気が付けば先月にこの小説が一周年を迎え、2016年が終わろうとしている……。
9人揃ってねぇ……
それはともかく、いよいよ佳境の第8話! 果たしてギンガVSワロガの行方は――!?
ウルトラマンギンガとワロガは睨み合う。両者の間にはとてつもない緊張感が張り巡らされ、一瞬でも気を抜けばやられる状況だ。
ワロガの強さはダークガルベロスと同等かそれ以上。いや、もしかしたらギンガに並ぶ強さかもしれない。どのみち、襲撃のダメージが残るリヒト、そして位相から抜け出す際にエネルギーを消耗したギンガの体では明らかに不利な状況だ。
(それがどうした。そんなもの気にしてたら、絢瀬は救えねぇ!)
『リヒトくん……』
絵里の目にもリヒトが戦う前からボロボロであることは明白だった。そんな状態でワロガとまともに戦えるのだろうか? ダークダミースパークから伝わってくるワロガの強さは尋常ではない。絵里にはギンガの強さがどれほどのものかわからないが、万全ではない状態で戦うのは危険だとわかる。
助けて、と言えばきっとリヒトはそのボロボロの身体を引きずってでも戦うだろう。だがどう見ても今のリヒトは万全ではない。その状態で戦えば命に関わるかもしれないのに、
『大丈夫だ、絢瀬。心配しなくていい。必ず助けてやるから』
リヒトに引く気などない。大切な人を救うために、その体に鞭を打って戦う。
そして──両者の激突が始まった。
☆☆☆
ウルトラマンギンガの登場は、希の心に小さな驚きと安心感をもたらしていたが、背後から感じる気配がすぐにそれを吹き飛ばした。
ほぼ反射的に後ろへ振り返った希が見たのは
だってそうだろう。ローブ男から見てみればやっと『一人目の生け贄』ができそうな状況だったのだ。何度も邪魔する『光』はテリトリーに捕らえ、完全に有利な状況を作っていた。それなのにギリギリのタイミングで『光』が駆けつけ邪魔をした。本来であれば声を上げ怒り狂ってもいいはずだ。
それなのにこの男は
「どうして……笑ってるの……?」
気づけば勝手に言葉を発していた。
希から声を掛けられるとは思っていなかったのか、反応に遅れたローブ男はキョトンと首を傾げながら、
「ん? なにが?」
と言った。
「あなたの目論見はこれでつぶれる。ウルトラマンギンガが、『光』が必ずエリチを救い出す」
希の言葉を聞いてしばらく考えた後、なぜ彼女がそのようなことを言ったのか理解したローブ男はどこか納得した様子で、
「……ああ、そう言うこと。きみは
「勘違い……?」
と希が口にした瞬間、ローブ男が笑い出した。
「ぷっ、あはははははははははははははは!! そうだよね、きみ達から見たらそう見えるもんねぇ。無理もないか」
ローブ男は愉快に語る。
「滑稽だね。彼が
低く、そう呟かれた言葉を聞いて希の視線が鋭くなる。
「だって、
「……まさかッ」
希の顔が恐怖で染まる。
その表情を待っていたのか、ローブ男は声を上げより楽しそうにその真実を放った。
「ちゃんと
「──ッ!?」
「それなのに、きみったら彼が自力で駆けつけたと思って……あははははは! そんなご都合主義展開はアニメやマンガだけだよ。実際に起こるわけないじゃん! あははは!
どうしてそんなことを? って顔をしているね。簡単だよ、絢瀬絵里の心を完璧に壊すには二つの要因があった。
一つはきみが考えていた通り学校さ。自分の好きな学校を自らの手で壊す。
そして二つ目。それが彼、一条リヒトさ。絢瀬絵里は一条リヒトに対して特別な感情を持っている。隠しているようだけど心は嘘をつけない、今でも彼女は一条リヒトのことを想っている。なら、学校だけではなくて
ねっとりと粘つくように言い放つローブ男。本人は面白おかしく楽しんでいるようだが、正直に言って嫌悪感しか湧いてこない。
こいつは最低だ。最低最悪以外の何ものでもない、正真正銘の外道だ。人の心を最低の形で壊そうとしている。
もし絵里が学校だけでなくその手でリヒトを倒してしまったらどうなるか。そんなの考えるまでもない。自分の大好きな学校に加えて想いの人を倒してしまうなど、彼女の心がズタズタに引き裂かれるに決まっている!!
