魔眼を持った少年   作:ハンモック

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三限目 カルマの時間

「「「「「1、2、3、4、5…!!」」」」」

 

体育の時間、僕らはナイフの素振りを練習していた。

殺先生の授業は至って普通の体育だったが、今僕らの体育の監督をしているのは殺先生ではない。

 

防衛省の、烏間さんだ。

 

いや、今は烏間先生と呼ぶべきだろうか。

烏間先生は前日から僕らの体育の先生を担当することになった。

理由は僕らの暗殺力増加といったところか…。

素振りをしながら、前日のことが頭に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも通りの休み時間。

殺先生は裏庭でかき氷を作っていた。

わざわざ北極から仕入れてきた本場のかき氷だ。

そして、そこを狙う六人の生徒が居た。

暗殺にいそしむ僕らにとって、どんな隙であろうと狙うのが常識だ。

 

その男女六人の生徒、―――磯貝君、前原君、三村君、片岡さん、矢田さん、岡野さんは、懐に忍ばせたナイフを確認し、目で合図を送りあう。

それぞれが準備万端だとわかると、一斉に物陰から飛び出した。

 

「先生!俺らにもそのかき氷、食わせてくれよ!!」

 

それに気付いた先生は涙ぐむ。

ああ、ついに生徒が自分に心を開いてくれたのか、と。

その瞬間、彼らがナイフを取り出し一斉に飛び掛かる。

それがわかっていたかのように、殺先生は動くが早いか…派手に風を巻き上げながらマッハ20で移動した。

 

「笑顔が少々わざとらしい。油断させるには足りませんね」

 

言いながら、先生は手元の布を地面に落とす。

 

 

「こんな危ない対先生用ナイフは置いておいて…」

 

 

いつの間に取ったのか、先生の落とした布に、彼らのナイフはくるまれていた。

そして―――――、

 

 

「花でも愛でていい笑顔から学んでください?」

 

 

ナイフを持っていた生徒の手には、とても素敵なチューリップが…。

 

って、あれって…

 

 

「!?っていうか殺先生!!この花クラスの皆で育てた花じゃないですか!!!」

 

「にゅやっ!?」

 

 

やっぱり…。

思いながら花壇を見れば、そこに在ったのは無数のクレーターで、綺麗に咲き誇っていたはずのチューリップは消えてしまっている。

あーあ、なんてことを…

殺先生に視線を戻せば、案の定女子から凄い非難を受けていた。

お詫びにと花壇に新しく球根を植えている先生を見ながらメモを取る。

 

 

先生は、カッコをつけるとボロが出る―――、と。

 

 

「渚!」

 

「ん?」

 

「何メモ取ってるの?」

 

「先生の弱点を、書き留めておこうと思ってさ…そのうち、暗殺のヒントになるかと思って…」

 

「ふぅーん?」

 

メモを覗き込んだ茅野に、「その弱点役に立つの?」と聞かれて返事のしようがなかった。

や、役に立つ日があるかもしれないじゃん…

なんと返答するか考えあぐねていると、誰かにメモを取られた。

視線を上げれば杉野がさわやかな笑顔で立っている。

 

「なーに言ってんだよ!役に立つかもしれないだろ?」

 

ページを捲った杉野は、僕がメモした先生のことを読み上げるが、顔がだんだんと苦くなってくる。ついには「なにこれ」と真顔で言われる始末だ。

 

ほっといてよ!!

 

そうこうしていると、なんだかとても嬉しそうな顔をした磯貝君が、「渚!」とこちらに駆け寄ってきた。

 

「どうしたの?磯貝君」

 

「先生がチューリップ引っこ抜いたお詫びにハンディキャップ暗殺大会させてくれるんだってさ!!」

 

 

え?

