ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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黒いあのお方が相手の#2
激戦です。


第六章:闇に染まった戦士

 ──ティガダーク。

 それは『ティガ伝説』に記されている、本来光の戦士であるはずのウルトラマンティガが闇に染まった際の名称。

 人類に牙を剥いたと記されている闇の巨人。

 しかしウルトラマンビクトリーの光によって浄化され、最後は光として戦った。

 それなのに──。

 

 

 ──光は再び闇となってリヒト達の前に立ちふさがる。

 

 

『…………』

 

 リヒトの頬を一滴の汗が流れた。

 これは予想していなかった最悪の事態だ。

 本来こちらの作戦では希に足止め役を引き受けてもらい、その隙にギンガが絵里を救うというものだった。もちろん希にカオスワロガの相手をさせるのはとても危険なことであり、いくらのんちゃんからのサポートがあるとはいえあまりにも無謀な作戦すぎることは、全員がわかっていた。

 それでも、絵里を助けるためにはカオスワロガをどうにかしないといけないため、希もこの作戦の危険性をわかった上で承知していた。

 だが相手がティガダークとなれば話は別だ。危険とかそういう次元の問題ではなくなってくる。

 ティガダークから感じる殺気はワロガ以上のもの。静かに佇んでいるだけなのに、まるで喉元に刀を突きつけられているかのように、こちらが一歩でも動けばその瞬間消し飛ばされるのではないかというほどの殺気がティガダークから感じられる。

 ハッキリ言って別次元の相手だ。

 そんな相手を希に任せるわけにはいない。

 そもそも、まずこの空間でティガダークに勝てるのか、という疑問すら浮かんでくる。

 意識はティガダークに向けつつ、横目で希の様子を確認するリヒト。ただでさえ希は戦うこと、ウルトライブ自体が初めてなのに、いきなりこんな殺気を放つ相手を前に正気を保っていられるのかが心配だった。一応それなりに戦闘経験があるリヒトには『慣れ』があるが、それでも相当な重圧(プレッシャー)を感じている。となれば、希には相当な重圧(プレッシャー)が掛かっているはずだ。

 しかし、リヒトの視線に入った希は、

 

 

『そんな……だって、ティガはあの時、消えたはずだよ……ダークスパークを使った反動で、確かに消えたはず……』

 

 

 驚きと戸惑いが混じった、震える声を発していた。

 

(希……?)

 

 その様子に疑問を持った時だった。

 

 

 一瞬でリヒトの視界が右から左に流れて行った。

 

 

『────ッ!?』

 

 一瞬の油断から顔を掴まれたのだと理解した時には、すでに地面へと叩きつけられていた。

 ダメージフィードバックがリヒトの体を襲い、口から酸素が吐き出される。

 尚も顔を掴まれたままであり、ギンガはティガダークの腕を掴むがびくともしない。

 ティガダークがほんの少しだけ掌に力を入れた。

 ただそれだけで、とてつもない衝撃がギンガの頭部を突き抜け地面を抉りながらギンガの体が滑る。

 ようやく止まったかと思うと、首を掴まれ片手で宙へと放り投げられる。

 ──なんて出鱈目な!? 

 と、リヒトが驚愕した次の瞬間には腹部に激痛。ティガダークの拳がギンガの腹部に突き刺さり、猛烈な吐き気がリヒトを襲う。

 ティガダークのパンチは凄まじい威力であり、そのままギンガを空中に打ち上げた。

 なんとか体勢を立て直そうとするギンガだったが、風圧と衝撃がそれを邪魔する。

 辛うじて視界を取り戻した時は、すでに視界には足を振り上げているティガダークの姿。

 ────回避など間に合うはずもなかった。

 かかと落としがギンガの脳天を叩き、そのまま地面へと落下──いや、叩きつけられた。

 ドゴンッッッ!! と土煙を上げ落下したギンガ。体に走るダメージは大きくすぐには起き上がれない。

 ティガダークはギンガの近くに着地すると、しゃがんでギンガの後頭部を掴み引っ張る。

 ──なんだ? たったのこれでおしまいか? 

