ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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最終奏に入らなかったこのシーンを、番外編扱いで投稿させていただきます。
言い訳にしか聞こえませんが、これを同時に投稿させたかったので、投稿までに時間がかかりました。





Episode EX 歌姫と少女

 ──―ある日の休日。

 西木野家に一人の少女とその母親が招待された。

 少女の名前は火野(ひの)(あかね)。明日手術を控えている少女だ。小学三年生の身でありながら、心臓病を抱え、西木野総合病院に入院している。本日は時別に外出許可をもらい、西木野家へと足を運んだのだ。

 久々の外の空気に、本来なら胸を躍らせるのだが、手術の日が迫っているためかその表情は暗かった。

 

「ようこそ、茜ちゃん」

 

「……おねーちゃん」

 

 茜を迎えたのは、この家の一人娘でもあり茜が憧れた人物、西木野真姫(にしきのまき)だった。いつも見ていたのが制服姿であるため、今日のような私服姿は茜の目に新鮮に映った。

 

「こっちに来て、案内するわ」

 

 真姫に促され茜と母親は部屋の奥へと進んでいく。

 しばらく歩いていると、一つの部屋へと案内された。案内された部屋は、ピアノのある部屋だった。フローリングの大きな部屋の中央に置かれた、グランドピアノ。窓からは太陽の光と心地い風が入ってきており、ピアノに置かれた楽譜を揺らしていた。

 真姫は二人をソファーへ案内すると、ピアノへ向かう。

 

「茜ちゃん、私はピアノをやめていないわ。少しの間休んでいたの。小さいころから毎日ピアノに明け暮れていて、ちょっと疲れちゃってね。でも、もう大丈夫よ。長い休憩は終わり」

 

 真姫は語り掛けるように言いながら、ピアノへとたどり着く。

 

「……なんていうのは、ウソかな。私ね、中学生最後のコンクールでピアノを全力で弾いたの。ある人に私の『思い』を伝えたくて。でも、その人はホールから出て行っちゃってね、私は『自分の「思い」はその人に届かなかったんだ』って感じたの。それがショックで、私はピアノをやめた。でも本当は違ったの、本当は伝わっていた。私の『思い』が」

 

 真姫は椅子の高さを調整しながら続ける。

 

「うれしかったわ。私の『音楽』がその人に届いていて。それでね、私は自分の音楽をもっと人の心に届けたくて『スクールアイドル』を始めたの。私の『夢』、『人の心も救う医者』になるために。そして今日は、そのはじめの一歩」

 

 椅子の調整を終えた真姫は茜を見る。

 

「茜ちゃん、今から私はあなたの心に『音楽』を届けるわ。()()()()()()()()()()()()()()()すごい音楽を」

 

「おねーちゃん」

 

 真姫は茜に微笑むと意識をピアノへと集中させた。その表情は、まさに茜がコンクール会場で真姫を見た時と一緒だった。真姫の意識がピアノへと集約されていき、美しい十本の指が鍵盤の上に添えられる。

 ふぅー、と一息、真姫が息を吐き終わった瞬間──―。

 

 

 

 

 ──―研ぎ澄まされた音が茜の心に飛び込んできた。

 

 

 

 

 茜の心に眠る『恐怖心』を吹き飛ばすほどの『音楽』が、真姫の演奏で奏でられた。

 茜は真姫に憧れピアノを始めた際に有名な人の曲は大体聞いたので知っているが、今真姫が演奏しているのはそれのどれにも当てはまらない、初めて聞く曲だった。

 それもそのはずだ、この曲は真姫が作曲した曲なのだ。茜の『手術』に対する『恐怖心』、そして『これからへの不安』を感じている自分を勇気づけるための曲。

 前進を恐れず、素直になってみんなと喜びを分かち合いたい、そんな真姫(じぶん)へ。

 手術は怖い、だけどほんの少しの勇気で変われる、元気を、勇気を上げたい茜へ。

 真姫は、この曲を作った。

 最初は不安だった。今までピアノに明け暮れていたため他人と関わることが少なかった真姫は、新しい人間関係を作ることが苦手になっていた。

 それでも、勇気を出して一歩踏み出した。ほんの少しの勇気を出して、楽しい物語を作りたいから。独りぼっちを卒業するために。

 今思えば、これは茜より自分へのエールの曲になってしまったかもしれない。でも、それでいいのだ。なぜなら──。

 

