そして第一部ラストのお話。
ギンガスパークが青い輝石に触れた瞬間、灰色の世界は輝きに包まれた。
目を覆いたくなるような輝きは、絵里に絡みついていた触手を消滅させ、沈んでいた体を浮かび上がらせる。
ゆっくりと開いて行く絵里の瞳。
「行くぜ」
リヒトの声にうなずく絵里。
光は二人を包み込むと天へと上り、雷鳴を轟かせた。
☆☆☆
ティガブラストとカオスワロガの戦闘は、やはりカオスワロガが圧倒していた。だから、正直に言って時間稼ぎも限界に近かった。
カラータイマーは点滅していないものの、地に倒れているのはティガブラストであり、カオスワロガに呼吸の乱れは見当たらない。戦力差があることは覚悟していたが、ここまで違いを見せられると心が折れそうになる。
希は自分の力不足に歯を噛み締めていた。
だが、突然灰色の世界を染めた光に両者の動きが止まり、その光に希は心を躍らせる。
天へと上った光は、やがて雷鳴を轟かせながら君臨する。
ウルトラマンギンガ、爆誕。
その姿はいつものギンガではあるが、纏う雰囲気が全く違う。
凛々しく、神々しく、ゆっくりと立ち上がるその姿にカオスワロガだけではなく希までもが圧倒されていた。
ギンガはティガブラストに振り返ると、ゆっくりと頷いた。
──後は任せろ。
そう言われた気がしてティガブラストもまた頷き返す。
そして、ギンガとカオスワロガが激突した。
鋭い槍のような両腕が、神速をもってギンガに迫る。
しかしギンガはその攻撃を全て見切っており、顔を狙ってきた一撃は首を傾けるだけで躱す。そのまま腕を掴み背負い投げ。
地へと叩きつけられたカオスワロガから悲鳴が上がる。起き上がった瞬間に頭部を掴み、ギンガはさらにカオスワロガを遠くへと投げ飛ばす。
先ほどよりも強い衝撃がカオスワロガを襲い、ギンガは空いた距離を埋めるべく飛翔。空中で一回転し、キックの態勢を維持したまま落下する。
ギンガのパワーが通常よりも上がっていることを感じたカオスワロガは、すぐに戦法を切り替えるべく姿を消した。
空振りに終わるジャンプキック。
姿が見えないのでは、さすがのギンガも手に負えない。迫りくる攻撃を受けてしまい、体から火花が飛び散る。
しかしそれも数撃。次の瞬間には攻撃を受けながらも光を纏ったパンチを顔面へと叩き込んでいた。
ギンガとカオスワロガの体が同時に吹っ飛ぶが、すぐに足をつけて減速。ギンガは駆け出しカオスワロガは迎撃のために姿を消す。
背後のやや上空からの攻撃。
しかし、その際に発せられるわずかな殺気をいち早く感じ取ったギンガのカウンターがカオスワロガに突き刺さった。
地へと倒れるカオスワロガ。
ありえない、ありえないとカオスワロガは何度も否定する。この空間において、闇である自分が光に負けるはずがない。この空間は闇の力が強まり、光の力は弱まる空間だ。その空間においてなぜこんなにもパワーが出せる!?
『なめんなよ、今のギンガは俺の力だけじゃねぇ──』
『──私の力も込められてるのよ!!』
カオスワロガの疑問に答えるかのように、二人の声が聞こえてきた。
そこでカオスワロガは気付く。ギンガの中──インナースペースに立っているのがリヒトだけではなく、
『よくも私の心を弄んでくれたわね。絶対に許さない!』
絢瀬絵里だ。絢瀬絵里がリヒトの隣に立ち、その左手をリヒトが持つギンガスパークに添えているのだ。
さらに右手は、青い輝きを放つ輝石を握っており、輝石の発する光が絵里を伝いギンガスパークに流れている。
つまり、今ギンガはリヒトと絵里が同時にウルトライブをし、さらに絵里が持つ輝石の光がギンガに力を与えている。この空間の効果すら打ち消すほどのとてつもない光。そのパワーの源は間違いなく『青き輝石』。絵里を捉えた時はその輝きは弱く、いずれ朽ち果てる運命であったはずの輝石は、今、輝きを取り戻している。
その光によってギンガのパワーは飛躍的に上昇し、一撃一撃がカオスワロガの体力を大きく削っている。
光を纏う拳が振り下ろされ、カオスワロガの頭部を叩く。
光を纏う蹴りはカオスワロガの腹部に突き刺さり、その体をくの字に曲げる。
『今のギンガは最強──いや』
『『超最強だ!!!!』
二人の言葉と共に放たれた渾身のストレートパンチは、ヒットの際に火花を散らしながらカオスワロガを上空へと吹き飛ばした。
『決めるぜ!』
ギンガは両腕を胸の前でクロス。
クリスタルはピンク色に輝き始め、エネルギーが充填されていく。クロスしていた両腕を開き、エネルギーを凝縮させることで、その輝きは黄金へと変わる──。
『“ギンガサンシャイン”!!』
放たれる黄金の光線。