 視線でティガダークはそう言っている様だった。

 ──ふざけるな。

 ティガダークにリヒトの姿が見えているかわからないが、それでもリヒトはそういう意味を込めて睨み返す。

 果たして、リヒトの意思はティガダークに伝わったのだろう。

 ティガダークは手を放すとギンガから離れる。

 ギンガは腕に力を入れて立ち上がるが、四つん這いになった瞬間ティガダークの回し蹴りが側頭部を叩く。

 横へ吹き飛ぶギンガ。

 ティガダークはギンガに近づくと、足を掴んで、そのまま引っ張り投げ飛ばす。

 投げ飛ばされたギンガは何度も転がり、最終的にダークガルベロスの足元まで転がった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 一方の希、いや、のんちゃんは目の前の光景が信じられないのか固まったままだ。

 

『なんで……なんで、どうして……』

 

 希の視界を通して広がる光景に、のんちゃんはどうしても目の前の光景が信じられなかった。

 だって、のんちゃんは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。『大いなる闇』を倒すために禁断の力『ダークスパーク』を使い、その反動から光となって消えて行ったティガの姿を、のんちゃんは見ている。覚えている。

 つまり今、なぜ闇の戦士の姿で立ちふさがっているのかではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()戸惑いを感じているのだ。

 

『(なんで? なんでなんでなんんで?)』

 

 混乱する脳を整理して、のんちゃんは必死に最期の光景を思い出す。

 あの時ティガが光となって消え、『イージスの力』が遺産としてギンガスパークを作り出した。

 そこまでは覚えている。そこまでは覚えているのだが、それ以降自分がどうなったのか、あの後世界がどうなったのか、全く覚えていない。

 

(──あれ? 私、あの後、どうなったんだっけ?)

 

()()()()()()()()()()

 ティガが消えて、それから()()()()()はずだ。()()()はずなのに、次に出てくる記憶は希と出会うところ。ティガが消えてから希に会うまでの間の()()()()()

 

(なんで? 確か私は何かを願ったはずなのに──思い出せない)

 

 何か重要な、そこで絶対に重要な何かがあったということはわかるのに、それが思い出せない。

 ──なぜだ? まるでそこから()()()()()()()()()()()()かのように、なにも思い出せない。なぜ……。

 

『(()()()()()!!)』

 

『(ッ!?)』

 

 その時、希の叫び声がのんちゃんの意識を強制的に戻した。

 

『(いつまでも戸惑ってないでしっかりして! ウチらも戦わないと!!)』

 

 現状、希の視界半分と体半分をのんちゃんが借りている状態だ。これは『ティガ伝説』があった時代を生き抜き、僅かながらにこういった経験を持つのんちゃんのサポート受けやすくするため。

 しかしそうなると、体の主導権が半分のんちゃんの方にある状態ともいえる。

 つまり、二人が呼吸を合わせなければダークガルベロスを操って戦うことができないのだ。故に先ほどからティガダークの猛攻を受けるギンガを手助けすることができなかった。

 

『(ごめん……)』

 

『(謝るのは後! ほな、行で!)』

 

 そういう希ではあるが、肝心のダークガルベロスは動かなかった。のんちゃんの意識は未だに混乱状態ではあるが、それでも一応意識は切り替えている。

 つまり何か問題があるとすればそれは希の方。

 希の体が()()()()()()()

 無理もない。何もかもはじめてな経験の中でいきなり格上の相手を目にするのは、誰だって恐怖する。いくら言葉では戦う意思を見せられても、肝心の心と体が恐怖で委縮してしまっている。

 ティガダークの強さは素人の希にもわかるほどのものであり、そして素人だからこそ余計にその強さから『絶望』を感じてしまう。

 ギンガが苦戦することはこれまでもあった。さらに言えばつい先ほどは敗北までした。

 だが、戦いが始まってここまで防戦一方的な展開は初めてだ。それが余計に『絶望』の色を強くしていた。

 つまり、勝てないという絶望が……希の中に渦巻く。

 それでも、希は拳を握りしめて、自らを奮い立たせる。

 ここで負けたら、親友を助けることができなくなってしまう。

 それは嫌だ。

 ただでさえ一度ミスしているのだから、何かしらの挽回をしたい。ヒーローにすべてを頼りたくない。

 ヒロインだってかっこよく決めたい。

 だから。

 

 

