三つの軌跡   作:大猫子猫

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この作品初めての連日投稿

レア中のレアなので今後あまり期待はしないでください


仮初の希望

 ビキビキビキビキ――――。

 

 音が鳴る。空気が濁む。そして軋ませていく人の精神。

 その中心の人物は…………。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ…………っ! ガ、ああぁ!!」

 

 その瞬間、ローレンは目を見開き、眼を金色に輝かせ、血管が浮き出てくる。

 周囲の反応は様々、驚愕しているか、呆けているか、つまらなそうに見ているか。その中でもオリヴィエだけは興味深そうに観察していた。そして私は――――。

 荒々しく鳴り響く妖気の干渉音。そしてそれに伴い上昇していく、ローレンの妖気と筋肉と外骨格。

 明らかに少しずつではあるが、妖力を開放していっている。戦闘のためにではなく、回復のためでもない、ただ純粋に力の開放。

 そしてそれを見てオリヴィエは嬉しそうに笑みを深くしていく。

 

「まあまあ、第二号さんは貴方かしら? これで二人目、今日は大量ね」

 

 ローレンの妖力はどんどん大きくなり、顔つきだけではなく、すでに体格が大きく膨らむ前兆まで見せていた。

 

 そして全身が巨体へと変貌する直後――妖力の開放率が50%を超えたあたりで私はローレンの背後へと移動し、剣を構えた。

 

「あら? 解放前に首でも跳ねるのかしら?」

 

 オリヴィエがつぶやき、何やら行動に移そうとしているが、もう遅い。

 その瞬間、ローレンは強く地面を蹴り前方へと跳ぶ。

 

 

 

 そして私は逃がすまいと剣を奔らせ――――――――ローレンに向かって〝盾〟を発動した。

 

 

 

「!?」

 

 まるで渾身を込めて引き放たれる矢のように、ローレンは急激な勢いで一直線へと飛び立つ。

 クラリッサが目を見開く、仲間になると見込んでいたのに、逆に脅威となって迫ってきているのだから当たり前だろう。

 剣を構えながら、50%を超える妖力の上昇のよる身体能力の向上、それに〝盾〟に弾かれたことによって推進力がさらに上がり、今までのローレンとは比べ物にならない速度でクラリッサに向かってきている。

 

「はあああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

「くっ!」

 

 予想外の行動と鬼気迫るローレンの声によって、クラリッサの動きが一瞬鈍るが、すぐに慌てて攻撃を開始。――――だが。

 

 ザシュ!

 

「! があっ、ぐっふ!」

「ぐ! ……ふ、ふふ」

 

 ローレンの剣はクラリッサの大きな首に、深々と突き刺さり、そしてローレンもクラリッサの髪によって全身を貫かれているが、両者の表情は対比的となっている。

 力を失ったかのようにクレイモアから手を放し、妖気も段々と小さくなってきているが、ローレンは血を吐きながらも満足げで、クラリッサはただただ苦悶に歪めている

 

「なに? 一体何が――――っ!? ちっ!」

 

 クラリッサのちょうど後方にいたことにより、クラリッサの肉体が死角となってオリヴィエは認識を遅れている。だがしっかりと確認させる前に、レイティアが前へと飛び出し、オリヴィエと交戦を再開した。

 一瞬の隙を突いたことで決して無視できない距離まで潜り込み、先ほどと同じように決死の攻めで無視出来ない一撃を送り続ける。

 

「くっそ、さっきから邪魔臭い! もういい、勿体ないけどあんたは死ね」

 

 イラつきからオリヴィエの方も迎撃に本気になり、クラリッサへの意識を薄める。必然的に他への関心も薄くなり、レイティアの命がけの猛攻によって、自らの動きが制限されていることに気付かなくなる

 その意識の合間を縫って――――私は跳んだ。

 

「!!」

 

 私の目に、喉を貫かれ苦しげにし、そしてさらに目を見開いたクラリッサの顔が映る。

 そしてその喉元に深く刺さっているクレイモアに向けて、さらに強く妖力を込めた〝盾〟を放った。

 

「ごっ! ……が、ひゅっ」

 

