ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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みなさんは今日のウルトラマンオーブを見ましたか?
久しぶりの「ウルトラマン」としての番組、ぼくは常に心が躍ってましたよ(笑)
サンシャインのアニメも土曜ですし、ホント今年の夏の土曜は毎週が楽しみです!

さて、今回は第二章。
やっと主人公が登場します(笑)




第二章:自分の心

 

「……」

 

 ユーカと別れた花陽は担任の教師より渡されたメモを頼りに改めて西木野家へと向かった。ユーカを案内したことにより道がわからなくなったらどうしようかと思ったが、担任より『でかい家だからすぐわかるっしょ』と軽い形で説明され、しかもその通りにでかい家が目の前に現れれば、不安を通り越して驚くしかなかった。

 そして現在、なぜか家の中に案内された花陽はもうすぐ帰ってくるらしい真姫を待っていた。

 さすが病院を経営しているだけのことはある。家の外も中も大きくて広くてきれいだ。リビングと思われる部屋に案内され、差し出された紅茶を飲みながら辺りを見回していると、何かのコンクールの賞だと思われるトロフィーや賞状が数多く飾られていた。おそらく、音楽に関するコンクールかなと花陽は思った。

 以前廊下を歩いている時音楽室から聞こえてきた素敵なピアノの音と歌声、それは紛れもなく西木野真姫のモノだったことを花陽は覚えている。あれほどまでに奇麗な歌声と美しいピアノを弾くのであれば、この数々のトロフィーや賞状がピアノに関するもんだとすぐに推理できた。

 

(やっぱりすごいなぁ、西木野さんは……)

 

 花陽にはこんな風に賞を取れるほどの特技は何一つなかった。それにコンクールで取った賞と言うことは、大勢の人前で自分の特技を披露したということになる。

 もし自分が同じようなことを体験しろと言われても、緊張でどうにかなってしまうに違いないと花陽は思った。

 そんなことを考えていた時だった。

 

「小泉さん、だったかしら」

 

 帰宅した真姫がリビングのドアを開けて入ってきた。

 真姫は花陽を見ると『?』と不思議そうに首を傾げながら、花陽の正面のソファーに腰を下ろす。

 

「私に何か用?」

 

「あの、コレ……」

 

 花陽はカバンから真姫の生徒手帳を取り出し、拾ったことを説明しながら真姫に渡す。

 受け取った真姫は表紙を開き、自分の証明写真が貼られた身分証明書を見ることでこれが自分のだと判断。

 

「ありがとう」

 

 と素っ気なく感謝の言葉を述べた。

 

「μ’sのポスター、見てたよね?」

 

 花陽はあの時から気になっていたことを真姫に聞いた。

 真姫の方は一瞬方がビクッとなるも知らん顔をして言う。

 

「わ、私が? 知らないわ、人違いじゃないの」

 

「でも……、手帳がそこに……あ」

 

「……? ……!?」

 

 花陽は反らした視線の先にあるものを発見し声を上げた。真姫は気になり花陽の視線の先の方を見ると、そこには今自分が座っているソファーの側面にある自分のカバンに向けられていた。

 ──正確にはカバンの外ポケットに入っている一枚のチラシ。あの時急いでカバンに入れたためか中途半端に外に飛び出ている紙には『μ’sファーストライブ』の文字がはっきり書かれていた。

 ──よりによって、まさかその部分が飛び出ているなんて!? 

 真姫は慌ててカバンを取るために立ち上がるが、急ぎすぎたのか膝をテーブルの端にぶつけ後ろへと転がる。

 ガタン! と音を立ててソファー事ひっくり返る真姫。

 いたたた、と言いながら腰を押さえている姿を見て、先ほどまでの印象とは違い少しドジな一面を見た花陽はついおかしくって笑ってしまう。

 

「笑わない!」

 

 注意するも笑い続ける花陽に真姫はむー、と唸るしかなかった。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 花陽の笑い声が収まると、真姫は気を取り直すためにテーブルに置いてある紅茶を一口飲んだ。

 

「……私がスクールアイドル?」

 

 真姫は眉間に皺を寄せてそう聞いてきた花陽に言葉を返す。

 普段ツリ目である真姫の眉間に皺が寄ると、より一層怖い表情に見えてしまい、脅えた花陽は肩をすくめると「うん」と言ってから続きを言う。

 

「私、いつも放課後は音楽室によってたの。西木野さんの音楽を聴きたくて」

 

「…………」

 

「ずっと聴いていたいくらい、素敵な歌声で……。

 だから、西木野さんはスクールアイドルに向いてるかなって──」

 

「──なによ」

 

「え?」

 

 そこで花陽は真姫の様子がおかしいことに気が付いた。

 膝の上に乗せられた拳は強く握りしめられており、震えていた。その震えは怒りから来るものだと、真姫の様子からすぐにわかった。

 戸惑う花陽をよそに真姫は、

 

 

 

 

「どうして今になって音楽の道が出てくるのよ!? 私は大学は医学部って決まってるの!! 私の音楽は終わってる!! あの時パパを感動させることが出来なかった私に、音楽の道を歩む資格なんてないの!! 私の道は最初から医者の道しかないの! それなのにどうして、あの先輩も、リヒトさんも私に音楽の道を、アイドルを進めてくるのよ!!」

 

 

 

 

 叫んだ。

 ソファーから立ち上がり、大声で叫んだ真姫。その姿は今まで自分の中にため込んでいたものを全て吐き出している様に見えた。

 息を吸う間もなく一息で吐き出された真姫の叫び。爪が食い込むのではないかと心配になるほどに強く握り込まれた拳は震えており、真姫の体がなくなった酸素を求めて大きく呼吸を繰り返す。

 花陽はその姿に圧倒されていた。

 家全体に響くほどに聞こえた真姫の叫びは、母親にも聞こえたのだろう。ガチャリ、とドアが開き驚いた様子の真姫の母親がやって来る。

 

「どうしたの? 何かすごい叫んでいたみたいだけど……」

 

 母親の言葉を聞いてハッとなった真姫は、自分が無意識のうちに叫んでいたことに気が付くと、表情を歪めてうつむいてしまう。表情は前髪に隠れてしまい詳しくはうかがえないが、隠れていない唇は真姫の歯に噛まれていた。

