胴が分離されてる敵〟のイメージ。そのイメージ実現を深く信じ込みながら動いている。

 信じ込むということが強烈な自己暗示となり、理想を実現させる力となる。それがレイティアの持論であるからだ。

 

 ……だが残念ながら、今回はそのイメージが実現することはなかった。

 跳び上がった瞬間。花の中から生えていた食虫植物のようなものがレイティアへ噛みつくように襲う。

 間一髪のところで防ぐことには成功したが、そのまま場外へと押し出させてしまった。

 

「くぅ……!」

 

 そして追い出したレイティアに向かって複数の蔓を展開し、一斉に激しい刺突を繰り出す。

 その攻撃を行いながら、もう一方への警戒も怠っていない。

 未だ迫り寄ってくるアエラに向かって、二つの植物を放つ。植物は大きな口をあけながら、獲物を食らおうとする。

 

 アエラは地面に剣を刺し、〝盾〟を発動。それによって生じた飛び出す土石により、植物の動きを怯ませた。

 その間に覚醒者へ急接近。先ほどのレイティアと同じように花の上に乗りこむため、跳躍した。

 ――しかし、覚醒者の本体が急速に移動したため、不発に終わる。

 

「え!?」

 

 見ると、根の部分が不自然な速度で動き出していた。柔軟に、それでいて力強く一本一本が蠢いている。

 

「別に見たカタチが根っこだからって、そのまま地面に根付いているわけないじゃない。外見に惑わされすぎなのよ――さて、と」

 

 花型の覚醒者は移動しながら蔓を振り回し始める。

 その矛先は他二体の仲間、それらと戦っている戦士たちへと向けられた。

 混戦中にいきなり放たれた上位者の攻撃に誰も対応しきれず、たやすく覚醒者と戦士は分断された。そしてそのまま蔓を器用に使い二体を回収。

 相手が移動したことによって、レイティアへの攻撃は止んだ。だがその姿は決して無事とは言い難く、致命傷こそ負っていないものの、血まみれで片膝をついていた。

 

「っ……レイティア!!」

「はぁ……はぁ……大丈夫だ。五体もどこの欠落してないし、これくらいの傷だったら攻撃型でも回復は可能だ。……だが、それよりも――わかったぞ、お前の正体が……!」

 

 平気とは言いがたいダメージを負いながらも、視線を距離をとった花型の覚醒者へ向けて、反らすことはなかった。

 

 

「貴様は第二世代のNo2――――〝残花〟のオリヴィエか……!」

 

 

 それを聞いて覚醒者は、小さな微笑をこぼした。

 

「え……第二世代って、それじゃあ……」

「最初が男たち。そしてそれらが失敗に終わってその次に作られた存在、つまりは始まりの女の戦士のこと。……ようするに、あいつは女戦士初代(・・)No2ということだ」

 

 その言葉に戦士全員が驚く。

 覚醒者の表情は相変わらず微笑んでおり、その情報が勘違いでもデタラメでもないことを物語っている。

 

「へぇ……! 若いのになかなか博識ね。この私を知っているなんて素晴らしいわ! 貴方なかなか見どころあるわよ」

 

 覚醒者――オリヴィエは上機嫌なことを隠そうともせず、気分が盛り上がっている。

 戦士たちの精神はその正反対で、討伐対象がNo2。それも最初期の作られながらも未だに生き残っているような存在。そんな者が倒すべき敵という事実に戦慄していた。

 

「覚醒した上位ナンバーの記録の大体は把握している。だが覚醒してからのお前の情報は非常に少なく、どの文献にも最低限のことしか載っていなかった。そのせいで正体判明に時間がかかったわけだが……いままで表立った行動など全くなかったのに、なぜ今になって動き出した。お前たちの目的は一体なんだ……?」

 

 その言葉を聞いたとき、オリヴィエの表情が変わる。

 いや、正確に言うと笑ったままだ。……だがその〝笑い〟が、微笑から全くの冷たいものへと変化する。

 そしてその温度のまま、高らかにワラい始めた。

 

 

「目的? そんなことも分からないの? 決まっているでしょう。――――――――今もこの地でふんぞり返っている、あの〝小娘〟を地べたに這いつくばらせるためよ」

 

 

