ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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今回長いです。
その代わり今回で第7話終了です。


第三章:本当の狙い

 [3]

 

 

 リヒトの前に現れた一人の少女。

 髪も、肌も、服も、赤い瞳を除いてすべてが『白い』と表現できる少女は、その歩みを止めることなくリヒトの前にやってきた。

 驚きで戸惑うリヒト。

 

「えっと……」

 

 キミは誰? 

 ──とは続かなかった。

 少女とリヒトの視線が交差した瞬間、リヒトの体には異様なプレッシャーが駆け巡った。まるで世界から切り離され、少女とリヒトだけが別の空間に立っているような錯覚。リヒトの五感が吹き飛び、時間が停止したのではないかという感覚に陥る。

 先ほどまで騒がしかったゲームセンター内の音も、穂乃果達の声、気配が全く感じられない。目の前にいる少女の赤い瞳が、リヒトの動きを封じていた。

 リヒトの時が止まる中で、少女の腕だけが動きゆっくりと持ち上げられていく。リヒトは自然とその指先に視線を向けて、持ち上げられる少女の白く細い腕をただ眺めていた。そして少女の手は、ある一転に指先が触れた瞬間に止まった。

 

 

 

 

 ──―一条リヒトの胸、いや、正確に表すのならば()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「──っつ!?」

 

 ゾワリ、と嫌な感覚がリヒトの体を襲った。

 的確に心臓の上に添えられた少女の指先。

 よく漫画やアニメで敵の殺気で心臓を貫かれる、という演出があるが、今まさにそれに近い体験をリヒトはしている気がした。この指先がリヒトの胸に沈んで行き、心臓を貫くという光景がリヒトの脳裏に浮かび上がってくる。

 そんなことはない、絶対にありえないはずなのだが、リヒトが体に感じている『恐怖』は紛れもない本物。額には汗が浮かび上がり震えが止まらない。

 穂乃果達は無事なのだろうか──? 

 気配も声も感じられなくなってしまった中で、少女達の安否が気になるリヒト。視線を動かし穂乃果達を探そうにも、少女の赤い瞳がリヒトを睨みつけ動きを封じる。金縛りにあったかのようにリヒトの体から自由が奪われ、視線が少女に固定される。

 

「──―なるほど。やはり貴様はそうだったか」

 

 リヒトの頬から一滴の汗が流れ落ちるのと同時に、少女が声を発した。

 

「だが好都合だ。これなら私は力を取り戻せる」

 

(一体、何を言っているんだ……?)

 

 疑問が声として発せれない。動きが、声が、すべてが奪われてしまっている。

 そして、少女の指先に力が加わり、リヒトの胸にその指先が沈んで──。

 

 

 

 

「待ちやがれ! このホワイトガール!!」

 

 

 

 

 ──行く寸前、後方より聞こえてきた男の声が白い少女の行動を止めた。

 少女はムスッと、関わるのが面倒くさい人がやってきた時にする表情を浮かべて、声のした方へと振り返る。

「──まったく、邪魔が入った」少女の声がリヒトの耳に届くのと同時に、先ほどまで体を縛り付けていた嫌な緊張が霧散していった。

 謎の緊張感から解放され、その場でふらつくリヒト。

 

「ちょっと、どうしたの!?」

 

「りひとさん大丈夫!?」

 

 近くにいたにことことりが慌てて駆け寄り、リヒトの体を支える。

 二人に支えられ、自分が倒れかけているのだと理解したリヒトは、浅い呼吸を繰り返しながら二人の顔を見る。それから辺りを見回し、いまだマヒしている脳を回転させ事態を把握しようとする。

 

「だ、大丈夫だよ」

 

 兎に角、まずは少女達を安心させねば、と思いリヒトは言った。

 

「どこが、顔色わるいわよ」

 

 しかし言葉とは裏腹に、にこの言う通りリヒトの顔色は悪く汗も浮かび上がっている。体は微かに震えており、浅い呼吸を何度も繰り返しているその様子は、とても大丈夫そうには見えない。

 それでも『大丈夫』と言い続け、同時に一体何が起こっていたのかを推理する。少しだけ荒い呼吸を何とか落ち着かせようとしながら、現状を把握しようとするリヒト。無意識のうちに伸びていた右手が自分の胸を触っているのだと気づいたのは、その時だった。

 穴は──空いていない。

 当たり前だ、あくまで少女の指先が添えられただけ。刃物で刺されたわけでも、漫画やアニメのように少女の手がリヒトの胸を貫いたわけでもない。穴が開いているはずがないのが当たり前だ。

