ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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四ヶ月間更新せずにすいませんでした!! 
気が付けばμ'sのfinalLiveが終わり、サンシャインのアニメが始まり、ウルトラマンもエックスからオーブへとバトンが渡っている……、時の流れって恐ろしいですね(白目)

それでも、こちらで展開されていくμ'sの物語まだまだ終わりませんので(そもそも始まってすらいない……)、お付き合いよろしくお願いします!



第5話 憧れから咲く花
第一章:憧れ


 それは、まだ小泉花陽が幼かったころ。

 テレビに出ているアイドルの真似をして、おもちゃのマイクを片手に笑顔を振りまいていたころだ。

 その時の花陽は、毎日のようにテレビに映るアイドルに瞳を輝かせ、『アイドル』というものに熱中していった。

 好きなアイドルの歌を覚えて、よく家族の誕生日パーティなどで歌っていた。

 ビデオテープが擦り切れるほどに見返し、振り付けを必死に覚えた。

 そして、花陽の五歳の誕生日だっただろうか。いつも通りにマイクを片手に歌う花陽は、カメラを構える両親に、こう宣言した。

 

『私、将来アイドルをやりたい!!』

 

 満面の笑みで告げる花陽。

 ──しかし、そんな彼女の『夢』はとあることをきっかけに壊れてしまった。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

「…………」

 

 学校から帰宅した花陽は、ソファーに座りどこか熱のこもった瞳で虚空を見つめていた。

 家に帰宅してからすでに二時間は経とうとしているが、体の熱は収まる気配がない。それほどまでに、先輩たちのライブに感動したのだ。

 憧れていたスクールアイドルが、まさか自分が通う学校で誕生し、そのファーストライブを見ることができた。

 いわば『始まりの瞬間』を目撃したのだ。

 それほどの興奮がそう簡単に消えてたまるか、花陽はそんなことを思いながらライブの余韻に浸っていた。

 しばらくぼーっとしていると、玄関の開く音が聞こえ、彷徨っていた花陽の意識が戻る。

 ガチャリ、とリビングのドアが開かれ、一人の男性が入ってくる。

 

「ただいま。

 ──その様子だと、いいことあったみたいだね?」

 

 そう言って花陽に微笑みかけてくるのは、四歳年上の兄・小泉太陽(こいずみたいよう)だ。

 太陽はソファーに座っている花陽の元に来ると、頭を撫でる。兄に撫でられ、少々照れくさくなるが、嬉しいので手を払いのけたりしない。

 

「お兄ちゃん、お帰り。うん、ちょっとね」

 

「そういえば、今日は花陽の通う高校で誕生したスクールアイドルのライブだっけ? それが関係しているのかな?」

 

 花陽が通う音ノ木坂学院でスクールアイドルが誕生したことは、花陽の口から家族全員に語られている。同じアイドル好きである太陽は興味があるのか、隣に座って続きを待っていた。

 

「うん。それがね──」

 

 花陽は普段は温厚で心優しい性格なのだが、ある二つのことになるとキャラが変わったかのように饒舌になる。

 それが、アイドルと白米のことだ。

 後者はあまり見られないが、前者はよくある。

 幼い頃からアイドル好きな花陽は当然スクールアイドルにも精通している。その為、花陽にアイドルまたはスクールアイドルについて語らせると、止まらなくなるのだ。

 今も自分が今日体験したスクールアイドルのファーストライブの感想を饒舌に語っていた。

 太陽はそれを止めることなどしない。元々家族全体がアイドル好きであることも関係しているが、それにより普段は内気な妹が、ハキハキと好きなものについて語っているのだ。しっかりと聞いてあげるのが、兄の務めだと思っている。

 だから太陽は、花陽の話をしっかりと聞き、相槌を入れ笑う。

 そんな兄だからこそ、花陽も気軽に話せるのだ。

 そして同時に、太陽はいつも思うことがある。

 

 ──本当に、花陽はアイドルが好きなんだね。

 

 おそらく妹は、家族の中で一番アイドルが好きなのだろう。どうしてそこまで好きなのか太陽は知らないが、ここまで語れることは純粋にすごいと思った。

 だからこそ、ついつい聞いてしまう。

 

 

 

 

「花陽は、スクールアイドルをやらないの?」

 

 

 

 

