ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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あまり変わってないかもです……。



第四章:光の戦士

 [5]

 

 

 

 希に連れられ穂乃果がやってきたのは『榊家』だった。

 

「あの、希先輩」

 

「ほな、行くで」

 

 希は戸惑う穂乃果をよそに、榊家のインターフォンを押した。数秒後「はーい」と玄関の奥から声が聞こえ、引き戸が開けられ一条リヒトが出迎える。

 

「来たか」

 

「お邪魔するで」

 

 学校を出てすぐに希が連絡を入れていたため、リヒトは特に驚いた様子もなく二人を招く。用意されたスリッパに履き替え、二人は今朝朝食を食べた居間へと案内される。希と穂乃果は対面になるように座り、リヒトはキッチンへと行き二人のお茶を用意する。

 お盆にコップをのせ二人のもとへと差し出したリヒトは、希に「とりあえず、後で説明しろよ」と言って自室へと去って行く。

 希と穂乃果の二人だけが残され、希はのどを潤すためにお茶を飲み、穂乃果はなぜ自分が希先輩に呼ばれたのか戸惑いつつも、お茶を一口飲んだ。

 

「ほな、話そうか」

 

 先に切り出したのは希だった。

 

「穂乃果ちゃん、今日元気なさそうやけど、どうかしたん?」

 

「…………」

 

 希の問いを聞いた穂乃果はコップを両手で持ったまま、うつむいてしまう。

 

「流石に聞かれすぎて、呆れてもうた?」

 

「……いえ、その、確かに私も今日はなんだか元気でないなー、って思ってますけど、みんなに心配されるほどじゃ……」

 

 そう言う穂乃果だったが、語尾がだんだんと小さくなっていく。

 希は手に持ったコップをテーブルに置き、穂乃果を見ながら、

 

「せやな、穂乃果ちゃんだって人間やし女の子なんやから元気が出ない日だってあるもんな。せやけど、本当に大丈夫なん? 顔色、だんだん悪くなっとるよ。ライブまで残り少ないやろ?」

 

 希の問いに穂乃果がわずかに唇をかむ。

 

「そんな状態じゃ、見に来てくれる人を笑顔になんかできひんで」

 

 希の言葉が穂乃果の胸をえぐる。

 

「……わかってます……でも……」

 

「何か悩みがあるんなら、早めに言った方がいいで。その方がすっきり知る場合もあるんやし」

 

 優し笑みを浮かべ、穂乃果に語り掛けるように話す希。穂乃果はまるで何かに脅えている子犬のように希の顔を見てから、話し始める。

 

「……実は、昨日ちょっと怖い夢を見て」

 

「夢?」

 

「おかしいですよね? 高校生にもなって『怖い夢』に脅えるなんて。でも」

 

 穂乃果はその両手で自分の体を抱くようにし、

 

「ちょっと、リアルすぎたんです。まるで自分が本当に体験しているような感覚で、しかも昔体験したことに似ていて」

 

 よほど怖かったのか、両手で自分の肩をさすり始める。

 

「学校が壊れていて、私たちの頑張りが否定されて、一人ボッチになって、お父さんやお母さん、雪穂の名前を呼んでも、海未ちゃんやことりちゃんを呼んでも誰も来てくれなくて。……そしたら突然周りの景色が森になって、クラゲの化け物に襲われて……」

 

 その声に、嗚咽が混ざり始める。

 

「必死に逃げて、逃げて逃げて逃げて、結局『たすけて』って叫んだところで、どうにかなったんです。その部分は覚えていないんですが、とりあえず夢から覚めても体が震えてて、なんか怖くなって早めに家を出たんです。走れば忘れれるかなって」

 

 それで、穂乃果は一人先に神田明神に向かい必死に走っていたのだ。

 ──その恐怖を脱ぎ払うために。

 

「海未ちゃんとことりちゃんが来て、震えは止まったんですけど、まだどこか怖くて。それで、りーくんと話せば怖くなくなるかと思って起こしに行ったんです。希先輩が付いて来るって言ったときはびっくりしましたけど」

 

「そうやったんか。なんかごめんな、付いて行ってもうて」

 

「いいえ、大丈夫です。だってりーくんは寝てたんですから。穂乃果は怖い夢で起こされたのに、のんきに寝てるなんて―! ってちょっとカチンと来ちゃって。

 それで、あんなふうに乱暴に起こしちゃって……」

 