 だがしかし、頭ではわかっていても体は分かっていなかった。本当に刺されたかのような感覚、あの細く白い腕があのままリヒトの胸を貫いていたのではないかという恐怖が、体から離れて行かなかった。

 それでも、少女たちにこれ以上心配をかけるわけにはいかない。

「わりぃ、もう大丈夫だ。本当に」支えてくれたにことことりから体を放し礼を言う。

 

「まったく、急にぼーっとし始めたと思ったら」

 

「本当に大丈夫? まだ顔色わるいけど」

 

「大丈夫だって。ほら、あれだ。この企画を夜遅くまで考えていて寝不足だったから、今それが来たんだろ。いやー、夜更かしはダメだぞ」

 

 最後の一言を冗談っぽく言って、その場を和ませようとするリヒトだったが、どうやらまだ相当顔色が悪いのか少女達の表情が和らぐことはない。

 そんなに今の自分はひどい顔をしているのか。

 ならばここは、何か一つ盛り上げて元気な姿をアピールしなければ、と考えたリヒトは辺りを見回す。

 どうするかなー、と周囲に視線を走らせると、まだ海未がダンスゲーム機から降りていないことに気付いた。

 

「よし、なら俺も一曲踊ろうかな」

 

「ちょっと!」にこの制止を無視してリヒトはダンスゲーム機へと向かう。

 無理やりな場面転換だと感じながらも、これ以上少女達に心配を掛けたくないリヒトは無理やりにでも自分の行動を押し通す。

 それに、先ほどはカラオケでやらかした失敗を、ここで挽回したいのだ。なにせダンスは『一条リヒト』の得意分野。失敗するなんてことはまずない。あんなかっこ悪い姿を見せてしまったのだから、ここでカッコいいとこくらい見せてもいいではないか。

 

「Ladies and gentlemen!! さて今度は俺のダンスを見せてやるぜ!」

 

 パチンと指を鳴らし、穂乃果たちに向けてウィンクまでする当たり、声のトーンや雰囲気からして完全にカラオケでの司会と同じモードに入っている。

 財布を取り出していないのに、流れるような動作で出現させた百円玉をゲーム機へと投入。曲を選択するのと同時パーカーを脱いで体を身軽にする。そしてすぐに曲を選択し終えると、わざわざカッコつけて待機のポージングを取る。

 本来なら「なんだコイツ?」となりそうなのだが、リヒトの一連の動作は流れるように行われたため、思わず見惚れてしまっていた。

 ──それはつまり、すでに少女達の『視線』と『心』がリヒトに向けられたということ。

 

(さーて、It's Show Time!!)

 

 ──瞬間、少女達の目にはそれまでの一条リヒトに抱いていた印象が百八十度変わる光景が広がった。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 それはもう、ショーと言える光景だった。

 的確に、乱れることなく刻まれていくステップ。

 体の軸がぶれることなく、滑らかに次から次へと体が動いて行くリヒト。

 時折、画面から視線を外しこちらに振り返ったり、大胆に回転して見せるなど、その動きは正に本物ダンスを見ているかのよう。

 これがゲームだということも忘れ、少女達はリヒトのダンスに飲み込まれていった。いや、少女達だけではない。ゲームセンター内にいる他の人達の視線も、徐々にリヒトに向けられていった。

 譜面を暗記しているのか、それとも直前に流れてくる譜面を一瞬で覚えて踊っているのか、笑顔で踊るリヒトの姿はとても輝いていた。

 最後のステップが終わり、キメポーズをとってリヒトのダンスが終わりを告げる。

 画面には背中を、こちらには正面を向け、天を指さし顔は下を向いているリヒトは、しばらくの間その動きを止める。

 

『………………………………………………………………………………』

 

 リヒトに視線を向けた誰もが静寂を続ける中、顔を上げたリヒトは笑顔で一礼をする。

 ──瞬間、それが終わりを告げる合図となり拍手喝采が沸き起こった。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「さて、次の種目へと移るわけだけど……」リヒトは後ろを振り返って「なんかみなさん落ち込んでない? どうかしたの?」

 

 ゲームセンターから移動してきたリヒトは、先ほどの拍手喝采の光景を思い浮かべながらその余韻に浸りながら、次のゲームの説明をしようと振り返ったところで少女達が落ち込んでいることに気が付いた。

 

「凛、なんか自身失くしちゃったなー」

 

「私も、ちょっと凛ちゃんと同じ気持ちかな……」

 

「これはちょっと、堪えるわね」

 

 と、一年生組は肩を落とす。

 

「りーくんがあそこまで上手かったなんて……」

 

「穂乃果ちゃん、元気出そう」

 

