リヒトにとって、一番の重要人物であろう絢瀬絵里との運命的な再会。同時に絵里が次なるターゲットだと予想したリヒトは、もう一度『一条リヒト』のことを調べるために音ノ木町を離れる。
しかし、この行動によりリヒトはローブ男に襲撃され『異形の海』へと囚われてしまい、絵里もワロガへとダークライブしてしまう。
絵里の危機に何とか駆けつけるウルトラマンギンガだったが、すべてローブ男が仕組んだ作戦通りに事が運んでしまう。その結果、ワロガはカオスワロガへと進化してしまい、その圧倒的強さの前にギンガは敗れてしまうのだった。
第五章:君が諦めない限り
それは一瞬の出来事だった。
ワロガの姿が変化し、禍々しくなったのと同時に始まった猛攻は、一瞬でギンガから『勝利の可能性』を消した。そして放たれる大量の白紫色の光線は『絶望』を表しているかのように輝いており、一瞬でギンガを飲み込む。
「ギンガ!」
叫ぶ希の視界は一瞬で光に包まれ、耳を叩くような着弾音と衝撃が体を襲う。
耐えることはできなかった。すぐに体を浮遊感が包み込み、続いて背中に衝撃。自分の体が吹き飛ばされ校門にぶつかったと理解するのに、少々時間がかかった。
カオスワロガは光線雨を撃ち終えると、元の姿に戻り地に降り立つ。見つめる視線の先は荒れた大地と化しており、そこにギンガの姿はない。荒れた大地に倒れるのは、意識を失いぐったりと倒れるリヒトの姿だけだった。
「……り、っくん……」
校門にぶつかった衝撃から徐々に回復し始めた希は、腕に力を入れて立ち上がろうとするが、
「──!!」
顔を上げた先の光景を見て戦慄した。
希は急いで立ち上がるとその場から転がるように逃げた。
直後──、
希の背後で爆発が起こった。
轟音を立てて、何かが破壊される音──間違いなく音ノ木坂学院が破壊された音だ。
「きゃっ──―」
そして、希は悲鳴を上げる暇もなくその体が宙を舞った。
☆☆☆
──そこは『異形の海』と呼ばれる空間。例えるならば広大な海の中に一つだけ島があるようなところだが、そこに人の気配はない。いや、そもそも空も大地も海も、全てが色をなくしているこの世界に生物などいないのだ。
ここは『闇の位相空間』。光なき闇の世界だ。肌を撫でる不気味な風、その場に立っているだけで体力も精神力も消耗して行く空気。常人であれば数分も持たないこの空間は、ギンガと怪獣が戦う際に展開される『
島の中央には不気味な柱のようなものがそびえ立っており、そこに絵里は貼り付けられていた。絵里に意識はなくぐったりとしており、自分が柱の中に沈んで行っていることにも気づいていない。この柱に絵里が沈みきった時、彼女の命は『大いなる闇』の力となる。
しかし、
「……遅いな」
絵里が沈んで行く速度が、ローブ男の予想していた速度よりかなり遅かった。普通ならばこの柱に縛り付けた瞬間から絵里の体が半分は沈む予定だったが、まだ膝下ほどしか沈んでいない。
……まだ心を壊しきれていなかったのか? と疑うローブ男だったが、視界にあるものを見つけ原因がわかった。
「……なるほど。きみが邪魔をしているわけか」
ローブ男は絵里の首元に手を伸ばし、リボンとブラウスを剥ぎ取る。露わになった絵里の胸元には青く輝く輝石がかけられており、この光が絵里の身体を守護しているのがわかる。
「でもその様子を見ると、それも時間の問題だね」
しかし輝石の輝きは弱々しく、放っておけば消えてしまいそうなほどの小さな光。このまま放っておいても問題はないだろう。そもそもこの輝石があるのならば、絵里がワロガに囚われることも柱に沈むことも、言ってしまえばこのような事態は起きていない。
つまり、今この輝石に絵里を守る力はあるが、それは微々たるものだということ。次第に弱まって行く光を見て、ローブ男は掴んだ輝石を離した。
「まあいい。きみも一緒に飲み込まれれば、地球の守護が一つ消えることになる。なら、このまま放っておくのも手かな」
──まったく、しっかり排除しといてもらわないと。
と、本来この光を排除を任命されていた相手に愚痴を叩きながら、ローブ男は一旦姿を消した。
☆☆☆
『お願いだからッ……早く私を撃ってよ! リヒト!!』
──緑色化け物、いや、少女の涙の叫びが聞こえる。
『私はもう、人間として生きていけない……化け物になっちゃった私に! 生きるすべなんてないの!!