 もはや断末魔すらまともに上げることのできないくなっている。

 力を込めて弾かれた剣は、クラリッサの喉元を完全に貫通。その衝撃に肉体が耐えきれなかったようで首には大きな穴ができ、辛うじて外皮で頭と胴体が繋がっているような状態となった。当然力も大きく弱まり、髪に貫かれたままのローレンも、その拘束力が完全になくなり解放された。…………そして弾き飛ばされたクレイモアは――――。

 

「え? ――ッ!? ぐっ、がは!」

 

 そのまま花から生えているオリヴィエの上半身、その右腹部へと強く突き刺さった。

 本来であれば当たるはずのない一撃。あらゆる攻撃手段と強者としての勘と警戒心によって、近づくことさえできなかっただろう。しかし、意識を一つに集中させ、程よい場所へと誘された状態。そんな中で完全に死角から放たれた一撃は、いとも簡単に懐への侵入を許してしまっていた。

 与えることのできた大きなダメージ。その好機を失わないよう、私もオリヴィエに向かって走り出す。それに合わせる様に強い殺意と蔓を私に向かって放ってきた。

 

「こ、んの、ガキ共がああああぁぁ!!!」

 

 完全に本気となり、攻撃の熾烈さは何段も増してきた。しかし、今与えたダメージの影響は大きいらしく、少しずつだが動きに鈍さも感じられる。

 相手に攻撃を与えるたびにそれ以上の傷を受けてしまうが、……着実に相手を消耗させていることは実感できた。

 

「オリヴィエ! ……ちっ、調子乗ってんじゃねーぞてめぇら!」

 

 ムカデの声が聞こえ、私は内心舌打ちをした。

 このオリヴィエとの相手に手一杯の状態で、手負いで下位とはいえ他の覚醒者に混ざられるのはまずい。それを防ぐにはどちらか片方が今の戦線を抜けてムカデの相手をしなくてはならないが、二人でギリギリの状態で片方が抜けられたらどうなるのか分かったものじゃない。

 

 混戦に持ち込ませるか、一対一の構図にするか、私が判断に迷いながら警戒のために一瞬目をムカデに向けると……その光景を続いて聞こえてくる声によって、その問題が杞憂に終わることに気付かされた。

 

「なっ! てめぇらなんでっ!?」

「……あいつらが頑張っているのによ、私らだけ呑気に寝てられるかってんだ」

「そういうことです。さて、瀕死は瀕死同士仲良くしましょう」

 

 先ほどまで血まみれで気を失っていたはずの二人が、剣を構え、走り、ムカデと戦っていた。

 私はその光景を見て、なんだか無性に嬉しくなり、気付かないうちに顔に笑みを浮かべている。本来であれば心配や無茶な行動を叱咤すべきなのだろうが、それを遥かに超える想いが湧き出てくる。

 

 自分の立てた作戦をレイティアとローレン(二人)は命懸けで遂行してくれ、動けないはずの重症だったシンディーとシャーリー(二人)は命懸けで助けてくれた。その事実は絶望してた胸を温かくさせ、やる気を非常に高まらし、勝利への欲求がどこまでも強くなってくる。

 

「甘く見ているなよ小娘共っっ!!!!」

 

 オリヴィエの根っこが地面を割りながら、地中深くから迫りくる。

 もはや回避や逃げの一手を頭から消して、攻撃が当たる前にオリヴィエに向かって跳び出した。

 空中では大きな動きはできない。全ての攻撃を〝矛〟で斬り落としながら突き進む。無論全てを防ぐことはできず、傷跡がいくつもでき、血も多く流れているが、それぐらいでは今の私は止まる気がしなかった。そのことに気付き、まるでレイティアみたいだと苦笑する。

 その勢いのまま、花弁の上へ到着。迫る蔓を払いながらその中心にいるオリヴィエの本体へと足を動かそうとする……だけど。

 

「え!?」

 

 足は力を込めてもピクリと動かない。咄嗟に足元を見ると、複数の蔓によって両足を縛り付けられていた。

 急いで剣を振るって蔓を切断し、拘束から脱する。しかし顔を見上げると食虫植物のような部位が私の目の前で大きな口を開いていた。

 

