[2]
──―時は戻る。
こちらへ向かってくる四人の人物を順番に見ていくリヒト。
リヒトは一応奉次郎に一度会っている。もちろん記憶喪失後に、だ。
今のリヒトが覚えているのは、去年の十二月にアメリカの病院で目が覚めた時からの出来事と、日本へ帰国後に周囲から聞いた『一条リヒト』の情報、それだけだった。
聞くところによると、『一条リヒト』は幼い頃から人の笑顔が大好きで、常日頃から周りの人々を楽しませていたそうだ。怖いもの知らずで諦めが悪く、一度『決めた』ことは何があろうと最後までやり抜くことを信条としており、人一倍『夢』に対する思いが強かったらしい。
そして、幼い頃ロシアで出会った少女との『誓い』を果たすために高校二年の夏から父親の知り合いがいるアメリカのダンススクールに留学したとのこと。リヒトがアメリカで目が覚めたのはこれが理由らしい。
母親が元プロダンサーだということもあり、幼い頃からダンスに興味を持っていたリヒトはロシアから帰国後に本格的にダンスを始める。元からダンスの才能があったのか『夢』に対する人一倍強い覚悟からなのか、みるみる実力をつけていったリヒトは確かな実力を手に入れた。
そして将来は『プロになって大勢の人々を魅了するダンサー』になると公言しアメリカに留学した。
しかし、その夢を掲げた『一条リヒト』は
今ここにいるのは、
日本へ帰国後に奉次郎と会った際も、自分だけ記憶が無いことに恐怖したリヒトは、奉次郎を避けてしまった。その時の記憶がリヒトの脳裏によみがえってくる。
四月だというのに、新しい一歩を踏み出そうと決意したのに、まだ自分は記憶喪失だということに脅えてしまうのか。
「じいちゃん……」
「久しぶりじゃのう、リヒト。元気じゃったか?」
「まあね」
歯切れ悪く奉次郎と会話するリヒト。
奉次郎もリヒトの心境を察しているのか、優しく微笑みながらリヒトを見守っている。奉次郎の方は記憶喪失後に出会った際にリヒトに避けられたことは気にしていないのだが、いまだ記憶喪失を引きずっているリヒトにとっては、まだ慣れないことだった。
しかし、このままではいけないことはリヒトにはわかっている。いつまでも記憶喪失のことを引きずっていたら、前になんか進めないのだ。
人間、たとえ記憶を失っても根の部分は変わらない。
それはつまり、リヒトも『一条リヒト』同様『人の笑顔』が大好きだということだ。
ならば下を向いていてはいけない。下を向いて、脅えていたら、周りの人を笑顔にできるはずがない! 周りを笑顔にしたのなら、顔を上げて自分も笑顔にならなければならない!
リヒトは一度深呼吸をすると、自分に語り掛ける。
──怯むな。たとえ記憶が無くても、俺は一条リヒトだ! 上を向いて、一歩前に出ろ!!
自分に言い聞かせて俯いていた表情を上げる。
その決意が表に出たのか、奉次郎から見てリヒトの表情が『一条リヒト』の表情に近くなっていた。
「その様子じゃ、もう
「ああ、心配かけて悪かった。俺はもう大丈夫だよ」
「ホッホッ、よかった、よかった」
ポンポン、とリヒトの頭を撫でる奉次郎。リヒトの方は恥ずかしかったのか照れくさそうな表情をして視線を逸らす。
かわいい孫の一面に笑顔となった奉次郎は、リヒトの頭から手を下ろすと希の方を向く。
「希ちゃんも、ありがとのう」
「いえいえ、ウチも楽しかったですよ。ほな、ウチは仕事に戻ります。りっくん、また後でね」
「お、おう」
バイバイと言って手を振って去って行く希に同じく手を振り返すリヒト。また後で会うことをさらっと約束されたことに、抜け目のない奴だと思いながら、微笑みながら去って行く希の背中を見送った。
しばらく、希が去って行った方を見ていると、背中にニヤニヤとした視線が突き刺さるのを感じた。振り返ってみれば、案の定奉次郎が面白いことを見つけたといった様子の悪い顔をしていた。
「えらく熱い視線を希ちゃんに向け取ったのう、まさか……惚れたか?」
「なっ!? そんなわけんねえだろ!! 会ってすぐの女の子に惚れるほど、俺は軽くねえよ!」
「ホントかのぅ? 『リヒト』にはウソをついたときの簡単な癖があるからすぐにばれるぞ?」
「……っ!」
まさかそんな仕草があったのか!? と慌てるリヒト。それを悟られぬように慌てて右手で口元を隠すと、奉次郎のにやけ顔がさらに強くなった。
──しまった、これか!?
