ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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ギリギリ2015年最後の更新。
バイトで紅白(μ’sの出番部分)が見れなかった怒りで書き上げました。後半がやや駆け足っぽいですが、これ以上は長くなると思ったので少々文字数を押さえた結果です。

それでは「第五章」スタートです。


第五章:踏み出すスタート

 [五章]

 

 

「………………んっ、ここは……?」

 

 穂乃果は頬に冷たい感触を感じ、目を覚ます。自分が倒れている事を理解し、体を起こし辺りを見る。そこは自分たちが更衣室として使った部屋だった。

 筆箱やノートを入れたカバンに購買で購入した水のペットボトル。綺麗にたたまれた制服。どこを見ても、先ほどまでいた異空間のような場所はない。

 

「戻ってきたんだ……」

 

 あの異空間から戻ってこれたことに安心する穂乃果。でも、どうやって帰ってきたのだろうか? あの空間で自分たちは外にいた、だが今自分たちがいるのは室内。あの空間があの場で消滅したのなら、自分たちは外にいるバズなのに。

 んー? と首を傾げる穂乃果だったが、二つの影が起き上がったことに気が付きそちらを向く。海未とことりが目を覚ましたのだ。

 

「海未ちゃん! ことりちゃん!」

 

 穂乃果は二人の名前を呼びながら駆け寄る。

 

「二人とも大丈夫?」

 

「ええ、ちょっと頭がボーッとしますが、心配には及びません」

 

「ことりはちょっと目が疲れたかも」

 

 海未は頭に手を当て、ことりは目をほぐしながらそれぞれ答える。それ以外に目立った傷とかは無く、二人とも僅かな疲れが残っているだけだ。

 何はともあれ、無事にあの空間から帰ってこれた。

 

「あれは、いったい何だったのでしょうか?」

 

 海未は立ち上がり、購買で購入したペットボトルを取る。水を一口含み、先ほどの疑問を口にする。

 

「夢、だったのかな?」

 

「夢じゃないよ」

 

 ことりの言葉を否定した穂乃果に二人の視線が集まる。

 穂乃果は数日前に目の前で繰り広げられた、ウルトラマンギンガとサイコメザードⅡの戦いを語る。あの時も自分はすぐに気を失い、ギンガの戦いは夢物語のように感じた。だが後に希と奉次郎に聞いたところ、本当の出来事だったらしい。そして何より、体に刻まれた『恐怖』が、あの出来事を『本物』だと語っていた。

 穂乃果はその手に持つ赤い輝石を見ながら続ける。

 

「あれは夢じゃない。本当の事なんだ」

 

「そう見たいですね」

 

 穂乃果の話を肯定する海未は、その手に持つ赤いY字型の宝石を見つめる。そこにはまだ、三人の『絆』がもたらした『光の矢』の感触が残っていた。

 

「これは最初、首にかけていました。ですが、今はこうして私の手に握られている。私がウルトラマンギンガの援護のために『光の矢』を放った証拠です。そしてことりの目の疲れも、あの怪獣の幻影を見破るために目を酷使したからじゃないんですか?」

 

「うん、多分そうだと思う」

 

 海未の見解にことりは目を擦りながら頷く。

 ──僅かな沈黙。一度体験している穂乃果ならまだしも、海未とことりは今回が初めてとなる。あの戦いを見た衝撃は、早々に消えるものではない。目の前で繰り広げられた『光の戦士』と『闇の魔獣』の戦い、それはまさしく命を賭けた戦いだった。

 勝つか負けるか、生きるか死ぬかの戦い。互いが互いのために、その身を削ってボロボロになりながらも戦い抜いた。

 そして、『光の戦士』が勝利した。

 

「一体、彼は何者なんですか?」

 

 海未の言う『彼』とは、もちろん『ウルトラマンギンガ』の事だろう。その身を挺して自分たちを守ってくれた『光の戦士』。限られた時間の中を命懸けで『闇の魔獣』と戦い、勝利したあの巨人は一体何者なのか。