 言うや否や表情から笑みを全て消し去り、今度は強烈な憤怒に顔を歪ませた。

 その怒気に反応するように、全身から強烈な妖気が迸る。

 

「――――そう! あの小娘! まだ年端も行かないような餓鬼! 自分だけさっさと覚醒するような腰抜け!! ……あの目! 常に人を見下して、上っ面だけの敬語を使って! ――あんな餓鬼より私が下? ……ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!! ふざけるな! ふざけるな!!」

 

 冷静を装っていた先ほどまでとは打って変わって、負の感情を前面に押し出している。

 その変わりように戦士たちはおろか、仲間である覚醒者たちも動揺を隠せずにいる。

 

「あいつが私よりも上!? No1!? はっ! 馬鹿馬鹿しい!! 初めて適合に成功した数字持ちの女戦士だかなんだか知らないが、プロトタイプってことで、なにか特別な処置やインチキをやったんだろうよ! そんなくだらないことで私の方が格下!? 昔から誰よりも優れていたこの私が!? 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない! 認めない!!」

 

「ま、待て! まさかお前の目的は――――〝深淵〟を降すことか!? 初代No1〝西のリフル〟を!」

 

 気持ちの高ぶりは収まり、レイティアの方を振り向きニッコリと笑う。……憎悪の感情だけはそのままで、表情だけを形作っていた。

 

「ええ、そうよ。どんな手を使ったのか知らないし非常に腹立しいことだけど、戦闘は向こうの方がちょっっっとだけ上よ? だからこうして手駒を増やしてるの。……それにしてもいい時代ね。覚醒者がたくさん産みでて。おまけに組織も活発になってきたせいで、あの小娘も少し警戒して、逆に行動が読みやすくなってきてるんだもの」

 

 それが理由。

 オリヴィエを動かしているのは身を焦がすような〝嫉妬心〟と、慎重でいて非常に辛抱強い〝冷静さ〟。

 本来だったら相反する二つの感情。これらを巧みに使い、今ここに立っている。

 

 オリヴィエは苦々しく思いながらも、戦闘能力がリフルより下だと理解していた。

 だから待っていた。動くべき時を。千載一遇のチャンスを。

 まず手駒を手に入れなくてはならない。より強くて多くの。そのために今まで静かに暮らし、身をひそめ、期を待った。覚醒者が急増する時代。それも組織が積極的になるレベルの。

 

 それなら覚醒者狩りを凍結していた時期に行えばよかったと思うが……あの時代は文字通り覚醒者たちが好き勝手蔓延ってた時期。警戒心が最も弱かった、とも言える。

 覚醒体になったら、皆大なり小なり我が強くなる。そんな連中に、敵が誰もいないのにも関わらず、群れて力を蓄えろ、なんて言われたところで、頷く者など僅かしかいないだろう。

 

 だからこそ、このタイミング。

 覚醒者の量が増え、組織の覚醒者狩りが積極的になったことで個々の警戒心が強まり、結果、多くの配下を手に入れることに至る。

 No2の覚醒者という肩書と実力があるので、条件さえそろえば難しくない。

 

「……だからね。ものは相談なんだけど――――貴方たち、ちょっと覚醒してくれないかしら? 別にそっちの四人も歓迎するわよ。数撃ちゃ当たるっていうし、私は質よりも量を重視するタイプなの」

「今まで本気で攻撃してたくせによく言う……さっきまで殺す気まんまんだったでしょ」

「あら、最初に仕掛けてきたのはそっちなんだし、迎撃に力を入れるのは当たり前でしょう? それに元々敵だったとか関係ないわ。私は寛大なのよ。一緒にこの地の新たな支配者になりましょう」

 

 実際のところ、完成したオリヴィエの軍勢と西のリフルが対峙したとき、どうなるのかは戦士の誰も想像できてはいない。

 数など関係なしに簡単に全滅させられるのか、それとも拮抗して長引くのか、そのまま予定通りに深淵が倒されるのか……。

 

 だが一つだけ確信していることがある。一度対峙したら間違いなくこの西の地は大きく荒れる。地獄のような巨大な戦火に巻き込まれて。

 最強の覚醒者と、それを倒そうとする大量の覚醒者の争い。

 長引こうがすぐに終わろうが関係ない。始まったらそこで終わり。間違いなく多数の町村が戦いの余波に巻き込まれて、消えてなくなるだろう。最悪、地形も大きく変わることになる。