慌てて手を下ろすリヒト。しかし実はすでにこの慌て具合がリヒトの心情を物語っているのだが、残念かな、それにリヒトが気付いた様子はない。
尚もニヤニヤとした視線を向けてくる奉次郎から逃れるように、話題転換のために一度奉次郎を睨み返してから後ろに控えている少女たちを見る。
「……それより、そっちの三人は俺の事情知ってるのか?」
「うむ、ワシが先に話しといたからな。リヒトが記憶喪失だということは知っておる」
「そうか……」
そう言ってリヒトは奉次郎の横を通り過ぎ、三人の少女たちの元に近づく。今のリヒトに少女たちと遊んだ記憶はない、こちらに来る前に母・美鈴から事前に教えてもらった情報のみだ。その中にあった幼き日の写真に写る少女達と、今目の前にいる少女たちを順番に照らし合わせ、少女たちの名を呼んでいく。
「高坂穂乃果」
次に海未を見て、
「園田海未」
ことりを見て、
「南ことり」
三人の少女の視線がリヒトに集まる。
計六つの瞳に見つめられる中、リヒトは言う。
「じいちゃんから聞いたと思うけど、今の俺は記憶喪失なんだ。だから君たちと遊んだ思い出は、今の俺にはない」
『…………』
「でもさ」
そこで言葉を区切ると、リヒトは流れるような動作で、何も持っていなかったはずの右手に一枚の五百円玉を出現させた。
『!』
三人の顔が驚きに染まる。
その反応を見たリヒトはニヤリとしつつ、続けてコインをのせた右手を握り込み、モミモミと動かす。そして開かれた右手の平にコインの姿はなかった。
両手を見せてコインが消えたことをアピールするリヒト。最後に左手で空中のコインをキャッチする動作をして、右手を通すと本物のコインを出現させた。
流れるような動作でコインマジックを披露するリヒト。
『一条リヒト』の特技の一つである
そして最後に、リヒトはパチンと指を鳴らすと、何も握られていなかったはずの拳からイチゴのキーホルダーが出現した。
「わぁ!」
イチゴが大好物である穂乃果が二人より大きな声を出す。
穂乃果の反応に満足したのか、リヒトは微笑みながらキーホルダーを穂乃果に上げると、
「記憶を失っても、俺が人の笑顔が好きであることには変わりないんだ。記憶が無いことを引きずって、君たちと連絡を取らなかったのは悪いと思ってる。本当にごめん。記憶が無いから、どう接すればいいかわからなかったんだ」
語りながらリヒトは右掌に乗せられているキーホルダーを左手で包み込む。すると、キーホルダーは消えていた。
「でも、そこをいつまでも引きずっていたって意味なんかないんだよな。いつまでも逃げていたら、掴みたいものもつかめない。だから協力してほしい。俺が記憶を取り戻すために」
「記憶を、取り戻す……?」
そうだ、と穂乃果に返してリヒトは再び手を滑らかに動かして、一度消えたキーホルダーを出現させる。
「ほら、記憶喪失の人間が記憶を失う前によく訪れていた場所を訪れると、記憶を取り戻すかもしれないって言うだろ?
静岡の方はもうある程度回ったから、残すはここだけなんだ。協力してくれないか?」
確かに、リヒトの言う通りテレビドラマなどでは記憶喪失のキャラクターが重要な場所などを訪れると、激しい頭痛に見舞われ記憶を取り戻しかけるなどの描写がよくある。実際にそれで記憶が戻るのかと聞かれると定かではないが、リヒトはそれに則って『一条リヒト』にゆかりのある場所を訪れていた。
地元である静岡はある程度回ってしまったので、残りは長期休みの際によく遊びに来ていた|音ノ木町
実は、リヒトが音ノ木町を訪れた理由には不思議なビジョンに導かれただけでなくこれがあったりする。
「それで、記憶は少し戻ったんですか?」
「全然」
海未の問いにリヒトは即答した。
あまりにもあっけらかんというリヒトに少女たちは呆気にとられてしまう。
リヒトはキーホルダーをぶんぶん回しながら、
「何度もアルバム見返したり、何度も足を運んだりしたんだけど、これっぽっちもかすりもしないんだ。頭痛の一つも起きないんだよ」
『…………』
「でも」
ヒュッ、とリヒトの手からキーホルダーが飛び穂乃果の方へと飛ぶ。キーホルダーを投げ渡されたと思った穂乃果は慌てて両手でキーホルダーを受け取る。
「必ず思い出す。何があっても、どれだけ時間がかかっても、俺は記憶を取り戻したい。
決めたんだ、俺は絶対に記憶を取り戻すって。だから、俺に協力してくれ」
力強い瞳で告げるリヒト。その瞳に宿る意思はとても力強く、またその表情が少女たちの記憶に眠る『一条リヒト』の表情と一致した。一度『決めた』ことに対し、どんな障害が立ちはだかろうと、それを乗り越えて成し遂げる強い『覚悟』がこもった瞳。
少女たちは小さく笑みを浮かべると、口をそろえて言う。