 その答えを知る者は、ここにはいない。

 

「……希先輩は『闇』を打ち払う『光の戦士』、それが『ウルトラマン』だって言ってた。『ギンガ』って名前はりーくんが言ってただけで、私も詳しくは聞いてない。でも、私たちの味方なのは確かだと思う」

 

 穂乃果は自分が知る情報を提示するが、それが『ウルトラマンギンガ』が何者なのかという疑問に対しての答えだとは思っていない。唯一わかることは、自分たちの味方であるということ。

 本当の意味で彼が何者なのか、それを知っている可能性があるとすれば……。

 

「希先輩なら知っているのかな?」

 

 三人の浮かんだ考えを、ことりが口にした。

 穂乃果の時も、希はまるでギンガの訪れを知っているようだった。そして今回、ギンガとともに現れ、戦いの行く末を見守り、自分たちにギンガの窮地を助ける作戦を考え、見事に救ったこの場にいない人物。

 海未の持つ宝石の名前を彼女は『イージスの破片』と言っていた。考えれば考えるだけ、『東條希』と言う人物がわからなくなってくる。

 

「あー! もう! こうなったら希先輩に直接…………」

 

 考えるのが嫌になったのか、叫び声を上げる穂乃果だったが、その言葉は途中から静かになっていく。

「どうしたんですか?」と海未か聞くと、穂乃果は慌てたように立ち上がる。

 

「海未ちゃん今何時!?」

 

 穂乃果が何を気にしたのか勘付いた海未は、バッ! と慌てて自分の携帯電話の液晶をのぞき込む。

 そこに表示されていた時刻は──午後四時三五分。つまり、ライブ開演時間を五分も過ぎていた。

 三人は時刻を確認すると、大慌てで部屋を出る。

 先ほどの疑問はすでに吹き飛んでいた。今の三人は観客が待っているであろう講堂に向け、全力で走る。記念すべきファーストライブなのに、五分も遅刻しているのだ。観客を待たせることは、エンターテイナーとして一番やってはいけないことだ。

 三人は髪が乱れるのも気にせず、全力で走る。

 そして──、たどり着いた講堂には────。

 

 

 

 ────────────静寂に満ちていた。

 

 

 

「──────────────え……?」

 

 穂乃果は目の前に広がる光景に立ち尽くした。いや、穂乃果だけではない。海未もことりも目の前に広がる静寂の空間に、目を見開いて驚く。

「あははは……」と乾いた笑いが穂乃果の口から洩れる。

 その小さく、弱々しい声が静寂の講堂に響く。

 目の前に広がるのは、薄暗く照らされ、誰も座っていない椅子の数々。どこを見ても、見回しても人の気配はどこにもない。穂乃果が体験した『あの森』のように、誰もいなくて誰の気配もない、静寂の空間。

 まさか、五分遅刻しただけでみんな帰っちゃったのだろうか? 最初は満員だったけど、自分たちの到着が遅れて興味を失くしてしまっただけだろうか? それならまだ引き返せる、呼び戻すことができる。

 ──なんて幻想を思う穂乃果。

 頭の片隅ではわかっていた。だって、姿を現したヒデコ、フミコ、ミカ、の三人が申し訳なさそうにしている姿を見たのだから。

 ──最初から、観客なんていなかったんだ。だれも、この講堂に足すら踏み入れていないのだ。誰も、関心も、興味すら持ってくれなかったということだ。

 

「──そう、だよね……。現実は、……甘くない、よね……」

 

 自嘲気味に穂乃果は笑う。

 ある程度のことはもちろん覚悟していたつもりだ。いきなり満員なんてありえない、せいぜい数十人だとは思っていた。

 だが、現実は無人。誰一人として来ていないのだ。

 

「あーあ、頑張ったんだけどなっ。いっぱい努力して、毎日練習して、真姫ちゃんが曲を作ってくれて、三人で練習したのに……。りーくんにも、いっぱい手伝ってもらったのに……ごめんね……、海未ちゃん、ことりちゃん」