「みなさん相当堪えてますね」

 

 と、二年生組。

 

「一条、アンタちょっとは自重しなさい」

 

 にこには怒られてしまう始末。

 どうやら、先ほどリヒトのダンスを見た少女達は、自分達のパフォーマンスとのレベルの違いに、ショックを受けてしまっているようだ。リヒトとしては場の雰囲気を和ませるため、そしてついでに盛り上げようとしたのだが、逆効果となってしまったらしい。

 落ち込む少女達を見て、どう次のゲームに移行させようかと悩んでいると、穂乃果が顔を上げて言う。

 

「でも、練習すれば、私達もりーくんの様なダンスができるようになるのかな?」

 

「穂乃果……?」

 

「だって、りーくんが上手いのは私達より長くダンスをやっているからでしょ? それにアメリカに留学までして、本気でダンスを学んだ。上手で当たり前だよ。

 でも私達はまだ始めたばかり。りーくんより下手なのは当たり前。だから、私達もたくさん練習すればりーくんのようなダンスが踊れるのかなって」

 

「……そうね。一条のダンスはレベルが高いけれど、私達が到達できないレベルじゃない。私達は学校の廃校を阻止するのが目的でしょ? なら、これくらいのレベルは必要だわ」

 

「矢澤……」

 

「だよね! 今まで以上に練習をして、みんなで頑張れば絶対にりーくんの様なダンスができる気がするんだ。だからみんな落ち込んでいないで頑張ろうよ! リヒトさんの様なダンスを目指して!!」

 

 それは、とてつもなく大変なことかもしれない。リヒトは今まで学んできたダンスの経験があってこそ、あのようなパフォ―マンスができるのだ。それを初めて数か月の彼女達が追い付くには、その距離が大きすぎる。言葉に表す以上の時間と距離が両者の間にはあるのだ。

 それでも、自分達の目標を達成するには、リヒトと同じ(最低でも近いレベルの)パフォーマンス力が必要になって来る。確かに両者の経験値は圧倒的なほどに差があるが、それを埋めるとまでは言わなくても縮めることはできる。

 穂乃果の、その自信はどこから湧いてくるのだ、と言いたくなるくらいの発言に、少女達は苦笑いを漏らしつつも、その瞳にはどこか『やってやる!』という意気込みが込められていた。

 

「その意気だぜ、穂乃果。それにみんなも。必ず廃校を阻止して見せようぜ!!」

 

『おおー!!』

 

 少女達の意思を感じ取ったリヒトはここで景気づけるためにこぶしを突き上げる。

 少女達もまた、同じようにこぶしを突き上げる中──、

 

「んじゃ、次も種目チラシ配りよろしくなー」

 

『え?』

 

 ──空気を読まず次の種目を告げるリヒトに、全員の視線が突き刺さった。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 ──チラシ配り。

 もちろんこれを選んだのにも理由がある。

 歌唱力、ダンス力とここまでアイドルの『歌』に関することを調べてきた。ならば次は『魅力』を調べる必要があるだろう。

 よくグループアイドルで歌もダンスもそこまで上手くないのに、なぜか気になってしまう人がいるはずだ。それはその人が持っている『魅力』が、自然と人々の視線を集めているということ。『オーラ』と言い換えてみても違和感はないはずだ。

 そしてこの人を惹き付ける『魅力』を調べるのに適しているのが、チラシ配りだと判断した。笑顔でチラシを配り、多くのチラシを受け取ってもらえれば、その人には人を惹き付ける『魅力』があるということになる。

 もちろんそれだけではない。

 チラシを配ることでμ’sの宣伝、及び少女達に『アイドルとしての魅せ方』の基礎を感じてほしいという思いもあった。

 特に人見知りをする花陽や、恥ずかしがり屋の海未、あとは人付き合いの苦手そうな真姫のために考えた種目と言っても過言ではない。

 

「あ、お、お願い……します」

 

 リヒトの予想通り、花陽は声が出ているもの小さく人を呼び止めるまでの力がない。

 真姫の方はどう声をかけていいのかわからず、戸惑っている様子だ。

 そして海未の方は──。

 

「あの、お願いします」

 

 と、以外にもチラシを配れていた。

 この点に関しては、やはり二人より長くやっている経験値の差が出てしまったのだろう。初めのころからの成長が見られ、ひとり小さく笑うリヒト。

 一方の穂乃果、凛、にこ、ことりの方は順調にチラシを配っている様子で特に穂乃果、凛、にこに関してはその明るい性格もあってか臆することなく次々と人に笑顔で接していっていた。

 そんな風に和やかに少女達の記録を取っていると、突然ギンガスパークが反応を示した。

 

(──っつ!?)

