たぶん話忘れられてそうなんで、ざっくりとした総集編から行きます。
総集編① Record of リヒト
早朝の神田明神に響く、九人の少女の声。
彼女たちの名は『μ's』。音ノ木坂学院のスクールアイドルである。
発足したのは、今年の四月。ダンス経験も、歌の経験もない三人の少女が、大きな夢を掲げ、その一歩を踏み出したのだ。
彼女たちが初披露した曲『START;DASH!!』はスクールアイドルのサイトにアップロードされ、彼女たちの名前を広める最初のきっかけになった。梅雨明けに七人となって披露された『これからのSomeday』は、『START;DASH‼︎』の時よりもレベルアップしたその姿に、新たなファンを獲得。まさに今、一番勢いに乗っているスクールアイドルと言ってもいいだろう。
そんな彼女たちはつい先日、新たにふたりのメンバーが加わり、九人──μ’sの名が示す九人の女神と同じ人数になったのだ。
そして彼女たちは、成し遂げたい大きな夢を達成するべく、今日も練習に励む。
自分たちの通う母校、音ノ木坂学院の廃校を阻止するために。
☆★☆(一条リヒト)
「──とまあ、こんな感じでナレーションをつけてみたけど、どうだ?」
動画の再生が終わり、集中して画面を見つめているμ’sメンバーに問いかける。
「いいんじゃないかしら」
「そうやね、奉次郎さんの渋い声がマッチして、ええ感じやと思う」
「同じく、出だしとしてはいいと思うわ」
絢瀬、希、西木野がまずそれぞれ感想を述べる。
「私も三人と同意見です。これで問題ないかと」
「私も海未ちゃんと同じ意見だよ」
「私も」
海未、穂乃果、ことりの三人が続く。
「わ、私も皆さんと同じ意見です!」
「凛も!」
「まあいいんじゃなかしら。にこのカワイイシーンも使ってくれてるみたいだし〜」
小泉、星空、矢澤からも了承の意見が出た。
ってことは、ひとまずこれでオッケーってことだよな。
「──っああ! 疲れたー」
九人全員からOKが貰えた途端、疲れが一気に押し寄せてきた。たまらず、これまで我慢していたものを吐き出すかのように声を上げる。同時に縮まった筋肉を伸ばすかのように背伸びをして、そのまま後ろに倒れ込んだ。
すると、横に誰かの気配。
「お疲れ様。結構大変だった?」
寝そべった俺にねぎらいの声をかけてくれたのは、絢瀬だった。
絢瀬は俺の右隣に座り込み、覗き込んでくるような格好。それは必然的に俺の視界に絢瀬の顔がいっぱいに広がるということ。数日前に比べて、その表情は柔らかく、眉間に皺も寄っていない。きっと、色々な重圧から解放されて伸び伸びとしているからだろう。
「まあな。さすがに動画編集なんてやったことなかったから疲れたよ。エナジードリンクのお世話になったのは初めてだ」
「ふふっ、その割には結構乗り気で引き受けた覚えがあるんだけど」
「それはまあ、俺しか手空いている人いなかったし……」
絢瀬たちはオープンキャンパスに向けて練習があるんだから、必然的に俺しか手が空いている人はいない。『ローブ男』も倒したし、あれから怪獣が現れる気配もない。ウルトラマンとしての活躍がなければ、それなりに時間があるのが今の俺の生活だ。
「それにしても、希がカメラ持ってきたときは何事かと思ったわよ。これも一条の案?」
「まあな。せっかく九人になったわけだし、こういうPR動画みたいなのがあればいいと思ってさ。ナレーションも、俺がやるよりじーちゃんがやったほうがファンの嫉妬とかもないだろうし」
「ふーん、そう言った点も気をつけてるのね」
俺の返答は、どうやらアイドルに強いこだわりを持つ矢澤を納得させることができたようだ。
そう、さっき再生されていた動画は、俺が希に頼んで撮影してもらった動画に、じーちゃんのナレーションを付けたPR動画だ。メンバーが九人になったこと、そしていよいよオープンキャンパスが間近に迫っていることもあって、俺はひとつここでアクションを起こそうと思いついたのだ。