『もちろん!』
☆★☆★☆★
「ですが、私たちを避けていたことについては、許せませんね」
「え?」
記憶を取り戻すことについて協力を得られたリヒトだったが、次に海未が言った一言に表情が固まった。
「そうだよ! 記憶が無いからって私たちを避けたのは許せないよ!」
「これは、りひとさんにはお仕置きが必要だね」
文字に起こしたら語尾に『♪』が付きそうな声音で言うことり。
確かにリヒトは記憶が無いことが不安で周囲を避けていたことがあったが、まさかここでそれを掘り返されるとは思っていなかった。
「いや、それは……」
「そうじゃな。いくら記憶が無いからってこの子たちを避けていたリヒトが悪い。バツの一つは受けるべきじゃ」
「じいちゃんまで何言いだしてるんだよ」
「避けていたのは事実なんじゃろ?」
「…………」
「沈黙は是也、じゃ。そうじゃな……リヒト、この子らのダンスコーチをしてやるのじゃ。お主ならできるじゃろ?」
「ダンスコーチ?」
とリヒトは呟いた。
「穂乃果ちゃんたちは母校である音ノ木坂学院の廃校を阻止するべく、スクールアイドルを始めたのじゃ。スクールアイドルがどういうのかは、リヒトも知っとるじゃろ?」
奉次郎の問いにリヒトは頷く形で答える。
加えて音ノ木坂学院と聞いて母さんの母校だったことを思い出した。母親の通っていた高校が廃校の危機になる、もし美鈴が聞いたらどんなことを言うのだろうか。
などと頭の片隅で思いながら奉次郎が続ける説明に耳を傾ける。
「穂乃果ちゃんたちもリヒトからダンスを教えてほしいと願ってたからの、お主が教えればそれなりの力が付くはずじゃ」
そうか? とリヒトは考える。
確かに記憶を失くした今でも体はダンスについて覚えているらしく踊ることはできる。だが人に丁寧に教えられるかとなると、いささか不安になってくる。リヒト自身が体で感じるタイプの人間なので説明、となると言葉に表しにくいのだ。
「わかっとる。お主が体で感じるタイプの人間なのはワシもよく知っとる。じゃが、彼女たちの思いは本気じゃ。お主はそれに応えるように、自分のやりやすい様にやればよいのじゃ」
「…………三人も、俺に教えてほしいのか?」
まだ納得がいかない部分があるのか、後ろ髪を掴みながら穂乃果たちの方へと振り返り、問うリヒト。
「うん! 教えてほしい! 学校の廃校を阻止するにはりーくんのように『人を魅了する』ダンスをしなくちゃいけない。でも、まだ私たちにりーくんのように『人を魅了する』力はない」
穂乃果の言葉に海未が続く。
「そのためには、やはり実力を持った人の指導が必要です。私たちの知り合いの中でダンスの実力が一番高いのはリヒトさんしかいません」
「それに学校の廃校を阻止したいという思いは、三人とも本気なの。お母さんは学校の廃校を阻止するために毎日頑張ってるの。私はそんなお母さんの力に、少しでもなりたい。
だからお願いします、どうか私たちのコーチになってください」
ことりの言葉に続くように穂乃果と海未も頭を下げた。
三人の少女の心に秘めた思いを聞いたリヒトは、
「……うん、わかった。コーチを引き受けるよ」
「本当!?」
「本当。記憶を取り戻すために協力してくれるんだ、俺も三人に協力するよ」
リヒトの答えを聞いて、三人は大きく喜ぶ。そんな三人を見て、リヒトの顔も自然と笑顔になった。
「では改めて。今日からダンスコーチを務める一条リヒトだ。
一緒に夢、叶えようぜ!!」
『はい!』
リヒトの言葉に少女たちは力強く答えた。
それを見ていた奉次郎は微笑むと、リヒトの名を呼びながら懐から取り出した家の鍵を投げ渡す。
「家の鍵じゃ。ワシは仕事に戻るからのう、後は頼んだぞ」
「じいちゃん」
去って行こうとする奉次郎の声をかけるリヒト。
「ありがとう」
たった一言。奉次郎へ向けた『ありがとう』にはいろんな思いが込められていた。
その思いを感じ取った奉次郎は片手を上げることでリヒトの『ありがとう』に答えた。
リヒトもまた奉次郎の答えを受け取ると、穂乃果たちの方に振り返り気持ちを切り替える。まずは彼女たちがどこまで進んでいるのかを知らなくては、どこから教えればいいのかわからない。それを確かめるべく聞こうとしたのだが、リヒトより先に穂乃果が声を放った。
「ねえねえ! 久しぶりにリヒトさんのダンスが見たい!!」
「え? 俺のダンス?」
「うん! いいでしょ?」
「何言ってるんですか穂乃果。まだ練習が終わってませんよ。それにリヒトさんもいきなり踊れる訳ないじゃないですか」
リヒトにダンスを踊ってほしいと懇願する穂乃果を宥める海未。
「ええー、いいじゃん。それに海未ちゃんだってリヒトさんのダンス見たいでしょ?」
「わ、私は別に」