 

聞き返す前にお前らも校舎から武器持って来いよ!なんて言って走って行ってしまう。

茅野も、私も行ってくるなんて走って行ってしまうし…

とりあえず、どうしようもなくなったので一体何が起こったのかと僕は殺先生のもとへ向かった。

 

 

 

正直、木の枝に吊るされて攻撃されようと殺先生は早かった。

下からみんなが攻撃するも、ものすごい速さで避けきっている。

呆気にとられながらそれを見ていると、茅野が自家製の槍をもってこちらに来ていた。

その後ろには烏間さんが立っている。

今日はいったいどうしたのだろう。

 

「どう?渚…」

 

「う、うん…完全に舐められてる…」

 

「これは最早暗殺と呼べるのか…?」

 

冷や汗をかく烏間さんに苦笑しながら僕はあることを思い出した。

つい先ほどもそうだったが…

 

「殺先生の弱点からすると…」

 

 

―――――カッコを付けると、ボロが出る。

 

 

その瞬間、先生が吊るされていた木の枝が折れた。

 

一瞬の沈黙の後、一気に慌てだした先生に生徒が次々と襲い掛かる。

茅野が横で苦笑しながら、「弱点メモ、役にたつかも…」と呟いていたが確かにそうかもしれない。

 

「そういえば、烏間さんはなんでここに?」

 

「ああ、俺も今日からここで先生をすることになった。

改めて、体育担当の烏間だ。よろしく頼む」

 

「あ、はい。僕は潮田渚です。よろしくお願いします」

 

「渚君か、君と会うのは三回目だな。」

 

三回?

先生が学校に来たのは二回だったはずだが…・

首をひねったところでそういえば、と思い出す。

いつぞやのぶつかった男性。あれは烏間さんだった。

覚えてたのか…

そう問いかければ「いや、言うタイミングが無くてな…」と少し落ち込みながら答えられた。

責めてるわけじゃないですよ、と返せばそうか、とだけ返ってくる。

この先生とはうまくやっていけそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな感じで僕らを鍛えようと烏間先生はここにいる。

やっぱり、いつまでたっても烏間先生のあのまっすぐな目は変わることがなかった。

 

「八方向から、ナイフを正しく振れるように!」

 

皆で掛け声を上げながらナイフを振る。

なんて異常な日常…。

 

真面目に素振りをしていると、殺先生と烏間先生の会話が耳に入ってきた。

 

「体育は今日から俺の受け持ちだ」

「ちょっと寂しいですね…」

「この時間はどっかに行ってろと言っただろう。そこの砂場で遊んでろ」

 

言われたとおりに砂場に行く殺先生ってどうなんだろう。

 

「うぅ、酷いですよ、烏間先生。私の体育は、生徒から評判良かったのに…」

「嘘つけよ、殺先生身体能力が違いすぎんだよ」

 

殺先生の言葉に、思わずといった感じで菅谷君が声を上げた。

周りの皆もあきれたように動きを止める。

 

菅谷君の言い分に、そういえば、といつぞやの体育の時間を思い出した。

あれは確か反復横飛びをするとき、見本の先生があまりの速さでするものだから、皆できるか!とブーイングを付けていたっけな…

 

「体育は人間の先生に教わりたいわ…」

 

杉野の言葉が決定打になったか、先生の落ち込みようはすごい。

 

 

「よし、授業を続けるぞ」

 

「でも烏間先生…こんな訓練意味あるんすか?しかも、堂々とターゲットが居る前でさぁ」

 

疑問の声を上げたのは前原君だが、それは至極当然な質問なので止めるものは誰もいない。

先生は一度瞬きした後口を開いた。

 

「勉強も暗殺も同じことだ。基礎は身に着けるほど役立つ。磯貝君、前原君、前へ」

 

唐突に呼ばれた二人は戸惑いながらも前へ出る。

 

「そのナイフを俺に当ててみろ」

「えっ、い、良いんですか?」

「二人、がかりで?」

「そのナイフなら、俺たち人間に怪我はない。掠りもすれば、今日の授業は終わりでいい」

動くが早いか、磯貝君は眼を鋭くさせると真っ先に飛び掛かる。

体を反転させて避けた烏間先生のその後ろから今度は前原君が襲い掛かる。

烏間先生はそれを受け流しながら口を開いた。

 

「このように、多少の心得があれば、素人二人のナイフぐらいは俺でも捌ける」

 

その言葉にカチンときたのか、同時に襲い掛かる二人を何食わぬ顔で受け倒しながら、烏間先生は言葉を続ける。

 

「俺に当てられないようでは、マッハ20で動くような怪物に当てられる確率は皆無だろう」

 

確かにその通りだ。

けれどあの二人はこのクラスでも運動神経はいい方。

そんな二人が当てられない、ましてや捌かれるほどならば、このクラスで先生にナイフを当てられる者なんてまず居ない。

 

「見ろ!今の行動の間に奴は、砂場に大阪城を作ったうえに、着替えて茶まで点てている」

 

 

なんで!?