 太陽の言葉を受け、花陽は一瞬目を見開くと、普段のようにしおらしくなってしまった。

 

「む、無理だよ。私なんかじゃ……。

 声も小さいし、背も低いし、こんなに恥ずかしがり屋なのに……ステージに立つなんて……」

 

「…………」

 

 花陽は大のアイドル好きである。

 しかし、花陽は『自分がやりたい』と言わなくなってしまった。子供の頃は素直に『やりたい』と言っていた花陽だったが、小学生の頃だろうか。その時ぐらいから言わなくなってしまったのだ。むしろ逆に『自分にはできない』と言い出してしまう始末。

 花陽に何があったのか、どうしてそんなことを思うようになってしまったのかを、太陽は追及したりはしないが、花陽の瞳をまっすぐ見て太陽は言う。

 

「僕はそんなことないと思うけどな」

 

「……そんなこと、あるよ」

 

 花陽は先ほどまでの威勢はどこへ行ってしまったのか、両手を握りしめ体を小さくしてしまっている。

 

「そっか。ごめんね、こんなこと言って」

 

 太陽はそう言って立ち上がる。

 

「お兄ちゃんが謝るようなことじゃないよ」

 

 そういう花陽に太陽は一度微笑むと、ポン、と花陽の頭に手を置く。優しくなでると、カバンを自室に置くためにリビングを出て行こうとするが、何かを思ったのか扉の前で止まると、花陽の方に振り返る。

 

「花陽、ウソはついていいけど、心にまでウソはついちゃだめだよ」

 

「──え?」

 

 どういう意味? と花陽が聞く前に、太陽はリビングを出て行ってしまった。

 一人取り残された花陽は、兄が先ほどまでいた場所を見つめているだけだった。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 翌日、花陽は英語の授業を受けながらチラシを見つめていた。

 昨日兄から言われた一言、『ウソはついていいけど、心にウソはついちゃだめだよ』。結局その言葉がどういう意味だったのかを聞くことはできなかったが、何となく花陽はその言葉の意味を分かっている気がした。

 ──私は……。

 

「それじゃ、ここ、小泉読んで」

 

「あ、は、はいっ」

 

 先生に指名され、慌てる花陽。

 

「えっと……」と教科書のページを見る花陽。先ほどまで兄の言葉について考えていた為、どこを読めばいいのかわからなくなってしまった。慌てて教科書に目を走らせると、隣の生徒が「ここだよ」と言って読むべき場所を教えてくれた。

 一言「ありがとう」というと、花陽は英文を読み始める。しかし、こういったことが苦手な花陽は読む声がどんどん小さくなっていってしまう。

 先生もそれに呆れたのか、別の子に続きを読むよう指名してしまった。

 花陽は相変わらずの自分に落ち込むしかなかった。

 

「無理だよね……こんなんじゃ……」

 

 いつもそうだ。自分はこういった誰かの前で発表することを苦手としている。これではステージに立ち大勢の人の前で歌うスクールアイドルなど、出来るはずがないのだ。

 花陽はチラシを見る。

 そこには『メンバー募集』と書かれているが、その言葉がとても遠くに感じた。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 放課後、下校のために教科書をカバンに入れていると星空凛がやってきた。

 

「かよちーん、決まった? 部活。

 今日までに決めるって昨日言ってたよ」

 

「あ、そ、そうだっけ? ……明日決めようかな」

 

 そう言って逃れよとする花陽だったが、凛は逃がさないといった感じに花陽に詰め寄る。

 

「そろそろ決めないと、みんな部活始めてるよ」

 

 凛の言う通り、花陽から見てもクラスの大半はもうすでに部活に所属している。残りの生徒は未だにどの部活に入ろうか迷っている者だろう。

 原則として、音ノ木坂学院は部活に必ず入らなければならないという決まりはない。

 しかし、今年は一年生が一クラスしかないせいか、先輩たちも勧誘に気合が入っており、昼休みによく勧誘しにやってくる。そのおかげもあってか、すでにクラスの大半は部活に所属又はどの部活にするかを決めており、おのずと帰宅部になる者はいないのではないかと考えられた。

 四月も終わりが近づいてきており、そろそろ部活を決めなければスタートに送れてしまう。急いで決めなければと花陽も頭ではわかっているのだが、未だにコレ! といった部活がないのが、正直なところだった。