「確か海未ちゃん、リヒトさんのダンスをすごく楽しみにしてたよね?」
ことりの言葉が図星だったのか「うぐっ」と言葉に詰まる海未。
「別に俺は構わないさ。一曲だけでいいなら踊れるぞ」
一方のリヒトは踊る気満々であった。さすがに準備をしていなかったため一曲しか踊れないが、期待している少女がいるのに踊らないのは、リヒトとしては許せなかった。おそらくリヒトのエンターテイナーの心が動いたのだろう。
リヒトが準備運動を始めたのを見て喜ぶ穂乃果。海未は大げさには喜んではないが、表情には待ってましたと言わんばかりだった。
動きやすくするために羽織っていたパーカーのチャックを閉め、準備運動を始める。デッキシューズであるため動きづらさは多少あるが、支障はない方に近かった。
柔軟運動をするリヒトの横では、ワクワクを隠せていない穂乃果と、平常心を装いつつワクワク感を隠せていない海未が、今か今かと待っていた。
「穂乃果ちゃん、少し落ち着いて」
「だってリヒトさんのダンスだよ? 一年ぶりに見れるんだよ! 楽しみで仕方ないよ」
「期待してくれるのは嬉しいけど、当時ほどのキレはないと思うんだよな~」
何せ記憶を失ってからは滅多に運動をしていなかった。先ほど神田明神前の階段をダッシュしたときも体力の衰えを感じたのだ、下手をすると一曲全部踊れるか不安ではあるがそこは気合と根性で乗り切るしかない。
さすがに神社で大音量を流すわけにはいかないので穂乃果達にはスマートフォンを、リヒトは音楽プレイヤーにそれぞれ踊る曲を設定し、リヒトの合図で再生ボタンを押してもらうことにした。これならば周囲への迷惑を多少軽減できる。
首にかけていたヘッドフォンを装着し、呼吸を整え集中力を高めていく。
そしてゆっくりと指を鳴らしていくリヒト。これはリヒトが集中力を高める際にする仕草の一つだった。瞳を閉じ呼吸を整えていくリヒト。
そして、穂乃果たちにスリーツーワンの合図を送り同時に曲をスタートさせる。
流れ始める曲、それはリヒトが一番のお気に入りである曲『ススメ→トゥモロウ』。既存の踊れる曲でもよかったのだが、『スクールアイドル活動』で『学校の廃校を阻止する』という『可能性』を感じた穂乃果たちに、後悔しないためにまっすぐ前に進んでほしいという願いを込め、ある種の応援歌としてリヒトは踊る。
穂乃果たちも新曲を踊ることに驚いたのだろう、「新曲だぁ」と穂乃果がつぶやいた。
『新曲』、そう聞くだけでテンションが上がる。それは『人を魅了する』ことが好きなリヒトの密かな作戦もあった。
この曲は、病気によって声が出なくなってしまった元アイドルであるリヒトの父・一条
それゆえ、本来この曲は言うまでもなく女性が歌う曲である。元々ダンスも美鈴が考えたことがあってか女性の踊るダンスに趣きが置かれていたが、どうしてもリヒトが踊りたいと言ったので美鈴が手を加え、男性の迫力あるダンスへと近づいた。そのため男性であるリヒトが踊っても違和感のないよう仕上がっている。
曲と共に盛り上がりを見せるダンス。振り上がる腕、ステップを刻む足、ブランクがあると言っていたリヒトだが穂乃果たちはそんなことないと感じていた。確かにダンサーとしての視線から見ればリヒトが全盛期の時に比べて劣っていることは見て取れるが、それを吹き飛ばすほどの熱意がリヒトのダンスに込められていた。
約八ヶ月ぶりに間近で見るリヒトのダンス、振られる腕、刻まれるステップからはリヒトの『思い』が感じ取ることができて、穂乃果たちはあっという間にリヒトの世界に引き込まれていた。
リヒトのダンスを見る穂乃果たちの目は輝きに満ちている。
そして同時に圧倒されていた。
廃校を阻止するにはこれと同等か、それ以上の力を得なければならない。リヒトは母が元ダンサーだということと、幼い頃から学んでいたという時間が今の力を表している。しかし穂乃果たちはこれに近い力を短期間で得なければならない。
出来るのか? 自分たちにこれほどのパフォーマンスが出来るようになるのだろうか?
だが、その不安すら吹き飛ばすほどにリヒトの体は激しさを増していく。その激しさが次第に穂乃果たちの体を突き動かしていく。自分たちもこんな風に踊りたい! リヒトのように輝きたい! 純粋な憧れが心の中から生まれてきた。
リヒトもまた久しぶりに人前で踊ることに楽しさを感じていた。自分の一つ一つの動きに穂乃果たちの顔が輝く、表情が明るくなる。
そうだ、この感覚だ。記憶にはないが、体が覚えている。一つ一つのステップに想いを込め、伝えるダンス。
伝われ! 俺の想いよ伝われ! このまま舞え! 自分のすべてを出し切れ!! この感覚に浸っていけ!! このままいけば、何か思い出せそうな──!!
