ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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お待たせしました。
「第三奏:歌姫の異変」となります。



第三奏:歌姫の異変

 その日の朝、西(にし)()()(おり)(ひめ)はなかなか起きてこない()()を起こすために部屋を何度もノックしていた。しかし、真姫からの反応は一切なく、出てくる気配も全くしなかった。

 

「真姫、朝よ。今日も学校の日直なんでしょ? 時間大丈夫なの?」

 

 織姫はドアに耳を当て返事を待つも、中からの返事が全く来ない。しばらく耳を澄ましてみると、ドアの向こうからは物音一つ聞こえてこなかった。

 

「……真姫はまだ起きてこないのか?」

 

「ええ、そうみたい」

 

 真二も気になったのか真姫の部屋の元へとやって来た。織姫はもう一度ドアをノックして真姫の名前を呼ぶも、やはり反応は全くない。

「まったく」と織姫が呟いたところで、真二が織姫の肩に手を置いた。そして織姫と入れ替わるように真姫の部屋の前に立つ。織姫よりも強くドアをノックし、やや大きめの声で真姫の名を呼ぶ。

 

「真姫、せめて返事をしなさい。起きているのか? 起きてないのか?」

 

 真二の強めの声にも、真姫は反応を見せなかった。

 一方の織姫は、普段あまり声を張らない真二が声を張ったことに、そしてその声を聞いて真姫の反応がなかったことに驚いた。

 真二は昔に起こったあることから、真姫に対してあまり声を上げなくなったのだ。叱ることはあったものの、静かな声で叱ることがほとんどで怒鳴るようなことはしなかった。

 そして真姫の方も、ある出来事から父である真二を苦手としている。だから、たとえ真二が声を張らなくても、真姫は真二との会話でいつも緊張していた。その為、今回のように真二が声を上げた場合は、いち早く反応を示していたはずなのに、今回はそれがない。

 

「真姫っ」

 

 真二が先ほどより強めの声で真姫を呼ぶも返事はなかった。

 

「……?」

 

 真二は眉間に皺を寄せる。真二自身も、真姫が自分のことをどう思っているのか理解しているため、今回のように反応がないことを不思議に思っていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 真二と織姫は互いに顔を合わせた。ここまで反応がないとなると、真姫の身に何かあったのではないかと思えてくる。

 真姫が日々医者になるために勉強していることは、ふたりも知っていることだ。真二の持つ医学書を用いていることを考えると、日々相当な量をこなしていると想像できる。その疲れが今になって表れたのではないかと二人は思った。しかも、四月となれば生活の変化によってストレスを感じやすい時期だ。それも合わさって、風邪でも引いてしまったのだろうか? 

 そんな風に考えていたときだった。スリッパの床を擦る音が、ふたりの耳に聞こえてきた。

 

「二人とも、何をやっているの?」

 

 振り返ると、一冊の楽譜を持ったパジャマ姿の真姫が立っていた。

 

「……真姫」

 

 真二が小さく真姫の名を呼んだ。

 そして視線が、真姫の持つ楽譜へと向かった。そこから考えられるのは、おそらく早起きして、先程までピアノのある部屋にいたか、もしくは夜遅くにピアノの部屋に向かい、朝まで眠っていたかの二択。どちらにせよ、先程までピアノの部屋にいたことのだと予想できた。

 西木野家のピアノのある部屋は、真姫が伸び伸び練習できるよう防音仕様となっている。その為、ある程度の大きさまでなら外に音が漏れることはない。そのせいで真姫がピアノのある部屋にいたことに気が付かなかったのだろう。

 ともあれ、真姫が無事だったことに安心した二人だった。

 そんな二人を蔑むように見た真姫はただ一言、告げる。

 

「どいて」

 

 ひと言。普段の真姫からは考えられない冷たい声がふたりに向かって放たれた。

 ふたりは、驚きで目を見開いた。

 織姫は真姫の放った声のトーンに。

 真二は、まさか真姫が冷たい声を自分に向けてきたことに。

 そこで二人は、真姫から漂う異様な雰囲気を感じ取った。その異様な空気に気圧され、二人はドアの前から離れる。

 真姫は二人が離れたことを確認すると、もう一度二人を見たあと、静かな足取りで部屋へと入っていった。バタン、とドアが閉まったところで我に返った真二はドアの前に再び立つ。

 

「真姫! お前、朝までピアノを弾いていたのか!」

 

「ちょっと、パパ」

 