 

 

「クラス全員が、俺に当てられるようになれば少なくとも暗殺の成功率は格段に上がる。

ナイフや狙撃。暗殺に必要な基礎の数々。体育の時間で俺から教えさせてもらう。

 

では、今日の授業はここまで」

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

烏間先生…やっぱり凄い人だ。

 

「六時間目は小テストかぁ…」

グラウンドを歩きながら隣にいた杉野がぽつりと呟く。

「体育で終わって欲しかったねー」

はぁ、と溜息を吐いて前に視線を戻すと、小階段の上に人影があるのを見て目を見開いた。

 

 

――――あれは、

 

 

杉野も僕の様子に気付いたようで立ち止まる。

 

彼はどこかあくどい笑みを浮かべていて、

制服はものの見事にき崩されている。

赤い髪を靡かせて、

黄金色の目を細めながら、彼は、

「よぉ、渚君、久しぶり」

それだけを、言った。

 

 

 

赤羽 カルマ。

 

確か暴力行為を繰り返し停学になっていたはず。

 

「カルマ君、帰ってきたんだ」

 

僕の言葉に、カルマ君はにこりと笑った。

そして僕らの後ろの方を見て、驚いたように目を見開くと、

何か納得したように階段を降りてきて、僕らの間を通過した。

 

「あれが噂の殺先生?すっげ、本当に蛸みたいだ」

 

笑いながら近寄るカルマ君にどこかうすら寒いものを感じる。

彼は殺先生の目の前まで行くと遅刻したことに怒る殺先生にあからさまな平謝りをしながらよろしく、と手を差し出した。

 

殺先生もなんだかんだで嬉しそうに、こちらこそ。そう言って、触手を差し出す。

二人の手がしっかりと触れた瞬間。

 

 

 

――――――ビシャッ

 

 

 

先生の手は弾け飛んだ。

 

「っ!?」

「あははっ」

 

驚く先生。

その隙を逃さずナイフで襲い掛かるカルマ君。

 

とっさに避けた先生は、冷や汗を一筋流した。

なにより僕が驚いたのは、

 

「へぇ?ホントに速いし…ホントに効くんだこのナイフ…」

 

彼の手の平に対先生用ナイフの断片が張り付けられていたことだ。

汚い手口だが、先生にダメージを与えたのは彼が初めてだ。

その事実に、ここにいる誰もが動けないでいた。

 

そんな僕らの心情を知ってか知らずか…カルマ君は何故か眉をハの字にさせる。

どこかがっかりしたような、貰ったおもちゃが望んだものではなかったような、そんな顔。

 

「けどさぁ先生。こんな単純な手に引っかかるとか…しかも、そんなとこまで飛びのくなんて、ビビりすぎじゃね?

殺せないから殺先生って聞いてたけど…」

 

目の前まで来たカルマ君に一歩先生が後ずさる。

彼はそれを見て、より一層笑みを浮かべた。

 

 

「先生ってもしかして、チョロい人?」

 

 

その言葉は先生をイラつかせるには十分だったようで、見る見るうちに先生の顔が真っ赤に染まっていく。

けれど先生は規約として生徒に手を出すことができない。

きっと、カルマ君はそれを承知の上で挑発してるんだ。

 

 

「ねぇ渚ー。カルマ君ってどういう人なの?」

いつの間にかとなりに来た茅野がそう訊ねてくる。

「うん…一年、二年は同じクラスだったんだけど…二年の時に、続けざまの暴力行為で停学くらって…。

このE組にはそういう生徒も落とされるんだ。

でも、今この場じゃ優等生かもしれない」

「ん?どういうこと?」

「凶器とか騙しうちなら、多分、カルマ君が群を抜いてるはず」

 

 

 

 

 

 

 

――――楽しそうにナイフを回す彼を見ながら、目の奥がチリ、と熱くなるのを自覚した。




遂に出ました赤羽さん。

というか最初投稿したとき、
あまりにも長くて10000字突破しかねなかったのでわけました。
でもこれアニメで22分もあるんですよ!
小説が長くなるのしょうがないですよね(そんなわけない)

では引き続きカルマ君の時間どうぞ。
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