 希は、ふと朝の出来事を思い返してみると、確かに穂乃果はリヒトの体をゆすることはせずに、いきなり掛布団を引っ張ったのを思い出した。さすがの希もその容赦ない行動に驚いたのを覚えている。

 

「りーくんと話している時は、その『不安』は全く感じられなかったんですけど、部屋を出て居間に向かう途中に、変な声が聞こえたんです」

 

「変な声?」

 

「はい。なんというか、正確に言葉で聞こえてきたわけじゃないんです。頭の中に響いてくるような、ポーンっていう音が。最初は聞き間違いかな、と思ったんですけど、玄関のドアから見える光を見ていたら、だんだんと頭がぼー、としていって。

 ……気が付いたらりーくに抱き着かれていたんですけど」

 

 最後の部分だけは思い出しても恥ずかしかったのか、頬を赤くする穂乃果。

 希はそんな穂乃果を『初々しいな』と思いながら微笑んでいた。

 

「その後、りーくんと一緒にいたはずなのに『不安』が消えなくて。

 ……学校へ着いてからは、ぼーっとするたびにその『不安』が大きくなっていって、そしたらなんか、また、怖くなって……」

 

 再び震え始める穂乃果。希は立ち上がり穂乃果のもとへと移動する。

 

「大丈夫や」

 

 穂乃果を抱き寄せ、頭をなでる。

 

「もう、怖くなんかないよ」

 

 優しい声で、泣きじゃくる子供をあやすように頭をなでる。

 

「う、うぅぅ」

 

 穂乃果の嗚咽が次第に大きくなり始める。

 希は穂乃果の嗚咽が収まるまで、頭をなで続けた。

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 場所は変わって神田明神のとある一室。その部屋は数十本の蝋燭(ろうそく)の明かりのみで、それ以外にこの部屋を照らすものはない。本来、この部屋は外から入ってくる太陽の光のみが照らしており、元々明かりが少ない部屋なのである。また、この部屋自体もあまり使われない場所なので明かりをそんなに必要としないのだ。

 それもそのはず、この部屋は榊奉次郎が有する部屋なのである。

『榊奉次郎』はここでは少々特殊な立場にある。そのため、こういった特別な部屋を所有しており、主に奉次郎が一人でこの部屋を使っている。他人をこの部屋に招くのは、ごく稀な時である。

 そして現在、数十本の蝋燭と外からわずかに入ってくる夕日の光が照らすこの部屋に、計四人の人物がいた。

 まずは、この部屋の持ち主である榊奉次郎。いつもの狩衣姿に加え数珠を手に持ち、この部屋に置かれた仏壇の前に座り、言葉を紡いでいる。

 その後ろ、奉次郎の背中を見る形で正座をしているのは、ブレザーを脱いだ制服姿で両手を合わせ目をつぶっている高坂穂乃果だ。背筋を伸ばし、顔はやや下を向いている。

 そして後ろ、部屋の隅では二人の様子を固唾を飲んで見守る一条リヒトと東條希の姿があった。

 二人の目に映る光景は、どう見ても『お祓い』の光景であった。

 これは、今から数十分前穂乃果と希の会話が始まった頃、リヒトの元に奉次郎からの電話が来たのだ。こんな時間に? と思うリヒトだったが、電話に出て開口一番に、奉次郎は真剣な声音で『穂乃果ちゃんはどこじゃ?』と聞いてきた。

 そのリヒトが初めて(記憶喪失後)聞く奉次郎の真剣な声、そこには只ならぬ気がこもっており、リヒトは気圧されつつ奉次郎に答えた。

 その後、奉次郎は『神社に来い』とだけ告げ、電話を切った。リヒトは訳がわからなかったが、奉次郎から感じる只ならぬ気配に従い、リヒトは穂乃果たちの元へと向かった。

 神田明神へとたどり着いた三人を待っていたのは、険しい顔をした奉次郎。『来たようじゃな』というと、そのままこの部屋に案内され、最低限の注意事項の後、穂乃果のお祓いが行われた。

 リヒトはその光景を見つつ隣の希に小声で問う。

 

「なあ希、これ何なの?」

 

「お祓いやけど?」

 

「それは分かってる。なんで穂乃果がお祓いされてんのかってこと」

 

「たぶん、奉次郎さんにはわかってるんとちゃうんかな。今の穂乃果ちゃんにある()()の正体が」

 

「異変の正体?」

 

「見てればわかるよ」

 

 そう言われ、リヒトは視線を戻す。

 