 織姫は声を上げて扉に迫る真二に驚き、落ち着かせようとするが、真二は止まらず真姫に声を飛ばす。

 

「真姫! 答えたらどうなんだ!」

 

 真二がいくら声を上げようと、真姫からの返事はない。

 

「真姫っ!」

 

『……うるさいわね。そうよ、私はピアノを弾いていたの。それが何か?』

 

 返ってきた真姫の声は、先程と同じでとても冷たい。

 

『別にパパには関係ないでしょ? 私が何をしようと。……ああ、違ったわね。私がピアノを弾くと、パパは困るわね』

 

「……どういう意味だ?」

 

 真姫の放った言葉に、真二は眉間に皺を寄せる。

 

『だってパパは私に医者になって病院を継いでほしいんでしょ? ピアノなんかやめて勉強に集中してほしい、そう思ってるんでしょ?』

 

「なっ!?」

 

 真姫の言葉に真二は驚きを隠せなかった。その隣では織姫も真二同様に瞳を見開き驚いていた。

 

『ピアノなんかさっさとやめろ、医者になれ。娘だもの、パパの気持ちはわかってるわ』

 

「違うっ!! 私はそんなこと一度も──」

 

『ウソっ!! 絶対思ってる!! パパは私が医者になる方がうれしいんでしょ? ピアニストより医者になってくれた方がうれしいんでしょ!? だからあの時ホールから出て行った。私にピアノの道を諦めさせるために!!』

 

「──っつ!?」

 

 真姫の言葉に、真二は心臓を矢で射貫かれたような痛みが走った。その衝撃は真二の体全身を走り、爪が食い込むほどに拳を握る。苦虫を噛み潰したような顔をする真二、確かに自分はあの時真姫のピアノが終わるのと同時にホールを飛び出した。だが、それは決して真姫の言ったことが()()()()()()

 

「真姫、それは違う。私はあの時出て行ったのは──」

 

『──うるさい!! 私に構わないでっ!!』

 

「──―っつ!?」

 

 真二の言葉が言い終わる前に、真姫が叫び謎の衝撃波が真二を襲った。真二の体は謎の衝撃波に襲われ、壁に叩きつけられる。

 

「パパ!!」

 

 織姫が悲鳴にも似た声を上げる。

 

「ん、……ん」

 

 真二は衝撃で痛む体を起こし、真姫の部屋の扉を見る。

 

「な、なんだ、今のは」

 

『パパのせいだ。パパのせいで、私は夢で苦しまなきゃいけなくなった。家が医者だから、私の将来は決まってるなんて、そんなの嫌だ。私は自分の行きたい道を進みたい、誰にも邪魔されない自分だけの道を。でも、そのためにはパパが邪魔なの』

 

 扉の先から聞こえる真姫の声は、驚くほどに冷徹で無機質だった。真姫の表情が見えない故に、その声から感じる無機質さが、得体のしれない雰囲気を増幅させる。

 

『だからパパ、私の夢のために──』

 

 真姫は、その無機質な声をもって残酷に告げる。

 

 

 

『──―消えて』

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 ──―神田明神・境内。

 本日の朝練習は体感トレーニングだということもあり、穂乃果達三人はサイドブリッジ状態で踏ん張っていた。その様子を傍らで数を数えながら見ているリヒト。笛を咥え、ストップウォッチ代わりの時計を見つつ、心の中で「がんばれー」とのんきに思っていると、グイッとパーカーのフードを引っ張られた。

 振り返ってみれば険しい顔をした巫女服姿の希が立っていた。

 

「……どうした?」

 

「……気づいとらんの?」

 

「なにが?」

 

 リヒトが聞き返すと、希は信じられないモノを見たかのような視線をリヒトに向ける。

 

「え? ギンガスパーク反応しとらんの?」

 

「ギンガスパーク……?」

 

 希に言われ、リヒトはズボンのポケット及びパーカーのポケットに手を当て探る。

 

「……………………あ」

 

 リヒトの漏らした声に、希の表情が固まる。

 

「ちょ、うそやろ?」

 

 希に戦慄が走り、顔の表情が引きつっていく。その視線の先にいるリヒト(バカ)はギギギギ、と油の切れたねじのように希へと向くと、満面の笑みで告げる。

 

「部屋に忘れた♪」

 

 竹箒で思いっきり殴られた。

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

『わりぃ、ちょっと用事できた』と穂乃果達に一言告げ、リヒトは一旦自室へと向かいギンガスパークを取りに行く。机の上に置かれていたギンガスパークは、希の言った通り光りを放ち『なにか』に反応していた。リヒトはギンガスパークを掴むと急いで部屋を出る。