 

 そこまで考えが至った時、戦士たちの脳内には〝撤退〟という二文字は消えていた。

 オリヴィエが仕掛けだすのはどれぐらいの戦力からなのかは分からない。もしかしたら、明日になれば大量の覚醒者が集い、それら全てがオリヴィエの配下になるのかもしれない。

 軍勢の完成がいつになるのか分からない以上、野放しにしておくのはリスクを高めるだけの危険な行為。

 

 〝ここで仕留めなくてはならない〟

 全員の意思が一致した。

 

「おあいにくだけど、職場がもうあるから間に合ってるの。それに、配下を増やさせはしないし、深淵とも戦わせない……ここで止める」

「そう……じゃあ残念だけど、死ぬしかないわね」

 

 六本足の覚醒者から棘が放たれる。上空に打ち上げ、弧を描くような軌道で、戦士たちの真上から降り注いだ。

 それが合図であったかのように、戦士たちは避けながら、前方へ向かって駆けだした。

 

「当初の予定通りだ! 私とアエラがオリヴィエを相手し、お前らは他二体を頼む」

「頼まれるのはいいけど、お前は大丈夫なのかよ!? 特に左肩なんて感覚あるのか?」

「まぁ、少し反応が鈍いが、動く分まだ平気だろう。……それに、いざとなったら回復しながら戦闘を行えればいい」

「またそんな無茶言って……じゃあ先に私が攻めるから、タイミングはよろしく」

「了解した」

 

 先にアエラが前に出る。

 迫ってくる攻撃を〝盾〟で弾き、レイティアが走り抜けられる隙間を作り出そうとする。

 だが今度は相手もただ迎撃するだけではない。自らも積極的に動き出し、アエラに向かって攻めだした。

 巨躯を素早く動かし、あらゆる方向から様々な手段を使って攻め入る。それは、攻撃態勢に入っていたアエラを、防御に専念せざるに負えなくするには十分だった。

 防御手段も〝盾〟で弾くのみで、〝矛〟を発動させる暇もない。

 

「貴方、結構面白い技使うけど使い勝手はまだまだね。振動を起こすのに少しだけ時間がかかっているし、振動の種類を変えるときも瞬時には切り替えられない。……その前兆とタイミングさえわかれば、予測も対策も容易なのよ」

「くっ!」

 

 まさに八方塞がり。

 オリヴィエの言う通り、切り替えにタイムラグがある以上、下手に変えることは命取りになり、そして攻撃力がない〝盾〟では、防ぐことだけで相手の手数を減らすことは出来ず、この猛攻の前ではただの時間稼ぎにしかならない。いずれ破られるのは目に見えている。

 

 ――――そう、一人だったら(・・・・・・)

 

 その攻撃の横を抜け、妖力を60%ほどに開放したレイティアが、放たれた矢のように駆けていた。

 道を開くという目的は果たせなかったが、動きやすくするという意味では成功している。

 妖力開放に伴い、肉体の修復も最低限行いながら、先ほど以上の速度で突撃。

 すかさず蔓を数本伸ばすが、牽制のような攻撃では、なんの足止めもできない。

 

「ふむ……やっぱりこの子が一番面倒で厄介ね」

 

 するとオリヴィエは、少し攻撃の手を緩め、自身の根全てを地面に沈み込ませた。

 ビキビキビキという妖気の干渉音。そして根に妖力を集中させると、一瞬地面が揺れ、地震が起きる。

 そして次の瞬間。――――オリヴィエを中心に、半径五十メートルほどの大地が破裂し、粉砕した。

 

「なっ!?」

 

 アエラが行った戦法とほぼ同じ。ただし、規模の桁が遥かに違う。

 当然、接近していたレイティアはそれに対応しきれず、大きくバランスを崩してしまう。

 その無防備な姿に蔓が放たれるが、……直撃する前に横から飛んできた岩によって軌道が反らされる。

 飛ばされた方角を見ると、アエラが〝盾〟を使い、オリヴィエが吹き飛ばした土石を逆に弾き返しているのが分かった。

 