 

 穂乃果は無理やりにでも笑顔を作って二人に笑う。だが、最後に二人の名前を呼ぶときは、その声に嗚咽が混じっていた。次第に、穂乃果の肩が震え始める。必死にその涙を流すまいと堪える。

 そんな穂乃果になんて声を掛ければいいのか、海未もことりもわからなかった。

 そんな静寂の中、コツコツと椅子と椅子の間にある小さな階段から音が聞こえた。誰かが歩いているのだ。

 三人は、その音の方へと向く。

 その音は次第に大きくなっていき、ステージの光がそちらへと降り注ぎ、人物の姿を浮かび上がらせる。

 そこにいたのは、

 

 

 

「そうよ、現実はそう甘くない。人を引き付けることは、ダンスで人を魅了することは、そう簡単なことじゃないの」

 

 

 

 美しい金髪をなびかせ、美しいサファイヤの瞳が、ステージに立ち尽くす少女たちを見ていた。その人物はロシア人とのクウォーター故、日本人離れしたプロポーションを持つ音ノ木坂学院生徒会長、絢瀬(あやせ)絵里(えり)だった。

 

「これでわかったでしょ? あなたたちの活動に、誰も関心すら持っていないの。私がここに来たのは、あなたたちに言うことがあったからよ。いい? 今ならまだ間に合うわ。スクールアイドルなんかやめて、残りの学校生活を有意義に過ごしなさい。その方があなたたちも楽なはずよ」

 

 それは、有無を言わせない圧がこもっていた。

 絵里は最初から穂乃果たちのスクールアイドル活動に反対していた。リスクが高い、成功するかわからない、逆効果だったらどうするのか。もっともな意見を用いて穂乃果たちの活動を否定し続ける絵里だったが、必ず決まって言う文句があった。

 

『人を魅了することは、そう簡単じゃない』

 

 彼女は決まって最後にそういうのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして絵里は、まるで何かを懇願するかのように言葉を続ける。その儚い瞳で寂しそうに虚空を見つめながら。

 

「『夢』って言うのはね、追うだけ無駄なものなのよ。人を夢中にさせる素晴らしいもの、なんて人はよく言うわ。でもね、そんなのは幻想なの。『夢』って言うのは人を惑わせるもの。『夢』を叶えた人に憧れ、他人にもその道を歩みさせる『病』のようなもの。一度なってしまえば決して治すことのできない、防ぐことが出来ない不治の病」

 

 絵里はその青い瞳を穂乃果へと向ける。

 

「あなたが何に『憧れ』たのかは知らない。でも、その『憧れ』だけで進むのはやめなさい。これ以上進んでも、待っているのはつらい現実だけよ。今ならまだ間に合うわ。完全な『(やまい)』になる前に、今すぐ諦めなさい」

 

 絵里は、それだけを言いたかったのか、はっきり告げると穂乃果たちに背を向け歩き出す。

 海未とことりは、言い返すことが出来なかった。親友が掲げた『夢』を否定されているというのに。

『夢』が『不治の病』、確かにそうなのかもしれない。『憧れ』だけでどうにかなるものではない、現実を見れば挫折をし『夢』を諦める人はたくさんいる。どんなに努力しても、どんなに頑張っても、最後に『夢』が叶わなければ、その努力が報われることにはない。『努力は何時か報われる』そう信じて突き進んだとしても、何時しか叶わないことを察し、諦めてしまう。『夢』を掴める人はほんの一握りしかいないのだ。

 そして今、自分たちの前には無人の観客席が広がっている。つまり自分たちは『夢を掴めない』者だということだ。

 自分たちの活動で学校の廃校なんか救えるわけがない、見出した『可能性』は『幻想』だったのだ。それを、この無人の講堂が教えている。

 ただ悔しさだけが、少女たちの胸に渦巻く。

 だが、穂乃果は絵里の言った一言に、どうしても許せないところがあった。

 

 

 

「無駄じゃありません」

 

 

 

 絵里の足が止まった。

 ──今、後ろの少女は何と言った? 