 玄関で待っていた希はリヒトの到着と同時に、信じられないものを見る目でリヒトを見ながら吠えた。

 

「もう、信じられない! この前言ったはずやで! ウチも『闇』に気付くことできるけど、ギンガスパークの方が正確やから常日頃持っておくようにって! というか、普通そういうアイテムって常日頃携帯するもんとちゃうん!? 変身アイテムなんやし!!」

 

「わかったよ! 説教は後で受けるから、早く行くぞ!」

 

 リヒトは希の説教から逃げるように家を飛び出した。希はまだ言い足りないのか、むすっとした表情を浮かべたが、ここで叱り続けても仕方ないと考えリヒトの後を追う。

 バイト中に飛び出したため希の服装は巫女服のままだ。そのせいか、すれ違う人の視線を集めてしまう。だが、その人数も()()()()()()()()()()()。先頭を走るリヒトはそれに気づいているのか、それとも気づいていないのか。彼の視線は、時折ギンガスパークへと向けられる。ギンガスパークが示す反応は、弱い時と強い時がある。おそらく、強い方を辿っていけば今回の『闇』に辿り着くだろう。

 絶対に阻止しなくてはいけない。

 そんな思いを抱くのと同時に、リヒトはひとつの不安を感じていた。

 それは、前回のダークガルベロス戦。敵の作りだした異空間での戦いだったため、リヒトの記憶に深く焼き付いているのだ。苦戦を強いられたあの戦いは、海未とことりの援護と、希の力のおかげで勝つことができた。もし三人の力がなければ、負けていたであろう。

 もし、今回も敵に有利な空間だった場合、ふたりの援護なしで勝てるのだろうか? 

 リヒトひとりで、光の力が弱体化する空間で、味方の援護がない状況で敵を倒すことができるだろうか? 

 ──そう自問自答してしまう。

 

(いや、勝つんだ! 何があったとしても、俺は勝たないといけないんだ!!)

 

 それに『シージスの力」が作り出す空間でも、必ず勝てる保証はない。

 命をかけた戦いにそんな考えを抱いていては、命取りになる。

 

「……あー! もう! なんでこんな朝から敵は動くんだよ!!」

 

 赤信号に引っ掛かり立ち止まる。その時リヒトは、このネガティブな考えを振り払うために大声をあげた。

 

「そんな文句は言うても意味あらへんよ。こっちの都合なんて考えてるわけあらへん。むしろこっちが動ける時間で良かったとおもうしかないねん」

 

「…………」

 

 確かに敵がこっちの都合など考える訳がない。今回、朝早い時間だったとはいえリヒトが行動可能な時間だった。これがもし、リヒトが行動できない時間だったら? 戦えるのはリヒトしかいないのに、そのリヒトの動きが封じられたときはどうすればいい? 

 次々に浮かんでくるネガティブな考えを、リヒトは頭を振り頭の中から消し去った。同時に信号が青に変わり、リヒトは走り出す。

 とりあえず、今は動けるのだ。目の前の問題を片付けよう。

 そう考えながら走っていると、ふと周囲から人の気配が消えていることに気づいた。そして、何か幕を潜ったような感触を感じ、リヒトは来た道を振り返る。

 

「今のって……」

 

「たぶん、位相変異の境やろうな」

 

「てことは、この先は、……!」

 

 リヒトは辺りを見回して目を見開いた。周囲の光景が変化していたのだ。

 オレンジ色のオーロラがかった少し暗めの青空に、赤土色の地面。リヒトが初めて現実世界で戦ったときの、光の異空間だった。

 それはつまり、この場でギンガとして戦った場合、光の恩恵を受けれるということ。自分の有利なフィールドと言うことだ。これならば、苦戦せずに戦える。リヒトの顔が自然と笑みに変わっていた。

 

「りっくん」

 

 その表情を見たのか、希は強めのトーンでリヒトを呼ぶ。そしてその真剣な眼差しでリヒトを真っ直ぐ見つめ言う。

 

「油断は禁物や。いくらここがギンガに有利な空間だったとしても、必ず勝てるという保証はない」

 

 希の言葉がリヒトの油断していた心に突き刺さる。

 

「──わかってる。気は抜かないさ」

 

 リヒトは改めて気を引き締めた。たとえ、今ここが(じぶん)にとって有利な空間であっても、こんな気持ちでは負ける。

 パチンと、リヒトは両手で頬を叩く。そして、二人は再びギンガスパークの反応を頼りに走り出す。

 そして、二人のたどり着いた場所は──―。

 