だから……早く私を楽にして……お願い』
──そして、少女の姿は光線に呑みこまれて……。
☆☆☆
「あああああああああああああああああああッ!!」
「りっくん!」
悲鳴に近い絶叫を上げて飛び起きるリヒト。
静寂の空間に響いたその大声に、希は一目散に駆け寄った。
よほどひどい悪夢でも見たのか、リヒトの額は汗で濡れており、数滴頬を伝う。ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返すリヒトに向けて、何度か声をかける希だったが、肝心のリヒトの耳には聞こえていないのか、虚空を見つめたままリヒトは固まっていた。
「なんだよ……今のッ」
先ほどのビジョン、おそらくこれまで見てきたものと同じものだと思われる。だが今までは映画のワンシーンを切り取ったような断片的だったのに対し、今回は長く一連の出来事を見ている様だった。
化け物となってしまった少女が何かを懇願し、それを受け取った誰かが光線を放った。それが今回のビジョン。そして放たれた光線は、細部は異なるがギンガが放つ『ギンガクロスシュート』と同じ系統のものだと判断できる。
つまり、別のウルトラマンだと思われる存在が、少女の願いを叶えるためにその命を奪った……。
なんなのだこれは。
なんだこのビジョンは?
なぜリヒトが見るビジョンは、こうも悲劇なモノばかりなのだ。そしてなぜ決まって少女が自分を殺してと懇願する? このビジョンは誰かの記憶なのか?
まさか……これが『一条リヒト』の記憶だとでもいうのか?
一体、『一条リヒト』の身に何がったのだ?
「りっくん!!」
とそこで、何度呼んでも反応しないリヒトにしびれを切らした希が、声を張るのと同時にその腕を振るった。ゴン、と割といい音がリヒトの頭から鳴る。
「いった! なにすんだよ!!」
その一撃はリヒトの意識をこちらに呼び戻し、リヒトから見れば突然叩かれ怒りの声を上げる。だが次の瞬間、希がその小さな頭をリヒトの胸に当ててきたことにより、驚きでリヒトの動きが封じられる。
「聞こえてるなら返事してよ……すごく、心配してたんだから……」
「…………」
初めて聞く希の弱々しい声。少しだけ嗚咽が混じっているその声にリヒトはドキリとさせられ、同時に少しだけ申し訳なくなり、つい頭を撫でてしまった。
「わりぃ、心配かけた」と精いっぱい照れているのが伝わらないように言うリヒト。しばらくその艶のある奇麗な髪を撫でていると、
「コホン、そろそろいい?」
少女の声が聞こえてきた。
「うおっ!?」
本来のお約束であれば希の方が照れるはずなのに、なぜかリヒトの方が先に照れて希を引きはがしてしまった。
希は少し驚いた表情でリヒトを見る。
「クスクス、その動きを見る限り、もう傷は大丈夫みたいだね」
「君は……」
面白そうにこちらを見る少女の方へ視線を向けると、リヒトは再び驚かされた。
目の前にいるのは、まぎれもなく希と同じ顔をした少女立ったのだ。背丈に体付き、髪を結んでいない点を除けばすべて希と一致する少女は、クスクスと笑いながらこちらに歩み寄って来る。
「久しぶり……なのかな。一応一回だけ君とは会っているんだけど……こうして会うのは初めてだし、自己紹介しとこうかな。
私は、簡単に言うと『ティガ伝説』の時代に生きていた『のぞみ』。のんちゃんって呼んでくれると嬉しいな。希ちゃんとの見分け方は髪を結んでいるかいない、あとは話し方……って言っても、私はあまり表に出ないから関係ないか。今はどうしてかわからないんだけど、希ちゃんの中で生きてるの。よろしくね」
少女──のんちゃんの説明を受けて、リヒトは以前希から自分の中にあるもう一つの魂について説明があったことを思い出した。
なんでも希は幼い頃、言ってしまえば見えてはいけないものが見えたり、霊感が強かったりと少々特殊な子供だったらしい。物心ついた時から見えていたそれは、希の生活関係上他者が知る機会はなく、同時に成長していく過程でだんだんと見えなくなっていったらしい。中学に上がるころには完全に見えなくなっていたのだが、どうやら去年の十月を境にまた見え始めたとのこと。その時、奉次郎が希の些細な変化に気付き調べてもらうと、オカルト的な結果が待っていたという。