それは上空のカオスワロガを飲み込むと、威力を衰えさせることなくさらに突き進み、灰色の世界を撃ち抜く。
『ギンガサンシャイン』は『ギンガクロスシュート』に並ぶ大技だ。そしてその違いは『闇』そのものを破壊する光線であること。
故に『闇』そのものである『
上空で大きな爆発。そしてそれと同時に飛び散った『ギンガサンシャイン』の余波が『異形の海』を崩壊させる。
ギンガはすぐにティガブラストの元へと走り、同時にティガブラストは希の姿へと戻り始める。
ギンガは慌てることなく希が包まれている光を掴むと、猛スピードで閉じかけている『次元の裂け目』へと向かう。
崩壊を始める『異形の海』。
ここの主であったはずのローブ男はもういない。
崩壊していく位相を見ながら、リヒトは静かにこの戦いに決着がついたと思うのだった。
☆☆☆
『次元の裂け目』はギンガ達が抜け出すのと同時に閉じた。ギリギリのタイミングだったことに冷や汗を流しつつも、リヒトはウルトライブを解いて地面へとその足をつける。
場所は音ノ木坂学院の裏口付近。時間帯や裏口だということもあってか、そこに人気はなくちょうどよい着地場所だった。
「全員無事か!?」
「えぇ、私は」
「ウチも大丈夫やで」
二人の安否を確認したリヒトは息を吐き、ようやくその体から力が抜けた。そのせいかぐらり、と体が揺れ思わず壁に手を付き体重を支える。が、それでも一度倒れかけた体に力が中々入らず、結局壁に背を預ける形で地に腰を下ろす。
絵里と希が血相を変えるが、すぐに手で制して『大丈夫』だと伝える。
「終わったんだよな」
ふー、と息を吐いてから絵里の姿を確認するリヒト。制服に多少の汚れはあるが、コレと言って目立つ外相はない。顔色も特に問題なく、気になるのは『心の方』と言ったところか。
「絢瀬、容体はどうだ?」
「大丈夫よ。といっても、まだ少し体が重いけどね」
「そうか」
絵里も座り込んでいるところを見ると、やはり体力的な消耗、そして精神的消耗は激しいらしい。笑って答えてはいるが、その表情にははっきりと疲れが見えている。絵里の様子は、一日安静にすれば治る程度の物だろう。後遺症みたいなのは残っていないように見える。
「希は?」
「ウチも大丈夫、って言いたいんやけど、本音はもう限界。今すぐふかふかのベットで眠りたい気分や」
ごもっともな感想だった。そもそも希はダークガルベロスにウルトライブしてティガダークと、ティガブラストにウルトライブしてカオスワロガと戦ったのだ。状況が状況だっただけに仕方がないとはいえ、ただの女子高生があんなことに巻き込まれたのだ。その身にかかる負担は大きかったに違いない。
(……いや、希の場合ただの高校生じゃないよな)
そっと訂正するリヒト。同時に脳裏にティガブラストの姿が蘇ってくるが、今はその件について追及する時ではないだろう。目の前でガールズトークを始められては、男であるリヒトに出番はない。
何はともあれ、これで一件落着と言っていいだろう。『異形の海』は『ギンガサンシャイン』で崩壊したし、ローブ男も白いナニカに変貌し襲って来たが結局は消えた。戦いが終わった、と言っても過言ではないのだから、今は何も追求せずにただ無事だったことに安堵しよう。
「それにしてもえりち、ウチの知らない間に随分大胆になったんやな」
「え? どうして?」
「ムフフフ、愛しのりっくんに会えてテンション上がるは分かるけど、まだ日が昇ってるで?」
「?」
希が何を言いたいのかわかっていない様子の絵里。
「眼福やね」といやらしい笑みを向けてくるので一先ずリヒトはそっぽを向くが、同時に絵里も自分の胸元が涼しいことに気付き悲鳴を上げる。
その後に起こるのは、何となく『お約束』だろうなと思いながら、リヒトはゆっくりと絵里の方に視線を向けてみる。
そこにいたのは顔を真っ赤に染め、胸の前で腕を交差している絵里の姿。そう、絵里の胸元は無残にも引きちぎられ、その下の下着があらわになっているのだ。『異形の海』にいた時はそんなことを気にする暇がなかったため気にすることはなかったが、こうして戦いが終わり一息つくと気づいてしまう。
絵里はスタイルがいい、と改めて思いながら──。
「いやあああ!! 見ないで!!」
──それは仕方のないことだろう。誰だって下着を見られれば恥ずかしいし、思わず手が出てしまうものだ。加えて、ギンガとなって二人を運んだこともあって、こうして地面に腰を下ろしている三人の距離は近い。だからちょっと手を伸ばせば簡単にリヒトの首の向きを変えることだってできる。
事故とはいえ手が出てしまうのは仕方のないことだとリヒトは納得している。納得はしているが、