それが、九人の練習風景にナレーションを付けたPR動画。もともとメンバーが九人になった時点で、部活紹介動画を新たに制作しなくてはいけなかったらしく、そのついでにと頼んだのだ。
部活紹介動画と違って、こっちはネット上にアップするもの。当然、構成や演出などが必要になってくるが、それは元アイドルである父さんの力を借りることにした。
ナレーションの方も、俺がやるよりじーちゃんがやったほうがいい。音ノ木町でちょっと名が知れ渡っているじーちゃんの名前を使えば、いい宣伝効果になるだろうと考えてだ。
それに、俺がやったらきっと『誰だこいつは?』となって下手な火種になりかねない。スクールとついて入るが、『アイドル』としての立ち振る舞いを見習っておいて損はないだろう。
「いよいよだね」
ふと、穂乃果のそんな声が聞こえてきた。
見てみれば、真剣な表情でパソコンの画面を見つめている。
「オープンキャンパス、絶対に成功させよう!」
メンバーの顔を見て、力強く宣言する穂乃果。
それを受けて、全員の表情が切り替わる。
今週末に迫ったオープンキャンパス。音ノ木坂学院の魅力を伝える一大イベント。来場してくれた中学生にアンケートを取り、その結果次第で廃校かどうかが決定する。まさに『運命の日』と言ってもいい。
生半可なものでは、廃校を阻止することはできない。
だが、今はμ’sがいる。μ’sがライブをし、魅力を伝えることで音ノ木坂学院に興味を持ってもらい、廃校を阻止する。
穂乃果が掲げた、夢を実現するための大切な日。
きっと、この場にいる全員が同じ気持ちだろう。絶対に成功させる。それなみんなの目を見ればわかる。
「ふっ」
「あ、今りーくんなんで笑った?」
って、漏れた!? いやまあ、冷静に考えればこの静寂の張り詰めたような空気だからな。笑みをこぼしたら誰だって聞こえるか。
「いや、その……成長したなって」
「え?」
「ダンスも、歌も、なんの経験もないみんなが、その夢を叶えるあと一歩のところまで来たんだ。なんか、嬉しくなってさ」
始まりのところを見ている分、余計にそう感じるのだろう。
──そう、記憶を失くした俺が、初めて会ったあの日から。
☆★☆(一条リヒト)
俺が目覚めた時、そこはアメリカのとある病院だった。
白い天井と心配そうな表情と涙を浮かべた両親。
『よかった! リヒト! 気がついたのね!』
真っ先に母さんが声をあげたのを覚えている。
でも、その時の俺は目の前にいる人物も、そして自分が誰なのかもかわからなかった。
『……誰?』
その時の両親の顔を今でも鮮明に覚えている。
その後、日本に帰国した俺は自分の名前が『
なんでも、人の笑顔が大好きで、そのために色々と芸を身につけ、その中で一番ハマったのがダンスらしい。母親が元プロダンサーということもあってか、すぐに実力をつけていき、もっとレベルの高いところで学ぶべく、母さんの知り合いがいるアメリカに渡ったと。
そこで何かしらの事件に巻き込まれ、記憶喪失になった。
大きな事件、と言われたが、その実態を知る者はほとんどしなかったため、なぜ俺が記憶を失ったのかは未だ不明。
『sorry ライト、私も記憶が欠落しているみたい』
『キャスが気にすることじゃないよ』
『でも、何か……何かとても大きなことだった気がするの。とても大切で、私とライトにも……とっても、大切な……』
そう言って、『一条リヒト』がこの地で知り合った少女、キャスリン・ライアンは涙を浮かべて言葉に詰まってしまう。
彼女は俺が記憶を失った時に発見された場所と同じところにいた。『一条リヒト』とキャスリン・ライアンは、一緒に何かしらの事件に巻き込まれ、俺は全ての記憶を、そして彼女はその事件の記憶を失くしてしまった。
彼女もまた、失くした記憶を求めて今日も一日を過ごしているだろう。
日本に帰国した俺は、しばらく実家の喫茶店を手伝いながら記憶が戻らないか考えていた。