『行くよ──―』

 

 

 短く、希は自らを奮い立たせる意味を込めて、呟いた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ──ダークガルベロスが走る。倒れるギンガを置き去りにして、ティガダークに向けて走る。

 ティガダークは、先ほどまで脅えて戦いに来ないと思っていた相手が来ることに、僅かながらの反応をして見せるが、結局は戦力として数えなかった。

 倒すべき相手はウルトラマンギンガだけ。

 そう誰かが言っている。いや、言っていないかもしれないが、体がそうしろと勝手に動く。

 だから、走ってきたダークガルベロスを軽くあしらって無視する。しかしダークガルベロスに諦める気はないのか、すぐにしがみついて来る。

 ティガダークは一度面倒くさそうにダークガルベロスを見ると、手刀でその巨体を沈めた。

 

『がはっ!?』

 

 希の口から苦悶の声。

 怪獣へのウルトライブは制限時間がない代わりに、ダメージフィードバックが大きく反映される。その痛みはウルトライブが初めてである希にとって、今まで感じたことのない激痛だろう。

 ダークガルベロスに向けて追撃を放とうとするティガダークを見てギンガは急いで飛んだ。

 着地と同時にその手を掴み、ダークガルベロスから引きはがすがその腕を引っ張られギンガの体が一回転する。

 地面へ叩き付けられるギンガ。

 代わりに起き上がったダークガルベロスがティガダークにしがみつき、自分の方へ注意を向けさせるとその腕を振るう。しかし簡単に弾かれ、拳が腹部へと突き刺さる。

 

『──ッ!?』

 

 あまりの激痛に希の顔が歪む。視界がぐるぐると周り始める。

 ティガダークにもたれかかるように沈むダークガルベロス。

 ギンガが背後から襲い掛かる。しかし、振り返りながら放たれた回し蹴りがギンガを倒す。

 地を転がるギンガ。

 ギンガに向けて追撃をしようとしたところで、ダークガルベロスが足に噛みついた。

 

『逃がさ……ないっ』

 

 掠れた声で、しかし強い意思のこもった瞳でティガダークを見る希。

 ティガダークは、一度ため息を吐くようなしぐさをすると足を振り上げる。

 その足を見て、希は瞬時に悟った。

 ──ヤバい、この一撃で死ぬ。

 リヒトと違い戦闘経験のない希がティガダークに挑むのは自殺行為に等しい。すでに二撃程の攻撃で体はボロボロ。ノックアウト寸前である。間違いなくこの一撃は致命的なダメージとなるだろう。

 

 

 しかし、ティガダークの足は振り下ろされることはなかった。

 

 

 振り上げた足の逆、ティガダークの体重を支えている足に紫色の鞭が絡みつく。

 ──リヒトがギンガからカオスジラークにウルトライブしたのだ。

 にやりと口角を上げたリヒトは思いっきりギンガスパークを振るい、それに合わせてカオスジラークが鞭を引く。すると体重を支えていた足が引き抜かれ、ティガダークは無様にも背中から落下した。

 

『希!!』

 

 リヒトの叫びを受けて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ──一瞬、ダークガルベロスの目が光ったように見えた。

 瞬間、ダークガルベロスは獣がごとく飛び上がりティガダークにのしかかる。

 暴れるティガダークを押さえつけ、のんちゃんは問う。

 

『──やっぱり、どうしても確認したくてね。前にも何度か聞いたけど、貴方は答えてくれなかった』

 

 少し、寂しそうな声。

 自分でもその声が届かないことを承知しているのだろう。

 それでも、聞かずにはいられないと言ったところか……。

 

『今回も聞くよ。あなたは私の知るウルトラマンティガなの? あの時光になって消えた、ティガなの? もしそうなら闇になんて負けないで! あの時みたいにあがいてよ! もう一度、もう一度私を守る光になって!!』

 

 ──しかし、ティガダークの抵抗はより一層激しくなり、次第に押さえつけていることが難しくなってくる。

 

『──ッ!? ティガ!!』

 