 

「あの、りひとさん。私もうチラシ──」

 

「──わるいことり、ちょっと急用ができた」

 

「──え?」

 

 声をかけてきたことりに一言告げ、リヒトはその場から走り出した。戸惑ったことりの声が後ろから聞こえてくるが、今のリヒトに振り返っている暇はない。走りながら適当な路地へと入って行き、周囲の人影が少なくなったのを確認するとギンガスパークを取り出して反応を探る。あたりを見回し、ギンガスパークが感じ取った僅かな『異変』を、より深く探る。

 反応はこの近く。

 リヒトはギンガスパークの反応を頼りに走り続ける。

 そして、誰かが地に倒れる音が聞こえた。

 

(近くだ!)

 

 物音の下方へと走り、裏路地の角を曲ると──、

 

 

 

 

 ──地に倒れ伏す男と、その正面でつまらなそうに男を見下す白い少女が立っていた。

 

 

 

 

「──なっ」

 

 目の前に広がる光景に驚きを隠せないリヒト。冷静に考えれば少女の前に金髪黒ジャージの男が倒れているのはおかしな光景なのだが、それにツッコミを入れる余裕や、状況を冷静に分析するほどリヒトの頭が回らなかった。唯一わかるのは、目の前の少女が先ほどゲームセンターで出会った少女と同じということだけ。

 

「ぐっ」

 

「つまらんな。大口をたたいて割には、呆気ない」

 

「この……っ」

 

 金髪黒ジャージ男と白い少女の間で交わされる会話。

 少女は男を見下し、男は悔しそうに少女を見上げる。ジャージが所々破けており、腕には擦り傷や打撲痕が見られる。体に力が入らず立ち上がることができないのか、男は何度も腕に力を入れては地に倒れていた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 ようやく事態をある程度飲み込んだリヒトがボロボロの男へと駆け寄る。

 しかし、男に触れた途端ギンガスパークが反応を示し、リヒトの思考が再び困惑する。

 

(どういうことだ!? ギンガスパークが反応したってことは、この人……!!)

 

「俺様はお前が気に食わねぇんだよ。『光』のくせに俺たちの味方気取りやがって」

 

「気取ってなどいない。実際に私は『闇』の軍勢だ」

 

「ふざけたこと抜かすんじゃねえ! テメーは『光の存在』だろうが!! 『闇』である支配者様の味方面してんじゃねええええええええ!!」

 

 男は吠えるのと同時に残された力を振り絞って立ち上がる。同時に男の姿が変化していき、その容姿は宇宙人──バルキー星人へと姿を変えた。

 目の前で男の姿が変わるのと同時にギンガスパークが激しく反応を示し、リヒトに警告を飛ばす。

 男は──いや、バルキー星人はその手に持つ武器を振り上げ少女へと駆け出す。

 リヒトはとっさに、少女を守ろうと手を伸ばす。たとえ少女が何者であろうとも、傍から見れば宇宙人が少女を襲っている様に見えるのだ。あのままでは少女は殺される──、そうリヒトの頭が無意識に判断を下し、バルキー星人を止めようとするが、それより先に少女の方がアクションを起こした。

 迫りくるバルキー星人をつまらなそうに一瞥し、ただその白く細い腕を横に振るった。

 ただ、それだけだった。

 

 

 

 

 瞬間、光の濁流がバルキー星人を飲み込み、消滅させた。

 

 

 

 

「──!?」

 

 もはや、驚きの声すら出なかった。

 カタリ、とバルキー星人のスパークドールズがその場に転がり落ちる。少女はそれを拾い上げると、

 

「まったく、余分に力を使ってしまった」

 

 と、つぶやいた。

 少女はそれを懐にしまうと、ようやくリヒトの存在に気付いたのか視線を合わせてくる。

 瞬間、リヒトの体に先ほどゲームセンター内で出会った時と同じ『恐怖』が走る。

 

「ふむ、まさかそっちからきてくれるとは……想定外だったか」

 

 少女は、ゆっくりとその足を前へと運び、リヒトへ一歩近づく。同時にリヒトの足が一歩後ろへと下がり、嫌な汗が浮かび上がっていた。

 

(どういうことだ? コイツは何者だ? さっきの男は宇宙人だった? なぜ倒した、なぜ対立していた? しかも男は、こいつを『光の存在』と言っていなかったか?)

