[Record of 高坂穂乃果]
「私が初めてギンガさんに出会ったのは、りーくんと再会した次の日。希先輩に誘われて、奉次郎さんにお祓いをしてもらった時だよ」
「……! あの日ですか?」
「え、海未ちゃん知ってるの?」
「リヒトさんと再会した次の日というと、穂乃果の様子が変だった日なので覚えているんです」
「あの日の穂乃果ちゃん、いつもと違って全然元気がなかったもんね」
ふたりともあの日のこと覚えてるんだ……。それだけ心配をかけたってことだよね。
ことりちゃんの言う通り、あの日の私は、いつもと比べて全然元気がなかった。自分でも自覚できるほどに。何をやろうとしても、いつもなら感じない『不安』を大きく感じちゃって、全然できない。エネルギーが湧いてこなかったんだ。
理由は、寝ている時に見た怖い夢のせい。
学校が壊されちゃって、私たちの頑張りが否定されちゃって、暗い森でひとりぼっちになって、どれだけ叫んでも、誰も来てくれない。そして景色が変わって、クラゲのお化けに襲われる怖い夢。
「えへへ、怖い夢を見たくらいでああなっちゃうなんて、笑っちゃうよね……でも、本当に怖かったんだ。まるで本当に体験しているみたいで……」
私が子供の頃に経験したことと似ていたことが、より怖く感じた理由かもしれない。
あれはまだ、小学生になる前だったかな。お母さんに言われたことが辛くて、家を飛び出しちゃったことがあるの。泣きながら、無我夢中に走って、気づいたら全然知らない場所にいたの。帰り方もわからなくて、独りぼっちでずっと泣いていたの。
夢でも、同じ体験をした。
「それでね、希先輩にこのことを話したら、奉次郎さんのところに案内されて、お祓いをしてもらったの」
「お祓い、ですか……」
お祓いと聞いたらあまりイメージが湧かないのか、花陽ちゃんが少し震えた声を返す。
「うん。蝋燭だけで照らされた部屋でね、私はこうやって正座して、手を合わせて目を瞑るの。そしたら、奉次郎さんがお経……じゃなくて、なんかこう……呪文みたいなのを唱えて……」
「呪文って、そこはお経じゃないんですか?」
真姫ちゃん、そうは言うけどあれは呪文だって。お経とはまた別物だったよ……。何を言っているのかさっぱりなんだもん。
「とにかく、奉次郎さんが何か言い始めたら意識がぼーっとし始めて、気づいたら暗い森の中を一生懸命走ってて、今度は気づいたら希先輩に介護されてて、もうわけわかんなくなったけど、希先輩が見た方を向いたら、ギンガさんがいたんだ」
「……急に雑になりましたね」
「だって〜、これ以外になんて説明すればいいの? 頭がいい海未ちゃんなら上手かもしれないけど、私にはこれが限界だよ……そうだ! りーくんと希先輩は一緒にいましたよね? 私の説明で大体合ってますよね?」
希先輩はうーんと、人差し指を顎に当てて、
「そうやね……概ねあっとるよ。奉次郎さんのお祓いで、穂乃果ちゃんに取り憑いてた悪ーいお化けが怪獣になって、今にもこっちを襲ってきそうな時に、ウルトラマンギンガが駆けつけたんや」
「そうだよ! 白い顔をしたお化けを、ギンガさんがこう手で押し留めてて、弾き飛ばしたらものすっごい怖い怪獣になったの! それでね! ギンガさん怪獣の攻撃をバリアで防いだり弾いたりして、ものすっごく強くて、すぐに倒したやったんだよ!」
あの時のギンガさんはまさに無敵! って感じだったんだよ。強い人から感じるバリバリのオーラを放ちながら、圧倒的な強者の風格で怪獣を倒しちゃったんだから。
必殺技を放つときも、全身のクリスタルが黄色と赤色に変わって綺麗だったな〜。
「ホント、ざっくりだな」
「りーくんまでそういうこと言う?」
「まあ、この話は俺も実際にその場にいたから知ってるけど、希の言う通り概ね合ってるんだよ。気になるのは、穂乃果がいつその悪いお化けに取り憑かれたかなんだよな。身に覚えとかねえの?」
「うーん、ないかな」
そもそもお化けにどうやったら取り憑かれるんだろ? 夜中にお墓に行くとか、心霊スポットに行くとかかな? でも、そんなところ行った覚えないし……。
むぅ、と私が頭を悩ませていると、海未ちゃんが伏し目がちに言う。
「私たちの知らない間に、そんなことを体験していたのですね」
「だから、あの時の穂乃果ちゃん少し頼もしく見えたんだ」
どこか納得したような様子のことりちゃんに向けて、私は「あの時?」と訊いた。
「ファーストライブの日だよ。ギンガさんがケルベロスみたいな怪獣と戦ったあの日」
「あー! そっかあの日! ことりちゃんと海未ちゃんが初めてギンガさんを見た日だ!」
「そうですね、私とことりはあの日初めてウルトラマンギンガと出会ったんです」
[Record of 園田海未]
私が初めてウルトラマンギンガを目にしたのは、ファーストライブの日です。きっと、ことりも一緒でしょう。
あの日、講堂の裏で衣装に着替え終えた私たちでしたが、そこへ誰かがやってきたのです。ノックされた扉を穂乃果が開けた時、そこにいたのはクラゲのような怪獣でした。
あの時の恐怖は今でもはっきり覚えてします。
最初は夢かと思いました。
しかし、肌で感じる恐怖が、とてもリアルだったのです。
私はふたりの手を握って急いでその場から逃げ出しました。途中、ふたりを守るために道場から竹刀を一つお借りし、神出鬼没な怪獣から逃げましたが、結局三体の怪獣に追い込まれてしまったのです。
「私、あの時すごく怖かった。もう死んじゃうのかなって何度も思ったんだ。でも、その度に穂乃果ちゃんが励ましてくれて、すごく頼もしかったよ。海未ちゃんも、守ってくれてありがとうね」
「やめてください。私なんて大したことしてませんよ。助けてくれたのはウルトラマンギンガなんですから」
それにしても、あの時聞こえた『諦めるな』と言う声はいったい誰だったのでしょう……。
その後、私たちの目の前で繰り広げられたのは、三つの頭を持つ暗い青色の怪獣とウルトラマンギンガの戦い。先程の穂乃果の話では、あっという間に怪獣を倒したとのことでしたが、今回は違いました。敵が強かったのか、ウルトラマンギンガは怪獣相手に苦戦を強いられました。
二体に分裂し、私から見ても強力だとわかる火炎弾でギンガを苦しめたのです。
分裂、いいえ、あれは幻影でしょうか。実態はなく、影のようにその場にいるだけで、翻弄してくる怪獣。その攻撃によって劣勢になったギンガは、怪獣の攻撃を受け続けダウンしてしまいました。
「そ、それからどうやって逆転したんですか?」
「それはね! 私たちの活躍があったんだよ!」
花陽の質問に答えたのは、私はではなく穂乃果でした。
……あの、今話しているのは私なのですが?