 最後にのんちゃんが彼の名を叫ぶが、ティガダークは巴投げの要領でダークガルベロスを投げ飛ばす。

 それは、のんちゃんの言葉が全く届いていないことの証明だった。

 わかっていた。この空間で姿を目にした時から、自分の声が届かないことくらいわかっていた。それでも、何か少しでも届くんじゃないかと思っていたが、無理だった。

 投げ飛ばされたダークガルベロスをカオスジラークが受け止める。

 

『──リヒトくん、お願い』

 

 静かに放たれるのんちゃんの言葉。その言葉を聞いたリヒトは静かに頷くと、軽くダークガルベロスの肩を叩いて駆け出す。

 同時にギンガへウルトライブする。

 ハッキリ言って、これ以上ギンガの力を消費するのは痛手だが、ギンガの力でなければティガダークは倒せない。

 だから、絵里を助ける余力を残せる範囲で、リヒトは力を解放した。

 走るギンガはそこからジャンプキックを放つ。体勢的に避けられないと判断したティガダークはキックを受け止めるが、ギンガの折りたたんでいた足が掴んだ腕を叩きわずかによろめく。ギンガはその際の勢いを利用して後ろへ回転。着地、体勢を立て直しながらギンガファイヤーボールを形成して、一歩踏み出すのと同時に放つ。

 ティガダークはバリアを展開して完全に防ぐ。

 その際の爆炎を煙幕として利用し、ギンガはティガダークに迫る。

 走っている勢いを利用したストレートパンチ。しかしティガダークはバリアを解除するのと同時に素早く反応、腕を掴んで逆にその勢いを利用し背負い投げでギンガを投げ飛ばす。

 落下したギンガはすぐに体を上げ、目の前に迫っていた蹴りを受け止める。そのまま自身事回転し、巻き込む形でティガダークを転倒させる。

 だがすぐに互いに背を向ける形で上体を起こし、互いに向き直る。

 ──ティガダークはエネルギー弾を放つため腕を引く。

 ──ギンガはそれを瞬時に見極め飛翔。

 足先ぎりぎりを掠める形でエネルギー弾を回避。

 ティガダークはギンガの後を追うべく構えるが、背後に迫っていたダークガルベロスに噛みつかれる。

 ──ダークガルベロスの噛み付きは、その気になればギンガの皮膚をえぐり取る勢いのものだ。たとえライブ者が希であったとしても、その気になった噛み付きはティガダークに大きなダメージを与える。

 そのため、ティガダークはこの戦闘に置いて初めて『本気』でダークガルベロスに攻撃した。ダメージフィードバックが希を襲い視界が明暗を繰り返すが、ギリギリのところまで持ち込たる。

 だがそんなには長く噛みつけていられなかった。

 むしろ耐えた方が驚きだろう。ティガダークは今までダークガルベロスを戦力として見ていなかった。それを変えさせたのだから上出来といえよう。

 ダークガルベロスが離れたタイミングを見て、ギンガスラッシュが降り注ぐ。

 ──注意がギンガに向いた瞬間ダークガルベロスが火炎弾を放つ。

 近距離で放たれ、しかも注意がギンガに向いていたとなると避ける暇はなくティガダークは火花を上げ後ろに飛ぶ。

 ──この戦いで初めて膝を着く。

 それはティガダークの内なる心に『怒り』を抱かせ、ティガダークを『本気』にさせる。

 ──もう、容赦はない……一撃で葬る。

 上空に気配。

 ギンガファイヤーボールを形成しながら落下してくるギンガ。

 本来であれば多少のダメージにはなったかもしれない。

 だが『本気』になったティガダークの反射神経は瞬時に回避行動に出る。

 明らかに全力だと言わんばかりに放たれたギンガファイヤーボールは不発に終わり、無防備な背中に向けて腕をL字に組む。

 放たれる光線。

 ギンガクロスシュートに並ぶ必殺の一撃はギンガの背中に目がけて発射され、ギンガを消し飛ばした。

 ……そう、文字通り()()()()()()()()()()

 それは、決してティガダークの放った光線がそんな冗談じみた威力を持っていたからではない。

 もっと単純に、単純な答えがそこにはあった。

()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、()()()()()()()()()()()()()()

 

『この技にはウチらも苦戦されられてなぁ……なにやらウチを侮ってたみたいやし、簡単にだませたよ。油断大敵やで』

 