「──────」

 

 部屋には奉次郎の言葉だけが響く。

 お祓いが始まって五分ぐらい経ったのだろうか? この部屋に時計はなく端末で確認できる空気でもないため、リヒトは『こんなことなら腕時計して来ればよかった』と場違いなことを考えていた。

 

 

 ──直後に変化があった。

 

 

「──!?」

 

 穂乃果の体が突然硬直し始めた。

 ビクンッ、と穂乃果の体が大きく跳ねる。

 

「あ、あぁぁ」

 

 穂乃果の口からか細い声が漏れる。

 

「穂乃果?」

 

 穂乃果の様子が変化したことに気が付いたリヒトは怪訝な声を上げる。

 そんなリヒトをよそに、穂乃果の様子はどんどん変わっていく。

 

「ああ、あぁぁ、ぁぁっ」

 

 上手く声が出せないのか、悲鳴に似た声がか細く漏れる。肩も上がっていき合わせていた手が移動し、自分の体を抱き始める。背筋が伸びていた姿勢も背中が丸まっていき、呼吸が荒くなり、傍から見てもおかしい、と思える変化が表れていた。

 

「穂乃果──」

 

 心配になったリヒトは穂乃果に近寄ろうと立ち上がりかけるが、横に座る希にパーカーの袖を掴まれ引き止められる。

 

「希?」

 

 希の方を見るリヒトだったが、希はただ無言で首を横に振るだけだった。その間にも穂乃果の様子はどんどんおかしくなっていく。奉次郎はその穂乃果に気付いていないのか、それとも気付いたうえで続けているのだろうか? リヒトは未だ片膝を着いた状態でいつでも駆け寄れる体制でいるが、再び希に袖を引っ張られ、希の方を向く。視線が『行っちゃダメ』と語っていた。その視線を受け、リヒトはその場に座り直す。

 

「今は我慢や」

 

 座りなおしたリヒトに希は言う。

 

「──────」

 

 奉次郎はさらに言葉を紡ぐ。

 そこでリヒトは気が付いた。奉次郎の前にある仏壇、そこには榊家に伝わる『御神体』が祀られており、赤い六角形の紋章が刻まれた木箱に入って置かれている。

 その木箱からわずかに『光』が漏れていた。

 

「え?」

 

 幻覚かと思い目をこするが、光は確かに漏れていた。奉次郎は瞳を閉じ言葉を紡いでいるため、その光に気付いた様子はない。希の方も光に気付いていないのか、その瞳は穂乃果の方へと向けられていた。

 

(あの光、俺にしか見えてないのか?)

 

 木箱よりもれる光は、次第にその量が増えていく。だが、二人が光に気付いた様子はない。

 そして────。

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 ──穂乃果の悲鳴と同時に、御神体の光があたりを包んだ。

 ──同時に、リヒトは()()()()()()()()()()()()()()を目撃した。

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 気付いたとき、穂乃果は林の中に立っていた。あたりには薄く霧が広がっており、空は雲に覆われていた。あたりを見回しても、空高く伸びる木々があるだけでそれ以外は何もない。

 

「あれ?」

 

 穂乃果はこの光景に見覚えがあった。

 

「ここって……」

 

 曇天に覆われた空、どこまで続く高い木々、薄く広がる霧、肌寒い風、それは今朝見た夢と同じ光景だった。

 

「いやだ」

 

 一体どうして自分はここにいるのだ? さっきまで神社でお祓いをしていたはずじゃないのか? 様々な疑問が浮かんでくるが、それを凌駕するほどに浮かんでくるのは──恐怖。

 穂乃果はその場から駆け出した。あのままあそこにいては危ない、きっと夢と同じように『クラゲも化け物』が追いかけてくるはずだ。

 恐怖から逃げるように、穂乃果は走り続けた。

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

「穂乃果ちゃん!」

 

 そう叫んだのは希だった。

 気づいた時には穂乃果は虚ろな瞳で部屋を出ており、ゆっくりと、何かに引き寄せられるように外へと向かって歩いていた。希は急いで立ち上がり穂乃果の後を追った。

 外に出た希を待っていたのは、驚愕の光景だった。自分たちがいた神社の建物と境内は存在した。だが、空の色、地面の色、その他の風景が変わっていた。

 夜空の上からオレンジ色がかったオーロラのような光に満ちており、どこか別空間を思わせる空となっていた。地面や周りの光景も、赤土色で青色に発光する物体があった。

 その光景はまるで神田明神を中心に、そこだけ別空間へと移動したような感じだった。

 そして、境内の上空には白い巨大なクラゲが浮かんでいた。

 