 やがて真姫はポツリ、と言う。

 

「ごめんなさい、今日はもう帰ってくれないかしら。

 ……手帳、ありがとね」

 

 拒絶する様に言った真姫はカバンを手に取ると早足にその場を去って行った。

 リビングに静寂が訪れる。

 花陽も真姫の母親も、突然の出来事に唖然としてしまい、去って行く真姫の姿を見ているしかなかった。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 真姫の家を出た花陽は呆然とした気持ちで帰り道を歩いていた。

 

(西木野さん、どうしたんだろう……)

 

 思い返されるのは先ほど叫んだ真姫の姿だ。学校生活でいつも感じているクールな印象からは考えられない、ヒステリックに叫んだ真姫の姿はあまりにも衝撃的すぎた。あれから数十分は経ったのに、未だのあの時の光景がはっきりと思い出される。

 

 

 

 

『どうして今になって音楽の道が出てくるのよ!? 私は大学は医学部って決まってるの!! 私の音楽は終わってる!! あの時パパを感動させることが出来なかった私に、音楽の道を歩む資格なんてないの!! 私の道は最初から医者の道しかないの! それなのにどうして、あの先輩も、リヒトさんも私に音楽の道を、アイドルを進めてくるのよ!!』

 

 

 

 

 抱えていたものをすべて吐き出すかのように叫んだ真姫。その言葉を聞いた花陽は真姫の姿に驚くのと同時に、もったいないとも思っていた。

 花陽は真姫の歌声からアイドルの様な美しい響きをいつも感じており、スクールアイドルに向いているのではといつも思っていた。あの先輩が真姫を探していたのも、その歌声に目をつけて一緒にスクールアイドルをやらないかと勧誘するのが目的なのではないと考えていたのだが、ファーストライブのステージに真姫の姿はなかったことを考えると、どうやら違ったようだ。

 でも、真姫の歌声は美しい。それは確信をもって言えることだ。

 何のとりえもない自分とは違い、『歌声』という武器を持っている真姫はスクールアイドルに向いている。

 しかしこれは花陽の一方的な考えでしかない。真姫には真姫の、やりたいことがあるはずだ。あそこまで叫ぶほどに、真姫の心にはいろんなものがあふれている。

 今度、謝ろうかな。と考えていると道の先に一人の先輩を見かけた。向こうも花陽の視線に気が付いたのか、ニッコリ笑うと駆け足で近づいて来る。

 

「こんにちは。えっと、花陽ちゃん、だったよね?」

 

「はい、小泉花陽と言います。えっと……」

 

「私は南ことり。よろしくね。

 もしかして穂乃果ちゃんに用があったの?」

 

 え? と首を傾げる花陽。

 ことりは隣の和菓子屋を指さしながら、

 

「ここ、穂乃果ちゃんの家でもあるんだ。これからみんなでサイトにアップされてたライブの動画を見る予定なんだけど、一緒に見る?」

 

 ことりの言葉に花陽は心を躍らせた。昨日見たあのライブが映像とはいえもう一度見れるのだ。さらに、μ’sのメンバーと一緒に見れるとなれば、スクールアイドルのファンとしてこの上ない嬉しさだ。

 普段ならば戸惑う花陽だったが、今回に限ってはそのお誘いに迷うことなく乗った。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 ことりの案内で穂乃果の家──和菓子屋『穂むら』を訪れた花陽は、真っ先に店に並ぶ和菓子に目を奪われた。まさに職人の手によって作られた色とりどりの和菓子たち。マイナーなお饅頭や栗饅頭、羊羹やお団子などお店に並ぶ数々の和菓子に目と心を奪われていく花陽。帰る際には必ず買おうと心に決めると、今その場で買いたい衝動を抑えつつことりの後を追った。

 本来こういった自宅兼お店のところに訪れることがない花陽は、お店の奥へと足を運ぶことに少しワクワクしていた。階段を登ると、やがて一つの部屋の前でことりが立ち止まった。耳を澄ませば中からワイワイとした声が聞こえてくる。きっとほかの先輩たちがすでにいるのだろう。

 ことりは三回ほどノックすると、声をかける。

 

「穂乃果ちゃ~ん、入るよ」

 

『あ! ことりちゃん! いいよ!』

 

 扉の向こうからそんな陽気な声が聞こえてくる。声の主はきっとあのステージでセンターを張っていた、確か高坂穂乃果という先輩のはずだ。

 ことりは穂乃果の声を聞くと自然体で部屋へと入って行く。花陽も少し緊張しつつことりの後に続くと、女の子の部屋にしては少々散らかっている部屋の中央に、一つのテーブルを囲むようにして話す男女の姿。

 ──へ? 男女? 

 一瞬花陽の思考に空白が生まれた。てっきり先輩の部屋のことだからいるのは同じスクールアイドルのメンバー、園田海未だけかと思っていたのに、部屋の中に入ってみれば眼鏡を掛け可愛らしいパジャマに身を包んだ中学生くらいの少女と明るい茶色に染まった髪を外ハネにして髪型をセットしているチャラい少年がいた。

 穂乃果は花陽の姿を見つけると、驚いた表情をして言う。

 

「あれ? 花陽ちゃんじゃん。どうしてウチに?」

 

「下で偶然会ってそのまま連れてきちゃった」

 

「この子が、穂乃果達のライブを見に来た子か?」

 

 穂乃果の言葉を皮切りに、次々と部屋にいるメンバーの視線が花陽へと向けられ、当の本人は少し緊張をしてしまう。加えて普段は滅多に会わない異性の、しかも茶髪の少年から向けられる視線は普段からそういったことに免疫のない花陽の体をより一層強張らせていった。

 全員の視線が花陽に向かう中、眼鏡を掛けた少女が立ち上がったことで全員の注意がそちらに向けられた。

 

「それじゃ、私は部屋に戻るね」

 

「えぇ~、雪穂も見てけばいいじゃん」

 