──突如、リヒトの脳内に
「──っ!?」
次にリヒトを襲ったのは、激しい頭痛。頭が割れそうになるほどの激痛に顔をしかめるリヒト。しかし、それを振り払ってステップを刻もうとするも、
──『────―!!』
──『お願い、私を撃って』
──『ふざけんな!! なんで「セラ」を殺した!?』
──『貴様の敗北だ、「光の戦士」』
叫び声をあげ暴れる巨大生物。
自分を倒してと、懇願する少女。
憤怒の表情を浮かべ叫ぶ男。
黒い影によってその姿ははっきりとわからないが、自分に敗北を告げる謎の影。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
リヒトは叫んだ。
今リヒトを襲っているのは激しい頭痛と得体のしれない恐怖。頭が割れるのではないかというほどの頭痛と体の中をかき回すような得体のしれない恐怖に襲われ、リヒトはヘッドフォンを乱暴に取り外すと、頭を押さえ倒れてしまう。
その絶叫は神田明神全体に響き渡り、リヒトの悲鳴を聞きつけた奉次郎や希が何事かと走ってくる。
頭を押さえ倒れながら叫んでいるリヒトを見た奉次郎は目を見開くと、一目散にリヒトの元に駆け寄る。
「リヒト!!」
奉次郎に抱き寄せられるも、リヒトの叫び声は止まらない。まるで何かに取り憑かれたかのように叫び続けるリヒト、その姿にだれもが只ならぬ事態だと感じとる。
「りーくん!?」
穂乃果がリヒトの名を呟き、近づこうとしたところで希から静止の声がかかった。希は穂乃果の代わりにリヒトに駆け寄ると、優しくリヒトの頭を撫でる。
「大丈夫、大丈夫だよ」
そう言って優しく頭を撫でる希。
リヒトの叫び声は次第に小さくなっていき、完全に聞こえなくなるのと同時に気絶してしまった。
『…………』
その場に居る全員が黙ってしまう。
しかし奉次郎と希だけが、小さく言葉を漏らした。
「まさか……」
「りっくん……」
☆★☆★☆★
「ん、ん」
リヒトの意識が目覚めると、どこかの部屋のベットで寝ていることに気が付いた。上体を起こし辺りを確認したリヒトは、部屋の中に置かれていたボストンバックからお茶のペットボトルを取り出すと一口飲んでのどを潤す。
「たしか、俺は穂乃果たちの前でダンスを踊ってて、それで……」
閉め切られたカーテンを開けるなどをしながら記憶を辿っていくリヒト。
「そうだ、変なビジョン見て、頭痛くなって……気絶したのか」
自分がどういった状態になったのか理解すると、リヒトは腕時計で時刻を確認する。経過時間から考えて気絶していたのはせいぜい数十分と言ったところか、ともかくここはどこなのかと疑問に思いながら部屋を出る。おそらく、奉次郎の家だろうか?
廊下に沿って歩いていると一つの部屋の前に止まった。襖を開けるとどうやらそこは居間だったらしく、二人の少女たちが湯呑を手にこちらを見て固まっていた。リヒトの突然の登場に驚いているのだろうか?
「よっ」
「りーくん大丈夫なの!?」
気楽に挨拶をすると穂乃果が真っ先にリヒトに飛びついてきた。よほど心配だったのか額に手を当てて来たり、手や足、腹部などあちらこちらを触ってリヒトの健康を確認してくる穂乃果。
「いや、大丈夫だから。大丈夫だって」
ベタベタ触ってくる穂乃果を引きはがし言うリヒト。
「本当に大丈夫なのですか?」
「園田まで、大丈夫だって。ほらっ、この通りピンピンしてるって」
腕を振って健康であることをアピールするリヒトだったが、名前を呼ばれた海未が一瞬驚いた表情をしたのが気になった。
「どうかしたか?」
海未も自分が一瞬驚いたことをわかっているのだろう、リヒトに問われると「いえ」と言ってから答えた。
「リヒトさんは私の名前を聞いた時から名前で呼んでいたので、苗字で呼ばれたのが意外で」
「あー、やっぱりか。記憶を失くしてからそういうところで違いがあるらしくてな、『一条リヒト』はお前たちのこと名前で呼んでたのか?」
「ええ。あ、でも、穂乃果だけは苗字で呼ばれてましたよね?」
「そうだよ。最初は名前で呼んでくれてたのに、なんか『高坂』の方が呼びやすいって理由で私だけ苗字呼びにかわったの。なんで?」
「なんでって聞かれても、忘れてるから答えれねぇよ。
それじゃ、高坂以外は名前呼びでいいのか?」
「えー、私のことも名前で呼んでよ!」
自分だけ苗字呼びなのが不服なのかポカポカとリヒトを殴りながら抗議をしてくる穂乃果。そんな穂乃果を宥めながらテーブルに腰を下ろしたリヒトは、お盆の上に置かれた──おそらく穂乃果たちに用意されたと思われる──御煎餅を取ると袋を開け一口食べる。
「んじゃ、穂乃果も名前で呼ぶってことでオーケー?」
「うん!」
名前で呼ばれたことがよほどうれしかったのか満面の笑みで頷く穂乃果。
リヒトは穂乃果に聞こえないように『高坂』と『穂乃果』を交互に口ずさんでみるが、やはり記憶を失った今でも『高坂』の方が何となく呼びやすい気がしたのは内緒だ。
「あ、りひとさん! もう大丈夫なの?」
「ああ、ことりか。心配かけたみたいだけど、もう大丈夫だ」