「このッ──!!」
希は心の奥底から湧き上がってくる怒りを抑えることができずローブ男へと詰め寄る。
ガツンッ! と胸ぐらを掴んだというのに男の態度は変わらない。むしろもっと楽しそうに、愉快に、自分の演出に酔いしれているように言う。
「どう? ぼくの
「ふざけるな!!」
男の頬を叩こうと手を上げたがすぐに掴まれてしまった。その力は凄まじく振りほどこうにも全く動かない。
ずいっと男の顔が近づく。
「そう怒らないでよ。ぼくはただ
「誰が──!!」
腕が封じられたのならば足での攻撃。振り上げた足は男の脇腹を叩き、さすがに向こうも驚いたのかわずかに緩んだ隙をついて腕の自由を取り戻す。
今度は自然と距離を取っていた。
「まったく、結構面白いと思ったんだけどなー。お気に召さなかったようで」
ローブ男はあくまでも飄々と、心底残念そうに言う。
希はローブ男を睨み続けるが、何かが倒れる音が響きそちらへと振り返った。
「ギンガ!!」
希の見た光景はギンガが倒れ込む光景だった。カラータイマーは青色に輝いているが戦況は芳しくない。ワロガの素早い攻撃がギンガの体を襲い、逆にギンガの方は動きにキレがなかった。まるで重たいからだを無理やり動かしているかのようにその動きは遅く、希の記憶にあるギンガの動きとは明らかに違っている。
そこで希はリヒトが襲撃されたこと、そしてこちらの位相に返ってくる際にエネルギーを消耗したのだと悟った。今のギンガは、万全ではない状態で戦っているのだ。
「うーん、向こうもあと少しで手が加えられそうだし、ここは一旦下がるとしよう」
戦況を見て判断したのか、ローブ男の姿が消えて行く。
「待て!!」
『きみからそんな言葉を掛けてくれるのはうれしいけど、残念ながら向こうを優先しなきゃいけないんだ。また今度ゆっくりお話ししようじゃないか。その時は、ちゃんときみが楽しんでくれるものを用意しとくから』
希の制止も空しく、ローブ男は姿を消した。
☆☆☆
ギンガとワロガの戦いは、誰もが予想できる戦況となっていた。
素早さ、攻撃力、瞬発力どれにおいても優れているワロガ相手に、消耗した状態で戦うなどあまりにも無謀。ギンガの攻撃はことごとく躱され、ワロガの攻撃は的確にギンガを捉えていく。
そしてワロガの攻撃がギンガに当たるたびに、絵里の手には『命を削る感触』が伝わっていた。
(嫌、何なの……この感覚は……!?)