「なんや、……あれ……」

 

 不気味に浮遊する白い巨大なクラゲ。まるでテレビのCG合成のよう光景が目の前に広がり希は驚きと戸惑いの声を上げる。

 そして、まるでクラゲに引き寄せられるかのようにゆっくりと歩く穂乃果を見て、希は急いで駆け寄る。

 

「穂乃果ちゃん!」

 

 穂乃果の腕をつかむが、それを振りほどこうとしたり、こちらに振り返ったりなどの反応がない。

 

「そっち行ったらあかん!」

 

 希は穂乃果の腕を引っ張り、これ以上あのクラゲに近づかせないようにするが、穂乃果は止まらない。希がいくら引っ張っても前に歩き続ける。

 

(このままじゃ、穂乃果ちゃんが飲み込まれる! 何とかしなきゃ)

 

 希は穂乃果に抱き着くことで無理やりその歩みを止める。

 

「これ以上そっちに行くんやったら、その胸をワシワシするでぇ?」

 

 冗談の一つを言う。こうでもしなければ、焦る自分の心を落ち着かせることができなかった。希は頬を伝う汗を感じながら、現状を理解しようと頭をフル回転させる。

 

(大丈夫や、『光』はもう動いてる。私が時間を稼げばきっと『光』は来てくれる!!)

 

 希はその胸に秘める『一つの希望』を信じ、穂乃果を止める。

 だが、そうやすやすと時間をくれる相手ではなかった。

 クラゲは突如変異し、赤く不気味に光る瞳が特徴の、白い巨大な顔を浮かべる。

 ニヤリ、と三日月のように口を広げ笑う白い顔。その顔を見た希に戦慄が走る。

 

 

 ──白い顔の口から紫色の光弾が放たれた。

 

 

「っつ!?」

 

 それはまさしく『死の光』。

 持てる力を使い、その場に固まりそうになる体を奮い立たせ、穂乃果と共に横へ飛ぶ。

 光弾は先ほどまで希と穂乃果が立っていたところを襲い、爆炎を上げる。

 希は倒れた体を起こし次の攻撃に備えるが、穂乃果は未だ倒れたままだった。先ほどの衝撃で気を失ったのか、ぐったりとしたままの穂乃果。希は穂乃果に声をかけるが反応はない。

 

「くっ」

 

 悪態をつきつつ、穂乃果を起こす希。だが、すでに白い顔が間近に迫っており、二人を飲み込もうとその口を開ける。

 恐怖で体が固まり、その場から逃げれないことを察する希。

 

(ああ、ダメやった……)

 

 諦めかけたその時、

 

 

 ──チャリン

 

 

 鈴の音があたりに響く。その音が気になったのか、白い顔は赤い瞳を鈴の音がした方へ向けると、

 

 

「──はあっ!!」

 

 

 錫杖が白い顔を襲った。

 

『──────―!!』

 

 悲鳴を上げ、空に上がっていく白い顔。

 

「大丈夫か!?」

 

 白い顔を迎撃したのは、錫杖を手にした奉次郎だった。

 

「奉次郎さん……」

 

「大丈夫じゃ、時間稼ぎはワシに任せい。お主はこれを穂乃果ちゃんに」

 

 奉次郎の登場に少しだけ安心する希。そんな希へ奉次郎はペットボトルのキャップ程度の大きさをした赤い輝石を渡す。

 

「これは?」

 

「なあに、ちょっとしたお守りじゃ。しっかり穂乃果ちゃんに握らせておくんじゃ。そうすれば『光』が穂乃果ちゃんを救ってくれるぞい」

 

「え?」

 

「ワシだって知っとるんじゃよ。こ奴を倒す『光』がいることくらい。お主も『光』を待っとるのじゃろ? なら、そっちは頼んじゃぞい!」

 

 そう言って奉次郎は錫杖を構える。白い顔はその表情を怒りに染め、再びこちらに迫ってくる。迫りくる白い顔に向け、奉次郎は錫杖を操り迎撃する。

 白い顔は奉次郎を邪魔者だと判断し、狙いを希たちから奉次郎に変える。

 奉次郎もそれを感じたのか、錫杖を握る手に力が入る。

 

(さあて、ワシも年じゃからそう長くはもたんぞ)

 

 錫杖を構え、駆け出す。

 

(じゃから、頼んじゃぞ! ──リヒト!!)