「──ここって、西木野の家」

 

 二人の目の前に立つのは、リヒトが先日真姫を送り届けた西木野家だった。

 

「りっくん、真姫ちゃんのこと知っとるん?」

 

「ああ。昨日じいちゃんに頼まれた買い物のときに……そういえば」

 

 リヒト何かを思い出したのか、顎に手を当てる。それを見た希は「なに?」とリヒトに聞く。

 

「西木野と別れるとき、僅かにギンガスパークが反応したような気がしてさ」

 

「ちょっ、それって──」

 

 ──『闇』の反応ちゃうん、とは続かなかった。

 バタンッ! と音を立てて玄関のドアが開いたのだ。リヒトと希は驚いて視線を向けると、真姫の両親が飛び出してきた。父親らしき人物は自分で立つことが出来ないのか、母親らしき女性に肩を貸してもらっている。家の中にいるなにかから逃げるように出てきた二人は外へ出ようとするも、父親らしき男性が上手く歩けずにもたついてしまう。

 そこへ、後ろから衝撃波が二人を襲い、リヒトたちの方へ飛ばされてくる。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 リヒトは慌てて二人の元に駆け寄る。

 

「私は大丈夫。でも、パパが……」

 

 母親の方に目立った外傷はない。だが、父親の方は何度も壁に叩きつけられたかのようにボロボロだった。ひどいところでは痣や擦り傷も見受けられる。先ほど二人を襲った謎の衝撃波が、父親だけを狙っているのだとリヒトは瞬時に理解した。

 

「とりあえず、ここから離れないと」

 

 再び衝撃波が来る、と言おうとしたところで、家の中から再び謎の衝撃波が襲ってきた。

 

「っつ」

 

 リヒトは反射的にギンガスパークを構える。だが、衝撃波の方が早く真二とリヒトを吹き飛ばす。

 ドサッ、と浮いた体が地面に落ちる。リヒトは直撃を受けずに済んだが、直撃を食らった真二の方は大丈夫だろうか? リヒトはうつ伏せに体の向きを変え、真二の方を見る。

 真二は受け身を取れなかったのか、起き上がる気配がなかった。リヒトは腕に力を入れ立ち上がる。直感的に三撃目が放たれたことを悟ると、反射的にギンガスパークを振っていた。スパークブレード部分が青く発光し、斬撃が放たれる。放たれた斬撃が衝撃波とぶつかり打ち消す。

 

「希! 二人を頼む!!」

 

 リヒトはそう告げると、家の中へと駆け出していく。後ろから希と織姫の声が聞こえてくるが、リヒトは振り返らず家の中に入った。

 家の中はグニャリと歪んでおり、長時間いると酔ってしまいそうな空間となっていた。リヒトは酔う前に視線をギンガスパークへと落とす。ギンガスパークは激しく点滅している。

 

(まずはあの衝撃波の正体を探らないと)

 

 そう思い一歩踏み出した時だった、四方八方から謎の衝撃波がリヒトを襲った。

 

「ガッ!?」

 

 ギンガスパークのバリアで防げるのはかざした方向のみ。かざしていない方向からの攻撃は防ぐことができない。そのため後ろから襲ってきた衝撃波を防ぐことが出来ず、リヒトはリビングへと飛ばされる。

 床やソファーに叩きつけられ、肺から空気が吐き出されていく。

 

「くそっ!」

 

 リヒトはソファーを背後に座る。まずはこの衝撃波を防がなければ、リヒトへダメージが蓄積されるだけで先にダウンしてしまう。攻撃が来る方を限定するために、ソファーを背後にするリヒト。これで攻撃が飛んで切るのは左右と上、そして正面だけ。これならギンガスパークの展開するバリアで防げる。

 

「……」

 

 リヒトはギンガスパークを構えるが、先ほどまで怒涛の勢いで放たれた衝撃波は、止んでしまった。

 

(なんだ? 攻撃が、止んだ?)

 

『へえー、まさかリヒトさんが来るなんて、どうかしたのかしら?』

 

「西木野……?」

 

 真姫の声がリビングに響いてきた。リヒトは辺りを見回すが、真姫の姿はない。

 

「西木野! どこだ!? どこにいる!? 出てきてくれ!」

 

 リヒトは叫ぶが、真姫は姿を現さない。代わりに声が響いて来るのみである。

 

『じゃあ、パパは外に出たんだ。うーん、あまり罰与えられなかったなー。え? なに? ……そうね、確かに外に出ればいいわね。フフっ、まだまだ逃がさないわよ』

 

「……西木野?」

 

 リヒトは聞こえてくる真姫の声から、異変を感じ取った。

 

(あまり罰を与えれなかった? それって、まさか、あの衝撃波は西木野が放ってたってことか!?)