それが『もう一つの魂』。『ティガ伝説』があった時代を生きていた『魂』が何らかの理由で希の中に存在しているのだ。本来一つの器に二つの『魂』があることはありえないことで、そこで生まれた揺らぎが、希に『見えてはいけないモノ』を見せていたらしい。
そしてリヒト同様『ティガ伝説』が書かれた古文書を見ることで、希は初めてのんちゃんを認識した。以降はお互い仲良く一緒に生活しているらしい。
のんちゃんはリヒトの方に近づくと、右手をかざした。
「うん、もう傷も体力もバッチリみたいだね」
かざした右手がわずかに光ると、少女は満足した様子で頷く。
「今のは」
「私は『イージスの力』から恩恵を受けて、治癒能力を持っているの。だから
のんちゃんの『ここ』と言う言葉が気になり、改めて見回してみるとそこは青暗い空間だった。どこか見覚えのあるその空間は、リヒトの脳裏に初めてウルトラマンギンガと出会った時の空間を思い出させる。
「ここは……」
「ここは『イージスの力』の中。ここなら向こうからの干渉は一切受け付けないし、君の中の光と共鳴してケガだけじゃなくて、ちゃんと体力も回復できるからね。どう? 体の調子は」
「ああ。バッチリ──」
『──リヒトくん!!』
「──ッ!? 違う! 絢瀬は!? 絢瀬はどうなったんだ!?」
『…………』
刹那、リヒトの脳裏に絵里の叫び声が浮かび上がる。それは紛れもなく、絵里が闇に呑みこまれ消える時に発した『たすけて』と言う叫び。
周囲の変化に忘れてしまっていたが、リヒトは先ほどまで絵里を助けるためにワロガと戦っていたはずだ。あと一歩のところで絵里を助けられそうになったのは覚えている。だがその後、絵里が闇に呑まれてからの記憶があいまいだ。最後に覚えているのは、視界を染め上げる白紫の雨。
リヒトは急いで辺りを見回すが、そこにはのんちゃんと希しか見えずほかに人影はない。
二人に視線で問いかけるが、返ってきたのは沈黙だった。
「──くっ!」「どこへ行く気なの?」リヒトは唇を噛むと急いでその場から立ち上がるが、のんちゃんの言葉がそれを止める。
「決まってるだろ! 絢瀬を助けに行く!!」
「それは無理。もう彼女は『異形の海』に連れ去られた。今更行ったところで、もう誰もいないよ」
「──―ッ!」
容赦のない一言がリヒトの心をえぐった。
「君はカオスワロガに負け、絵里ちゃんは『異形の海』に連れ去らわれた。これが今の状況だよ」
がりっ、とリヒトは唇を噛んだ。
敗北。
それが決して許されないことは、ギンガの力を手にした時から分かっていたことだ。たとえどんな状況にあろうと、自分がどんな状態であろうと、闇に囚われた者を救い出さなければいけない。それがリヒトに課せられた使命なのだ。
この戦いにおいて戦える力を持っているのはリヒトだけ。
ウルトラマンギンガに選ばれた、リヒトだけなのだ。
ギンガに誓ったのに。『一条リヒト』に誓ったのに。リヒトは負けた。
絵里が、『一条リヒト』が愛した人がこの世界から消える。悪魔の『生け贄』となって消えてしまう。『一条リヒト』の大切な人が……。
「くそっ……」
リヒトの脳裏に『ティガ伝説』の光景で見た『悪魔』が浮かび上がってくる。巨大な翼、漆黒の体、鋭利な爪、獰猛な牙、大蛇のように唸る尻尾、黒光りする鱗。見ているだけで『恐怖』と『絶望』が襲い掛かって来る『悪魔』。悪魔の復活のために、絵里の命が消える。
絵里一人では『大いなる闇』は完全には復活しないだろう。だが、問題はそこではない。絵里が消えた世界はどうなる? 両親は? 妹は? 絵里の友達は? ましてや穂乃果達は? 絵里が消えると一体どれだけの人の心に『悲しみ』が広がる? 広がった悲しみの中でいったい何人がローブ男に利用される?