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 光が収まり、顔を覆っていた腕を下ろすリヒト。

 

「なんだったんだ?」

 

 疑問の声を上げつつ、そこでリヒトは周りに人がいないことに気付いた。あたりを見回してみると、先ほどまで言葉を紡いでいた奉次郎の姿も、悲鳴を上げ体を震わせていた穂乃果も、リヒトの横に座り固唾を飲んで先ほどの光景を見ていた希も、リヒト以外全員がいなくなっていた。

 

「おい、希! 穂乃果! じーちゃん!」

 

 名前を呼んでも、返事は帰ってこなかった。そもそもこの部屋はそんなに大きくない、三人が一斉にかくれんぼでも始めたのか? と場違いにも程がある考えを抱きつつ、リヒトは立ち上がる。

 

「どこ行ったんだよ」

 

 とりあえずはこの部屋を出ようと思い、出入り口の方へ向かいその戸に手を掛けた瞬間──。

 

 

『──―』

 

 

「え?」

 

 誰かが、自分の名前を呼んだ。

 しかしそれは実際に聞こえたわけではなく、頭に響くように、まるで頭に直接語りかけているかのように聞こえた。戸を開けるのを止め後ろに振り替えるリヒト。だが、どれだけ見渡しても人の気配がなければ何もない。火を灯す蝋燭と中央に立つ仏壇のみ。

 気のせいか? と首をひねり、その部屋を出ようと再び途に手を掛けようとしたところで。

 

 

『──―』

 

 

 また、呼ぶ声がした。

 

「誰だ? 俺を呼ぶのは」

 

 振り返り声を発するリヒトだったが、答える声はない。

 だが、先ほどより強く『声』はリヒトの頭の中に響いていた。

 その時リヒトは、この部屋の中央に置かれた仏壇──、そこに置かれた木箱から光が漏れているのを再確認した。やはり木箱からは光が漏れている。

 そしてリヒトがその光へと注意を向けたとたん、

 

 

『リヒト』

 

 

 明確に自分を呼ぶ声が聞こえた。

 そしてその声は、リヒトが()()()()()()()()()()()

 

「ギンガ……?」

 

 リヒトはその声の主らしき人物の名を呼ぶ。

 木箱からは光が漏れている。

 リヒトは自然とその足を仏壇の方へと向け、歩き出していた。ゆっくりと、だがその足取りとは対照にリヒトの鼓動は早くなっていった。それは、緊張から来るものか、それとも再会から来る喜びか──。

 

 

 リヒトは木箱を開け、その中にある銀色の探検のようなもの──御神体を掴んだ。

 

 

 御神体からあふれる光が再びリヒトを包む。

 

 

 リヒトが訪れたのは光の空間。

 昨晩夢で見た空間とは違い、白い光があたり一面に広がる空間だった。

 そして、リヒトの前に二人の光の巨人がいた。

 その姿は眩い光によって隠されているためわからないが、片方の巨人は銀色に輝くボディに胸には特徴的な赤いY字型があるのが確認できる。銀色の巨人は自分を見上げるリヒトに一つだけ頷くだけだった。だが、リヒトはその頷きに『エール』が込められていることを読み取り、頷き返す。

 

 

『ギンガスパークを手にするものよ』

 

 

 声は、銀色の巨人の隣に立つ光から聞こえた。

 ぼんやりと、胸のプロテクターに黄色の二本線、赤と紫の色が見える光の巨人。

 

 

『この世界の未来に「光」を、頼んだぞ』

 

 

 光の巨人声に頷くリヒト。

 二人の巨人はリヒトの頷きを見届けると姿を消した。

 

 

『リヒト』

 

 

 今度は後ろから声が聞こえ振り返る。そこにいたのは──。

 

「ギンガ」

 

 昨晩夢の中で出会った光の巨人『ウルトラマンギンガ』だった。しかし今回は、前回と違いリヒトと同じくらいの背丈で目の前にいるため、少し新鮮さを感じるリヒト。

 

「あれは、夢じゃなかったんだな」

 

『すまない、まだ君と完全に接触できる状態じゃなかったため、あのような形になってしまった』

 

「べつにいいさ、それは気にしてない。それより、あれが夢じゃなかったってことは──」

 

『ああ、君の知る少女たちの背後に「邪悪な魔の手」が迫っているのも本当だ。すでに高坂穂乃果は敵の「闇」に取り憑かれてしまっている』

 