そして、いつからだろうか。
俺の夢に光と霧の影が出てくるようになった。二つの影は何度もぶつかり合い、まるで戦っているようだった。
その夢を見るようになってから、俺は何かに呼ばれているような気がして、この町にやってきたのだ。
穂乃果たちと再会して、そして、
その日の夜、ウルトラマンギンガと出会った。
『彼女たちの歩む道の先に「邪悪な魔の手」が待っているのだ』
その時見た光景は最悪だった。少し先の未来、穂乃果たちの夢が叶わず、音ノ木坂学院が廃校になるビジョン。
それを変えるためには、穂乃果たちの歩む道の先に待っている『邪悪な魔の手』を倒さなくてはいけない。
その時は、出現したダークガルベロスを倒すために成り行きでウルトラマンギンガと一体化したが、その後の戦いで、俺は決めたんだ。
何者かわからない、怪獣を暴れさせるやつのせいで、誰かの夢が壊されそうになっている。誰かの頑張りを踏み躙ろうとする奴がいる。それを阻止できる力が俺にあるなら、俺は戦う。
みんなの夢を守るために、ウルトラマンとして。
☆★☆(一条リヒト)
「ええ!? 絵里先輩もギンガさんを知ってるの!?」
「──はい?」
物思いにふけっていた俺の耳に聞こえてきた穂乃果の声。それが俺の意識を現実へと戻した。
って、え? いまギンガの名前が出てなかったか?
「え、ええ……いろいろあってね」
「それじゃあ、この場にいる全員がギンガさんのこと知ってるんだ」
「びっくりだにゃー」
「そのうち三人は、怪獣になった経験があることやし、みんなウルトラマンと怪獣には縁があるんやね」
「あまり嬉しくない縁ね……」
経験者の一人、西木野が希の方を見ながら言葉を返す。
まあ、ウルトラマンギンガに関わりがあるって言ったら、怪獣にされたか、もしくはその事件に巻き込まれたかの二択だからな。あんまり嬉しい縁じゃないに決まっている。
「待ってください穂乃果。私たちはギンガの姿をこの目で見たからわかりますが、リヒトさんは知らないはずでは?」
「ううん、りーくん知ってるよ。だって、りーくんから『ウルトラマンギンガ』って名前を聞いたんだもん」
そうなのですか? と海未から視線を向けられる。
「まあ、な」
「もしかしたら、私たちの中で一番詳しいんじゃない?」
「どうして?」
「パパがギンガについて訊いたら、『闇を打ち払う「光の戦士」、それが「ウルトラマンギンガ」』って答えたらしいの。まあ、知っているのはそれくらいっとも言ってたみたいだけど、どうやってそれを知ったのか気になるわね」
小泉の質問に答えつつも、視線を俺に向けてくる西木野。いささか棘が含まれているような言い方──というより、何かを確認したがっている雰囲気を感じた。
しかし、
「あんた、何言ってんの?」
矢澤が鼻を鳴らしながら言ってきた。
その瞬間、俺の直感に矢澤の次の言葉をさえぎれと走る。
「一条が──」
「あ! そーだ! 俺、みんながどうやってギンガのこと知ったのか気になるな」
発言を遮られた矢澤から抗議の視線が飛んできたが、希がすぐに対応する。きっと、ギンガの正体が俺であることを秘密にするように説得してくれてるのだろう。
なら、俺は俺でこのまま他のメンバーの気を引き続けるだけだ。
慌てるな、落ち着けー。ここで変に語尾が上がったりしたら怪しまれるかもしれない。矢澤の言葉を遮る形になったんだ、それを不審に思われる前に誰かに続けてもらわなくては。
「やっぱり一番最初に出会ったのは穂乃果か?」
「え、うん、ファーストライブの前だからそうじゃないかな」
「俺はその場にいたから知ってるけど、みんなに話したらどうだ? お前とウルトラマンギンガの初めての出会いをさ」
「うん……わかった」
よし、なんとか話をそらすことに成功したな。みんなの視線も穂乃果に向かってるし、ひと段落かな。
「私が、初めてギンガさんに出会ったのは──」