──絵里の意識がある。
この部分だけが、真姫やにこと決定的に違う部分だが、
しかし絵里は違う。意識がはっきりと残っているためその手伝わる『命を削る感触』が明確にわかるのだ。普段であれば絶対に感じることのない感触に絵里は背筋の震えが止まらない。手に伝わる感触と、目の前でリヒトが傷ついていく光景に心が引き裂かれそうになる。
『嫌あああああぁぁぁぁぁ!!』
叫んで、必死に抵抗しようとするがワロガは止まらない。暴力の嵐がギンガを襲い、絵里の心に絶望を叩き付ける。
よろめいたギンガへ向けて放たれる鋭い一撃。
避けて! と言って間に合う速度ではなかった。
だが、
ガツンッ! とギンガはワロガの腕を掴んだ。
『悪い絢瀬、どうやら西木野達と同じやり方じゃダメみたいだ』
瞬間、掴んだ腕に力を入れギンガはワロガを投げ飛ばした。
『手荒くなるが我慢してくれよっ!!』
ワロガは背中から地面へと叩きつけられ、絵里にダメージフィードバックがやって来る。
立ち上がるワロガの視界に攻め込んでくるギンガの姿が見えた。先ほどまでとは違い、力の入った拳が飛んでくる。ワロガの頭部を捉え脳を揺さぶられる。肩を掴まれ膝蹴りが腹部に刺さると、よろめいたところで大振りの一撃が飛んできた。
タックルで距離を詰め、再び怯んだところを掴まれ投げ飛ばされる。
怒涛の攻めにワロガは反撃するタイミングを失っていた。
だがワロガがダメージで苦しむということは、ダメージフィードバックにより絵里も苦しむことを意味している。もちろんそれはリヒトも理解していることであり、だから視界の焦点を絵里ではなくワロガに向けている。絵里ではなくワロガの方を見れば、苦しむ彼女を見なくて済む。
今まではライブ者を気にして『受け』の攻め方をしていたが、それはあくまでライブ者が怪獣を操っているからこそできた戦法。ワロガ自身が戦うこの状況では全く通用しない。こちらも攻めなければワロガには勝てないと判断したのだ。
だが、いくら絵里を見ないように戦っていると言っても声は聞こえてきてしまう。苦しむ絵里の声に苦悶の表情を浮かべ、精神的ダメージを受けながらもリヒトは攻撃の手をやめなかった。
『がはっ!!』
『──っつ!』
リヒトの耳に絵里の声が聞こえて来る。胸にとげが刺さる感覚を感じながらも、ギンガは渾身のストレートパンチでワロガをふっ飛ばした。
そしてギンガはこの戦いに終止符を打つために胸の前で腕をクロスした。クリスタルが黄色に光りエネルギーがその腕に溜められていく。
『ギンガサンダーボルト』。それがこの戦いに終止符を打つ技の名前だった。
(これで決める! 耐えてくれよ、絢瀬!!)
『ギンガクロスシュート』に比べれば威力は低いが、それでも『必殺技』と名乗るほどの威力は持っている。どれほどのダメージフィードバックが絵里に襲い掛かるかわからないが、彼女が絶えてくれることを祈りながらギンガは技を放った。
渦を巻く電撃がワロガに向けて放たれる。
一直線に迫る電撃は、
『なにっ!?』
ワロガの姿が消え、不発に終わる『ギンガサンダーボルト』。
辺りを見回し消えたワロガを探すが、気配が感じられない。
『後ろよ! 避けてッ!!』
絵里の声が聞こえた時はすでに遅かった。背後に出現したワロガのパンチがギンガの頬を叩き、再び姿を消す。再び背後を取ったワロガはギンガに掴みかかり、左腕を押さえつけると逆の手でギンガの首を絞めつける。完全に不意を突かれ、完璧に近い形でワロガの首絞めが決まってしまう。
ギンガは残る右腕でワロガの腕を振りほどこうとするが、右腕一本ではワロガのパワーに勝てなかった。フィードバックによりリヒトから失われていく酸素、そして絵里の手にはリヒトの首を絞めている、という感覚が伝わってくる。
『嫌、嫌!! リヒトくん!!』
『あ……、や、せ……』
ダークダミースパークが怪しく光り、絵里の視界に自分がリヒトの首を絞めているビジョンを見せる。その光景が余計に絵里の精神にダメージを与え、心を蝕んでいく。