 

「うん。え、えっと、凛ちゃんはどこ入るの?」

 

「凛は陸上部かな~」

 

「陸上かー」

 

 花陽と凛は幼稚園からの長い付き合い、つまり幼馴染だ。小学校、中学校も同じだったため凛が陸上が得意だということは知っている。元々高い運動神経を持っていたのに加え、足の速かった凛は小学校の陸上記録会にて大きな記録を残し、中学の陸上部では何度も表彰台に上った。それを踏まえれば、彼女が高校でも陸上部に入るのは必然だった。

 そんなことを考えていると、凛は何かに気が付いたのか、「あっ」と声を上げると花陽の正面に回る。そして、内緒話をするかのように口元に手をもっていくと、

 

「もしかしてぇー、スクールアイドルに入ろうと思ってたり?」

 

「えぇ!? そ、そんなこと……ない」

 

 花陽が凛をどういった少女かを知っているのならば、その逆もある。凛もまた、花陽がどういう少女かを知っているのだ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからこそ、花陽が本当は昨日見た先輩たちと一緒にスクールアイドルをやりたいと思っている。そう感じていた。

 

「ふーん、やっぱりそうだったんだね」

 

「そんなこと──」

 

 花陽は否定しようとするが、凛の人差し指に口をふさがれる。

 

「だめだよかよちん。ウソつくとき、必ず指を合わせるから、すぐわかっちゃうよーん」

 

「……」

 

「一緒に行ってあげるから、先輩たちのところに行こう」

 

 花陽の性格を理解している凛は、このままでは彼女は絶対に一人で先輩たちの元に行かないだろうと判断し、無理やりにでも連れて行こうとするが、花陽は行こうとはしなかった。体に力を入れ椅子から立ち上がろうとせず、「違うの」と叫んで凛を止める。

 

「私が、アイドルなんて……」

 

「大丈夫だよ。かよちん可愛いから、人気出るよ?」

 

 凛はそう言って花陽の腕を引っ張るが、やはり花陽は動こうとはしなかった。「待って!」と叫んで凛を止めると、探るように言う。

 

「あ、あのね。わがまま、言ってもいい?」

 

「しょうがないな、なに?」

 

「もしね、私がアイドルをやるって言ったら、一緒にやってくれる?」

 

「…………」

 

 その言葉に、凛は衝撃を受けた。誘われたことに対してではない。

 自分がアイドルをやる、という発想に衝撃を受けたのだ。

 確かに女の子なら誰しも一度は、テレビに映るアイドルに憧れるだろう。可愛い衣装を着て、可愛い笑顔で、華やかにダンスを踊り歌を歌うアイドル。凛だって十五年生きてきた人生の中で、アイドルに憧れたことはもちろんある。

 だが、『アイドル』というものは、星空凛にとって()()()()()()()()()と決まっている。

 

「無理無理無理! 凛はアイドル何て似合わないよ。ほら、女の子っぽくないし、髪もこんなに短いし」

 

 そう言って自分の髪を触る凛。

 確かに、凛の髪はボブである花陽に比べても短い。聞くところによれば、一時期は長い髪の時もあったらしいが、よく外で遊ぶ子供だったため、その際に邪魔になることが多く切ってしまったらしい。

 髪の効力もあってか、顔もやや中性的な印象があり、中学時代の文化祭では執事に男装したこともある。

 

「…………」

 

「ほら、それにさっ。凛が小学校の時スカート穿いたけど、全然似合ってなかったじゃん? だから、凛にはアイドルなんて絶対に無理だよ」 

 

 そう言って笑う凛だったが、その笑顔はどこか寂しそうだった。

 

「それじゃ凛、今日も陸上部の体験に言ってくるから、ちゃんと明日までに決めるんだよ?」

 

「う、うん」

 

 これ以上この話に触れたくないのか、凛は陸上部の体験入部のため教室から出て行った。

 

「…………」

 

 先ほどの話は、花陽もよく知っている。

 あれは、小学生の時だ。いつもズボンを穿いている凛だったが、その日だけはスカートを穿いたのだ。一つ上の姉のお下がりらしいが、捨ててしまうにはもったいなかったらしくちょうどスカートに興味を持っていた凛が貰ったのだ。