リヒトが部屋からそのまま持ってきたペットボトルのお茶を飲んでいると、席をはずしていたらしいことりが戻って来た。ことりもリヒトの姿を見つけるなり心配そうに声をかけてくるが、リヒトが大丈夫だと答えると穂乃果の隣に腰を下ろした。
「そう言えば、もう練習は良いのか?」
倒れる前は練習着らしく服装だった穂乃果たちだったが、今は三人とも制服に着替えている。時間帯的にもまだまだ練習する時間はあるというのに、どうして着替えたのか疑問に思ったリヒトは聞いてみた。
すると海未が呆れた様子で答える。
「あんなことがあって練習に集中できると思いますか? みんな心配してここで待ってたんですよ」
「そっか、ありがと」
素直に礼を言うリヒト。
しかし礼を受け取った海未の方はリヒトの態度に違和感があるのか、
「……やっぱり、少し違いますね」
「え?」
「あっ、いえ、その……。
記憶喪失になると性格が変わる場合があると聞いたことがありまして、やっぱり今のリヒトさんは私たちの知る『一条リヒト』さんとの性格に若干の違いがありまして」
「……ああ、それね」
海未に言われ少し落ち込んだ様子を見せるリヒト。
記憶喪失後に性格に若干の違いがあることは地元静岡で何度か言われたことだ。元々『一条リヒト』がややはっちゃけた性格よりの人間だったため、記憶喪失後に落ち着きを見せるリヒトに違和感を覚える人が多くおり、そのたびにリヒトは胸が締め付けられる痛みを感じた。同じ一条リヒトなのに、周りが語る『一条リヒト』とは少しだけ違いがある。それがリヒトの胸を締め付けた。
母親である美鈴曰く記憶喪失前にもそういった落ち着きのある面もあるのだが、周りを楽しませるためにワイワイとした面が目立ち結果的に周囲には飄々としたイメージが強くついてしまった。
つまり、本来は記憶喪失の今がリヒトの素に近いのだ。だが、すでについてしまった強いイメージを覆すのは難しい。
「ま、そればっかりは仕方ないな。というか、元々こっちの方が素に近い性格らしいんだけど、いやはや、記憶喪失前の俺は一体どんな人間だったのか」
少々呆れながら言うと今度はお饅頭を手に取るリヒト。
「んー、すごい人だったよ」
と、ことりが言った。ことりは昔を懐かしむように話す。
「いつも人を笑顔にするために努力していて、諦めるとか失敗とか考えない人。目の前に問題があったらすぐに立ち向かっていく人。そして私にとっては『感謝している人』、海未ちゃんは『尊敬する人』、穂乃果ちゃんは『憧れの人』。あ、でも周りからは『良くも悪くも一直線のバカ』、『目立ちたがり屋』、『人を魅了することしか考えていないバカ』とか言われてたかも」
「……とりあえず、『バカ』だということがよーくわかったよ」
まさかこっちに来てまで『バカ』と言われるとは思ってもいなかったリヒトは、心の中で泣いた。
記憶喪失とわかった後、『一条リヒト』がどういった人間だったのか知りたかったリヒトは周囲の人々に聞いて回った。そうすると皆口をそろえて『バカ』という単語が出てきたのだ。
だがそれは、決して悪口というわけではない。むしろ『一条リヒト』のことを話す人は皆、笑顔で『一条リヒト』のことを語るのだ。そして最後にことり同様「すごいやつ」と言う。
一体どんな人生を送れば周りから笑顔で『バカ』と褒められるのだろうか、頭を抱えるしかなかった。
でも逆に、だからこそ気になる。『一条リヒト』がどういった人間だったのかを。
「さて、そろそろ聞かせてくれ、お前達と『一条リヒト』との思い出」
三人の少女は一度顔を合わせてから、順番に語り出した。
☆★☆★☆★
あの後奉次郎が帰宅し、未だに話で盛り上がっていたリヒトたちに注意を飛ばしたところで今日はお開きとなった。時刻が六時を回っていたということもあり「送っていこうか?」と聞くリヒトだったが「ちゃんと家に帰ってこれるのか?」と奉次郎に聞かれ、静かに奉次郎に穂乃果たちを頼んだのだった。
奉次郎が穂乃果たちを送っている間、リヒトは家の中を一回りし、どの部屋がどの部屋でどこに何があるのかを確認していた。一通り周り終わると、寝床として与えられた部屋に戻り荷物の整理を始めた。といっても感覚的には祖父母の家に遊びに来た孫、といった感じなので持ってくる荷物もリヒトの着替え数着とヘアアイロンなど主にリヒトが日常生活に使うもの。それでも、長居する予定になるかもしれないので空いているタンスなどにボストンバッグから取り出した荷物をしまっていく。
どうやらこの部屋は榊家の末っ子の長男・榊健介が使用していた部屋らしく、すでに家を出て独り立ちしたためちょうど空き部屋となっていたらしい。今回リヒトがこちらに来ることを伝えると、どうぞ使っていいよと言われ半ばリヒトの部屋としての使用が許可された部屋でもある。そのため部屋には机などが残っており、奉次郎が掃除したらしくきれいな状態で残っていた。
荷物の整理を終えたリヒトはとある部屋を訪れた。
そこには三か月前に亡くなったリヒトの祖母であり奉次郎の妻である榊京子の写真が置いてある仏壇があった。
