[Record of 西木野真姫]
私が名乗り出た時、リヒトさんは驚いた様子だった。
「いいの? 真姫ちゃん怪獣になっちゃったんだよね? 無理して話さなくても」
「別に無理なんかしてないです」
高坂先輩の言う通り、私は怪獣になった。だから正直なことを言うと、語れることなんて少ない。
だって覚えていないんだもの。自分がどうやって怪獣になったのか。そもそもなんで怪獣になったのかさえわからない。
「話しておいて損はないと思います。それに、私自身どうやって怪獣になったのか、どうして怪獣になったのか、覚えていないの。話せば何か思い出すかも入れないでしょ」
そうして私は、語り始める。
自分が怪獣になってしまった、あの日の出来事を。
☆★☆★☆★
あの時の私は、先輩たちのライブに影響されて、ピアノに向かう時間が増えていった。そのせいか『夢』について悩むようになって、勝手に苦しんでいたの。
音楽の道と医者の道。
医者の娘である私は、継ぐために医者の勉強をしなくてはいけない。それに、音楽の道はある出来事から完全に諦めたつもりだったから。
でも、ピアノに向き合う時間が増えていくにつれて、どうしても音楽の道が頭を横切るの。諦めたはずの、選択肢から消したはずの道。
たぶん、そこを漬け込まれたのでしょうね。
頭の中にね、声が聞こえてきたの。
『簡単だよ、すべて君のお父さんが悪い』
私がこんなにも苦しむのはパパのせい。
パパは元から、私に音楽の道を諦めさせるつもりだった。
……そんな口車に、私はまんまと載ってしまったのね。
頭がぼーっとして、まるで風邪を引いたような感じだった。頭の中に聞こえてくる声に身を委ねれば楽になれる、もう迷う必要も、苦しむ必要もなくなる。
気づいた時、誰かがそばに居て語りかけてくの。こうすればいいよって、次はこうしようって。その言葉通りにすると、とても気持ちが良かった。楽しくて、気分が高揚した。
自分がどれだけ酷いことをしても、まったくわからなかったの。
「一種のトランス状態になるわけか」
リヒトさんの言う通り、トランス状態に近かったわ。周りなんて見えない、誰かの声にしたがって行動するだけ。
だから正直、ここら辺からのことをあまり覚えていないの。自分がどうなってたかわからないんだもの。
「それじゃあ、その時にはもう怪獣になってたってこと?」
高坂先輩の質問に、私は「たぶんね」と言って頷く。
「では、頭の中に声が聞こえた時、怪獣になると言うことでしょうか」
園田先輩が、私の話を聞いて一つの推測を述べる。
「かよちんはどうだったの? 怪獣になった時のこと、覚えてる?」
「ううん。真姫ちゃんと同じ。怪獣にどうやってなったのか、覚えていないの。ユーカさんと話していたところまでは覚えているんだけど」
「花陽、そのユーカさんとはどなたですか?」
「…………」
「花陽?」
「……ユーカさんは……私を、怪獣にした人」
「え──」
[Record of 小泉花陽]
ユーカさんと出会ったのは、真姫ちゃんに生徒手帳を届けに行った日。道を教えてくれないかって頼まれたのがきっかけ。
最初は怖かったけど、話していくうちにいい人だとわかったの。同じアイドルのことが好きだったら、話も盛り上がって、一緒にCDも買ったの。
とても話しやすくて、全然悪い人には見えなかった。
けど、
『ホント、「夢」なんて目指してもろくなことにならないわよ』
そのひと言を呟いた途端、ユーカさんの雰囲気が一変した。
『叶いもしない夢を持つのは無駄、でもそれ以上に、できないことを夢にするのはもっと無駄なことなの。花陽ちゃん、厳しいことを言うけど、出来ないのならやらない方がいいわ』
どうして、そんなことを言うのか、その時はわからなかった。
でも、今ならわかる気がする。ユーカさんは、きっと私の心を降りたかったのだと思う。私のアイドルに対する思いを諦めさせて、怪獣にする。そう言う考えだったと思うの。
だって、私はその時、
──ダメだなっておもちゃったから。
そこからの記憶はない。
体がふわふわして、ずっと自分の心の弱さを責め続けた。
『──どうして、私は弱いの』
そんなことをずっと考えてた。
弱いのが許せなくて、『強い心』があれば、スクールアイドルにもなれるって思ってた。
たぶん、私もこの時は怪獣になってたんだろうね。
☆★☆★☆★
「…………」
小泉が話し終えると、沈黙が訪れた。
まあ、そうだよな。自分の大好きなものと共感できる人に出会ったのに、その人は自分を怪獣にさせるために嘘をついていた。小泉がどこまで意識があったのかはわからないが、怪獣にダークライブさせられた小泉は、あのまま『大いなる闇』復活のために生贄にされそうになったんだ。あまり思い出したくない記憶だろう。
そんな中、海未が口を開く。
「そのユーカさんという方が真姫たちを怪獣にした人なのですか?」
「私はユーカって人とは会ってないわ」
海未の言葉を西木野は否定する。
「私も会ってないわよ」
「それに、ユーカって人の可能性はないと思います。花陽を怪獣にした後、あの人も怪獣になりましたから」