 ウィンクしながら言う希。

 ──そう、すべてが幻影だと悟った時、背後に気配を感じ振り向くティガダーク。

 

 

 だが、すでにゼロ距離まで接近していたギンガの刃を躱すことなど不可能だった。

 

 

 ギンガセイバー。

 クリスタルを白に輝かせることで右腕に形成される白き刃。

 それがティガダークのカラータイマー目掛けて突き刺さっていたのだ。

 

 

 だが、それだけで決着がつくなんて誰も思っていない。

 

 

 その証拠にティガダークが残るすべての力を使って拳を構えた。まだ戦う力が残されているのだ。

 ここは『異形の海』。闇の力を高める闇の空間だ。

 だからこそ、リヒトは『光』をもって闇を打つ。

 ティガダークが拳を構えた瞬間、ギンガの体が粒子状に消えて行く──活動時間が限界を迎えたわけではない。リヒトが己の意思でウルトライブを解除したのだ。

 粒子状に消え始めたことで、僅かながらにたじろぐティガダーク。

 ギンガはまだ形が保っているうちに左手をカラータイマー前に持って行き、何かを握る動作をするとティガダークに向けて投げた。

 ギンガの姿が完全に消え、光から解き放たれたリヒトはティガダークのカラータイマー目掛けてギンガスパークを構える。

 

『目を覚ませええええええええええええええええええええええええええええ!!』

 

 ガツン!! とギンガスパークの先端がカラータイマーに突き刺さる。

 瞬間──―。

 

 

 光と闇が混ざり合った一筋の光が空へと昇った。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 天に向け伸びた光と闇が消えると、肩で息をするリヒトだけが残った。ティガダークの姿はどこにも見当たらない。

 

「りっくん」

 

 希もウルトライブを解除してリヒトの元に駆け寄る。

『異形の海』の不気味な風に眉を顰めるも、相当体力を消耗しているリヒトに比べればと意識の外に無理やり追いやる。

 膝を着くリヒトに駆け寄ると、その足を元にティガのスパークドールが転がっているのを見つけた。どうやら勝ったとみて問題ない様だ。

 激戦を勝ち抜いたことに一息つく希だったが、リヒトの様子を見てそう安心していられる結果ではないことをすぐに悟った。

 ティガダークという巨大なイレギュラーに対し、こちらの戦力が大きく削られてしまった。リヒトの体力はもちろんギンガの残り活動時間もそうないだろう。ギンガへのウルトライブ時間は三分が限度。それ以上のライブはリヒトの命に係わることであり、今のところ三分を超えた場合どうなるかはわからない。おそらく強制的にライブが解除されるのだろうが、もしそうなった場合こちらの負けが確定。二度と絵里を助けられなくなってしまう。

 さらに言えば、希の方も体中が痛かった。おそらくカオスワロガ相手に時間を稼ぐのは無理と見ていい。

 半ば詰め状態だった。

 

「……希、行くぞ」

 

 少しだけ体力が回復したのか、それとも万全ではない体を無理やり動かしての行動か。いずれにせよ浅い呼吸を繰り返すリヒトの姿を見て、このまま絵里の元に行くのは危険が大きいと希は考える。

 転がっているティガのスパークドールズを取り、ギンガスパークを構えるリヒト。

 

「…………」

 

「……どうした。時間がないんだぞ」

 

 動く気配を見せない希に気付いたリヒトが、首だけを動かしてこちらを見てくる。

 希は、あることを考えていた。それが希に出来ることなのか、きっと少しはリヒトのサポートをしやすくなるだろう。

 しかし。

 

(のんちゃん)

 

(わかってる。こっちは心構えで来てるから、あとは希ちゃんが決めて)

 

 のんちゃんにそう言われ、希の中で覚悟が決まった。

 それは外見からもある程度判断できるのか、リヒトは少しだけ首を傾げると、すぐにギンガスパークを掲げた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

『柱』と呼ばれる元まで光となって移動し、たどり着いた先を見て二人は絶句した。

 

「──ッ」

 

「……えり、ち……」

 

 絵里の体はすでに半分ほど闇の中に呑みこまれていた。蛇のように見える何かが絵里の体に纏わりついており、ゆっくりと『柱』の中に沈んで行っている。

 がりっ、とリヒトは己の唇を噛む。どうみてもリヒトが倒れていた間か、加えてティガダークと戦っていたことがかなりの時間ロストに繋がってしまったようだ。もう少し早く来ていればと、リヒトの中を強い後悔が駆け巡る。