 

 茜は自分の心に流れ込んでくる『音楽』に、心を奮い立たされていた。

 そして同時に感動していた、憧れの人が自分に向けてピアノを弾いてくれていること、憧れの人のピアノをこんな間近で聞けることが。今まではホールで聴いたことしかなかったため、ステージでピアノを弾く真姫とは距離があった。それが今ではほんの数メートル先にいる。

 

 

 

 

 ──―弾きたい。今、無性にピアノを弾きたい。

 

 

 

 

 真姫のピアノを聞いていた茜は素直にそう思った。

 ──―弾きたい、おねーちゃんと一緒にピアノを弾きたい。

 その思いが茜の中に渦巻く。

 見る者を、聞く者すら魅了し、その心を虜にする。それが『歌姫・西木野真姫』が奏でる音楽だ。

 茜の世界が、いや、それを一緒に聞いている茜の母親の世界すらも『音楽の色』に染まっていく。

 真姫の思いが『音』に乗り、それが『色』となって二人の心を染め上げていく。

 気が付けば二人は、音に染め上げられた世界に立っていた。様々な音符が二人の周囲を飛び交い、世界が広がっていく。音符たちは風に乗って茜の周りを飛び、茜の髪をさらう。

 

『さあ、勇気を出して一歩踏み出そう』

 

 そんな声が聞こえてきた。

 

 

 気が付けば、真姫の演奏が終わっていた。

 音の世界から戻ってきた茜と母親はしばらく窓から吹き込んでくる風を受けながら、真姫の演奏の余韻に浸っていた。

 演奏を終えた真姫は窓から吹き込んでくる風に髪をなびかせながら、上を向いて息を吐いていた。そして、茜のほうを見てニッコリ微笑んだ。

 真姫の微笑みを受けて茜はハッとなった。すぐさまソファーから立ち上がると拍手を送る。茜の拍手を聞いて母親もハッとなり拍手を送る。

 

「すごい! すごいよおねーちゃん!! 私感動した!! ママもそうだよね!!」

 

「ええ、すごいわ。初めて聞いた時以上に、あなた演奏に引き込まれたわ。もう、……ごめんなさい、あまりのすごさに言葉が出ないわ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 二人からの絶賛に真姫は頬を赤くして礼を言う。褒められるのはうれしいが、こうも「すごいすごい」と絶賛されると、恥ずかしさのほうが上回ってしまう。もっと素直になれないのだろうか。そこだけが歯痒い真姫だった。 演奏はうまくいった。茜の様子を見る限り、真姫の『音楽』は届いたと考えてもいいだろう。茜は真姫の演奏に満足したのか、満面の笑みを浮かべている。

 だが、真姫は茜に言わなくてはいけないことがある。

 

「茜ちゃん、実はこの曲ね、まだ完成していないの」

 

「え?」

 

 そんなはずはない、と茜は思った。だって先ほどの曲は茜と母親の心に響いたのだ。二人の世界を『音の色』に染め上げたのだ。そんな曲が未完成だなんて、茜には信じることができなかった。

 そんな茜に向け、真姫は言う。

 

「この曲はね、茜ちゃん、あなたと二人で演奏して初めて『完成』するの」

 

「私と……?」

 

「そう。実はこの曲ね、()()()に向けた曲なの。新しい一歩を踏み出せるように、後押しする曲。だから、私一人で弾いていたらまだ未完成なの。茜ちゃんと二人で弾いて初めて完成する曲。だから、最後まで弾かない。茜ちゃんの手術が成功して、元気になったら二人で弾きましょう。最後まで」