 ギンガの言葉に表情を険しくするリヒト。

 

「じゃあ、もしかして穂乃果の様子が変だったのも」

 

『ああ、「邪悪な魔の手」の仕業だろう』

 

 ギンガはそう言って顔を横に動かす。リヒトもつられ顔を横に向けると、そこには白い顔と戦いながら穂乃果と希を守る奉次郎の姿が映し出された。

 

「じいちゃん!?」

 

 映し出された映像で戦う奉次郎は、受け身の戦い方で戦っていた。向こうが攻めてきたのならばこちらは攻撃の手に出る。逆に向こうが攻撃してこなければ、こっちはあくまで戦う姿勢を見せ、絶対に穂乃果たちの方へ向かわせないようにしている。

 だが、それが持つのも時間の問題だ。奉次郎だっていくら鍛えた体をしていても、御年六八歳。すでに疲労の色が見え始めており息も上がっている。このまま続けば、おそらく先に倒れるのは奉次郎の方だろう。希も意識がないのかぐったりとした穂乃果を掛けているため、無理に動くことはできなかった。

 

『すでに敵との戦いは始まっている』

 

 ギンガの声に反応するリヒト。

 

『リヒト、準備はいいか?』

 

 ギンガの問いに、リヒトは「ああ」とその瞳に強い意思を込め答える。

 迷う必要はなかった。

 

 ──覚悟など、すでに決まっている。

 

 ──例え記憶が無くでも、穂乃果たちの悲しむ姿は見たくない。あんな未来を穂乃果たちに迎えてほしくない。

 

 ──あの未来が穂乃果たちのもとに訪れる未来だというのなら、俺が変えてやる。 

 

 ── ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──そして何より、穂乃果達の『夢』を、あんなふざけた奴に壊されてたまるか! 

 

「ギンガ」

 

 リヒトはその強い意思のこもった瞳で、

 

「俺に力を貸してくれ」

 

 ギンガを見る。

 

「俺に、あいつらの未来を守る力を!」

 

 リヒトはギンガに手を伸ばした。

 ギンガは頷き、光となってリヒトを包み込んだ。

 

 

 ──リヒトの右手に持つ御神体──ギンガスパークが展開され、眩い光が解き放たれた。

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 高坂穂乃果は走っていた。その森から漂う恐怖から逃げるために。

 風景は依然と空高く伸びる木々だけが広がっており、どれぐらい走ったのかわからない。

 

「あっ!?」

 

 足がもつれてしまい倒れてしまう。

 

「はぁ、はぁ、……もう、無理」

 

 すでに体力は限界を迎えており、変わらない風景と終わりの見えない森に体力だけでなく精神的にも疲弊していた。

 森には穂乃果以外の人の気配はなく、鳥もいないのか静寂の世界と化していた。冷たい風が穂乃果の肌をなで、より一層孤独感を与える。

 なぜかわからないが、その孤独感から穂乃果の意識が遠のいていく。瞼は重くなっていき、体の感覚がなくなっていく。このままこの感覚に身をゆだね、眠ってしまおうか──。

 そう思う穂乃果は、なぜか昔のことを思い出していた。

 幼い頃お店の手伝いをしていたとき、自分のうっかりミスでお客さんに迷惑をかけてしまい、母親に怒られた時があった。疲れがたまっていたのか、その時の母はいつも以上に穂乃果を叱り、つい『どうしてそんなにおっちょこちょいなの。もっとしっかりして』と言ってしまった。本人も言うつもりではなかったのだろう、直後にハッとした表情になるが、すでに時遅し。その言葉は当時自分のおっちょこちょいなところを気にしていた穂乃果の心に突き刺さり、家を飛び出してしまった。

 気にしていたことを突かれ、涙ながらに走る穂乃果。無我夢中で走っていたため、自分がどこまで来たのかわからなくなってしまい、迷子になった。

 その時も今と同じように親や、海未とことり、そしてリヒトの名を呼びながら走っていたが、襲い来る孤独感についに走るのをやめてしまった。

 

(……そういえば、たしかあの時──)

 

 そこまで思い出していた時、ふと何か暖かい光を感じた。

 顔を上げてみると、そこには宙に浮かぶ赤い光があった。

 

「え? なに?」

 