 

 

「やあ、やっと来てくれたね」

 

 

『──ッ!?』

 

 突如聞こえてきた声に二人の表情が強張る。身体に電流が走ったのかと錯覚するほど体が反応し、先ほどの疲労がすぐに消し飛ぶ。圧し掛かって来る重圧は先ほど以上のものか、それとも単に恐怖心が重圧を強くしているのか。おそらく後者であると予想するが、そんなものを一々考えている余裕などすでになかった。

 二人はすぐに集中力を最大限にまで高め、声のした方へと振り返りながらそれぞれ構える。

 果たして、ローブ男が立っていた。フードの下から除く口元は三日月のように歪んでおり、この状況を楽しそうにしている。

 

「待ちくたびれたよ。ま、ティガダーク相手にここまで全勝できたのはむしろほめるべきことかな」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ローブ男の声に二人は何も返せない。

 

「でも、それもここまでだ。見ての通り、あと半分で彼女は『生け贄』になる。それまで、待ってくれる気は──」

 

「──ねぇよ」

 

 低く、怒りのこもったリヒトの声がそれを遮る。

 一瞬だけ呆気にとられたような様子を見せるローブ男だが、すぐ元の表情に戻る。

 

「──やっぱりね。なら、こっちも邪魔するだけだ」

 

 ローブ男の声が低くなる。パチンと指を鳴らすとその背後にカオスワロガが出現し、リヒトは苦い顔をしながらギンガスパークを構える。

 カオスワロガ相手に割ける時間は、絵里の説得時間を差し引くとほとんどないと考えていい。ティガダークとの戦いでカラータイマーが鳴らなかったのは奇跡としか言いようがなく、おそらくライブ後すぐにカラータイマーは点滅を始めるだろう。

 そして何より、おそらくカオスワロガを相手している時間など、絵里の様子を見るにもう残されていない。

 ────まさに絶体絶命。

 希に足止めを頼みたいところだが、先ほどの戦いで間違いなく相当なフィードバックダメージを受けている。これ以上任せるのは彼女の命に危機が迫るに違いない。

 ならば、リヒトがここで怪獣にライブするかして──

 

「──先にカオスワロガを抑えるしかない」

 

「──っ!?」

 

 ローブ男に思考を読まれた。

 

「悪いけど、今回は本気できみを潰しに行くよ。もう変な演出を作る必要もないんだし、これ以上邪魔されるのは癪だからね」

 

 ──詰み。

 そんな言葉がリヒトの脳裏を横切った。ローブ男がどれほどの強さなのかは、襲撃された際に嫌というほど知っている。何も抵抗できずに暴力の嵐に呑みこまれる恐怖(トラウマ)がリヒトの体を強張らせる。

 本格的にまずくなってきた。ギンガにライブしたとして、この空間で二人相手に勝つことはまず無理だ。かといって希に協力を申し出たとしても、ハッキリ言って勝てる確率は一パーセントも上がらない。

 

「さて、それじゃ──」

 

「待って」

 

「──希?」

 

 ローブ男が戦闘態勢に入ろうとした瞬間、それを希が遮った。

 一歩前に出た彼女は、不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「悪いんやけど、二人の相手はウチがするで」

 

「は?」

 

 力強く宣言した希の言葉は、おそらくこの場にいる全員の頭を真っ白にした。

 ──希は自分が戦うと宣言したのだ。

 

「ば、バカ言ってんじゃねぇよ! お前には無理だって!!」

 

「でも、ここでウチが戦わなかったらえりちは助けられない。ギンガに変身できる時間以前に、りっくんには二人相手に戦う力、残されてへんやろ? 