「海未ちゃん、『あれ』出して」
「『あれ』ですか?」
うんと頷いて、穂乃果はポケットから赤い輝石を取り出し、みんなに見えるようにテーブルの上におきました。
穂乃果が置いてしまっては、私も置くしかありません。続くように私は取り出したY字型のオレンジ色に透き通る宝石をテーブルに置きました。
「なに、これ」
にこ先輩がもっともな疑問を口にしました。
「わかりません」
「いや、自信満々に出しといてわかりませんって、あんたね……」
「すみません、穂乃果の言う通りなんです。これが具体的になんなのか私たちにはわかりません。穂乃果は怪獣に襲われたあの日に、気づいたら手に持っていたみたいなんです。私は父からお守りにと手渡されました」
呆れた様子を見せるにこ先輩は、私の説明を聞くと余計に眉間に皺を寄せました。
ですが、私たちもこれ以上の返答ができません。今わかっているのは、赤い輝石は穂乃果の強い想いに反応して力を発揮すること。そして私が持つ宝石は、穂乃果の輝石の力を譲り受けることで、その力を矢として放つことができるということだけです。
この力を使って、私たちは援護ができたのです。
「海未ちゃんは弓道部やから、それはもう見事な援護やったで」
「ですが、それだけですぐに逆転できたわけではありません。ウルトラマンが逆転できたのは、間違いなくことりの力が大きかったです」
「えっ? そんなことないよ」
「ううん、ことりちゃんのおかげだって!」
「穂乃果ちゃんまで……」
ことりは否定しますが、間違いなくあの戦いはことりのおかげで勝利できました。
ことりが、あの怪獣の幻影を見破ることができたのですから。
「幻影を見破るなんて、すごすぎるにゃー……ことり先輩本当に人間?」
「星空それは言い過ぎだろ」
「ことりは昔から空間把握能力と動体視力に優れてましたからね」
「も、もうーこれ以上褒めないで!」
恥ずかしがることりですが、あなたが幻影を見破ったからこそ、ウルトラマンの必殺の一撃は本物の怪獣を捉えることができたのです。そこは誇っていいはずですよ。
[一条リヒト]
うん、あの時はまじでことりに助けられた。
もちろん、三人だけじゃない。穂乃果たちは知らないけど、あの時、もうひとり勝利に貢献した人物がいる。
それは、希の中にいるもうひとつの魂。
希とそっくりな姿をした少女。
名前は『のんちゃん』。『ティガ伝説』の時代に生きていた少女で、『イージスの力』から治癒能力を授かっている。その力でダークガルベロスに噛まれた左腕を治癒してくれたんだ。そのおかげで、俺はギンガが持つ最大の必殺技、『ギンガクロスシュート』を放つことができたんだ。
ちなみに、『のんちゃん』がなぜ、希の中にいるのかはわからない。ひとつの体にふたつの魂があるのは、本来であればありえないこと。それによって幼い頃は『見えてはいけないもの』が見えてしまったりしたらしいのだが、今はじーちゃんのおかげで共存できているようだ。
「待って、もしかしてあなたたち、その後にあのライブをやったの?」
「ええ、そうなりますね」
「……よく、できたわね」
確かに、絢瀬の言う通りかもしれない。穂乃果たちはあのあと、ファーストライブを行った。
冷静に考えれば、怪獣とウルトラマンの戦いに巻き込まれた後にライブをするなんて、体力はまだしも精神力が相当削られていたはずなのに。
「さすがになにもなかったわけではありませんよ。三人とも、家に帰ったらすぐ眠ってしまったようなので」
「うんうん、気づいたら眠ってたよね」
「私も、目の疲れがひどかったよ」
……だよな。ウルトラマンと怪獣の戦いに巻き込まれたんだ。体力も精神力も、相当削られただろう。そんな中、三人はファーストライブを成功させた。
すげえよ、三人とも。
「……お疲れ、ありがとう」
「リヒトさん今何か言いました?」
「なんでもねえよ。それじゃあ、次は誰の──」
と言って、残りのメンバーに視線を向けたところで、俺は思った。
残りのメンバーって、希と星空を除けば、全員怪獣にダークライブしたメンバーじゃん! これ絶対話しにくメンバーだよな……。
「そうね、順番的に私じゃないかしら」
しかし、俺の思いとは裏腹に、西木野が自ら名乗り出るのだった。