「いいよ、遠慮しとく。それにおねーちゃんと違って私勉強しなきゃだから。

 それじゃぁリヒトさん、また今度いっぱい手品見せてくださいね」

 

「おう、いいぜ」

 

 ニッコリ笑って手を振った少女は、花陽の方に一礼すると入れ替わるように部屋を出て行った。

 花陽はことりと穂乃果の案内でテーブルに腰を下ろすと、少年が先ほどまで広がっていたトランプやコイン、プラスチックのカップを傍に置いておいたポーチにしまい始める。それからことりがカバンから取り出したパソコンを受け取り、電源を入れて起動するのを待つ。

 

「はいこれ。穂むら名物『穂むらまんじゅう』、略して『ほむまん』。美味しいから食べて食べて」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 花陽は穂乃果が差し出してきたお茶と『ほ』という焼き印が入ったお饅頭を受け取る。先ほども店内に飾られていた商品であり、花陽はパク、と一口いただく。

 

「……! 美味しい」

 

「でしょでしょ! さすが『穂むらまんじゅう』。海未ちゃんもりーくんもこれ大好物なんだよね~」

 

 そう言って穂乃果も一つ食べる。

 少年の方もほむまんを食べると自然と頬が緩んでおり、飲み込むとお茶を一口飲んでから花陽の方を見てくる。

 

「それで、キミが穂乃果達のライブを見に来てくれたって言う、小泉って子?」

 

「は、はい……」

 

「そんな緊張すんなって。年齢的には君から見れば二つ上だけど、気楽に構えてくれて構わねぇぜ」

 

 と気さくに話しかけてくれる少年だが、花陽の方はまだ緊張が取れていなかった。

 

「うーん、やっぱ初対面だと緊張するか」

 

「それだけではないと思いますよ」

 

 と、お茶を一口飲んだ海未が言った。

 

「ん? どういうことだ?」

 

「自分の見た目を振り返ればすぐにわかると思うのですが」

 

 海未に言われ少年は自分の全身を見回し始める。

 穂乃果は何かわかったのか、ああ~と頷く。

 

「確かに、今のりーくんってすごくチャラいもんね」

 

「チャラいって……。確かに数珠とか指輪とかしている上に髪も染めてるけどさ、そこまできつい色じゃないだろ。

 こう、ちょっと知的な年上のお兄さん的な雰囲気を感じないか?」

 

「感じない」

 

「感じませんね」

 

「あまり感じないかな」

 

「……全否定をどーも。

 ったく。あ、えっと、まだ名前言ってなかったな。俺は一条リヒト。元々は静岡の方に住んでたんだけど、ちょっとした理由があって今はこっちに住んでる。まあ、自己紹介をしようにも記憶喪失だからなにも出来ねぇんだけどな」

 

「記憶喪失なんですか?」

 

「ああ。ホント、何一つ覚えていない完ぺきな記憶喪失さ。一応ダンスがめちゃくちゃ得意で海外留学をしたらしくてな、留学最中に記憶を失くしたんじゃないかって俺は考えている。

 んで、今は一応穂乃果達(こいつら)のダンスコーチをやって、昼間たまたま見ていたスクールアイドルのサイトでこいつらの動画がアップされたのを見つけて、今みんなで見ようってなってる訳」

 

 少年──リヒトは説明を終えると起動が完了したパソコンを操作してスクールアイドル専門サイトへとアクセスする。リヒトが手早く検索を掛ける中、花陽は少年の顔にどこか見覚えがあるのを思い出した。検索を掛けるリヒトの横顔を見ながら記憶を探っていると、視線に気が付いたのか花陽の方を見る。

 

「ん? 俺の顔に何かついているのか?」

 

「いえ、違います」

 

「そうか」

 

 リヒトの方は特に気にする様子はなく視線をパソコンへと戻すと、画面をスクロールして動画を探す。

 

「お、あった、あった」

 

 タッチパッドを操作してお目当ての動画をクリックすると、動画が読み込まれ花陽たちには見覚えのある音ノ木坂学院の講堂が映し出される。

 そして、講堂のスポットライトがステージに立つ少女たち三人を照らしたところで、曲が始まった。

 

「本当にあったんだー」

 

「誰が撮ってくれたのかしら」

 

「え? お前達がこのサイトにアップしたんじゃないのか?」

 

「はい。照明や曲のスタートは私達の友人に手伝ってもらいましたが、動画の撮影をお願いした記憶はありません。向こうも撮影したとは一言も言ってなかったので」

 

「じゃあ、誰が……」

 

 疑問が浮かび上がる中、五人の視線が動画へと集中する。動画の投稿時間を確認すると、昨日の夜にアップロードされておりすでにかなりの再生回数を獲得していた。

 

「すごい再生数ですね」

 

「こんなに見てもらったんだー」

 

「コメントも高評価のモノが多いし、初陣にしては結構いい結果じゃねぇか」

 

「ここのところ、奇麗にいったよね」

 

「何度も練習してたところだから、決まった瞬間ガッツポーズしそうになっちゃった」

 

 穂乃果達は動画を見ながら自分達のファーストライブを振り返って行く。あの時は無我夢中で踊って歌っていたが、こうして客観的に見ながら振り返ると、入念に練習したところは三人の息があっており奇麗に見えるが、時折タイミングが怪しかったり穂乃果のステップが雑になるところ、海未のパフォーマンスが小さめになりがちなところやことりの視線が二人に向けられるなど、うまくいった点もあればもちろん反省点も多く見られた。

 それでも、初陣にしては高いパフォーマンスを披露しており、上記の点は細かく見なければわからないもの。全体的に見ればそれは些細なことでありむしろよくあの短期間でここまで仕上げたものだと感心するくらいだ。

 

「……」

 

「……小泉?」

 

 そんな中、一人真剣に熱のこもった瞳で動画を見ている人物がいた。

 リヒトは少女の名を呼ぶが、反応はなく依然その視線と意識は動画に向けられたままだ。

 首を傾げるリヒトだったが、穂乃果達は一度顔を見合わせると一回頷いた。

 

「小泉さん!」

 

「……! はい!」

 