 

 などと、少女から感じられる『恐怖』がリヒトの思考を麻痺させ、先ほどの光景からかろうじてキーワードを拾い上げることしか出来ない。

 

「まあいい。今度こそ貴様の『光』を貰おう」

 

「──っつ!?」

 

 少女の手が伸びる瞬間、リヒトは反射的にギンガスパークを構えた。

 

 

 

 

 しかし、リヒトがギンガへウルトライブするより早く、気が付けばリヒトの視界は光の濁流が広がっていた。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 目が覚めた時、リヒトはほぼ条件反射で体を起こしたが、ぐるりと視界が急に回り急に頭が重くなった。倒れかけた体を膝を着くことで支え、ぼやけた視界であたりを見回す。

 そこにはリヒト以外誰もおらず、白い少女の姿はどこにもなかった。

 

「……一体、何者だったんだ……」

 

 お風呂でのぼせたような感覚の中、リヒトは自分の体に怪我がないか、ギンガスパークが奪われていないかを確認する。幸いケガらしいケガはなく、首筋に噛まれたような痛みと体がぐったりと重たいくらいだ。ギンガスパークも奪われていない。体は動けないほどではないが、今すぐに動けるという状況ではなかった。

 状況を整理しながら時間を取り、ある程度体を動かせるようになると、リヒトは重い体を動かしてその場から移動した。

 

(とにかく、まずは穂乃果達のところへ行こう)

 

 時間を考えれば、そろそろチラシ配りが終わっているメンバーが出てきているはずだ。ふらつく頭と妙な疲労感を感じながら、路地から出て大通りに戻れば、少しだけ空がオレンジ色になりかけていた。

 

「りーくん!!」

 

 と、穂乃果の声が聞こえてきた。

 声のした方を見れば穂乃果がダッシュでこちらに駆け寄って、いや、あれはどう見ても突っ込んでくるように見える。

 

「ちょっ、まっ──―」

 

 リヒトが止めるより先に、穂乃果の体当たりがリヒトに炸裂した。

 ゴロン、と後ろに奇麗に転がるリヒト。

「いててて」後ろに転がったものの砂利などが背中に刺さったのか、汚れを払い落とすリヒトに対し、体当たりをした穂乃果はリヒトの肩を掴むと、

 

「りーくん! 大丈夫!?」

 

「うんお前が肩を揺らして俺の脳がシェイクされていなければ大丈夫だった」

 

 と、穂乃果に脳をシェイクされ若干グロッキーになりながら答えるリヒト。

「ご、ごめん」穂乃果も自分のやったことが分かったのか、慌ててリヒトの肩から手を放す。

 

「ったく、いきなりぶつかって来るとか、どうしたんだよ」

 

「ちょっと心配になっちゃって」

 

「心配?」

 

「こちりちゃんから『りひとさんが急用でどっか行っちゃった』って聞いたんだけど、そしたら急にこれが震えて、そしたらりーくんが危ないって気がしたんだ」

 

 そう言ってブレザーのポケットから赤い輝石を取り出す穂乃果。

 

「それって、お前が希から貰ったやつだろ」

 

「正確には奉次郎さんが持ってたみたいだけどね」と補足を入れつつ「なんか、これが震えたんだ。『危ない』『危険』って叫んでいるような気がして。りーくんも知ってるでしょ。私が体験したウルトラマンと怪獣の戦い」

 

 知っているも何もそのウルトラマンが僕です、とは言えないので大人しく頷いておくリヒト。

 

「その時に体験した『恐怖』と、この輝石から伝わってくる『恐怖』が似てたんだ。そしたら『りーくんが危ない』って気がして、もしかしたら怪獣に襲われているんじゃないかって思ったら、いてもたってもいられなくて」

 

「…………」

 

「ごめん、ちょっと変な話だよね」

 

「別に。そうでもないさ」リヒトはサムズアップをして「ありがとな、心配してくれて」

 

「……えへへ、どう? ヒロインのピンチに駆けつける主人公みたいでカッコよかったでしょ?」

 

「なんで俺がヒロインポジなんだよ」

 

 と、穂乃果と軽い冗談を交わしながら、リヒトは穂乃果と一緒にほかのメンバーのところへ向かった。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 場所は穂乃果たちがよく利用するファストフード店へと移動した。各々ポテトやシェイクなど軽いものを注文し、今日の結果を振り返る。

 

「チラシはことりが一番だったんだな」

 

 注文したシェイクを飲みながら、リヒトは海未がメモした結果を見ていく。

 

「で、最後まで苦戦したのが西木野か」

 

「……なによ」

 

「そう睨むなよ……」

 