「……獲ったっ!」

 

 その後ろでニヤリと笑うオリヴィエの光景が目に映る。剣を振るおうにも物理的に間に合わない。それよりも早く私の頭を飲み込まんと、涎まみれの口が目前に迫っていた。

 

 

 ――――――――ダシュッ。

 

 

「!?」

 

 オリヴィエが驚愕し目を見開く。そしてそれは私も同じだ。……一体何が起こったのか。

 何があったのかは分からない。分かるのは私を確実に殺さんとする一撃、それが何かによって弾き飛ばされた(・・・・・・・・・・・・・)ということだけだ。

 正体不明の謎の現象、それによって私たちは互いに一瞬呆けていたがすぐに慌てて攻撃を再開する。

 しかし、オリヴィエが次の行動をとる前に、全ての食虫植物がレイティアによって切断されていた。

 

「ぐっ!」

 

 そのまま首を落とそうとするが、蔓を展開して防がれる。しかしそのまま離れようとはせず、側面へ移動して再度食らいつく。

 攻守が完全に逆転した流れ。自らの肉体の上へと滞在することを許し、攻撃手段の一部を失いながら、私たち二人を相手どることに苦悩の表情を見せていた。

 

「くそっ! くそっ! くそっ!」

 

 不意にオリヴィエは本体と思われる上半身を屈める。そのまますっぽりと花の中へと沈んでいき、代わりに人間大の球根のようなものが生え出てきた。

 球根は急激に膨らみだし、そして巨大な種を私に向かって飛び放つ。

 明らかに大きな威力と速度、それに伴い今までになかった新しい攻撃で予測が経てずらい。先ほどまでの私だったら直撃し、致命傷を負った可能性も有り得る。

 

 ……だけど今の私には脅威にならない。体調は最悪に近いが精神は最高に近い。種が放たれた瞬間に体が勝手に動き、左へと全身を捻ってそれを回避した。奥の手と思われたその攻撃は悪いが食らってはやれない。

 

 その時一瞬だけ視界に向こうの戦闘が映る。それは、二人によってムカデの頭部が切断されている光景だった。……残念、先を越されたか。

 体制を崩さないよう、勢いだけをそのままに前進。そして跳躍し、剣を上段に構えありったけの力を込めて〝矛〟の振動を起こす。それに合わせてレイティアが球根を横に切断した。

 

「――――行け、アエラ」

 

 その掛け声とともに下へと落ち。クレイモアを花の中心部分へめがけて振り下ろした。

 キュイーンと小気味いい音を鳴らしながらオリヴィエの肉体は裂け続け、そのまま一刀両断。別れた身体は、そのまま地面へと崩れ落ちる。

 

 引き起こされた大きな音と大地の揺れは、全ての終わりを派手に知らせてくれた。

 

 

 

     ◇◇◇

 

 

 

「ローレン、大丈夫?」

「はぁ……はぁ……ああ、生きてるよ」

 

 倒れたローレンへと駆け寄り安否を確認するが、思ったよりも元気そうで安心した。

 

「ほら、クレイモア返すわ。……それにしても無茶するわね、一歩間違えれば何も出来ずに即死だったんだから。私が意図に気付かない可能性だってあったんだし」

「敵を欺くにはまず味方から、だろ? 元々耳が良いんだ。盗み聞きについては大目に見てくれ。……それにあの作戦には陽動役が不可欠だったからな。その適任がレイティアな以上、捨て駒役は防御型でありナンバーも低い私で十分だ。それに仇を討つと意気込んでいても実際は何も出来ていなかったからな。例え最後になったとしても大役を演じられて本望だったよ。礼を言う」

「……礼を言うのはこちらの方だよ。ありがとうローレン、私を信じてくれて」

 

 互いに笑って称え合う。……彼女には本当に感謝している。多分だけど今回皆が生き残ることが出来たのはローレンのおかげだと思うから。

 

「……まぁ、まだまだ未熟な点もあったがな、特にまだ妖力開放の感覚がうまく掴めていなく、そのせいで非常にゆっくりで時間をかけて行うのが精いっぱいだった。おかげでダメージ以上に精神の疲労が途轍もない。……悪いが少し休みたいがいいか?」