 それに向こうさんはウチのことが大事みたいやからな。殺されることはないやろ」

 

 抗議の声を上げるリヒトだったが、希の言う通りギンガにライブしたところでまともに戦えるはずがない。袋叩き似合うのが目に見えている。

 だが、そんな相手だからこそ希に任せるわけにもいかないのだ。何度も言うが怪獣へのウルトライブは制限時間がない代わりにダメージフィードバックが大きい。ティガダークの攻撃でさえ希の体はボロボロに傷つけられたのだから、ローブ男とカオスワロガの攻撃など受けたらどうなるかわからない。

 ローブ男の方も、希のあまりの考えなしの行動に笑い声をあげていた。

 

「きみがぼくとカオスワロガの相手をする? はははっ、冗談はやめてくれよ。確かにぼくはきみのことを殺すことはできないけど、その気になれば死なない程度に痛めつけることはできる。ぼくの()()が終わるまできみをここに閉じ込めておけばいいんだから。でもそれはとてもつらい、ぼくの心が壊れてしまう。だからきみはそこで大人しく見ているのが賢い考えだ」

 

「それは無理な話やな。ウチはえりちを助けるためにここに来たんや。最初から『見てる』なんて選択肢はあらへんよ」

 

「…………」

 

 希の返しを受けて、ローブ男が初めて希を睨む。

 

「りっくんはえりちをお願い」

 

「のぞ──」

 

「──りっくん」

 

 呼び止めるリヒトの声を希は強い口調で遮った。

 

「女の子でも、見てるだけじゃ嫌なんよ」

 

 そう言って希は微笑むと、唖然とするリヒトを置いて懐から一つの人形を取り出した。その人形を見てリヒトは驚愕し、自分のポケットを確認する。

 やられた。いつの間にか取られていた。

 手癖の悪い目の前の少女を睨んでいると、少女は取り出した人形の足先をギンガライトスパークに当てる。

 

『────! ティガ──―!!』

 

 瞬間、闇と光が混ざり合い、光の柱が天へと伸びる。

 白黒の稲妻が中心部から四方へ飛び散る中、やがて輝きは薄れていきその姿がはっきりと見えてくる。

 その姿は先ほど見た黒い姿のティガではない。

 リヒトが『ティガ伝説』でみた銀と赤と紫の三色をしたボディーカラー。

 まさか、希がティガにライブできるとは思っていなかった。ギンガ同様『ウルトラマン』であるティガならば、並みならぬ力を持っているはず。きっとこの最悪の状況を逆転してくれると期待を抱いたところで、ここが『闇の異空間』であることを思い出した。

 そうだ。ここは『闇』の力を高める空間。いくら希がティガにウルトライブできたとしても、それが『光』の力である限り結局何も変わらないのだ。

 

(希……)

 

 せっかく希が覚悟を決めてウルトライブしてくれたのに、結局大きな負担をかけてしまうことになった。『光』である限りこの空間ではまともに戦えない。

 リヒトは急いでギンガスパークを構えようとしたが、

 

「……まさか」

 

 ローブ男の方から驚きの声が上がりその腕が止まる。

 

「……なるほど、()()()()()()()()()()()()()

 

「?」

 

 ローブ男の言葉に首を傾げるしかないリヒト。

 一体ローブ男は何に驚いているのか。

 その答えはすぐにわかった。

 光が晴れ、あらわになったティガの姿を見てリヒトは眉を顰める。体のカラーリングは『ウルトラマンティガ』と同じで間違いない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 一つ、本来は胸のプロテクターに走るラインの色は黄色なのに()()()()

 二つ、ティガのフェイスの色がティガダークと同じ黒色だった。

 それは、ティガであり()()()()()()()()()ではない姿。

 

 

 

 

 その姿の光と闇が半分混ざり合った姿。

 名は──『ティガブラスト』。

 




というわけでVSティガダークのお話でした。
資料が少ない故にティガダークがL字に腕を組んだところは完全にオリジナルです。
さて、これで第9話も半分(プロット的に)まですみました。残り後半はいよいよ絵里の救出開始! 
なぜ希が最後ティガではなくあの姿になったのか。もちろんそれには理由があり、今後少しずつ描けていけたらいいなと思っています。
さて、それではいよいよ絵里救出の本番である#3に続きます。

追記(2017/04/1)
感想の方で、ティガダークはウルトラアクト化の際にL字の光線が撃てる設定が追加されている、と教えていただきました。なので、光線を撃つシーンはオリジナルではなく、アクトから設定を持ってきたことにさせていただきます。
情報提供ありがとうございます。
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