 海未は少し大きめの声で花陽を呼ぶ。

 花陽はよほど動画に集中していたのか、海未に呼ばれ少しびっくりした様子で返事を返す。

 花陽がこちらに顔を向けたところで、穂乃果が言う。

 

「スクールアイドル、本気でやってみない?」

 

「え? ……でも、私向いてないですから」

 

「私だって人前に出るのは苦手です。向いているとは思えません」

 

「私も歌を忘れちゃったりするし、運動も苦手なんだ」

 

「私はすごいおっちょこちょいだよ!」

 

 三人少女達は自分のダメな点を上げていく。その言葉を聞いたリヒトは苦笑いとなって「おいおい」と呆れながら呟くが、確かに本人達の言っている通りなので弁解の余地はなかった。

 

「お前達なぁ、そこはしっかりしてくれよ。母さんからも厳しめの意見、貰ってるんだから」

 

 リヒトがそう言うと、少女達は「うぐっ」と唸った。

 その姿にリヒトは再度ため息をこぼすと、仕方がないなといった表情を三人に向けた。そして花陽の方を向くと、優しい声音で言う。

 

「まあ、こんな感じで三人ともプロだったら失格な奴らばかりだ。向いている向いていない以前の問題だな。

 でも、スクールアイドルには()()()()()()()()()んだよ」

 

「関係、ない……」

 

「リヒトさんの言った通り、私達はプロのアイドルならすぐに失格。でもスクールアイドルなら、『やりたい』って気持ちをもって自分達の『目標』を持ってやってみることはできる!」

 

「それが、スクールアイドルだと思います」

 

「だな。一番大切なのは『やりたい』って気持ちなんだ。向いているとか、向いていないとかじゃなくて、自分自身が『やりたい』って思ったらやればいい。

 小泉、おせっかいかもしれないが、これだけは言わせてくれ。

 何かをやりたかったり、成し遂げたかったりしたら、いちいち怯んでいちゃ、下を向いてたらいけない。『勇気』を出して、一歩前に踏み出すことが大切なんだ。下を向いていても自分が望むものは落ちていない。自分が掴みたいものは上にあるんだぜ」

 

「……上に、ある……」

 

「たぶん小泉は自分に『自身』がないだけだと思う。よく下を向いているからな。でも、さっきまでこれを見ていたお前の瞳には、『憧れ』や『やりたい』って気持ちがこもってたぜ。

 人生は一度きりだ。『やりたい』って思ったなら一歩踏み出してみろ。大丈夫、歌を忘れて誤魔化す奴や人前に出るのが恥ずかしくてひきこもるやつ、おっちょこちょいすぎてステップを何度も間違えるやつがいるんだ。何も心配することはねぇよ」

 

「……」

 

「ああ、わりぃ。なんか答えを急がせてるみたいな言い方だったな、ごめん。

 ゆっくり考えてくれればいい。俺達はいつでもキミのこと、待ってるから」

 

「……はい」

 

 花陽は小さく笑って頷いた。

 それを見たリヒト達も笑顔を浮かべる中、リヒトはポケットからスマートフォンを取り出し、ニヤリと笑いながら穂乃果達に視線を移動させいう。

 

「よし、それじゃこの話はここまでにして、お前らには母さんからいただいたありがたーい言葉でも送ろうか」

 

『ヒィッ!!』

 

 三人の少女から短い悲鳴が上がる。

 

「オブラートに包んでいない評価と、オブラートに包んではいるがあまり変わらない評価、どっちが聞きたい?」

 

『どっちも同じだ!』

 

「オーケー、オブラートに包んでいない方だな。

 …………覚悟しろよ?」

 

 少女達の口から再び上がる悲鳴。

 花陽は笑顔から一転して、苦笑いをするしかなかった。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 家へと帰宅した花陽は押し入れから取り出したアルバムを見ていた。

 幼い頃に撮った写真が数多く収められているこのアルバムには、まだ花陽がアイドルになりたいと思っていたころの写真も収められている。

 ──ねえ、私はスクールアイドルをやりたいの? 

 ちょうど誕生日パーティに取られた写真、おもちゃのマイクをもって笑顔でアイドルの真似をする幼い自分を見た花陽は己の心に問う。

 ──やりたいよ。やりたいけど、やっぱり怖い。

 そう、花陽は『怖い』のだ。

『やりたい』という心は確かにある。先輩達のようにステージに立って歌を歌う、ダンスを踊ることは幼い頃『アイドルになりたい』と願った花陽の『夢』を叶えられるチャンスでもある。

 でも、どうしてもあの出来事が頭を横切ってしまう。

 小学生の頃に起きた、小泉花陽の『トラウマ』とも呼べる出来事が。

 ステージに立つ自分に向けられるクスクスとした笑い声、数多の視線、思い出すだけで体が震える。

 やっぱりダメだ、その出来事が花陽の一歩を封じてしまっている。どうしてもその時に感じた恐怖が体に染みついてしまっているのだ。

 

「……でも」

 

 

 

 

『ウソはついていいけど、心にまでウソはついちゃだめだよ』

 

 

 

 

 兄の言葉の思い出す。

 今の自分は心にウソをついていないとはっきりと言えるか? 

 答えはNoだ。

 花陽はスクールアイドルを『やりたい』と思っている。先輩達の姿に憧れている。

 なら、もう答えは決まっていた。

 もう、『弱い』自分は嫌だ。

『強い自分』に花陽はなりたい。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 ──翌日。

 授業中、花陽は教科書とノートの間に昨日と同じくμ’sのチラシを挟んでいた。

 だが、そのチラシを見る表情は昨日とは全く逆のモノ。昨日は不安を抱えているような、脅えているような表情をしていたが今日は違う。期待や希望に満ちた明るい表情をしていた。

 

『一番大切なのは「やりたい」って気持ちなんだ』

 

 昨日のリヒトの声が花陽の声に思い出される。『やりたい』という気持ち、それならば花陽はいつもその心に秘めている。そして、その気持ち通りに進むのであれば、後は一歩踏み出すだけだ。

 

「それじゃ、小泉さん。続きを読んで」

 

「はい」

 