 絵里が振り返ってみれば、穂乃果は強い瞳で自分を睨んでいた。

 

「『夢』を追うことは無駄なことじゃありません」

 

「……なんですって?」

 

 絵里の目が細められる。

 

「『夢』は『不治の病』なんかじゃありません。『夢』は人々に『希望』を与えるモノです」

 

「それは幻想って言ったはずよ。奇麗ごと言わないで現実を見なさい」

 

()()()()()()()

 

 穂乃果は即答で絵里に答える。

 間髪入れずに放たれた言葉に、絵里はしばらく呆けてしまう。だがすぐに眉間に皺をよせ、穂乃果を睨む。

 

「何を言ってるの? 見えていないでしょ。あなたたちのパフォーマンスを誰も見に来ていない、あなたたちの努力は無だったのよ?」

 

「無駄じゃないですよ」

 

「なっ!? あなた──」

 

 

 

「────だって、生徒会長がいるじゃないですか」

 

 

 

「────え?」

 

 穂乃果の口から放たれた言葉に、絵里は今度こそ呆気にとられた。肩から力が抜け、穂乃果たちを睨んでいた瞳は、揺れていた。

 

「生徒会長は私たちの活動に否定的でしたよね? それなら最初から来なければじゃないですか。新入生歓迎会を終えて、私たちのライブなんか気にせずに、家に帰ればよかったんです。でも、そうはしなかった。生徒会長は今、私たちがパフォーマンスをする会場に来ているんです。どうして来たんですか?」

 

「それは──」

 

「──私たちのことが気になったからじゃないんですか?」

 

「──っつ」

 

 穂乃果は絵里の言葉を遮るように言う。

 絵里の背筋に緊張が走った。それはつまり図星だということか? そんなはずはない、自分は彼女たちの活動を気になったりなどしていない。今回来たのはあくまで生徒会室を飛び出した希を追いかけた結果、偶然この講堂に着いただけなのだ。

 そして中を見てみれば、案の定の無人。観客は誰一人としていない。さらに、あろうことかライブ開演時間になりステージの幕が上がっても、肝心のエンターテイナー側がいないのだ。

 絵里はその光景に怒りを覚えた。あれだけ、意気揚々と告知をしておきながら遅刻するなど、あってはならないことだ。ましてやファーストライブ、絶対に成功させなければならない最初のライブでの大遅刻。これはもうエンターテイナーとして失格ではないか。

 絵里は、そんな彼女たちに一言いうべく講堂で待った。

 

 

 

 ──それはつまり、自分が彼女たちを気にかけていたことにならないか? 

 

 

 

 絵里は頭に浮かんだその考えを否定する。

 そんなわけない、自分はあくまで偶然この場に居合わせ、彼女たちに『現実』を教えるために待っていただけだ。決してそんなことはない。

 なのに、──どうして自分は彼女たちに声をかけるのだ? 

 

「確かに、現実はそう甘くありません。『夢』が『不治の病』だということも否定はしません。でも、『夢』がそんなマイナスなものなはずはありません! 知ってますか? 『夢』を持つと、すごく心が温かくなるんですよ? 道が見え始めて、光が見えて。その『光』を突かむために私たちは全力で走るんです。そして、その走った道のりが『軌跡』となるんです。『夢』を追いかけるのが無駄なもの、って言いましたけど、それは絶対に違います。『夢』を追いかける過程の中で、様々な困難や壁、一緒に歩む仲間との出会いがあるはずなんです。それは決して無駄なものじゃありません。次の道へと進む『勇気』となるんです。

 そして、私たちの『軌跡』があったから、本来なら『無人』となるはずだったこのステージに()()()()()()()()()()を招いた」

 

 穂乃果は絵里に向かってほほ笑む。

 

「『たとえ見に来てくれる人が少なくても、観客が一人でもいる限り、俺たちエンターテイナーは人を笑顔にするために努力する』。私の『憧れの人』が言っていた言葉です。『人を笑顔にするためには、まず自分が最大限に楽しむこと。相手が一人なら、ラッキーだと思え。緊張も少なくて済むし、何よりその人だけを笑顔にするって集中できる』、彼はそう言っていました」