どんなに探しても、どんなに行方を追っても、『生け贄』となってしまえば元の世界では発見されない。死体も、結末も。何もない無となってしまう。
リヒトが、負けたから────。
「俺が、負けたから……絵里は──」
「──そう、確かに君は負けた。そして絵里ちゃんは『大いなる闇』のために『生け贄』にされる」
「
「──え?」
その言葉は一瞬だけリヒトの思考に空白を生んだ。
今彼女は何と言った? 絵里を、
「絵里ちゃんは攫われたけど、すぐに『生け贄』になるわけじゃない。『生け贄』にするためには『柱』を通してその魂と体を闇に分解する必要があるの。たぶん絵里ちゃんはその過程の途中にいる。
そしてその過程は、きっと『青き光の守護』が遅らせているはずだよ」
「青き、光りの守護?」
聞き覚えのない単語にリヒトは首を傾げる。
「そう。この地球が生み出した『守護の光』の一つ。穂乃果ちゃんの『赤い輝石』とおなじもの、と言えば君にはわかりやすいかな。
そしてその光が、絵里ちゃんの体を守っている。でもその光はとても弱っているの。本来あの輝石に光があれば、絵里ちゃんは闇に囚われることはなかったから」
「…………」
「そんな顔しないで。光だってちゃんと理由があって弱っているの。
話を戻すね。今絵里ちゃんは、体と魂が『闇』に分解されるのを『青き光の守護』が遅らせている状態。でも弱っている『青き光の守護』では完全に分解を阻止することはできない。時間が経過すれば、いずれ絵里ちゃんの体は闇に分解される。
でもね、『青き光の守護』が絵里ちゃんの体が分解されるのを押さえている時間は、言い換えればその時間が君に残された最後のチャンスなの。絵里ちゃんの体が完全に闇に分解される前に、君が絵里ちゃんの心を救うことができれば、彼女を助けることができる。
まとめると、君が『異界の海』へ突入して、残された最後の時間以内に絵里ちゃんを救出できれば万事解決ってこと」
「──!」
リヒトの目が見開かれる。
先ほどまで絶望で霞んでいた瞳に『希望の光』が灯る──。
「でもこれはとても危険なこと。『異界の海』は君が戦った『
ごくり、と希が息を飲んだ。
それほどまでにのんちゃんの言葉に『圧』が込められていた。『光』の力を持たない希にとって、『異界の海』がどういった空間なのかは想像ができない。だが、希の脳裏にある『闇の異空間』の光景を元に考えれば、きっと想像以上の負荷がリヒトにかかるはずだ。
そして希の考えは大体正解していた。
ローブ男に襲撃され『異形の海』に囚われたリヒトは、その脳裏に蘇って来る光景に体を震わせる。あの空間でギンガとなるのは、ダークガルベロスなどと戦った『闇の異空間』以上の負荷がかかり、力が出ない、という言葉通りの状態になるのだ。もしあの空間でカオスワロガとの戦闘になれば高い確率でギンガが負ける。
ゲームで言えば、敵は常に攻撃力アップと防御力アップの魔法をかけられ、必殺技ゲージが常に満タン状態だ。こちらの攻撃はすぐに回復され、戦いと言うより一方的なワンサイドゲームになりかねない。
しかし、
「答えは決まってる。教えてくれ、『異形の海』への生き方を」
リヒトに迷いなどなかった。
今のリヒトにあるのは『絢瀬絵里を助ける』こと、ただそれだけ。そこにどんな理由があろうと、どんな壁があろうと、助けられるのならば助けに行く。それがリヒトの答えだった。
「……そうだよね、聞くまでもないよね」
のんちゃんの方もリヒトの答えを予想していたようだ。まるで最初からその答えを予想していたのか、驚くこともなく納得する様子もなく、のんちゃんは『異形の海』への生き方を説明し始める。
「『異形の海』への生き方は簡単、君が開けた『次元の裂け目』を利用するの。ここから君をあの位相に戻して、そこから直接裂け目を辿っていく」
「あの裂け目か」