『いい加減にして!! 私の体でしょ!? なんで私の言うこと聞かないのよ!! リヒトくんを離しなさい!! ……離してよッ!!』
だが、どんなに絵里が抵抗しようとその腕がリヒトの首から離れることはなかった。抵抗する意思とは反比例するかのようにどんどんその腕は締まって行き、遂にはリヒトの意識が朦朧とし始める。
(ま、マズイ……意識が……ッ)
脳に送られる酸素が途絶え、このままではリヒトの意識が飛んでしまう。何とか振りほどこうと力を入れるが、消耗した体ではどうにもできない。
そして、カラータイマーまでもが点滅を始める。
まさに絶体絶命。
『離してッ! お願いだからッ!! このままじゃ……このままじゃリヒトくんが死んじゃう!!』
涙を流し懇願する絵里だが、むしろそれがワロガ達の目的。このままいけば絵里の心は崩壊し、もれなく『闇』に呑まれる。学校破壊も行えば、もう完全に絵里の心は崩壊し完璧な『生け贄』となるだろう。ギンガのカラータイマーも点滅しており、すべてが時間の問題だった。
「ギンガ!!」
希までもが声を上げるが、今のリヒトには届いていない。
そして──―ギンガとリヒトの腕から力が抜けた。
『──え?』
突然の出来事に絵里の思考が停止した。
『リヒト……くん?』
絵里は自分の腕の中で脱力した少年の名を呼ぶが、返事はなかった。
『……ちょっと、うそ、でしょ……? や、やめてよ、なんで? リヒトくん……リヒトくん!!』
何度呼んでも、何度揺さぶりかけてもリヒトからの反応は返ってこない。ただじっと絵里の腕の中で倒れている。
『リヒトくん!! リヒトくん!! 嫌ああああああああああああああああああ!!』
ワロガがギンガを離すと、同時に絵里の手からもリヒトが解放され視界が元に戻る。元の不気味な空間に戻ってきた絵里は頭が真っ白になり、ただ涙を流していた。ゆっくりと自分の手に視線を落とす。
この手で、リヒトを殺してしまった。大好きな人の命を奪ってしまった。裏切り、そして忘れた人を、もう一度一緒に遊びたいと願った人を、この手で、自分の手で殺してしまった。
『あ、あぁぁ、ああぁあ……!!』
心が崩壊していく。
ダークダミースパークが怪しい輝きを放ち、絵里を包み込もうと『闇』が生まれる。
『ああああああああああああああああああッ! ああああああああああああああああああ!!』
思考が飛んだ。理性が飛んだ。何も考えられない、何も感じられなくなっていく中で、ただ『痛い』という感覚だけを残して絵里のすべてが消えて行く。何かが体を包み込んで行き、そのなにかは自分の呑みこみ『消滅』させていく。抵抗することなど、いや、その気力すらなかった。ただ、崩壊していく心を感じながら己の手を見ていた。
そして、ギンガの体が地面へと倒れ込む寸前──。
『バカ野郎。助けるって約束しただろ』
ギンガの拳が跳ね上がり、赤く燃えるクリスタルが絵里の視界に飛び込んできた。
『ギンガファイヤーボール』。ギンガの持つもう一つの必殺技がゼロ距離で放たれ、ギンガの拳と共にワロガを撃ち抜く。無数の火炎弾がワロガの体を叩き、その威力でワロガの体を空中へと押し上げる。
空白に染まっていた絵里の思考に『衝撃』が襲い掛かり、同時にワロガの赤い瞳が砕かれた。背中から地面へとダイブしたワロガは受け身を取ることができず、その衝撃がそのまま襲い掛かる。
一体何が? と状況を理解する暇もなく、絵里の視界にギンガの拳が飛んできた。その一撃からは躊躇いはなく本気がうかがえる。絵里は反射的に目をつむって衝撃に備えた。だが、
やってきたのは、絵里の身を包む温かな光だった。
『え?』
予想していたのと違う結果に絵里は驚きの声を上げる。
『絢瀬』
リヒトの声が聞こえてくるのと同時に、絵里の立っていた空間が白い光に包まれる。眩しく輝かしい空間へと変わると、絵里の体に纏わりついていた闇が消滅していき、体の自由が戻っていくのを感じる。ゆっくりだが、指先から徐々に戻っていく感覚。
トン、と正面に誰かが立っている気配がして視線を向けると、ボロボロではあるが優しい笑みを浮かべているリヒトがいた。