「分かった。じゃあ帰りは運んであげるから今はお休み」

「すまないな……お言葉に甘えさせてもらう」

 

 そうしてローレンはすぐに眠りに着く。寝付きが良すぎだと思わず笑うが、今回ばかりは大目に見てやろう。

 寝付いたローレンから目を離し、後ろを振り返ってオリヴィエの残骸を見る。

 無残にも崩れ去ったソレは身動き一つせず、完全に沈黙している。……しかし、私は何か妙な違和感を感じていた。

 言葉にはしずらいが、もやっとしてどこか気持ちの悪い。何かを勘違いしているような、そんな感覚。

 最後の一撃。確かに真っ二つに切り裂き、手応えも確かに感じていた。でも……何か奇妙な触感が手のひらに残っている。

 

 ……なんというか、そう、あれはまるで、私が攻撃をする前にすでに死んでいたような――――。

 

「おーい、アエラー!」

 

 呼ばれる声が聞こえ、その方向へと首を回す。レイティアとシャーリーと共に何か話していたシンディーが駆け寄ってきた。

 

「二人と相談したんだがよ。やっぱ一旦帰った方が良いんじゃないかと思うんだ。確かにオリヴィエは倒したが、まだ強い男の覚醒者とやらが残ってるんだろ? 仲間がやられて黙ってるとも思えねーし、そいつが帰ってくる前にさっさとズラかろうぜ。」

 

 その提案に私も頷く。

 そう、厳密にはまだ終わってはいない。まだ敵の一団の片割れが残っているのだから。

 

「うん、私も同意見。少なくともいつまでもこんな場所に留まっているメリットはないし、増援要求なり帰還なり、早いとこしちゃいましょ」

「よし、そうとくればとっとと帰ろうぜ。……なあに、リーダー格の一体を倒したんだ。戦果としては上々。組織も文句は言わねーだろうよ」

「……あ、ちょっと待って、やり残したこと思い出したから、それだけ済ませてくる」

「あ? なんだそりゃ、一体何を――――ああ、そうか……分かった、少しだけ待ってる」

 

 私は踵を返し、一つの残骸へと足を運ぶ。

 ……いや、正確には残骸ではない。首が砕け、頭と肉体がほぼ分離している。彼女(・・)はこうなりながらも、辛うじて生きていた。

 

 

「…………はしゅー…………はしゅー…………はしゅー…………」

 

 

 聞いていて痛々しくなるような呼吸をしながら、クラリッサはそこにいる。

 

 

「はしゅー…………はしゅー……お願い、助けて……死にたくないの」

 

 

 呼吸音に交じって苦し気な懇願が混じる。私は無意識のうちに唇を噛みしめていた。

 

 

「ねぇ、お願い……このままじゃ死んじゃう……痛い、全身が痛い……死んじゃうくらいに痛いの…………死にたくない、助けて……」

 

 

 死への恐怖。

 誰しもが持っているそれを、彼女は常人よりも重く深く持っていたのだろう。こんなあまりにも弱々しい姿を見ると、そう認識してしまう。

 仕方ないとは思う。どうしようもないと分かっている。

 高々数日前に顔を初めて見たような仲だ。これといった共通する趣向も見当たらず性格も合ったわけではない。そんな程度で内面の奥底まで理解するのは不可能だ。だけど――。

 

 ……私は近くに落ちていたクラリッサの剣を取り、顔に向かって突き立てている。

 

 

「いや、助けて…………死にたくない……死にたくない……死にたくない……死にたくない……死にたくない……死にたくない……死にたくない……死にたくない……死にたくない……死にたく――――」

 

「……ごめんね」

 

 

 言葉を遮り、震えた手を誤魔化すように剣を突き下ろす。

 ……声はもう聞こえなくなっていた。

 私は剣を抜くことはせず、そのまま亡骸に一瞥もせずに皆のところへと向かう。

 仲間を殺したことへの罪悪感か、六人いたはずの一人が消えた喪失感か、覚醒してしまったことに対する怒りと悲しみか。……なんにせよ、私はクラリッサに顔を向ける勇気が少しも出てこなかった。