 

「あなた、その言葉──」

 

 絵里は、穂乃果の口から紡がれた言葉に驚きで目を見開く。

 その言葉は絵里の記憶の奥に埋めた『あの記憶』を呼び覚ます。自分のバレエ姿に感動してダンスを始めた、あの破天荒な少年に──。

 

「どうして、あなたがその言葉を──」

 

 絵里が穂乃果に問う前に、バタン! と講堂のドアの方から音が響いてきた。

 全員の視線が扉の方へと向く。

 そこには──、

 

 

 

 ────チラシを握りしめ、息を切らし駆け込んできた少女の姿があった。

 

 

 

「あの子……」

 

 講堂へと駆け込んできた少女を穂乃果たちは覚えていた。その子は確か一年生、チラシを配っているときに『頑張ってください』と応援してくれた少女──小泉(こいずみ)花陽(はなよ)だった。『ライブ、見に行きます』と言ってチラシを受け取ってくれた少女。

 花陽はステージの方へと目を向け、チラシに顔を向け、少し寂しそうな顔をした。

 おそらく、すでに開演時間を過ぎていることと、穂乃果たちがステージで歌っていないことからもう終わってしまったのだと思ったのだろう。

 講堂から出て行こうとする花陽に穂乃果は声を飛ばす。

 

「大丈夫だよ花陽ちゃん! まだライブは始まってないから!!」

 

 穂乃果の声を聞いた花陽は「え?」と声を漏らしつつ振り返る。ステージ上では穂乃果が満面の笑みを浮かべ手招きをしていた。花陽は、その言葉を受けステージが見えやすい位置へと移動する。

 

「生徒会長」

 

 穂乃果に呼ばれ、絵里は穂乃果を見る。

 

「私たちは踊ります。今この場にいる観客を、笑顔にするために」

 

 そして穂乃果は後ろの二人へと振り返る。

 

「行くよ、海未ちゃん、ことりちゃん」

 

 二人は力強くうなずき返す。

 穂乃果は前を向くとヒデコたちに合図を送る。三人はスタートの位置へと並び、曲の始まりを待つ。

 絵里は止めようと思った。このまま始めてしまえば、彼女たちはこの道を進んでしまう。そうなれば、いずれ大きな壁に阻まれ歩みを止めてしまうかもしれない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それなのに──。

 

 

 

 ────どうよ、俺のダンスは? 

 

 

 

 記憶の奥底に眠る少年の影がちらつき、止めることが出来なかった。

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

『START:DASH!!』────それが彼女たちの歌う曲の名前だ。園田海未がリヒトの父『一条一輝』のアドバイスの元、純粋な思いを乗せ書き出した歌詞。『夢』に向かってスタートを切った自分たち、『可能性を感じた未来』へ走り出した自分たちをイメージした前向きな曲。

 自分たちを『産毛のことりたち』と例え、廃校を阻止する『空』へ飛び立つイメージ。『その日』が絶対に来ると信じて『諦めず』に進む。始まりの鼓動を感じた未来へとスタートダッシュを決める。

 リヒトのお気に入りの曲『ススメ→トゥモロウ』を可能性の感じた未来へ『進む曲』とするならば、この曲は可能性の感じた未来へスタートダッシュを決める『始まりの曲』。 

 少女たちは舞う、とびっきりの笑顔で。

 穂乃果はその体を大きく使いダイナミックに、自分の持てる力をすべて表現するかのように、弾けるような笑顔を向けて。しかし雑にならないように、一つ一つの動きにしっかりと注意を向ける。

 海未はリヒトに言われた通り、自分の動きを大胆にすることを意識する。最初は恥ずかしさが上回っていて動きが小さくなってしまったかもしれない。だが、今の海未は楽しむことを第一に考えていた。あの空間で極度の緊張を体験したからだろうか、体にわずかな疲れを感じるが、そんなことはかまわず歌う、踊る。