『もう大丈夫だ。悪いな、少し時間かかっちまって』
その後ろにはクリスタルが緑色に変化したギンガが立っている。
『ギンガコンフォート』。ギンガの持つ浄化技がこの光の正体だ。絵里の体から闇を引きはがし、優しい光が絵里の体を包み込んで行く光は、同時に絵里の体の自由も取り戻していった。指先から徐々に自分の意識で動かせるようになっていく絵里の体。
突然体から力が抜けて膝から崩れ落ちるが、リヒトがすぐに絵里の体を支えた。
『リヒトくん……』
『さあ、帰ろう。希が待ってるぜ』
『……うん』
まだ状況変化に付いて行けていないが、これで助かることだけは分かった。リヒトに抱えあげられ、人生初のお姫様抱っこに頬を赤らめながらも、絵里はリヒトにすべてを預けた。その中で、ふとリヒトにどうしても伝えたいことを思い出し、絵里は口を開く。
『ねぇ、リヒトくん』
『ん? なんだ?』
『あのね……私……』
その続きが絵里の口から放たれる寸前、
グシャリ、と
『え?』
二人の脳裏に疑問が浮かんだ。その疑問は二人の思考に空白を与え、一瞬の判断を遅らせる。
ドンッ! と何者かによってリヒトの体が付き飛ばされ抱えていた絵里を離してしまう。思考が停止していたため対処に遅れてしまったリヒト。受け身が取れず背中から落下すると激痛がリヒトの体に走る。歯を食いしばって視線を上げれると、
『あがっ!? ああぁぁ、ぁぁぁあああッ! あがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!』
体を大きくのけ反らせ激痛に叫ぶ絵里の姿があった。
『絢瀬!! ──ッつ!?』
そして、リヒトは目撃した。絵里の胸に刺さっているダークダミースパークに触れている手。そこから視線を辿っていき、行き着いた先の人物を見てリヒトは激高した。
『てめっ!!』
『はーい、感動の再会はこれでおしまい。残念ながらきみの人生はここで終了です。お疲れさまでしたー』
そんなのんきな男の声と共に、ダークダミースパークが
☆☆☆
ボアッ!! とワロガから大量の闇が噴水のように溢れ出す。ギンガコンフォートの光をかき消すほどに溢れ出た『闇』のよって、リヒトは──ギンガは吹き飛ばされた。
『がはっ!?』
再び背中から倒れ込んだことによって、リヒトの肺から空気が吐き出される。だがすぐに体に力を入れ、ギンガの状態が起こされるとリヒトの視界に『闇』に包まれるワロガの姿が映った。
溢れ出ている『闇』はワロガの姿を追いつくすと、やがて一点へと集約され始める。
脳が揺れ視界がまだはっきりと定まってはいないが、リヒトの脳裏に目の前と同じ現象が浮かび上がった。それは花陽の時の事件。テレスドンにダークライブした闇のエージェント・ユーカが自分の胸にダークダミースパークを突き刺し、パワードテレスドンへとパワーアップした時と同じ現象なのだ。
まさか……と、リヒトの脳裏に嫌な予感が走り視線を細めて必死に絵里を探すが、先ほどまで絵里が見えていた空間は膨大な『闇』に埋め尽くされてしまっていた。
『絢瀬ええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!』
ドパッ!! と闇が晴れて
全身の見た目がより攻撃的に、感じるプレッシャーはワロガ以上のもの。正に
その名をワロガ改め『カオスワロガ』と名付けられた宇宙人が誕生した。
『あ、やせ……』
そして、リヒトの予期した通り
『うそ、だろ……』嘆くリヒトはカオスワロガが動いたのに気が付かなかった。視界いっぱいにカオスワロガの顔が広がり、戦慄するのと同時にワロガの腕がギンガの腹部に添えられた。
瞬間、強化された光弾がゼロ距離で放たれた。
大量の火花が飛び散りギンガの体が吹き飛ぶ。カオスワロガはテレポートで先回りすると、落下してきたギンガの体を薙ぎ払った。再びテレポートで先回りするカオスワロガ。ギンガの体が打ち上げられ、再び光弾の雨が空中にいるギンガを襲った。
爆炎に包まれたギンガは地面へと落下し、倒れた。
