中学校二年生の最後のことだった。
「………」
家の付近に存在する廃ビルがあった。
嫌なことがあればその屋上に行って夕日を眺めることが多々ある。
都会の街並み、犇めき合うビルの間に沈んでいく夕日を見るのがとても好きで…。
今もまた、屋上の格子に寄りかかり、手元の紙をぼんやり眺めた。
中学生の生活二年生を終えるにあたって最後のテストとなる三学期期末テスト。
今日はその結果が返ってくる日、
の筈だった。
僕、――潮田渚のもとに届いたのはテストの結果などではなく、
"E組への移行をお知らせします。"
そう書かれた通知書だった。
学校のクラスメイト曰く、
「E組なんかに落ちるぐらいなら、死んだほうがいい」
「E組になったらまともな人生は歩めない」
らしい。
僕らの通う高校は偏差値71の名門中学、椚ヶ丘中学校。
A~Dまでクラスのあるこの中学校だが、
本校舎から離れた森の中に、一つだけ古い校舎が建っていた。
その校舎に存在する一つだけのクラスを、本校舎のみんなはこう呼ぶ。
――――エンドのE組。
学校の勉強に付いていけなくなった生徒、
素行が悪い生徒、
何か問題を起こした生徒は担任によって容赦なく押し込まれる。
E組におとされた生徒は、A~D組の生徒に後ろ指をさされ、馬鹿にされ、罵倒されながら学校生活を送るしかない。
元のクラスに戻るなら、とても良い成績をとるほかない。
そんな、絶望の溢れるクラス。
「…あーあ、僕も遂に、か」
どこか、予想はしていたのだ。
だって最近は何もしたくなくて、
やる気になれなくて、
職員室で僕を馬鹿にしたように笑う先生の顔が頭から離れない。
仲の良かった友人たちが驚いた顔をした後、
なぜか安心したような、それでいて馬鹿にしたような顔をしたあの瞬間が頭から離れない。
「……」
なんだか胸のあたりが苦しくなって、腹いせに通知書を飛行機に折る。
沈みゆく夕日を見つめながら、僕は空に向かってそっと紙飛行機を離した。
紙飛行機は遠くに飛んでいく。
紙飛行機が見なくなったところで、首元のマフラーをたくし上げ、
重い腰を上げた。
(三年生は、今までと違う日常になりそうだな…)
* * * * *
薄暗くなった帰路を歩く。
実を言うと家に帰ることがいつもに比べ、とても億劫に感じられていた。
もともと僕に風当たりの強い母が僕から「E組に落ちた」という報告を聞いて平然としているわけがない。
適当に歩きながらどうしようかと考える。
あまり遅くに出歩いていても警察に補導されるだけだろうし、
だからといって匿ってくれるような友人は今日全て消えた。
(どうしよう…)
とりあえず近くのコンビニに寄って、あったかい飲み物でも買おう。
―――――どんっ
「わ…ぁっ」
「っ、すまない、大丈夫か?」
誰かにぶつかってしまい、こけそうになったが、相手が支えてくれたので転倒はんとか阻止された。
「す、すみません!!」
「…いや、こちらの不注意だった」
低く、けれど心地の良い声に相手を見上げる。
相手の目を見た瞬間、トクリと心臓が跳ねた。
(なんて、まっすぐな目をしているのだろう)
黒いスーツに逆立った黒い髪。
男の僕から見ても整っていると感じる彼の顔。
そこに在るとても強い瞳に、思わず感嘆の声が漏れた。
「?どうした、どこか悪いのか?」
「っ、い、いえ、ごめんなさい。
あの、もう、大丈夫なので…」
「ああ、すまない」
脇に入れられた手を抜かれ、安堵する。
もう一度見上げた彼は、何か急ぐように「失礼する」とだけ言って走り去ってしまった。
「あ…」
すぐに人ごみに紛れてしまったので後を追うことはできなかったが、
いつかちゃんと会えたらお礼を言おう。
なぜか、またどこかで会える気がした。
次回は早速E組へ昇進です。
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