 リヒトがそういうと、この結果が悔しいのか睨んでくる真姫。フン、とそっぽを向いてしまった。そんな真姫に苦笑いしつつもチラシ配りの結果と、先にやった二種目の結果を見比べていくリヒト。

 

「それで、結果はどうなんですか?」

 

「ん? 結果?」

 

「忘れたのですか? センター争奪戦の結果ですよ」

 

「…………あ、ああ。結果ね。ちょっと待ってろ」

 

 返答までに妙な間があったことを疑問に思う海未だったが、リヒトがスマートフォンのメモアプリに記入を始めたため聞けなかった。

 

「なんかちょっとワクワクしてきたね、かよちん」

 

「そ、そうだねっ」

 

「なに緊張してんのよ。そこまでのことじゃないでしょ」

 

「なんかこういうのってドキドキするね」

 

「うん、私もなんかワクワクしてきちゃった」

 

『……』

 

 最初は乗り気ではなかった少女達も、やはり種目をこなし結果発表となれば、ワクワクしてしまうものだ。各々が発表を待ち続ける中、にこと海未だけが言葉を発さずにリヒトを見続ける。

 海未はリヒトに対して何か引っ掛かりを感じているのか怪訝な視線を向け、にこも同じような視線を向けるのだが、何かを感じ取ったのか頬杖をついていた手を下ろすと、

 

「一条、アンタ、本当は違う目的でこの企画を作ったでしょ?」

 

『──―!?』

 

「……」

 

 にこの爆弾発言は、リヒトだけではなく穂乃果たちの動きも止めた。

 だが、にこはリヒトの動きが止まったことで確信を得たのか、「やっぱり」と前置きをして言う。

 

「おかしいと思ったのよね。それぞれの種目で点数をつけているのなら、種目が切り替わりごとに現状の順位を言うはず。それなのにアンタは何も言わなかった。まるで最初から順位なんてつけていないみたいにね」

 

「……確かに、言われてみるとそうね」

 

 にこの発言を聞いて納得した様子を見せる真姫。

 

「でも、単に忘れてたってことは」

 

「それはないと思います。ちゃんと考えているのであれば、最初の企画書の様なものを取り出した時点で、そこに書かれているのを確認しているはずです」

 

 花陽の意見を否定する海未。確かに、カラオケ店に入る直前、リヒトはショルダーバックからクリアファイルを取り出していた。そしてその中に入っている紙を見ながらルールを説明していったので、順位をつけるということはその時に確認しているはずだ。

 

「それに、アンタカラオケもダンスも、まぁ後者はちょっとした理由があるけれど。点数は基本海未とことりが記入していた。アンタが記入する立場のはずなのに、基本的に司会者を演じていた。もちろんほかにも──」

 

「──あー、いいよいいよ。それだけ言われればこっちから正直に話すって」

 

 にこの言葉を遮り、記入を──―いや、記入しているふりをしていたスマートフォンをテーブルの上へと置き、シェイク(バニラ味)を一口飲んでから口を開く。

 

「まず、矢澤の言う通り俺は別の目的でこの企画を作った。いや、センターを決めるってことも、もちろん考えてたぞ? でもそれはあくまでサブで俺の狙いとは別のことだった」

 

「狙い?」

 

 と、穂乃果が言った。

 

「ああ。この間の練習風景を見て思ったんだ。少しだけ偏りがあるって」

 

「偏り、ですか?」と聞いてきた海未に対し、リヒトはストローで中をかき混ぜながら、

 

「そっ。ま、考えてみればそうなるのも無理はないんだけどさ。

 ほら、穂乃果たちは昔からの幼馴染だからもうすでに仲がいいわけじゃん? だからいろいろとやりやすい。

 一年生組は小泉と星空が幼馴染だとしても、クラスが一つしかないのなら西木野とのコミュニケーション時間も増えていく。ましてや歌のアドバイスを貰っているなら、その時間は俺の考えている以上に多いのかもしれない」

 

 花陽はカラオケルームで真姫から苦手なところをアドバイスしてもらっていると言った。リヒトの覚えている限りでは、神社での練習では基本的にダンスや体力づくりに重点を置いていることがまだ多いため、歌の練習はリヒトの父・一輝が見られる日に限っている。となると、自主練は学校の音楽室を使ってのこととなり、その時間で真姫との親睦が深まっていくことになる。

 

「つまり、一年生と二年生の仲がまだ深まっていないと思ったわけ。ストレッチの時も、作詞作曲担当の二人を除いて、基本的に同じ学年で組んでるだろ?」

 

「確かに、そうですね。私と真姫は良く組んでいますが、私も真姫以外とはあまり組んだ覚えがありません」

 