「あ、りっくん落ちた」
満身創痍の体には、その一撃が決定打だった。
☆☆☆
その後の話はすべて希から聞いたものだ。
一先ずリヒトは裏口付近の空き教室に放り込まれ、絵里の悲鳴を聞きつけた数人の女子生徒に発見されることなく奉次郎が引き取っていき、絵里もまた服を正してから改めて希と共に穂乃果達のところへ謝罪しに行った。
別に穂乃果達は気にしていなかったが、絵里なりのケジメだそうだ。そういう真面目なところは変わらなかったらしい。
そして、自分の心に正直になった絵里は『μ’s』に加入。身近なダンスコーチが付いたこともあって、ダンス練習はより厳しさを増しているとのこと。
一番の驚きは希の加入だったが、のんちゃん曰く『戦いに決着がついたとはっきりわかっていない』とのこと。それに加えて希の個人的占いの結果もあるらしいが……まぁこれは今更追及しても仕方のないことだろう。
結果、『μ‘s』は九人となり、オープンキャンパスに向けての練習に励むことになったそうだ。
あぁ、ちなみに俺の方は行方不明になっていたらしく、後日しっかりと両親からのお説教をいただきましたよ……。
☆☆☆
早朝練習の神田明神。そこでは絵里が何やら深刻な表情をしながら、掌に乗せた輝石を見つめる絵里の姿があった。
「…………」
「どうしたんえりち? もうすぐで練習始まるよ」
希が声を掛けるが、絵里の表情は深刻なまま。ふと、なにか思い当たることがあったのか、絵里は視線を上げと希を見る。
「……ねぇ、希。希はリヒトくんがどうして記憶喪失になったのか知ってる?」
「? うーん……アメリカで何かあったぐらいしか聞いてへんなぁ。具体的にはさっぱりや。それがどうかしたん?」
「……いいえ。ちょっと気になっただけ。さ、練習行きましょう」
そう言って、みんなが待つところへと駆け足で向かう絵里。
──絵里は一つだけ気になっていたことがあった。それはあの時──ギンガスパークと『青い輝石』によってリヒトが絵里の心の中を見た時に、同時に絵里もリヒトの心の中を見ていたのだ。あの時は訳が分からなかったが、今ならアレがリヒトの心の中だとわかる。
そしてその光景は、とてもおぞましいものだったのだ。
とある館の中。大きな扉を前にして、一人の老婆に立ち向かうリヒト。
その光景がいつのものかはわからない。だが少なくとも、リヒトの髪色が明るい茶色であることから最近の出来事と予想できる。
そして肝心なのはこの後。老婆の持つ杖がリヒトの胸を貫通したのだ。
溢れ出る鮮血。
真っ赤に染まるリヒトの体。
杖は間違いなくリヒトの体を貫いている。
溢れ出る鮮血がリヒトの命の灯を表しているようで、その体が沈むと間もなくしてリヒトの命が終わった──。
──一条リヒトはあの時、
それなのに次の驚きはすぐにやって来る。
光の球体がリヒトの体を包み込んだのだ。するとリヒトの体が変化し、
信じられない。
リヒトは一度死んだ。
そして銀色の巨人となった。
銀色の巨人は老婆が変化した怪物を倒し、その後さまざまなたたきを繰り広げた。
そして、一番の衝撃は一人の少女が緑色の怪物へと変化した時。その変化に恐怖した絵里は駆け出し、その後の光景は見ていない。あの時、リヒトに聞けば何かしらの答えが返ってきたかもしれないが、あんな経験をしてまともな状態でいられるはずがない。
それにあの時変身した『銀色の巨人』は『ウルトラマンギンガ』ではなかった。
(リヒトくん……あなたは一体──―)
──何者なの?
そう問わずにはいられないが、どうしても聞けなかった……。
以上で第9話、そして第一部:集う女神編が終了しました。連載開始から1年と5ヶ月でようやく9人が揃いました。いやまぁ、4か月ぐらい更新していない時期がありましたが……。
さて、今回のお話で第一部が終了しました。第4話から続いたメンバー加入回と言ってもいい第一部でしたが、いかがでしたでしょうか。私個人的には反省点も多くありますが、やっぱり書いていて楽しかったですね。ギンガの登場シーンをどう描くとか、ヒロインをどうやってダークライブさせようとか……色々楽しかったです。
そして次回からはいよいよ第二部が開幕です。今まではμ’sメンバーが狙われていましたが、果たしで第二部はどうなるのか? どんな敵が待っているのか? 楽しみに待っていただければ幸いです。
第二部の副題は決まっていませんが、テーマになりそうなのは『復讐』ですかね。
意外なところに焦点を当てた話だったり、リヒトの過去も大きく明かしていきたいです。
それでは次回、第二部開始の第10話をお待ちください。
第10話のサブタイトルは『小さき少女達の冒険』です。