 ことりは、自分が笑顔にするべき相手を見ていた。視線がついつい穂乃果と海未の方へ向かいそうになるのを止め、前を向く。大丈夫、多少動きがずれてもいい。今は、目の前にいる観客を楽しませることを考えよう。

 三人は踊る、見に来てくれた人たちを笑顔にするために。

 曲もサビへと突入し、より一層盛り上がる。

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 穂乃果たちのダンスを希は講堂の入り口付近から見ていた。講堂内にはステージに立ち踊る穂乃果たち三人と、厳しい瞳で見る絵里。

 瞳を輝かせ、彼女たちのライブに心躍らせている少女。

 その少女の隣に立ち、最初は普通に見ていたショートカットの少女が、次第に瞳を輝かせ心躍らせていく。

 そして、希の立つ入り口とは別の出入り口から講堂へと入ったツインテールの小柄な少女。

 さらには、最初は怪訝な表情で講堂へと入って行った少女は次第に彼女たちの姿に惹かれ、その足を進めていく。

 少女たちが穂乃果たちのライブに魅了されていった。

 

(あの子たちが、『希』の『願い』なんだね)

 

 ふと、脳内に声が響き、瞳を閉じて制服の下にある勾玉に手を重ねれば、希の前に自分とそっくりな少女が現れた。違う点を上げるならば、髪を結んでいないところだけだろうか。今年初めに出会た時はびっくりしたが、今はもう慣れたものだ。

 本来はとある事情からこうして表に出てくることはなく、希の内にいることが多くあまり語りかけてこない。今回こうして表に出てきたということは、それだけ今回が非常事態だったということだろう。

 

(そうやね、あの子たちがウチの『願い』、かな)

 

 希は微笑みながら返す。

 自分のとある占いから出た『未来』。そこに集う少女たちがきっと彼女たちなのだろう。だが、同時に出た『未来』が、希の不安となっている。

 少女たちの未来に迫る『闇』の存在が。

 

(……厳しい戦いになるよ)

 

(わかっとるよ。それでもウチは『光』を信じたい。未来を照らしてくれる『光』を)

 

 希の占いで出た『闇』の存在。だが、同時にその闇を払う『光』の存在も出たのだ。『闇』を払う『光の戦士』。それが、『ウルトラマン』。目の前の少女の未来を守るべく戦った光の戦士と同じ存在。

 もちろんそれが厳し戦いになるということは、今回のことでわかった。ダークガルベロスとの激闘、穂乃果たちの援護がなければ負けていた戦いだ。この先も、このような強敵が現れないということは絶対にない。もっと厳しい戦いが、穂乃果たちの援護がない『ウルトラマンギンガ』が一人で戦わなければならない時が、強力な『闇』の力を持つ怪獣が。ギンガを待っているかもしれない。

 それでも、希は信じる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、必ず自分の未来を守ってくれると。

 

(君も、光を信じたんやろ?)

 

(……うん。でも、私の場合は信じても彼は消えちゃったから。だから希は、彼を離さないようにね。彼に似て結構いい男なんだから)

 

(へ?)

 

 何か含みのある言い方をされ、希はひっくり返った声を上げてしまう。

 何のことか追及しようとしたのだが、スカートのポケットにしまった携帯電話が震え、希の意識が現実世界へと呼び戻される。

 ただ、最後に彼女が言った一言が希の耳に残った。

 

 

 

 ──私は彼が大好きだった。希もあの人を好きになるなら、絶対に離さないようにね。『光』を受け継いだ彼は、その運命はから逃れられないから。

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 意識が現実世界へと戻り、取り出した携帯電話の画面には『一条リヒト』と表示されていた。

 先ほど含みのある言い方をされ、少々出るのに戸惑ったが一度深呼吸をしてボタンを押す。

 

『あ、もしもし希? そっち大丈夫なのか?』

 