 花陽は凛のスカート姿をものすごく褒めていたが、同じ通学路を通る男子にからかわれ、ショックを受けた凛は着替えてしまった。これ以降凛が日常生活でスカートを穿くことは無くなり、おそらくこれがトラウマになってしまったのだろう。

 

「凛ちゃん……」

 

 凛はアイドルなんか絶対に無理と言っていたが、それはないと花陽は思っていた。いくら中性的な顔付きだと言っても、凛は可愛い。笑顔が素敵だし、いつも笑顔で、いつも元気で、自分とは百八十度違い、思いっきり自分を表現できていた。髪が短いからというが、そのショートカットが凛の可愛さを引き立てていると、花陽は思っている。

 そして何より、凛は花陽が持っていない『強さ』を持っている。

 恥ずかしがり屋で、泣き虫で、臆病な自分とは違い、強い『自信』を持っている『強い女の子』。

 それが、小泉花陽が星空凛に持つ思いだった。

 ──私にも、凛ちゃんみたいな『強さ』があれば……。

 そんなことを思いながら廊下に出ると、クラスメイトである西木野真姫の姿が見えた。

 ──西木野さん? 

 彼女は、廊下に置かれた机の前に立っていた。

 気になった花陽は、教室に身を隠し真姫の様子を影ながらに伺う。

 確かあそこは、ファーストライブのチラシが置かれている場所だ。真姫はチラシを一枚手に取り見つめている。

 

『…………』

 

 真姫が何を考えているのか、花陽にはわからない。

 花陽から見た真姫の印象は、『少し怖い人だけど、歌がすごくうまい人』だ。近寄りがたい雰囲気が漂っており、教室の中でもあまり誰かと話している様子は見たことない。休み時間も図書室か音楽室に行ってしまっているため、姿をほとんど見ない。それでも、音楽室から聞こえてくる歌声はとても素晴らしく、花陽は真姫の歌声が大好きだった。入学からしばらくたっているのに、未だに真姫と話したことはないが、頑張って話しかけたいと思っている。

 そんな彼女がスクールアイドルに興味があることは、過ごし意外に見えた。

 

『……っ』

 

「──え?」

 

 真姫は何を思ったのか、くしゃりとチラシを握りしめてしまった。

 衝撃を受ける花陽だったが、真姫も無意識のうちにやってしまったのか、ハッとなって我に返ると、あたりを見回し急いでチラシをカバンに入れると走り出す。

 真姫の姿が消えてから、花陽は先ほどまで真姫のいた場所に行く。

 そこには、生徒手帳が落ちていた。花陽はそれを拾い誰のか確認すると、そこには西木野真姫と書かれていた。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 花陽は拾った生徒手帳を真姫に届けるため、職員室にいる担任教師から住所を聞き、真姫の家へと向かっていた。先生から受け取ったメモを頼りに道を歩いていると、道先にサングラスをかけた髪の長い女性がいることに気が付いた。黒いレースの服に身を包み、長く黒い髪は風に揺られていた。

 女性は花陽の視線に気が付いたのか、こちらの方を向くと近づいてくる。

 見知らぬ女性の接近に花陽の体に緊張が走る。サングラスによって瞳は見えないが、その奥の瞳は間違いなく自分を見つめている。女性は迷うことなく花陽へと近づいてくる。

 花陽の体に走る緊張が強くなる。

 そもそも、花陽は人見知りする性格だ。他人と打ち解け合うのに時間がかかる花陽が、今見知らぬ人に迫られている。サングラスによって素顔が見えないため、どういう意図で近づいてくるのかが読めないのだ。あたりを見回すも、運悪く人が通りそうな気配はない。なぜ親友と帰らなかった日に限って、こんなことになるのだろうか。

 ──誰か、助けてぇ。

 パニックになる花陽。

 そして、花陽の緊張がピークに達する瞬間──。

 

 

 

 

「すいません、少し道を教えてくれないかしら?」

 

 

 

 

「へ?」

 

 花陽の口から間抜けな声が漏れる。

 

「その、道案内をお願いしたいのだけど、ダメかしら?」

 

「え、えっと……」

 

 ゆっくりと花陽は思考を回転させる。

 どうやら女性は、花陽に道を尋ねるために近づいて来たらしい。サングラスによって素顔が見えないため、何をされるかわからず緊張してしまった花陽は、それが自分の勘違いだと気が付くと恥ずかしくなって顔を赤くした。