 

 もしそうなら、真姫は自分の父親を攻撃しておいて、何の罪悪感も感じていないという事になる。むしろ、それを『罰」と言って正当化していると思われる。今自分が行っていることは、正しい事、当然の事と疑っていないと、先程の声音から判断できる。

 そしてもうひとつ、リヒトは気になったことがあった。聞こえてくる声は真姫だけなのだが、まるで誰かと会話しているように聞こえたのだ。その誰かに促され、外へと逃げた父親を追おうとしている。

 ──ならば、今真姫は外に出ようと玄関付近にいるはず。

 リヒトは素早く立ち上がり、転がるようにリビングから廊下に出た。ギンガスパークを構え視線を上げると、果たして真姫の姿があった。可愛らしいパジャマに身を包んでいるが、その手には不釣り合いなほど怪しく光るモノが握られている。

 

「西木野……それって」

 

「ああ、これ。フフ、きれいでしょ。これを振るとパパに『罰』を与えれるの」

 

 そう言って真姫は妖艶な瞳でソレを見る。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──ダークダミースパークを。

 リヒトは真姫がなぜそれを持っているのか疑問に思ったが、それよりも先に気になることがあった。

 

「罰? 罰ってなんだよ。これが罰って言うのか!?」

 

「ええ、そうよ。これは『罰』なの。パパが私を苦しめた『罰』。当たり前のことじゃない?」

 

「は? なにが当たり前だよ」

 

「だってそうでしょう。パパのせいで私は『夢』で苦しむことになったの。その『罰』を与えてもいいじゃない」

 

 真姫の言葉に、リヒトはまず呆れた。その後、真姫の言葉の意味を理解していき徐々に怒りが込み上げてきた。

 

「ふざけるな! そんなのは『罰』じゃねえ! ただの八つ当たりだろ!!」

 

「……なんですって?」

 

「自分の進みたい道を決めれない臆病者の、ただの言い訳じゃねえか! 自分の道を自分で決められないやつが、人にあたってんじゃねえよ!」

 

 ─―真姫はダークダミースパークを横に振るった。ただそれだけで、衝撃波がリヒトを襲った。不意を突かれたリヒトはバリアで防ぐことが出来ず、横へと吹き飛び壁に叩きつけられる。

 

「ガハッ!」

 

「……まあ、別にリヒトさんには関係ないか。──……ええ、わかってるわ。そろそろやってもいいわね」

 

 壁に叩きつけられた衝撃から回復できていないリヒトの横を、真姫は通って行く。リヒトは真姫の名を呼び手を伸ばすが、真姫は無視して家の外へと出て行く。

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 家の外に出た真姫が見たのは、ボロボロになった真二と、寄り添う織姫。そして、真二の傷を癒そうとする東條希の三人だ。希がいることに少々驚く真姫だったが、そんなことは別にどうでもよかった。

 真姫はその視線を真二へと向ける。

 

「……」

 

「フフ、随分な姿ね、パパ」

 

「……真姫」

 

 真二と真姫の視線が交差する中、希は真姫を見る。そして、その手に握られているダークダミースパークを見て驚愕する。

 ダークダミースパークはその名から分かる通り、『ティガ伝説』に記されている『ダークスパーク』のダミー品である。ダークスパーク自体は、ティガが使用後に行方不明となっており現在どこにあるのか不明である。その為真姫が手にしているのがダークスパークではないのかと思えるが、ガラスのように半透明であることから、違うものだということがわかった。それに、ダミー品であるため『ダークスパーク』ほどの強力な力はないのだ。もし本物の『ダークスパーク』だった場合、希の中にいる()()()が反応するはずだから。

 しかし、いま重要なのはそこではない。『ダークダミースパーク』は人の『心の闇』から生まれるモノだ。それが真姫の手にあるということは、真姫の心が()()()()()()ことを意味している。

 

(あかん、早くせえへんと真姫ちゃんが闇に堕ちる)

 

 ダークダミースパークを持っている──これがどれほど危険な状況なのか理解している希は、視線を真姫の後ろへと向ける。

 ──リヒトが出てくる気配はない。

 

「でも安心して、もうパパをいじめたりしないわ。その代り」

 

 真姫は己の左手を見る。真姫の周囲に漂い始めた『闇』がその手の中に集まり始める。そして、小さな人形の形になっていく。

 

(あれは、スパークドールズ!?)