 昨日と同じく先生から教科書の文を読む人に指名される花陽。昨日は英語だったが今日は現代文だ。発音が問われる英文とは違い日々慣れ親しんでいる日本語ならば、最後まで読むことが出来るだろう。

 昨日の挽回を、そしてこれからの一歩のはじめとしてここは最後まで大きな声で読みたい。中学校でも失敗することが多かった音読を、今度こそ成功させたかった。

 しかし、

 

「──一体なん、っ!?」

 

 噛んでしまった。

 その瞬間周囲のクラスメイトから上がるクスクスという笑い声。

 

 

 

 

 ──その笑い声が、花陽のトラウマを思い出させた。

 

 

 

 

「────っつ」

 

 脳裏に蘇る当時の笑い声。

 幼い自分にトラウマを植え付けた声に似た笑い声。その声を聞いた花陽は息を飲み、思い返される当時の光景から嫌な汗が噴き出した。

 同時に、昨日決めた『決意』が簡単に崩れていくのがわかった。ガラスが砕ける音を立てながら、先ほどまで軽やかだった気分が一瞬にして重くなった。

 

「はーい、そこまで」

 

 その重さに身を任せるように椅子に座った花陽。先ほどの表情から一転、また昨日と同じ暗い顔で教科書とノートの間に挟んであるチラシを見た。

 

「……」

 

 花陽の読んでいた部分の続きは佐藤という生徒が続きを読んでいる。自分とは違いはっきりとした大きな声ですらすらと読んでいる佐藤さん。確かバスケットボール部に所属していると、自己紹介の時に言っていた気がする。

 さすがと言うべきだろうか、常日頃から部活動で声出しをしている彼女の声は聞き取りやすくハキハキとしていた。

 彼女は日常生活においても元気がよくてはつらつとした凛と似たタイプの少女だ。それはつまり花陽とは違い『強い自分』を持っている人物ということになる。いつも堂々としている彼女。失敗しても笑って次頑張るという前向きな少女だ。

 返って自分はどうだろうか。

 この一回の失敗で早くも昨日の『決意』が揺らいでしまっている。

 

(やっぱりだめだな。弱すぎるよ、凛ちゃんや佐藤さんみたいな『強い心』が私にもあれば……)

 

 きっと彼女達みたいな『強さ』があれば花陽は変われるのだろう。

 でも自分にはない。

 自分は『弱い』人だ。周囲からは『優しい子』と言われるが、優しいだけではダメなのだ。

 優しいだけでは……。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 花陽達のクラスには担任の教師が持ってきた小さな植木鉢がある。

 花が趣味である先生は職員室の自分の机の上にも小さな植木鉢を置いておりいかに花好きかを物語っている。

 そして教室に置かれている植木鉢は種を植えてからしばらくたっているらしく、もうすぐで目が出るとのことらしいのだが、その気配は一向になかった。

 それでも、花陽は今日も水を上げる。

 そして、やっぱり自分にはこういった裏方の細々としたことの方が似合っているのではないかと考えてしまう。

 別に嫌な気はしない。

 花陽が好きでやっていることなのだから。

 それから黒板を消したりチョークなどをそろえたりして次の授業に備える。

 ──まだ、頑張ってみる価値はあるのだろうか。

 さっきは失敗したがまだ完全に花陽の心が折れたわけではない。もう少し頑張ってみる価値はあるだろう。

 と、思ったのだが、

 

「はぁ、結局発表すらできなかった」

 

 そう、残りの授業で発表するチャンスすらなかった。単純に先生が生徒に問いかける授業ではないのと、花陽には当たらずほかの人が指名されていく。

 一応挙手性の授業もあったのだが、そういう場合はクラスでも活発な子が率先していく。

 結局花陽に挽回のチャンスは訪れなかった。

 中庭の木陰に腰を下ろした花陽は、深いため息をつきながら空を見上げていた。

 青い空に白い雲。

 優雅に流れていくその光景は実に奇麗だった。

 もう心が諦めかけていた。せっかく決意したのに、たった一回の失敗で、二回目のチャンスを掴もうとしなかったことで、花陽の気分は沈んでいった。

 自分の心の弱さが嫌になって来る。どうしてこうも自分はこんなにも臆病なのだろうか。もっと自分の心を凛みたいに外に出せればいいのに。

 心が弱いから、昨日決めた決意も簡単にしぼんでしまう。

 はぁ、と本日何度目かわからないため息をついて空を見上げる。

 

 

 

 

「なにしてるの」

 

 

 

 

 空を見上げていると、声を掛けられた。

 

「西木野さん」

 

 声のする方を向いてみれば、本来絶対に遅刻などしそうにないのに、今日は珍しく授業に遅刻してきた西木野真姫がこちらに向かってきていた。 

 真姫は花陽の傍までくると、少し頬を赤くして視線を泳がせ気恥ずかしそうに言った。

 

「……昨日はごめんなさいね、急に怒鳴った上に帰ってなんて言っちゃって」

 

「い、いえ。気にしてないから」

 

「そう、ならよかった」

 

 そう言う真姫の表情は昨日とは、いや、今までとは打って変わり非常に柔らかいものになっていた。今まで抱えていたものがすべて吐き出され、どこか晴れ晴れとした様子をうかがえる今の真姫。昨日との雰囲気の違いに少々花陽を驚いた。

 

「……なに?」

 

 花陽の視線で何かを感じたのか、真姫がジト目で問いかけてくる。

 

「西木野さんの雰囲気が、ちょっと変わったなって」

 

「私の?」

 

「うん。昨日までの西木野さんは、なんだか張りつめたようなピリピリとした雰囲気だったけど、今日はなんだか優しくて柔らかい気がする」

 

「……何となく、自分でもわかる気がするわ」

 

「え?」

 

 真姫は花陽の隣に腰を下ろすと、空を見上げて語り始める。

 

「私ね、自分が本当にやりたいことに気付いたの。そしたら、昨日まで感じていた胸の痛みや、ピリピリとした感覚がなくなってスッキリしたの。たぶんそのおかげだわ」

 

「本当にやりたいこと?」

 

「ええ、『音楽の道』と『医者の道』。その二つのどっちを選ぶかで、私は迷っていたの。でも、リヒトさん──私の大好きだった人が教えてくれた。私は両方の道を歩みたいんだって。