 

 それは、茜の『夢』である『真姫との二重奏』のお誘いだった。

 ずっと、初めて真姫の演奏を見てピアノを始めた時から思っていた『夢』。

 叶う確率が低いと思っていた『夢』。

 真姫がピアノをやめてしまい、もう叶うわけがないと思っていた『夢』。

 それが今、叶うかもしれない『夢』に変わった。

 

「茜ちゃん」

 

 真姫は茜のもとに近づきながらその名を呼ぶ。茜のもとにたどり着いた真姫は、先ほど引いた曲の楽譜と一枚のCDを茜に渡しながら言う。

 

「私はあなたと一緒にこの曲を弾きたい。元気な茜ちゃんと」

 

「おねーちゃん……」

 

「どうかな? 私の『音楽』届いた?」

 

「……」

 

 真姫は茜の瞳をまっすぐ見つめながら言う。

 茜は真姫から受け取った楽譜を見つめる。そして、瞳を閉じる。瞼の裏には、先ほどの音の世界が広がっていた。そして、その光景の真ん中で真姫と二重奏をする自分の姿を見た。

 

「うん、私頑張る。手術を受けて、絶対におねーちゃんと一緒にピアノを弾く! それが私の『夢』!!」

 

「茜ちゃん!」

 

 高らかに宣言した茜は、真姫に向けピースサインを送る。

 そこには、この家に来た時の暗かった表情はなく、弾けるような満面な笑みがあった。

 そして同時に真姫は感じた。自分の『音楽』が茜の心に届いたことを。自分の音楽が茜の『手術に対する恐怖心』を吹き飛ばせたのではないか。

 茜の笑みから真姫はそう感じた。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

「今日はありがとう! おねーちゃん!!」

 

「手術頑張ってね」

 

「うん!」

 

 最後に二人の『夢』を実現させるための約束を交わし、茜は病院へと戻っていった。

 

「……」

 

 茜には自分の『音楽』が届いた。

 だが、これからはもっと奥の人々の心に届く『音楽』を作らねばならない。

 できるのだろうか? 自分の音楽で、多くの人を感動させることが……。

 今まで自分は既存の曲で戦ってきた。一度だけオリジナルの曲で賞をもらったことがあるが、その一度きりだ。作曲なんて普段はめったにしない。

 それなのに、これからはオリジナルで勝負をしなければならない。不安は大きいに決まっている。

 

(大丈夫、私にはできる。だって──―)

 

 そう思っていたとき、まるで狙っていたかのようなタイミングで──。

 

 

 

 

「おーい! 真姫ちゃーん!!」

 

 

 

 

 一緒に歩んでくれる、心強い友達(なかま)の声が聞こえてきた。

 振り返ってみれば、同じタイミングでスクールアイドルに入った親友二人が、こちらに走ってくるのが見えた。

 

「まったく……」

 

 こっちは少し考え事をしていたというのに、あの元気溌剌な声を聴いたら、自然と顔が緩んでしまった。

 そうだ、不安を感じる必要はない。今の自分には共に道を歩む友達(なかま)がいるのだ。立ち止まりそうになったとき、助けてくれる友達(なかま)がいる。

 

「そう、私はもう、一人じゃない」

 

 ──私の未来は、私の手で掴む!! 

 

 そのための一歩を、もう一度踏み出そう。

 

「凛! 花陽!」

 

 

 

 もう少女は『(みち)』に迷うことはない。その道を示してくれる光が、ともに歩む仲間がいるのだから。

 

 

 

 

 




以上をもちまして、本当の意味で「第4話」が終了です。

一応説明しますと、この話は第5話の後の時系列になります。なので次回はまた時系列が戻ります。どこまで戻るかというと、第4話の第二奏まで戻ります。まあ、早い話が第4話と第5話同じタイミングで事件が起きていたということになりますね。

さて、第5話投稿までは時間がかかりますので、しばらくお待ちください。

感想などお待ちしております。

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