 それはほんの少しの時間稼ぎにしかならなかったが、レイティアが再び行動を起こすには十分の時間となる。

 次の手を打たれる前に、レイティアは妖力を足に集中させ、勢いよく蹴り、ひとっ飛びで本体に向かって跳ぶ。

 首を斬り落とそうと奔る大剣。

 

 だが間一髪のところでオリヴィエは首を反らす。今の攻撃は、頬に小さな切り傷を付けるだけに終わった。

 オリヴィエは、レイティアが地面に着地する前に仕留めようとするが、アエラの援護によって阻まれてしまう。

 

「……まったくしつこいわね。力の差は歴然でしょう。さっさと諦めなさいよ」

「可能性があるなら諦めない。それが人間だろう? 少しでも勝率があるんだったら力の限り戦うだけだ」

「ちっ」

 

 

 アエラとレイティアの奮闘にも劣らず、他四人の戦士の気迫も大きかった。

 手負いだが、二体の覚醒者を一桁ナンバーが不在の状態で対処する。それは四人にとって経験したことのない状況だったが、即席の連携ながらもうまく戦えていた。

 

 まず一体を集中攻撃し、その後すぐに間合いから離脱してもう一体の方へ集中する。その時四人のうち二人は、片方の敵の警戒を怠らない。

 一撃離脱のヒット&ウェイ。

 

 さらに言えば、二体とも広範囲における攻撃に特化しているため、この混戦の中、下手に力を入れると同士討ちになりかねない。

 六本足は、体を支える手足の大部分が失っており、四つん這いで使うことを前提とした背中の棘は命中精度が落ちている。ムカデに至っては、実力不足で細かなコントロールが効かない。

 

 攻めきれず、自分たちは消耗するばかり。そんな状態に痺れを切らしたのか、六本足の覚醒者は背中の棘を肥大化させ、上空に向かって全てを撃ち出した。

 直立したまま真上に撃ち出された棘は、時間差で下へと降り注ぐ雨となる。変わらない戦況に一石を投じようとした行動。……だが、それによってもたらされた一瞬の膠着を、戦士たちは見逃さなかった。

 

「今だ! 攻めるぞ!」

 

 四人は一斉に攻勢にでる。

 それを防ごうとムカデが迫るが、シンディーがそれを押し止める。

 最初に仕掛けたのはシャーリー。彼女は残った二本の足のうち左の足を切り落とす。

 だが完全に分離するよりも早く、右足を振るい、戦士に向かって蹴りを放とうとする。

 

 蹴りはローレンに直撃するが、ギリギリのところで大剣を構えてそれをガード。

 残る戦士はクラリッサのみ、しかし、覚醒者の方も手札を全て使い果たし何もできずにいる。

 

 そんな無防備な首に剣を当て、――――勢いよく切り裂いた。

 手ごたえは十分で、首と胴が分かれる様を、その目で見る。

 

「やった……!」

 

 自らの手で敵を仕留めたという実感に、クラリッサは大きな達成感を感じ、自然と表情がほころぶ。

 

 

 

 上から降り注ぐ棘に全身が貫かれるまで、表情は嬉しさに溢れていた。

 

 

 

「――――ぐ、ふっ」

「! クラリッサっ!!」

 

 少し前のレイティアと似た状態。だが、違うのは傷の量と深さ。

 右手は千切れ、左太ももは貫通し、腹部にはレイティアとは比べ物にならないほどの大きな穴が二つ開いていた。

 満足感による気の緩み。それによって打ち上げられてた棘の存在を、一瞬頭から消し去ってしまっていた。

 好機と見たのか、ムカデの覚醒者の動きが大きくなる。

 

「くそっ! シャーリー、頼む!」

 

 シンディーとローレンがその足止めをし、シャーリーがクラリッサを連れて戦線から離脱する。

 クラリッサは防御型だが、身に受けた傷はどう見ても致命傷。生存は絶望的だ。

 それでもシャーリーは動く。彼女は死にかけている仲間を見捨てるほど、非常にはなり切れなかった。なにか方法はないのかと、走りながら考えを巡らせている。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ビキ、ビキビキ。

 

 空気の乱れには誰も気付かない。

 




アガサってNo2覚醒者なのにアッサリ負けてよく弱い弱い言われてるけど
No1相当が二人、一桁上位レベルが二人、一桁下位レベルが三人、の計7人という大戦力相手だったわけで
そりゃすぐに蒸発しますよ
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