 そうしたら自分でも驚くほどに納得してね。まったく、二つの夢を追うだなんてよくよく考えれば相当欲深いわよね」

 

 自嘲気味に笑う真姫。

 だが、そう語る真姫の表情は明るかった。

 

「だから、あなたも自分の歩みたい道を正直に歩めばいいじゃない。スクールアイドル、やりたいんでしょ?」

 

「……それは」

 

 真姫の言う通り花陽はアイドルを『やりたい』と思っている。その気持ちは確かにまだ自分の中に残っているのだが、それを言葉として出すことが出来ない。トラウマが蘇ってしまった今、あと一歩出すことが出来なくなってしまっていたのだ。

 その弱さを再び感じた花陽は、自分の情けなさを感じつつ下を向いてしまう。

 

「無理だよ……、私、声が小さいし、背も大きくないし、人見知りだし、臆病だし。弱い私じゃアイドルなんか、出来ないよ……」

 

「…………」

 

「西木野さんは、コンクールとかで慣れてるからいいけど、私はそういう経験ないから──」

 

「──小泉さん」

 

 ネガティブな発言を続ける花陽を、真姫は遮った。花陽が顔を上げると、真姫は立ち上がって花陽の前に移動する。その間にわずかに距離と取ると、息を吸って目を閉じる。

 何をするの? と首を傾げていると、

 

「Ah-、Ah-、Ah-、Ah-、Ah-」

 

 キレイな声が真姫の口から発せられた。いつも花陽が放課後に聞いていた、真姫の歌声だ。その奇麗な歌声に花陽は虜になっていた。

 

「はい、あなたの番よ」

 

「え?」

 

「え、じゃない。あなた声はきれいなんだから後は大きく出す練習をすればいいだけ。大きな声が出れば、少しは自信に繋がるでしょ」

 

 ぶっきらぼうに言う真姫だったが、これが彼女なりの優しさなのだろう。何とも不器用な真姫の優しさに、花陽は小さく笑ってしまう。

 すると真姫はムー、と唸って花陽に早くやるように促す。

 花陽は立ち上がると、息を吸って瞳を閉じる。

 

「Ah-、Ah-、Ah-、Ah-、Ah-」

 

「小さい、もっと大きく」

 

「Ah-、Ah-、Ah-、Ah-、Ah-」

 

「もっとお腹の息を使って」

 

「Ah-、Ah-、Ah-、Ah-、Ah-」

 

「その調子! 私に合わせて!」

 

『Ah-、Ah-、Ah-、Ah-、Ah-』

 

 二人の少女の声が中庭に響いた。

 久しぶりに大声を出した花陽は、先ほどまで心の中を渦巻いていたもやもやとした暗い気持ちがすべて吐き出されて、清々しい気持ちになっていた。もちろんそれは表情にも表れており、晴れ晴れとした表情になっていた。

 

「ねぇ、気持ちいでしょ」

 

「うん」

 

「言っておくけど、私だってコンクールで緊張しているんだからね」

 

「そうなの?」

 

「当り前じゃない。特に初めてのコンクールなんて緊張でボロボロ、とても見せられたものじゃないわ。あの時の静まり返った会場の空気は、今思い出しただけでも背筋が凍るわ」

 

 そう言いながら真姫は顔を青くして両肩をさする。どうやら相当ヤバかったらしく、その様子を見ている花陽でさえ嫌な感じが背中を走った。

 

「でも、こうやって声を出せば気持ちがリフレッシュできる。あなたも、まずは声を出す練習から初めてだんだんと慣れていけばいいのよ。

 ……その、何なら私が練習につき──」

 

 

 

 

「かよちーん」

 

 

 

 

 と、そこへ凛がやってきた。

 真姫は何かを言いたがっていたようだが、凛の登場に遮られてしまった。

 

「西木野さん? どうしてここに?」

 

 凛は自分のことをジト目で見てくる真姫に対して、首を傾げながら言う。凛が疑問を抱くのも無理はない。真姫は普段休み時間に誰かと一緒にいるところを目撃したことがない。大抵図書室や音楽室に行ってしまうため、こうして誰かと一緒にいることがとても珍しいのだ。

 

「励ましてもらってたんだ」

 

 親友の疑問に答える花陽。

 真姫は恥ずかしがって否定するが、それが照れ隠しだとすぐにわかった。その姿に微笑ましいと思う花陽だったが、凛は「それより」と言って花陽の手を掴む。

 

「今日こそ先輩のところに行って、アイドルになりますって言わなきゃ」

 

 花陽の手を引きながら急かすように言う凛。

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

「なんで? 入るって決めたんでしょ? なら行かなきゃ」

 

 花陽と凛の付き合いは長い。幼稚園からの幼馴染な故に互いのことを一番理解し合っている仲だ。だからこそ、小泉花陽と言う人間の性格を理解している星空凛だからこそこういう場合、早くスパッと決めた方がいいと判断したのだろう。

 しかし、今はどう見ても凛が花陽を無理やり連れて行こうとしている様にしか見えず、花陽もその場を動こうとはしなかった。

 見かねた真姫は花陽の手助けをする。

 

「そんな急かさない方がいいわ。もう少し自信をつけてからでも──」

 

「なんで西木野さんが凛とかよちんの話に入ってくるの!」

 

 しかし凛は少し声を上げて真姫を睨むように見る。

 真姫も凛の言い方にカチンといたのか、眉間に皺を寄せるとツンとした態度で言う。

 

「この子はまだ自分に自信が持てていないみたいだから、声を出す練習をして自信をつけた方がいいんじゃない? 歌うならそっちの方がいいわよ」

 

「かよちんはいっつも迷ってばっかりだから、パッと決めて上げた方がいいの! それにそういうのは入った後でも出来るでしょ!」

 

「自信を持ってから入るのと入らないのとじゃ、全然違うわよ。今行ったら確実に失敗するわ」

 

「あの……ケンカは……」

 