 

「……終わったか」

「ええ……終わった」

 

 レイティアはそれ以上は何も言わずに寝ているローレンを背負う。積んできた場数の違いか、飛躍的冷静そうに見えた。

 

「……帰るぞ。他にやり残したことはないか」

「問題ないわ。早く戻りましょう」

 

 私たちは全員疲れ果てている。大きなダメージと精神的疲労。さらに周囲には覚醒者の死骸が大量にあることが加算し、例えるなら死臭のする妖気が大気中にまとわりついているように感じる。

 無論、気のせいだと言われればそこまでだが、人間精神が弱くなると病気にかかるってしまうのと同じで、なんだかさっきから妖気が感じ取りにくくなり気持ちも悪い。衛生管理上の問題でも、早くここから退散した方が良いのかもしれない。

 

 ――この時、すぐにそれに気付けば、なにかが変わっていたのかもしれない。環境と疲労困憊により鈍り切った妖気探知。それの重大性を懸念していたツケはあっという間に訪れた。

 

「よし、とりあえず下山して一番近くの町へ――――っ!!」

 

 レイティアが急に振り返る。その表情から察するにただ事ではなく、私も顔をそちらに向けながら、不安定になりながらも妖気感知を集中させる。――――そして気付いてしまう。

 

 

 森の中から巨体を動かしながら、そいつは現れた。

 

「がへっ? なんだ、おまえら?」

 

 

 地響きと共に出現したのは巨人と呼べるような大きな人型の新たな覚醒者。それも男。

 飛躍的シンプルな見た目で、後頭部や腕の関節部分からは鉄柱のようなものがいくつか伸びている。

 そして妖気。意識を集中させると分かるが、なぜ 今まで気付かなかったのか不思議なほど巨大で。明らかに――オリヴィエに匹敵する大きさだ。

 まさか、こいつがオリヴィエの仲間か。ローレンの意識がない以上確認は盗れないが、この妖気の大きさと今のタイミングでの登場。無関係とは到底思えない。

 

「んが……おりゔぃえみつけたとおもってせっかくきたのに、どこにもいねーじゃねーか。どこににげたんだあいつ」

 

 男はキョロキョロと周囲を見渡す。少なくとも今この段階で明確な敵意を我々には向けていないようだ。……が。

 

「しょーがねーな。めんどうだけど、こいつらにでもきくか」

 

 男の視線がこちらへと向ける。私はそれを見た途端に男に向かって走り出した。

 

「っ! アエラ!!」

「皆は行って! 私は殿役を務めるから!」

「な!? 死ぬ気かお前!」

「大丈夫、私は死にたがりなんかじゃないから。そんなに心配なら急いで行って急いで救援でも頼んでよ」

 

 精一杯の虚勢を張りながら男と対峙する。……実際のところああ言ったが、うまく生き残れるビジョンがあまり浮かばない。

 

「なんだ? にげるのか? にげれるわけねーだろう、がっ!」

 

 男は口を開く。そしてその口の中から大きな鉄柱を飛ばしてきた。

 私は跳躍し〝盾〟を発動、鉄柱がレイティアたちにぶつかる前に弾き飛ばす。

 

「ぐ……!」

 

 弾けたのは良いものの、先の戦いで得たダメージが大きく、腕が悲鳴を上げていた。……そしてそれ以上に鉄柱の威力が予想より遥かに高い。正直今の私が連続で防ぐのは厳しい。

 

「はあ……はあ……早く、行って!」

「っ! ……後で必ず戻って来る」

 

 何とも心強い言葉を残しながら、皆は私に背を向けて去っていく。

 全く……柄じゃないことをする。本来私には責任感なって物は全くない。指揮能力も統率力もないし、誰かの命を背負い込むなんて大層な役回りはごめんだ。

 だけど、先ほどの戦闘の余韻が抜け切れていないのか、こんな身代わりのようなことをやっている。自分自身に呆れ果てる。今でも『なにをやってるんだ』と自分を罵っている。

 でもまぁ、やってしまったものはしょうがないし、今更取り消すこともできない。後は役目をできるだけこなして、なるべく生き残れる道を探そう。

 