 その様子を見た女性は、自分のせいで目の前の少女が脅えてしまったことを察し「ごめんなさいね、驚かせちゃって」と言った。

 

「いえ、だ、大丈夫です」

 

「やっぱり、見た目が怖いのかしら。あなたの前にも九人ほどに声をかけたのだけど、全員に断られてしまってね。心が折れかけていたわ」

 

 女性の言葉に、花陽は苦笑いをするしかなかった。確かに黒いレースの服に加え、黒いサングラスをかけているとなると、素顔がわからず緊張してしまうは仕方ないことだろう。

 

「やっぱりサングラスかしら? でも、私目が悪いからこれかけていないといけないのよね」

 

 カチャリ、とサングラスの位置を直す女性。 

 どうやら、オシャレのためにかけているわけではなく、目の保護のためにサングラスをしているらしい。

 

「目が悪いんですか?」

 

「ええ、ちょっとね。光に弱いの、特にこの時間は日が沈んで夕日になるでしょ? 一番危険な時間なのだけど、この時間しか余裕が持てなくてね。無理して来たのだけど、道がわからなくなってしまってね。道案内してくれるとうれしいのだけど」

 

 本当に困った様子なのか、両手を合わせてまでお願いしてくる女性。さすがの花陽も、見知らぬ相手に対しての道案内は不安があるが、押しに弱い花陽は女性の勢いに負けて頷いてしまった。

 

「ホント! ありがとう~」

 

 勢いよく花陽の手を掴み感謝を述べる女性。

 押しに負けて頷いてしまった花陽だが、ここまで困っている人を見逃せなかったのもまた事実なため、結果は変わらなかっただろう。むしろこんな形になってしまったが、目の前の困っている人を助けることは嫌なことではなかった。

 

「それで、どこへ案内すれば」

 

「そういえばまだ言ってなかったわね。CDショップに行きたいのだけど、この近くにあるかしら?」

 

 女性の案内先を聞いて、よかったと花陽は思った。CDショップならここから自宅までは遠回りになってしまうが、自分がよく行く店がある。見知らぬお店の名前が出たらどうしようかと思ったが、そこならば案内できる。

 

「ありますよ」

 

 花陽が言うと、女性の顔が明るくなる。

 

「案内、お願いできるかしら?」

 

「ハイ」

 

 こうして、二人は花陽行きつけのCDショップを目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

「そういえば、名前もまだ言ってなかったわね。私はユーカ。あなたは?」

 

「小泉花陽です」

 

「花陽ちゃんか、可愛い名前ね」

 

 えへへ、と照れる花陽。

 歩き始めて数分。さすがに無言のままではどうしようかと思っていた花陽だったが、ユーカと名乗る女性の積極的なコミュニケーションにより、その不安は解消された。さらに、本来は人見知りである花陽だが、ユーカの絶妙なコミュニケーション能力のおかげで会話がスムーズに進んだ。花陽自身も、初対面の人とここまで会話できることに、驚きを覚えていた。

 

「えっ? ユーカさんアメリカに留学してたんですか!?」

 

「まあね。久しぶりに地元に帰ってきたついでに、思い切って東京に遊びに来たのだけど、迷子になっちゃってね。やっぱりちゃんと下調べしておくべきだったわね」

 

 トホホ、と肩を落とすユーカ。

 

「まだあるか不安なのよね~。久乃千紗(ひさのちさ)のニューアルバム」

 

「え? 久乃千紗さんのこと知っているんですか?」

 

 久乃千紗。その名を知らぬものは、このご時世に少ないだろう。現在二九歳である現役トップアイドル歌手である。元々はグループアイドルのメンバーの一人であったが、三年前にグループを卒業。以後ソロ活動として、歌手の傍ら女優までこなす実力派人間である。

 ファンとは常に真摯に向き合い、仕事も決して手を抜かず、その情熱から一度ステージ上で倒れたこともあるほどに、一切物事に手を抜かない人だ。

 その性格故か、彼女の曲はストレートな気持ちを歌詞に表したものが多く、男性に負けないパワフルな歌が特徴である。しかし、それだけではなく彼女が歌うラブソングは慈愛に満ちており、繊細で普段とのギャップに驚くファンもいる。若者を中心に絶大な人気を誇り、彼女の出すCDはランキング上位に必ず入っている。