 光はただ浮いているだけで特に何もしようとはしない。だが、穂乃果の中でその赤いり光とあの時見た赤い夕陽が重なった。

 穂乃果はゆっくり右手を上げ、伸ばす。何かを掴もうと──。

 光は逃げる様子を見せず、むしろ穂乃果の手を待っていた。

 

(そういえば、あの時もこうやって手を伸ばしたんだ)

 

 今の穂乃果に、夕日に手を伸ばす幼い穂乃果の影が重なる。

 そして、言葉を紡ぐ。

 

 

「『──たすけて』」

 

 

 声を張ったわけではない。呟くように放たれた言葉。むろん、この空間いるのは赤い光と穂乃果だけ。それ以外は人間どころか動物の気配すらもない。

 そのはずなのに──、赤い光に触れたとたん──。

 

 

「『穂乃果!!』」

 

 

 ──声と共に、赤い光が穂乃果を包み、森の空間を吹き飛ばした。

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

「気が付いたみたいやね」

 

「……希先輩?」

 

 瞼を開け最初に目に入ってきたのは、東條希の顔だった。

 あれ? とぼんやりとした頭で穂乃果は現状を理解しようとする。さっきまで自分はあのへんな森にいたのでなかったか? それともあれは夢で、今まで自分は寝てたのではないか? でもそれなら自分がいるのはあのお祓い部屋のはず……。そこで穂乃果は自分が右手に赤く光る輝石を持っていることに気が付く。なんだこれは? と思ったが、その光を見ていると自然と安心する。不思議な光だった。

 そして穂乃果は意識がはっきりとし、自分が仰向けに倒れているのだと理解する。だが、後頭部感じる感覚は地面のそれではなく、何か柔らかいもの。

 視界で捉えたのは、オレンジ色のオーロラがかった空、安堵の表情を浮かべる希。

 穂乃果は希に膝枕をされているのだと理解した。気恥ずかしくなって起き上がろうとしたところを、希に止められる。

 

「今は寝とき。無理に起きなくてもええんやよ」

 

「でも」

 

「大丈夫や。──もう()は来てくれたから」

 

 そう言って正面に顔を向ける希。穂乃果も首を動かし横を見て──目を見開く。

 そこには──

 

 

 ──輝かしい光を放ちながら、左手を伸ばし白い顔の動きを封じている光の巨人がいた。

 

 

 光の巨人──ウルトラマンギンガは右腕を引き絞り、白い顔を殴り飛ばす。

 

『──!! !? !!』

 

 悲鳴を上げ吹き飛んでいく白い影。

 ギンガはゆっくりと首だけを動かし、穂乃果たちを見る。

 そして、ゆっくりと頷いた。『もう大丈夫だ』、まるでそう言っているみたいだった。

 

「間に合ったようじゃな」

 

 肩で息をしている奉次郎も、ギンガの登場に安心した声を漏らす。こちらもすでに体力は限界を迎えており、あと数分ギンガの登場が遅ければ、確実に負けていた。

 

「……あれは……」

 

「ウルトラマン」

 

 穂乃果のつぶやきに希が答える。

 

「……ウルトラマン?」

 

「そうや。『闇』を打ち払う、『光』の戦士。それが『ウルトラマン』」

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 ギンガの中、光の空間(インナースペース)に立つリヒトは穂乃果の意識が戻ったことを確認し安心する。

 そして意識を変え、吹き飛ばした敵を見る。

 白い顔はギンガの登場に驚きはしたものの、すぐに体勢を立て直し──実体化する。その姿はおぞましく、通常の頭部に加え、腹部にも先ほどの白い顔が備わっており、不気味さが際立っていた。

 その名は『サイコメザードⅡ』。

 

『よう、よくも穂乃果に、怖い思いをさせてくれたな』

 

 挑発気味に言うリヒト。

 

『たっぷり礼をさせてもらうぜ!』

 