 リヒトはやや慌てた様子で訪ねてきた。

 おそらく、先ほどの位相変異の際に穂乃果たちがどうなったのか心配しているのだろう。加えて、リヒトは穂乃果たちのライブ開演時間を知っている。目覚めた時に開演時間おすぎていたことも気になっているのだろう。

 

「大丈夫や。ウチも穂乃果ちゃんたちもみんな無事。今ちょうどライブをやっているところや」

 

 希の答えに電話越しにホッとするリヒトがわかった。

 

『観客はどうだ?』

 

「ウチを合わせて六人かな。姿を隠している子もおるから、穂乃果ちゃんからは見え取らんけど」

 

 希は講堂内へ視線を向ける。

 スポットライトに照らされ、笑顔を絶やさず踊る少女たち。曲は終盤に差し掛かっており、彼女たちの課題だった後半での体力切れが見え始める。

 それでも、彼女たちは踊る。見に来てくれた人を笑顔にするために。その真っ直ぐな姿勢が歌に、踊りに乗り観客の興味を引き付ける。

 ──そして、音楽は終わった。

 彼女たちのステージが終わったのだ。

 

「今、終わったよ」

 

『そうか』

 

「りっくんはどう見る?」

 

『今回のライブか? そうだな、成功とは程遠いけど失敗とも言えないかな。観客が集まらないことはある程度予想してたけど、俺はてっきり、理想と現実のギャップで笑顔で踊れずボロボロになると思ってた。でも、あいつらは踊ったんだろ? 笑顔で』

 

「うん」

 

『それなら、及第点ってとこかな』

 

「随分厳しく見るんやね」

 

『……たぶん「一条リヒト」の部分がそう見てるんだと思う』

 

 やや言いにくそうにリヒトは言う。

 記憶喪失であるリヒトにとって、なぜ自分がそういった価値観を持つのか、彼女たちをどうしてそう評価するのか、疑問な点が多いのだ。

 前にリヒトは、海外で出会った少女との約束を果たすため、プロのダンサーになることを決めたと言っていた。アメリカに留学までしたのだから、その覚悟は本物だろう。

 だが、リヒトにその記憶はない。そのことがリヒトにとって気がかりとなっている。未だ記憶が戻らない中、右往左往しながらも日々を歩んでいる。

 そして唯一わかることは『笑顔』が大好きだということ。それと──、自分がウルトラマンギンガに選ばれたということだけ。

 

『……なあ、希。俺は戦うよ』

 

 リヒトは宣言するかのように言う。

 希の前でウルトラマンギンガにライブしたのだ、今更隠す気はないのか堂々と言うリヒトに、希は「うん」と答える。

 

『アイツらの夢をあざ笑うやつがいるなら、俺は戦う。アイツらの歩みだした夢を踏みにじるようなやつがいるなら、俺は戦う。戦って、あいつらの夢を守って見せる。だからさ、希』

 

 希は、来たかと思う。

 あんな特殊なことをしたんだ、当然そのことを聞きたいんだろう。それに、リヒトは『あの子』とあっている。自分にそっくりな少女に。

 聞きたいことは山ほどあるのだろう。もちろん希は、そのすべてに出来る限りで答えようと思っている。

 希はただリヒトの言葉を待った。

 

『──俺に力を貸してくれよ』

 

「──―え?」

 

 リヒトは希が予期していた言葉とは違うことを言ってきた。

 

『お前が何者についてかは、また後日聞くさ。それより今は力を貸してほしい。今回の戦いでわかったんだ。俺一人じゃ、これから来る「闇」を予期することはできない。俺一人じゃ勝つことが出来ない戦いもあると思う。だから、俺に力を貸してほしいんだ。アイツらの「夢」を守るために』

 

 電話越しにリヒトの力強い言葉が聞こえてくる。

 希はリヒトの言葉を受けて微笑む。

 そして──。

 

「もちろん、ええよ。ウチが、君の力を助けてあげる」

 

 少年の決意を受け取った。




これでいいかなと思ったんですが、やや足りない部分があるので「終章」で捕捉します。
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