仏壇の前に正座をし、両手を合わせるリヒト。
「ごめんな、ばあちゃん」
記憶喪失の俺がばあちゃんって呼んでいいのかな? と何度も思ったが、たとえ記憶喪失でも『一条リヒト』の祖母であることには変わりないのだ、ここは呼ぶのが筋だろう。
『一条リヒト』が最後に祖母と出会ったのは去年の八月、留学する前に訪れた時だ。あの時はまだ元気そうな姿だったのに、と美鈴が語っているので急に亡くなったらしい。
本当なら、まだ記憶のある内に会っていたかった。
「見ててくれ、絶対に俺は記憶を取り戻して『夢』を追いかけるから」
京子に誓いを立て、部屋を出た。
夕食を済ませ、入浴も済ませたリヒトはそのままベットへともぐりこんだところで、穂乃果からメールが来ていることに気が付いた。
『ごめん、りーくんのヘッドフォン返し忘れちゃった。明日でいい?』
どうやら神田明神で倒れた際に穂乃果が回収しといてくれたみたいなのだが、話に夢中になって返し忘れたらしい。
『別に構わないよ』
と返信すると『ありがとう! おやすみ』と返ってきた。
穂乃果とのやり取りが終わるとリヒトの就寝の体制に入る。一日の終わりを迎えたからだろうか、今日一日の疲れがどっと出てきた。このまま瞳を閉じ、寝ようとしたところで──、
リヒトは悪夢に襲われた。
☆★☆★☆★
リヒトは息を切らせ走っていた。あたりは木々に囲まれ、まさしくそこは森だった。木々を避けながら走り続けるリヒト。その背後に迫るのは黒い靄が集合し人型を作った、ゾンビを思わせる影。その数は五体。滑るように追いかけてくるその靄は、明らかにリヒトを弄んでいた。左右からリヒトの前を横切り、リヒトを翻弄させる。
「くそっ!」
悪態をつくリヒト。額には汗が浮かんでおり、呼吸の大きく乱れていた。
「なんなんだよこれ!!」
俺は確かベットに入って寝たはずだろ!? と叫ぶリヒト。確かにリヒトはベットに入り、布団をかぶって寝たはずだ。それなのに気が付いた時はこの怪しげな森に、神田明神を訪れた際の服装で立っていた。違う点はボストンバックとヘッドフォンがないこと、風呂に入ったことで外ハネの無くなった髪型くらいだろう。しかし、そんなことはどうでもよかった。
今、リヒトが一番重要なことはこれが夢なのか現実なのか、ただそれだけだ。
だが、足から伝わる地面の感触が、風を切る感触が、体を襲う寒気が、疲労が、すべてがリアルな感覚として感じるリヒトは、これが現実ではないかという恐怖に襲われる。
だが、それを振り払うかのようにリヒトは走る。ただ、がむしゃらに。
そして、その先に巨大な遺跡の建造物を見た。
視界にとらえたとたん、遺跡に向かって走り出す。途端に黒い靄は攻撃的となる。リヒトの足をめがけて突進を掛ける黒い靄。それをジャンプでかわし、走るリヒト。黒い靄に阻まれながらも、何とか遺跡にたどり着いたリヒト。だが、その遺跡に出入り口らしきものはどこにもなかった。
「嘘だろ……」
せっかく見つけた希望が打ち砕かれた瞬間、すでに背後には黒い靄。逃げ場がなくなった、終わりだ。そう覚悟したはずなのだが、いつまでたっても黒い靄に襲われることはなかった。ゆっくり後ろを振り返ってみると、そこには確かに五体の黒い靄がいた。だが、その場に佇むだけでリヒトを襲おうとはしない。
「なんだ」
突如としてリヒトを襲わなくなった黒い靄。その姿はまるでリヒトの背後の存在に脅えているようだった。
助かったのか? と思うリヒト。黒い靄はこれ以上はダメだと思ったのか、リヒトの前から去って行った。
「はぁ、はぁ、はあ」
助かった。そう理解するのに少々の時間を要した。
後ろの遺跡へと振り返り、建造物を見上げる。その先に、小さな光を見た。
「あれは……」
その光は次第に大きくなっていき、リヒトを包んだ。
次にリヒトが訪れたのは深い海のような青黒い光の空間、そこにリヒトは浮いていた。感覚的には浮いているというよりかはそこに立っている感覚に近い。
「どこなんだ、ここ」
変な悪夢はもう勘弁してほしかった。
うんざりしつつもあたりを見回していると、突然光がリヒトの前を横切った。青白い輝きを放つ光はリヒトの周りを徘徊すると、突然リヒト目掛けて突っ込んできた。驚いたリヒトは反射的に腕をクロスして防ごうとするが、光は腕をすり抜けリヒトの体に入り込む。
そして、リヒトが声を上げる暇もなく光は体から飛び出し、同時に何か黒いものが吐き出された。
『これで、君に取り憑いていたものは追い払った』
光から声がし、リヒトは驚いて振り返る。
そこにいたのは青白い光ではなくメインカラーが赤と銀色、頭部、胸部、両腕、両足にクリスタルを備えた巨人が立っていた。
「あんたは、何者?」
リヒトは巨人を見上げながら問う。
『私は、ウルトラマンギンガ』
「ウルトラマン、ギンガ?」
巨人──ウルトラマンギンガはリヒトの問いに頷く。
「ここはどこなんだ?」
『ここは、時空の狭間』
「時空の狭間?」
『そう、君と話をするべく、この地に眠るウルトラマンノアの力を使い作り出した空間だ』
「ウルトラマンノア?