 ギンガスパークを構え叫ぶリヒト。

 サイコメザードⅡにリヒトの声が聞こえたのか、聞こえていないのかは定かではない。だが、声をあげ戦闘態勢を見せる限り、闘志は伝わったようだ。

 サイコメザードⅡは吠え、両腕から青白い電撃波を放つ。

 避ければその電撃は穂乃果たちを襲い、避けなければダメージとなってギンガを襲う。ニヤリと腹部の顔があざ笑う。

 だが、ギンガのとった行動はシンプルかつ簡単な行動だった。避けるのがダメ、食らうのもダメ、ならば、防げばいい。

 右手を伸ばし展開したバリアであさりと電撃波を防ぐギンガ。

 驚きに顔を歪めるサイコメザードⅡ。

 そしてギンガ──リヒトは何も恐れることなく駆け出す。

 大きく振り抜かれた拳はサイコメザードの頭部を揺らし、続けて左の拳が振り上げられ顎を撃ち抜く。

 後ろの大きくのけぞるサイコメザード。

 ギンガは後ろへ大きく引いた拳を、腹部の顔にめがけて突き出す。

 ギンガの腕が突き刺さり腹部の顔が大きく沈む。サイコメザードの体自体もくの字に曲がり、後ろによろめく。

 ギンガの追撃は終わらない。

 距離は開いたが、埋める必要はない。振り抜かれた足は的確にサイコメザードの頭部を捉えていき、頭部を掴まれ身動きが出来なくなったところに、何度も拳が叩き込まれる。

 サイコメザードは頭部を揺らしてギンガの腕から逃れる。反撃のために腕を振り下ろすが、簡単に受け止められ再び頭を掴まれ巴投げの要領で投げ飛ばされる。

 投げ飛ばされたサイコメザードⅡは地面を滑り、悲鳴を上げる。

 リヒトは昨晩ダークガルベロスと戦った時とは比べ物にならないほどのパワーを感じていた。内からあふれる力、そして()からも何かしらの恩恵を受けているのか、すさまじいパワーを感じる。今のリヒトに──ギンガに負ける気など全然しない。

 立ち上がったサイコメザードⅡより放たれる電撃、今度はバリアなど張らず両腕を使い弾きながら突撃する。だが、サイコメザードⅡはギンガが近づくのを待っていた。距離が近づいたところを頭部による攻撃が襲う。だが、その一歩手前で止まったギンガは、空振りされた頭部めがけて回し蹴りを放つ。カウンターの一撃を受けたサイコメザードは悲鳴を上げる。

 そして腹部の顔に向け強烈な右ストレートを放ち、後ろへ転がるサイコメザードⅡ。

 立ち上がる力は残っているが、その足取りはおぼつかない。

 勝負はついた。そうリヒトが思った矢先、

 サイコメザードⅡは無差別に電撃を放ち始める。その電撃波ギンガを襲うが、直接襲うわけではなく、足元や真横に被弾し火花を散らす。その衝撃にわずかに怯むギンガ。 

 そしてその電撃の一部が、穂乃果たちを襲う。

 

『しまった!』

 

 リヒトが気付いた時は、もう間に合うところではなかった。

 危機を察した奉次郎は錫杖を構え防御態勢に入るが、そんなもので防ぎきれるほど甘い攻撃ではない。

 その電撃が穂乃果たちにあたる瞬間、()()()が穂乃果たちを覆い、電撃から守った。

 

「諦めないよ」

 

 その光の中から穂乃果の声が聞こえた。

 

「私は諦めない」

 

 そして、赤い光は輝きを増し穂乃果の思いを乗せサイコメザードⅡを吹き飛ばした。

 負けを察したサイコメザードⅡはクラゲ上に変化し逃げようとする。

 

『逃がすか!』

 

 ギンガは両腕を胸の前でクロスする。クリスタルが黄色に輝き上空へと伸ばした左腕から黄色い電撃が収縮されていく。

 放たれる電撃技──『ギンガサンダーボルト』がクラゲ状態のサイコメザードⅡを襲う。荒れ狂う電撃の渦を受け、爆炎を上げ落下するサイコメザードⅡ。クラゲ上である故か、完全に倒すことはできなかったが、爆炎の中から実体化として姿を現す。だが、すでに満身創痍の状態だ。

 次の攻撃を避けるためギンガの動きを見るが、すでにそこにギンガの姿はなかった。

 気配を感じたのは──上空。

 すでに、下腹部でクロスした腕を胸部へと持っていき赤くクリスタルを光らせ腕を引くギンガの姿がそこにはあった。

 ──これで終わりだ。

 放たれる無数の火炎弾『ギンガファイヤーボール』がサイコメザードⅡを打ち抜き──。

 

 

 ──ギンガが地へと着陸するのと同時に、その背後で爆発した。

 

 

 片膝状態からゆっくりと立ち上がるギンガ。穂乃果たちの方を向き、再び頷いて、空へと飛び去って行った。

 

 

 

 残された穂乃果たち。

 去って行くギンガを見て、奉次郎は呟いた。

 

「──新たな『伝説』の幕開けじゃな」

 




第五章へ続きます……。
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