 

 真姫の手の中に生まれた人形──スパークドールズを見て、希に緊張が走る。

 スパークドールズとは、『ティガ伝説』において『ウルトラマンティガ』がダークスパークの力を使い『大いなる闇』の力を分散させ、その力の一部を『大いなる闇』に従っていた怪獣と一緒に封じ込めた人形。本来であれば、地球の守護神と共に眠りについたはずの人形が、なぜ今真姫の手に生まれたのか。

 もしかして、ダークダミースパークが『大いなる闇』の力と共鳴し、呼び寄せたのだろうか。

 いや、今はそれを考えている場合ではない。真姫の手に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。一番まずい状況が作り上げられてしまった。

 

「私の『夢』で一番邪魔になったものを消すわ」

 

 真姫は、その手に持つスパークドールズの左足をダークダミースパークの先端に当てる。

 

『ダークライブ! カオスジラーク!!』

 

 希たちが驚きで目を見開く中、真姫が闇に包まれていく。真姫を包む闇は、次第にその容量を肥大化させていき、六十メートルを超える巨大なものへと変貌した。

 ──そう、ダークダミースパークにはギンガスパーク同様、使用者を依代としてリードしたスパークドールズへの変身できる力が備わっている。だが、ギンガスパークとは違い、解き放たれる力は『闇』。スパークドールズに眠る『闇』の力を、使用者の『心の闇』を糧に呼び起こすのだ。

 真姫の心の闇をダークダミースパークが増幅させ、スパークドールズに眠る怪獣の力と『大いなる闇』の力の一部が共鳴し、目を覚ます。

 闇が晴れ、(あら)わになった姿。クジラを化け物といった感じの容姿に、憤怒に染まった形相。真姫が変身したからなのか、女性のフォルムを持つ怪獣の名は『カオスジラーク』。

 娘の変わり果てた姿に、真二も織姫も言葉を失くしていた。

 その中で唯一、思考が動いている希は唇を噛んでいた。

 真姫がカオスジラークにダークライブしたということは、真姫が『闇』に囚われたことを意味している。このまま『闇』の力に侵食され続ければ、彼女は『大いなる闇』の生け贄となってしまう。

 そしてもうひとつ。今真姫はあの怪物にライブ、つまり変身したのだ。それはあの怪獣には真姫の意思が宿っていると言え、もしこのままギンガと戦うことになれば、戦いによって発生するダメージを真姫も受けてしまう。

 いわば人質を取られたようなもの。

 状況は、とても最悪な展開となってしまった。

 その中、カオスジラークはゆっくりと歩みを始める。先ほどまで必要に狙っていた真二を無視し、別方向へと向かう。

 不審に思う希だったが、カオスジラークの行き先に何があるのかを理解した真二は、痛む体を無理やり起こそうとする。

 

「ぐっ」

 

「パパ!」

 

 しかし体に蓄積されたダメージがひどく、すぐに倒れてしまう。

 

「マズイ、真姫が向かった先は、……病院だ」

 

 真二の発言に、織姫が「え?」と声を漏らす。そして希は、その発言から真姫が何をしようとしているのか予測がついた。

 

「まさか真姫ちゃん、病院を壊すつもりじゃ……」

 

 先ほど真姫は『私の「夢」で一番邪魔になったものを消すわ』と言っていた。その邪魔になったものが、家が経営する『病院』なのではないか? 

 

「そんなっ、病院には大勢の人がいるのよっ!?」

 

「やめるんだ真姫!! やめてくれ!!」

 

 織姫が驚愕の声を上げ、真二は真姫を止めるべく必死に叫ぶ。

 だが、カオスジラークはその歩みを止めることなく、病院に向かって歩み続ける。

 もはや、誰の声も真姫には届いていなかった──―。

 

 




やっと「ギンガ」らしいことが出来ました。
やっぱり「ギンガ」と言えば「ウルトライブ/ダークライブ」を使い、人間が怪獣へ変身するのが、魅力の一つですからね。
まあ、いろいろ真姫ちゃんが大変なことになってますが、リヒトはちゃんと救えるのでしょうか? 

次回はいよいよギンガVSカオスジラークとなります。

NEXT→「第四奏:歌姫の心」

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