……ちょっと待って、話が全然分からないんだけど」
『そうだな、まずは君に見てもらいたい光景がある』
ギンガがそう言うと一つの映像が映し出された。
「──え?」
そこに映し出されたのは、
取り壊される建物の前で、涙を流し叫ぶ少女たちだった。その中にリヒトが出会った三人の少女たちもいる。
「……なんだよ。これ」
映像の中では穂乃果が声をあげ泣いている。海未もことりも穂乃果に寄り添いながら泣いていた。中には必死に溢れそうになる涙をこらえながらも、まっすぐ建物を見つめている少女もいるが、ついには涙があふれ出てしまう。制服を着た少女たちもいれば、ジャージ姿の女性たち、スーツ姿の女性、数多くの女性の姿が見受けられ皆涙していた。
取り壊されている建物、それは間違いなく穂乃果たちの通う『音ノ木坂学院』だった。涙を流し続ける女性たちは、音ノ木坂学院の生徒たちや先生、過去の卒業生だろう。
「なんなんだよ! これ!」
『今から少し先の未来に起こる光景だ』
ギンガの簡素に答えた。
「少し、未来?」
『そうだ。今から少し先の未来では、あの少女たちの夢は叶わず、絶望が待っている』
「ふざけんな! 穂乃果たちの『夢』が叶わないってどういうことだよ!!」
『彼女たちの歩む道の先に「邪悪な魔の手」が待っているのだ』
「邪悪な、魔の手?」
『そうだ。君を先ほど追いかけていたあの黒い靄も、その一部だ』
「あれが」
先ほどまで自分を追いかけていたあの謎の影。思い出すだけで恐怖に体が包まれ、寒気がする。
「でも、なんで穂乃果たちが狙われるんだよ!?」
『すまない、それは私にも分からない。私にわかるのは、少女たちに「邪悪な魔の手」が迫っているということだけだ。この
「なんだよ、それ」
リヒトの拳が怒りによって強く握られていく中で、ギンガは淡々と言葉を述べていく。
『このままでは少女たちが絶望する未来だけでなく「大いなる闇」までもが復活してしまう。それだけは阻止しなければならない』
「……どうすればいいんだよ」
『私と共に戦ってくれ』
「え?」
『君が私と一緒になって戦うということだ』
「戦うって、どうやって」
『それは──』
ギンガが言葉をつづけようとした時だった。別の映像が映し出され、先ほどまでリヒトのいた森が映し出される。映し出された映像は視点を上げ、青白い稲妻が走る空を映し出す。
稲妻が地へと落ち、青黒い体をした三つ首の怪物を生み出す。
その怪物の名は、『ダークガルベロス』。
見たこともない怪獣の出現にリヒトは目を見開く。
「なんだよ、あれ……」
『邪魔者を先に排除するというわけか』
「邪魔者?」
『そうだ。奴ら「闇」にとって「光」である私は邪魔者なのだ。だから奴らはこの空間で私を排除しようとしているのだろう』
リヒトは映し出されるダークガルベロスを見た。青黒く赤い牙を持った三つ首の怪獣は、その鋭い瞳をこちらに向けゆっくりと迫ってきた。
その瞳から感じられる感情はただ一つ。
『殺意』。
ただそれだけしか感じ取ることが出来ないほどに、目の前の怪獣は殺意に満ち溢れていた。
『時間がない、リヒト、きみの体を借りるぞ』
「借りるって────」
その先は続かなかった。
ただ、リヒトが言葉を続けるより先に『光』がリヒトを飲み込んだ。
☆★☆★☆★
ダークガルベロスは中央に聳え立つ遺跡に向かって歩いていた。その目的はただ一つ、『
だが、突如遺跡から青白い光が飛び出した。
空に舞い上がった光は地響きを立て地へと降り立つ。
砂煙が次第に晴れていき、溢れんばかりの輝きを放つ光が収まっていく。
影はゆっくりと立ち上がる。
そして──―、
ウルトラマンギンガが誕生した。
次回予告
少女たちの『夢』を守るべく、ウルトラマンギンガとなった一条リヒト。
だが、敵の魔の手はすでにとある少女へと向いていた。少女の心の中に潜む、その「わずかな不安」を肥大化させて……。
次回、第2話『ほのかな不安』