「でも気を付けて。その裂け目も時間が立てば修正されて消えてしまうの。向こうからここへ干渉ができないように、こっちらからも向こうに干渉はできない。裂け目が閉じてしまったら君も帰ってこれなくなる」
「わかった。まあ、閉じたらまた開ければ──」
「それは無理や。りっくんがこっちに来れたのは、向こうがそうできるように罠を仕掛けたから。えりちの危機に駆け付けた王様を、その手で倒させるためにッ……」
リヒトの言葉を遮るように希の声が響いた。少し強い、怒りが込められたその声音は希にこぶしを握らせ、ある覚悟を抱かせる。
「……ねぇ、のんちゃん。私もりっくんに付いて行っていい?」
その発言に、リヒトは反射的に叫んだ。
「な!? 何言ってんだよ!!」
「いいよ」
「君まで何言ってんだ!?」
「もとより私は、希ちゃんにも行ってもらうつもりだった。君一人で『異形の海』で戦うのは、ハッキリ言って無謀すぎる。最低でも誰か一人、協力者がいなければ失敗するよ」
確かに『異形の海』がリヒトの想像以上の場所だった場合、もし怪獣との戦闘になればギンガ一人で戦えるはずがない。あの空間で戦闘になった場合、まず間違いなく負ける確率が高いに決まっている。絵里救出を成功させるには最悪一人の手助けが必要。その手助けを希にさせるために、のんちゃんは希のこの場に呼んだと言う。
「…………」
果たして、リヒトは渋々頷いた。
「でも、くれぐれも無茶はするなよ」
「お約束のセリフやね」
「それじゃ、一度二人を現実の位相に戻すよ」
「了解や」
軽い調子で答えたのは希の性格からなのか、それとも
大丈夫なのだろうか?
そんなリヒトの不安を他所に、二人を光が包み込んだ。
☆☆☆
準備を終えた二人は、先ほどの位相へと転送される。
希の準備と言うのは、真姫、花陽、にこの三人のうちの誰かからギンガライトスパークを借りることだったらしい(結局にこから借りれた)。加えて、リヒトも手持ちに怪獣のスパークドールズがないため取りに行くこととなった。
時間を短縮したいため目についた二体を手に取ってきたが、果たしてこれが吉と出るが凶と出るか。
「……よし、行くぞ」
リヒトはギンガスパークを天へと突き上げる。
刀身が輝き、希の視界が光に覆われたかと思うと、次の瞬間ウルトラマンギンガが舞い降りた。
ギンガは希を掌に乗せると、光の籠を作って優しく包み込んだ。そして飛翔し裂け目へと向かう。希に負荷がかからない程度に速度を上げ、数分もかからない速さで『異形の海』へと辿り着いた。
相も変わらず、どこまでも広がっている海と孤島しかない灰色の世界。
そしてリヒトが幽閉された空間。帰り道を襲われ、なす術がないまま、手も足も出ない暴力の嵐に呑みこまれた苦い思い出が『恐怖』となって蘇って来る。
自然とリヒトの体が震えていた。身体に刻まれた『恐怖』がリヒトの体を縛り付ける。
だがここでそんなものに屈している暇はない。リヒトは頭を振って意識を集中させる。敵の本陣ともいえる場所に乗り込んだのだから、罠の一つや二つあってもおかしくはない。着地するまで、いや、この空間にいる以上最大限の注意を払わなければならない。
リヒトは視線を走らせ『柱』を呼ばれるものを探す。
『……! あれか!』
「そうみたいやね」
落下時間を利用し『柱』を見つけると、進行方向を『柱』へと向ける。
のんちゃんは『青き守護の光』が闇への分解を遅らせていると言っていたが、それが具体的にどのくらいかはわかっていない。ならば急いだことに越したことはない。絵里の元には必ずカオスワロガが立ちふさがるはずだ。一応の作戦は練ってあるが、戦闘経験のない希に長い時間カオスワロガの相手をさせるわけにはいかない。
『異形の海』の効力も含めると、早急の解決が求められている。
『希、飛ばすぞ!』
この空間で光の力を使うのは危険だが、致し方ない。
希の了承を待たずにギンガは速度を上げた。
☆☆☆
「──ん? 来たね」
ローブ男は二人の侵入に気付いた。