 本人を際し置いてヒートアップしていく二人。互いに互いを睨みつけている当たり、今にもケンカとなりそうで花陽はあたふたしていた。

 だが、同時に『自分が強ければ二人がケンカをしなくて済むのに』とも思っていた。結局、自分が優柔不断で弱いから、目の前でケンカが始まろうとしているのだ。自分が不甲斐無いばかりに、目の前で嫌なことが起きようとしている。

 嫌だ。

 嫌だ。

 嫌だ。

 自分に、『強い心』があれば。

 自分に、『強さ』があればこういうことにはならないのに。

 

「嫌だな、ホント」

 

 と、花陽が小さく呟いた時だ。

 

 

 

 

 グラリ、と花陽の意識が回った。

 

 

 

 

(あれ? どうしたんだろ、急に……)

 

 グラリと揺れた視界は花陽の平衡感覚を失わせ、次第に意識が遠のいていく。体から力が抜けていき、踏ん張ることすら、この不可解な現象に抗うことすらせずに、花陽の体が倒れ始める。

 わずかに開いている視界には、突然の花陽の急変に驚き目を見開く二人が映っていたが、間もなくして視界が閉じられた。

 

「かよちん!!」

 

「ちょっと、どうしたのよ!?」

 

 二人の少女の悲鳴が上がるのと同時に、花陽がその地に倒れた。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 ──音ノ木坂学院・保健室。

 幸い真姫が医者の娘だということもあり、取り乱した凛の代わりに冷静に花陽の容態を確認した後に保健室へと運んだ。先生の許可の元ベットに花陽を寝かせると、真姫は真剣な表情で花陽の容態を確認していく。

 まさかこんなところで、常日頃から勉強していた医者の知識が役立つなんて。と感じつつ花陽の体を一回り見た真姫は、顎に手を当てて難しい顔をした。

 

「特に目立った外傷は見当たらない、睡眠不足にも見えないし、一体どうして……」

 

 花陽の体に目立った外傷はない。肌の色もとてもきれいであり、彼女が日ごろからきちんとした睡眠をとっている証拠だ。凛の話では朝食もしっかりとって来たらしいので彼女が倒れる理由がない。健康状態は良好なのだ。

 季節的にもまだ熱中症には早い。真姫が現状持っている知識では、なぜ花陽が倒れたのか解明が出来なかった。

 

「かよちん……」

 

 小さく親友の名前を呼ぶ凛。

 花陽が倒れた時は取り乱していた彼女は、真姫の冷静な対応のおかげで今では落ち着きを取り戻している。

 

「凛が、急かしたのがいけなかったのかな……」

 

 ベットの横の椅子に座る凛が、弱々しく言った。

 

「そんなわけないじゃない。あなたに急かされて倒れるほど、小泉さんは弱くないはずよ」

 

「西木野さん……」

 

 と、凛が呟いたところでベットのきしむ音が聞こえた。

 二人が慌ててベットの方へ視線を向けると、目を覚ました花陽が上体を起こそうそしているところだった。

 凛は「かよちん!」と叫ぶと彼女の体を支えて起き上がるのを手助けする。

 

「大丈夫?」

 

「凛ちゃん? あれ? ここは、保健室?」

 

 花陽は凛の手助けを借りて状態を起こすと、あたりを見回してここが保健室であることを確認する。それからなぜ自分が保健室にいるのかを思い出そうとする花陽。

 凛が保健室の先生が用意しておいたお水の入ったコップを差し出すと、花陽は受け取って一口飲む。

 

「そっか、私倒れたんだ」

 

 と呟いたのを聞いて、真姫は花陽が落ち着いたタイミングを見計らって声をかけた。

 

「容体はどう?」

 

「大丈夫、問題ないよ」

 

 見栄を張っているようには見えない。水を飲む二回目の動きにはコレと言った気になる点はなく、目を覚ました彼女はいたって普通だった。真姫の質問にもしっかりと答えれているし、本当になぜ倒れたのか不思議なくらいだ。

 

「今日はもう帰った方がいいわ。理由はわからないけど、あの倒れ方は異常だった。病院にも行った方がいいわよ」

 

「ありがとう。でも、ごめんね。今日はある人と会う約束をしてて、その人と会わなきゃいけないの」

 

 花陽がそう言うと、真姫は眉をひそめて呆れた。

 

「あなたねぇ、自分が倒れたって自覚あるの? 帰りなさいって言ってるの。一応これでも医者の娘よ、言った通りにしなさい」

 

 と、強めの口調で言う真姫。当たり前だ、突然倒れておきながら目の前の人物は待ち合わせの人のところへ行こうとしている。真姫は呆れるのと同時に怒りを感じており、前もって教室から持って来て置いた彼女のカバンを押し付けるように渡すと、再度帰るように促す。

 しかし、花陽は変える様子は見せずに困った顔で言う。

 

「でも、ユーカさんが待ってるから」

 

 

 

 

「──待って、ユーカさんって昨日かよちんが一緒にいた人?」

 

 

 

 

 凛が花陽を制する様に強い声音で聞いた。その瞳には強い警戒心が込められており、なぜ親友がそんな視線を向けてくるのかわからない花陽は、首を傾げながらも答える。

 

「そうだよ。昨日一緒にCDショップに行った人。初めて会ったんだけど、ユーカさんも久乃千紗さんの大ファンらしくてね、それで盛り上がって──」

 

「ダメにゃ!!」

 

 花陽の言葉を遮るように凛は声を上げた。

 

「あの人はダメにゃ! 危険な人だよ!!」

 

「え? え?」

 

 凛の発言に、花陽はただ困惑するだけだ。

 

「凛見たんだよ! かよちんとその人が一緒にいるところ。確かにかよちんと一緒にいた時は笑ってたけど、かよちんと別れた途端に無表情になったんだにゃ! 凛はあんなに怖い『無表情』を初めて見た。まるで、何にも興味がないって感じて……。かよちんと一緒に買ったCDもその場に捨ててったんだよ!? 普通の人なら絶対にしないことだよ? でもその人は捨てた。道端にごみを捨てる感じで捨てたんだよ! 