「だろ? 別にこれが悪いとは思っていない。人間なんだし、先輩後輩なんだし、付き合い方がわからなくて当り前。あくまで俺が気になっただけで、みんなは気にしていないのかもしれない。

 ただ俺が、みんなの仲が深まればもっといいパフォーマンス、さらにはいいグループになると思って、お節介だけどこの企画を作ったわけ。

 だから正確に言うと『μ’s親睦会!』って名前だな。でもそれじゃつまらないし、みんな変に意識すると思って、一番わかりやすい理由を使って『センター争奪戦!』って名前にしたわけ」

 

「お節介だったらごめんな」と言ってズズッと残ったシェイクを飲み干す。

 

「それに矢澤もだ」

 

「え? にこ?」

 

「お前も、まだ過去のことを引きずっているのか、周りに何かを言おうとしてもやめてすぐ帰るだろ? せっかく先輩なんだ、経験者なんだから気付いたこと、穂乃果たちのためになることなら言ってやれよ。ダンスゲームの時、星空に言ってたみたいにさ」

 

「……」

 

 リヒトがそう言うと、にこも心当たりがあるのか視線を落としてしまう。

 なんだかこの場の雰囲気が重くなり始めたことを感じ取ったリヒトは、こんな空気にしてしまった責任として何か言わなければ、と思い口を開くが──、

 

「確かに、リヒトさんの言う通りかもしれませんね」

 

 ──それより先に海未が口を開いた。

 全員の視線が海未に向けられる中、凛とした態度絵海未は話す。

 

「思い返してみれば、休憩中も基本的に同じ学年で集まっていますしね。リヒトさんの言う通り、まだ偏りがあるのかもしれません」

 

「そうだね。せっかくみんなで一緒の目標に向かって頑張るんだから、仲良く頑張りたいよね」

 

「でも……」

 

 海未の言葉に続く穂乃果だったが、人見知りをする花陽は少しだけ戸惑ってしまう。

 

「別に無理はしなくていいわよ。そういう関係は自然と築かれていくものなんだから。でも、その為にはある程度のコミュニケーションは必要よ。じゃないと、私みたいになるから」

 

 と、花陽に向けてアドバイスを送るにこ。

 確かに、そういった偏りが後々に大きな影響を及ぼすかもしれない。コミュニケーションを取らなかったゆえに、崩壊してしまった経験を持つにこの言葉には、大きな重みが感じられた。

 そう考えると、今回はリヒトの考えた企画に感謝しなければならない。この企画が無ければ、少女たちはこの事態に気付けていなかったのかもしれないのだから。もし気付いたとしても、その時に一体どうなっていたか──―。

 

「ああ!!」

 

 と、穂乃果が何かを思いついたような声を上げた。

 

「どうしたのですか? 穂乃果」

 

「いいこと思いついた! そうだよ、みんなで一緒の目標に向かって頑張るなら、センターを決める必要ない! みんなセンターでみんなが輝いて、みんなで作るんだ! みんなで曲を作って、みんなで衣装を作って、みんなで作り上げる! そんな感じにすればいいんじゃないかな!」

 

『みんなで……』

 

『作り上げる……』

 

 一年生が、二年生が、穂乃果の言葉を口ずさみ、リヒトはニィッと笑みを浮かべた。

 そして椅子から勢い良く立ち上がり、穂乃果を示しながら、

 

「いいなそれ! 最高の案だ!!」

 

「でしょでしょ! みんなでこれからの毎日を一緒に! これからどんなことが起こるかわからないけど、みんなで一緒に立ち向かっていく! 一緒に廃校阻止を叶えるんだ!」

 

「これから……」

 

「叶える……」

 

『……!!』

 

 瞬間、海未と真姫は同時にカバンの中からノート(真姫の方は楽譜を)とペンを取り出し、お互いに顔を見合わせる。

 

「真姫!」「海未先輩!」「どうします?」「そのまま書いてください。きっと合わせられます」「わかりました!」最低限の言葉を交わすと一斉にペンを走らせる。

 二人の行動に驚く回りだが、二人の書いているものが新曲の曲と詩だとすぐに理解し、胸を高鳴らせた。

 

「凛ちゃん、花陽ちゃん、二人の好きな動物とか、色とか教えて。今なら私もいい衣装を作れそう!」

 

 ことりも二人のインスピレーションに影響されてかスケッチブックを取り出すと、二人の意見を取り入れながら衣装の絵を描いていく。

 その光景は、正に一つのことに向かって動き出した『始まりの瞬間』と言える。

 今回の企画で七人の仲は朝よりも深まった。そのことを証明するかのように少女達が一つとなって一つのものを作り上げていく──、リヒトはその光景に胸の高鳴りを抑えられない!! 