「やっぱり、生きてたか……うんうん、王道的展開で何よりだ。なら、カオスワロガを向けるより、もっと面白い相手を送ろう」
二人に対し、ローブ男は怒るわけでもなく、悪態を吐く訳でもなく、むしろ満足している様だった。
あれで終わりじゃつまらない、と言うのがローブ男の本音。向こうが頑張って生き抜いて、姫様を助けるためにリベンジに来たのだ。こういったのは目的の順序的に考えれば最悪だが、展開的には好みだったりする。
なのでローブ男は、最高の相手をプレゼンしようと決めた。
その懐から一つの人形を取り出す。
「さあ、君が会いたかった人と合わせて上げる」
ローブ男は人形に『闇』を送り込んだ。
☆☆☆
その殺気をいち早く感じ取ったのは──やはりリヒトだった。
『ッ!? 希!』
ギンガは希を乗せる手を包むように体を丸めると、襲い掛かって来る攻撃をその身で受けた。
『──―ッ!?』
今まで以上のダメージフィードバックに歯を噛み締めるリヒト。その衝撃に体勢を立て直せないと判断すると、せめて希への衝撃を最小限にするべく自分から下に背を向ける。
ドゴンッ!! と背中から落下したギンガ。だがすぐに体勢を立て直し、意識を切り替える。『柱』に接近したこのタイミングでの襲撃……カオスワロガが動いたとみて間違いないだろう。『柱』からの距離は開いてしまったが、遠いというほどではない。
『──希』
『ウルトライブ! ダークガルベロス!!』
リヒトが名前を呼ぶと、希はダークガルベロスへとウルトライブ。作戦通り、リヒトが絵里を救助するまで時間稼ぎをしてもらう。
『悪いな、初戦闘をこんな危険な相手にして』
『大丈夫、って言えたらカッコいいんやけど、正直って怖いよ。だから早くえりちを助けて』
『わかってる』
話しによれば、のんちゃんのサポートを受けて戦うとのことだったが、希の体で戦うことには違いない。これが初戦闘であり初めての経験である希に、カオスワロガを相手させるのはかなり危険なことだ。だからこそ、リヒトには早急に絵里を救出しなければならない。
『異形の海』は闇の力を高め光の力を弱体化させる。この空間で光の力を使うことは、余分にエネルギーを消費しなければならないため、下手をすれば一分も経たないうちにカラータイマーが鳴ってしまうかもしれない。
だが逆を言えば、僅かに闇の力を有している怪獣のスパークドールズで戦うのは、僅かながらの援助が働いているはずだ。
元個体から強化されているダークガルベロスを取ったのは、ある意味吉と出たのかもしれない。
『なっ──!?』
降りてきた襲撃者の姿を見て、リヒトは絶句した。
『うそ……なんでッ……!』
希も同様に驚きに襲われる。
『おいおい……何かの冗談だろ……』
その襲撃者は
襲撃者は──人型だった。
襲撃者は──怪獣ではなかった。
襲撃者は──黒い宇宙人だった。
襲撃者は──
襲撃者は──リヒトが一度見たことがある
襲撃者は──
襲撃者は──黒いティガだった。
襲撃者の名は──ティガダーク。
『ティガ伝説』では宇宙より飛来した『闇の波動』よって光から闇となったウルトラマンティガの姿と記されている。
いま、再び闇に染まったティガがリヒト達の前に立ちふさがった。
どうも皆さま、お久しぶりの更新です。リアルの方が忙しかったり納得の行く展開にかけなかったりと、いろいろ重なり更新できずにいました。
さて、今回から第9話。第一部ラストエピソード後編が始まります。
舞台は『異形の海』。独自設定が盛り込まれていますが、これくらい不利な方がラストエピソードにふさわしいかと思い、結構ハードモードに設定しました。いきなりの相手が彼ですしね。
さて、本来であればもう少し書いてからにしようかと思ったのですが、割とキリが良かったのでここで一旦更新させていただきました。相変わらず一話辺りの文字数が多いですが、頑張っていきますので今年もよろしくお願いします。
それでは#2へ続きます。