ダメージにのたうち回るギンガ。そこへカオスワロガが落下し、全体重がギンガにのしかかる。
『がああああああああああああああああッッッ!!』
カオスワロガの膝がギンガの腹部に突き刺さり、肋骨が折れるのではないかと思うほどの激痛がリヒトの体に走る。カオスワロガはそのまま何度もギンガを踏みつけ、鋭い矛先をギンガの腹部に突き刺した。その衝撃からギンガの体が地面の中にわずかに沈む。
確かな手ごたえを感じたカオスワロガはその腕をどけて様子を伺うと、ギンガは動かなくなった。
『こ、の……ッ』
しかし戦意は喪失していないのかリヒトはカオスワロガを睨み上げる。だが、どんなに力を入れてもその体が起き上がることはない。ギンガの体が起き上がることはなかった。そもそも四肢に力すら入っていない。たとえ力が入ったとしても、その瞬間に光弾で撃ち抜いている。
すでに勝負がついていた。カオスワロガとなったことで先ほどギンガが与えたダメージは全て回復されており、その体には傷一つ見当たらない。完全に体力が回復しているのだ。そんな相手に、瀕死状態の状態ではもう勝てる見込みがなかった。
カオスワロガが光弾を放った。ギンガの関節部を撃ち抜いた一撃は、激痛となってリヒトに伝わる。その一撃一撃が『絶望』となってリヒトを襲う。
勝てない、とリヒトの思考に言葉が浮かんだ。
(違う!! ふざけるな!! ここで俺が倒れたら絢瀬はどうなる!? 立て! 立てよ俺!! 俺は負けるわけにはいかなんだ!!)
ギンガは負けるわけにはいかない。ここで負けたら絵里を救えなくなってしまう。立て!! とリヒトは己の体に鞭うつが、リヒトの体が起き上がることはない。
「ギンガ!」
希の叫び声が聞こえた。とても悲痛で、きっと彼女は泣いているだろう。
(女の子が泣いてんだぞ!! 立てよッ!! 立てって言ってんだろ!!)
これ以上はもう惨めでしかない。そう思ったカオスワロガは姿を球体へと変え、この戦いに幕を下ろすことにした。
球体へと変化したカオスワロガはゆっくりとギンガの上空へと移動する。本来であればそんなスピードで移動すれば撃ち落とされるが、今のギンガにはどうすることもできない。
「ねぇ、早く! 前にみたいにりっくんを回復させて!」
「(無理! ダメージが深すぎてすぐには回復できない!!)」
希は己の中にいるもう一つの魂に叫びかけるが、返ってきた答えは無情だった。
すでに球体はギンガの上にとどまり、エネルギーを溜めている。
(ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!! 立てよッ! 俺は、俺は負けちゃいけないんだ!!)
どんなに願っても、どんなに叫んでも何も起こらない。
窮地に駆け付けた光。
だがそれはより深くなった闇に敗れた。
少年の思いも、少女の思いも、すべてその一撃によって破壊される。
奇跡は起きない。
どんなに願っても、奇跡は二度も起こらないのだ。
そして。
そして。
そして。
光を信じた少女の前で、
無数の光線雨がギンガを飲み込んだ。
ギンガ、敗北!!
と、いうわけで今回で第8話終了です。
ここ最近のウルトラシリーズに倣って、章の区切りの前編は敗北で〆てみました。
というか、書いていて思いましたがヒロインを操って主人公と無理やり戦わせるとか、ローブ男マジで外道ですね……。
因みにこの流れ(ワロガ→カオスワロガ)は初期構想から考えていたものであり、こうして無事描けたことにホッとしております。
さて、次回はいよいよ第一部最後のお話。敗北してしまったギンガは、リヒトはどうやって絵里を救うのか?
それでは、次回予告でいつも通り締めます。
○次回予告○
カオスワロガの前にギンガは敗れ、絵里は闇の位相へと連れ去らわれてしまう。絶望へと突き落とされるリヒトだったが、「ノゾミ」と名乗る少女が唯一の「希望」を授ける。
絵里救出のため「異形の海」へと突入する二人。しかし、そこで二人を待っていたのは「闇の堕ちた光」だった。
次回、「赤く熱い鼓動」