 

「よかったわね、いい方向に傾いて」

 

「……そうだな。本当によかったよ」

 

 そして楽しみだ、とリヒトは付け加えた。

 楽しみで仕方がない。目の前でひとつの始まりを目撃し、それが完成した瞬間を早く見たい。そんなワクワクとドキドキがリヒトの中を駆け巡っていた。

 その表情は、新しいおもちゃを待ちわびる子供のような表情。

 パアッと顔を輝かせているリヒトを見たにこは、少しだけ呆れながらも一つだけ気になることを思い出し、リヒトに聞いてみることにした。

 

「ねぇ、一つ気になったんだけど、今回の企画は()()()って言ってたわよね?」

 

「ん? そうだけど?」

 

「じゃあ、最後の種目は何を考えてたのよ」

 

「──じゃんけん」

 

『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?』

 

 瞬間、リヒトがにこの問いに即答した瞬間、今まで盛り上がっていた少女達の方まで動きが止まった。

 

「……あんた、今、なんて……」

 

「いや、それが今回の企画を考えていた時にね、『じゃんけんでセンター決める』っていう面白い記事見つけたんだよ。それを見て『これは使えるな』って思ってさ。ほら、じゃんけんなら結構盛り上がるでしょ? だから俺の本当の目的がばれなかったら『じゃんけん』で一番盛り上がったところでネタバラシをと……って、みんなどうしたんだよ。急に黙って」

 

 この時、もしかしたらこの時が、この日一番少女達の思いがシンクロし、心がつながった瞬間なのかもしれない。

 少女達は、首を傾げる少年に向けて、一言、告げる。

 

 

 

 

『最後くらい真面目に考えなさい!!』

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

『やあ、どうだった彼の「光」は?』

 

『…………』

 

『あははっ、声が出せないくらいに酔ってるじゃん。だから忠告はしたはずだよ? 彼は()()()()()、キミがいくら「光」を力にしているとはいえ彼の「光」は強すぎるって』

 

『……だ、ま、れ』

 

『まったく。ぼくと違って「光」であるキミが手っ取り早く復活するにはそれしか方法がないとはいえ、無茶しずぎ。結局動けないんじゃ意味がないよ。

 ……ん? それはバルキー星人のスパークドルじゃないか。手元にないと思ってたらキミが盗んだのかい?」

 

『…………』

 

『ま、彼はキミのことを気に食わなかったみたいだし、大方襲われてもしたんだろうね。でももういいよ。この子に用はないし、ぼくの栄養になってもらうよ』

 

 バリボリバリボリ、と何かを()()()()がその空間に響いた。

 

『ふー。やっぱりこの程度の雑魚じゃ栄養にもならないか……。ま、ぼくの方も後少しだし、先に彼女を使うよ。いいよね?』

 

『……か、まわん』

 

『やれやれ。それじゃ、行こうかな』

 

 気楽そうに、動き出すローブの男。

 その視線の先には、音ノ木坂学院の制服に身を包む金髪碧眼の少女が歩いていた……。

 




因みに、リヒトのレディエンは漫画版の榊遊矢をモデルにした名残でございます。

以上で第7話終了でございます。息抜き回と言っておきながらさらっと変なものを混ぜる、それがこの作品の特徴ということで……割と重要な伏線だったのかもしれなかったり?

さて今回の話は、μ'sのセンター争奪戦をサブとして、みんなの仲を深めよう! というのが目的で書いてみました。本当ならもっとはっちゃけてみたり、いろいろやってみようと思いましたが、収拾がつかなくなると思いこのようになりました。アニメ版をベースにすると書きやすいものです。

次回はいよいよ第一部ラストエピソード。多くのラブライブ!(アニメ基準)の二次創作においてターニングポイントとなっている『あの子』の加入回でございます。
今作では第1話と第2話以来の前後編、二話構成でお送りする予定なので、いつも以上に本腰を入れて頑張りたいです! 

感想・評価お待ちしております。

○次回予告○
スクールアイドルの甲子園ともいえる『ラブライブ!』の開催が決定し、出場を目指すμ'sだったが、その前に最大の試練が襲い掛かる!
学生の宿敵の定期試験。赤点を一人でも取れば出場ができないという中、三人の赤点を回避すべく勉強会が始まる! 
そんな中、リヒトはある日『一条リヒト』を知る女子中学生、絢瀬亜里沙と出会う。そしてこの出会いが、リヒトにとある再会と失った記憶の一部ををもたらす。
次回、「運命の再会」


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