 兎に角、その人は危険だにゃ!! 絶対に会っちゃダメ!!」

 

 花陽の肩を掴んで、必死の形相で訴える凛。その表情には焦りの色も現れており、必死に『ユーカ』という人物に行かないでと訴えているが、

 

「どうして?」

 

 花陽は驚いた表情で言う。

 

「どうしてそこまでユーカさんを酷く言うの? ユーカさんはいい人だよ」

 

「かよちんは騙されてるにゃ! あの人は危険! 危険なんだよ!! 上手く説明できないけど、とにかく行っちゃダメにゃ!! あの人は絶対に何かある、凛はそう感じるんだよ。あの人は──」

 

「──凛ちゃん!!」

 

『──っつ!?』

 

 花陽が声を上げた。

 いつも声の小さい彼女が、親友である凛が聞いたこともないほどに声を上げた姿に、凛だけでなく真姫までもが体を震わせて驚いた。

 花陽は明確な『怒り』を込めた視線で凛を見る。

 

「それ以上言わないで。さすがの私も怒るよ」

 

「…………」

 

 凛は花陽の威圧に負けて、ゆっくりと腕を下ろした。

 その表情は驚愕に染まっており、親友から向けられる初めての感情に戸惑いを隠せていなかった。

 花陽は、そんな凛を一瞥するとカバンを手に保健室を出て行く。

 真姫は花陽の後を追おうとしたが、呆然としている凛の方が気になりその場にとどまる。

 

「追いかけないの?」

 

「…………」

 

 凛は答えない。

 

「……そんなに落ち込むこと? 友達同士ならケンカの一回や二回、普通にあるでしょ?」

 

 これをケンカと捉えれるのか、正直なところ真姫にはわからない。幼い頃からピアノに没頭していた真姫に『友人』と呼べる人間は『一条リヒト』を覗いて一人としていない。その『一条リヒト』とも過去に数回出会っただけで『ケンカ』と呼べることは一度もいたことがない。

 故に真姫にとって『友達同士のケンカ』というのは『友達同士ならよくあること』程度にしか知らない。

 

「……かよちん優しいから、凛とあまりケンカにならないんだよ。たとえケンカになっても意地の張り合いみたいな形で、怒鳴ることないんだ。だから、さっきみたいに怒鳴ったかよちんは初めて見た。

 かよちん、怒るとちょっと怖いね」

 

 そう言って「あははは」と苦笑いする凛。

 確かに、出会って間もない真姫でも花陽の性格が『優しい』というのは雰囲気で何となくわかる。怒鳴る姿もあまり想像することが出来ない。それに、二人がケンカをしている姿は、何となく想像しにくい。 

 先ほど怒鳴ったとなると、よほど頭に来ていたということになる。

 

「……そんなに危険なの? 『ユーカ』って人」

 

「……うん。うまく説明できないんだけど、あの人は危険。危険なんだよ」

 

「なら、助けに行かないとね」

 

「え?」

 

 真姫は自分のカバンを肩に掛けると、凛のカバンを渡しながら言う。

 

「危険なんでしょ、その『ユーカ』って人。ならさっさと追いかけて、真相を確かめましょう」

 

「信じてくれるの?」

 

「そんなこと言っている場合じゃないでしょ? まだ遠くには行っていないはずだからささと行くわよ」

 

 疑問に首を傾げる凛を置いて先に行こうとする真姫。凛も慌ててカバンを肩に掛けると真姫の後を追った。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 真姫と凛が学校を出た時はすでに花陽の姿は見当たらなかった。あれからまだ時間はそんなに経っていないというのに、早すぎでしょと愚痴をこぼしたくなる真姫だったが、それを飲み込んで花陽の行きそうなところを凛に聞く。幸い心当たりがあるらしく、凛は何の迷いもなく走り出した。

 二人がやってきたのは昨日凛がユーカと花陽の姿を見た街の方面だった。二人は辺りを見回して花陽の姿を探すが、ちょうど他校の下校時刻でもあるため街には制服を着た男女の姿が多くあり、見つけるのは一苦労だった。

 

「一体どこにいるのよ……」

 

「西木野?」

 

 と、聞きなれた声がした真姫は声の方へと振り返る。

 そこには、灰色のパーカーを着た茶髪の外ハネ青年──一条リヒトが立っていた。

 まさかの人物の登場に、真姫は驚く。

 

「リヒトさん、どうしてここに?」

 

「いや、ちょっとある用件で」

 

 真姫の問いに答えにくそうにするリヒト。

 疑問に思う真姫だったが、それより先に凛がリヒトに迫った。

 

「すいません、かよちんって子探しているんですけど、見ませんでしたか?」

 

「かよちん?」

 

「それじゃわからないわよ。えっと、髪はショートボブくらいで眼鏡を掛けた私達と同じ制服の子。あと」

 

 真姫が知る限りの花陽の特徴を上げていくが、コレといって大きな特徴がないため説明に苦労する真姫。

 しかし大体のことは伝わったのか、リヒトは「もしかして」と前置きしてから言う。

 

「小泉って子か?」

 

「知ってるの!?」

 

「ああ、昨日穂乃果の家で一緒にライブの動画を見たからな。 

 それで、その子がどうかしたのか?」

 

「かよちんが危ないんです!」

 

「危ない?」

 

「だから、極端に言いすぎなのよ」

 

「まったく」と少々焦る凛に呆れながらリヒトの事情を説明するリヒト。焦る凛の気持ちもわからないわけではないが、こういった時に焦るのは禁物だ。真姫は先ほど凛から聞いた話を短くまとめて説明すると、リヒトは少し険しい表情になった。

 

「星空っていったか? その女って黒のレースにサングラスをしてて、髪の長い女だったか?」

 

「たしか、そんな恰好でした!」

 

 凛の返答を聞いてリヒトは苦虫を噛み潰したような表情をした。

 

「マズイな」

 

 それから、深刻そうな表情でこうつぶやいた。

 

 

 

 

「小泉が危ない」

 

 

 

 

 

 




いよいよ事態が動き出した第二章、前半部分が終わりいよいよ後半戦に向かいます。今回の前半部分で真姫に何があったのかは、第4話を参照です。

それでは第三章に続きます。
サブタイトルは「優しさと強さと……」の予定。

次回もお楽しみに!


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