 もちろん花陽も彼女の絶大なファンであり、CDは必ず特典版を買っているし、ライブにも何度か足を運んだことがある。グループ時代からの活躍を知る花陽にとって、彼女の力強い歌は勇気をくれるモノだった。

 さらに言うならば、花陽にとって久乃千紗は『憧れの人』である。ステージ上で倒れるまで気力を使い、ファンを楽しませるために全力で歌を歌う。メモリアルボックスの特典DVD で語られるステージ裏では、グループに会所属していた時代は常にメンバーを鼓舞し、絶対的な自信を放っていた。

 その『絶対的な自信』が花陽にとって羨ましかった。

 自分にはない『絶対的な自信』を持っている人物。

 花陽は彼女のように『強い女性』になるのが夢だった。

 そんな子枯れの女性の名前が、まさか今日あった初対面の人の口から出るとは思ってもいなかった。

 

「当り前じゃない。私、これでも彼女の大ファンなのよ。留学先でも、必ず彼女のCDを聞いていたし、日本に住んでいた時は必ずライブにも足を運んでいたわ。今日はちょうど留学中に発売されたCDを買いに来たの。それ以外はアルバムを含めてすべて持っているわ!!」

 

 ドドン! と効果音が付きそうなほどまでに力強く宣言するユーカ。

 サングラスによりその瞳は見えないが、おそらく花陽の想像する通りの瞳があるのだろう。

 ならば──、

 

「────」

 

「!!」

 

 花陽は思い切って千紗の代表曲ともいえる曲のワンフレーズを口ずさむ。

 ユーカはそのワンフレーズに驚きの反応を示した後に──、

 

「──」

 

 自らもそのワンフレーズを口ずさんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──」

 

「!?」

 

 次に仕掛けたのは、ユーカだった。

 しかも口ずさんだフレーズは、メモリアル特典のみに収録される特別な曲。ただし、メモリアル特典の中でも希少である初回限定版メモリアルに収録されていた曲だ。その曲を知っているということは、

 

「────」

 

「────」

 

 そして、同時に花陽とユーカはフレーズを口ずさむ。まったく同じフレーズを、同じタイミングで。

 

「花陽ちゃん!」

 

「ユーカさん!」

 

 ガシッ、と二人は力強く握手を交わす。

 どうやら二人は、久乃千紗という共通の趣味を見つけたようだ。

 その後も、二人は千紗の話で盛り上がりながらCDショップを目指した。

 普段は人見知りである花陽も、アイドルの話となればその性格は百八十度変わる。普段の姿からは想像できないほどにハキハキと饒舌に語る花陽。普段から抱えているアイドル知識を思う存分放出できる花陽、ユーカの持つ知識も花陽と同等レベルであり二人の間で会話が止まることはない。おそらく、花陽のことをよく知る凛でさえここまで生き生きと話す花陽の姿は、見たことないだろう。

 しばらく歩き大通りへと出る二人。

 平日ではあるが他校の下校時間などと被ったのか、大勢の姿が見て取れた。

 

 

 

 

 ──その時だった。二人は()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「──へぇ」

 

 瞬間、先ほどまでとは雰囲気の異なる声がユーカから発せられた。

 

「?」

 

 その声は花陽の耳に届いていたが、花陽がユーカの方を伺ったときにはすでに元の雰囲気となっており、花陽は『聞き間違いかな……』と首をひねるのだった。

 しばらくして目的地であるCDショップに到着した二人は、花陽の案内の元無事目的のCDを購入することが出来た。

 目的のものが買えて満足なのか、満面の笑みを浮かべCDショップから出てくるユーカ。サングラスによりその瞳は見えないが、口元がほころんでおり購入したCDの入っている紙袋を抱きしめるあたり、よほど満足しているのだろう。

 

「花陽ちゃん、本当にありがとう!」

 

 花陽の方に向き直りお礼を言うユーカ。

 

「い、いえ。私はただ道案内しただけですから」

 

 お礼を言われ照れる花陽。

 ユーカはにっこりほほ笑むと、花陽の手を取り反対の手で道の反対にある喫茶店を指さしながら、

 

「ねえ、よかったらあそこでお茶しない? まだまだたくさん話したいのだけど」

 