矢澤の言葉に続いた西木野の発言に、その場にいたメンバー以外が驚きの表情をする。
「怪獣にライブしたのですか?」
「はい。まあ、最後には、ウルトラマンギンガに倒されてましたけど。花陽とは違って、元の姿には戻ってなかったので、きっとユーカって人は元々怪獣だったのかもしれません」
西木野の言う通り、ユーカってやつは俺がギンガにウルトライブした後、テレスドンにダークライブしてきた。小泉がライブしたキングパンドンを『ゲート』と呼ばれる『大いなる闇』がいる位相に直接送る扉みたいなものから救出した後だったからよかったけど、もしこれが救出前だったらとなると恐ろしい。
だが、それ以上に、こいつは厄介な相手だったのを覚えている。
ダークライブしたユーカは、その手に持つダークダミースパークを自分の胸に刺し、テレスドンからパワードテレスドンにパワーアップしたのだ。そのせいで苦戦して、危うく西木野と星空が攻撃に巻き込まれそうになった。
その時は、ふたりの活躍で正気に戻った小泉が、ふたりを守り、さらには俺に逆転のチャンスを作ってくれた。そのおかげで、パワードテレスドンに勝利できたんだ。
「では、いったい誰がにこ先輩を怪獣にしたのですか?」
「黒いローブを着た男」
「にこも?」
「もって、まさか」
「私も、黒いローブを着た男に怪獣にされたの」
[Record of 絢瀬絵里・矢澤にこ]
絢瀬と矢澤を怪獣にしたのは、ローブ男だった。
ローブ男。たぶん、そいつが裏で怪獣を操っていた黒幕だろう。俺が絢瀬と『一条リヒト』の約束を思い出すために、一時的に実家に戻った時、そいつは俺の前に現れた。
『馬鹿だな〜。君、あの町を離れることの意味わかってる?』
そんな軽い声とともに、そいつは俺の前に現れた。
『罠かな罠かなと思ってたけど、本当に知らないみたいだね。怒りを通り越して呆れるよ』
音ノ木町には『イージスの力』が眠っている。それはつまり、『イージスの守護』によって、俺はローブ男などの闇の勢力から守られていたんだ。
ウルトラマンギンガの正体が俺だとわかれば、俺が変身する前に直接接触できる。それが今までなかったのは、イージスの守護があったからだ。
それが及ばないところに来てしまった俺は、まんまとローブ男の罠にハマってしまったのだ。
そのせいで、俺は満身創痍の状態で怪獣になってしまった絢瀬と戦うことになった。
『私がローブ男に会ったのは、みんなの練習を見て、その場から走り去ってしまった時。あの時の私は、生徒会長として、何としも学校の廃校を阻止しなきゃって躍起になってた。おばあさまの通っていたこの学校を、私が守らなきゃって。
でも、そのせいで私の心は悲鳴をあげていた。それに気づいていたはずなのに、悲鳴を押し殺して、ただ必死に動いていただけ。
たぶん、悲鳴をあげてボロボロになっていた私の弱みを漬け込まれたのね。ローブ男は私を怪獣の中に閉じ込めて、学校を自分の手で破壊させようとしたの』
あとできた話だと、絢瀬はどうやらトランス状態になってはいなかったようだ。自分の意識をはっきりと保ったまま、怪獣になっていた。
だから、もし怪獣の攻撃で学校を破壊した場合、絢瀬の心はどんなことになっていただろう。考えたくもない。
『それで……どうなったんですか?』
『もちろん、ウルトラマンギンガがすぐに来てくれて、助けられたわ』
穂乃果の問いに、絢瀬はすぐに返した。
……本当はすぐに助けてなんていない。
俺は、負けたのだ。
カオスワロガにパワーアップされて、インナースペースに絢瀬の姿が見えなくなって動揺した瞬間、あっさりと負けた。
そして、絢瀬は異形の海につれて行かれて、『大いなる闇』の生贄にされかけた。
のんちゃんの助けと、希の協力があってなんとか助け出せたが、俺がもっと強ければ、最初にワロガの時点で絢瀬を助けていれば、あんなことになることはなかったんだ。
絢瀬だって、今は普通にしているけど、本当は怖かったはずだ。
一度負けた俺に対して、なんて思っているだろうか。
『にこっちはどうだったん?』
『私の場合はあんたたちも知ってるでしょ。明美と喧嘩して、その時の怒りを利用されたのよ。
……突然私の前に現れて──』
『へぇ、いい具合に溜まってるね。
ねぇ、その怒り、解放したくない?』
『──そう言ってきた。そのまま、明美に対する怒りに飲まれて、トランス状態になって、明美を殺そうとした……それだけよ』
矢澤は過去の部員とのいざこざが原因だった。怒りとは言っているけど、本当は、悲しみの方が大きかっただろう。一緒の志を持ったメンバーが去ってしまったのだから。
だから俺は、それを吐き出させるためにあえて矢澤の攻撃を受け続けた。そすることで、矢澤の悲しみを受け止めようと思ったんだ。
今では、和解できたようで、オープンキャンパスのライブも楽しみにしてくれているらしい。
『ただ、私はふたりと違って、怪獣になっていた時の記憶をはっきり覚えている』
──ん? ちょっと待って。矢澤?