 男の覚醒者がレイティアたちに向かって走り出す。それほど速度は無いように思えるが、手負いの彼女たちよりはどう見ても速い。私はすぐさま〝盾〟を使って地面を弾く。その反動によって男の前へと移動した。

 

「んな!?」

 

 いきなり現れたので驚いたのか、声を荒げる。私はそれを無視して振動を〝矛〟に切り替え、無防備な腹に向かって放った。

 完璧に不意を突いた一撃。万全の状態に比べると大きく性能は劣っているが、切れ味は通常の何倍も増幅している。倒せないまでも幾らかのダメージを与えることが出来ると確信していた。

 

(――よし!)

 

 剣先は敵の腹部へと直撃し、確かな手ごたえも感じる。敵の状態によって次の判断を下そうと思い、斬りつけた直後に相手を見上げる。

 ……しかし男を見た時、それが甘い幻想だというのを思い知らされることとなった。

 

「いでででで! なにしやがるんだてめぇ、いてえじゃねーかくそが!」

 

 ――相手は殆ど無傷の状態でそこに立っていた。

 

「な!?」

 

 斬ったと思われるあとは存在している。だがそれは外皮に付いている軌道の後だけ。イメージしていた肉が抉られ鮮血している描写はどこにもなかった。

 あり得ない。いくら弱っているとはいえ、少し押しただけでも大木を切り落とすことが出来る程度の威力はあったはずだ。

 

「くそ、おまえのせいでほかのやつらににげられちまったじゃねーか。ちょうしこいてんじゃねーぞぼけ」

 

 奴の纏っている妖気が目に見えて上昇する。それと同時に奴の両手の指に小型の鉄柱を生やす。

 

「おらよっ!」

 

 それらを私に向かって撃ち出してきた。先ほどの巨大な鉄柱よりも威力は落ちているが、圧倒的な連射性で襲ってくる。

 向かってくるのは初めの十本だけではない。撃ち出しては生やし撃ち出しては生やしを繰り返し、まるで豪雨のように絶え間なく降り注ぐ。

 私はそれらを〝盾〟を使い防いでいるものの、もはや限界に近く、腕の感覚もすでにない。

 

「うひゃひゃひゃひゃ。いつまでたえられっかな」

 

 ……まずい。これは本当にまずい。

 機動力こそ弱いが、それを補って有り余るほどの肉体の硬度と攻撃力。利点である速度すら万全の状態ではない今、このようなパワータイプ相手にとれる対処法はない。

 

「ぐっ!」

 

 防ぎ損ねた鉄柱の一本が左肩に直撃、その痛みに気をとられていると、続けて右足にも当たってしまった。連続して聞こえてくる骨が砕ける鈍い音。私は二撃目の衝撃により、吹き飛び地面に激突する。

 

「がへへ、あたったあたった。つぎはどこつぶそうかなー」

 

 下卑た笑みを浮かべながらこっちに寄って来る。どうやら私をいたぶることに快感を覚えたようで、当初の目的は隅に追いやっているみたいだ。

 この時点で目的の一つは達成したと思っていいだろう。レイティアたちのことを意識から外し、追跡の心配はなくなっている。責任感という面倒な肩の荷が下りた今。後は私が私を生かすためだけに全身全霊を注げばいい。……だけど、その決断はどうやらもう遅いようだ。

 片腕と片足が使えず、地面を這いながらでしか移動ができない。そんな弱々しい姿を見て、敵が同情が湧いてくることなどなく、むしろ喜びながら近づいてくる。

 

「さーて、すこしおもいっきりいくからしぬきでかわせよー。かんたんにしんだらつまんねーからな、がんばっていきろよ」

 

 覚醒者は拳を握りしめ、思いっ切り振り下ろす。

 その時だけ時間が止まったかのようにはっきりと認識することができ、死に物狂いで身体に力を入れる。

 その結果、間一髪直撃こそ回避できたが――大きく割れる地面。降り注ぐ土砂。変わっていく地形。

 

 最後に確認できた状況は、そんな暴力的な景色と、土砂に交じって宙に浮かんでいる肉体の感覚であった。

 

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