 えっと、と迷う花陽。確かに、こんなにも趣味の会う人であったのはかなり久しぶりであるため、花陽自身ももっとおしゃべりをしたかった。

 しかし、ここで花陽は学校の廊下で西木野真姫の生徒手帳を拾ったのを思い出した。

 

「ごめんなさい。私、この後寄るところがあって」

 

「そうなの、じゃあ、仕方ないわ。明日は空いていないかしら? 地元に帰る前にどうしてもあなたと話がしたいのだけど……」

 

「明日ですか?」

 

 うーん、と花陽は考え込む。

 特に明日の予定はない。しいて言うのであれば所属する部活を決めなくてはならないことだけだろうか。おそらく、幼馴染の親友に今度こそ無理やりにでも先輩たちのところに連れていかれるだろう。花陽としてももちろんスクールアイドルに興味はある。やりたいと思うし、先輩たちとステージで輝ければそれはとてもうれしいことだろう。

 しかし、自分の性格を理解しているからこそ、無理だろ決めつけてしまう。自分の性格はとてもじゃないがアイドル向きではない。親友みたいに自分を表現できる『強さ』がないのだ。

 

「……無理かしら?」

 

 首を傾げて聞いてくるユーカ。

 

「いいですよ」

 

「ホント?」

 

「ハイ」

 

 花陽はユーカと話すことを選択した。確かに部活は明日決めなければならないが、絶対に決めなければならないわけではない。一日遅れたとしても問題ないはずだ。

 ユーカより喫茶店と待ち合わせ時刻を確認し、花陽は一礼するとその場を去って行った。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

「にゃ~、まさかシューズが壊れるなんて……」

 

 そう愚痴るのは、花陽の幼馴染であり親友でもある星空凛だ。先ほどまで陸上部の体験入部をしていた凛だったが、愛用のシューズが壊れてしまい練習続行不可能となってしまった。

 体験入部期間中の一年生は二、三年生より早めに部活を終わることになっている。その為まだ時間はあったのだが、シューズがないとなると練習に参加できない。代えのシューズを持ち合わせていなかったため、帰宅を余儀なくされた。体を動かすことが好きな凛は帰宅後も自宅近くをランニングすることが多く、きっとそれが影響してしまったのだろう。壊れたシューズを見るたびにため息が漏れた。

 

「! あれは、かよちん」

 

 新しいシューズを買うため町を歩いていた凛は、道先で花陽を見つけた。ちょうど隣のサングラスをした女性に一礼をして去って行くところだった。近くにはCDショップがあるため、そこの店員さんかなと思ったが服装でそれは違うと判断。それならば店の中で知り合った人かな、と珍しく人見知りである親友が初対面の人と一緒にいる理由を推理していると、

 

「──!?」

 

 只ならぬ『なにか』が凛の体を走った。 

 

(な、なに!?)

 

 体を電流のように走った違和感。

 その正体はすぐにわかった。

 先ほどまで花陽と一緒に多サングラスの女性の表情が『無』だったのだ。サングラスをしているとなると口元でしか相手の表情を判断できない。しかしそれでも、相手の表情が無であることを凛はその肌で感じていた。

 恐ろしいほどまでに『無』としか言い表せない表情をしている女性。おそらくそのサングラスが無ければ、冷たい瞳があっただろう。

 女性は持っていた紙袋を何の躊躇もなくその場に落とすと、その場を歩き出した。まるでもう興味を失くしたかのようにその場を去って行く女性。一人の男性が紙袋を拾い上げ女性に声をかけるも、女性は振り替えることなく歩き続けた。残された男性は首を傾げるしかなかった。

 そして女性は最後に、凛の視線に気が付いたのかこちらの方へ向いた。

 ニヤリ、とその口が三日月のように歪み恐怖を感じた凛はその場から一目散に走り出した。

 

「はあ、はあ」

 

 適当な路地に逃げ込み呼吸を整える凛。路地から顔を出して女性が追いかけてきたか探ってみるが、女性が追いかけてくる気配はない。

 額には汗が浮かんでおり、手がわずかに震えていた。

 訳が分からなくなった凛は、シューズを買うことを止め家に向かって走り出した。

 

 

 





「第二章:自分の心」に続きます……。

あと、活動報告にて書きました第1話と第2話の修正も終わっておりますので、そちらの方もよろしくお願いします!


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