『ええ!? にこ先輩本当ですか!?』
『本当よ。どうやって怪獣になったかは覚えていないけど、怪獣になった後の記憶は覚えている。激しい怒りに駆られて、明美をただ追い回した。
ま、ウルトラマンが現れて阻止してくれたからよかったけど』
そういやさっき、ギンガの正体が俺がって言いそうになってたし、やっぱり矢澤は覚えているのか……。
ってことは、このままの流れで俺がギンガだって言ったりしないよな?
とりあえず、視線で訴えかけてみるか!
『…………』
『……ほんと、あれ、あんまいい体験じゃないわよ。正気に戻ると自分がどれほど最悪なことをしようとしてたのか理解できて、気分悪いし。だからま、覚えていないなら、覚えていない方がマシよ』
一瞬、俺の視線を受け取ってくれた素振りが見えたが、伝わったよな……?
☆★☆★☆★
「リヒト、おるか?」
「じーちゃん? いるけど、どうかしたの?」
「電話じゃ」
「俺に?」
奉次郎は何やら深刻そうな顔で頷いた。
なぜ奉次郎がそんな顔をしているのはわからないリヒトは、首を傾げて居間から固定電話がある廊下に出ていく。その際、奉次郎がリヒトの肩に手を置いていたのが、真姫には少し気になった。
「さて、それじゃあ練習に戻りましょうか」
絵里がそう言って立ち上がる。そういえば、今は休憩時間だったことを思い出した真姫たちは、練習再開に向けて準備を始める。
オープンキャンパスまで残り一週間。残りの一週間でどこまで仕上げることができるか不明だが、絵里とリヒトの指導があれば問題ないだろう。
(そういえば、聞きそびれたわね。リヒトさんがウルトラマンなのか)
話しているうちに、あの日、怪獣になった自分に向けて、誰かが必死に声をかけてくれていたのを思い出したのだ。
その声は、リヒトの声ににていた気がする。はっきりとはわからない。それでも、リヒトに似た声が、必死に自分に声をかけてくれていた気がするのだ。
それに、なぜあの場所にリヒトがいたのかも気になる。花陽が怪獣になってしまった時も、漠然とリヒトなら解決できるという自信があった。それらのことを聞こうと思っていたが、リヒトは席を外してしまった。
(後で聞けばいっか)
電話なら後少しで帰ってくるだろう。
そう思っていると、ドタドタと激しい足音が聞こえてきた。
憩いよく居間に帰ってくるリヒト。
その表情が真っ青だった。
「ど、どうしたのりーくん!?」
「わりい! ダンス見てやれなくなった!」
「ええ!? どうして!?」
「母さんが帰って来いって。俺この前、ちょっと実家に買った時があってさ、そのせいで一旦戻って来いって話になったんだ! だから悪い!」
「練習どうなるの!」
「絢瀬がいるからいいだろ!」
そのまま急いで部屋に戻っていくリヒト。
「すまんの。ちょいとお叱りも受けたみたいなのじゃ。美鈴は怒ると怖いからの。記憶は忘れても、体は覚えとるようじゃ」
唖然とするμ’sメンバー。
どうやらリヒトは、母親から帰還命令が出されてしまったらしく、急いで実家に帰ることになってしまったようだ。
オープンキャンパスまで残り一週間。
しかし、彼女たちはそれよりも気になることがあった。
──あれほどリヒトが狼狽えるとは、いったい母親はどんなお叱りをしたのだろう、と。
以上で総集編は終わりです。
次回より、本編が再開します。
ちなみに、リヒトがギンガであると知っているのは3年生組だけです。
花陽は怪獣にライブしましたが、会話をしていないので知りません。
真姫ははっきりとは覚えていませんが、なんとなくそうなんじゃないか? とは思ってます。
では、次回、3年半ぶりの本編をよろしくお願いします。
次回予告
ある日、亜里沙と雪穂は学校の帰り道に大きな卵型カプセルを見つける。カプセルにある赤いボタンを押してしまった亜里沙は、出てきた可愛い黄色い毛並みの小動物の虜になってしまう。しかし、明らかに地球上の生物に該当しないその見た目を、雪歩は不審に思うのだった。
これは、とあるシスターズに訪れた非日常の物語。
次回、小さき少女たちの冒険